複素数 $a + bi$ は、実数だけでは表せなかった「2次元の数」です。この数を平面上の点として視覚化し、さらに「原点からの距離」と「角度」で表現する極形式を学びます。極形式は、複素数の積・商や回転の理解に不可欠な道具であり、ド・モアブルの定理や $n$ 乗根の計算へとつながります。
数学IIで複素数 $z = a + bi$($a, b$ は実数、$i$ は虚数単位)を学びました。このとき、複素数は「実部」と「虚部」という2つの成分を持つ数でした。では、この2つの成分を座標に対応させたらどうなるでしょうか。
横軸を実軸(実部 $a$)、縦軸を虚軸(虚部 $b$)として、複素数 $z = a + bi$ を座標平面上の点 $(a, b)$ に対応させます。この平面を複素数平面(ガウス平面)と呼びます。
実数は数直線上の「1次元の点」でした。複素数平面では、数が「2次元の点」になります。
この発想の核心は、虚数単位 $i$ を「実軸から $90°$ 回転する操作」として捉えることです。$1$ に $i$ をかけると $i$($90°$ 回転)、さらに $i$ をかけると $i^2 = -1$($180°$ 回転)── 実数だけでは説明できなかった $i$ の意味が、回転として自然に理解できます。
複素数平面上での基本的な対応を確認しましょう。
| 複素数 $z$ | 座標 $(a, b)$ | 位置 |
|---|---|---|
| $3 + 2i$ | $(3, 2)$ | 第1象限 |
| $-1 + 4i$ | $(-1, 4)$ | 第2象限 |
| $5$(実数) | $(5, 0)$ | 実軸上 |
| $-3i$(純虚数) | $(0, -3)$ | 虚軸上 |
| $0$ | $(0, 0)$ | 原点 |
✗ 虚軸の目盛りを「$1, 2, 3, \ldots$」と書く → これでは実軸と区別がつかない
○ 虚軸の目盛りは「$i, 2i, 3i, \ldots$」と書く
複素数平面は通常の $xy$ 座標とは異なります。虚軸上の点 $(0, b)$ は $bi$ という純虚数に対応するので、目盛りには $i$ を付けて表記します。
複素数を平面上の点として表す発想は、18世紀末にノルウェーのヴェッセルやフランスのアルガンによって提案され、ガウスが体系化しました。それ以前、虚数は「想像上の数」として忌避されていましたが、平面上の点として視覚化されたことで、その実在性が確立されました。
複素数 $z = a + bi$ に対して、原点 $O$ から点 $z$ までの距離を $z$ の絶対値と呼び、$|z|$ で表します。
$$|z| = |a + bi| = \sqrt{a^2 + b^2}$$
※ 三平方の定理そのものです。$z$ が実数のとき($b = 0$)は通常の絶対値 $|a|$ に一致します。
例えば $z = 3 + 4i$ の絶対値は $|z| = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5$ です。これは複素数平面上で、原点から点 $(3, 4)$ までの距離がちょうど $5$ であることを意味します。
2つの複素数 $z_1, z_2$ に対して、$|z_1 - z_2|$ は $z_1$ と $z_2$ を表す2点間の距離を表します。これは実数の場合の $|a - b|$ が数直線上の2点間の距離を表すことの自然な一般化です。
$|z| = r$ は「原点を中心とする半径 $r$ の円」を表し、$|z - \alpha| = r$ は「点 $\alpha$ を中心とする半径 $r$ の円」を表します。
複素数平面における図形は、絶対値を使った等式・不等式で表現できるのです。この視点は後の軌跡の問題で重要になります。
✗ $|z|^2 = z^2$ と考える → 一般には $z^2 \neq a^2 + b^2$
○ $|z|^2 = z\bar{z} = (a+bi)(a-bi) = a^2 + b^2$
$|z|^2$ を計算するときは、$z$ に共役複素数 $\bar{z}$ をかけます。これは絶対値の計算で非常によく使う変形です。
複素数を「どこにあるか」を指定するには、原点からの距離だけでなく「どの方向にあるか」も必要です。実軸の正の方向から測った角度を偏角と呼び、$\arg z$ で表します。
$z = a + bi \neq 0$ に対して、実軸の正の方向から反時計回りに測った角度 $\theta$ を $z$ の偏角といい、$\theta = \arg z$ と書く。
$$\cos\theta = \frac{a}{|z|}, \quad \sin\theta = \frac{b}{|z|}$$
※ 偏角は $2\pi$ の整数倍の不定性があります。$0 \le \theta < 2\pi$ または $-\pi < \theta \le \pi$ に制限したものを主値と呼びます。
偏角を求めるとき、$\tan\theta = \dfrac{b}{a}$ を使いたくなりますが、$\tan$ だけでは象限を判定できません。$\cos\theta$ と $\sin\theta$ の符号を確認して、正しい象限の角度を選ぶ必要があります。
| 象限 | $a$ の符号 | $b$ の符号 | 偏角の範囲 |
|---|---|---|---|
| 第1象限 | $+$ | $+$ | $0 < \theta < \dfrac{\pi}{2}$ |
| 第2象限 | $-$ | $+$ | $\dfrac{\pi}{2} < \theta < \pi$ |
| 第3象限 | $-$ | $-$ | $\pi < \theta < \dfrac{3\pi}{2}$ |
| 第4象限 | $+$ | $-$ | $\dfrac{3\pi}{2} < \theta < 2\pi$ |
✗ $z = -1 + i$ の偏角を $\tan^{-1}\!\left(\dfrac{1}{-1}\right) = \tan^{-1}(-1) = -\dfrac{\pi}{4}$ とする
○ $a = -1 < 0, b = 1 > 0$ だから第2象限。$\theta = \pi - \dfrac{\pi}{4} = \dfrac{3\pi}{4}$
$\tan^{-1}$ の値域は $\left(-\dfrac{\pi}{2}, \dfrac{\pi}{2}\right)$ なので、第2・第3象限の角度は直接得られません。必ず象限を確認しましょう。
よく出てくる複素数の偏角を整理しておきます。$\arg 1 = 0$、$\arg i = \dfrac{\pi}{2}$、$\arg(-1) = \pi$、$\arg(-i) = \dfrac{3\pi}{2}$。また、$\arg(1+i) = \dfrac{\pi}{4}$、$\arg(1+\sqrt{3}\,i) = \dfrac{\pi}{3}$ などは頻出です。
絶対値 $r = |z|$ と偏角 $\theta = \arg z$ を使えば、複素数 $z = a + bi$ は次のように書き換えられます。$a = r\cos\theta$、$b = r\sin\theta$ だから:
$$z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$$
ここで $r = |z| \ge 0$、$\theta = \arg z$
※ この表現を複素数の極形式(polar form)と呼びます。直交形式 $a + bi$ が「横・縦」で位置を指定するのに対し、極形式は「距離・角度」で指定します。
直交形式 $a + bi$ は足し算・引き算に便利ですが、かけ算・わり算では煩雑になります。
極形式を使うと、複素数のかけ算が「絶対値の積」と「偏角の和」に分解されるため、積・商・べき乗の計算が劇的に簡単になります。これが次節以降のテーマです。
$z = 1 + \sqrt{3}\,i$ を極形式に変換してみましょう。
Step 1(絶対値): $r = |z| = \sqrt{1^2 + (\sqrt{3})^2} = \sqrt{1 + 3} = 2$
Step 2(偏角): $\cos\theta = \dfrac{1}{2}$, $\sin\theta = \dfrac{\sqrt{3}}{2}$ より $\theta = \dfrac{\pi}{3}$
Step 3(極形式): $z = 2\!\left(\cos\dfrac{\pi}{3} + i\sin\dfrac{\pi}{3}\right)$
逆に、$z = 4\!\left(\cos\dfrac{5\pi}{6} + i\sin\dfrac{5\pi}{6}\right)$ を直交形式にするには、三角関数の値を代入します。
$\cos\dfrac{5\pi}{6} = -\dfrac{\sqrt{3}}{2}$, $\sin\dfrac{5\pi}{6} = \dfrac{1}{2}$ だから $z = 4\!\left(-\dfrac{\sqrt{3}}{2} + \dfrac{1}{2}i\right) = -2\sqrt{3} + 2i$ です。
✗ $z = -2$ を $r = -2, \theta = 0$ として $z = -2(\cos 0 + i\sin 0)$ と書く
○ $r = |{-2}| = 2, \theta = \pi$ として $z = 2(\cos\pi + i\sin\pi)$ と書く
極形式では $r \ge 0$ です。負の実数は $r$ を正にとって偏角を $\pi$ にします。
大学数学では、$e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$(オイラーの公式)を用いて極形式を $z = re^{i\theta}$ と書きます。この表記を使うと、積・商・べき乗の公式がさらに自然に理解できます。$\theta = \pi$ を代入すると $e^{i\pi} + 1 = 0$、数学で最も美しいとされるオイラーの等式が得られます。
複素数 $z = a + bi$ の共役複素数 $\bar{z} = a - bi$ は、複素数平面上では実軸に関する対称点を表します。この幾何学的意味を踏まえて、絶対値に関する重要な性質を整理しましょう。
(1) $z\bar{z} = |z|^2 = a^2 + b^2$
(2) $|\bar{z}| = |z|$
(3) $\overline{z_1 + z_2} = \bar{z}_1 + \bar{z}_2$、$\overline{z_1 z_2} = \bar{z}_1 \bar{z}_2$
(4) $z + \bar{z} = 2a$(実部の2倍)、$z - \bar{z} = 2bi$(虚部の $2i$ 倍)
※ (1) は「複素数を消す」最も基本的な手法。(3) は「共役をとる操作は四則演算と交換可能」であることを示します。
$z_1 = a_1 + b_1 i$, $z_2 = a_2 + b_2 i$ とする。
$\overline{z_1 z_2} = \overline{(a_1 a_2 - b_1 b_2) + (a_1 b_2 + a_2 b_1)i} = (a_1 a_2 - b_1 b_2) - (a_1 b_2 + a_2 b_1)i$
$\bar{z}_1 \bar{z}_2 = (a_1 - b_1 i)(a_2 - b_2 i) = (a_1 a_2 - b_1 b_2) - (a_1 b_2 + a_2 b_1)i$
よって $\overline{z_1 z_2} = \bar{z}_1 \bar{z}_2$。□
実数の場合に成り立つ三角不等式 $|a + b| \le |a| + |b|$ は、複素数でも成り立ちます。
$$|z_1 + z_2| \le |z_1| + |z_2|$$
等号成立条件:$z_1$ と $z_2$ の偏角が等しい($z_1, z_2$ が同じ方向を向く)、または一方が $0$。
※ 幾何学的には「三角形の一辺は他の二辺の和より短い」ことに対応します。
✗ $z$ が実数 $\Leftrightarrow$ $z > 0$ または $z < 0$ → $z = 0$ を忘れている
○ $z$ が実数 $\Leftrightarrow$ $z = \bar{z}$
同様に、$z$ が純虚数 $\Leftrightarrow$ $z = -\bar{z}$ かつ $z \neq 0$ です。共役複素数を使った条件表現は、入試で頻出です。
$z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$ ならば $\bar{z} = r(\cos(-\theta) + i\sin(-\theta)) = r(\cos\theta - i\sin\theta)$。つまり、共役をとることは偏角の符号を反転させること、すなわち実軸に関する折り返しに対応します。大学のフーリエ解析では、この対称性が信号の実数性を保証する条件として使われます。
Q1. 複素数 $z = -3 + 4i$ の絶対値 $|z|$ は?
Q2. $z = 1 + i$ の偏角 $\arg z$ は?($0 \le \theta < 2\pi$)
Q3. $z = -1 - \sqrt{3}\,i$ を極形式で表せ。
Q4. $|z|^2$ を $z$ と $\bar{z}$ で表すと?
Q5. $z$ が純虚数であるための必要十分条件を、$\bar{z}$ を使って表せ。
次の複素数を極形式で表せ($0 \le \theta < 2\pi$)。
(1) $z = \sqrt{3} + i$
(2) $z = -2i$
(3) $z = -3$
(1) $|z| = \sqrt{3+1} = 2$。$\cos\theta = \dfrac{\sqrt{3}}{2}, \sin\theta = \dfrac{1}{2}$ より $\theta = \dfrac{\pi}{6}$。
$z = 2\!\left(\cos\dfrac{\pi}{6} + i\sin\dfrac{\pi}{6}\right)$
(2) $|z| = 2$。$\cos\theta = 0, \sin\theta = -1$ より $\theta = \dfrac{3\pi}{2}$。
$z = 2\!\left(\cos\dfrac{3\pi}{2} + i\sin\dfrac{3\pi}{2}\right)$
(3) $|z| = 3$。$\cos\theta = -1, \sin\theta = 0$ より $\theta = \pi$。
$z = 3(\cos\pi + i\sin\pi)$
複素数 $z$ が $|z - (1+i)| = 2$ を満たすとき、$|z|$ の最大値と最小値を求めよ。
$|z - (1+i)| = 2$ は、中心 $1+i$、半径 $2$ の円を表す。
原点と中心 $1+i$ の距離は $|1+i| = \sqrt{2}$。
三角不等式より $|z| = |z - (1+i) + (1+i)| \le |z - (1+i)| + |1+i| = 2 + \sqrt{2}$
また $|z| \ge |1+i| - |z - (1+i)| = \sqrt{2} - 2$
$\sqrt{2} - 2 < 0$ なので、原点は円の内部にあり $|z|$ の最小値は $|z| \ge 0$ から考える。
円上の点で原点に最も近い点は、中心と原点を結ぶ線分上にあるから:
$|z|$ の最小値 $= 2 - \sqrt{2}$、最大値 $= 2 + \sqrt{2}$
$z = a + bi$($a, b$ は実数)とする。$\dfrac{z - 1}{z + i}$ が実数となる条件を求め、点 $z$ の軌跡を図示せよ。ただし $z \neq -i$ とする。
$w = \dfrac{z-1}{z+i}$ が実数 $\Leftrightarrow$ $w = \bar{w}$ $\Leftrightarrow$ $\dfrac{z-1}{z+i} = \dfrac{\bar{z}-1}{\bar{z}-i}$
$(z-1)(\bar{z}-i) = (\bar{z}-1)(z+i)$ を展開して整理する。
$z\bar{z} - iz - \bar{z} + i = z\bar{z} + i\bar{z} - z - i$
$-iz - \bar{z} + i = i\bar{z} - z - i$
$(z - \bar{z}) - i(z + \bar{z}) + 2i = 0$
$z - \bar{z} = 2bi$, $z + \bar{z} = 2a$ を代入すると:
$2bi - 2ai + 2i = 0$、すなわち $2i(b - a + 1) = 0$
よって $b = a - 1$。これは直線 $y = x - 1$ を表す。
ただし $z \neq -i$ すなわち $(a, b) \neq (0, -1)$ を除く。$(0, -1)$ は $y = x - 1$ 上にあるので、求める軌跡は直線 $y = x - 1$ から点 $(0, -1)$ を除いたものである。
$|z| = 1$ を満たす複素数 $z$ に対して、$w = z^2 + 2\bar{z}$ とする。
(1) $z = \cos\theta + i\sin\theta$ として $w$ を $\theta$ で表せ。
(2) $|w|$ の最大値と最小値を求めよ。
(1) $z = \cos\theta + i\sin\theta$ とする。
$z^2 = \cos 2\theta + i\sin 2\theta$
$\bar{z} = \cos\theta - i\sin\theta$ より $2\bar{z} = 2\cos\theta - 2i\sin\theta$
$w = (\cos 2\theta + 2\cos\theta) + i(\sin 2\theta - 2\sin\theta)$
(2) $|w|^2 = (\cos 2\theta + 2\cos\theta)^2 + (\sin 2\theta - 2\sin\theta)^2$
$= \cos^2 2\theta + 4\cos 2\theta\cos\theta + 4\cos^2\theta + \sin^2 2\theta - 4\sin 2\theta\sin\theta + 4\sin^2\theta$
$= 1 + 4(\cos 2\theta\cos\theta - \sin 2\theta\sin\theta) + 4$
$= 5 + 4\cos 3\theta$
$-1 \le \cos 3\theta \le 1$ より $1 \le |w|^2 \le 9$
よって $|w|$ の最小値は $1$($\cos 3\theta = -1$、$\theta = \dfrac{\pi}{3}$ など)、
最大値は $3$($\cos 3\theta = 1$、$\theta = 0$ など)。
加法定理 $\cos 2\theta\cos\theta - \sin 2\theta\sin\theta = \cos 3\theta$ を使うのがポイントです。$|w|^2$ を計算してから $|w|$ を求める方が、直接 $|w|$ を扱うより簡単です。