高校数学IIIでは、定積分は有限の閉区間 $[a, b]$ 上の連続関数に対して定義され、無限級数は等比級数の公式を用いて和を求めます。
しかし、積分区間が無限に伸びる場合や、被積分関数が発散する点をもつ場合、あるいは等比級数ではない一般の無限級数について、その値をどう定義するのかという問いには触れません。
大学数学では、これらをすべて有限の操作の極限として定義します。
広義積分は「有限区間の定積分の極限」であり、無限級数は「部分和の極限」です。
この共通の原理を軸にすると、広義積分の収束・発散の判定法と無限級数の収束・発散の判定法が、互いに対応する「双子の理論」であることが見えてきます。
さらに、両者を結びつける積分判定法により、一方の収束・発散から他方の収束・発散を導くことができます。
高校数学IIIの積分法では、$[a, b]$ 上の連続関数 $f(x)$ に対して定積分 $\displaystyle\int_a^b f(x) \, dx$ を学びます。 ここでは区間 $[a, b]$ は有限であり、$f(x)$ は区間上で有界であることが前提です。
一方、数列の極限の単元では、無限等比級数を扱います。 公比 $r$ が $|r| < 1$ のとき、等比級数の和は
$$\sum_{n=0}^{\infty} ar^n = \frac{a}{1-r}$$
と計算できることを学びます。これは部分和 $S_N = a \cdot \dfrac{1 - r^{N+1}}{1-r}$ の $N \to \infty$ での極限として理解します。
しかし、高校の範囲では次のような問いが扱われません。
これらの問いに答えるには、「無限」を扱うための厳密な枠組みが必要です。 次のセクションでは、大学数学がこれらの問題をどのように統一的に扱うかを見ていきます。
大学数学では、「無限」を直接扱うことはしません。 代わりに、有限の操作を定義し、その極限をとるという方法で無限に関わる対象を定義します。 広義積分も無限級数も、この同じ原理に基づいています。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 広義積分(無限区間・非有界関数)を「有限区間の定積分の極限」として定義し、具体例で収束・発散を判定できる
2. 無限級数の収束を「部分和の極限」として定義し、比較判定法・比値判定法を用いて判定できる
3. 広義積分と無限級数が「有限の極限」という同じ原理に基づくことを理解し、両者の対応関係を説明できる
4. 積分判定法を用いて、無限級数の収束・発散を対応する広義積分から判定できる
5. $p$-級数 $\sum 1/n^p$ の収束・発散の境界が $p = 1$ であることを、広義積分との対応から証明できる
ここまでで、広義積分と無限級数がともに「有限の極限」として定義されるという統一的な見方を提示しました。 次のセクションでは、まず広義積分の厳密な定義を与え、具体例を通して収束・発散の判定を体験します。
リーマン積分(📖 第8章 §1で導入)は、有限閉区間 $[a, b]$ 上の有界な関数に対して定義されます。 この条件を超える場合 ── 積分区間が無限に伸びる場合や、被積分関数が区間の端点で無限大に発散する場合 ── に拡張したものが広義積分(improper integral)です。
まず、積分区間の上端が無限大の場合を定義します。 ここでの考え方は単純です。上端を有限の値 $R$ にしておいて通常の定積分を計算し、$R$ を限りなく大きくしたときの極限をとります。
$f(x)$ が $[a, R]$ 上で任意の $R > a$ に対してリーマン可積分であるとき、
$$\int_a^{\infty} f(x) \, dx = \lim_{R \to \infty} \int_a^R f(x) \, dx$$
と定義する。この極限が有限の値に収束するとき、広義積分は収束するといい、極限が存在しないとき発散するという。
同様に、$\int_{-\infty}^b f(x) \, dx = \lim_{R \to -\infty} \int_R^b f(x) \, dx$ と定義します。$\int_{-\infty}^{\infty} f(x) \, dx$ は、適当な点 $c$ で分割して $\int_{-\infty}^c + \int_c^{\infty}$ の両方が収束するとき収束すると定義します。
この定義は、「無限を直接扱わず、有限の極限で定義する」という原理そのものです。 具体例で確認しましょう。
定義に従い、まず有限区間で計算します。
$$\int_1^R \frac{1}{x^2} \, dx = \left[-\frac{1}{x}\right]_1^R = -\frac{1}{R} + 1 = 1 - \frac{1}{R}$$
$R \to \infty$ とすると $\frac{1}{R} \to 0$ なので、
$$\int_1^{\infty} \frac{1}{x^2} \, dx = \lim_{R \to \infty} \left(1 - \frac{1}{R}\right) = 1$$
この広義積分は収束し、その値は $1$ です。 直感的には、$\frac{1}{x^2}$ は $x$ が大きくなると急速に $0$ に近づくため、右へ伸ばしていっても面積の増分がどんどん小さくなり、有限の値に収まるのです。
同様に計算します。
$$\int_1^R \frac{1}{x} \, dx = [\ln x]_1^R = \ln R$$
$R \to \infty$ とすると $\ln R \to \infty$ なので、
$$\int_1^{\infty} \frac{1}{x} \, dx = \lim_{R \to \infty} \ln R = \infty$$
この広義積分は発散します。$\frac{1}{x}$ も $x \to \infty$ で $0$ に近づきますが、その近づき方が遅いため、面積が無限に蓄積されます。
上の2つの例を一般化します。$\int_1^{\infty} \frac{1}{x^p} \, dx$($p > 0$)の収束・発散は、$p$ の値によって決まります。
$$\int_1^{\infty} \frac{1}{x^p} \, dx \quad \begin{cases} = \dfrac{1}{p-1} & (p > 1) \\[8pt] = \infty & (p \le 1) \end{cases}$$
すなわち、$p > 1$ のとき収束し、$p \le 1$ のとき発散します。
目標:$p$ の値に応じて $\int_1^{\infty} x^{-p} \, dx$ の収束・発散を決定する。
$p \ne 1$ の場合:$x^{-p}$ の原始関数は $\frac{x^{-p+1}}{-p+1} = \frac{x^{1-p}}{1-p}$ です。したがって、
$$\int_1^R \frac{1}{x^p} \, dx = \left[\frac{x^{1-p}}{1-p}\right]_1^R = \frac{R^{1-p} - 1}{1-p}$$
$R \to \infty$ での振る舞いは $R^{1-p}$ で決まります。
$p = 1$ の場合:上の具体例2で見た通り、$\int_1^R \frac{1}{x} \, dx = \ln R \to \infty$。発散。
以上より、$p > 1$ のとき収束、$p \le 1$ のとき発散です。 $\blacksquare$
もう一つの広義積分は、被積分関数が区間の端点で無限大に発散する場合です。 考え方は同じで、発散する点を避けて有限の区間で定積分を計算し、発散点に近づける極限をとります。
$f(x)$ が $x \to a^+$ で $|f(x)| \to \infty$ であり、$(a, b]$ 上の任意のコンパクト部分区間でリーマン可積分であるとき、
$$\int_a^b f(x) \, dx = \lim_{\varepsilon \to +0} \int_{a+\varepsilon}^b f(x) \, dx$$
と定義する。$x = b$ で発散する場合も同様に定義する。
$f(x) = \frac{1}{\sqrt{x}} = x^{-1/2}$ は $x \to +0$ で $\infty$ に発散します。定義に従い計算します。
$$\int_{\varepsilon}^1 \frac{1}{\sqrt{x}} \, dx = \left[2\sqrt{x}\right]_{\varepsilon}^1 = 2 - 2\sqrt{\varepsilon}$$
$\varepsilon \to +0$ とすると $2\sqrt{\varepsilon} \to 0$ なので、
$$\int_0^1 \frac{1}{\sqrt{x}} \, dx = \lim_{\varepsilon \to +0} (2 - 2\sqrt{\varepsilon}) = 2$$
被積分関数は端点で無限大に発散しますが、広義積分の値は有限の $2$ になります。
誤り:$f(x) \to 0$($x \to \infty$)ならば $\int_1^{\infty} f(x) \, dx$ は収束する。
正しい理解:$f(x) \to 0$ は収束の必要条件ですが、十分条件ではありません。$\frac{1}{x} \to 0$($x \to \infty$)にもかかわらず $\int_1^{\infty} \frac{1}{x} \, dx$ は発散します。収束には $f(x)$ が「十分速く」$0$ に近づくことが必要で、「十分速く」の基準を与えるのが $p$-積分の結果($p > 1$ で収束)です。
ここまでで、広義積分を「有限区間の定積分の極限」として定義し、$p$-積分の結果を得ました。 次のセクションでは、同じ「有限の極限」という原理を無限級数に適用し、収束判定法を導きます。
高校数学IIIでは、無限級数 $\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ を部分和の極限として定義することを学びます。 ここでは、その定義を確認した上で、高校では扱わない収束判定法を導入します。 広義積分の場合と同じく、「有限の操作(部分和)の極限」として無限を扱うという原理が一貫しています。
数列 $\{a_n\}_{n=1}^{\infty}$ に対し、部分和を
$$S_N = \sum_{n=1}^{N} a_n = a_1 + a_2 + \cdots + a_N$$
と定義する。$N \to \infty$ で $S_N$ が有限の値 $S$ に収束するとき、無限級数 $\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ は収束するといい、その和を $S = \sum_{n=1}^{\infty} a_n$ と書く。$S_N$ が収束しないとき、級数は発散するという。
この定義は高校で学ぶ内容です。大学では、ここから出発して次の問いに取り組みます。「具体的な級数が与えられたとき、部分和を直接計算しなくても収束・発散を判定できないか」。以下では、大学数学で用いられる代表的な判定法を導入します。
まず、基本的な事実を確認します。
$\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ が収束するならば、$\lim_{n \to \infty} a_n = 0$ である。
対偶をとると、$a_n \to 0$ でないならば級数は発散します。ただし逆は成り立ちません($a_n \to 0$ でも発散しうる)。
目標:$\sum a_n$ が収束するならば $a_n \to 0$ を示す。
$\sum a_n = S$(有限値)に収束するとします。部分和を $S_N = \sum_{n=1}^{N} a_n$ とすると、$S_N \to S$ です。
$a_N = S_N - S_{N-1}$ と書けるので($N \ge 2$)、
$$\lim_{N \to \infty} a_N = \lim_{N \to \infty} (S_N - S_{N-1}) = S - S = 0$$
よって $a_n \to 0$ です。 $\blacksquare$
この事実の対偶は強力です。例えば $\sum_{n=1}^{\infty} (-1)^n$ は $a_n = (-1)^n \to 0$ とならないので、直ちに発散と判定できます。 しかし、$a_n \to 0$ であっても級数が発散する場合があり、その代表例が調和級数 $\sum \frac{1}{n}$ です。これについてはセクション5で広義積分との対応から証明します。
「部分和を直接計算できない」級数の収束・発散を判定するための最も基本的な道具が比較判定法です。 考え方は、収束・発散がわかっている級数と大小を比較するというものです。
$0 \le a_n \le b_n$($n = 1, 2, 3, \ldots$)とする。
(1) $\sum b_n$ が収束するならば、$\sum a_n$ も収束する。
(2) $\sum a_n$ が発散するならば、$\sum b_n$ も発散する。
(1) は「大きい方が収束すれば小さい方も収束する」、(2) はその対偶で「小さい方が発散すれば大きい方も発散する」ということです。
目標:$0 \le a_n \le b_n$ かつ $\sum b_n$ が収束するとき、$\sum a_n$ も収束することを示す。
部分和を $A_N = \sum_{n=1}^{N} a_n$、$B_N = \sum_{n=1}^{N} b_n$ とします。$a_n \ge 0$ より $\{A_N\}$ は単調増加です。また、$a_n \le b_n$ より、
$$A_N = \sum_{n=1}^{N} a_n \le \sum_{n=1}^{N} b_n = B_N \le \sum_{n=1}^{\infty} b_n$$
$\sum b_n$ が収束するので、$\{A_N\}$ は上に有界です。単調増加かつ上に有界な数列は収束するので(実数の完備性、📖 第1章 §2)、$\sum a_n$ も収束します。 $\blacksquare$
この証明の核心は、「非負項級数の部分和は単調増加なので、上に有界であれば収束する」という点にあります。これは広義積分の収束判定でも全く同じ構造です。$f(x) \ge 0$ のとき $F(R) = \int_1^R f(x) \, dx$ は $R$ について単調増加なので、上に有界であれば $R \to \infty$ で収束します。
比較判定法は「比較対象の級数」を自分で見つける必要がありますが、比値判定法は級数自身の情報だけで判定できる便利な道具です。 隣接する項の比 $a_{n+1}/a_n$ の極限を調べます。
$a_n > 0$ とし、$\displaystyle L = \lim_{n \to \infty} \frac{a_{n+1}}{a_n}$ が存在するとする。
(1) $L < 1$ ならば $\sum a_n$ は収束する。
(2) $L > 1$ ならば $\sum a_n$ は発散する。
(3) $L = 1$ のときは、これだけでは判定できない。
$L < 1$ のとき、十分大きな $n$ で $a_{n+1}/a_n < r < 1$($r$ は $L$ と $1$ の間の値)となり、$a_n$ は公比 $r$ の等比級数より速く減少するので収束します。
目標:$L < 1$ のとき $\sum a_n$ が収束することを示す。
$L < 1$ なので、$L < r < 1$ を満たす $r$ がとれます。極限の定義から、ある $N$ が存在して、$n \ge N$ のとき $\frac{a_{n+1}}{a_n} < r$ が成り立ちます。
これを繰り返し適用すると、$n \ge N$ に対して
$$a_n < a_N \cdot r^{n - N}$$
右辺は公比 $r < 1$ の等比級数の項です。$\sum_{n=N}^{\infty} a_N \cdot r^{n-N} = \frac{a_N}{1-r}$ は収束するので、比較判定法により $\sum_{n=N}^{\infty} a_n$ も収束します。有限個の項の追加・削除は収束・発散に影響しないので、$\sum_{n=1}^{\infty} a_n$ も収束します。 $\blacksquare$
比値判定法の証明で比較判定法を使ったことに注目してください。このように、収束判定法は互いに関連しあっています。
具体例として、$\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!}$ の収束を判定してみましょう。$a_n = \frac{1}{n!}$ として、
$$\frac{a_{n+1}}{a_n} = \frac{n!}{(n+1)!} = \frac{1}{n+1} \to 0 \quad (n \to \infty)$$
$L = 0 < 1$ なので収束します。この級数の和は $e = 2.71828\ldots$ です(📖 第10章 §1)。
誤り:比値判定法で $L = 1$ なら収束も発散もしないから「条件付き収束」だ。
正しい理解:$L = 1$ のときは比値判定法では判定不能というだけです。実際、$\sum \frac{1}{n}$(発散)と $\sum \frac{1}{n^2}$(収束)は、どちらも $L = 1$ です。$L = 1$ の場合は、比較判定法や次のセクションで扱う積分判定法など、別の方法を使う必要があります。
ここまでで、無限級数の定義と代表的な収束判定法(比較判定法・比値判定法)を導入しました。 しかし、$\sum \frac{1}{n}$ と $\sum \frac{1}{n^2}$ の収束・発散を判定するには、これらの方法だけでは不十分です(比値判定法では $L = 1$ で判定不能)。 次のセクションでは、広義積分と無限級数をつなぐ積分判定法を導入し、この問題を解決します。
セクション3で広義積分の $p$-積分の結果($p > 1$ で収束、$p \le 1$ で発散)を得ました。 セクション4では、比較判定法と比値判定法を導入しましたが、$\sum \frac{1}{n^p}$ のような級数には比値判定法が使えませんでした。 ここで、広義積分の結果を無限級数の判定に直接利用する積分判定法を導きます。 これが、この記事の二つの柱 ── 広義積分と無限級数 ── を一つに結びつける定理です。
$f(x)$ が $[1, \infty)$ 上で正の値をとり、単調減少する連続関数であるとき、
$$\sum_{n=1}^{\infty} f(n) \quad , \quad \int_1^{\infty} f(x) \, dx$$
は同時に収束するか、同時に発散する。
級数の和と広義積分の値が等しいとは限りません。「収束するかどうか」が一致するという定理です。
なぜこれが成り立つのか、直感的に考えましょう。 $f(x)$ は単調減少なので、区間 $[n, n+1]$ において $f(n+1) \le f(x) \le f(n)$ が成り立ちます。 両辺を $[n, n+1]$ 上で積分すると、
$$f(n+1) \cdot 1 \le \int_n^{n+1} f(x) \, dx \le f(n) \cdot 1$$
つまり、各小区間での積分は、左端と右端での関数値に挟まれます。これを $n = 1, 2, \ldots, N$ について足し合わせると、部分和と広義積分の間に不等式が得られます。
目標:$f$ が $[1, \infty)$ 上で正の値をとり単調減少する連続関数のとき、$\sum f(n)$ と $\int_1^{\infty} f(x) \, dx$ が同時に収束・発散することを示す。
方針:部分和と有限区間の積分の間に挟み込み不等式を作り、比較判定法の原理を適用します。
$f$ は単調減少なので、$x \in [n, n+1]$ のとき $f(n+1) \le f(x) \le f(n)$ です。$[n, n+1]$ 上で積分すると、
$$f(n+1) \le \int_n^{n+1} f(x) \, dx \le f(n)$$
$n = 1, 2, \ldots, N$ について右側の不等式を足し合わせると、
$$\int_1^{N+1} f(x) \, dx = \sum_{n=1}^{N} \int_n^{n+1} f(x) \, dx \le \sum_{n=1}^{N} f(n)$$
$n = 1, 2, \ldots, N$ について左側の不等式を足し合わせると、
$$\sum_{n=2}^{N+1} f(n) \le \int_1^{N+1} f(x) \, dx$$
級数 → 積分の方向:$\sum f(n)$ が収束するとします。上の右側の不等式より $\int_1^{N+1} f(x) \, dx \le \sum_{n=1}^{\infty} f(n)$ なので、$\int_1^R f(x) \, dx$ は上に有界です。$f \ge 0$ より $\int_1^R f(x) \, dx$ は $R$ について単調増加なので、収束します。
積分 → 級数の方向:$\int_1^{\infty} f(x) \, dx$ が収束するとします。上の左側の不等式より $\sum_{n=2}^{N+1} f(n) \le \int_1^{\infty} f(x) \, dx$ なので、部分和は上に有界です。$f(n) \ge 0$ より部分和は単調増加なので、収束します。 $\blacksquare$
積分判定法を使うと、セクション3の $p$-積分の結果を直接無限級数に翻訳できます。
$f(x) = \frac{1}{x^p}$($p > 0$)は $[1, \infty)$ 上で正かつ単調減少する連続関数です。したがって積分判定法が適用でき、次の結果を得ます。
$$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^p} \quad \begin{cases} < \infty & (p > 1) \\ = \infty & (p \le 1) \end{cases}$$
すなわち、$p > 1$ のとき収束し、$p \le 1$ のとき発散します。
これは $p$-積分 $\int_1^{\infty} \frac{1}{x^p} \, dx$ の収束・発散(セクション3の結果)と完全に対応しています。積分判定法によって、広義積分の結果がそのまま級数の結果に変換されたのです。
$p = 1$ を代入すると、調和級数 $\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n}$ は発散します。各項 $\frac{1}{n}$ は $0$ に近づくにもかかわらず、その蓄積は無限大になります。
これは $\int_1^{\infty} \frac{1}{x} \, dx = \lim_{R \to \infty} \ln R = \infty$(セクション3の具体例2)と対応しています。$\frac{1}{x}$ のグラフの下の面積が無限大であるのと同じ理由で、$\frac{1}{n}$ の和も無限大に発散するのです。
一方 $p = 2$ のとき $\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2}$ は収束します(この和は $\frac{\pi^2}{6}$ であることがオイラーによって証明されています)。$\frac{1}{n}$ と $\frac{1}{n^2}$ の違いは「$0$ に近づく速さ」の違いであり、その境界が $p = 1$ です。
積分判定法の証明で得た挟み込み不等式は、級数の部分和を近似するのにも使えます。$f(x) = \frac{1}{x}$ の場合、
$$\int_1^{N+1} \frac{1}{x} \, dx \le \sum_{n=1}^{N} \frac{1}{n} \le 1 + \int_1^{N} \frac{1}{x} \, dx$$
すなわち $\ln(N+1) \le \sum_{n=1}^{N} \frac{1}{n} \le 1 + \ln N$ です。これにより、調和級数の部分和は $\ln N$ 程度の速さで発散することがわかります。より精密には、$\sum_{n=1}^{N} \frac{1}{n} - \ln N$ の $N \to \infty$ での極限が存在し、その値 $\gamma = 0.5772\ldots$ はオイラー・マスケローニ定数と呼ばれます。
ここまでで、広義積分と無限級数が「有限の極限」という同じ原理に基づくこと、そして積分判定法によって両者が直接結びつくことを見てきました。 次のセクションでは、これらの道具を使って、具体的な級数や広義積分の収束・発散を判定してみましょう。
これまでに導入した道具 ── $p$-積分の結果、比較判定法、比値判定法、積分判定法 ── を組み合わせて、具体的な問題を解いてみます。
$n^2 + n > n^2$ なので $\frac{1}{n^2 + n} < \frac{1}{n^2}$ です。$\sum \frac{1}{n^2}$ は $p$-級数($p = 2 > 1$)で収束するので、比較判定法により $\sum \frac{1}{n^2 + n}$ も収束します。
なお、この級数は部分分数分解 $\frac{1}{n^2 + n} = \frac{1}{n} - \frac{1}{n+1}$ により部分和を直接計算することもできます。$S_N = 1 - \frac{1}{N+1} \to 1$ です。このような「望遠鏡和」(telescoping sum)が使える場合は直接計算が簡単ですが、一般の級数では比較判定法のような間接的な方法が必要になります。
比値判定法を使います。$a_n = \frac{n}{2^n}$ として、
$$\frac{a_{n+1}}{a_n} = \frac{(n+1)/2^{n+1}}{n/2^n} = \frac{n+1}{2n}$$
$n \to \infty$ で $\frac{n+1}{2n} \to \frac{1}{2}$ です。$L = \frac{1}{2} < 1$ なので、この級数は収束します。
$x \ge 3$ のとき $\ln x < x^{1/2}$(対数関数はべき関数より遅く増加する)なので、
$$\frac{\ln x}{x^2} < \frac{x^{1/2}}{x^2} = \frac{1}{x^{3/2}}$$
$\int_1^{\infty} \frac{1}{x^{3/2}} \, dx$ は $p$-積分($p = \frac{3}{2} > 1$)で収束します。したがって比較判定法により $\int_1^{\infty} \frac{\ln x}{x^2} \, dx$ も収束します。
実際に値を求めることもできます。部分積分を用いると、
$$\int_1^R \frac{\ln x}{x^2} \, dx = \left[-\frac{\ln x}{x}\right]_1^R + \int_1^R \frac{1}{x^2} \, dx = -\frac{\ln R}{R} + 0 + \left[-\frac{1}{x}\right]_1^R = -\frac{\ln R}{R} - \frac{1}{R} + 1$$
$R \to \infty$ で $\frac{\ln R}{R} \to 0$ かつ $\frac{1}{R} \to 0$ なので、$\int_1^{\infty} \frac{\ln x}{x^2} \, dx = 1$ です。
比値判定法を試すと $L = 1$ で判定不能です。そこで積分判定法を使います。$f(x) = \frac{1}{x \ln x}$ は $[2, \infty)$ 上で正かつ単調減少です。
$$\int_2^R \frac{1}{x \ln x} \, dx = [\ln(\ln x)]_2^R = \ln(\ln R) - \ln(\ln 2)$$
$R \to \infty$ で $\ln(\ln R) \to \infty$ なので、この広義積分は発散します。積分判定法により、$\sum \frac{1}{n \ln n}$ も発散します。
この結果は注目に値します。$\frac{1}{n \ln n}$ は $\frac{1}{n}$ より小さいのに、やはり発散するのです。$0$ に近づく速さが「ぎりぎり足りない」例です。
以上の例題を通して、セクション3〜5で導入した道具が実際の判定にどう使われるかを確認しました。
Q1. $\int_1^{\infty} \frac{1}{x^3} \, dx$ の値を求めてください。
Q2. $\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n}$ が発散することを、積分判定法を用いてどう説明しますか。
Q3. $\sum_{n=0}^{\infty} \frac{3^n}{n!}$ は収束しますか。比値判定法で判定してください。
Q4. 「$a_n \to 0$ ならば $\sum a_n$ は収束する」は正しいですか。理由を述べてください。
次の広義積分の収束・発散を判定し、収束する場合はその値を求めてください。
$$\int_1^{\infty} \frac{1}{x^5} \, dx$$
$p$-積分で $p = 5 > 1$ なので収束します。
$$\int_1^{\infty} \frac{1}{x^5} \, dx = \frac{1}{5-1} = \frac{1}{4}$$
次の広義積分を定義に従って計算してください。
$$\int_0^1 \frac{1}{x^{2/3}} \, dx$$
$x^{-2/3}$ は $x \to +0$ で発散するので、非有界関数の広義積分です。
$$\int_{\varepsilon}^1 x^{-2/3} \, dx = \left[\frac{x^{1/3}}{1/3}\right]_{\varepsilon}^1 = \left[3x^{1/3}\right]_{\varepsilon}^1 = 3 - 3\varepsilon^{1/3}$$
$\varepsilon \to +0$ で $\varepsilon^{1/3} \to 0$ なので、$\int_0^1 \frac{1}{x^{2/3}} \, dx = 3$ です。
次の無限級数の収束・発散を判定し、用いた判定法を明記してください。
$$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{2^n}{n!}$$
比値判定法を用います。$a_n = \frac{2^n}{n!}$ として、
$$\frac{a_{n+1}}{a_n} = \frac{2^{n+1}/(n+1)!}{2^n/n!} = \frac{2}{n+1}$$
$n \to \infty$ で $\frac{2}{n+1} \to 0$ です。$L = 0 < 1$ なので収束します。
この級数の和は $e^2 - 1$ です($e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!}$ で $x = 2$ とし、$n = 0$ の項 $1$ を引いたもの)。階乗を含む級数では比値判定法が有効に働きます。
次の無限級数の収束・発散を判定してください。
$$\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^2 + 3n + 2}$$
比較判定法を用います。$n^2 + 3n + 2 > n^2$ より $\frac{1}{n^2 + 3n + 2} < \frac{1}{n^2}$ です。$\sum \frac{1}{n^2}$ は $p$-級数($p = 2 > 1$)で収束するので、比較判定法により $\sum \frac{1}{n^2 + 3n + 2}$ も収束します。
部分分数分解 $\frac{1}{n^2 + 3n + 2} = \frac{1}{(n+1)(n+2)} = \frac{1}{n+1} - \frac{1}{n+2}$ を使えば、望遠鏡和として $S_N = \frac{1}{2} - \frac{1}{N+2}$ が得られ、和は $\frac{1}{2}$ です。比較判定法は「収束するかどうか」を判定するだけで、和の値までは教えてくれない点に注意してください。
積分判定法を用いて、次の級数が収束することを証明してください。
$$\sum_{n=2}^{\infty} \frac{1}{n(\ln n)^2}$$
が収束することを示し、さらに積分判定法の証明で得られた不等式を利用して、この級数の和 $S$ の上界と下界を求めてください。
収束の証明:$f(x) = \frac{1}{x(\ln x)^2}$ は $[2, \infty)$ 上で正かつ単調減少する連続関数です。
$$\int_2^R \frac{1}{x(\ln x)^2} \, dx = \left[-\frac{1}{\ln x}\right]_2^R = -\frac{1}{\ln R} + \frac{1}{\ln 2}$$
$R \to \infty$ で $\frac{1}{\ln R} \to 0$ なので、$\int_2^{\infty} \frac{1}{x(\ln x)^2} \, dx = \frac{1}{\ln 2}$ で収束します。積分判定法により $\sum_{n=2}^{\infty} \frac{1}{n(\ln n)^2}$ も収束します。
和の評価:積分判定法の証明における不等式より、
$$\int_2^{\infty} f(x) \, dx \le \sum_{n=2}^{\infty} f(n) \le f(2) + \int_2^{\infty} f(x) \, dx$$
$f(2) = \frac{1}{2(\ln 2)^2}$ および $\int_2^{\infty} f(x) \, dx = \frac{1}{\ln 2}$ を代入すると、
$$\frac{1}{\ln 2} \le S \le \frac{1}{2(\ln 2)^2} + \frac{1}{\ln 2}$$
数値で評価すると $\frac{1}{\ln 2} \approx 1.443$、$\frac{1}{2(\ln 2)^2} \approx 1.041$ なので、$1.443 \le S \le 2.484$ が得られます。