高校数学で学ぶ接線の方程式 $y = f(a) + f'(a)(x - a)$ は、曲線 $y = f(x)$ を点 $x = a$ の近くで1次式(直線)に置き換えていることに相当します。
この「1次多項式による近似」を2次、3次、$\ldots$、$n$ 次へと一般化したものがテイラー展開です。
テイラー展開を厳密に導く基盤には平均値の定理があり、さらにその土台としてロルの定理があります。
ロルの定理 → 平均値の定理 → テイラー展開という論理の連鎖を追うことで、高校で学ぶ接線の方程式が、関数を多項式で捉えるという大きな枠組みの出発点であったことが見えてきます。
高校の数学IIIでは、微分可能な関数 $f(x)$ に対して、点 $(a, f(a))$ における接線の方程式を次のように学びます。
$$y = f(a) + f'(a)(x - a)$$
この式は「$x = a$ における傾き $f'(a)$ の直線」を表しています。 高校では、この接線を使って関数のグラフの概形を描いたり、増減表と組み合わせて最大・最小を調べたりします。
また、数学IIIの「近似式」の単元では、$h$ が十分小さいとき
$$f(a + h) \approx f(a) + f'(a)h$$
が成り立つことを学びます。 たとえば $f(x) = \sqrt{x}$ で $a = 4$, $h = 0.1$ とすると、$f'(x) = \frac{1}{2\sqrt{x}}$ より $f'(4) = \frac{1}{4}$ なので、
$$\sqrt{4.1} \approx \sqrt{4} + \frac{1}{4} \cdot 0.1 = 2 + 0.025 = 2.025$$
と近似できます(実際の値は $\sqrt{4.1} = 2.02485\ldots$ なので、小数第3位まで一致しています)。
この近似は実用的ですが、高校の範囲では次のような疑問に答えることができません。
次のセクションでは、これらの疑問に大学数学がどう答えるかを確認します。
高校で学ぶ近似式 $f(a+h) \approx f(a) + f'(a)h$ は、関数 $f(x)$ を点 $x = a$ の近くで1次多項式(直線)に置き換えています。 大学数学では、この考え方を自然に拡張します。1次式では精度が足りないなら、2次式、3次式、$\ldots$、$n$ 次式で近似すればよいのです。 これがテイラー展開の基本的な発想です。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ロルの定理の主張を述べ、直感的な意味を説明できる
2. ロルの定理から平均値の定理を導出できる
3. 平均値の定理を繰り返し適用する発想から、テイラーの公式(剰余項つき)を導出できる
4. $e^x$, $\sin x$, $\cos x$, $\frac{1}{1-x}$, $\ln(1+x)$ のテイラー展開を書き下し、収束する範囲を答えられる
5. テイラー展開を使って、近似計算や極限の計算を行うことができる
テイラー展開を厳密に導くには、「$f(a+h)$ と $f(a) + f'(a)h$ の差(誤差)を定量的に評価する」必要があります。 その道具が平均値の定理であり、平均値の定理の証明にはロルの定理が必要です。 次のセクションで、この論理の土台を築きます。
テイラー展開の基盤を築くために、まずもっとも基本的な定理から出発します。
関数 $f(x)$ が閉区間 $[a, b]$ で連続、開区間 $(a, b)$ で微分可能で、$f(a) = f(b)$ を満たすとする。このとき、
$$f'(c) = 0$$
を満たす $c$ が開区間 $(a, b)$ 内に少なくとも1つ存在する。
ロルの定理は、直感的には次のことを述べています。 関数のグラフが両端で同じ高さにあるなら、途中のどこかに「山の頂上」か「谷の底」があり、そこでは接線が水平(傾き0)になる ── これは視覚的にはほとんど自明に見えます。
具体例で確認しましょう。 $f(x) = x^2 - 4x + 3$ を区間 $[1, 3]$ で考えます。 $f(1) = 1 - 4 + 3 = 0$、$f(3) = 9 - 12 + 3 = 0$ なので $f(1) = f(3)$ が成り立ちます。 $f'(x) = 2x - 4 = 0$ を解くと $x = 2$ です。 確かに $c = 2 \in (1, 3)$ で $f'(c) = 0$ となり、ロルの定理が成立しています。
示すこと:条件を満たす $c \in (a, b)$ で $f'(c) = 0$ となるものが存在すること。
方針:閉区間で連続な関数は最大値と最小値を持つという性質(最大値・最小値の定理)を使います。この性質は高校でも「連続関数は閉区間で最大値・最小値をとる」として認めています。
証明:$f(x)$ は閉区間 $[a, b]$ で連続なので、最大値 $M$ と最小値 $m$ を持ちます。
場合1:$M = m$ の場合。$f(x)$ は定数関数なので、任意の $c \in (a, b)$ で $f'(c) = 0$ です。
場合2:$M \neq m$ の場合。$f(a) = f(b)$ なので、最大値または最小値の少なくとも一方は区間の内部 $(a, b)$ でとられます。その点を $c$ とすると、$f(c)$ は極値なので $f'(c) = 0$ が成り立ちます。
なぜ $f'(c) = 0$ が言えるかを補足します。$c$ で最大値をとる場合、十分小さい $h > 0$ に対して $f(c+h) - f(c) \le 0$ なので $\frac{f(c+h) - f(c)}{h} \le 0$ です。一方 $h < 0$ のとき $\frac{f(c+h) - f(c)}{h} \ge 0$ です。微分可能なので両側からの極限が一致し、$f'(c) = 0$ となります。$\square$
ロルの定理は「両端で同じ値をとる」という特殊な状況での主張でした。 これを一般化すると、微分法の中心的な定理である平均値の定理が得られます。
関数 $f(x)$ が閉区間 $[a, b]$ で連続、開区間 $(a, b)$ で微分可能であるとする。このとき、
$$f'(c) = \frac{f(b) - f(a)}{b - a}$$
を満たす $c$ が開区間 $(a, b)$ 内に少なくとも1つ存在する。
右辺は区間 $[a, b]$ の両端を結ぶ直線(割線)の傾きです。つまり、「割線と同じ傾きを持つ接線が区間内のどこかに存在する」ということです。
具体例で確認します。 $f(x) = x^3$ を区間 $[0, 3]$ で考えます。 割線の傾きは $\frac{f(3) - f(0)}{3 - 0} = \frac{27 - 0}{3} = 9$ です。 $f'(x) = 3x^2 = 9$ を解くと $x = \sqrt{3} \approx 1.73$ です。 確かに $c = \sqrt{3} \in (0, 3)$ で $f'(c) = 9$ が成り立ちます。
平均値の定理は、ロルの定理から導くことができます。
示すこと:$f'(c) = \frac{f(b) - f(a)}{b - a}$ を満たす $c \in (a, b)$ の存在。
方針:$f(x)$ から割線の分を引いた補助関数を作り、ロルの定理が適用できる状況に持ち込みます。
証明:補助関数 $g(x)$ を次のように定義します。
$$g(x) = f(x) - \left\{ f(a) + \frac{f(b) - f(a)}{b - a}(x - a) \right\}$$
$g(x)$ は「$f(x)$ から、2点 $(a, f(a))$ と $(b, f(b))$ を結ぶ直線を引いたもの」です。
$g(a)$ を計算すると $g(a) = f(a) - f(a) = 0$ です。$g(b) = f(b) - f(b) = 0$ です。つまり $g(a) = g(b) = 0$ です。
$g(x)$ は $[a, b]$ で連続、$(a, b)$ で微分可能なので、ロルの定理により $g'(c) = 0$ となる $c \in (a, b)$ が存在します。
$g'(x) = f'(x) - \frac{f(b) - f(a)}{b - a}$ なので、$g'(c) = 0$ から
$$f'(c) = \frac{f(b) - f(a)}{b - a}$$
が得られます。$\square$
ロルの定理と平均値の定理は、どちらも「ある中間点 $c$ の存在」を主張する存在定理です。 $c$ の値を具体的に求める公式を与えるわけではありません。 しかし、「そのような $c$ が存在する」という事実だけで、次のセクションで見るテイラーの公式を導くのに十分です。
誤:「微分可能な関数ならいつでも平均値の定理が使える」
正:「閉区間で連続、開区間で微分可能」という条件が両方とも必要
たとえば $f(x) = |x|$ は $[-1, 1]$ で連続ですが、$x = 0$ で微分不可能です。割線の傾きは $\frac{f(1) - f(-1)}{1 - (-1)} = 0$ ですが、$f'(c) = 0$ を満たす $c \in (-1, 1)$ は存在しません($f'(x) = 1$($x > 0$)または $f'(x) = -1$($x < 0$)であり、$0$ にはなりません)。微分可能でない点が一つあるだけで定理が成り立たなくなります。
ここまでで、ロルの定理から平均値の定理を導く論理の流れを確認しました。 次のセクションでは、平均値の定理を繰り返し適用する発想から、テイラーの公式を導きます。
平均値の定理を $f(x)$ に適用すると、ある $c_1$ が $a$ と $x$ の間に存在して
$$f(x) = f(a) + f'(c_1)(x - a)$$
と書けます。これは近似式ではなく等式ですが、$c_1$ の正確な値がわからないため、実用上は $c_1 \approx a$ と置いて $f(x) \approx f(a) + f'(a)(x - a)$ とする ── これが高校の1次近似です。
ここで、$f'(c_1)$ を $f'(a)$ に置き換えたときの誤差を定量的に評価したいと考えます。 そのために、「$f(x)$ と1次近似の差」を $R_1(x)$ と書くことにします。
$$f(x) = f(a) + f'(a)(x - a) + R_1(x)$$
この $R_1(x)$ がどの程度の大きさかを評価するのに、再び平均値の定理を使う ── これがテイラー展開の導出の核心的なアイデアです。 $n$ 次近似の誤差項に平均値の定理を適用して $(n+1)$ 次の情報を引き出すことを繰り返すと、任意の次数の近似が得られます。
この「平均値の定理を繰り返し適用する」発想を一般化するために、次の方法を用います。 $f(x)$ を $x = a$ のまわりで $n$ 次多項式と「残り」に分解することを目指します。
$n$ 回微分可能な関数 $f(x)$ に対して、$x = a$ での情報($f(a)$, $f'(a)$, $f''(a)$, $\ldots$, $f^{(n)}(a)$)だけで作れる $n$ 次多項式を考えます。 各次数の係数を決めるために、$P(x)$ が $x = a$ で $f(x)$ と「できるだけよく一致する」ことを要求します。 具体的には、$P(a) = f(a)$, $P'(a) = f'(a)$, $P''(a) = f''(a)$, $\ldots$, $P^{(n)}(a) = f^{(n)}(a)$ を満たす多項式を作ります。
$P(x) = c_0 + c_1(x-a) + c_2(x-a)^2 + \cdots + c_n(x-a)^n$ と置いて条件を当てはめると、$P^{(k)}(a) = k! \cdot c_k = f^{(k)}(a)$ より $c_k = \frac{f^{(k)}(a)}{k!}$ と決まります。
$f(x)$ が $a$ を含む区間で $(n+1)$ 回微分可能であるとする。このとき、
$$f(x) = \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x - a)^k + R_n(x)$$
ここで、剰余項(ラグランジュの剰余項)は
$$R_n(x) = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x - a)^{n+1}$$
と表される。$c$ は $a$ と $x$ の間にある値である。
$\sum_{k=0}^{n}$ の部分を$n$ 次テイラー多項式と呼びます。$R_n(x)$ は「$n$ 次まで近似したときの誤差」に相当し、$(x - a)^{n+1}$ に比例するため、$x$ が $a$ に近いほど急速に小さくなります。$k!$($k$ の階乗)は $k! = 1 \cdot 2 \cdot 3 \cdots k$(ただし $0! = 1$ と約束します)です。
示すこと:剰余項 $R_n(x) = f(x) - \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k$ が $\frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}$ と書けること。
方針:ロルの定理を $(n+1)$ 回繰り返し適用します。
証明:$x$ を固定し、定数 $M$ を
$$f(x) = \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(a)}{k!}(x-a)^k + M(x-a)^{n+1}$$
で定めます($M$ は $R_n(x) = M(x-a)^{n+1}$ となるように選んだ定数です)。
補助関数を
$$F(t) = f(x) - \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(t)}{k!}(x-t)^k - M(x-t)^{n+1}$$
と定義します。この関数は $t$ の関数です。
$F(a) = 0$ です($M$ の定義より)。$F(x) = f(x) - f(x) = 0$ です。
$F(a) = F(x) = 0$ なので、ロルの定理により $F'(c) = 0$ となる $c$ が $a$ と $x$ の間に存在します。
$F'(t)$ を計算します。$\sum$ の部分を微分すると、隣り合う項が打ち消し合い(これを「テレスコーピング」と呼びます)、残るのは最後の項だけです。
$$F'(t) = -\frac{f^{(n+1)}(t)}{n!}(x-t)^n + (n+1)M(x-t)^n$$
$F'(c) = 0$ より $(x-c)^n \neq 0$ のとき
$$M = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}$$
が得られます。したがって $R_n(x) = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}$ です。$\square$
テイラーの公式の特別な場合として、$a = 0$ とした展開をマクローリン展開と呼びます。
$$f(x) = \sum_{k=0}^{n} \frac{f^{(k)}(0)}{k!}x^k + R_n(x)$$
多くの基本的な関数では $a = 0$ で展開するのが最も簡潔な形になるため、以降ではマクローリン展開を中心に扱います。
テイラーの公式の最大の利点は、$n$ 次近似の誤差が $R_n(x) = \frac{f^{(n+1)}(c)}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}$ と明示されることです。$|f^{(n+1)}|$ の上限がわかれば、誤差の上限を計算できます。高校では「だいたい近い」としか言えなかった近似に、定量的な保証が与えられるのです。
ここまでで、ロルの定理 → 平均値の定理 → テイラーの公式という論理の連鎖が完成しました。 次のセクションでは、この公式を具体的な関数に適用して展開式を求めます。
テイラーの公式を具体的な関数に適用します。 ここでは $n \to \infty$ として無限級数にした場合を扱います。 $n \to \infty$ で剰余項 $R_n(x) \to 0$ となる範囲(すなわち、無限級数がもとの関数に収束する範囲)を収束半径とともに示します。
$f(x) = e^x$ は何回微分しても $f^{(k)}(x) = e^x$ です。 したがって $f^{(k)}(0) = e^0 = 1$ であり、
$$e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \cdots = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{x^k}{k!}$$
収束半径は $\infty$(すべての実数 $x$ で成立)。$k!$ が非常に速く増大するため、どんなに大きい $x$ に対しても級数は収束します。
具体的な確認:$x = 1$ を代入すると $e = 1 + 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{6} + \frac{1}{24} + \cdots$ です。最初の5項まで計算すると $1 + 1 + 0.5 + 0.1667 + 0.0417 = 2.7083$ であり、$e = 2.71828\ldots$ に近づいていることが確かめられます。
$f(x) = \sin x$ は $f(0) = 0$, $f'(0) = \cos 0 = 1$, $f''(0) = -\sin 0 = 0$, $f'''(0) = -\cos 0 = -1$, $f^{(4)}(0) = \sin 0 = 0$ と周期4で繰り返します。偶数次の係数はすべて $0$ になります。
$$\sin x = x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \frac{x^7}{7!} + \cdots = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(2k+1)!} x^{2k+1}$$
収束半径は $\infty$。奇数次の項だけが現れるのは、$\sin x$ が奇関数($\sin(-x) = -\sin x$)であることと対応しています。
$f(x) = \cos x$ は $f(0) = 1$, $f'(0) = 0$, $f''(0) = -1$, $f'''(0) = 0$, $f^{(4)}(0) = 1$ と、やはり周期4で繰り返します。今度は奇数次の係数がすべて $0$ になります。
$$\cos x = 1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \frac{x^6}{6!} + \cdots = \sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(2k)!} x^{2k}$$
収束半径は $\infty$。偶数次の項だけが現れるのは、$\cos x$ が偶関数($\cos(-x) = \cos x$)であることと対応しています。
$\sin x$ の展開を $x$ で微分すると $\cos x$ の展開が得られることも確認できます。テイラー展開は項別微分と整合しています。
$f(x) = \frac{1}{1-x}$ について、$f^{(k)}(x) = \frac{k!}{(1-x)^{k+1}}$ なので $f^{(k)}(0) = k!$ です。
$$\frac{1}{1-x} = 1 + x + x^2 + x^3 + \cdots = \sum_{k=0}^{\infty} x^k$$
収束半径は $1$($|x| < 1$ で成立)。これは高校の数学Bで学ぶ無限等比級数の公式そのものです。初項 $1$、公比 $x$ の無限等比級数の和が $\frac{1}{1-x}$ であることを、テイラー展開の視点で再発見できます。
$\frac{1}{1-x}$ の展開で $x$ を $-t$ に置き換えると $\frac{1}{1+t} = 1 - t + t^2 - t^3 + \cdots$ です。 両辺を $0$ から $x$ まで積分すると、
$$\ln(1+x) = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \frac{x^4}{4} + \cdots = \sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k+1}}{k} x^k$$
収束半径は $1$($-1 < x \le 1$ で成立)。$x = 1$ のとき $\ln 2 = 1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{3} - \frac{1}{4} + \cdots$ という有名な公式が得られます。
これら5つの展開をまとめます。
| 関数 | マクローリン展開 | 収束する範囲 |
|---|---|---|
| $e^x$ | $\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \frac{x^k}{k!}$ | $-\infty < x < \infty$ |
| $\sin x$ | $\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(2k+1)!} x^{2k+1}$ | $-\infty < x < \infty$ |
| $\cos x$ | $\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(2k)!} x^{2k}$ | $-\infty < x < \infty$ |
| $\dfrac{1}{1-x}$ | $\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty} x^k$ | $|x| < 1$ |
| $\ln(1+x)$ | $\displaystyle\sum_{k=1}^{\infty} \frac{(-1)^{k+1}}{k} x^k$ | $-1 < x \le 1$ |
べき級数 $\sum_{k=0}^{\infty} a_k x^k$ が収束する $x$ の範囲は、ある非負の数 $R$($\infty$ を含む)を用いて $|x| < R$ と表せます。この $R$ を収束半径と呼びます。 $|x| < R$ では必ず収束し、$|x| > R$ では必ず発散します。$|x| = R$ の端点での振る舞いは個別に調べる必要があります。
$e^x$, $\sin x$, $\cos x$ は収束半径が $\infty$ です。これは $k!$ の増大がどんな $x^k$ の増大よりも速いためです。 一方、$\frac{1}{1-x}$ の収束半径が $1$ であるのは、$x = 1$ で関数自体が定義されない(分母が $0$)ことと対応しています。
ここまでで主要関数のテイラー展開が揃いました。 次のセクションでは、これらの展開式を使った具体的な応用を見ます。
セクション1で高校の方法を使って $\sqrt{4.1} \approx 2.025$ と求めました。これはテイラー展開の1次の項までを使った近似に相当します。 2次の項まで使うとどうなるでしょうか。
$f(x) = \sqrt{x}$ とし、$a = 4$ のまわりで展開します。 $f'(x) = \frac{1}{2\sqrt{x}}$, $f''(x) = -\frac{1}{4x^{3/2}}$ より、$f(4) = 2$, $f'(4) = \frac{1}{4}$, $f''(4) = -\frac{1}{32}$ です。
2次テイラー多項式は
$$f(x) \approx f(4) + f'(4)(x-4) + \frac{f''(4)}{2}(x-4)^2 = 2 + \frac{1}{4}(x-4) - \frac{1}{64}(x-4)^2$$
$x = 4.1$(すなわち $x - 4 = 0.1$)を代入すると、
$$\sqrt{4.1} \approx 2 + \frac{1}{4}(0.1) - \frac{1}{64}(0.01) = 2 + 0.025 - 0.00015625 = 2.02484375$$
実際の値 $\sqrt{4.1} = 2.0248456\ldots$ と比較すると、1次近似の誤差は約 $3.5 \times 10^{-4}$ だったのに対し、2次近似の誤差は約 $2 \times 10^{-6}$ です。項を1つ追加しただけで、精度が約100倍向上しました。
さらに、ラグランジュの剰余項を使って誤差の上限を評価できます。$f'''(x) = \frac{3}{8x^{5/2}}$ なので、$x \in [4, 4.1]$ では $|f'''(x)| \le |f'''(4)| = \frac{3}{8 \cdot 32} = \frac{3}{256}$ です。したがって、
$$|R_2(4.1)| \le \frac{3/256}{3!}(0.1)^3 = \frac{3}{256 \cdot 6} \cdot 0.001 = \frac{3}{1536000} \approx 1.95 \times 10^{-6}$$
実際の誤差 $\approx 2 \times 10^{-6}$ はこの上限に収まっています。高校では「だいたい合っている」としか言えなかった近似に、定量的な保証が与えられました。
テイラー展開は、不定形の極限を計算する強力な道具です。
例1:$\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{\sin x - x}{x^3}$ を求めます。
$\sin x$ のマクローリン展開を3次まで書くと $\sin x = x - \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} - \cdots$ です。したがって、
$$\frac{\sin x - x}{x^3} = \frac{-\frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} - \cdots}{x^3} = -\frac{1}{6} + \frac{x^2}{120} - \cdots$$
$x \to 0$ とすると、$\frac{x^2}{120}$ 以降の項はすべて $0$ に近づくので、
$$\lim_{x \to 0} \frac{\sin x - x}{x^3} = -\frac{1}{6}$$
例2:$\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{e^x - 1 - x}{x^2}$ を求めます。
$e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{6} + \cdots$ より、
$$\frac{e^x - 1 - x}{x^2} = \frac{\frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{6} + \cdots}{x^2} = \frac{1}{2} + \frac{x}{6} + \cdots \to \frac{1}{2}$$
例3:$\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{1 - \cos x}{x^2}$ を求めます。
$\cos x = 1 - \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} - \cdots$ より、
$$\frac{1 - \cos x}{x^2} = \frac{\frac{x^2}{2} - \frac{x^4}{24} + \cdots}{x^2} = \frac{1}{2} - \frac{x^2}{24} + \cdots \to \frac{1}{2}$$
いずれの例でも、テイラー展開を代入して分子分母の次数を合わせるだけで、極限が機械的に計算できます。 高校ではロピタルの定理を繰り返し適用する必要がある問題も、テイラー展開を使えば見通しよく処理できます。
誤:テイラー展開を1次まで書いて、分子分母を約分しようとする
正:分子分母を約分した後に定数項が残るまで、十分な次数まで展開する
たとえば $\frac{\sin x - x}{x^3}$ で $\sin x \approx x$ としてしまうと分子が $0$ になり、極限が求まりません。$\sin x = x - \frac{x^3}{6} + \cdots$ と3次まで展開して初めて $x^3$ で割った後に定数が現れます。極限計算では、「分子の先頭の項が消えなくなるまで展開する」ことが必要です。
高校で学ぶ $\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{\sin x}{x} = 1$ という公式は、$\sin x = x - \frac{x^3}{6} + \cdots$ を $x$ で割って $x \to 0$ とすれば $1$ になることから直ちに得られます。 同様に、$\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{e^x - 1}{x} = 1$ も $e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2} + \cdots$ から明らかです。 テイラー展開を知ると、これらの高校の公式が「マクローリン展開の最低次の項」を反映しているだけだとわかります。
Q1. ロルの定理の3つの条件を述べてください。
Q2. 平均値の定理の結論 $f'(c) = \frac{f(b) - f(a)}{b - a}$ の右辺は、幾何学的にはどのような意味を持ちますか。
Q3. $\cos x$ のマクローリン展開において、奇数次の項($x$, $x^3$, $x^5$, $\ldots$ の項)の係数がすべて $0$ になる理由を、$\cos x$ の性質から説明してください。
Q4. $\displaystyle\lim_{x \to 0} \frac{e^x - 1 - x - \frac{x^2}{2}}{x^3}$ をテイラー展開を使って求めてください。
$f(x) = x^3 - 3x$ について、区間 $[-\sqrt{3}, \sqrt{3}]$ でロルの定理が適用できることを確かめ、$f'(c) = 0$ を満たす $c$ を求めてください。
$f(-\sqrt{3}) = -3\sqrt{3} + 3\sqrt{3} = 0$、$f(\sqrt{3}) = 3\sqrt{3} - 3\sqrt{3} = 0$ なので $f(-\sqrt{3}) = f(\sqrt{3})$ です。$f(x)$ は多項式なのですべての実数で連続かつ微分可能です。よってロルの定理の条件を満たします。
$f'(x) = 3x^2 - 3 = 0$ より $x = \pm 1$ です。$c = 1$ と $c = -1$ がともに $(-\sqrt{3}, \sqrt{3})$ に属し、$f'(c) = 0$ を満たします。
$e^x$ のマクローリン展開を用いて、$e^{0.1}$ の値を3次の項まで計算し、4次の剰余項で誤差の上限を評価してください。
$$e^{0.1} \approx 1 + 0.1 + \frac{(0.1)^2}{2} + \frac{(0.1)^3}{6} = 1 + 0.1 + 0.005 + 0.000167 = 1.105167$$
剰余項:$f^{(4)}(x) = e^x$ なので、$0 < c < 0.1$ において $|f^{(4)}(c)| = e^c < e^{0.1} < e < 3$ です。
$$|R_3(0.1)| \le \frac{3}{4!}(0.1)^4 = \frac{3}{24} \cdot 0.0001 = 0.0000125$$
実際の値は $e^{0.1} = 1.10517092\ldots$ なので、近似値 $1.105167$ との誤差は約 $4 \times 10^{-6}$ であり、上限 $1.25 \times 10^{-5}$ 以下に収まっています。
テイラー展開を用いて、次の極限を求めてください。
$$\lim_{x \to 0} \frac{\cos x - 1 + \frac{x^2}{2}}{x^4}$$
$\cos x = 1 - \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} - \frac{x^6}{720} + \cdots$ より、
$$\cos x - 1 + \frac{x^2}{2} = \frac{x^4}{24} - \frac{x^6}{720} + \cdots$$
$x^4$ で割ると、
$$\frac{\cos x - 1 + \frac{x^2}{2}}{x^4} = \frac{1}{24} - \frac{x^2}{720} + \cdots$$
$x \to 0$ で $\frac{1}{24}$ に収束します。
$f(x) = \ln(1 + x)$ の $x = 0$ のまわりの3次テイラー多項式を書き下し、$\ln(1.2)$ の近似値を求めてください。また、剰余項を用いて誤差が $10^{-3}$ 以下であることを示してください。
$\ln(1+x) \approx x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3}$(3次テイラー多項式)
$x = 0.2$ を代入すると、
$$\ln(1.2) \approx 0.2 - \frac{0.04}{2} + \frac{0.008}{3} = 0.2 - 0.02 + 0.002667 = 0.182667$$
誤差の評価:$f^{(4)}(x) = \frac{-6}{(1+x)^4}$ なので、$0 < c < 0.2$ において $|f^{(4)}(c)| = \frac{6}{(1+c)^4} < \frac{6}{1^4} = 6$ です。
$$|R_3(0.2)| \le \frac{6}{4!}(0.2)^4 = \frac{6}{24} \cdot 0.0016 = 0.0004$$
$0.0004 < 10^{-3}$ なので、誤差は $10^{-3}$ 以下です。実際の値は $\ln(1.2) = 0.18232\ldots$ であり、近似値との差は約 $3.4 \times 10^{-4}$ です。
平均値の定理を用いて、$x > 0$ のとき不等式
$$\ln(1 + x) < x$$
が成り立つことを証明してください。
$f(t) = \ln(1 + t)$ は $[0, x]$ で連続、$(0, x)$ で微分可能です。平均値の定理により、ある $c \in (0, x)$ が存在して
$$\frac{f(x) - f(0)}{x - 0} = f'(c)$$
すなわち
$$\frac{\ln(1 + x)}{x} = \frac{1}{1 + c}$$
$c > 0$ より $1 + c > 1$ なので $\frac{1}{1 + c} < 1$ です。したがって
$$\frac{\ln(1 + x)}{x} < 1$$
$x > 0$ なので両辺に $x$ を掛けて $\ln(1 + x) < x$ が得られます。$\square$
この問題は、セクション3で学んだ平均値の定理を不等式の証明に応用したものです。$\ln(1+x)$ のテイラー展開 $x - \frac{x^2}{2} + \cdots$ の2次以降の項が交代級数であり、$x > 0$ で最初の修正項 $-\frac{x^2}{2}$ が負であることとも整合しています。