高校数学では $e = 2.71828\ldots$ を「自然対数の底」として導入し、$(e^x)' = e^x$ という便利な性質を使って微分・積分の問題を解きます。
しかし、なぜこの値が「自然」と呼ばれるのか、なぜ他の底(たとえば 2 や 10)ではなく $e$ が特別なのかは、高校では十分に説明されません。
大学数学の視点では、$e$ は極限・微分方程式・積分・級数という4つの異なる角度から「自然に」現れます。
そしてこの4つの顔を統一する鍵は、微分方程式 $y' = y$(自分自身の変化率に等しい関数)です。
この記事では、$e$ の4つの顔を順に見たうえで、それらがすべて $y' = y$ から導かれることを示します。
高校数学では、$e$ は次のように導入されます。
これらは計算の道具として十分に機能します。 しかし、いくつかの疑問が残ります。
高校ではこれらの問いに深入りする時間がないため、$e$ は「そういう値の定数」として扱われます。 次のセクションでは、大学の視点を導入することで、これらの問いにすべて答えられることを確認します。
大学数学では、$e$ は一つの公式に出てくる定数ではなく、数学のさまざまな分野から「自然に」現れる基本的な定数として理解されます。 その鍵となるのは、微分方程式 $y' = y$(「自分自身の変化率に等しい関数は何か」という問い)です。
この記事を読み終えると、以下のことが理解できます。
1. $e = \displaystyle\lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n$ が「連続複利」の極限として現れる仕組みを説明できる
2. 微分方程式 $y' = y$ の解が $y = Ce^x$ であることを示し、これが $e$ の最も本質的な特徴づけであることを理解する
3. $\ln x = \displaystyle\int_1^x \frac{dt}{t}$ という積分による対数の定義から $e$ が現れることを理解する
4. $e = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!}$ という級数表示を導き、具体的な部分和で $e$ の値を近似できる
5. これら4つの顔がすべて微分方程式 $y' = y$ から導かれることを確認する
以下では、この4つの顔を順に見ていきます。まずは高校でも登場する、極限としての $e$ から始めます。
$e$ の極限による定義 $\displaystyle\lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n$ には、「連続複利」という直感的な意味があります。
年利100%の銀行預金を考えます。元本を1とすると、1年後の元利合計は次のようになります。
複利の回数を増やすほど元利合計は大きくなりますが、際限なく大きくなるわけではありません。 複利の回数 $n$ を増やしていくと、ある値に近づいていきます。それが $e$ です。
具体的に $\left(1 + \dfrac{1}{n}\right)^n$ の値を計算してみます。
| $n$ | $\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n$ の値 |
|---|---|
| $1$ | $2$ |
| $10$ | $2.59374\ldots$ |
| $100$ | $2.70481\ldots$ |
| $1{,}000$ | $2.71692\ldots$ |
| $10{,}000$ | $2.71815\ldots$ |
| $100{,}000$ | $2.71827\ldots$ |
| $\to \infty$ | $\to e = 2.71828\ldots$ |
$n$ を大きくするにつれて値は増加していますが、増加の幅がどんどん小さくなり、$2.71828\ldots$ という値に収束していく様子がわかります。
この極限が本当に収束するのかを、直感的に理解しておきます。
まず、$a_n = \left(1 + \dfrac{1}{n}\right)^n$ は $n$ について単調増加です。 これは二項定理を使って展開すると確認できます。$\left(1 + \dfrac{1}{n}\right)^n$ を展開すると、
$$\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n = \sum_{k=0}^{n} \binom{n}{k} \frac{1}{n^k}$$
各項を整理すると、$n$ を大きくしたとき各項が増加するか等しいことが示せます(詳細は省略します)。
一方、上界も存在します。各項 $\dbinom{n}{k}\dfrac{1}{n^k}$ は $\dfrac{1}{k!}$ 以下なので、
$$\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n \leq \sum_{k=0}^{n} \frac{1}{k!} \leq 1 + 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \frac{1}{8} + \cdots = 3$$
ここで $k \geq 2$ のとき $k! \geq 2^{k-1}$ を使いました。単調増加で上に有界な数列は収束するので、$a_n$ はある値に収束します。その値が $e$ です。
$$e = \lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n = 2.71828\,18284\,59045\ldots$$
$e$ は無理数であり、さらに超越数(整数係数の代数方程式の解にならない数)であることが証明されています。
ここまでで、$e$ が極限として自然に現れることを見ました。 しかし、これだけでは $e$ がなぜ「特別」なのかは十分にわかりません。 次のセクションでは、$e$ の最も本質的な特徴づけである微分方程式 $y' = y$ との関係を見ます。
次のような問いを考えます。「ある関数 $y = f(x)$ があり、その導関数が自分自身に等しい。つまり $y' = y$ を満たす。そのような関数は何か。」
高校では微分方程式という概念は扱いませんが、これは「未知の関数を求める方程式」です。 通常の方程式が「未知の数」を求めるのに対し、微分方程式は「未知の関数」を求めます。 $y' = y$ は最も基本的な微分方程式の一つです。
この方程式が意味するのは、「関数の値 $y$ とその変化率 $y'$ が常に一致する」ということです。 たとえば、$y = 3$ のとき $y' = 3$、$y = 100$ のとき $y' = 100$ です。 値が大きいほど変化率も大きい ── つまり、多いほど速く増える関数です。
高校で学んだ $(e^x)' = e^x$ という性質は、まさに $y = e^x$ が $y' = y$ の解であることを述べています。 さらに、定数 $C$ を任意にとると、$y = Ce^x$ も解です。実際、
$$(Ce^x)' = Ce^x = y$$
が成り立ちます。そして、$y' = y$ の解は $y = Ce^x$($C$ は任意定数)の形のものに限ることが証明できます。
$$y' = y \quad \Longrightarrow \quad y = Ce^x \quad (C \text{ は任意定数})$$
$C = 0$ のとき $y = 0$(恒等的にゼロの関数)も解に含まれます。初期条件 $y(0) = 1$ を課すと、$C = 1$ すなわち $y = e^x$ が一意に定まります。
底を一般の正の数 $a$($a \neq 1$)として、$(a^x)' $ がどうなるかを考えます。 $a^x = e^{x \ln a}$ と書き換えると、合成関数の微分から次が得られます。
$$(a^x)' = (e^{x \ln a})' = e^{x \ln a} \cdot \ln a = a^x \ln a$$
つまり、$(a^x)' = a^x \cdot \ln a$ です。この結果から、$(a^x)' = a^x$ が成り立つのは $\ln a = 1$、すなわち $a = e$ のときに限ることがわかります。
誤解:便利な公式のために $e$ を「定義した」
正しい理解:$y' = y$ という自然な問いの解として $e^x$ が現れ、その結果として $(e^x)' = e^x$ が成り立つ。$e$ は人工的に作ったのではなく、微分の構造から自然に決まる定数です。
セクション3の極限の定義から $(e^x)' = e^x$ を導出してみます。
示すこと:$e$ の極限の定義 $e = \displaystyle\lim_{h \to 0}(1+h)^{1/h}$ を用いて、$(e^x)' = e^x$ を導きます。
方針:導関数の定義に従い $\displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{e^{x+h} - e^x}{h}$ を計算します。
ステップ1:導関数の定義より、
$$(e^x)' = \lim_{h \to 0}\frac{e^{x+h} - e^x}{h} = \lim_{h \to 0}\frac{e^x(e^h - 1)}{h} = e^x \cdot \lim_{h \to 0}\frac{e^h - 1}{h}$$
$e^x$ は $h$ に依存しないので、極限の外に出せます。よって、$\displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{e^h - 1}{h} = 1$ を示せば十分です。
ステップ2:$t = e^h - 1$ と置換します。$h \to 0$ のとき $t \to 0$ です。また $e^h = 1 + t$ なので $h = \ln(1 + t)$ です。
$$\lim_{h \to 0}\frac{e^h - 1}{h} = \lim_{t \to 0}\frac{t}{\ln(1+t)} = \lim_{t \to 0}\frac{1}{\frac{1}{t}\ln(1+t)} = \frac{1}{\displaystyle\lim_{t \to 0}\ln(1+t)^{1/t}}$$
ステップ3:ここで $\displaystyle\lim_{t \to 0}(1+t)^{1/t} = e$ です($e$ の定義そのものです。$n = 1/t$ と置けばセクション3の極限に一致します)。
したがって、$\displaystyle\lim_{t \to 0}\ln(1+t)^{1/t} = \ln e = 1$ です。
結論:$\displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{e^h - 1}{h} = \frac{1}{1} = 1$ より、$(e^x)' = e^x \cdot 1 = e^x$ が得られます。
ここまでで、$e$ が「極限」と「微分方程式」の2つの角度から現れることを見ました。 次のセクションでは、積分の側から $e$ が現れる仕組みを見ます。 実は、高校で「なぜ $\dfrac{1}{x}$ の原始関数が対数なのか」と疑問に感じたことがあれば、その答えがここにあります。
高校では $\ln x$ を「$e$ を底とする対数」として定義します。つまり、まず $e$ を極限で定義し、その後で $\ln x = \log_e x$ と定めます。
大学数学ではこれとは逆に、積分を使って先に $\ln x$ を定義し、そこから $e$ を導くという方法が広く使われます。
$x > 0$ に対して、
$$\ln x = \int_1^x \frac{dt}{t}$$
右辺は「$y = \dfrac{1}{t}$ のグラフと $t$ 軸の間の面積($x > 1$ のとき)」を表します。$0 < x < 1$ のときは面積に負号がつきます。
なぜこのように定義するのでしょうか。理由は明快です。微積分学の基本定理により、
$$\frac{d}{dx}\int_1^x \frac{dt}{t} = \frac{1}{x}$$
が成り立ちます。つまり、この定義を採用すれば $(\ln x)' = \dfrac{1}{x}$ が定義から直ちに従います。 高校で「公式」として覚えていた $(\ln x)' = \dfrac{1}{x}$ は、この定義のもとでは証明の必要すらありません。
高校で積分を学んだとき、$\displaystyle\int x^n \, dx = \frac{x^{n+1}}{n+1} + C$ という公式を使いました。 しかし $n = -1$ のとき、$\dfrac{x^0}{0}$ となり、この公式は使えません。 「$n = -1$ のときだけ例外的に $\ln |x|$ になる」と教わりますが、なぜ突然対数が出てくるのか不思議に感じた方もいるでしょう。
積分による定義を使えば、この疑問は解消されます。 $\dfrac{1}{x}$ の原始関数を $F(x) = \displaystyle\int_1^x \frac{dt}{t}$ と定義し、この $F(x)$ が対数の性質を満たすことを確認するのです。
実際、$F(x)$ は対数の基本性質 $\ln(ab) = \ln a + \ln b$ を満たします。
示すこと:$F(x) = \displaystyle\int_1^x \frac{dt}{t}$ と定義したとき、$F(ab) = F(a) + F(b)$ が成り立つことを示します。
ステップ1:積分の区間を分割します。
$$F(ab) = \int_1^{ab} \frac{dt}{t} = \int_1^{a} \frac{dt}{t} + \int_a^{ab} \frac{dt}{t} = F(a) + \int_a^{ab} \frac{dt}{t}$$
ステップ2:第2の積分で $t = au$ と置換します。$dt = a\,du$ であり、$t: a \to ab$ のとき $u: 1 \to b$ です。
$$\int_a^{ab} \frac{dt}{t} = \int_1^{b} \frac{a\,du}{au} = \int_1^{b} \frac{du}{u} = F(b)$$
結論:$F(ab) = F(a) + F(b)$ が成り立ちます。これは対数の加法性そのものです。
つまり、$\dfrac{1}{x}$ の原始関数は「掛け算を足し算に変える」という性質を持つのです。これは対数の定義そのものであり、$\dfrac{1}{x}$ の原始関数が対数になるのは偶然ではなく必然です。
積分による $\ln x$ の定義から、$e$ は次のように特徴づけられます。
$$\int_1^e \frac{dt}{t} = 1$$
$y = \dfrac{1}{t}$ のグラフの下の面積が、$t = 1$ から $t = e$ までの範囲でちょうど1になります。$e$ とはこの条件を満たす唯一の正の数です。
具体的に確認してみます。$\displaystyle\int_1^{2.5} \frac{dt}{t} = \ln 2.5 \approx 0.916$ であり、$\displaystyle\int_1^{3} \frac{dt}{t} = \ln 3 \approx 1.099$ です。 面積がちょうど1になる上端 $e$ は、$2.5$ と $3$ の間にあることがわかります。実際、$e \approx 2.71828$ です。
ここまでで、$e$ が極限・微分方程式・積分の3つの角度から現れることを見ました。 次のセクションでは、4つ目の角度である級数からの $e$ の表現を見ます。 この級数は、セクション4で扱った微分方程式 $y' = y$ の解を冪級数として求めることで自然に得られます。
大学数学では、テイラー展開(マクローリン展開)という手法を使って、関数を無限級数(冪級数)で表現します。 高校の数学IIIでは近似式 $e^x \approx 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$($x$ が小さいとき)を学びますが、大学ではこれを無限に続けた正確な等式が成り立つことを証明します。
考え方は次の通りです。$f(x) = e^x$ について、$f'(x) = e^x$ なので、どの階数の導関数をとっても $f^{(n)}(x) = e^x$ です。 特に $x = 0$ での値は $f^{(n)}(0) = e^0 = 1$(すべての $n$ について)です。
テイラー展開の公式 $f(x) = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n$ に代入すると、次が得られます。
$$e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots$$
この等式はすべての実数 $x$ で成り立ちます。$n! = n \cdot (n-1) \cdot (n-2) \cdots 2 \cdot 1$ は階乗で、$0! = 1$ と約束します。
なお、テイラー展開の一般論は 📖 第7章 §2 で詳しく扱っています。ここでは結果のみ使います。
上の級数に $x = 1$ を代入すると、$e$ 自身の級数表示が得られます。
$$e = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!} = 1 + 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{6} + \frac{1}{24} + \frac{1}{120} + \cdots$$
この級数の収束の速さを、部分和を計算して確認します。
| 項数 | 部分和 $\displaystyle\sum_{k=0}^{n} \frac{1}{k!}$ | $e$ との差 |
|---|---|---|
| $n = 0$ | $1$ | $1.71828\ldots$ |
| $n = 1$ | $2$ | $0.71828\ldots$ |
| $n = 2$ | $2.5$ | $0.21828\ldots$ |
| $n = 3$ | $2.6\overline{6}$ | $0.05161\ldots$ |
| $n = 4$ | $2.708\overline{3}$ | $0.00994\ldots$ |
| $n = 5$ | $2.71\overline{6}$ | $0.00161\ldots$ |
| $n = 10$ | $2.71828\,1801\ldots$ | $2.7 \times 10^{-8}$ |
わずか10項で $e$ の値を小数点以下7桁まで正しく近似できます。 $n!$ が急速に大きくなるため、この級数は極めて速く収束します。 セクション3の極限 $\left(1 + \dfrac{1}{n}\right)^n$ と比較すると、級数による近似のほうがはるかに効率的です。
$e^x$ のテイラー展開 $f(x) = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!}$ を項別微分してみます。
$f'(x) = \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} \frac{nx^{n-1}}{n!} = \sum_{n=1}^{\infty} \frac{x^{n-1}}{(n-1)!}$
$m = n-1$ と置き換えると、$f'(x) = \displaystyle\sum_{m=0}^{\infty} \frac{x^{m}}{m!} = f(x)$ となり、確かに $f'(x) = f(x)$ が成り立ちます。
つまり、$e^x$ のテイラー展開は「微分しても自分自身に戻る級数」です。これはセクション4の微分方程式 $y' = y$ の性質を級数の言葉で言い換えたものにほかなりません。
ここまでで $e$ の4つの顔 ── 極限、微分方程式、積分、級数 ── をすべて見ました。 次のセクションでは、これら4つが独立な話ではなく、すべて微分方程式 $y' = y$ から導かれることを確認します。
ここまでで見た $e$ の4つの顔を整理し、それらがすべて微分方程式 $y' = y$ から導かれることを確認します。
微分方程式 $y' = y$ に初期条件 $y(0) = 1$ を課した問題を考えます。 セクション4で見た通り、この解は $y = e^x$ です。この一つの関数から、4つの顔がすべて出てきます。
$y' = y$ を差分で近似してみます。微小な幅 $h$ で $x$ を刻んで、$y(x + h) \approx y(x) + h \cdot y'(x) = y(x) + h \cdot y(x) = (1 + h) \cdot y(x)$ と近似します。
$x = 0$ から $x = 1$ まで刻み幅 $h = \dfrac{1}{n}$ で $n$ ステップ進むと、
$$y(1) \approx \left(1 + \frac{1}{n}\right)^n \cdot y(0) = \left(1 + \frac{1}{n}\right)^n$$
$n \to \infty$ で刻み幅を0に近づけると近似が正確になり、$y(1) = e$ が得られます。 したがって、$e = \displaystyle\lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n$ という極限表示は、$y' = y$ の差分近似にほかなりません。
$y' = y$、$y(0) = 1$ の解を冪級数 $y = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n$ の形で求めてみます。
$y' = \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} n a_n x^{n-1} = \sum_{n=0}^{\infty} (n+1) a_{n+1} x^{n}$ であり、$y' = y$ から各 $x^n$ の係数を比較すると、
$$(n+1)a_{n+1} = a_n \quad \Longrightarrow \quad a_{n+1} = \frac{a_n}{n+1}$$
初期条件 $y(0) = 1$ から $a_0 = 1$ であり、漸化式を順次適用すると $a_n = \dfrac{1}{n!}$ が得られます。 したがって $y = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!}$ であり、$x = 1$ を代入すれば $e = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!}$ が出ます。
$y' = y$ の解が $y = e^x$ であることから、逆関数 $x = \ln y$ を考えます。 $y = e^x$ の両辺を $y$ で微分すると、
$$\frac{dx}{dy} = \frac{1}{y'} = \frac{1}{y}$$
これを積分すると $x = \displaystyle\int_1^y \frac{dt}{t}$ です($y = 1$ のとき $x = 0$ という境界条件に合わせています)。 つまり $\ln y = \displaystyle\int_1^y \frac{dt}{t}$ が得られ、$\ln e = 1$ すなわち $\displaystyle\int_1^e \frac{dt}{t} = 1$ が従います。
$e$ の4つの表現はすべて、微分方程式 $y' = y$($y(0) = 1$)から導かれます。
極限:$y' = y$ の差分近似 → $e = \displaystyle\lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n$
微分方程式:$y' = y$ の解そのもの → $y = e^x$
積分:$y' = y$ の逆関数 → $\ln x = \displaystyle\int_1^x \frac{dt}{t}$
級数:$y' = y$ の冪級数解 → $e = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{n!}$
$e$ が「自然」である理由は、$y' = y$ という最も自然な微分方程式の解から決まる定数だからです。
4つの顔の統一ができたところで、次のセクションでは、$e$ と微分方程式 $y' = y$ が自然現象の中でどのように現れるかを見ます。
微分方程式 $y' = y$ を少し一般化した $y' = ky$($k$ は定数)は、「変化率が現在の量に比例する」という法則を表します。 この形の微分方程式は自然現象のいたるところに現れ、その解には必ず $e$ が含まれます。
$$y' = ky \quad \Longrightarrow \quad y = y_0 e^{kt}$$
$y_0 = y(0)$ は初期値です。$k > 0$ なら指数関数的増加、$k < 0$ なら指数関数的減少を表します。
放射性物質の原子核が崩壊する速度は、現在残っている原子核の数 $N$ に比例します。これを式で書くと、
$$\frac{dN}{dt} = -\lambda N$$
ここで $\lambda > 0$ は崩壊定数です。負号は原子核が減少することを表します。 これは $y' = ky$($k = -\lambda$)の形なので、解は $N(t) = N_0 e^{-\lambda t}$ です。
具体的な計算:半減期 $T_{1/2}$ は $N(T_{1/2}) = \dfrac{N_0}{2}$ を満たす時刻です。
$$N_0 e^{-\lambda T_{1/2}} = \frac{N_0}{2} \quad \Longrightarrow \quad e^{-\lambda T_{1/2}} = \frac{1}{2} \quad \Longrightarrow \quad T_{1/2} = \frac{\ln 2}{\lambda}$$
たとえば炭素14の崩壊定数は $\lambda \approx 1.21 \times 10^{-4}$ /年なので、半減期は $T_{1/2} = \dfrac{\ln 2}{1.21 \times 10^{-4}} \approx 5{,}730$ 年です。
ある生物の個体数が、現在の個体数に比例して増えると仮定すると、$\dfrac{dP}{dt} = rP$ となります($r > 0$ は増加率)。 解は $P(t) = P_0 e^{rt}$ です。
具体的な計算:年増加率 $r = 0.02$(2%)で初期人口 $P_0 = 1{,}000$ 万人のとき、50年後の人口は
$$P(50) = 1{,}000 \times e^{0.02 \times 50} = 1{,}000 \times e^{1} \approx 1{,}000 \times 2.718 \approx 2{,}718 \text{ 万人}$$
50年で人口が $e$ 倍(約2.718倍)になります。ここにも $e$ が自然に現れます。
温度 $T$ の物体が、周囲の温度 $T_{\mathrm{env}}$ の環境に置かれたとき、物体の温度変化は次の微分方程式に従います。
$$\frac{dT}{dt} = -k(T - T_{\mathrm{env}})$$
$u = T - T_{\mathrm{env}}$ と置くと $u' = -ku$ となり、解は $u(t) = u_0 e^{-kt}$ です。 元の変数に戻すと、$T(t) = T_{\mathrm{env}} + (T_0 - T_{\mathrm{env}})e^{-kt}$ となります。
具体的な計算:90℃のコーヒーを20℃の部屋に置く場合($k = 0.1$ /分とします)、10分後の温度は
$$T(10) = 20 + (90 - 20)e^{-0.1 \times 10} = 20 + 70 \cdot e^{-1} \approx 20 + 70 \times 0.368 \approx 45.7 \text{℃}$$
ここでも $e^{-1} \approx 0.368$ が現れます。
これらの例に共通するのは、「変化率が現在の量に比例する」という法則です。 この法則を数式にすると $y' = ky$ となり、その解に必ず $e$ が現れます。 自然現象に $e$ が頻出するのは、「比例的変化」が自然界の基本パターンだからです。
Q1. $e$ が「自然」である最も根本的な理由は何か。次の中から最も適切なものを選べ。
Q2. $(2^x)' $ を求めよ。また、$(a^x)' = a^x$ が成り立つのは $a$ がどのような値のときか。
Q3. $e$ の級数表示 $e = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}$ の最初の5項($n = 0$ から $n = 4$ まで)の和を求めよ。
Q4. 積分による自然対数の定義 $\ln x = \displaystyle\int_1^x \frac{dt}{t}$ を用いると、$(\ln x)' = \dfrac{1}{x}$ が成り立つ理由を一言で述べよ。
$\displaystyle\lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^{2n}$ の値を求めよ。
$\displaystyle\lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^{2n} = \left[\lim_{n \to \infty}\left(1 + \frac{1}{n}\right)^{n}\right]^2 = e^2$
指数の $2n$ を $n \cdot 2$ と分解し、$\left[\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n\right]^2$ と変形します。$\left(1 + \frac{1}{n}\right)^n \to e$ なので、全体は $e^2 \approx 7.389$ に収束します。
$e^x$ のテイラー展開を用いて、$e^{-1} = \dfrac{1}{e}$ の値を級数で表し、最初の6項($n = 0$ から $n = 5$)の部分和を計算せよ。
$e^{-1} = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n!} = 1 - 1 + \frac{1}{2} - \frac{1}{6} + \frac{1}{24} - \frac{1}{120} + \cdots$
最初の6項の部分和:$1 - 1 + 0.5 - 0.1\overline{6} + 0.041\overline{6} - 0.008\overline{3} = 0.3\overline{6}$
$= \dfrac{11}{30} \approx 0.3667$
実際の値は $e^{-1} \approx 0.3679$ なので、よい近似です。
微分方程式 $y' = 3y$ の一般解を求めよ。また、初期条件 $y(0) = 5$ を満たす解を求め、$y(2)$ の値を計算せよ。
一般解:$y = Ce^{3x}$($C$ は任意定数)
$y(0) = C = 5$ より $y = 5e^{3x}$
$y(2) = 5e^{6} \approx 5 \times 403.4 = 2{,}017$
$y' = ky$ の一般解は $y = Ce^{kx}$ です(セクション8の公式)。ここで $k = 3$ を代入します。初期条件 $y(0) = 5$ を代入すると $C \cdot e^0 = C = 5$ と定まります。$e^6 \approx 403.4$ は $e$ の級数表示や関数電卓で計算できます。
積分による定義 $\ln x = \displaystyle\int_1^x \frac{dt}{t}$ を用いて、$\ln(ab) = \ln a + \ln b$ を証明せよ。
$\ln(ab) = \displaystyle\int_1^{ab}\frac{dt}{t} = \int_1^{a}\frac{dt}{t} + \int_a^{ab}\frac{dt}{t}$
第2の積分で $t = au$ と置換すると $dt = a\,du$、$t: a \to ab$ のとき $u: 1 \to b$ より、
$\displaystyle\int_a^{ab}\frac{dt}{t} = \int_1^b \frac{a\,du}{au} = \int_1^b \frac{du}{u} = \ln b$
したがって $\ln(ab) = \ln a + \ln b$。
微分方程式 $y' = y$、$y(0) = 1$ の解を冪級数 $y = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}a_n x^n$ の形で求めよ。 具体的には、$y' = y$ の両辺の $x^n$ の係数を比較して $a_n$ についての漸化式を導き、$a_0 = 1$ のもとで $a_n$ を求めよ。
$y = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}a_n x^n$ を項別微分すると $y' = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}(n+1)a_{n+1}x^n$ です。
$y' = y$ より、$x^n$ の係数を比較して $(n+1)a_{n+1} = a_n$ が得られます。
漸化式 $a_{n+1} = \dfrac{a_n}{n+1}$ と初期条件 $a_0 = 1$ から、
$a_1 = \dfrac{a_0}{1} = 1$、$a_2 = \dfrac{a_1}{2} = \dfrac{1}{2}$、$a_3 = \dfrac{a_2}{3} = \dfrac{1}{6}$、$\ldots$ 一般に $a_n = \dfrac{1}{n!}$
したがって $y = \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!} = e^x$ です。
この導出は、$e^x$ のテイラー展開を「テイラー展開の公式を知らなくても」微分方程式から直接求められることを示しています。微分方程式 $y' = y$ が、級数としての $e$ の表現を自然に生み出すのです。
放射性同位体の半減期が $T_{1/2} = 8$ 日であるとする。
(1) 崩壊定数 $\lambda$ を求めよ。
(2) 初期量を $N_0$ として、24日後に残っている量 $N(24)$ を $N_0$ を用いて表せ。
(3) 元の量の $10\%$ 以下になるのは何日後か。$\ln 10 \approx 2.303$ を用いてよい。
(1) $T_{1/2} = \dfrac{\ln 2}{\lambda}$ より $\lambda = \dfrac{\ln 2}{8} \approx \dfrac{0.693}{8} \approx 0.0866$ /日
(2) $N(24) = N_0 e^{-\lambda \cdot 24} = N_0 e^{-3\ln 2} = N_0 \cdot 2^{-3} = \dfrac{N_0}{8}$
(3) $N_0 e^{-\lambda t} \leq 0.1 N_0$ より $e^{-\lambda t} \leq 0.1$ すなわち $\lambda t \geq \ln 10$
$t \geq \dfrac{\ln 10}{\lambda} = \dfrac{\ln 10 \cdot 8}{\ln 2} = \dfrac{2.303 \times 8}{0.693} \approx 26.6$ 日
約26.6日後に元の量の10%以下になります。