第4章 微分法の応用

速度・加速度
─ 微分で「運動」を読み解く

数直線上や平面上を動く点の位置が時刻 $t$ の関数で表されるとき、微分は速度を、2回微分は加速度を与えます。微分が「変化率」を表すという本質が、物理学の運動の記述に直結する場面です。速さ・向き・減速と加速の判定法を整理しましょう。

1直線上の運動 ─ 速度と加速度

数直線上を動く点 P の時刻 $t$ における座標が $x = f(t)$ で与えられるとき、P の運動を微分で記述できます。

📐 速度と加速度の定義

速度:$v = \dfrac{dx}{dt} = f'(t)$(位置の時間微分)

加速度:$a = \dfrac{dv}{dt} = \dfrac{d^2x}{dt^2} = f''(t)$(速度の時間微分)

速度 $v$ は正なら正の向き、負なら負の向きに運動していることを表す。

💡 微分と運動の対応

位置 $x(t)$速度 $v(t) = x'(t)$加速度 $a(t) = v'(t) = x''(t)$

微分は「変化率」を与える演算なので、位置の変化率が速度、速度の変化率が加速度です。逆に、加速度を積分すると速度、速度を積分すると位置が得られます。

▷ 例題1:$x = t^3 - 6t^2 + 9t$ の運動

$v = 3t^2 - 12t + 9 = 3(t-1)(t-3)$

$a = 6t - 12 = 6(t-2)$

$v = 0$ のとき $t = 1, 3$。$t < 1$ で $v > 0$(正の向き)、$1 < t < 3$ で $v < 0$(負の向き)、$t > 3$ で $v > 0$。

$t = 1$ で折り返し:$x(1) = 4$。$t = 3$ で再び折り返し:$x(3) = 0$。

⚠️ 速度 = 0 でも停止とは限らない

✕ 誤:$v = 0$ のとき点は停止している

○ 正:$v = 0$ は瞬間的に速度が $0$ になっただけで、通常はすぐに動き出す(折り返し点)

例題1の $t = 1$ では速度が $0$ になりますが、点は正の方向から負の方向へ折り返すだけです。

2速さと速度の違い

📐 速度と速さ

速度(velocity):$v = f'(t)$(正負の符号あり=向きの情報を含む)

速さ(speed):$|v| = |f'(t)|$(常に非負=大きさのみ)

⚠️ 「速さ」を問われたら絶対値

✕ 誤:速さ = 速度

○ 正:速さ $= |v|$。速度は向き付き、速さは大きさのみ

入試問題で「速さ」が問われたときに負の値を答えると減点されます。

加速と減速の判定

📐 加速・減速の条件

加速中:$v$ と $a$ が同符号(速さ $|v|$ が増加中)

減速中:$v$ と $a$ が異符号(速さ $|v|$ が減少中)

※ 速さ $|v|$ の時間微分を考えると:$\dfrac{d}{dt}|v| = \dfrac{va}{|v|}$。$va > 0$(同符号)なら速さ増加、$va < 0$(異符号)なら速さ減少。

💡 「速度」と「加速度」の符号の組み合わせ

$v > 0, a > 0$:正方向に加速(どんどん速くなる)

$v > 0, a < 0$:正方向に減速(ブレーキ)

$v < 0, a < 0$:負方向に加速(逆向きに速くなる)

$v < 0, a > 0$:負方向に減速(逆向きにブレーキ)

3平面上の運動

平面上の点の位置が $(x(t), y(t))$ で表されるとき、速度と加速度はベクトルとして表されます。

📐 平面上の速度ベクトルと速さ

速度ベクトル:$\vec{v} = \left(\dfrac{dx}{dt}, \dfrac{dy}{dt}\right)$

速さ:$|\vec{v}| = \sqrt{\left(\dfrac{dx}{dt}\right)^2 + \left(\dfrac{dy}{dt}\right)^2}$

加速度ベクトル:$\vec{a} = \left(\dfrac{d^2x}{dt^2}, \dfrac{d^2y}{dt^2}\right)$

▷ 例題2:円運動 $x = r\cos\omega t$, $y = r\sin\omega t$

$\dfrac{dx}{dt} = -r\omega\sin\omega t$, $\dfrac{dy}{dt} = r\omega\cos\omega t$

速さ:$|\vec{v}| = \sqrt{r^2\omega^2\sin^2\omega t + r^2\omega^2\cos^2\omega t} = r\omega$(一定!)

$\dfrac{d^2x}{dt^2} = -r\omega^2\cos\omega t$, $\dfrac{d^2y}{dt^2} = -r\omega^2\sin\omega t$

$\vec{a} = -\omega^2(r\cos\omega t, r\sin\omega t) = -\omega^2 \vec{r}$(中心向きの加速度=向心加速度)

🔬 ニュートンの運動方程式

物理学のニュートンの運動方程式 $F = ma$ は「力=質量×加速度」です。加速度は位置の2階微分 $\dfrac{d^2x}{dt^2}$ なので、運動方程式は本質的に2階常微分方程式です。微分方程式を解くことで物体の運動(位置の時間関数)が決定されます。

4媒介変数表示の速度と加速度

曲線が $x = f(t)$, $y = g(t)$ と媒介変数表示されているとき、$\dfrac{dy}{dx}$ は速度成分の比で表されます。

📐 媒介変数表示と $\dfrac{dy}{dx}$

$$\frac{dy}{dx} = \frac{dy/dt}{dx/dt} = \frac{\dot{y}}{\dot{x}}$$

(ただし $\dot{x} \neq 0$。ドットは $t$ についての微分を表す)

▷ 例題3:サイクロイド $x = a(t - \sin t)$, $y = a(1 - \cos t)$

$\dot{x} = a(1 - \cos t)$, $\dot{y} = a\sin t$

速さ:$|\vec{v}| = a\sqrt{(1-\cos t)^2 + \sin^2 t} = a\sqrt{2 - 2\cos t} = 2a\left|\sin\dfrac{t}{2}\right|$

$\dfrac{dy}{dx} = \dfrac{\sin t}{1 - \cos t} = \dfrac{2\sin(t/2)\cos(t/2)}{2\sin^2(t/2)} = \dfrac{\cos(t/2)}{\sin(t/2)} = \cot\dfrac{t}{2}$

$t = 0$ で $\dot{x} = 0$, $\dot{y} = 0$。このとき速度ベクトルは零ベクトルで、尖点(カスプ)が生じます。

⚠️ $\dot{x} = 0$ となる点

✕ 誤:$\dot{x} = 0$ でも $dy/dx$ は計算できる

○ 正:$\dot{x} = 0$ のとき $dy/dx$ は定義されない。接線が垂直になるか、尖点が生じる

$\dot{x} = 0$ かつ $\dot{y} \neq 0$ なら接線は垂直。$\dot{x} = \dot{y} = 0$ なら特異点(尖点など)。

5運動の問題の典型パターン

問われること使う式
ある時刻の速度$v(t_0) = x'(t_0)$
ある時刻の速さ$|v(t_0)| = |x'(t_0)|$
折り返しの時刻$v(t) = 0$ を解く
移動距離$\displaystyle\int_{t_1}^{t_2} |v(t)| \, dt$
加速か減速か$v(t)$ と $a(t)$ の符号を比較
最大速さ$|v(t)|$ の最大値を求める
💡 移動距離 ≠ 変位

変位(displacement):$x(t_2) - x(t_1) = \displaystyle\int_{t_1}^{t_2} v(t) \, dt$(符号付き)

移動距離(distance):$\displaystyle\int_{t_1}^{t_2} |v(t)| \, dt$(常に正)

折り返しがある場合、移動距離 $>$ 変位の絶対値 となります。

🔬 相対運動と座標系の選択

大学物理では運動を記述する座標系の選び方が重要になります。直交座標だけでなく、極座標 $(r, \theta)$ を使うと、円運動や楕円軌道の記述が簡潔になります。数学IIIの媒介変数表示は、座標系の自由な選択の基礎です。

まとめ

  • 速度 ─ $v = x'(t)$。正の値なら正方向、負の値なら負方向の運動
  • 加速度 ─ $a = v'(t) = x''(t)$。速度の変化率
  • 速さ ─ $|v|$。速度の絶対値(常に非負)
  • 加速・減速 ─ $v$ と $a$ が同符号なら加速、異符号なら減速
  • 平面の速さ ─ $\sqrt{\dot{x}^2 + \dot{y}^2}$。移動距離は $\displaystyle\int |v| \, dt$

確認テスト

Q1. $x = t^2 - 4t$ のとき、$t = 3$ での速度と速さを求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $v = 2t - 4$。$v(3) = 2$(速度)、速さは $|v(3)| = 2$。

Q2. 速度と加速度が異符号のとき、物体は加速中か減速中か。

▶ クリックして解答を表示 減速中。速さ $|v|$ が時間とともに減少している。

Q3. 変位と移動距離の違いを述べよ。

▶ クリックして解答を表示 変位は $x(t_2) - x(t_1)$(符号あり)。移動距離は $\int|v|\,dt$(常に正)。折り返しがあると移動距離 $>$ $|$変位$|$。

Q4. 等速円運動 $x = r\cos\omega t$, $y = r\sin\omega t$ の速さを求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $|\vec{v}| = r\omega$(一定)。

Q5. 折り返し点とは何か。速度と位置の関係で説明せよ。

▶ クリックして解答を表示 速度 $v = 0$ で、かつ $v$ の符号が前後で変わる点。位置の極値に対応する。

入試問題演習

問題 1 A 基礎 直線運動

点 P が数直線上を $x = 2t^3 - 9t^2 + 12t$ に従って動くとき、$t \geq 0$ での速度と加速度を求め、P の運動を分析せよ。

解答

$v = 6t^2 - 18t + 12 = 6(t-1)(t-2)$

$a = 12t - 18 = 6(2t - 3)$

$v = 0$ のとき $t = 1, 2$。$x(0) = 0$, $x(1) = 5$, $x(2) = 4$。

$0 \leq t < 1$:$v > 0$(正方向に移動)、$t = 1$ で折り返し、$1 < t < 2$:$v < 0$(負方向に移動)、$t = 2$ で再び折り返し。

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問題 2 B 標準 移動距離

$x = t^3 - 3t$ で動く点の $t = 0$ から $t = 2$ までの移動距離を求めよ。

解答

$v = 3t^2 - 3 = 3(t+1)(t-1)$。$t = 1$ で $v = 0$($0 \leq t \leq 2$ の範囲で)。

$0 \leq t < 1$:$v < 0$、$1 < t \leq 2$:$v > 0$

$x(0) = 0$, $x(1) = -2$, $x(2) = 2$

移動距離 $= |x(1) - x(0)| + |x(2) - x(1)| = |-2| + |4| = 6$

(変位は $x(2) - x(0) = 2$ だが、移動距離は $6$)

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問題 3 B 標準 平面運動

平面上の点 P が $x = \cos t + t\sin t$, $y = \sin t - t\cos t$($t \geq 0$)で動くとき、$t$ における速さを求めよ。

解答

$\dot{x} = -\sin t + \sin t + t\cos t = t\cos t$

$\dot{y} = \cos t - \cos t + t\sin t = t\sin t$

速さ $= \sqrt{t^2\cos^2 t + t^2\sin^2 t} = \sqrt{t^2} = |t| = t$($t \geq 0$)

解説

この曲線はインボリュート(伸開線)と呼ばれる曲線で、速さが $t$ に比例するという美しい性質をもちます。

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問題 4 C 発展 加速・減速

$x = e^{-t}\sin t$($t \geq 0$)で動く点について、速度・加速度を求め、点が減速している時間帯を求めよ。

解答

$v = -e^{-t}\sin t + e^{-t}\cos t = e^{-t}(\cos t - \sin t) = \sqrt{2}e^{-t}\cos\!\left(t + \dfrac{\pi}{4}\right)$

$a = -e^{-t}(\cos t - \sin t) + e^{-t}(-\sin t - \cos t) = -2e^{-t}\cos t$

減速条件:$va < 0$

$va = \sqrt{2}e^{-t}\cos(t + \pi/4) \cdot (-2e^{-t}\cos t) = -2\sqrt{2}e^{-2t}\cos(t + \pi/4)\cos t$

$va < 0$ のとき $\cos(t + \pi/4)\cos t > 0$(同符号)

各区間で $\cos(t + \pi/4)$ と $\cos t$ の符号を調べ、両方正または両方負の区間が減速区間です。

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