第7章 微分法

微分の厳密化
─ 微分可能と連続の微妙な関係

高校では微分可能な関数(多項式、三角関数、指数関数など)ばかりを扱うため、「連続な関数は微分できる」と感じがちです。 しかし大学数学では、連続だが微分できない関数が豊富に存在することが明らかになります。 身近な例として $f(x) = |x|$ は $x = 0$ で連続ですが微分できません。 さらに極端な例として、至る所連続だが至る所微分不可能な関数(ワイエルシュトラス関数)すら構成できます。

この記事では、微分可能性の厳密な定義から出発し、「微分可能ならば連続だが、逆は偽である」という事実を具体例と証明の両面から理解します。 そして、滑らかさの度合いを表す $C^0 \supset C^1 \supset C^2 \supset \cdots$ という階層構造にたどり着き、微分可能性が連続性よりどれだけ厳しい条件であるかを把握します。

1高校での扱い ─ 導関数の定義と滑らかなグラフ

高校の数学IIでは、多項式関数に対して微分係数導関数を次のように定義します。

関数 $f(x)$ の $x = a$ における微分係数 $f'(a)$ は、

$$f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h) - f(a)}{h}$$

で定義されます。これは、曲線 $y = f(x)$ 上の点 $(a, f(a))$ における接線の傾きを表します。

数学IIIに進むと、対象が三角関数・指数関数・対数関数・合成関数にまで広がり、さまざまな微分の公式を学びます。たとえば、

  • $(\sin x)' = \cos x$
  • $(e^x)' = e^x$
  • 積の微分:$(fg)' = f'g + fg'$
  • 合成関数の微分:$\{f(g(x))\}' = f'(g(x)) \cdot g'(x)$

高校で扱う関数はすべて、定義域のほぼ全体で微分できるものばかりです。 グラフを描くと滑らかな曲線になり、どの点でも接線を引くことができます。 そのため、「連続な関数は微分できるもの」という印象を持つのは自然なことです。

しかし、この印象は正しいのでしょうか。次のセクションでは、大学数学の視点からこの問いに正面から向き合います。

2大学の視点 ─ 微分可能と連続は別の概念である

結論を先に述べます。微分可能ならば連続ですが、連続だからといって微分可能とは限りません。 つまり、「微分可能 $\Rightarrow$ 連続」は真ですが、「連続 $\Rightarrow$ 微分可能」は偽です。

高校 vs 大学:微分可能性の扱い
高校
扱う関数はほぼすべて微分可能。連続と微分可能の区別を意識する場面がない
大学
連続だが微分不可能な関数が豊富に存在する。微分可能性は連続性より厳しい条件であることを証明する
高校
微分係数は「接線の傾き」として幾何的に理解する
大学
微分係数は「極限値の存在」として厳密に定義する。左微分係数と右微分係数の一致を要求する
高校
滑らかさの度合いを区別しない
大学
$C^0$(連続)、$C^1$(1回微分可能で導関数が連続)、$C^2$、... と滑らかさを階層化する
微分可能性は連続性より厳しい条件

この記事を通じて、以下のことが理解できます。

  • 微分可能性の厳密な定義を述べ、「左微分係数と右微分係数の一致」が鍵であることを把握する
  • 「微分可能 $\Rightarrow$ 連続」を証明し、逆が成り立たない具体例($f(x) = |x|$ など)を示す
  • ワイエルシュトラス関数という「至る所連続だが至る所微分不可能な関数」の存在を知る
  • 滑らかさの階層 $C^0 \supset C^1 \supset C^2 \supset \cdots$ を理解し、微分可能性を段階的に捉える

では、「微分可能」とは何かを厳密に定義するところから始めます。

3微分可能性の厳密な定義 ─ 左微分係数と右微分係数

微分可能の定義

なぜ厳密な定義が必要なのでしょうか。高校で扱う関数では「接線が引ける」ことが自明でしたが、大学では「接線が引けない」関数も考えます。 そのとき、「微分できる」「微分できない」を客観的に判定する基準が必要になります。 その基準を与えるのが、次の定義です。

微分可能の定義

関数 $f(x)$ が $x = a$ で微分可能であるとは、次の極限が有限な値として存在することです。

$$f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h) - f(a)}{h}$$

ここで「$h \to 0$ の極限が存在する」とは、$h$ が正の側から $0$ に近づいたときの極限と、負の側から $0$ に近づいたときの極限が一致することを意味します。

この定義のポイントは、$h \to 0$ の極限が両側から一致して存在しなければならない、ということです。この点を明確にするために、左右それぞれの極限に名前をつけます。

左微分係数と右微分係数

左微分係数と右微分係数

右微分係数($h$ を正の側から $0$ に近づける):

$$f'_+(a) = \lim_{h \to +0} \frac{f(a+h) - f(a)}{h}$$

左微分係数($h$ を負の側から $0$ に近づける):

$$f'_-(a) = \lim_{h \to -0} \frac{f(a+h) - f(a)}{h}$$

$f(x)$ が $x = a$ で微分可能であるための必要十分条件は、$f'_+(a)$ と $f'_-(a)$ がともに有限な値として存在し、かつ $f'_+(a) = f'_-(a)$ が成り立つことです。

直感的には、右微分係数は「右側から接線を引いたときの傾き」、左微分係数は「左側から接線を引いたときの傾き」です。 微分可能であるためには、この二つの傾きが一致して、一本の接線に定まらなければなりません。

微分可能ならば連続 ─ 証明

ここで定義を使って、セクション2で述べた「微分可能 $\Rightarrow$ 連続」を証明します。 この事実は直感的には明らかに思えますが、定義から論理的に導くことで、微分可能性の定義が連続性を「含んでいる」ことがはっきりします。

証明:微分可能ならば連続

示すこと:$f(x)$ が $x = a$ で微分可能ならば、$f(x)$ は $x = a$ で連続である。 つまり $\displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = f(a)$ を示します。

証明の方針:$f(x) - f(a)$ を、微分係数の定義に現れる差分商と $(x - a)$ の積に分解し、$x \to a$ で $0$ に収束することを示します。

$x \neq a$ のとき、恒等的に次が成り立ちます。

$$f(x) - f(a) = \frac{f(x) - f(a)}{x - a} \cdot (x - a)$$

右辺は単に分母と $(x-a)$ を掛けただけなので、これは常に成り立つ等式です。

ここで $x \to a$ の極限をとります。$f(x)$ は $x = a$ で微分可能なので、

$$\lim_{x \to a} \frac{f(x) - f(a)}{x - a} = f'(a)$$

が有限の値として存在します。また、

$$\lim_{x \to a} (x - a) = 0$$

です。極限の積の法則(有限な極限値どうしの積は、極限値の積に等しい)により、

$$\lim_{x \to a} [f(x) - f(a)] = f'(a) \cdot 0 = 0$$

したがって $\displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = f(a)$ が成り立ち、$f(x)$ は $x = a$ で連続です。 $\square$

この証明の核心は、差分商 $\dfrac{f(x)-f(a)}{x-a}$ が有限の極限値を持つ(=微分可能)ことと、$(x-a) \to 0$ を掛け合わせると $f(x) - f(a) \to 0$(=連続)が導かれる、という構造です。 微分可能性の定義の中に、連続性が自然に組み込まれていることが見えます。

では、逆は成り立つのでしょうか。次のセクションで、連続だが微分不可能な具体例を見ていきます。

4連続だが微分不可能な例 ─ 尖点と折れ点

$f(x) = |x|$ の場合

最も身近な例は、絶対値関数 $f(x) = |x|$ です。この関数が $x = 0$ で連続だが微分不可能であることを、セクション3で導入した左微分係数と右微分係数を使って確認します。

まず、$f(x) = |x|$ は $x = 0$ で連続です。$\displaystyle\lim_{x \to 0} |x| = 0 = f(0)$ だからです。

次に、右微分係数を計算します。$h > 0$ のとき $|h| = h$ なので、

$$f'_+(0) = \lim_{h \to +0} \frac{|0+h| - |0|}{h} = \lim_{h \to +0} \frac{h}{h} = 1$$

左微分係数を計算します。$h < 0$ のとき $|h| = -h$ なので、

$$f'_-(0) = \lim_{h \to -0} \frac{|0+h| - |0|}{h} = \lim_{h \to -0} \frac{-h}{h} = -1$$

$f'_+(0) = 1$ と $f'_-(0) = -1$ は一致しないので、$f(x) = |x|$ は $x = 0$ で微分不可能です。

グラフで考えると、$y = |x|$ は $x = 0$ でV字型に折れ曲がっています。 右側からの傾きは $+1$、左側からの傾きは $-1$ であり、一本の接線を定めることができません。 このように、グラフが折れ曲がっている点を折れ点(角点)と呼びます。

落とし穴:「グラフがつながっていれば微分できる」は誤り

誤:グラフが途切れていない(連続な)関数は、どこでも接線が引けるはずだ

正:グラフがつながっていること(連続性)と、そこに一本の接線が定まること(微分可能性)は別の条件です。$f(x) = |x|$ のように、つながっているが折れ曲がっている点では接線が定まりません

もう一つの例:$f(x) = x^{1/3}$

折れ点とは異なるタイプの微分不可能点も存在します。$f(x) = x^{1/3}$($x$ の3乗根)を考えます。

この関数は $x = 0$ で連続です($\displaystyle\lim_{x \to 0} x^{1/3} = 0 = f(0)$)。微分係数の極限を計算すると、

$$\lim_{h \to 0} \frac{(0+h)^{1/3} - 0}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{h^{1/3}}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{1}{h^{2/3}} = +\infty$$

極限が $+\infty$ に発散するので、微分係数は有限の値として存在しません。したがって $f(x) = x^{1/3}$ は $x = 0$ で微分不可能です。

この場合、グラフは折れ曲がっているのではなく、$x = 0$ で接線が垂直(傾き無限大)になっています。このような点を尖点(カスプ)と呼びます。

微分不可能点の分類

ここまでの例をまとめると、連続だが微分不可能な点には主に次の2つのタイプがあります。

タイプ 特徴
折れ点(角点) 左微分係数と右微分係数がともに有限だが、一致しない $|x|$ の $x = 0$
尖点(カスプ) 差分商の極限が $\pm\infty$ に発散する(接線が垂直になる) $x^{1/3}$ の $x = 0$

いずれのタイプでも、「連続だが微分不可能」という事態が起きています。 しかし、これらはグラフの中で「1点だけ」特殊な場所がある例にすぎません。 微分不可能な点が1つや2つではなく、すべての点で微分不可能ということがありえるのでしょうか。次のセクションでは、この驚くべき問いに答えます。

5ワイエルシュトラス関数 ─ 至る所微分不可能な連続関数

歴史的背景

19世紀の数学者たちの多くは、「連続関数は、例外的な点を除けば微分可能だろう」と考えていました。 セクション4で見た $|x|$ のような例はあっても、それは1点だけの例外にすぎないと思われていたのです。

この直感を完全に覆したのが、1872年にカール・ワイエルシュトラスが発表した関数です。 彼は、すべての実数 $x$ で連続だが、どの点でも微分不可能な関数を具体的に構成して見せました。

ワイエルシュトラス関数の構成

ワイエルシュトラス関数

$0 < a < 1$、$b$ を奇数で $ab > 1 + \dfrac{3}{2}\pi$ を満たすものとします。このとき、

$$W(x) = \sum_{n=0}^{\infty} a^n \cos(b^n \pi x)$$

は、すべての実数 $x$ で連続ですが、どの点 $x$ でも微分不可能です。

たとえば $a = 1/2$、$b = 13$ とすると条件を満たします。

この式は、振幅が $a^n$ で減少し周波数が $b^n$ で増大するコサイン波を無限に足し合わせたものです。 なぜこの関数が「至る所連続だが至る所微分不可能」になるのか、その仕組みを見ていきます。

なぜ連続なのか

各項 $a^n \cos(b^n \pi x)$ は連続関数です。また、$|\cos(b^n \pi x)| \leq 1$ なので、各項の絶対値は $a^n$ 以下です。 $0 < a < 1$ より、$\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} a^n = \frac{1}{1-a}$ は収束します。

関数列の各項の絶対値が収束する級数で抑えられるとき、これをワイエルシュトラスの優級数判定法と呼びます。 この判定法により、級数 $W(x)$ は一様収束することが保証されます。 一様収束する連続関数の級数は連続関数になる(連続性が保たれる)という定理があるため、$W(x)$ は至る所連続です。

一様収束と各点収束の違い

関数列 $f_n(x)$ の級数が各点収束するとは、各 $x$ を固定したとき有限の値に収束することです。 一方、一様収束とは、収束の速さが $x$ によらず一様に抑えられることを指します。 各点収束だけでは連続性が保たれない場合がありますが、一様収束ならば連続性が保たれます。 ワイエルシュトラスの優級数判定法は一様収束を保証する便利な十分条件です。

なぜ至る所微分不可能なのか

直感的な説明をします。$W(x)$ は、低周波のコサイン波に、より高周波のコサイン波を次々と足し合わせたものです。

微分係数を調べるには、差分商 $\dfrac{W(x+h) - W(x)}{h}$ の $h \to 0$ の極限を考えます。 $h$ を小さくしていくと、低い周波数の成分($b^n$ が小さいもの)は滑らかに変化するため差分商は安定します。 しかし、周波数 $b^n$ の成分に着目すると、$h$ を $b^{-n}$ 程度まで小さくしたとき、この成分のコサインの変動が差分商に大きな影響を与えます。

条件 $ab > 1 + \dfrac{3}{2}\pi$ が効いてくるのはここです。この条件は「周波数の増大速度 $b$ が、振幅の減衰速度 $1/a$ に比べて十分速い」ことを意味します。 つまり、$n$ 番目の項の振幅は $a^n$ で小さくなりますが、その振動の激しさ(微分したときの寄与)は $a^n \cdot b^n = (ab)^n$ のオーダーで、$ab > 1$ なので $n \to \infty$ で発散します。

その結果、どの点 $x$ でも、$h$ を小さくするたびに差分商が激しく振動し、極限値が定まりません。 これが「至る所微分不可能」になる仕組みです。

振幅の減衰と振動の激化の競争

ワイエルシュトラス関数では、$n$ が大きくなるにつれて振幅は $a^n \to 0$ と減衰する一方、振動の周波数は $b^n \to \infty$ と増大します。 関数の値としては各項が小さくなるので級数は収束し、連続性が保たれます。 しかし微分(傾きの変化)に着目すると、各項の寄与は $(ab)^n$ のオーダーで増大し、差分商が発散します。 「連続になれるが微分できない」という現象は、振幅と振動の増大速度の競争の結果です。

具体的な数値例

$a = 1/2$、$b = 13$ の場合を考えます。$ab = 13/2 = 6.5$ であり、$1 + \dfrac{3}{2}\pi \approx 5.71$ を満たしています。

$W(x)$ の最初の数項を $x = 0$ で計算してみます。

$$W(0) = \sum_{n=0}^{\infty} \left(\frac{1}{2}\right)^n \cos(0) = \sum_{n=0}^{\infty} \left(\frac{1}{2}\right)^n = \frac{1}{1 - 1/2} = 2$$

$x = 0$ では各項の $\cos$ がすべて $1$ なので、等比級数になります。 関数値は問題なく計算できます。しかし、$x = 0$ のごく近くの値 $x = 0.001$ を代入すると、高い周波数の項(たとえば $n = 5$ では $b^5 = 13^5 = 371293$ で、$\cos(371293 \times 0.001\pi) = \cos(371.293\pi)$ と高速で振動する項)が関与し、差分商の挙動が安定しなくなります。

セクション4では、微分不可能な点が「1点」だけの例を見ました。ワイエルシュトラス関数は、その極端な一般化であり、微分不可能な点が「すべての点」に広がっています。 このことは、「連続 $\Rightarrow$ 微分可能」がどれほど成り立たないかを鮮やかに示しています。 では、この理解を踏まえて、微分可能性と連続性の関係をより広い枠組みで整理しましょう。

6応用 ─ 滑らかさの階層と微分可能性の判定

滑らかさの階層 $C^k$

セクション3で「微分可能 $\Rightarrow$ 連続」を証明しましたが、微分可能な関数の導関数 $f'(x)$ は必ずしも連続ではありません。 つまり、「$f$ が微分可能」と「$f'$ が連続」は別の条件です。 この区別を体系化するのが、$C^k$ という記法です。

$C^k$ クラスの定義

$k$ を非負整数とします。関数 $f$ が$C^k$ クラスであるとは、$f$ が $k$ 回微分可能で、$k$ 階導関数 $f^{(k)}$ が連続であることです。

  • $C^0$:連続関数の全体
  • $C^1$:1回微分可能で、導関数 $f'$ が連続な関数の全体
  • $C^2$:2回微分可能で、2階導関数 $f''$ が連続な関数の全体
  • $C^\infty$:何回でも微分可能で、すべての導関数が連続な関数の全体

これらの間に包含関係があります。

$$C^\infty \subset \cdots \subset C^2 \subset C^1 \subset C^0$$

右に行くほど条件がゆるく、含まれる関数の範囲が広くなります。

この記事で学んだことを $C^k$ の言葉で整理すると、次のようになります。

  • ワイエルシュトラス関数 $W(x)$ は $C^0$ に属するが $C^1$ には属さない(そもそも微分不可能)
  • $f(x) = |x|$ は $C^0$ に属するが $C^1$ には属さない($x = 0$ で微分不可能)
  • $f(x) = x^2$ は $C^\infty$ に属する(何回でも微分でき、すべての導関数が連続)
  • $f(x) = \sin x$、$f(x) = e^x$ も $C^\infty$ に属する

高校で扱う関数(多項式、三角関数、指数関数、対数関数とそれらの合成)は、定義域内でほとんどすべて $C^\infty$ クラスです。 高校で微分可能性を意識する必要がなかったのは、最も滑らかな関数だけを扱っていたからなのです。

微分可能性の判定 ─ 具体的な手順

セクション3とセクション4の結果を使うと、$f(x)$ が $x = a$ で微分可能かどうかを判定する実用的な手順が得られます。

  1. $f(x)$ が $x = a$ で連続であるか確認する。連続でなければ微分不可能(対偶を使った判定)
  2. 右微分係数 $f'_+(a) = \displaystyle\lim_{h \to +0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h}$ を計算する
  3. 左微分係数 $f'_-(a) = \displaystyle\lim_{h \to -0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h}$ を計算する
  4. $f'_+(a)$ と $f'_-(a)$ がともに有限で一致すれば微分可能。それ以外は微分不可能

この手順のステップ1で「連続でなければ微分不可能」と判定できるのは、セクション3で証明した「微分可能 $\Rightarrow$ 連続」の対偶(「連続でない $\Rightarrow$ 微分不可能」)を使っています。

具体例:区分的に定義された関数の微分可能性

上の手順を使って、次の関数が $x = 0$ で微分可能かどうかを判定します。

$$g(x) = \begin{cases} x^2 \sin\dfrac{1}{x} & (x \neq 0) \\ 0 & (x = 0) \end{cases}$$

ステップ1(連続性の確認):$x \neq 0$ のとき $|g(x)| = |x^2 \sin(1/x)| \leq x^2$ であり、$x^2 \to 0$ ($x \to 0$) なので、はさみうちの原理により $\displaystyle\lim_{x \to 0} g(x) = 0 = g(0)$ です。よって $g$ は $x = 0$ で連続です。

ステップ2, 3(差分商の極限):

$$\lim_{h \to 0} \frac{g(h) - g(0)}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{h^2 \sin(1/h)}{h} = \lim_{h \to 0} h \sin\frac{1}{h}$$

$|h \sin(1/h)| \leq |h| \to 0$ なので、はさみうちの原理により極限は $0$ です。

ステップ4(結論):左右からの極限がともに $0$ で一致するので、$g(x)$ は $x = 0$ で微分可能であり、$g'(0) = 0$ です。

$g(x) = x^2 \sin(1/x)$ は $C^1$ ではない

$g(x)$ は $x = 0$ で微分可能ですが、$x \neq 0$ での導関数は $g'(x) = 2x\sin(1/x) - \cos(1/x)$ です。 $x \to 0$ のとき $\cos(1/x)$ は振動して極限を持たないので、$g'(x)$ は $x = 0$ で連続ではありません。 したがって $g$ は微分可能ですが $C^1$ ではありません。 これは「微分可能」と「$C^1$」の間にも隙間があることを示す例です。

物理における微分可能性の意味

物理学では、位置 $x(t)$ を時刻 $t$ で微分すると速度 $v(t) = x'(t)$、さらに微分すると加速度 $a(t) = x''(t)$ が得られます。 微分可能性の階層を物理の言葉に翻訳すると、次のようになります。

数学 物理的意味
$x(t)$ が $C^0$(連続) 物体が瞬間移動しない(位置が連続的に変化する)
$x(t)$ が $C^1$ 速度 $v(t) = x'(t)$ が連続的に変化する(急にジャンプしない)
$x(t)$ が $C^2$ 加速度 $a(t) = x''(t)$ が連続的に変化する

ニュートンの運動方程式 $F = ma$ は加速度 $a(t)$ の存在を前提としているので、位置 $x(t)$ は少なくとも2回微分可能でなければなりません。 $C^k$ の階層は、物理現象を記述する上でどの程度の「滑らかさ」を要求するかを明確にする言語でもあるのです。

7つながりマップ

まとめ
  • 微分可能の定義は「差分商 $\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$ の $h \to 0$ の極限が有限な値として存在すること」であり、左微分係数と右微分係数の一致を要求する
  • 「微分可能 $\Rightarrow$ 連続」は真であり、差分商を $(x-a)$ との積に分解することで証明できる。逆「連続 $\Rightarrow$ 微分可能」は偽である
  • 連続だが微分不可能な点には、折れ点($|x|$ の $x=0$)と尖点($x^{1/3}$ の $x=0$)がある
  • ワイエルシュトラス関数は至る所連続だが至る所微分不可能な関数であり、振幅の減衰と振動の激化の競争によってこの性質が生まれる
  • 滑らかさの階層 $C^\infty \subset \cdots \subset C^2 \subset C^1 \subset C^0$ により、微分可能性の度合いを段階的に整理できる

9確認テスト

理解度チェック

Q1. 「微分可能ならば連続」の証明で用いた核心的なアイデアを、1文で説明してください。

クリックして解答を表示 $f(x) - f(a)$ を差分商 $\dfrac{f(x)-f(a)}{x-a}$(微分可能性により有限の極限 $f'(a)$ を持つ)と $(x-a)$($0$ に収束する)の積に分解し、積の極限が $0$ になることから $f(x) \to f(a)$(連続)を導いた。

Q2. $f(x) = |x|$ が $x = 0$ で微分不可能である理由を、左微分係数と右微分係数を用いて説明してください。

クリックして解答を表示 右微分係数 $f'_+(0) = \displaystyle\lim_{h \to +0} \frac{|h|}{h} = 1$ であり、左微分係数 $f'_-(0) = \displaystyle\lim_{h \to -0} \frac{|h|}{h} = -1$ です。$f'_+(0) \neq f'_-(0)$ なので、$x = 0$ で微分不可能です。

Q3. ワイエルシュトラス関数が至る所連続である理由を、「一様収束」という言葉を使って説明してください。

クリックして解答を表示 各項 $a^n \cos(b^n \pi x)$ の絶対値は $a^n$ 以下であり、$\sum a^n$ は $0 < a < 1$ より収束します。ワイエルシュトラスの優級数判定法により、この級数は一様収束します。一様収束する連続関数の級数は連続関数になるため、$W(x)$ は至る所連続です。

Q4. $C^1$ と「微分可能」の違いを述べてください。$C^1$ に属さないが微分可能な関数の例を1つ挙げてください。

クリックして解答を表示 「微分可能」は導関数 $f'(x)$ が存在することだけを要求しますが、$C^1$ は導関数が存在し、かつ連続であることを要求します。例として $g(x) = x^2 \sin(1/x)$($x \neq 0$)、$g(0) = 0$ は $x = 0$ で微分可能($g'(0) = 0$)ですが、$g'(x) = 2x\sin(1/x) - \cos(1/x)$ は $x \to 0$ で振動するため $g' $ は $x=0$ で連続でなく、$g$ は $C^1$ ではありません。

10演習問題

問1 A 定義の確認

次の関数が $x = 1$ で微分可能かどうかを判定してください。

$$f(x) = |x - 1|$$

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解答

微分不可能です。

解説

右微分係数:$f'_+(1) = \displaystyle\lim_{h \to +0} \frac{|h|}{h} = 1$

左微分係数:$f'_-(1) = \displaystyle\lim_{h \to -0} \frac{|h|}{h} = -1$

$f'_+(1) = 1 \neq -1 = f'_-(1)$ なので、$f(x) = |x-1|$ は $x = 1$ で微分不可能です。これは $f(x) = |x|$ を $x$ 軸方向に $1$ だけ平行移動したもので、折れ点が $x = 1$ に移っています。

問2 A 分類

次の関数を $C^0$, $C^1$, $C^\infty$ のいずれに属するか分類してください(最も条件の厳しいクラスを答えてください)。

(a) $f(x) = x^3 + 2x$

(b) $f(x) = |x|$

(c) $f(x) = e^x$

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解答

(a) $C^\infty$ ── 多項式は何回でも微分可能で、すべての導関数が連続です。

(b) $C^0$($C^1$ ではない)── $x = 0$ で連続ですが微分不可能なので、$C^1$ には属しません。

(c) $C^\infty$ ── $e^x$ は何回微分しても $e^x$ であり、連続です。

問3 B 計算

次の関数が $x = 0$ で微分可能かどうかを判定し、微分可能ならば $f'(0)$ を求めてください。

$$f(x) = \begin{cases} x^2 & (x \geq 0) \\ -x^2 & (x < 0) \end{cases}$$

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解答

微分可能であり、$f'(0) = 0$ です。

解説

まず連続性を確認します。$\displaystyle\lim_{x \to +0} x^2 = 0$、$\displaystyle\lim_{x \to -0} (-x^2) = 0$ であり、$f(0) = 0$ なので連続です。

右微分係数:$f'_+(0) = \displaystyle\lim_{h \to +0} \frac{h^2 - 0}{h} = \lim_{h \to +0} h = 0$

左微分係数:$f'_-(0) = \displaystyle\lim_{h \to -0} \frac{-h^2 - 0}{h} = \lim_{h \to -0} (-h) = 0$

$f'_+(0) = f'_-(0) = 0$ なので微分可能であり、$f'(0) = 0$ です。この関数は $x = 0$ で滑らかにつながっています($f(x) = x|x|$ とも書けます)。

問4 B 証明

$f(x) = x^{2/3}$ が $x = 0$ で連続だが微分不可能であることを示してください。また、これは折れ点と尖点のどちらに分類されますか。

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解答

連続性:$\displaystyle\lim_{x \to 0} x^{2/3} = 0 = f(0)$ なので連続です。

微分不可能性:差分商を計算します。

$$\lim_{h \to 0} \frac{h^{2/3} - 0}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{1}{h^{1/3}}$$

$h \to +0$ のとき $1/h^{1/3} \to +\infty$、$h \to -0$ のとき $1/h^{1/3} \to -\infty$ です。

極限が有限の値として存在しないので、$x = 0$ で微分不可能です。

分類:尖点(カスプ)に分類されます。グラフは $x = 0$ で上に凸の尖った形をしており、接線の傾きが $\pm\infty$ に発散しています。

問5 C 論述

次の関数が $x = 0$ で微分可能かどうかを判定してください。微分可能ならば $f'(0)$ を求め、さらに $f$ が $C^1$ クラスかどうかも判定してください。

$$f(x) = \begin{cases} x^3 \sin\dfrac{1}{x} & (x \neq 0) \\ 0 & (x = 0) \end{cases}$$

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解答

微分可能であり、$f'(0) = 0$ です。さらに $f$ は $C^1$ クラスです。

解説

連続性:$|f(x)| = |x^3 \sin(1/x)| \leq |x|^3 \to 0$ ($x \to 0$) より、$f$ は $x = 0$ で連続です。

微分可能性:

$$f'(0) = \lim_{h \to 0} \frac{h^3 \sin(1/h)}{h} = \lim_{h \to 0} h^2 \sin\frac{1}{h} = 0$$

$|h^2 \sin(1/h)| \leq h^2 \to 0$ より、はさみうちの原理から極限は $0$ です。よって $f'(0) = 0$ です。

$C^1$ の判定:$x \neq 0$ では積の微分法と合成関数の微分法により、

$$f'(x) = 3x^2 \sin\frac{1}{x} - x\cos\frac{1}{x}$$

$x \to 0$ のとき、$3x^2 \sin(1/x) \to 0$(はさみうちの原理)であり、$x\cos(1/x) \to 0$(同様にはさみうちの原理)です。 したがって $\displaystyle\lim_{x \to 0} f'(x) = 0 = f'(0)$ となり、$f'$ は $x = 0$ で連続です。 $x \neq 0$ では $f'$ は明らかに連続なので、$f$ は $C^1$ クラスです。

セクション6の $g(x) = x^2 \sin(1/x)$ との比較がポイントです。$x^2$ が $x^3$ になったことで、導関数にも $x$ が1つ多くかかり、$\cos(1/x)$ の振動が抑え込まれて連続性が保たれています。