第4章 微分法の応用

不等式の証明(微分利用)
─ 関数の増減で不等式を攻略する

微分法は不等式の証明に強力な武器となります。「$f(x) \geq g(x)$ を示せ」という問題は「$h(x) = f(x) - g(x) \geq 0$ を示せ」と読み替え、$h(x)$ の最小値が $0$ 以上であることを微分で示す──これが基本戦略です。接線を利用する方法や平均値の定理を組み合わせた手法も含め、不等式証明のパターンを体系的に整理します。

1基本戦略 ─ 差関数の最小値

📐 微分による不等式証明の基本手順

$f(x) \geq g(x)$ を示したい場合:

Step 1. $h(x) = f(x) - g(x)$ とおく

Step 2. $h'(x)$ を計算し、$h(x)$ の増減を調べる

Step 3. $h(x)$ の最小値が $\geq 0$ であることを確認する

💡 なぜ微分で不等式が証明できるのか

「$h(x) \geq 0$」を示すことと「$h(x)$ の最小値 $\geq 0$」は同値です。微分は最小値を見つける道具なので、不等式の証明に直結します。

等号条件は最小値を与える $x$ の値に対応します。

▷ 例題1:$e^x \geq 1 + x$(全実数)

$h(x) = e^x - 1 - x$ とおく。$h'(x) = e^x - 1$。

$h'(x) = 0$ のとき $x = 0$。$x < 0$ で $h' < 0$、$x > 0$ で $h' > 0$。

$x = 0$ で最小値 $h(0) = 1 - 1 - 0 = 0$。

よって $h(x) \geq 0$、すなわち $e^x \geq 1 + x$(等号は $x = 0$)。

⚠️ 定義域と端点の確認

✕ 誤:最小値だけ確認すれば十分

○ 正:開区間や半開区間では端点での極限も確認が必要

$x \to \pm\infty$ や定義域の端で $h(x) \to -\infty$ にならないことを確認しましょう。

2指数・対数の不等式

▷ 例題2:$x > 0$ のとき $e^x > 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$

$h(x) = e^x - 1 - x - \dfrac{x^2}{2}$。$h'(x) = e^x - 1 - x$。

例題1から $e^x \geq 1 + x$ なので $h'(x) \geq 0$。等号は $x = 0$ のみ。

$x > 0$ のとき $h'(x) > 0$ なので $h$ は狭義単調増加。

$h(0) = 0$ と合わせて、$x > 0$ のとき $h(x) > h(0) = 0$。

▷ 例題3:$x > 0$ のとき $\log(1+x) < x$

$h(x) = x - \log(1+x)$。$h'(x) = 1 - \dfrac{1}{1+x} = \dfrac{x}{1+x}$。

$x > 0$ のとき $h'(x) > 0$ なので $h$ は増加。

$h(0) = 0$ なので、$x > 0$ で $h(x) > 0$、すなわち $\log(1+x) < x$。

💡 不等式の「積み重ね」テクニック

例題2では $e^x \geq 1 + x$(例題1の結果)を $h'(x)$ の評価に利用しています。このように、すでに示した不等式を次の不等式の証明に再利用する「積み重ね」は、指数・対数の不等式で頻出するテクニックです。

⚠️ $x$ の範囲に注意

✕ 誤:$\log(1+x) < x$ は全実数で成り立つ

○ 正:$x > -1$ かつ $x \neq 0$ の範囲で成り立つ。$x = 0$ で等号

$\log(1+x)$ は $x > -1$ でしか定義されません。また $-1 < x < 0$ でも $\log(1+x) < x$ が成り立ちますが、符号が変わるので注意。

3三角関数の不等式

▷ 例題4:$x > 0$ のとき $\sin x < x$

$h(x) = x - \sin x$。$h'(x) = 1 - \cos x \geq 0$。等号は $x = 2n\pi$。

$x > 0$ のとき $h(x) > h(0) = 0$($h$ は広義単調増加だが $h'(x) = 0$ となる点は孤立的なので狭義増加)。

よって $x > 0$ で $\sin x < x$。

▷ 例題5:$x > 0$ のとき $\cos x > 1 - \dfrac{x^2}{2}$

$h(x) = \cos x - 1 + \dfrac{x^2}{2}$。$h'(x) = -\sin x + x = x - \sin x$。

例題4から $x > 0$ で $\sin x < x$ なので $h'(x) > 0$。

$h(0) = 0$ と $h$ が増加であることから、$x > 0$ で $h(x) > 0$。

🔬 テイラー展開との関係

$e^x \geq 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$、$\sin x < x$、$\cos x > 1 - \dfrac{x^2}{2}$ はいずれもテイラー展開の近似精度に関する不等式です。テイラー展開 $e^x = 1 + x + \dfrac{x^2}{2!} + \cdots$ の途中で切ると、残りの項の符号によって不等号の向きが決まります。

⚠️ $h'(x) = 0$ の点での厳密さ

✕ 誤:$h'(x) \geq 0$ なら $h(x) > h(0)$

○ 正:$h'(x) \geq 0$ で $h'(x) = 0$ となる点が孤立的なら $h(x) > h(0)$

$h'(x) = 0$ が区間全体で成り立つなら $h$ は定数で $h(x) = h(0)$ です。孤立点でのみ $0$ になる場合は狭義不等式が成立します。

4接線を利用する方法

凹凸と接線の位置関係を利用して不等式を証明する方法です(III-4-7で学んだ内容の応用)。

📐 接線不等式

下に凸($f'' > 0$)の関数は接線の上にある:$f(x) \geq f(a) + f'(a)(x-a)$

上に凸($f'' < 0$)の関数は接線の下にある:$f(x) \leq f(a) + f'(a)(x-a)$

▷ 例題6:$x > 0$ のとき $\sqrt{x} \leq \dfrac{x+1}{2}$

$f(x) = \sqrt{x}$。$f''(x) = -\dfrac{1}{4x^{3/2}} < 0$ なので上に凸。

$x = 1$ における接線:$y = f(1) + f'(1)(x-1) = 1 + \dfrac{1}{2}(x-1) = \dfrac{x+1}{2}$

上に凸なので $f(x) \leq$ 接線、すなわち $\sqrt{x} \leq \dfrac{x+1}{2}$(等号 $x = 1$)。

これは相加平均≧相乗平均 $\dfrac{x+1}{2} \geq \sqrt{x \cdot 1}$ と同じ不等式です。

💡 凹凸と不等式の対応

接線不等式は、どの点で接線を引くかで異なる不等式が得られます。適切な接点を選ぶことが証明のポイントです。等号条件から逆算して接点を決めるのが効率的です。

52変数の不等式への帰着

$a$, $b$ の2変数に関する不等式でも、一方を固定すれば1変数の問題に帰着できます。

▷ 例題7:$a > 0$, $b > 0$ のとき $e^{a+b} \geq e \cdot (a+b)^{ab}$ は…?

このような2変数問題では、$t = a + b$ や $s = ab$ のように変数を置き換えて1変数化するか、$b$ を定数と見て $a$ の関数として微分するアプローチをとります。

入試では「$a \geq b > 0$ のとき $\dfrac{e^a - e^b}{a - b} \geq e^{(a+b)/2}$」のように平均値の定理で処理できる形に帰着されることも多いです。

🔬 凸関数のイェンセンの不等式

接線不等式の自然な一般化がイェンセン(Jensen)の不等式です:$f$ が下に凸のとき、$f\!\left(\dfrac{x_1 + x_2 + \cdots + x_n}{n}\right) \leq \dfrac{f(x_1) + f(x_2) + \cdots + f(x_n)}{n}$。相加相乗平均の不等式を含む多くの古典的不等式がこれの特殊ケースです。

まとめ

  • 差関数の最小値法 ─ $h(x) = f(x) - g(x)$ の最小値 $\geq 0$ を示す。最も基本的な手法
  • 積み重ねテクニック ─ 既知の不等式を次の不等式の証明に利用する。$e^x \geq 1+x$ から $e^x \geq 1+x+\dfrac{x^2}{2}$ へ
  • 接線不等式 ─ 下に凸 → 曲線は接線の上、上に凸 → 曲線は接線の下
  • テイラー展開との関係 ─ $\sin x < x$, $\cos x > 1-\dfrac{x^2}{2}$ はテイラー近似の精度保証
  • 等号条件 ─ 最小値を与える $x$ の値=等号が成立する $x$

確認テスト

Q1. $f(x) \geq g(x)$ を微分で示すための基本手順を述べよ。

▶ クリックして解答を表示 $h(x) = f(x) - g(x)$ とおき、$h'(x)$ の符号から $h(x)$ の増減を調べ、$h(x)$ の最小値が $0$ 以上であることを示す。

Q2. $e^x \geq 1 + x$ の等号条件は。

▶ クリックして解答を表示 $x = 0$。$h(x) = e^x - 1 - x$ の最小値が $h(0) = 0$ であることから。

Q3. $\sin x < x$($x > 0$)の証明で $h(x) = x - \sin x$ とおいたとき $h'(x)$ は。

▶ クリックして解答を表示 $h'(x) = 1 - \cos x \geq 0$。$\cos x \leq 1$ なので常に非負で、$h$ は広義単調増加。

Q4. 下に凸な関数と接線の位置関係は。

▶ クリックして解答を表示 下に凸($f'' > 0$)の関数は接線の上にある:$f(x) \geq f(a) + f'(a)(x - a)$。

Q5. $\log(1+x) < x$($x > 0$)の証明方針を述べよ。

▶ クリックして解答を表示 $h(x) = x - \log(1+x)$ とおくと $h'(x) = \dfrac{x}{1+x} > 0$($x > 0$)で増加。$h(0) = 0$ なので $h(x) > 0$。

入試問題演習

問題 1 A 基礎 指数関数

$x \geq 0$ のとき $e^x \geq 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$ を証明せよ。

解答

$h(x) = e^x - 1 - x - \dfrac{x^2}{2}$ とおく。$h'(x) = e^x - 1 - x$。

$e^x \geq 1 + x$ より $h'(x) \geq 0$(等号 $x = 0$)。

$h$ は $x \geq 0$ で増加し、$h(0) = 0$ なので $h(x) \geq 0$。

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問題 2 B 標準 対数関数

$x > 0$ のとき $\dfrac{x}{1+x} \leq \log(1+x) \leq x$ を証明せよ。

解答

右側 $\log(1+x) \leq x$:$h_1(x) = x - \log(1+x)$, $h_1'(x) = \dfrac{x}{1+x} > 0$, $h_1(0) = 0$ より $h_1 > 0$。

左側 $\dfrac{x}{1+x} \leq \log(1+x)$:$h_2(x) = \log(1+x) - \dfrac{x}{1+x}$

$h_2'(x) = \dfrac{1}{1+x} - \dfrac{1}{(1+x)^2} = \dfrac{x}{(1+x)^2} > 0$($x > 0$)

$h_2(0) = 0$ より $h_2(x) > 0$。

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問題 3 B 標準 三角関数

$0 < x < \dfrac{\pi}{2}$ のとき $\tan x > x$ を証明せよ。

解答

$h(x) = \tan x - x$ とおく。$h'(x) = \dfrac{1}{\cos^2 x} - 1 = \dfrac{1 - \cos^2 x}{\cos^2 x} = \dfrac{\sin^2 x}{\cos^2 x} = \tan^2 x > 0$

$0 < x < \dfrac{\pi}{2}$ で $h$ は狭義単調増加。$h(0) = 0$ より $h(x) > 0$。

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問題 4 C 発展 積み重ね

$x > 0$ のとき $e^x > 1 + x + \dfrac{x^2}{2} + \dfrac{x^3}{6}$ を証明せよ。

解答

$h(x) = e^x - 1 - x - \dfrac{x^2}{2} - \dfrac{x^3}{6}$

$h'(x) = e^x - 1 - x - \dfrac{x^2}{2}$

問題1の結果から $e^x \geq 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$ なので $h'(x) \geq 0$。

$x > 0$ で $h'(x) > 0$($e^x > 1 + x + \dfrac{x^2}{2}$ は $x > 0$ で厳密に成り立つ)。

$h(0) = 0$ と合わせて $x > 0$ で $h(x) > 0$。

解説

テイラー展開 $e^x = \sum_{n=0}^{\infty} \dfrac{x^n}{n!}$ の $n = 3$ まで切り取った不等式。同じ手法を繰り返せば任意の $n$ に対して $e^x > \sum_{k=0}^{n} \dfrac{x^k}{k!}$($x > 0$)が証明できます。

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