微分が「変化の瞬間」を捉える道具なら、積分は「変化の蓄積」を計算する道具です。この記事では、速度を積分して位置の変化(変位)を求め、速さの絶対値を積分して道のりを求める方法を学びます。直線上の運動から始め、平面上の運動、そして加速度から速度・位置を復元するプロセスまで体系的に扱います。
数直線上を動く点 $P$ の時刻 $t$ における速度が $v(t)$ であるとき、時刻 $t = a$ から $t = b$ までの間に点 $P$ は移動します。しかし「どれだけ動いたか」には2つの異なる意味があります。
変位(displacement):出発点から到着点までの位置の変化量。正負あり。$\displaystyle\int_a^b v(t)\,dt$
道のり(distance):実際に移動した経路の総延長。常に非負。$\displaystyle\int_a^b |v(t)|\,dt$
変位は「どこにいるか」、道のりは「どれだけ歩いたか」に対応します。往復運動では、変位が $0$ でも道のりは $0$ ではありません。
例えば、家を出て 3 km 東に進み、2 km 西に戻ったとします。変位は $3 - 2 = 1$ km(東向きに 1 km 進んだ)ですが、道のりは $3 + 2 = 5$ km です。
✗ 誤:$\displaystyle\int_0^{2\pi} \sin t\,dt = 0$ だから、$v(t) = \sin t$ の点は動いていない
○ 正:変位は $0$(元の位置に戻った)ですが、道のりは $\displaystyle\int_0^{2\pi} |\sin t|\,dt = 4$ です
「道のりを求めよ」と問われたら $|v(t)|$ を積分する、「変位を求めよ」なら $v(t)$ をそのまま積分する。この使い分けが極めて重要です。
数直線上を動く点 $P$ の時刻 $t$ における位置を $x(t)$、速度を $v(t) = x'(t)$ とします。微積分学の基本定理より:
$$x(b) - x(a) = \int_a^b v(t)\,dt$$
※ 左辺は「位置の変化量」であり、$v(t)$ の正負を含んだ積分が変位を与えます。
この公式は「速度×時間 = 距離」という基本法則の、速度が時刻によって変化する場合への一般化です。速度が定数 $v$ のとき $\displaystyle\int_a^b v\,dt = v(b-a)$ と確かに一致します。
$v(t) = t^2 - 4t + 3 = (t-1)(t-3)$ のとき、$t = 0$ から $t = 4$ までの変位は:
$$\int_0^4 (t^2 - 4t + 3)\,dt = \left[\frac{t^3}{3} - 2t^2 + 3t\right]_0^4 = \frac{64}{3} - 32 + 12 = \frac{4}{3}$$
変位は $\dfrac{4}{3}$ ですが、$v(t) = 0$ となる $t = 1, 3$ の前後で速度の符号が変わるので、点は往復運動をしています。道のりは変位よりも大きくなります。
$\displaystyle\int_a^b v(t)\,dt = x(b) - x(a)$ は、「微分の逆が積分」という微積分学の基本定理そのものです。物理学では「速度の時間積分 = 位置の変化」として使われますが、数学的にはより一般に「導関数の定積分 = 原始関数の端点での値の差」を意味します。ニュートンとライプニッツがそれぞれ独立に発見したこの定理が、微分と積分を結びつける数学史上最も重要な成果の一つです。
道のりは「実際に動いた距離の合計」なので、後退した分も正の値として加算する必要があります。そのため、速度の絶対値を積分します。
時刻 $a$ から $b$ までの道のり $L$ は:
$$L = \int_a^b |v(t)|\,dt$$
※ $|v(t)|$ は「速さ」(speed)と呼ばれ、速度の大きさを表します。
$|v(t)|$ の積分を実行するには、$v(t) = 0$ となる点で区間を分割し、各区間で $v(t)$ の符号を確認して絶対値を外します。これは、$y = v(t)$ のグラフと $t$ 軸で囲まれた部分の面積の合計($t$ 軸の上下を問わず)を求めることに相当します。
先ほどの例 $v(t) = (t-1)(t-3)$ で、$t = 0$ から $t = 4$ までの道のりを求めます。
$v(t) = 0$ のとき $t = 1, 3$。各区間の符号を確認すると:
$$L = \int_0^1 v(t)\,dt - \int_1^3 v(t)\,dt + \int_3^4 v(t)\,dt$$
各積分を計算すると $\dfrac{4}{3}$、$-\dfrac{4}{3}$(符号反転で $\dfrac{4}{3}$)、$\dfrac{4}{3}$ となり、道のりは $\dfrac{4}{3} + \dfrac{4}{3} + \dfrac{4}{3} = 4$ です。
✗ 誤:$v(t) \ge 0$ だと思い込んで $\displaystyle\int_a^b v(t)\,dt$ をそのまま道のりとする
○ 正:まず $v(t) = 0$ を解いて、区間を分割してから各区間の正負を判定する
道のりの問題で最も多いミスは、$v(t)$ が途中で符号を変えることに気づかないことです。必ず $v(t) = 0$ の解を求めてから積分に取りかかりましょう。
✗ 誤:道のりは常に変位とは別物
○ 正:$v(t) \ge 0$(常に正方向に進む)のとき、$|v(t)| = v(t)$ なので道のり = 変位です
常に一方向に進む場合は、絶対値を付けても結果は変わりません。区間分割が不要なので計算は楽になります。
平面上を動く点 $P(x(t), y(t))$ の場合、速度は速度ベクトル $\boldsymbol{v}(t) = \left(\dfrac{dx}{dt},\;\dfrac{dy}{dt}\right)$ として表されます。速さは:
$$|\boldsymbol{v}(t)| = \sqrt{\left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2}$$
$$L = \int_a^b |\boldsymbol{v}(t)|\,dt = \int_a^b \sqrt{\left(\frac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\frac{dy}{dt}\right)^2}\,dt$$
※ これは前の記事で学んだ「媒介変数表示の曲線の長さ」の公式と全く同じです。
「曲線の長さ」と「平面運動の道のり」は、同じ公式で計算されます。前の記事(曲線の長さ)で学んだ $\displaystyle\int_{\alpha}^{\beta}\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2}\,dt$ は、幾何学では弧長、物理学では道のりです。弧長の公式と道のりの公式は、視点が違うだけで本質的に同一です。
平面運動では、速さ $|\boldsymbol{v}(t)|$ は常に $0$ 以上です。そのため、直線運動のように $v(t)$ の符号で区間分割する必要がありません。$\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2}$ はそれ自体が絶対値なので、そのまま積分すれば道のりが得られます。
ただし、直線運動でも $|v(t)|$ を使う場合は同様で、本質的な違いは「1次元では符号で方向を区別できるが、2次元以上ではベクトルで方向を表す」という点にあります。
速度ベクトル $\boldsymbol{v}(t)$ は、曲線の接線方向を向いています。大学の微分幾何学では、弧長パラメータ $s$ を使うと $\left|\dfrac{d\boldsymbol{r}}{ds}\right| = 1$ が成り立ち、これを単位接線ベクトルと呼びます。速さ $|\boldsymbol{v}|$ は「パラメータ $t$ の進みに対して弧長がどれだけ増えるか」、すなわち $\dfrac{ds}{dt}$ に他なりません。
加速度 $a(t)$ が与えられたとき、速度と位置はそれぞれ 1 回、2 回の積分で復元できます。ただし、積分定数を決めるために初期条件が必要です。
$$v(t) = v(0) + \int_0^t a(\tau)\,d\tau$$
$$x(t) = x(0) + \int_0^t v(\tau)\,d\tau$$
※ $v(0)$(初速度)と $x(0)$(初期位置)が初期条件です。
加速度が定数 $a(t) = g$(重力加速度など)の場合:
$$v(t) = v_0 + gt$$
$$x(t) = x_0 + v_0 t + \frac{1}{2}gt^2$$
物理で暗記する「等加速度運動の3公式」は、実は「加速度を 2 回積分する」という一つの操作から導かれます。
✗ 誤:$a(t) = 2t$ を積分して $v(t) = t^2$、さらに積分して $x(t) = \dfrac{t^3}{3}$
○ 正:$v(t) = t^2 + C_1$、$x(t) = \dfrac{t^3}{3} + C_1 t + C_2$ と書き、初期条件で $C_1, C_2$ を決定する
不定積分では積分定数を忘れやすいですが、物理の問題ではこれが初速度や初期位置に対応します。定積分 $\displaystyle\int_0^t$ の形で書けば積分定数は自動的に初期条件に置き換わります。
地上から初速 $v_0$ で鉛直上向きに投げ上げた物体の運動を考えます。上向きを正とすると、加速度は $a(t) = -g$(重力が下向き)です。
$$v(t) = v_0 - gt$$
$$x(t) = v_0 t - \frac{1}{2}gt^2$$
最高点に達するのは $v(t) = 0$、すなわち $t = \dfrac{v_0}{g}$ のときで、このときの高さは:
$$x\!\left(\frac{v_0}{g}\right) = \frac{v_0^2}{2g}$$
地面に戻るまでの時間は $x(t) = 0$ を解いて $t = \dfrac{2v_0}{g}$。この間の道のりは、上昇と下降の合計で $\dfrac{v_0^2}{2g} \times 2 = \dfrac{v_0^2}{g}$ です。一方、変位は $0$(出発点に戻る)です。
位置 $x(t)$ を微分すると速度 $v(t)$、速度を微分すると加速度 $a(t)$。逆に、加速度を積分すると速度、速度を積分すると位置。この微分と積分の逆関係が、運動の解析の全てを支えています。初期条件は「どの時点から出発するか」を指定する役割を担います。
加速度からの位置の復元は、実は $x''(t) = a(t)$ という2階微分方程式を初期条件 $x(0) = x_0$、$x'(0) = v_0$ のもとで解くことに他なりません。次の記事で学ぶ微分方程式は、この考え方を一般化したものです。加速度が位置や速度に依存する場合(例えばバネの復元力 $a = -kx$)には、単純な積分では解けず、微分方程式の理論が必要になります。
Q1. 変位と道のりの違いを一言で述べてください。
Q2. $v(t) = \cos t$ のとき、$t = 0$ から $t = \pi$ までの変位は?
Q3. $v(t) = \cos t$ のとき、$t = 0$ から $t = \pi$ までの道のりは?
Q4. 平面運動 $x = \cos t,\; y = \sin t$ の速さは?
Q5. 加速度 $a(t) = 6t$、初速度 $v(0) = 2$、初期位置 $x(0) = 1$ のとき、$x(t)$ は?
数直線上を動く点 $P$ の時刻 $t$ における速度が $v(t) = t^2 - 5t + 4 = (t-1)(t-4)$ で与えられている。$t = 0$ から $t = 5$ までの道のりを求めよ。
$v(t) = 0$ の解は $t = 1, 4$。
$0 \le t \le 1$:$v(t) \ge 0$、$1 \le t \le 4$:$v(t) \le 0$、$4 \le t \le 5$:$v(t) \ge 0$
$$L = \int_0^1(t^2 - 5t + 4)\,dt - \int_1^4(t^2 - 5t + 4)\,dt + \int_4^5(t^2 - 5t + 4)\,dt$$
$\displaystyle\int_0^1 = \frac{1}{3} - \frac{5}{2} + 4 = \frac{11}{6}$
$\displaystyle\int_1^4 = \frac{64 - 1}{3} - \frac{5(16-1)}{2} + 4 \cdot 3 = 21 - \frac{75}{2} + 12 = -\frac{9}{2}$
$\displaystyle\int_4^5 = \frac{125 - 64}{3} - \frac{5(25-16)}{2} + 4 = \frac{61}{3} - \frac{45}{2} + 4 = \frac{11}{6}$
$$L = \frac{11}{6} + \frac{9}{2} + \frac{11}{6} = \frac{11}{6} + \frac{27}{6} + \frac{11}{6} = \frac{49}{6}$$
平面上を動く点 $P$ が $x = t - \sin t,\; y = 1 - \cos t$($0 \le t \le 2\pi$)に従って運動する。
(1) 時刻 $t$ における速さ $|\boldsymbol{v}(t)|$ を求めよ。
(2) $t = 0$ から $t = 2\pi$ までの道のりを求めよ。
(1) $\dfrac{dx}{dt} = 1 - \cos t$、$\dfrac{dy}{dt} = \sin t$
$$|\boldsymbol{v}|^2 = (1 - \cos t)^2 + \sin^2 t = 2 - 2\cos t = 4\sin^2\frac{t}{2}$$
$0 \le t \le 2\pi$ で $\sin\dfrac{t}{2} \ge 0$ より、$|\boldsymbol{v}(t)| = 2\sin\dfrac{t}{2}$
(2)
$$L = \int_0^{2\pi} 2\sin\frac{t}{2}\,dt = \left[-4\cos\frac{t}{2}\right]_0^{2\pi} = -4(-1) + 4(1) = 8$$
この曲線はサイクロイド(半径 $a = 1$ の円が生成)です。1 アーチの弧長 $L = 8a = 8$ が得られます。速さが $2\sin\dfrac{t}{2}$ と三角関数で表され、半角の公式が計算の鍵となります。
数直線上を動く点 $P$ の加速度が $a(t) = \sin t$ で、$v(0) = 0$、$x(0) = 0$ とする。
(1) $v(t)$ と $x(t)$ を求めよ。
(2) $t = 0$ から $t = 2\pi$ までの道のりを求めよ。
(1) $v(t) = \displaystyle\int_0^t \sin\tau\,d\tau = [-\cos\tau]_0^t = 1 - \cos t$
$x(t) = \displaystyle\int_0^t (1 - \cos\tau)\,d\tau = [t - \sin t]_0^t = t - \sin t$
(2) $v(t) = 1 - \cos t \ge 0$(等号は $t = 0, 2\pi$ のみ)より:
$$L = \int_0^{2\pi}(1 - \cos t)\,dt = [t - \sin t]_0^{2\pi} = 2\pi$$
平面上を動く点 $P$ が $x = a(\cos t + t\sin t),\; y = a(\sin t - t\cos t)$($a > 0$)に従って運動する。
(1) 時刻 $t$ における速さを求めよ。
(2) $t = 0$ から $t = 2\pi$ までの道のりを求めよ。
(3) この曲線は $P$ がどのような運動をしていることを表すか、幾何学的に説明せよ。
(1) $\dfrac{dx}{dt} = a(-\sin t + \sin t + t\cos t) = at\cos t$
$\dfrac{dy}{dt} = a(\cos t - \cos t + t\sin t) = at\sin t$
$$|\boldsymbol{v}| = \sqrt{a^2t^2\cos^2 t + a^2t^2\sin^2 t} = a|t| = at \quad (t \ge 0)$$
(2)
$$L = \int_0^{2\pi} at\,dt = a\left[\frac{t^2}{2}\right]_0^{2\pi} = 2\pi^2 a$$
(3) $r^2 = x^2 + y^2 = a^2(\cos^2 t + t^2\sin^2 t + 2t\sin t\cos t + \sin^2 t + t^2\cos^2 t - 2t\sin t\cos t) = a^2(1 + t^2)$
よって $r = a\sqrt{1 + t^2}$ で、原点からの距離が単調に増加しながら回転する渦巻き状の曲線です。これはインボリュート(伸開線)と呼ばれ、半径 $a$ の円に巻き付けた糸をほどいていくときに糸の端が描く曲線です。
速さが $at$ という $t$ に比例する形になるのは、糸をほどくにつれて「腕の長さ」が $at$ に比例して長くなるためです。$\dot{x}$ と $\dot{y}$ の計算で積の微分を丁寧に実行することが鍵です。