高校数学では、連続関数を「グラフがつながっている関数」として直感的に理解し、中間値の定理を「グラフが途中の値を必ず通る」こととして受け入れます。
この直感は正しいのですが、「なぜグラフがつながっていると中間の値を通るのか」を厳密に証明しようとすると、連続性の正確な定義と、実数の持つ完備性という性質が必要になります。
この記事では、連続関数の$\varepsilon$-$\delta$ 定義を使い、実数の完備性と組み合わせることで、中間値の定理と最大値の定理を証明します。
さらに、有理数の世界では連続関数でも中間値の定理が成り立たない例を示し、実数の完備性がなぜ本質的なのかを明らかにします。
高校の数学IIIでは、関数の連続性を次のように学びます。関数 $f(x)$ が $x = a$ で連続であるとは、
$$\lim_{x \to a} f(x) = f(a)$$
が成り立つことです。直感的には、「$x = a$ のところでグラフが途切れずつながっている」ことを意味します。 $f(x) = x^2$ や $f(x) = \sin x$ のような関数はすべての点で連続であり、グラフを鉛筆で途切れずに描くことができます。
高校ではさらに、連続関数に関する重要な性質として中間値の定理を学びます。
高校ではこの定理を、方程式の実数解の存在を示すために使います。 たとえば、$f(x) = x^3 - 3x + 1$ について $f(0) = 1 > 0$、$f(2) = 3 > 0$、$f(-2) = -1 < 0$ を計算すれば、$f(-2) < 0 < f(0)$ から、$-2$ と $0$ の間に $f(c) = 0$ となる $c$ が存在するとわかります。
しかし、この定理は高校では証明されません。 「グラフがつながっていれば途中の値を通る」という直感は正しく見えますが、これを厳密に証明するには、「つながっている」とは何か、そして「途中の値を必ず通る」ためにはどのような数の性質が必要かを明確にする必要があります。 次のセクションでは、大学の視点からこの問題を考えます。
大学の解析学では、連続性を$\varepsilon$-$\delta$ 論法で厳密に定義します。 高校の「$\lim_{x \to a} f(x) = f(a)$」という定義は直感的にはわかりやすいのですが、「限りなく近づく」という言葉の意味があいまいです。 $\varepsilon$-$\delta$ 定義は、この「限りなく近づく」を数値的な条件に置き換え、証明に使える形にします。
さらに重要なのは、中間値の定理の証明には連続性だけでは足りないという点です。 実数の完備性(上に有界な集合が必ず上限を持つ、あるいは同値な条件として、有界な単調数列が必ず収束する)が本質的な役割を果たします。 この点は、有理数 $\mathbb{Q}$ の上で考えると鮮明になります。有理数上では、連続関数であっても中間値の定理が成り立たない例が存在するのです。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 連続関数の $\varepsilon$-$\delta$ 定義を述べ、具体的な関数の連続性を $\varepsilon$-$\delta$ で証明できる
2. 中間値の定理を、二分法と実数の完備性を使って証明できる
3. 最大値の定理の主張と証明の方針を説明できる
4. 有理数上では中間値の定理が成り立たない具体例を構成できる
5. 開区間上の連続関数が最大値を持たない例を挙げられる
それでは、まず連続の $\varepsilon$-$\delta$ 定義を導入し、具体例で使い方を確認します。 この定義をセクション4以降の証明で実際に使うことになります。
ここで用いる$\varepsilon$-$\delta$ 論法は 📖 第6章 §2 で詳しく解説しています。以下では、連続性の定義に必要な要点を確認したうえで、具体例に進みます。
$\varepsilon$-$\delta$ 論法では、「$f(x)$ が $f(a)$ に限りなく近づく」を「$f(x)$ と $f(a)$ の差をいくらでも小さくできる」に置き換えます。 これを正確に述べたのが次の定義です。
関数 $f$ が点 $x = a$ で連続であるとは、次の条件が成り立つことをいいます。
$$\forall \varepsilon > 0, \; \exists \delta > 0 \; \; \mathrm{s.t.} \; \; |x - a| < \delta \implies |f(x) - f(a)| < \varepsilon$$
日本語で読み下すと、「どんなに小さな正の数 $\varepsilon$ を指定されても、ある正の数 $\delta$ を取れば、$a$ からの距離が $\delta$ 未満のすべての $x$ に対して、$f(x)$ と $f(a)$ の差が $\varepsilon$ 未満になる」ということです。
$\varepsilon$ は出力($f$ の値)の誤差の許容範囲、$\delta$ は入力($x$ の値)の許容範囲に対応します。
この定義のポイントは、$\varepsilon$ が先に与えられ、それに応じて $\delta$ を後から選ぶという順序です。 $\varepsilon$ をどれだけ小さくされても対応する $\delta$ が見つかるなら、$f(x)$ は $x = a$ の近くでいくらでも $f(a)$ に近い値を取る、つまり「つながっている」ことが保証されます。
区間上のすべての点で連続であるとき、$f$ はその区間上で連続であるといいます。
定義を実際に使ってみましょう。$f(x) = 2x + 1$ が任意の点 $x = a$ で連続であることを示します。
示すこと:任意の $\varepsilon > 0$ に対して、ある $\delta > 0$ が存在し、$|x - a| < \delta$ ならば $|f(x) - f(a)| < \varepsilon$ が成り立つ。
ステップ1:$|f(x) - f(a)|$ を計算する。
$$|f(x) - f(a)| = |(2x + 1) - (2a + 1)| = |2x - 2a| = 2|x - a|$$
つまり、$f$ の値の差は $x$ と $a$ の差のちょうど2倍です。
ステップ2:$\delta$ を決める。
$2|x - a| < \varepsilon$ を実現するには、$|x - a| < \varepsilon / 2$ であれば十分です。 そこで $\delta = \varepsilon / 2$ と選びます。
ステップ3:確認する。
$|x - a| < \delta = \varepsilon / 2$ のとき、
$$|f(x) - f(a)| = 2|x - a| < 2 \cdot \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon$$
よって、条件が満たされます。$\varepsilon$ は任意に取れるので、$f(x) = 2x + 1$ は $x = a$ で連続です。$\square$
この証明の構造を確認しておきましょう。まず $|f(x) - f(a)|$ を $|x - a|$ の式で表し(ステップ1)、そこから逆算して $\delta$ を決め(ステップ2)、最後に定義の条件を検証しました(ステップ3)。 この「逆算して $\delta$ を決める」という手順は、$\varepsilon$-$\delta$ 証明の基本パターンです。
誤解:$\delta = \varepsilon / 2$ が「唯一の正解」である。
正しくは:$\delta = \varepsilon / 2$ でなくても、たとえば $\delta = \varepsilon / 3$ でも $\delta = \varepsilon / 100$ でも証明は成り立ちます。$\delta$ は「この $\delta$ 以内なら条件を満たす」という値を一つ見つければ十分です。小さすぎる $\delta$ を取っても間違いにはなりません。逆に、大きすぎる $\delta$ を取ると条件を満たさなくなります。
ここまでで、連続の $\varepsilon$-$\delta$ 定義を導入し、具体的な関数で証明を行いました。 次のセクションでは、この定義を前提として、中間値の定理をどう証明するかに進みます。 証明のもう一つの鍵である実数の完備性が、ここで初めて登場します。
いよいよ、中間値の定理を厳密に証明します。証明には2つの道具を使います。
まず、証明する定理を正確に述べます。
$f$ が閉区間 $[a, b]$ 上で連続であり、$f(a) < 0 < f(b)$ とする。このとき、ある $c \in (a, b)$ が存在して $f(c) = 0$ が成り立つ。
一般の場合($f(a)$ と $f(b)$ の間の任意の値 $k$ に対して $f(c) = k$ となる $c$ の存在)は、$g(x) = f(x) - k$ に上の結果を適用すれば得られます。
証明に入る前に、実数の完備性について確認します。 これは 📖 第1章 §2 で詳しく解説しています。ここでは証明に必要な形を簡潔に述べます。
空でない実数の部分集合 $S$ が上に有界(ある実数 $M$ が存在して、$S$ のすべての要素が $M$ 以下)であるとき、$S$ の上限 $\sup S$ が実数として存在する。
上限 $\sup S$ とは、$S$ の上界のうち最小のものです。つまり、(1) $S$ のどの要素も $\sup S$ 以下であり、(2) $\sup S$ より小さい数は $S$ の上界にならない($\sup S$ 未満のある値を超える $S$ の要素が存在する)。
この性質は、実数にとっては「公理」として仮定するか、デデキント切断などの構成から証明するものです。 重要なのは、有理数 $\mathbb{Q}$ はこの性質を持たないということです。たとえば、$\{q \in \mathbb{Q} \mid q^2 < 2\}$ は有理数の中で上に有界ですが、上限は $\sqrt{2}$ であり、これは有理数ではありません。 この違いが、中間値の定理が実数上で成り立ち有理数上で成り立たない理由の核心です。
証明の方針を先に述べます。区間 $[a, b]$ を繰り返し半分に分割し、「$f$ の値が負の端と正の端を持つ」という性質を保ちながら区間を狭めていきます。 この操作で得られる区間の端点の列は単調有界数列となり、実数の完備性によって収束します。 その極限値 $c$ が $f(c) = 0$ を満たすことを、連続性の $\varepsilon$-$\delta$ 定義を使って示します。
示すこと:$f$ が $[a, b]$ 上で連続かつ $f(a) < 0 < f(b)$ のとき、$f(c) = 0$ となる $c \in (a, b)$ が存在する。
ステップ1:区間の列を構成する。
$a_0 = a$, $b_0 = b$ とします。各ステップで区間 $[a_n, b_n]$ の中点 $m_n = (a_n + b_n)/2$ を計算し、次のように区間を更新します。
どのステップでも $f(a_n) \leq 0$ かつ $f(b_n) \geq 0$ が保たれます。また、区間の幅は毎回半分になるので、
$$b_n - a_n = \frac{b - a}{2^n}$$
ステップ2:収束を示す(ここで完備性を使う)。
数列 $(a_n)$ は単調非減少($a_0 \leq a_1 \leq a_2 \leq \cdots$)で、$b$ で上から抑えられています。 実数の完備性(単調有界数列は収束する)により、$(a_n)$ はある実数 $c$ に収束します。
$$c = \lim_{n \to \infty} a_n$$
同様に $(b_n)$ は単調非増加かつ下に有界なので収束し、$b_n - a_n \to 0$ から、$(b_n)$ も同じ $c$ に収束します。
ステップ3:$f(c) = 0$ を示す(ここで連続性を使う)。
$f$ は $x = c$ で連続なので、$a_n \to c$ より $f(a_n) \to f(c)$ が成り立ちます。 (正確に述べると、任意の $\varepsilon > 0$ に対して $\delta > 0$ が存在して $|x - c| < \delta \implies |f(x) - f(c)| < \varepsilon$ であり、十分大きな $n$ に対して $|a_n - c| < \delta$ が成り立つので $|f(a_n) - f(c)| < \varepsilon$ が得られます。)
すべての $n$ で $f(a_n) \leq 0$ なので、その極限も $f(c) \leq 0$ です。同様に、$f(b_n) \geq 0$ なので $f(c) \geq 0$ です。
$f(c) \leq 0$ かつ $f(c) \geq 0$ より、$f(c) = 0$ が成り立ちます。$\square$
この証明では、連続性と完備性の両方が不可欠な役割を果たしています。
完備性は、二分法で構成した数列 $(a_n)$ が実数として収束先 $c$ を持つことを保証します。有理数上では、この収束先が存在しない場合があります。
連続性は、$a_n \to c$ から $f(a_n) \to f(c)$ が導かれることを保証します。不連続な関数では、$a_n$ が $c$ に近づいても $f(a_n)$ が $f(c)$ に近づくとは限りません。
ここまでで、中間値の定理を厳密に証明しました。 連続の $\varepsilon$-$\delta$ 定義(セクション3)と実数の完備性という2つの道具が、証明の核心であることが確認できました。 次のセクションでは、同じ道具立てを使って、もう一つの重要な定理である最大値の定理の証明に進みます。
高校数学では、閉区間上の連続関数のグラフを描いて「最大値はここ」と指摘しますが、 そもそも「なぜ最大値が必ず存在するのか」は問いません。 大学の解析学では、これも証明すべき定理です。
$f$ が閉区間 $[a, b]$ 上で連続ならば、$f$ は $[a, b]$ 上で最大値および最小値を取る。すなわち、ある $c \in [a, b]$ が存在して、すべての $x \in [a, b]$ に対して $f(x) \leq f(c)$ が成り立つ。
最大値の定理の完全な証明はやや長くなるので、ここでは方針と核心部分を示します。 証明は2段階に分かれます。
第1段階(有界性)は背理法で示せます(有界でないと仮定すると、$f(x_n) > n$ となる点列 $(x_n)$ が取れ、ボルツァノ-ワイエルシュトラスの定理から収束部分列が取れるが、連続性から矛盾が生じます)。 ここでは、この記事の主題に近い第2段階を詳しく見ます。
示すこと:$M = \sup\{f(x) \mid x \in [a, b]\}$ に対して、$f(c) = M$ となる $c \in [a, b]$ が存在する。
ステップ1:$M$ に近づく点列を取る。
上限の定義から、各自然数 $n$ に対して $x_n \in [a, b]$ で $f(x_n) > M - 1/n$ を満たすものが存在します。
ステップ2:収束部分列を取る(ここで完備性を使う)。
数列 $(x_n)$ は閉区間 $[a, b]$ に含まれているので有界です。 ボルツァノ-ワイエルシュトラスの定理(有界な実数列は収束する部分列を持つ。これは実数の完備性から導かれます)により、収束する部分列 $(x_{n_k})$ が取れます。
$$c = \lim_{k \to \infty} x_{n_k}$$
$a \leq x_{n_k} \leq b$ であり、閉区間は極限を含むので $c \in [a, b]$ です。
ステップ3:$f(c) = M$ を示す(ここで連続性を使う)。
$f$ は $x = c$ で連続なので、$x_{n_k} \to c$ から $f(x_{n_k}) \to f(c)$ です。 一方、$f(x_{n_k}) > M - 1/{n_k}$ かつ $f(x_{n_k}) \leq M$($M$ は上限)なので、はさみうちの原理により $f(x_{n_k}) \to M$ です。 極限の一意性から $f(c) = M$ が得られます。$\square$
中間値の定理と同様に、最大値の定理でも完備性(ボルツァノ-ワイエルシュトラスの定理)と連続性の両方が証明の核心を担っています。 閉区間という条件も不可欠です。開区間では端点を含まないため、上限に近づく点列の極限が区間の外に出てしまう可能性があります。
ここまでで、中間値の定理(セクション4)と最大値の定理(このセクション)という、連続関数の2つの基本定理を証明しました。 いずれも連続性と完備性の組み合わせから導かれます。 次のセクションでは、これらの定理の条件を一つでも外すとどうなるかを、具体的な反例で確認します。
セクション4, 5で証明した中間値の定理と最大値の定理には、「連続」「閉区間」「実数」という条件がありました。 これらの条件がなぜ外せないのかを、具体的な反例で確認します。 反例を知ることは、定理の条件の必要性を理解する最善の方法です。
有理数 $\mathbb{Q}$ 上で定義された関数 $f \colon \mathbb{Q} \to \mathbb{Q}$ を次のように定めます。
$$f(x) = x^2 - 2$$
この $f$ は有理数上で連続です($\varepsilon$-$\delta$ 条件を有理数の範囲で満たします)。 $f(1) = 1 - 2 = -1 < 0$、$f(2) = 4 - 2 = 2 > 0$ なので、$f(1) < 0 < f(2)$ が成り立っています。
もし中間値の定理が有理数上で成り立つなら、$f(c) = 0$ となる有理数 $c \in (1, 2)$ が存在するはずです。 しかし、$f(c) = 0$ は $c^2 = 2$、すなわち $c = \sqrt{2}$ を意味します。 $\sqrt{2}$ は無理数なので、有理数の範囲には $f(c) = 0$ を満たす $c$ が存在しません。
何が起きているのでしょうか。セクション4の証明を有理数上で追ってみると、二分法で構成した数列 $(a_n)$ は $\sqrt{2}$ に収束しようとしますが、$\sqrt{2}$ は有理数ではありません。 つまり、有理数の完備性の欠如(有理数の単調有界数列の極限が有理数になるとは限らない)が、証明の破綻箇所です。
有理数の数直線には $\sqrt{2}$ の位置に「穴」が空いています。連続関数のグラフがこの穴の上を通過しようとしても、着地点がないため、$f(c) = 0$ を満たす点が存在しません。
実数の数直線にはこのような穴がありません。これが完備性の直感的な意味であり、中間値の定理が実数上で成り立つ理由です。
関数 $f(x) = x$ を開区間 $(0, 1)$ 上で考えます。$f$ は明らかに連続です。
$f$ の値は $(0, 1)$ 上で $0$ より大きく $1$ より小さい値を取り、上限は $\sup\{f(x) \mid x \in (0, 1)\} = 1$ です。 しかし、$f(c) = 1$ となるためには $c = 1$ である必要がありますが、$1 \notin (0, 1)$ です。 したがって、$f$ は $(0, 1)$ 上で最大値を持ちません。
最大値の定理の証明(セクション5)でボルツァノ-ワイエルシュトラスの定理を適用したとき、収束先 $c$ が $[a, b]$ に含まれることを使いました。 開区間 $(a, b)$ の場合、$c$ が端点 $a$ や $b$ に一致する可能性があり、そのとき $c$ は区間に含まれません。 閉区間の条件は、この状況を排除するために必要です。
符号関数を考えます。
$$f(x) = \begin{cases} -1 & (x < 0) \\ 1 & (x \geq 0) \end{cases}$$
$f(-1) = -1 < 0$、$f(1) = 1 > 0$ ですが、$f(c) = 0$ となる $c \in [-1, 1]$ は存在しません。 $f$ は $x = 0$ で不連続(ジャンプ不連続)であり、連続性の条件が崩れているために中間値の定理は適用できません。
中間値の定理の証明で用いた二分法は、そのまま方程式の数値解法として使えます。たとえば $x^3 - x - 1 = 0$ の実数解を求めるとき、$f(1) = -1 < 0$, $f(2) = 5 > 0$ から解は $(1, 2)$ にあるとわかります。中点 $1.5$ を調べると $f(1.5) = 0.875 > 0$ なので区間を $(1, 1.5)$ に狭める、という操作を繰り返すと、$n$ 回の操作後に区間幅は $1/2^n$ になります。10回繰り返せば幅は約 $0.001$ となり、小数第2位まで正確な近似値が得られます。
以上の反例から、中間値の定理の3つの条件 ── 実数上であること、閉区間であること、連続であること ── のそれぞれが不可欠であることが確認できました。 最大値の定理についても、閉区間と連続性が欠かせないことを見ました。
Q1. 関数 $f$ が点 $x = a$ で連続であることの $\varepsilon$-$\delta$ 定義で、$\varepsilon$ と $\delta$ はどちらが先に与えられますか。
Q2. 中間値の定理の証明で、実数の完備性はどの場面で使われますか。
Q3. 関数 $f(x) = x^2 - 2$ を有理数 $\mathbb{Q}$ 上で考えるとき、$f(1) < 0 < f(2)$ が成り立つにもかかわらず、$f(c) = 0$ となる有理数 $c$ が存在しないのはなぜですか。
Q4. 最大値の定理で「閉区間」の条件が必要な理由を、具体例を挙げて説明してください。
$f(x) = 3x - 5$ が任意の点 $x = a$ で連続であることを、$\varepsilon$-$\delta$ 定義を用いて証明してください。
任意の $\varepsilon > 0$ に対して $\delta = \varepsilon / 3$ と選ぶ。$|x - a| < \delta$ のとき、
$$|f(x) - f(a)| = |(3x - 5) - (3a - 5)| = |3x - 3a| = 3|x - a| < 3 \cdot \frac{\varepsilon}{3} = \varepsilon$$
したがって、$f(x) = 3x - 5$ は $x = a$ で連続である。$\square$
セクション3の $f(x) = 2x + 1$ の証明と同じパターンです。$|f(x) - f(a)| = 3|x - a|$ なので、係数の $3$ が $\delta$ の分母に来ます。一般に、$f(x) = \alpha x + \beta$ の場合、$\delta = \varepsilon / |\alpha|$ と取ればよいことがわかります。
$f(x) = x^3 + x - 1$ とします。中間値の定理を用いて、方程式 $f(x) = 0$ が区間 $(0, 1)$ に少なくとも1つの実数解を持つことを示してください。
$f(0) = 0 + 0 - 1 = -1 < 0$、$f(1) = 1 + 1 - 1 = 1 > 0$ です。$f(x)$ は多項式なので $[0, 1]$ 上で連続です。$f(0) < 0 < f(1)$ であるから、中間値の定理により、$f(c) = 0$ となる $c \in (0, 1)$ が存在します。$\square$
$f(x) = x^2$ が $x = 2$ で連続であることを、$\varepsilon$-$\delta$ 定義を用いて証明してください。
(ヒント:$|x - 2| < 1$ のとき $|x + 2| < 5$ であることを利用して、$\delta$ を選んでください。)
任意の $\varepsilon > 0$ に対して $\delta = \min(1, \varepsilon / 5)$ と選ぶ。$|x - 2| < \delta$ のとき、$\delta \leq 1$ なので $|x - 2| < 1$、すなわち $1 < x < 3$ です。したがって $|x + 2| < 5$ です。
$$|f(x) - f(2)| = |x^2 - 4| = |x - 2| \cdot |x + 2| < \delta \cdot 5 \leq \frac{\varepsilon}{5} \cdot 5 = \varepsilon$$
よって $f(x) = x^2$ は $x = 2$ で連続です。$\square$
$|f(x) - f(a)| = |x - a| \cdot |x + a|$ のように、$|x - a|$ の1次の因子以外にも $x$ に依存する因子 $|x + a|$ が現れます。この因子を定数で抑えるために、まず $\delta \leq 1$ という制限をかけて $|x + 2| < 5$ を確保し、そのうえで $\delta \leq \varepsilon / 5$ によって $|f(x) - f(a)| < \varepsilon$ を実現します。$\delta = \min(1, \varepsilon/5)$ はこの2つの条件を同時に満たすための標準的なテクニックです。
開区間 $(0, 1)$ 上の連続関数で、上に有界だが最大値を持たない例を、$f(x) = x$ 以外に1つ挙げ、最大値を持たないことを説明してください。
$f(x) = 1 - x^2$ を $(0, 1)$ 上で考えます。
$f$ は $(0, 1)$ 上で連続です。$0 < x < 1$ のとき $0 < x^2 < 1$ なので $0 < f(x) < 1$ であり、$f$ は上に有界です。
$f$ の上限は $\sup\{1 - x^2 \mid x \in (0, 1)\} = 1$ です。しかし $f(c) = 1$ となるには $c = 0$ が必要であり、$0 \notin (0, 1)$ です。したがって $f$ は $(0, 1)$ 上で最大値を持ちません。$\square$
$x$ が $0$ に近づくほど $f(x) = 1 - x^2$ は $1$ に近づきますが、$x = 0$ は開区間 $(0, 1)$ に含まれないため、$f(x) = 1$ という値は実際には達成されません。セクション6の $f(x) = x$(上限 $1$ が端点 $x = 1$ でしか達成されない)と同じ構造です。閉区間 $[0, 1]$ 上であれば $f(0) = 1$ が最大値となります。
有理数 $\mathbb{Q}$ 上で定義された関数 $g(q) = q^2 - 3$ を考えます。
(a) $g(1)$ と $g(2)$ の符号を調べ、$g(1)$ と $g(2)$ の間に $0$ があることを確認してください。
(b) $g(c) = 0$ となる有理数 $c$ が存在しないことを証明してください。
(c) この例と $f(x) = x^2 - 2$(セクション6)の共通点を述べ、有理数の完備性の欠如と中間値の定理の不成立の関係を論じてください。
(a) $g(1) = 1 - 3 = -2 < 0$、$g(2) = 4 - 3 = 1 > 0$ です。$g(1) < 0 < g(2)$ が成り立っています。
(b) $g(c) = 0$ とすると $c^2 = 3$ です。$\sqrt{3}$ が無理数であることを示します。$\sqrt{3} = p/q$($p, q$ は互いに素な正の整数)と仮定すると、$3q^2 = p^2$ なので $p^2$ は $3$ の倍数、したがって $p$ も $3$ の倍数です。$p = 3k$ とおくと $3q^2 = 9k^2$、すなわち $q^2 = 3k^2$ で、$q$ も $3$ の倍数となり、$p$ と $q$ が互いに素であることに矛盾します。よって $\sqrt{3}$ は無理数であり、$g(c) = 0$ を満たす有理数 $c$ は存在しません。$\square$
(c) $f(x) = x^2 - 2$ の場合と同じ構造です。どちらも有理数上で連続であり、区間の両端で異符号ですが、零点が無理数($\sqrt{2}$ と $\sqrt{3}$)であるため、有理数の範囲に零点が存在しません。これは有理数が完備でないこと、すなわち有理数の上限公理が成り立たないことの帰結です。二分法で区間を狭めても、極限が無理数に収束するため、有理数上では到達できません。実数の完備性は、この種の「穴」がないことを保証し、中間値の定理の証明を可能にします。