高校数学では、三角関数と指数関数はまったく別の関数として学びます。三角関数は単位円上の座標として定義され、指数関数は $a^x$ のように「底の累乗」として定義されます。この二つが結びつく場面はありません。
ところが、大学数学ではこれらを冪級数(べききゅうすう)──無限個の項の和──として定義し直すことで、両者が一つの公式で結ばれることがわかります。
それがオイラーの公式 $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$ です。
この公式は、複素数の極形式、三角関数の加法定理、さらにはド・モアブルの定理までを、指数法則 $e^{a} \cdot e^{b} = e^{a+b}$ という一つの性質から導き出します。
この記事では、冪級数による関数の再定義からオイラーの公式を導き、それが高校数学の様々な公式をどう統一するかを見ていきます。
高校数学IIでは、三角関数を単位円上の点の座標として定義します。角 $\theta$ に対して、単位円上の点 $(\cos\theta, \sin\theta)$ を対応させ、そこから加法定理
$$\cos(\alpha + \beta) = \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\sin\beta$$
$$\sin(\alpha + \beta) = \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta$$
を学びます。倍角公式、半角公式、和積変換などはすべてこの加法定理から導かれます。
一方、指数関数は $a^x$($a > 0, a \ne 1$)として定義されます。特に $e^x$ は数学IIIで微分の文脈で登場し、$(e^x)' = e^x$ という「微分しても変わらない」性質が強調されます。指数法則
$$e^{a+b} = e^a \cdot e^b$$
は高校でも当然の法則として使いますが、三角関数の加法定理と指数法則が関係するとは教わりません。
また、数学Cでは複素数平面と極形式を学びます。複素数 $z = a + bi$ を複素数平面上の点 $(a, b)$ に対応させ、$z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$ と書く極形式を導入します。 ド・モアブルの定理
$$(\cos\theta + i\sin\theta)^n = \cos n\theta + i\sin n\theta$$
も学びますが、この定理がなぜ成り立つかは加法定理と数学的帰納法で示され、より深い理由は説明されません。
高校の時点では、三角関数・指数関数・複素数はそれぞれ独立した道具です。しかし、大学数学ではこれらを冪級数という共通の言葉で書き直すことで、一つの公式のもとに統一されます。次のセクションでは、その統一の全体像を見ていきます。
大学数学では、$e^x$、$\cos x$、$\sin x$ をそれぞれ冪級数(無限個の $x^n$ の和)で定義します。冪級数とは
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + a_3 x^3 + \cdots$$
の形の無限級数です。高校数学IIIの「近似式」で $e^x \approx 1 + x + \frac{x^2}{2}$ のような式に触れますが、大学ではこの近似を無限項まで拡張し、等号で結びます。
この冪級数の定義には決定的な利点があります。冪級数は $x$ に複素数を代入しても意味を持つのです。つまり $x = i\theta$($i$ は虚数単位、$\theta$ は実数)を代入できます。これが三角関数と指数関数をつなぐ鍵です。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. $e^x$、$\cos x$、$\sin x$ の冪級数表示を書き下し、具体的な値で近似計算ができる
2. 冪級数に $x = i\theta$ を代入してオイラーの公式 $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$ を導出できる
3. オイラーの公式から加法定理とド・モアブルの定理を、指数法則だけで導ける
4. 複素数の極形式を $re^{i\theta}$ と書き、積・商・冪乗を指数の演算として計算できる
ここからは、まず冪級数の定義を導入し、そのうえでオイラーの公式を導きます。そして、この公式が高校で学んだ様々な公式をいかに統一するかを確かめます。
大学数学では、何度でも微分できる関数 $f(x)$ を、$x = 0$ のまわりで
$$f(x) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(0)}{n!} x^n = f(0) + f'(0)x + \frac{f''(0)}{2!}x^2 + \frac{f'''(0)}{3!}x^3 + \cdots$$
と表すことを考えます。これを $x = 0$ まわりのテイラー展開(マクローリン展開)と呼びます。 ここで $f^{(n)}(0)$ は $f$ の $n$ 階導関数を $x = 0$ で評価した値、$n! = 1 \cdot 2 \cdot 3 \cdots n$ は階乗です($0! = 1$ と約束します)。
テイラー展開の詳しい理論(収束条件や剰余項など)は M-7-2 平均値の定理とテイラー展開 で扱っています。ここでは、$e^x$、$\cos x$、$\sin x$ のテイラー展開を具体的に求め、それらの冪級数がすべての実数 $x$ で収束するという事実を使います。
指数関数 $e^x$ は何回微分しても $e^x$ のままです。したがって $f^{(n)}(0) = e^0 = 1$(すべての $n$ で)なので、
$$e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!} = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots$$
この級数はすべての実数 $x$(さらにすべての複素数 $z$)に対して収束します。右辺の各項は $x$ の冪を階乗で割った単純な構造で、$n$ が大きくなると $n!$ の増加が $x^n$ の増加を圧倒するため、級数は必ず収束します。
具体的に確かめてみます。$x = 1$ を代入すると、
$$e^1 = 1 + 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{6} + \frac{1}{24} + \frac{1}{120} + \cdots = 2.71828\ldots$$
これは $e$ の値として知られている数に一致します。最初の6項だけで $1 + 1 + 0.5 + 0.1\overline{6} + 0.041\overline{6} + 0.008\overline{3} = 2.7180\ldots$ となり、すでに小数第3位まで正確です。
三角関数のテイラー展開も導関数から求まります。
$\cos x$ の導関数は順に $-\sin x, -\cos x, \sin x, \cos x, -\sin x, \ldots$ と4つ周期で繰り返します。$x = 0$ での値は $1, 0, -1, 0, 1, 0, -1, 0, \ldots$ です。偶数次の項だけが生き残り、符号が交互に変わります。
$$\cos x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n)!} x^{2n} = 1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \frac{x^6}{6!} + \cdots$$
$$\sin x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n}{(2n+1)!} x^{2n+1} = x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \frac{x^7}{7!} + \cdots$$
$\cos x$ は偶数次の項のみ(偶関数)、$\sin x$ は奇数次の項のみ(奇関数)で構成されています。符号が交互に変わる($(-1)^n$)のが特徴で、これが三角関数の振動的な性質を生み出します。
$\sin x$ についても確認します。$\sin x$ の導関数は $\cos x, -\sin x, -\cos x, \sin x, \ldots$ であり、$x = 0$ での値は $0, 1, 0, -1, 0, 1, 0, -1, \ldots$ です。奇数次の項だけが残ります。
具体例として $x = \frac{\pi}{6}$($= 0.5236\ldots$)で $\sin x$ を計算してみます。
$$\sin\frac{\pi}{6} \approx \frac{\pi}{6} - \frac{1}{3!}\left(\frac{\pi}{6}\right)^3 + \frac{1}{5!}\left(\frac{\pi}{6}\right)^5 = 0.5236 - 0.0239 + 0.0003 = 0.5000\ldots$$
わずか3項で $\sin\frac{\pi}{6} = 0.5$ をほぼ正確に再現できます。
ここまでで得られた三つの冪級数を並べてみます。
| 関数 | 冪級数 | 項の特徴 |
|---|---|---|
| $e^x$ | $1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots$ | すべての次数、符号はすべて $+$ |
| $\cos x$ | $1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \cdots$ | 偶数次のみ、符号が交互 |
| $\sin x$ | $x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \cdots$ | 奇数次のみ、符号が交互 |
$e^x$ の展開にはすべての次数の項が正の符号で含まれています。一方、$\cos x$ と $\sin x$ の展開は $e^x$ の展開の「偶数次パート」と「奇数次パート」に似ていますが、符号が交互に変わっています。もし $e^x$ の展開で符号を交互に変える仕組みがあれば、$\cos x$ と $\sin x$ が現れるのではないか ── この直感が次のセクションの出発点です。
前のセクションで、$e^x$ の冪級数は符号がすべて正であるのに対し、$\cos x$ と $\sin x$ は符号が交互に変わることを確認しました。ここで鍵となるのは、虚数単位 $i$ の冪です。
$i^2 = -1$ であることは高校数学IIで学びます。$i$ を繰り返しかけると、
$$i^0 = 1, \quad i^1 = i, \quad i^2 = -1, \quad i^3 = -i, \quad i^4 = 1, \quad i^5 = i, \quad \ldots$$
と4つ周期で $1, i, -1, -i$ が繰り返されます。偶数乗では $i^{2n} = (-1)^n$ となり、$1, -1, 1, -1, \ldots$ と符号の交替が生まれます。奇数乗では $i^{2n+1} = (-1)^n \cdot i$ となります。
つまり、$e^x$ の冪級数で $x$ を $i\theta$ に置き換えると、$i$ の冪乗が自動的に符号の交替を生み出し、$\cos$ と $\sin$ の冪級数が現れるはずです。実際にやってみます。
$e^x$ の冪級数に $x = i\theta$ を代入します。
$$e^{i\theta} = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{(i\theta)^n}{n!} = 1 + i\theta + \frac{(i\theta)^2}{2!} + \frac{(i\theta)^3}{3!} + \frac{(i\theta)^4}{4!} + \frac{(i\theta)^5}{5!} + \cdots$$
各項の $(i\theta)^n = i^n \theta^n$ を計算すると、
$$e^{i\theta} = 1 + i\theta + \frac{i^2 \theta^2}{2!} + \frac{i^3 \theta^3}{3!} + \frac{i^4 \theta^4}{4!} + \frac{i^5 \theta^5}{5!} + \cdots$$
$i^2 = -1$、$i^3 = -i$、$i^4 = 1$、$i^5 = i$ を代入すると、
$$e^{i\theta} = 1 + i\theta - \frac{\theta^2}{2!} - \frac{i\theta^3}{3!} + \frac{\theta^4}{4!} + \frac{i\theta^5}{5!} - \cdots$$
これを実部($i$ がつかない項)と虚部($i$ がつく項)に分けます。
$$e^{i\theta} = \underbrace{\left(1 - \frac{\theta^2}{2!} + \frac{\theta^4}{4!} - \cdots\right)}_{\cos\theta} + i\underbrace{\left(\theta - \frac{\theta^3}{3!} + \frac{\theta^5}{5!} - \cdots\right)}_{\sin\theta}$$
実部はまさに $\cos\theta$ の冪級数であり、虚部はまさに $\sin\theta$ の冪級数です。
$$e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$$
すべての実数 $\theta$ に対して成り立ちます。左辺は「指数関数に純虚数 $i\theta$ を代入したもの」、右辺は「複素数平面上で偏角 $\theta$、絶対値 $1$ の点」です。この公式は、指数関数と三角関数が冪級数のレベルで一つにつながっていることを示しています。
示したいこと: $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$
方針: $e^x$ の冪級数に $x = i\theta$ を代入し、実部と虚部を $\cos\theta$、$\sin\theta$ の冪級数と同定する。
ステップ1. $e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{x^n}{n!}$ に $x = i\theta$ を代入する。冪級数は複素数を代入しても収束するため、この操作は正当です。
ステップ2. $(i\theta)^n = i^n \theta^n$ を計算する。$i^n$ は $n$ を4で割った余りで $1, i, -1, -i$ と周期的に変わるため、偶数次の項は実数、奇数次の項は純虚数になります。
ステップ3. 実部を集めると $\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n \theta^{2n}}{(2n)!} = \cos\theta$ であり、虚部を集めると $\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(-1)^n \theta^{2n+1}}{(2n+1)!} = \sin\theta$ です。$\blacksquare$
特別な値を代入してみます。$\theta = \pi$ を入れると、$\cos\pi = -1$、$\sin\pi = 0$ なので、
$$e^{i\pi} = -1$$
すなわち $e^{i\pi} + 1 = 0$ が得られます。これはオイラーの等式と呼ばれ、数学の基本的な定数 $e$、$i$、$\pi$、$1$、$0$ が一つの式で結ばれています。
誤解:$e^{i\theta}$ を「$e$ という数を $i\theta$ 回かける」と解釈しようとすると、意味がわからなくなります。「$i$ 回かける」とは何でしょうか。
正しい理解:$e^z$ は冪級数 $\sum_{n=0}^{\infty} \frac{z^n}{n!}$ として定義されます。$z$ が実数のときは高校で学ぶ指数関数 $e^x$ と一致し、$z$ が複素数のときはこの冪級数が指数関数の定義です。「累乗」の延長ではなく、冪級数による新しい定義だと理解してください。
オイラーの公式が得られました。次のセクションでは、この一つの公式から、高校で学んだ複数の公式がすべて導かれることを確認します。
オイラーの公式 $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$ を使うと、高校で別々に学んだ公式が指数法則 $e^{a} \cdot e^{b} = e^{a+b}$ から一気に導けます。ここでは三つの帰結を見ていきます。
高校数学Cでは、絶対値 $r$、偏角 $\theta$ の複素数を $z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$ と書きました。オイラーの公式を使えば、これは
$$z = re^{i\theta}$$
とはるかに簡潔に書けます。$r$ は絶対値 $|z|$、$\theta$ は偏角 $\arg z$ です。例えば $z = 1 + i$ は $|z| = \sqrt{2}$、$\arg z = \frac{\pi}{4}$ なので、
$$1 + i = \sqrt{2} \, e^{i\pi/4}$$
です。この指数表示の最大の利点は、複素数の積・商・冪乗が指数の足し算・引き算・かけ算になることです。
$z_1 = r_1 e^{i\theta_1}$、$z_2 = r_2 e^{i\theta_2}$ のとき、
$$z_1 z_2 = r_1 r_2 \, e^{i(\theta_1 + \theta_2)}$$
これは指数法則 $e^{i\theta_1} \cdot e^{i\theta_2} = e^{i(\theta_1 + \theta_2)}$ そのものです。「複素数の積では絶対値がかけ合わされ、偏角が足される」という高校で学んだ事実が、指数法則の直接の帰結として理解できます。
指数法則 $e^{i\alpha} \cdot e^{i\beta} = e^{i(\alpha + \beta)}$ をオイラーの公式で書き下します。
左辺:
$$e^{i\alpha} \cdot e^{i\beta} = (\cos\alpha + i\sin\alpha)(\cos\beta + i\sin\beta)$$
この積を展開します($i^2 = -1$ を使います)。
$$= (\cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\sin\beta) + i(\sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta)$$
右辺:
$$e^{i(\alpha + \beta)} = \cos(\alpha + \beta) + i\sin(\alpha + \beta)$$
左辺と右辺の実部同士・虚部同士を比較すると、
出発点: $e^{i\alpha} \cdot e^{i\beta} = e^{i(\alpha+\beta)}$(指数法則)
左辺を展開: $(\cos\alpha + i\sin\alpha)(\cos\beta + i\sin\beta)$
$= \cos\alpha\cos\beta + i\cos\alpha\sin\beta + i\sin\alpha\cos\beta + i^2\sin\alpha\sin\beta$
$= (\cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\sin\beta) + i(\sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta)$
右辺をオイラーの公式で書く: $\cos(\alpha+\beta) + i\sin(\alpha+\beta)$
実部を比較: $\cos(\alpha+\beta) = \cos\alpha\cos\beta - \sin\alpha\sin\beta$
虚部を比較: $\sin(\alpha+\beta) = \sin\alpha\cos\beta + \cos\alpha\sin\beta$ $\quad\blacksquare$
高校では単位円上の2点の距離公式などを使って加法定理を証明しましたが、ここでは指数法則から複素数の実部と虚部を読み取るだけで、$\cos$ と $\sin$ の加法定理が同時に得られます。
高校数学Cで学んだド・モアブルの定理も、指数法則の直接の帰結です。
オイラーの公式で $\cos\theta + i\sin\theta = e^{i\theta}$ ですから、
$$(\cos\theta + i\sin\theta)^n = (e^{i\theta})^n = e^{in\theta} = \cos n\theta + i\sin n\theta$$
高校では数学的帰納法で証明しましたが、大学の視点ではこれは $(e^{i\theta})^n = e^{in\theta}$ という指数法則の一例にすぎません。さらに、$n$ が負の整数や分数であっても同じ法則が適用できるため、高校で扱いきれなかったケースも自然にカバーされます。
オイラーの公式のもとでは、高校で別々に学んだ三つの事実がすべて指数法則 $e^{a+b} = e^a \cdot e^b$ の帰結です。
極形式の積:$r_1 e^{i\theta_1} \cdot r_2 e^{i\theta_2} = r_1 r_2 \, e^{i(\theta_1+\theta_2)}$ ── 偏角が足される
加法定理:$e^{i(\alpha+\beta)}$ の実部・虚部を読むだけ ── 幾何的証明が不要になる
ド・モアブルの定理:$(e^{i\theta})^n = e^{in\theta}$ ── 帰納法が不要になる
オイラーの公式 $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$ において、$\theta$ を $-\theta$ に置き換えると $e^{-i\theta} = \cos\theta - i\sin\theta$ が得られます($\cos$ は偶関数、$\sin$ は奇関数であることを使いました)。この二つの式を足したり引いたりすると、三角関数を指数関数で表す公式が得られます。
$$\cos\theta = \frac{e^{i\theta} + e^{-i\theta}}{2}, \qquad \sin\theta = \frac{e^{i\theta} - e^{-i\theta}}{2i}$$
これらの公式は、三角関数の積を和に直す公式(積和変換)を導くときに便利です。例えば $\cos\alpha \cos\beta$ を求めるには、上の式を使って $\frac{1}{4}(e^{i\alpha}+e^{-i\alpha})(e^{i\beta}+e^{-i\beta})$ と書き、展開してからオイラーの公式で三角関数に戻します。すると $\cos\alpha\cos\beta = \frac{1}{2}(\cos(\alpha-\beta) + \cos(\alpha+\beta))$ が得られます。
ここまでで、オイラーの公式が高校数学の複数の結果を統一的に説明することを見ました。次のセクションでは、この公式を具体的な計算に応用します。
$1 + i$ を極形式(指数表示)に変換します。
絶対値:$|1+i| = \sqrt{1^2 + 1^2} = \sqrt{2}$
偏角:$\arg(1+i) = \frac{\pi}{4}$
よって $1 + i = \sqrt{2} \, e^{i\pi/4}$ です。指数法則を使うと、
$$\begin{aligned}(1+i)^{10} &= (\sqrt{2})^{10} \cdot e^{i \cdot 10\pi/4} \\ &= 2^5 \cdot e^{i \cdot 5\pi/2} \\ &= 32 \cdot e^{i \cdot \pi/2} \\ &= 32(\cos\tfrac{\pi}{2} + i\sin\tfrac{\pi}{2}) \\ &= 32(0 + i) = 32i\end{aligned}$$
途中で $e^{i \cdot 5\pi/2} = e^{i(2\pi + \pi/2)} = e^{i\pi/2}$ と簡略化しました($e^{2\pi i} = 1$ なので、偏角は $2\pi$ ごとに同じ複素数を表します)。
高校では $(1+i)^{10}$ を二項定理で展開して $\binom{10}{k} i^k$ を全部足すか、ド・モアブルの定理を使いますが、指数表示ならば指数の計算だけで答えが出ます。
指数法則 $e^{a+b} = e^a \cdot e^b$ を使って実部と虚部に分けます。
$$e^{1+i\pi/3} = e^1 \cdot e^{i\pi/3} = e\left(\cos\frac{\pi}{3} + i\sin\frac{\pi}{3}\right) = e\left(\frac{1}{2} + i\frac{\sqrt{3}}{2}\right) = \frac{e}{2} + i\frac{e\sqrt{3}}{2}$$
これは、複素指数関数では「実部が絶対値のスケール、虚部が回転角」を担うということを示しています。$e^{x+iy}$ の絶対値は $e^x$、偏角は $y$ です。
$75{}^{\circ} = 45{}^{\circ} + 30{}^{\circ}$ なので、オイラーの公式による加法定理から、
$$e^{i \cdot 75{}^{\circ}} = e^{i \cdot 45{}^{\circ}} \cdot e^{i \cdot 30{}^{\circ}}$$
右辺を計算します(角度はラジアンに直さず、値だけ使います)。
$$= \left(\frac{\sqrt{2}}{2} + i\frac{\sqrt{2}}{2}\right)\left(\frac{\sqrt{3}}{2} + i\frac{1}{2}\right)$$
実部を取り出すと、
$$\cos 75{}^{\circ} = \frac{\sqrt{2}}{2} \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} - \frac{\sqrt{2}}{2} \cdot \frac{1}{2} = \frac{\sqrt{6} - \sqrt{2}}{4}$$
高校でも同じ計算をしますが、ここでは「$e^{i\alpha} \cdot e^{i\beta}$ の実部を読む」という統一的な手順の一例として加法定理が使われていることがポイントです。
$z^n = 1$ を満たす複素数 $z$ をすべて求めます。$1 = e^{i \cdot 2k\pi}$($k$ は整数)なので、
$$z = e^{i \cdot 2k\pi / n}, \quad k = 0, 1, 2, \ldots, n-1$$
例えば $n = 3$ のとき、$z^3 = 1$ の解は
$$z_0 = e^{i \cdot 0} = 1, \quad z_1 = e^{i \cdot 2\pi/3} = -\frac{1}{2} + i\frac{\sqrt{3}}{2}, \quad z_2 = e^{i \cdot 4\pi/3} = -\frac{1}{2} - i\frac{\sqrt{3}}{2}$$
これらは複素数平面上の単位円に内接する正三角形の頂点です。$e^{i\theta}$ が「単位円上の角度 $\theta$ の点」を表すことから、$n$ 乗根が正 $n$ 角形の頂点になることが一目でわかります。高校では因数分解で $z^3 - 1 = (z-1)(z^2+z+1) = 0$ を解きますが、指数表示では答えの形が最初から見えています。
Q1. $e^x$ の冪級数を $x = i\theta$ に代入したとき、虚数単位 $i$ の冪乗はどのような役割を果たしますか。
Q2. オイラーの公式を使って、$e^{i\pi/2}$ の値を求めてください。
Q3. 指数法則 $e^{i\alpha} \cdot e^{i\beta} = e^{i(\alpha+\beta)}$ から加法定理を導く手順を説明してください。
Q4. 「$e^{i\theta}$ は $e$ を $i\theta$ 回かけたもの」という説明が不適切な理由を述べてください。
次の複素数を $a + bi$ の形に変換してください。
(1) $e^{i\pi/6}$ (2) $e^{i\pi}$ (3) $e^{-i\pi/4}$
(1) $e^{i\pi/6} = \cos\frac{\pi}{6} + i\sin\frac{\pi}{6} = \frac{\sqrt{3}}{2} + \frac{1}{2}i$
(2) $e^{i\pi} = \cos\pi + i\sin\pi = -1$
(3) $e^{-i\pi/4} = \cos\left(-\frac{\pi}{4}\right) + i\sin\left(-\frac{\pi}{4}\right) = \frac{\sqrt{2}}{2} - \frac{\sqrt{2}}{2}i$
$e^x$、$\cos x$、$\sin x$ の冪級数をそれぞれ第5項($x^4$ の項)まで書いてください。また、$e^x$ の冪級数で偶数次の項だけを取り出した級数と $\cos x$ の冪級数を比較し、違いがどこにあるか説明してください。
$e^x = 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots$
$\cos x = 1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \cdots$
$\sin x = x - \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} - \cdots$
$e^x$ の偶数次の項は $1 + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots$ です。$\cos x$ の冪級数 $1 - \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} - \cdots$ と比べると、各項の絶対値は同じですが、$\cos x$ では第2項以降の符号が交互に $+, -, +, -$ と変わっている点が異なります。この符号の交替が、$e^x$ に $x = i\theta$ を代入したときに $i^{2n} = (-1)^n$ から生まれます。
$(1 - i)^8$ を、指数表示を用いて計算してください。
$1 - i$ の絶対値は $|1-i| = \sqrt{2}$、偏角は $\arg(1-i) = -\frac{\pi}{4}$ です。
よって $1 - i = \sqrt{2} \, e^{-i\pi/4}$ です。
$$\begin{aligned}(1-i)^8 &= (\sqrt{2})^8 \cdot e^{-i \cdot 8\pi/4} \\ &= 2^4 \cdot e^{-2\pi i} \\ &= 16 \cdot 1 = 16\end{aligned}$$
$e^{-2\pi i} = \cos(-2\pi) + i\sin(-2\pi) = 1$ なので、答えは $16$ です。
オイラーの公式から $\cos\theta = \frac{e^{i\theta} + e^{-i\theta}}{2}$ を導いてください。さらに、この公式を使って $\cos^2\theta = \frac{1 + \cos 2\theta}{2}$(半角公式)を導いてください。
オイラーの公式より $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$、$e^{-i\theta} = \cos\theta - i\sin\theta$ です。辺々加えると、
$$e^{i\theta} + e^{-i\theta} = 2\cos\theta$$
よって $\cos\theta = \frac{e^{i\theta} + e^{-i\theta}}{2}$ が得られます。
これを2乗すると、
$$\cos^2\theta = \left(\frac{e^{i\theta} + e^{-i\theta}}{2}\right)^2 = \frac{e^{2i\theta} + 2 + e^{-2i\theta}}{4} = \frac{2 + (e^{2i\theta} + e^{-2i\theta})}{4}$$
$e^{2i\theta} + e^{-2i\theta} = 2\cos 2\theta$ なので、
$$\cos^2\theta = \frac{2 + 2\cos 2\theta}{4} = \frac{1 + \cos 2\theta}{2}$$
$z^4 = -1$ の4つの解をすべて指数表示と $a + bi$ の形で求めてください。また、それらが複素数平面上でどのような図形の頂点をなすか説明してください。
$-1 = e^{i(\pi + 2k\pi)}$($k$ は整数)と書けるので、$z^4 = e^{i(\pi + 2k\pi)}$ の解は
$$z = e^{i(\pi + 2k\pi)/4} = e^{i(2k+1)\pi/4}, \quad k = 0, 1, 2, 3$$
各 $k$ に対して、
$k = 0$:$z_0 = e^{i\pi/4} = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$
$k = 1$:$z_1 = e^{i \cdot 3\pi/4} = -\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$
$k = 2$:$z_2 = e^{i \cdot 5\pi/4} = -\frac{\sqrt{2}}{2} - \frac{\sqrt{2}}{2}i$
$k = 3$:$z_3 = e^{i \cdot 7\pi/4} = \frac{\sqrt{2}}{2} - \frac{\sqrt{2}}{2}i$
4つの解はすべて絶対値 $1$ で、偏角が $\frac{\pi}{4}, \frac{3\pi}{4}, \frac{5\pi}{4}, \frac{7\pi}{4}$ です。隣り合う解の偏角の差は $\frac{\pi}{2}$($90{}^{\circ}$)であり、これらは単位円に内接する正方形の頂点をなします。この正方形は実軸・虚軸に対して $45{}^{\circ}$ 傾いています。一般に $z^n = w$ の $n$ 個の解は、複素数平面上で正 $n$ 角形の頂点に並びます。