第8章 積分法

積分の基礎付け
─ リーマン積分の厳密な定義

高校数学では、定積分を「曲線と $x$ 軸で囲まれた部分の面積」として理解し、区分求積法によって長方形の面積の和の極限として計算します。 この直感は正しい方向を向いていますが、「面積とは何か」という根本的な問いには答えていません。

大学数学では、リーマン積分という枠組みを導入し、区間の分割と各小区間での関数値の和(リーマン和)の極限として定積分を厳密に定義します。 さらに、各小区間での上限の和(上積分)と下限の和(下積分)が一致するとき関数は可積分であると定義し、 この条件を使って「どのような関数に対して面積が定義できるのか」を判定できるようになります。 高校で学ぶ連続関数が常に可積分であることも、この枠組みの中で証明されます。

1高校での扱い ─ 定積分と区分求積法

高校数学IIIでは、定積分を次のように扱います。

まず、不定積分を「微分の逆演算」として導入します。$F'(x) = f(x)$ を満たす関数 $F(x)$ を $f(x)$ の原始関数と呼び、

$$\int f(x) \, dx = F(x) + C$$

と書きます。そして、定積分は

$$\int_a^b f(x) \, dx = F(b) - F(a)$$

として計算します。この値は、$y = f(x)$ のグラフと $x$ 軸で囲まれた部分の「符号つき面積」に等しいと習います。

さらに、数学IIIの区分求積法では、区間 $[0, 1]$ を $n$ 等分し、各小区間の右端での関数値を高さとする長方形の面積を足し合わせた

$$\frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} f\!\left(\frac{k}{n}\right)$$

の $n \to \infty$ での極限が $\displaystyle\int_0^1 f(x) \, dx$ に等しくなることを学びます。 これは「曲線の下の面積を、細い長方形で近似して、その幅を限りなく小さくする」という直感に基づいています。

この直感は本質をよく捉えています。しかし、ここには重要な問いが隠れています。 「面積」とは一体何なのか。長方形や三角形のような単純な図形の面積は定義できますが、曲線で囲まれた領域の面積はどう定義するのか。 また、あらゆる関数に対して「面積」は定義できるのか。 次のセクションでは、これらの問いに答えるために、大学数学がどのようなアプローチをとるかを見ていきます。

2大学の視点 ─ 「面積とは何か」を定義する

大学数学では、「面積」を直感に頼らず、数学的に構成します。 その鍵となるのがリーマン積分(Riemann integral)です。 リーマン積分のアイデアは、高校の区分求積法と同じ「区間を分割し、長方形の面積の和を考える」というものですが、 決定的な違いがあります。

高校 vs 大学:定積分をどう定義するか
高校:原始関数から定義する
定積分 $= F(b) - F(a)$。面積は「原始関数が求まれば計算できるもの」。
原始関数が見つからないと定積分も計算できない。
大学:分割の極限から定義する
定積分はリーマン和の極限として定義する。原始関数の存在は前提としない。
原始関数と定積分の関係は、定義ではなく定理(微積分学の基本定理)。
高校:等分割・右端の値のみ
区分求積法では区間を $n$ 等分し、右端 $\frac{k}{n}$ での値を使う。
大学:任意の分割・任意の代表点
どのように分割しても、どの代表点をとっても同じ極限値に収束する場合に、可積分と定義する。
高校:すべての関数で使えると暗黙に仮定
「面積が定義できない関数」の存在は扱わない。
大学:可積分でない関数が存在する
上積分と下積分が一致しない関数には、リーマン積分の意味で面積は定義できない。
リーマン和の極限としての定積分

この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。

1. 区間の分割、リーマン和、上和、下和の定義を述べ、具体的な関数に対してそれらを計算できる

2. 上積分と下積分の定義から、可積分条件(上積分 $=$ 下積分)を説明できる

3. 連続関数が可積分であることの証明の方針を説明できる

4. 可積分でない関数の例(ディリクレ関数)を挙げ、なぜ可積分でないかを説明できる

5. 高校の区分求積法がリーマン積分の特殊ケースであることを理解できる

ここで重要な点を確認しておきます。高校では $\int_a^b f(x) \, dx = F(b) - F(a)$ を定積分の定義として使いますが、 大学ではこれは定理です。定積分はリーマン和の極限として別に定義し、 「その値が原始関数の差に等しい」という事実は微積分学の基本定理として証明します(この定理については M-8-2 で扱います)。

では、リーマン和とは具体的にどのようなものか。次のセクションで、分割と代表点の概念を導入し、リーマン和を厳密に定義します。

3リーマン和の定義 ─ 分割と代表点

区間の分割

リーマン積分を定義するための第一歩は、区間を「分割」することです。

閉区間 $[a, b]$ の分割(partition)とは、$a$ から $b$ までの間に分割点を並べたものです。 具体的には、

$$a = x_0 < x_1 < x_2 < \cdots < x_{n-1} < x_n = b$$

を満たす点の集合 $P = \{x_0, x_1, x_2, \ldots, x_n\}$ を、$[a, b]$ の分割と呼びます。 これにより、$[a, b]$ は $n$ 個の小区間 $[x_0, x_1], [x_1, x_2], \ldots, [x_{n-1}, x_n]$ に分けられます。 各小区間の幅を $\Delta x_k = x_k - x_{k-1}$($k = 1, 2, \ldots, n$)と書きます。

高校の区分求積法では $n$ 等分しか扱いませんが、ここでは各小区間の幅が異なっていても構いません。 分割の「細かさ」を測る量として、最大の小区間幅

$$\|P\| = \max_{1 \le k \le n} \Delta x_k$$

を定義します。これを分割 $P$ のメッシュ(mesh)と呼びます。 $\|P\|$ が小さいほど、分割が細かいことを意味します。

代表点とリーマン和

分割 $P$ が与えられたとき、各小区間 $[x_{k-1}, x_k]$ から1点 $t_k$ を選びます。 この $t_k$ を代表点(sample point)と呼びます。代表点の選び方は自由で、小区間の左端でも右端でも中点でも構いません。 条件は $x_{k-1} \le t_k \le x_k$ だけです。

リーマン和の定義

$[a, b]$ 上の有界な関数 $f$ に対し、分割 $P = \{x_0, x_1, \ldots, x_n\}$ と代表点 $t_k \in [x_{k-1}, x_k]$ を選んだとき、

$$S(f, P, \{t_k\}) = \sum_{k=1}^{n} f(t_k) \, \Delta x_k$$

を $f$ の分割 $P$ と代表点 $\{t_k\}$ に関するリーマン和(Riemann sum)と定義します。

各項 $f(t_k) \, \Delta x_k$ は、幅 $\Delta x_k$、高さ $f(t_k)$ の長方形の符号つき面積です。リーマン和はこれらの長方形の面積の総和であり、曲線の下の面積の近似値を与えます。

高校の区分求積法で計算する $\frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n} f\!\left(\frac{k}{n}\right)$ は、区間 $[0, 1]$ を $n$ 等分($\Delta x_k = \frac{1}{n}$)し、代表点を各小区間の右端($t_k = \frac{k}{n}$)に選んだリーマン和に他なりません。

具体例で計算する

$f(x) = x^2$ を区間 $[0, 1]$ 上で考えます。$[0, 1]$ を $n$ 等分すると、$x_k = \frac{k}{n}$、$\Delta x_k = \frac{1}{n}$ です。代表点として右端 $t_k = \frac{k}{n}$ を選ぶと、リーマン和は

$$S = \sum_{k=1}^{n} \left(\frac{k}{n}\right)^2 \cdot \frac{1}{n} = \frac{1}{n^3} \sum_{k=1}^{n} k^2 = \frac{1}{n^3} \cdot \frac{n(n+1)(2n+1)}{6}$$

ここで $\sum_{k=1}^{n} k^2 = \frac{n(n+1)(2n+1)}{6}$ は高校数学Bで学ぶ公式を使いました。これを整理すると、

$$S = \frac{(n+1)(2n+1)}{6n^2} = \frac{2n^2 + 3n + 1}{6n^2} = \frac{1}{3} + \frac{1}{2n} + \frac{1}{6n^2}$$

$n \to \infty$ とすると $S \to \frac{1}{3}$ です。一方、代表点を左端 $t_k = \frac{k-1}{n}$ にとると、

$$S' = \sum_{k=1}^{n} \left(\frac{k-1}{n}\right)^2 \cdot \frac{1}{n} = \frac{1}{n^3} \sum_{k=0}^{n-1} k^2 = \frac{(n-1)n(2n-1)}{6n^3}$$

これも $n \to \infty$ で $\frac{1}{3}$ に収束します。代表点の選び方を変えても同じ極限値 $\frac{1}{3}$ が得られます。これはまさに $\int_0^1 x^2 \, dx = \frac{1}{3}$ に一致しています。

この例では、代表点の選び方に関わらず同じ極限値が得られました。 しかし、すべての関数でこれが保証されるわけではありません。 「どの分割・どの代表点をとっても同じ値に収束する」ことを保証するためには、より精密な道具が必要です。 次のセクションでは、上積分と下積分を導入し、可積分の条件を正確に定めます。

4上積分と下積分 ─ 可積分の条件

上和と下和

リーマン和では代表点の選び方が自由でしたが、代表点の選び方によって値が変わり得ます。 そこで、代表点の自由度を排除した量を考えます。 各小区間での関数値の上限(最大に近い値)と下限(最小に近い値)を使うのです。

$[a, b]$ 上の有界な関数 $f$ と分割 $P = \{x_0, x_1, \ldots, x_n\}$ に対して、各小区間 $[x_{k-1}, x_k]$ での上限と下限を

$$M_k = \sup_{x_{k-1} \le x \le x_k} f(x), \qquad m_k = \inf_{x_{k-1} \le x \le x_k} f(x)$$

と定めます。ここで $\sup$ は上限(その集合の値以上である最小の値)、$\inf$ は下限(その集合の値以下である最大の値)です。 高校数学では「最大値」「最小値」として扱いますが、大学数学ではその値が実際に達成されなくても上限・下限は定まるという点が重要です。 連続関数の場合は最大値・最小値と一致するので、今は「最大値・最小値に相当するもの」と理解して構いません。

上和と下和の定義

分割 $P$ に対して、

$$U(f, P) = \sum_{k=1}^{n} M_k \, \Delta x_k \quad (\text{upper sum})$$

上和(upper sum)、

$$L(f, P) = \sum_{k=1}^{n} m_k \, \Delta x_k \quad (\text{lower sum})$$

下和(lower sum)と定義します。

上和は各小区間で関数値の上限を高さとした長方形を積み上げたもの、下和は下限を高さとしたものです。上和は曲線の下の面積を「上から押さえる」近似、下和は「下から押さえる」近似です。任意のリーマン和 $S(f, P, \{t_k\})$ は $L(f, P) \le S(f, P, \{t_k\}) \le U(f, P)$ を満たします。

具体例:$f(x) = x^2$ の上和と下和

先ほどと同じく $f(x) = x^2$ を $[0, 1]$ 上で考えます。$n$ 等分すると、$k$ 番目の小区間は $\left[\frac{k-1}{n}, \frac{k}{n}\right]$ です。 $f(x) = x^2$ は $[0, 1]$ 上で単調増加なので、各小区間での最大値は右端、最小値は左端で達成されます。したがって、

$$M_k = \left(\frac{k}{n}\right)^2, \qquad m_k = \left(\frac{k-1}{n}\right)^2$$

上和と下和はそれぞれ、

$$U(f, P) = \frac{1}{n^3}\sum_{k=1}^{n} k^2 = \frac{(n+1)(2n+1)}{6n^2}$$

$$L(f, P) = \frac{1}{n^3}\sum_{k=0}^{n-1} k^2 = \frac{(n-1)(2n-1)}{6n^2}$$

たとえば $n = 4$ のとき、

$$U = \frac{5 \times 9}{6 \times 16} = \frac{45}{96} = \frac{15}{32} \approx 0.469$$

$$L = \frac{3 \times 7}{6 \times 16} = \frac{21}{96} = \frac{7}{32} \approx 0.219$$

真の値 $\frac{1}{3} \approx 0.333$ は $L$ と $U$ の間に挟まれています。$n$ を大きくすると、

$$U - L = \frac{(n+1)(2n+1) - (n-1)(2n-1)}{6n^2} = \frac{6n}{6n^2} = \frac{1}{n}$$

となり、$n \to \infty$ で $U - L \to 0$ です。つまり、上和と下和が同じ値 $\frac{1}{3}$ に収束します。

上積分と下積分

上和 $U(f, P)$ は分割 $P$ を細かくすると小さくなる(または変わらない)傾向があります。 逆に、下和 $L(f, P)$ は分割を細かくすると大きくなる(または変わらない)傾向があります。 そこで、すべての分割にわたる上和の下限、下和の上限を考えます。

上積分と下積分の定義

$[a, b]$ 上の有界な関数 $f$ に対して、

$$\overline{\int_a^b} f(x) \, dx = \inf_P \, U(f, P)$$

を $f$ の上積分(upper integral)、

$$\underline{\int_a^b} f(x) \, dx = \sup_P \, L(f, P)$$

を $f$ の下積分(lower integral)と定義します。ここで $\inf_P$, $\sup_P$ はすべての分割 $P$ にわたってとります。

上積分は「上から押さえる近似値のうち最も小さいもの」、下積分は「下から押さえる近似値のうち最も大きいもの」です。直感的には、上から迫る値と下から迫る値の、それぞれの究極の到達点です。

任意の分割 $P$ に対して $L(f, P) \le U(f, P)$ が成り立つので、下積分は上積分以下であることが示せます。つまり、常に

$$\underline{\int_a^b} f(x) \, dx \le \overline{\int_a^b} f(x) \, dx$$

が成り立ちます。

可積分の定義

リーマン可積分の定義

$[a, b]$ 上の有界な関数 $f$ がリーマン可積分(Riemann integrable)であるとは、上積分と下積分が一致すること、すなわち

$$\overline{\int_a^b} f(x) \, dx = \underline{\int_a^b} f(x) \, dx$$

が成り立つことです。このとき、この共通の値を

$$\int_a^b f(x) \, dx$$

と書き、$f$ の $[a, b]$ 上のリーマン積分(定積分)と呼びます。

上から迫る値と下から迫る値が同じ一点で一致するとき、その値が「面積」として確定します。一致しない場合は、「面積」が定義できない(リーマン積分の意味では積分できない)ということになります。

「面積」は定義であり、発見ではない

誤解:曲線で囲まれた領域には、もともと「面積」という量が存在していて、積分はそれを計算する方法にすぎない。

正しい理解:「面積」は上積分と下積分が一致するときに、その一致した値として定義される量です。上積分と下積分が一致しなければ、その領域には(リーマン積分の意味では)面積が定義できません。積分とは「もともとある面積を計算する」のではなく、「面積という概念を構成する」行為です。

先ほどの $f(x) = x^2$ の例では、$U - L = \frac{1}{n} \to 0$ を示しました。 これは上積分と下積分が一致すること(すなわち $f(x) = x^2$ が $[0, 1]$ 上でリーマン可積分であること)を意味しています。 実は、$f(x) = x^2$ は連続関数であり、連続関数は常にリーマン可積分です。 次のセクションでは、この重要な事実を証明します。

5連続関数の可積分性

高校で扱う関数(多項式、三角関数、指数・対数関数など)はすべて連続関数です。 連続関数がリーマン可積分であることは、大学数学における重要な定理です。 この定理により、「高校で計算してきた定積分は、リーマン積分の意味でも正当なものである」ことが保証されます。

連続関数の可積分性(定理)

閉区間 $[a, b]$ 上で連続な関数 $f$ は、$[a, b]$ 上でリーマン可積分です。

この定理の証明には、連続関数の重要な性質である一様連続性を使います。 以下では証明の方針を説明します。

証明の鍵:一様連続性

閉区間 $[a, b]$ 上の連続関数は、一様連続であることが知られています(この事実自体の証明は解析学の教科書で扱われます)。 一様連続とは、次のことです。

任意の $\varepsilon > 0$ に対して、ある $\delta > 0$ が存在し、$[a, b]$ 上の任意の2点 $x, y$ に対して

$$|x - y| < \delta \implies |f(x) - f(y)| < \varepsilon$$

が成り立つ。

通常の連続性(各点での連続性)では、$\delta$ は点 $x$ ごとに異なる値をとり得ます。 一様連続性では、すべての点に対して共通の $\delta$ がとれるという点が決定的に重要です。 この性質は M-6-2 で扱う $\varepsilon$-$\delta$ 論法の考え方に基づいています。

連続関数がリーマン可積分であることの証明の概要

示すべきこと:任意の $\varepsilon > 0$ に対して、ある分割 $P$ が存在して $U(f, P) - L(f, P) < \varepsilon$ が成り立つこと。上和と下和の差をいくらでも小さくできれば、上積分と下積分は一致します。

方針:一様連続性を使って、分割を十分細かくすれば各小区間での関数値の振れ幅($M_k - m_k$)を一様に小さくできることを示します。

ステップ1:$\varepsilon > 0$ を任意に与えます。$f$ は $[a, b]$ 上で一様連続なので、$\varepsilon' = \frac{\varepsilon}{b - a}$ に対して、ある $\delta > 0$ が存在し、$|x - y| < \delta$ ならば $|f(x) - f(y)| < \varepsilon'$ が成り立ちます。

ステップ2:メッシュ $\|P\| < \delta$ となる分割 $P$ をとります(たとえば、$[a, b]$ を $n$ 等分して $\frac{b-a}{n} < \delta$ となる $n$ を選べばよい)。

ステップ3:各小区間 $[x_{k-1}, x_k]$ の幅は $\delta$ 未満なので、この区間上の任意の2点 $x, y$ に対して $|f(x) - f(y)| < \varepsilon'$ が成り立ちます。したがって、$M_k - m_k \le \varepsilon'$ です(上限と下限の差も $\varepsilon'$ 以下)。

ステップ4:上和と下和の差を計算します。

$$U(f, P) - L(f, P) = \sum_{k=1}^{n}(M_k - m_k)\,\Delta x_k \le \varepsilon' \sum_{k=1}^{n}\Delta x_k = \varepsilon' \cdot (b - a) = \frac{\varepsilon}{b-a} \cdot (b-a) = \varepsilon$$

結論:任意の $\varepsilon > 0$ に対して $U(f, P) - L(f, P) < \varepsilon$ となる分割が存在するので、上積分と下積分は一致します。よって $f$ はリーマン可積分です。 $\blacksquare$

一様連続性が可積分性を保証する仕組み

この証明の本質は次の点にあります。連続関数では、区間を十分細かく分割すれば、各小区間内での関数値の振れ幅をすべての小区間で同時に小さくできます。振れ幅が小さければ上和と下和の差も小さくなり、上から迫る値と下から迫る値が一致します。この「すべての小区間で同時に」が一様連続性の役割です。

この定理により、高校で扱う連続関数はすべてリーマン可積分であることが保証されます。 では、逆に可積分でない関数は存在するのか。また、高校の区分求積法はリーマン積分の枠組みでどう位置づけられるのか。 次のセクションでこれらの問いを扱います。

6応用 ─ 可積分でない関数と区分求積法の厳密化

可積分でない関数:ディリクレ関数

ここまでの理論を使って、リーマン可積分でない関数の例を具体的に構成します。 次の関数を考えます。

ディリクレ関数

$$D(x) = \begin{cases} 1 & (x \in \mathbb{Q}) \\ 0 & (x \notin \mathbb{Q}) \end{cases}$$

$\mathbb{Q}$ は有理数全体の集合です。$x$ が有理数なら $D(x) = 1$、無理数なら $D(x) = 0$ と定義します。この関数は19世紀にディリクレ(Dirichlet)が考えた関数で、「至る所不連続」な関数の典型例です。

この関数が $[0, 1]$ 上でリーマン可積分でないことを、セクション4で定義した上和と下和を使って示します。

任意の分割 $P = \{x_0, x_1, \ldots, x_n\}$ を考えます。各小区間 $[x_{k-1}, x_k]$ には有理数も無理数も含まれます (これは実数の稠密性から従います。任意の2つの異なる実数の間には有理数も無理数も必ず存在します)。 したがって、

$$M_k = \sup_{x \in [x_{k-1}, x_k]} D(x) = 1, \qquad m_k = \inf_{x \in [x_{k-1}, x_k]} D(x) = 0$$

です。これより、

$$U(D, P) = \sum_{k=1}^{n} 1 \cdot \Delta x_k = 1, \qquad L(D, P) = \sum_{k=1}^{n} 0 \cdot \Delta x_k = 0$$

これはどのような分割 $P$ を選んでも同じです。分割をどれだけ細かくしても、上和は常に $1$、下和は常に $0$ です。したがって、

$$\overline{\int_0^1} D(x) \, dx = \inf_P \, U(D, P) = 1, \qquad \underline{\int_0^1} D(x) \, dx = \sup_P \, L(D, P) = 0$$

上積分 $(= 1)$ と下積分 $(= 0)$ が一致しないので、ディリクレ関数は $[0, 1]$ 上でリーマン可積分ではありません。

セクション5で証明したように、連続関数は可積分です。ディリクレ関数がリーマン可積分でないのは、この関数がすべての点で不連続だからです。 不連続点が「少ない」関数(たとえば有限個しか不連続点を持たない関数)はリーマン可積分になることが知られています。 「どの程度の不連続性まで許容されるか」は、リーマン可積分性のより深い特徴づけ(ルベーグの条件)に関わる話題です。

区分求積法の厳密化

最後に、高校で学んだ区分求積法をリーマン積分の枠組みで位置づけます。 高校の区分求積法の公式は次のものでした。

$$\lim_{n \to \infty} \frac{1}{n} \sum_{k=1}^{n} f\!\left(\frac{k}{n}\right) = \int_0^1 f(x) \, dx$$

これはリーマン積分の定義から、次のように正当化できます。

右辺の $\int_0^1 f(x) \, dx$ は「どの分割・どの代表点をとっても」リーマン和が同じ値に収束する、というのがリーマン可積分の意味です。 左辺は、特定の分割($n$ 等分)と特定の代表点(右端 $t_k = \frac{k}{n}$)をとったリーマン和の極限です。 $f$ がリーマン可積分であれば、分割のメッシュ $\|P\| = \frac{1}{n} \to 0$ のとき、どのようなリーマン和も定積分に収束するので、この特定のリーマ和も当然 $\int_0^1 f(x) \, dx$ に収束します。

つまり、高校の区分求積法は、リーマン積分の「特殊な場合」として厳密に正当化されます。大学の定義はこの特殊ケースを含む、より一般的な枠組みを与えているのです。

一般の区間での区分求積法

区間 $[0, 1]$ に限らず、一般の区間 $[a, b]$ での区分求積法も同様に正当化できます。$[a, b]$ を $n$ 等分すると $\Delta x = \frac{b-a}{n}$、$x_k = a + k \cdot \frac{b-a}{n}$ なので、

$$\lim_{n \to \infty} \frac{b-a}{n} \sum_{k=1}^{n} f\!\left(a + k \cdot \frac{b-a}{n}\right) = \int_a^b f(x) \, dx$$

が成り立ちます。これも $n$ 等分・右端代表点によるリーマン和の極限であり、$f$ が $[a, b]$ 上でリーマン可積分(たとえば連続)ならば、リーマン積分の定義から直ちに正当化されます。

区分求積法の限界を理解する

誤解:区分求積法の公式($n$ 等分・右端代表点)で極限が存在すれば、その関数はリーマン可積分である。

正しい理解:リーマン可積分であるためには、すべての分割・すべての代表点でリーマン和が同じ値に収束する必要があります。特定の分割・代表点でのみ極限が存在しても、可積分とは限りません。ただし実用上は、連続関数のように可積分性が保証されている場合には、計算しやすい分割と代表点を選んで区分求積法を使えます。

7つながりマップ

  • 前提知識 M-6-2 $\varepsilon$-$\delta$ 論法 ── 極限の厳密な定義と、一様連続性の理解に必要です
  • 前提知識 M-6-3 連続性の深層 ── 連続関数の性質(中間値の定理、最大値の定理など)を前提とします
  • 発展 M-8-2 微積分学の基本定理 ── リーマン積分と原始関数の関係を証明します。本記事で定義した積分が、原始関数の差として計算できることを示す定理です
  • 発展 M-8-3 広義積分と無限級数 ── 区間が無限の場合や、被積分関数が有界でない場合への拡張を扱います
  • 関連 M-1-2 実数の完備性 ── 上限・下限の存在を保証する実数の完備性は、リーマン積分の定義の基盤です

Sまとめ

  • 高校の定積分は「原始関数の差」として定義されるが、大学ではリーマン和の極限として定義される。原始関数との関係は定義ではなく定理(微積分学の基本定理)である。
  • リーマン和は、区間の分割と各小区間の代表点を選んで $\sum f(t_k)\,\Delta x_k$ として定義される。上和 $U(f,P)$ は各小区間の上限を、下和 $L(f,P)$ は下限を使う。
  • すべての分割にわたる上和の下限を上積分、下和の上限を下積分と呼び、両者が一致するとき関数はリーマン可積分であると定義する。
  • 閉区間上の連続関数はリーマン可積分である。証明の鍵は一様連続性であり、分割を細かくすれば各小区間での関数値の振れ幅をすべての小区間で同時に小さくできる。
  • ディリクレ関数はリーマン可積分でない例であり、上積分 $= 1$、下積分 $= 0$ となる。高校の区分求積法はリーマン積分の特殊ケース(等分割・右端代表点)として正当化される。

9確認テスト

理解度チェック

Q1. 高校では定積分を $\int_a^b f(x)\,dx = F(b) - F(a)$ として定義しますが、大学ではこれは定義ではなく定理です。大学での定積分の定義はどのようなものですか。

クリックして解答を表示 大学では、区間 $[a,b]$ の分割 $P$ と代表点 $\{t_k\}$ に対するリーマン和 $\sum f(t_k)\,\Delta x_k$ を考え、上積分(すべての分割にわたる上和の下限)と下積分(すべての分割にわたる下和の上限)が一致するとき、その共通の値を定積分 $\int_a^b f(x)\,dx$ と定義します。$F(b) - F(a)$ に等しいという事実は、微積分学の基本定理として別に証明されます。

Q2. 分割のメッシュ $\|P\|$ とは何ですか。リーマン可積分性との関係を述べてください。

クリックして解答を表示 メッシュ $\|P\|$ は、分割 $P$ における小区間の幅の最大値 $\max_k \Delta x_k$ です。リーマン可積分な関数の場合、$\|P\| \to 0$ とすれば(分割を限りなく細かくすれば)、どの代表点をとってもリーマン和は定積分の値に収束します。

Q3. ディリクレ関数 $D(x)$ がリーマン可積分でない理由を、上和と下和の言葉で説明してください。

クリックして解答を表示 任意の分割において、各小区間 $[x_{k-1}, x_k]$ には有理数と無理数の両方が含まれるので、$M_k = 1$、$m_k = 0$ となります。したがって、どのような分割をとっても上和 $U(D, P) = 1$、下和 $L(D, P) = 0$ です。よって上積分 $= 1$ と下積分 $= 0$ が一致しないので、リーマン可積分ではありません。

Q4. 「連続関数がリーマン可積分である」ことの証明で、一様連続性はどのような役割を果たしていますか。

クリックして解答を表示 一様連続性により、与えられた $\varepsilon > 0$ に対して、「すべての小区間で同時に」関数値の振れ幅 $M_k - m_k$ を $\varepsilon/(b-a)$ 未満にできる $\delta$ が存在します。メッシュが $\delta$ 未満の分割をとれば $U - L < \varepsilon$ となり、上積分と下積分が一致します。もし一様連続性がなく各点ごとにしか $\delta$ がとれなければ、すべての小区間で同時に振れ幅を制御することはできません。

10演習問題

問1 A 基本

$f(x) = 3x$ を区間 $[0, 2]$ 上で考えます。$[0, 2]$ を $n$ 等分したとき、代表点を右端にとったリーマン和 $S_n$ を求め、$n \to \infty$ での極限を計算してください。その値が $\int_0^2 3x \, dx$ に一致することを確認してください。

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解答

$\Delta x = \frac{2}{n}$、$x_k = \frac{2k}{n}$、$t_k = x_k = \frac{2k}{n}$ です。

$$S_n = \sum_{k=1}^{n} 3 \cdot \frac{2k}{n} \cdot \frac{2}{n} = \frac{12}{n^2}\sum_{k=1}^{n}k = \frac{12}{n^2} \cdot \frac{n(n+1)}{2} = \frac{6(n+1)}{n} = 6 + \frac{6}{n}$$

$n \to \infty$ で $S_n \to 6$ です。

一方、$\int_0^2 3x \, dx = \left[\frac{3}{2}x^2\right]_0^2 = \frac{3}{2} \cdot 4 = 6$ であり、一致します。

問2 A 定義の確認

$f(x) = 1$ を区間 $[0, 1]$ 上で考えます。任意の分割 $P$ に対して、上和 $U(f, P)$ と下和 $L(f, P)$ を求めてください。この結果から、$f$ がリーマン可積分であることを示し、$\int_0^1 1 \, dx$ の値を求めてください。

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解答

$f(x) = 1$ は定数関数なので、任意の小区間 $[x_{k-1}, x_k]$ において $M_k = 1$、$m_k = 1$ です。したがって、

$$U(f, P) = \sum_{k=1}^{n} 1 \cdot \Delta x_k = \sum_{k=1}^{n} \Delta x_k = b - a = 1$$

$$L(f, P) = \sum_{k=1}^{n} 1 \cdot \Delta x_k = 1$$

任意の分割で $U = L = 1$ なので、上積分 $= $ 下積分 $= 1$ です。よって $f$ はリーマン可積分であり、$\int_0^1 1 \, dx = 1$ です。

問3 B 計算

$f(x) = x^3$ を区間 $[0, 1]$ 上で考えます。$[0, 1]$ を $n$ 等分したとき、上和 $U(f, P_n)$ と下和 $L(f, P_n)$ を求め、$U - L \to 0$($n \to \infty$)を示してください。

ヒント:$\sum_{k=1}^{n} k^3 = \left\{\frac{n(n+1)}{2}\right\}^2$ を使ってください。

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解答

$f(x) = x^3$ は $[0, 1]$ 上で単調増加なので、$k$ 番目の小区間 $\left[\frac{k-1}{n}, \frac{k}{n}\right]$ では $M_k = \left(\frac{k}{n}\right)^3$、$m_k = \left(\frac{k-1}{n}\right)^3$ です。

$$U(f, P_n) = \frac{1}{n}\sum_{k=1}^{n}\left(\frac{k}{n}\right)^3 = \frac{1}{n^4}\sum_{k=1}^{n}k^3 = \frac{1}{n^4} \cdot \frac{n^2(n+1)^2}{4} = \frac{(n+1)^2}{4n^2}$$

$$L(f, P_n) = \frac{1}{n}\sum_{k=0}^{n-1}\left(\frac{k}{n}\right)^3 = \frac{1}{n^4}\sum_{k=0}^{n-1}k^3 = \frac{1}{n^4} \cdot \frac{(n-1)^2 n^2}{4} = \frac{(n-1)^2}{4n^2}$$

$$U - L = \frac{(n+1)^2 - (n-1)^2}{4n^2} = \frac{4n}{4n^2} = \frac{1}{n}$$

$n \to \infty$ で $U - L = \frac{1}{n} \to 0$ なので、上積分と下積分は一致します。(共通の値は $\frac{1}{4}$ です。)

問4 B 証明

$[a, b]$ 上の有界な関数 $f$ と、任意の分割 $P$ に対して、$L(f, P) \le U(f, P)$ が成り立つことを証明してください。

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解答

各小区間 $[x_{k-1}, x_k]$ において、$m_k = \inf f(x) \le \sup f(x) = M_k$ です(下限は上限以下)。$\Delta x_k > 0$ なので $m_k \, \Delta x_k \le M_k \, \Delta x_k$ が成り立ちます。$k = 1, 2, \ldots, n$ について辺々加えると、

$$L(f, P) = \sum_{k=1}^{n} m_k \, \Delta x_k \le \sum_{k=1}^{n} M_k \, \Delta x_k = U(f, P)$$

よって $L(f, P) \le U(f, P)$ が成り立ちます。 $\blacksquare$

問5 C 発展

次の関数 $g$ が $[0, 1]$ 上でリーマン可積分であるかどうか判定し、その理由を述べてください。

$$g(x) = \begin{cases} 0 & (x \ne \frac{1}{2}) \\ 1 & (x = \frac{1}{2}) \end{cases}$$

可積分であれば、$\int_0^1 g(x) \, dx$ の値も求めてください。

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解答

$g$ はリーマン可積分であり、$\int_0^1 g(x) \, dx = 0$ です。

解説

任意の分割 $P$ に対して、$x = \frac{1}{2}$ を含む小区間は高々1つです(その小区間を $[x_{j-1}, x_j]$ とします)。

下和:$x \ne \frac{1}{2}$ である点が各小区間に含まれるので、$m_k = 0$ です。よって $L(g, P) = 0$ です。

上和:$x = \frac{1}{2}$ を含まない小区間では $M_k = 0$ です。$x = \frac{1}{2}$ を含む小区間では $M_j = 1$ です。したがって、

$$U(g, P) = 1 \cdot \Delta x_j + \sum_{k \ne j} 0 \cdot \Delta x_k = \Delta x_j$$

メッシュ $\|P\| \to 0$ とすれば $\Delta x_j \le \|P\| \to 0$ なので、$\inf_P U(g, P) = 0$ です。

よって上積分 $= 0$、下積分 $= 0$ で一致するので、$g$ はリーマン可積分であり、$\int_0^1 g(x) \, dx = 0$ です。1点での値の変更は定積分の値に影響しないのです。