これまで「関数を微分して導関数を求める」「関数を積分して面積や体積を求める」という方向で学んできました。ここでは逆に、「導関数と関数の関係が与えられたとき、もとの関数を求める」という問題を考えます。これが微分方程式です。自然現象の多くは「変化の法則」として記述され、微分方程式はその法則から具体的な振る舞いを求める強力な道具です。
微分方程式とは、未知関数とその導関数を含む等式のことです。
例えば $y' = 2x$ は「$y$ の導関数が $2x$ に等しい」という条件です。これを満たす関数 $y$ を求めることが、微分方程式を「解く」ということです。
微分方程式は「関数がどのように変化するか」のルールを表しています。通常の方程式 $x^2 - 5x + 6 = 0$ が「数を求める」のに対し、微分方程式は「関数を求める」問題です。
例:「人口の増加率は現在の人口に比例する」→ $\dfrac{dN}{dt} = kN$。この法則から $N(t)$ を求めるのが微分方程式の仕事です。
| 分類 | 形 | 例 |
|---|---|---|
| 1階 | $y'$ を含む($y''$ は含まない) | $y' = 2x$、$y' = ky$ |
| 2階 | $y''$ を含む | $y'' = -\omega^2 y$(単振動) |
| 常微分方程式 | 独立変数が1つ | 上の例はすべて常微分方程式 |
| 偏微分方程式 | 独立変数が複数 | 波動方程式、熱方程式(大学で学習) |
この記事では、高校の範囲である1階常微分方程式を扱います。
✗ 誤:$y' = 2x$ の解は $x = 3$
○ 正:$y' = 2x$ の解は $y = x^2 + C$($C$ は任意定数)という関数です
微分方程式の「解」は関数であることを常に意識しましょう。代数方程式と微分方程式では「解く」の意味が根本的に異なります。
微分方程式は、ニュートンの運動方程式 $F = ma$(すなわち $m\ddot{x} = F(x, \dot{x}, t)$)を解くために17世紀後半に生まれました。以後、物理学・工学・生物学・経済学など、ほぼすべての自然科学・社会科学で中心的な役割を果たしています。大学の数学・物理・工学では微分方程式論が必修科目となっており、高校で学ぶ内容はその入口にすぎません。
微分方程式 $y' = 2x$ を解くには、両辺を $x$ で積分します。
$$y = \int 2x\,dx = x^2 + C$$
ここで $C$ は任意の定数です。$C$ の値を変えるとグラフが上下に平行移動し、それぞれが異なる解を表します。
一般解:任意定数 $C$ を含む解。微分方程式の全ての解を表す(1階の場合、定数は1つ)
特殊解:初期条件などにより $C$ の値を具体的に定めた解
※ $n$ 階微分方程式の一般解は $n$ 個の任意定数を含みます。
一般解 $y = x^2 + C$ は 1 つの関数ではなく、$C$ を変えた無限に多くの関数の集まり(解の族)です。グラフで見ると、$y = x^2$、$y = x^2 + 1$、$y = x^2 - 3$ など、放物線を上下に平行移動した曲線群が一般解を形成します。初期条件(例えば「$x = 1$ のとき $y = 5$」)を与えることで、この無限の中から 1 つの特殊解が選ばれます。
✗ 誤:$y' = 2x$ の解は $y = x^2$
○ 正:$y' = 2x$ の一般解は $y = x^2 + C$($C$ は任意定数)
不定積分で $C$ を忘れるのは致命的なミスです。微分方程式では「$+C$」が物理的な初期条件に対応するため、$C$ を書かないと一般解になりません。
右辺が $x$ のみの関数 $f(x)$ の場合、両辺を $x$ で積分するだけで解が求まります。これは微分方程式の中で最も単純な型です。
$$y' = f(x) \quad \Longrightarrow \quad y = \int f(x)\,dx + C$$
※ 前の記事で学んだ「加速度からの復元」は $v' = a(t)$($y' = f(x)$ 型)を解いていたことに相当します。
例 1:$y' = 3x^2 + 1$ → $y = x^3 + x + C$
例 2:$y' = \cos x$ → $y = \sin x + C$
例 3:$y' = e^x$ → $y = e^x + C$
これらは不定積分の練習と本質的に同じです。微分方程式という枠組みで捉え直すことで、「なぜ不定積分に $+C$ が必要なのか」が明確になります。$C$ は微分すると消えてしまうため、微分方程式の条件だけでは $C$ の値が定まらないのです。
$y'' = f(x)$ の形なら、2回積分して解きます。
$y'' = 6x$ の場合:$y' = 3x^2 + C_1$、$y = x^3 + C_1 x + C_2$
2階微分方程式には任意定数が 2 つ現れます。これを決定するには、初期条件が 2 つ(例えば $y(0)$ と $y'(0)$)必要です。
✗ 誤:$y'' = 6x$ を解くと $y = x^3 + C$
○ 正:1回目の積分で $y' = 3x^2 + C_1$、2回目で $y = x^3 + C_1 x + C_2$。定数は 2 つ
$n$ 回積分すれば $n$ 個の積分定数が生じます。各段階で $+C_i$ を忘れないようにしましょう。
右辺が $y$ だけの関数である場合、直接積分では解けません。なぜなら $y' = g(y)$ は「$y$ の変化率が $y$ 自身で決まる」という関係であり、右辺に未知関数 $y$ が含まれているからです。
$y' = f(x)$ では右辺が既知($x$ は独立変数)なので、そのまま積分できます。しかし $y' = g(y)$ では右辺に未知の $y$ が含まれているため、単純な積分では解けません。$y$ と $x$ を「分離」して、それぞれ別々に積分する工夫が必要です。これが次の記事で学ぶ変数分離法の発想です。
$\dfrac{dy}{dx} = ky$($k$ は定数)は、「$y$ の変化率が $y$ 自身に比例する」という条件です。$g(y) \neq 0$(すなわち $y \neq 0$)のとき、両辺を $y$ で割り、$dx$ を移項する操作(変数分離)を行います。
$$\frac{1}{y}\,dy = k\,dx$$
両辺を積分すると:
$$\log|y| = kx + C_0 \quad \Longrightarrow \quad |y| = e^{kx + C_0} = e^{C_0}\cdot e^{kx}$$
$A = \pm e^{C_0}$($A \neq 0$)とおくと $y = Ae^{kx}$。さらに $y = 0$ も元の方程式を満たすので $A = 0$ を含めて:
$$y = Ae^{kx} \quad (A \text{ は任意定数})$$
※ $k > 0$:指数関数的増大、$k < 0$:指数関数的減衰。$A$ は初期値 $y(0) = A$ に対応します。
$y = Ae^{kx}$ を微分すると $y' = kAe^{kx} = k \cdot y$。
確かに $y' = ky$ を満たしています。逆に、$y' = ky$ を満たす関数は $y = Ae^{kx}$ に限ることも示せます(解の一意性定理)。
$y \neq 0$ のとき $\dfrac{dy}{y^2} = dx$ として積分すると:
$$-\frac{1}{y} = x + C \quad \Longrightarrow \quad y = -\frac{1}{x + C} = \frac{1}{C - x}$$
($C$ を取り替えて符号を調整)。この解は $x = C$ で発散し、有限時間爆発と呼ばれる現象が起こります。
✗ 誤:$y' = g(y)$ を $\dfrac{dy}{g(y)} = dx$ と変形するとき、$g(y) = 0$ の場合を忘れる
○ 正:$g(y) = 0$ のとき、$y = \text{const}$(定数関数)が解になる可能性がある。これを別途確認する
$y' = ky$ では $y = 0$、$y' = y^2$ でも $y = 0$ がそれぞれ解です。変数分離では $g(y) \neq 0$ を仮定して割り算するため、$g(y) = 0$ の解(特異解)を見落としやすくなります。
$y' = ky$ の解が $y = Ae^{kx}$ であるということは、「変化率が自分自身に比例する関数は指数関数しかない」ことを意味します。これが $e^x$ が自然界で頻繁に現れる根本的な理由です。放射性崩壊($k < 0$)、細菌の増殖($k > 0$)、複利計算 ── これらはすべて $y' = ky$ というたった一つの微分方程式で記述されます。
一般解には任意定数 $C$(または $A$)が含まれており、そのままでは解が無数に存在します。特定の状況に対応する 1 つの解を選ぶために、初期条件(initial condition)を与えます。
微分方程式と初期条件を合わせたものを初期値問題と呼びます。
$$\begin{cases} y' = f(x, y) \\ y(x_0) = y_0 \end{cases}$$
※ 「$x = x_0$ のとき $y = y_0$」という条件で、一般解の任意定数を決定します。
問題:$y' = 2x$ のもとで $y(1) = 3$ を満たす解を求めよ。
一般解は $y = x^2 + C$。$y(1) = 3$ より $1 + C = 3$、$C = 2$。
よって特殊解は $y = x^2 + 2$。
問題:$y' = 2y$ のもとで $y(0) = 5$ を満たす解を求めよ。
一般解は $y = Ae^{2x}$。$y(0) = 5$ より $A = 5$。
よって特殊解は $y = 5e^{2x}$。
微分方程式は「変化のルール」を定めますが、どこから出発するかは決めていません。初期条件がその出発点を指定します。物理では「最初の位置と速度」、生物では「最初の個体数」が初期条件に対応します。同じ法則でも初期条件が違えば、異なる未来が展開されます。
初期値問題に対して、「解は存在するか?」「存在するなら 1 つだけか?」という問いは数学的に重要です。高校で扱う範囲では、ほとんどの場合、解が存在し、しかも一意的です。
✗ 誤:一般解 $y = Ae^{kx}$ に $y = 3$ を代入して「$3 = Ae^{kx}$」と書く
○ 正:初期条件 $y(0) = 3$ は「$x = 0$ のとき $y = 3$」の意味。$3 = Ae^{k \cdot 0} = A$ として $A = 3$ を得る
初期条件の代入では、$x$ にも $y$ にも同時に具体的な値を代入することを忘れないでください。
大学数学では「$f(x, y)$ がリプシッツ条件を満たすとき、初期値問題の解は局所的に存在し、一意的である」というピカール-リンデレフの定理が証明されます。高校の範囲では成り立たない場合はほぼ出てきませんが、$y' = \sqrt{y}$、$y(0) = 0$ のように一意性が崩れる例もあります($y = 0$ と $y = \frac{x^2}{4}$ の両方が解)。
Q1. 微分方程式と通常の方程式の違いを一言で述べてください。
Q2. $y' = 3x^2$ の一般解は?
Q3. $y' = -3y$ の一般解は?
Q4. $y' = 2y$、$y(0) = 3$ の特殊解は?
Q5. 1階微分方程式の一般解に含まれる任意定数は何個ですか?
$y'' = 6x + 2$ を $y(0) = 1$、$y'(0) = -1$ のもとで解け。
1回積分して $y' = 3x^2 + 2x + C_1$。$y'(0) = -1$ より $C_1 = -1$。
$$y' = 3x^2 + 2x - 1$$
もう1回積分して $y = x^3 + x^2 - x + C_2$。$y(0) = 1$ より $C_2 = 1$。
$$y = x^3 + x^2 - x + 1$$
ある物質の量 $N(t)$ は、$\dfrac{dN}{dt} = -0.1N$ を満たす。初期量 $N(0) = 100$ のとき、
(1) $N(t)$ を求めよ。
(2) $N(t)$ が初期量の半分になる時刻(半減期)$t_h$ を求めよ。
(1) $N' = -0.1N$ の一般解は $N = Ae^{-0.1t}$。$N(0) = 100$ より $A = 100$。
$$N(t) = 100e^{-0.1t}$$
(2) $N(t_h) = 50$ より $100e^{-0.1t_h} = 50$。
$e^{-0.1t_h} = \dfrac{1}{2}$ → $-0.1t_h = \log\dfrac{1}{2} = -\log 2$ → $t_h = 10\log 2 \approx 6.93$
曲線 $y = f(x)$ が次の2つの条件を満たすとき、$f(x)$ を求めよ。
条件 1:曲線上の任意の点 $(x, y)$ における接線の傾きが $2x + 1$ に等しい。
条件 2:曲線は点 $(1, 4)$ を通る。
条件 1 より $f'(x) = 2x + 1$。これは $y' = f(x)$ 型の微分方程式です。
$$f(x) = \int(2x + 1)\,dx = x^2 + x + C$$
条件 2 より $f(1) = 4$:$1 + 1 + C = 4$ → $C = 2$
$$f(x) = x^2 + x + 2$$
微分方程式 $\dfrac{dy}{dx} = y^2$ について、以下の問いに答えよ。
(1) $y \neq 0$ のとき、一般解を求めよ。
(2) $y(0) = 1$ を満たす特殊解を求め、この解が定義される $x$ の範囲を示せ。
(3) (2) の解の振る舞いについて、$x \to 1^{-}$($x$ が $1$ に左から近づくとき)の $y$ の様子を述べよ。
(1) $y \neq 0$ のとき $\dfrac{dy}{y^2} = dx$ と変数分離して積分:
$$-\frac{1}{y} = x + C \quad \Longrightarrow \quad y = -\frac{1}{x + C} = \frac{1}{-(x+C)}$$
$C$ を $-C$ に置き換えて $y = \dfrac{1}{C - x}$($C$ は任意定数)。
また $y = 0$ も解(定数解)。
(2) $y(0) = 1$ より $\dfrac{1}{C - 0} = 1$ → $C = 1$。特殊解は $y = \dfrac{1}{1 - x}$。
定義域は分母が $0$ にならない範囲、すなわち $x \neq 1$。初期条件 $y(0) = 1 > 0$ を含む連続な範囲として $x < 1$。
(3) $x \to 1^{-}$ のとき $1 - x \to 0^{+}$ なので $y = \dfrac{1}{1-x} \to +\infty$。
すなわち、$x = 1$ で $y$ は正の無限大に発散します。これは有限時間爆発(finite-time blowup)と呼ばれる現象です。
$y' = y^2$ は「変化率が $y$ の2乗に比例する」という非線形の微分方程式です。$y' = ky$(線形)の解 $e^{kx}$ は $x \to \infty$ で緩やかに発散しますが、$y' = y^2$(非線形)の解は有限の $x$ で発散するという劇的な違いがあります。非線形微分方程式の振る舞いの豊かさを示す好例です。