前の記事で学んだ $|z - \alpha| = r$(円)や $|z - \alpha| = |z - \beta|$(垂直二等分線)を発展させ、直線と円の方程式を複素数で統一的に表現します。特にアポロニウスの円は、2点からの距離の比が一定の点の軌跡として、複素数の威力を実感できるテーマです。
実数の座標平面では直線を $ax + by + c = 0$ と書きます。複素数平面では $z$ と $\bar{z}$ を使った独特の表現になります。
2点 $\alpha$, $\beta$($\alpha \neq \beta$)を通る直線上の点 $z$ は、実数 $t$ を用いて
$$z = (1 - t)\alpha + t\beta = \alpha + t(\beta - \alpha) \quad (t \in \mathbb{R})$$
と表せます。これは「$\alpha$ から $\beta$ への方向に沿って直線的に動く」というパラメータ表示です。
パラメータ表示:
$$z = (1-t)\alpha + t\beta \quad (t \in \mathbb{R})$$
$z, \bar{z}$ による表示:
$$\bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0 \quad (\gamma \neq 0,\; c \in \mathbb{R})$$
※ $\gamma = a + bi$ のとき、$z = x + yi$ を代入すると $2ax + 2by + c = 0$(実数の直線の方程式)に帰着します。
3点 $z$, $\alpha$, $\beta$ が一直線上にある条件は、$\dfrac{z - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数であることです。
$w$ が実数 $\Leftrightarrow$ $w = \bar{w}$ なので:
$$\frac{z - \alpha}{\beta - \alpha} = \overline{\left(\frac{z - \alpha}{\beta - \alpha}\right)} = \frac{\bar{z} - \bar{\alpha}}{\bar{\beta} - \bar{\alpha}}$$
この式を整理すると、$z$ と $\bar{z}$ の1次方程式(直線の方程式)が得られます。
$\dfrac{z - \alpha}{\beta - \alpha}$ が実数であることは、$z - \alpha$ と $\beta - \alpha$ が同じ方向(または反対方向)を向くことを意味します。つまり $z$ が $\alpha$ と $\beta$ を通る直線上にあるということです。
「比が実数 = 一直線上」という対応を押さえましょう。
✗ 誤:$\bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ で $c$ が複素数でもよい
○ 正:$c$ は必ず実数。$c$ が複素数だと図形が直線にならない
$\bar{\gamma}z + \gamma\bar{z}$ は $z = x + yi$ を代入すると常に実数になります。等式が成り立つためには右辺 $-c$ も実数でなければなりません。
$|z - \alpha| = r$ を展開した形が、円の一般的な複素数表現です。
$|z - \alpha|^2 = r^2$ を展開します。
$$(z - \alpha)(\bar{z} - \bar{\alpha}) = r^2$$
$$z\bar{z} - \bar{\alpha}z - \alpha\bar{z} + |\alpha|^2 - r^2 = 0$$
$$z\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0 \quad (\gamma \in \mathbb{C},\; c \in \mathbb{R},\; |\gamma|^2 - c > 0)$$
これは中心 $-\gamma$、半径 $\sqrt{|\gamma|^2 - c}$ の円を表す。
※ $|z - \alpha|^2 = r^2$ の展開で $\gamma = -\bar{\alpha}$, $c = |\alpha|^2 - r^2$ に対応します。
✗ 誤:$z\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ の中心は $\gamma$
○ 正:中心は $-\gamma$。符号を間違えやすいので要注意
$|z - \alpha|^2 = r^2$ の展開で $\bar{\alpha}z$ の係数に $-$ がつくことから、$\bar{\gamma} = -\bar{\alpha}$ すなわち $\gamma = -\bar{\alpha}$ であり、中心 $\alpha = -\bar{\gamma}$ ではなく… いえ正確には中心 $\alpha = -\gamma$ の共役をとって… 混乱しますね。確実なのは、$z\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ を $|z + \gamma|^2 = |\gamma|^2 - c$ と変形して中心 $-\gamma$ を読み取ることです。
$z\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ を $(z + \gamma)(\bar{z} + \bar{\gamma}) = |\gamma|^2 - c$ と変形すれば、$|z + \gamma|^2 = |\gamma|^2 - c$ となり、中心 $-\gamma$、半径 $\sqrt{|\gamma|^2 - c}$ が直ちにわかります。
実数の $x^2 + y^2 + Dx + Ey + F = 0$ を平方完成するのと全く同じ発想です。
$z\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c$ は $z$ と $\bar{z}$ のエルミート形式の一種です。大学の線形代数では、このような形式を行列 $\begin{pmatrix} 1 & \bar{\gamma} \\ \gamma & c \end{pmatrix}$ で表し、行列式の符号から図形の種類を判定します。
2点 $\alpha$, $\beta$ からの距離の比が一定である点の軌跡は何でしょうか。比が $1:1$ のときは垂直二等分線でした。比が $1:1$ でないとき、軌跡は円になります。これがアポロニウスの円です。
$$|z - \alpha| = k|z - \beta| \quad (k > 0,\; k \neq 1)$$
これは $\alpha$ と $\beta$ を $k : 1$ に内分する点と $k : 1$ に外分する点を直径の両端とする円を表す。
※ $k = 1$ のときは垂直二等分線(直線)。$k > 0$ の全ての場合を含めて「アポロニウスの円族」と呼ぶこともあります。
$|z - \alpha| = k|z - \beta|$ の両辺を2乗すると:
$$(z - \alpha)(\bar{z} - \bar{\alpha}) = k^2(z - \beta)(\bar{z} - \bar{\beta})$$
$$(1 - k^2)z\bar{z} - (\bar{\alpha} - k^2\bar{\beta})z - (\alpha - k^2\beta)\bar{z} + |\alpha|^2 - k^2|\beta|^2 = 0$$
$k \neq 1$ なので $1 - k^2 \neq 0$、両辺を $1 - k^2$ で割れば $z\bar{z}$ の係数が $1$ の円の方程式になります。
$|z - \alpha| = k|z - \beta|$ を整理すると、中心と半径は次のようになります。
中心:$\dfrac{\alpha - k^2\beta}{1 - k^2}$
これは $\alpha$ と $\beta$ を $k^2 : 1$ に内分する点($k < 1$)または外分する点($k > 1$)に対応します。
半径:$\dfrac{k|\alpha - \beta|}{|1 - k^2|}$
内分点を $P$、外分点を $Q$ とすると、$PQ$ がこの円の直径になることも確認できます。
✗ 誤:$|z - \alpha| : |z - \beta| = m : n$ の円の直径の両端は「$\alpha\beta$ を $m:n$ に内分する点と外分する点」
○ 正:条件 $|z - \alpha| = \dfrac{m}{n}|z - \beta|$ で $k = \dfrac{m}{n}$ とおくと、直径の端点は $k:1$ ではなく $k^2:1$ の内分・外分点ではない ── 正確には $k:1$ に内分する点と $k:1$ に外分する点が直径の両端
混乱しやすいので、具体的な数値で確認する習慣をつけましょう。$\alpha = 0, \beta = 6, k = 2$ なら $|z| = 2|z - 6|$ で、内分点 $4$、外分点 $-6$ が直径の端点です。
$|z - \alpha| = k|z - \beta|$ において:
$k = 1$ → 垂直二等分線(直線)、$k \neq 1$ → アポロニウスの円。
$k \to 1$ のとき円の半径は $\to \infty$ となり、「半径無限大の円 = 直線」という対応が見えます。直線は円の極限ケースなのです。
直線の方程式 $\bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ と円の方程式 $z\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ を比較すると、唯一の違いは $z\bar{z}$ の項があるかないかです。
$$Az\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0 \quad (A, c \in \mathbb{R},\; \gamma \in \mathbb{C})$$
$A = 0$:直線($\gamma \neq 0$ のとき)
$A \neq 0$:円($|\gamma|^2 - Ac > 0$ のとき。$A$ で割って標準形にする)
※ 射影幾何では「直線は無限遠点を通る円」とみなします。複素数表現はこの統一を自然に実現しています。
この統一表現を使うと、「直線または円」を一つの方程式で扱えるため、場合分けが不要になる場面があります。特に、一次分数変換(メビウス変換)が「円と直線の全体」を保存するという定理は、この統一表現で自然に理解できます。
✗ 誤:$Az\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ は常に図形を表す
○ 正:$A \neq 0$ かつ $|\gamma|^2 - Ac < 0$ のとき実数解なし、$|\gamma|^2 - Ac = 0$ のとき1点のみ
実数の $x^2 + y^2 + Dx + Ey + F = 0$ で $D^2 + E^2 - 4F < 0$ なら解なし ── これと同じ状況です。
大学数学では複素数平面に「無限遠点 $\infty$」を1つ加えたリーマン球面 $\hat{\mathbb{C}} = \mathbb{C} \cup \{\infty\}$ を考えます。リーマン球面上では直線は「$\infty$ を通る円」とみなされ、円と直線の区別が完全になくなります。メビウス変換は「リーマン球面上の円を円に写す」変換と統一的に理解できるのです。
ここまでの道具を使って、複素数平面上の図形問題に取り組む際の考え方を整理します。
2つの円 $|z - \alpha_1| = r_1$, $|z - \alpha_2| = r_2$ の交点を求めるには、それぞれを展開して $z\bar{z}$ の項を消去します。すると $z$ と $\bar{z}$ の1次方程式(直線)が得られ、これが2円の共通弦(ラジカル軸)の方程式です。
具体的には:
$$z\bar{z} - \bar{\alpha}_1 z - \alpha_1\bar{z} + |\alpha_1|^2 = r_1^2$$
$$z\bar{z} - \bar{\alpha}_2 z - \alpha_2\bar{z} + |\alpha_2|^2 = r_2^2$$
辺々引くと:
$$(\bar{\alpha}_2 - \bar{\alpha}_1)z + (\alpha_2 - \alpha_1)\bar{z} + (|\alpha_1|^2 - |\alpha_2|^2 - r_1^2 + r_2^2) = 0$$
これは直線(ラジカル軸)の方程式です。この直線と元の円の交点が、2円の交点です。
直線 $\bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ と点 $z_0$ の距離は:
$$d = \frac{|\bar{\gamma}z_0 + \gamma\bar{z}_0 + c|}{2|\gamma|}$$
これは実数座標の点と直線の距離公式 $d = \dfrac{|ax_0 + by_0 + c|}{\sqrt{a^2 + b^2}}$ の複素数版です。
複素数による図形の表現は、単に $(x, y)$ を $z = x + yi$ に置き換えただけではありません。かけ算が回転・拡大を表し、共役が実軸対称を表すという代数構造が、図形の性質を簡潔に記述するのです。
「$z$ と $\bar{z}$ を独立変数のように扱う」テクニックは、この代数構造を最大限に活用しています。
✗ 誤:距離 $= |\bar{\gamma}z_0 + \gamma\bar{z}_0 + c|$ と分母なしで計算
○ 正:距離 $= \dfrac{|\bar{\gamma}z_0 + \gamma\bar{z}_0 + c|}{2|\gamma|}$。分母の $2|\gamma|$ を忘れない
$\gamma = a + bi$ のとき $2|\gamma| = 2\sqrt{a^2 + b^2}$ で、実数座標の $\sqrt{a^2 + b^2}$ とは係数が異なることに注意しましょう($\bar{\gamma}z + \gamma\bar{z}$ を展開すると $2ax + 2by$ となるため)。
Q1. $|z - 1| = 2|z + 1|$ はどんな図形を表すか。
Q2. 直線 $\bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ の方程式で、$\gamma = 1 + i$, $c = -4$ のとき、$x, y$ の方程式に直すと?
Q3. $z\bar{z} - 2z - 2\bar{z} + 1 = 0$ はどんな図形か。中心と半径を求めよ。
Q4. $|z - \alpha| = k|z - \beta|$ で $k = 1$ のとき何が起こるか。
Q5. 2つの円 $|z| = 2$ と $|z - 3| = 2$ の共通弦(ラジカル軸)の方程式を求めよ。
$|z - 2| = 2|z + 1|$ を満たす点 $z$ の軌跡を求め、中心と半径を答えよ。
両辺を2乗すると $|z-2|^2 = 4|z+1|^2$。
$(z-2)(\bar{z}-2) = 4(z+1)(\bar{z}+1)$
$z\bar{z} - 2z - 2\bar{z} + 4 = 4z\bar{z} + 4z + 4\bar{z} + 4$
$-3z\bar{z} - 6z - 6\bar{z} = 0$
$z\bar{z} + 2z + 2\bar{z} = 0$
$(z + 2)(\bar{z} + 2) = 4$ より $|z + 2|^2 = 4$。
よって中心 $-2$、半径 $2$ の円。
$z\bar{z} + (1-i)\bar{z} + (1+i)z + 1 = 0$ が表す図形を求めよ。
$\gamma = 1+i$ とおくと $\bar{\gamma} = 1-i$ で、方程式は $z\bar{z} + \bar{\gamma}\bar{z} + \gamma z + 1 = 0$。
いや、正確に見ると $z\bar{z} + (1-i)\bar{z} + (1+i)z + 1 = 0$ で、$\bar{\gamma} = 1+i$, $\gamma = 1-i$ に対応する形ではない。
標準形 $z\bar{z} + \bar{\gamma}z + \gamma\bar{z} + c = 0$ と比較すると、$\bar{\gamma} = 1+i$ なので $\gamma = 1-i$、$\bar{z}$ の係数は $\gamma = 1-i$ で、実際の $\bar{z}$ の係数は $1-i$。
よって $\gamma = 1-i$, $c = 1$。中心は $-\gamma = -(1-i) = -1+i$。
半径は $\sqrt{|\gamma|^2 - c} = \sqrt{2 - 1} = 1$。
よって中心 $-1+i$(点 $(-1, 1)$)、半径 $1$ の円。
2つの円 $|z - 1| = 2$ と $|z - i| = \sqrt{3}$ の共通弦の方程式を求めよ。
円1:$|z-1|^2 = 4$ → $z\bar{z} - z - \bar{z} + 1 = 4$ → $z\bar{z} - z - \bar{z} = 3$
円2:$|z-i|^2 = 3$ → $z\bar{z} + iz - i\bar{z} + 1 = 3$ → $z\bar{z} + iz - i\bar{z} = 2$
辺々引くと:$-z - \bar{z} - iz + i\bar{z} = 1$
$-(1+i)z + (-1+i)\bar{z} = 1$
$z = x + yi$ を代入:$-(1+i)(x+yi) + (-1+i)(x-yi) = 1$
$= -(x + yi + xi + yi^2) + (-x + yi + xi - yi^2) = 1$
$= -(x + yi + xi - y) + (-x + yi + xi + y) = 1$
$= (-x + y - xi - yi) + (-x + y + xi + yi) = 1$
$= -2x + 2y = 1$
よって共通弦は $y = x + \dfrac{1}{2}$(直線 $-2x + 2y = 1$)。
$\alpha = 1$, $\beta = -1$ とする。正の実数 $k$ が $0 < k < 1$ の範囲で変化するとき、円 $|z - \alpha| = k|z - \beta|$ の中心の軌跡を求めよ。
$\alpha = 1, \beta = -1$ のとき、アポロニウスの円の中心は $\dfrac{\alpha - k^2\beta}{1 - k^2} = \dfrac{1 + k^2}{1 - k^2}$ である。
$c = \dfrac{1 + k^2}{1 - k^2}$ とおく。$0 < k < 1$ のとき $0 < k^2 < 1$ なので $1 - k^2 > 0$。
$c = \dfrac{1 + k^2}{1 - k^2} = 1 + \dfrac{2k^2}{1 - k^2}$
$k^2 = 0$ で $c = 1$、$k^2 \to 1$ で $c \to +\infty$。
$k^2$ が $(0, 1)$ を動くとき $c$ は $(1, +\infty)$ を動く($c$ は $k^2$ の単調増加関数)。
中心は実軸上(虚部なし)なので、軌跡は実軸上の $c > 1$ の部分、すなわち半直線 $\{z \in \mathbb{R} : z > 1\}$。
$k \to 0$ のとき円は点 $\alpha = 1$ に縮退し、$k \to 1$ のとき円は垂直二等分線(虚軸)に「発散」します。中心が $1$ から $+\infty$ へ移動していく様子は、アポロニウスの円族の構造をよく表しています。