第4章 微分法の応用

近似式
─ 微分で関数を直線に置き換える

関数の値を正確に計算するのが難しい場合、微分を利用して「十分よい近似値」を求めることができます。ここでは $x = a$ の近くでの1次近似式(線形近似)の考え方と、代表的な近似公式、そして誤差の評価方法を学びます。

11次近似の考え方

関数 $y = f(x)$ が $x = a$ で微分可能であるとき、$x = a$ における接線の方程式は次のように書けます。

$$y = f(a) + f'(a)(x - a)$$

$x$ が $a$ に十分近いとき、曲線 $y = f(x)$ は接線にほぼ一致します。これが1次近似(線形近似)の基本アイデアです。

1次近似式(線形近似)

$f(x)$ が $x = a$ で微分可能なとき、$h$ が十分小さければ

$$f(a + h) \approx f(a) + f'(a)h$$

あるいは、$x \approx a$ のとき

$$f(x) \approx f(a) + f'(a)(x - a)$$

ここで $\approx$ は「近似的に等しい」を意味します。$h = x - a$ と置くと両方の式は同じものです。

直感的な理解

微分可能な関数は、十分拡大すると直線に見えます。これは微分の定義そのものから来ています。1次近似とは「曲線を接線で代用する」ことに他なりません。

$f(a+h) - f(a) \approx f'(a)h$ は「$x$ が $a$ から $h$ だけ変化したとき、$f(x)$ の変化量は $f'(a)h$ で近似できる」ことを表しています。

$a = 0$ のとき(マクローリン型1次近似)

特に $a = 0$ として $|x|$ が十分小さいとき、近似式は次のように簡潔になります。

$$f(x) \approx f(0) + f'(0)x$$

この形は非常によく使われます。以降のセクションでは主にこの $a = 0$ の場合の近似公式を導きます。

2基本的な近似公式

$|x|$ が十分小さいとき、以下の近似式が成り立ちます。すべて $a = 0$ での1次近似として導くことができます。

代表的な近似公式($|x| \ll 1$ のとき)

(1) $\sqrt{1 + x} \approx 1 + \dfrac{x}{2}$

(2) $(1 + x)^n \approx 1 + nx$ ($n$ は任意の実数)

(3) $e^x \approx 1 + x$

(4) $\sin x \approx x$

(5) $\cos x \approx 1 - \dfrac{x^2}{2}$(2次近似)

(6) $\ln(1 + x) \approx x$

(7) $\tan x \approx x$

公式 (1) の導出:$\sqrt{1 + x}$ の近似

$f(x) = \sqrt{1 + x} = (1 + x)^{1/2}$ とおくと

$$f(0) = 1, \quad f'(x) = \frac{1}{2}(1+x)^{-1/2}, \quad f'(0) = \frac{1}{2}$$

したがって

$$\sqrt{1+x} \approx f(0) + f'(0) \cdot x = 1 + \frac{x}{2}$$

公式 (2) の導出:$(1 + x)^n$ の近似

$f(x) = (1+x)^n$ とおくと

$$f(0) = 1, \quad f'(x) = n(1+x)^{n-1}, \quad f'(0) = n$$

したがって

$$(1+x)^n \approx 1 + nx$$

この公式は $n$ が自然数でなくても成り立つ点が重要です。$n = 1/2$ とすれば公式 (1) が得られ、$n = -1$ とすれば $\dfrac{1}{1+x} \approx 1 - x$ が得られます。

公式 (5) が2次近似である理由

$\cos x$ に1次近似を適用すると $\cos x \approx \cos 0 + (-\sin 0) \cdot x = 1$ となり、情報量がありません。$\cos x$ は偶関数なので奇数次の項が消え、意味のある近似には2次の項まで必要です。2次近似(テイラー展開の2次まで)を用いて $\cos x \approx 1 - x^2/2$ が得られます。

3近似式の応用例

例題1:$\sqrt{4.02}$ の近似値

$\sqrt{4.02}$ を近似公式を使って求めてみましょう。

$\sqrt{4.02} = \sqrt{4 \cdot 1.005} = 2\sqrt{1.005}$ と変形します。

$\sqrt{1+x} \approx 1 + \dfrac{x}{2}$ で $x = 0.005$ とおくと

$$\sqrt{1.005} \approx 1 + \frac{0.005}{2} = 1.0025$$

したがって

$$\sqrt{4.02} \approx 2 \times 1.0025 = 2.005$$

(電卓による正確な値:$\sqrt{4.02} = 2.004994\cdots$ なので、非常に良い近似です。)

例題2:$\dfrac{1}{1.03}$ の近似値

$(1+x)^n \approx 1 + nx$ で $n = -1$, $x = 0.03$ とおくと

$$\frac{1}{1.03} = (1+0.03)^{-1} \approx 1 + (-1)(0.03) = 0.97$$

(正確な値:$1/1.03 = 0.97087\cdots$)

例題3:$e^{0.1}$ の近似値

$e^x \approx 1 + x$ で $x = 0.1$ とおくと

$$e^{0.1} \approx 1 + 0.1 = 1.1$$

(正確な値:$e^{0.1} = 1.10517\cdots$)

近似計算のコツ

近似公式を使うには、まず $1 + (\text{小さな量})$ の形に変形することが大切です。$\sqrt{4.02}$ をそのまま近似するのではなく、$2\sqrt{1+0.005}$ に変形してから公式を適用します。

例題4:複合的な近似

$|x|$ が十分小さいとき、$\dfrac{e^x}{\sqrt{1+2x}}$ を1次式で近似せよ。

$e^x \approx 1 + x$ と $\sqrt{1+2x} \approx 1 + x$ を用いて

$$\frac{e^x}{\sqrt{1+2x}} \approx \frac{1+x}{1+x} = 1$$

これでは情報が少ないので、もう少し精密に計算します。$\dfrac{1}{1+x} \approx 1 - x$ を用いて

$$\frac{1+x}{1+x} = 1$$

分子・分母をより正確に展開すると、$e^x = 1 + x + \dfrac{x^2}{2} + \cdots$ と $\dfrac{1}{\sqrt{1+2x}} = 1 - x + \dfrac{3x^2}{2} + \cdots$ から

$$\frac{e^x}{\sqrt{1+2x}} \approx 1 + 0 \cdot x + \cdots = 1$$

よって1次近似では定数 $1$ となります。(より精密な近似にはテイラー展開が有効です。)

4誤差の評価

近似式を使う以上、「近似がどの程度正確か」を知ることが重要です。ここでは誤差(残余項)の評価について考えます。

1次近似の誤差

$f(a+h)$ の1次近似における誤差 $R$ は

$$R = f(a+h) - \{f(a) + f'(a)h\}$$

で定義されます。$f(x)$ が2回微分可能であるとき、平均値の定理の拡張(テイラーの定理)により

1次近似の誤差評価(ラグランジュの剰余項)

$f(x)$ が $a$ を含む区間で2回連続微分可能なとき

$$R = \frac{f''(c)}{2}h^2$$

を満たす $c$($a$ と $a+h$ の間)が存在する。

特に $|f''(x)| \leq M$ のとき $|R| \leq \dfrac{M}{2}h^2$ と評価できます。

例:$\sqrt{1+x}$ の近似誤差

$f(x) = \sqrt{1+x}$ のとき、$f''(x) = -\dfrac{1}{4}(1+x)^{-3/2}$ です。

$0 \leq x \leq 0.1$ の範囲では $|f''(x)| \leq |f''(0)| = \dfrac{1}{4}$ なので

$$|R| \leq \frac{1/4}{2} \cdot x^2 = \frac{x^2}{8}$$

$x = 0.1$ のとき $|R| \leq \dfrac{0.01}{8} = 0.00125$ です。

実際に $\sqrt{1.1} = 1.04880\cdots$ と近似値 $1 + 0.05 = 1.05$ を比べると、誤差は $0.00120\cdots$ であり、評価 $0.00125$ は正しいことがわかります。

注意:近似の有効範囲

$|x|$ が大きくなると近似の精度は急激に悪化します。

$\sqrt{1+1} = \sqrt{2}$ に対して $1 + 1/2 = 1.5$(誤差 $0.086\cdots$)

$\sqrt{1+0.01}$ に対して $1 + 0.005 = 1.005$(誤差 $0.000012\cdots$)

近似式は $|h|$(または $|x|$)が小さいときにのみ信頼できます。誤差が $h^2$ に比例するため、$|h|$ が $1/10$ になると誤差は $1/100$ になります。

相対誤差と絶対誤差

絶対誤差とは近似値と真の値の差の絶対値 $|R|$ です。一方、相対誤差は絶対誤差を真の値で割ったもので、$\dfrac{|R|}{|f(a+h)|}$ で表されます。

同じ絶対誤差でも、真の値が大きい場合は相対誤差は小さくなります。実用上は相対誤差の方が精度の指標として重要です。

5近似と微分の深い関係

近似式は微分の定義と密接に関連しています。微分の定義を思い出しましょう。

$$f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h) - f(a)}{h}$$

これは $h \to 0$ のとき $\dfrac{f(a+h) - f(a)}{h} \approx f'(a)$ と言い換えられます。両辺に $h$ を掛けると

$$f(a+h) - f(a) \approx f'(a) \cdot h$$

すなわち $f(a+h) \approx f(a) + f'(a)h$ となり、1次近似式が得られます。

微分=最良の1次近似

微分係数 $f'(a)$ は「$x = a$ における最良の1次近似の傾き」を与えます。接線は曲線に「最もよくフィットする直線」であり、これこそが微分の幾何学的な意味です。

この考え方は、テイラー展開($n$ 次の最良近似多項式)へと一般化されます。

微分と差分の関係

$dx$ を「$x$ の微小変化量」、$dy = f'(x)dx$ を「$y$ の微分」とすると、近似式は

$$\Delta y \approx dy$$

と書けます。ここで $\Delta y = f(x + \Delta x) - f(x)$ は実際の変化量、$dy = f'(x) \Delta x$ は接線上での変化量です。

すなわち、微分 $dy$ は差分 $\Delta y$ の近似です。この関係が近似式の本質です。

発展:高次の近似へ

1次近似の精度に満足できない場合、2次以上の項を加えて精度を上げることができます。これがテイラー展開の考え方で、この章の後半で詳しく学びます。

$$f(a+h) \approx f(a) + f'(a)h + \frac{f''(a)}{2}h^2 + \cdots$$

まとめ

  • 1次近似式:$f(a+h) \approx f(a) + f'(a)h$($|h|$ が十分小さいとき)
  • 代表的な公式($|x| \ll 1$):$\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2$, $(1+x)^n \approx 1+nx$, $e^x \approx 1+x$, $\sin x \approx x$, $\ln(1+x) \approx x$
  • 誤差評価:1次近似の誤差は $|R| \leq \dfrac{M}{2}h^2$($M$ は $|f''|$ の上界)
  • 近似の本質:微分 $dy$ は差分 $\Delta y$ の近似。接線による曲線の代用が1次近似。
  • 活用のコツ:$1 + (\text{小さな量})$ の形に変形してから公式を適用する。

確認テスト

Q1. $|x|$ が十分小さいとき、$(1+x)^5$ の1次近似式を求めよ。

クリックして解答を表示 $(1+x)^5 \approx 1 + 5x$
$(1+x)^n \approx 1 + nx$ で $n = 5$ とする。

Q2. $\sqrt{1.02}$ の近似値を求めよ。

クリックして解答を表示 $\sqrt{1.02} = \sqrt{1 + 0.02} \approx 1 + \dfrac{0.02}{2} = 1.01$
(正確な値:$1.00995\cdots$)

Q3. $|x|$ が十分小さいとき、$e^x \sin x$ を1次式で近似せよ。

クリックして解答を表示 $e^x \sin x \approx (1+x) \cdot x = x + x^2 \approx x$
1次の項のみ残すと $e^x \sin x \approx x$。

Q4. $\dfrac{1}{\sqrt{1+x}}$ の1次近似式を $(1+x)^n \approx 1+nx$ を用いて求めよ。

クリックして解答を表示 $\dfrac{1}{\sqrt{1+x}} = (1+x)^{-1/2} \approx 1 + \left(-\dfrac{1}{2}\right)x = 1 - \dfrac{x}{2}$

Q5. $\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2$ の近似で $x = 0.04$ としたときの誤差の上界を求めよ。

クリックして解答を表示 $f''(x) = -\dfrac{1}{4}(1+x)^{-3/2}$ より $|f''(x)| \leq 1/4$($x \geq 0$)。
$|R| \leq \dfrac{1/4}{2} \cdot (0.04)^2 = \dfrac{0.0016}{8} = 0.0002$

入試問題演習

問題 A1 レベルA 近似計算

$|x|$ が十分小さいとき、次の関数を $x$ の1次式で近似せよ。

(1) $\dfrac{1}{(1+x)^3}$

(2) $\sqrt[3]{1+x}$

(3) $\ln(1+2x)$

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解答

(1) $(1+x)^{-3} \approx 1 + (-3)x = 1 - 3x$

(2) $(1+x)^{1/3} \approx 1 + \dfrac{1}{3}x$

(3) $\ln(1+2x) \approx 2x$($\ln(1+t) \approx t$ で $t = 2x$)

解説

(1)(2) は $(1+x)^n \approx 1 + nx$ に $n = -3, 1/3$ を代入します。(3) は $\ln(1+t) \approx t$ の $t$ に $2x$ を代入します。いずれも基本公式の直接適用です。

問題 B1 レベルB 近似の応用

$x = 0$ の近くで $\dfrac{\sqrt{1+x} - 1}{\sin x}$ の近似値を求めよ。また、これを用いて $\displaystyle \lim_{x \to 0}\frac{\sqrt{1+x}-1}{\sin x}$ の値を求めよ。

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解答

$\sqrt{1+x} \approx 1 + \dfrac{x}{2}$ より $\sqrt{1+x} - 1 \approx \dfrac{x}{2}$

$\sin x \approx x$ より

$$\frac{\sqrt{1+x}-1}{\sin x} \approx \frac{x/2}{x} = \frac{1}{2}$$

したがって $\displaystyle \lim_{x \to 0}\frac{\sqrt{1+x}-1}{\sin x} = \frac{1}{2}$

解説

分子と分母にそれぞれ近似式を適用し、$x \neq 0$ として $x$ を約分します。近似式による極限の計算は、不定形 $0/0$ の処理に非常に有効です。これはロピタルの定理とも整合する結果です。

問題 B2 レベルB 誤差評価

$e^x \approx 1 + x$ の近似を $0 \leq x \leq 0.5$ の範囲で用いるとき、絶対誤差が $0.1$ 以下であることを示せ。

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解答

$f(x) = e^x$ のとき $f''(x) = e^x$ である。

$0 \leq x \leq 0.5$ において $|f''(x)| = e^x \leq e^{0.5} < e < 3$ とすると

$$|R| \leq \frac{3}{2} \cdot (0.5)^2 = \frac{3}{2} \cdot 0.25 = 0.375$$

より精密には $e^{0.5} < 1.65$ を用いて

$$|R| \leq \frac{1.65}{2} \cdot (0.5)^2 = 0.206\cdots$$

$x$ の最大値が $0.5$ のとき誤差が最大となるが、実際には $x = 0.5$ での誤差は $e^{0.5} - 1.5 = 0.1487\cdots$ であり、$0.1$ を少し超える。

よって $0 \leq x \leq 0.44$ 程度の範囲では絶対誤差が $0.1$ 以下であることが示せる。

解説

ラグランジュの剰余項を用いた誤差評価の実践問題です。$f''(c)$ の上界を適切に見積もることがポイントです。範囲が広いと近似精度が低下する点にも注意しましょう。

問題 C1 レベルC 近似と極限の融合

$|x|$ が十分小さいとき、次の極限値を近似式を利用して求めよ。

$$\lim_{x \to 0} \frac{e^x - 1 - x}{x^2}$$
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解答

$e^x$ の2次近似を用いる:$e^x \approx 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$

$$e^x - 1 - x \approx \frac{x^2}{2}$$

$$\frac{e^x - 1 - x}{x^2} \approx \frac{x^2/2}{x^2} = \frac{1}{2}$$

$$\therefore \lim_{x \to 0} \frac{e^x - 1 - x}{x^2} = \frac{1}{2}$$

解説

分子 $e^x - 1 - x$ では1次の項まで消えるため、1次近似では $0$ となってしまいます。2次の項まで展開すると $x^2/2$ が残り、$x^2$ と約分して $1/2$ が得られます。このように高次の項が本質的な問題では、必要な次数まで展開することが重要です。この結果はロピタルの定理を2回適用しても確認できます。

採点のポイント
  • 2次近似 $e^x \approx 1 + x + x^2/2$ を正しく適用(3点)
  • 分子の計算が正確(2点)
  • 極限値 $1/2$ の導出(2点)