高校数学では、相加相乗平均の不等式(AM-GM不等式)やコーシー・シュワルツの不等式を個別に学びます。
それぞれに異なる証明テクニックがあり、不等式の証明は「暗記」の色合いが強くなりがちです。
大学数学では、凸関数(とつかんすう)という概念と、そこから導かれるイェンセンの不等式を学びます。
この一つの不等式から、AM-GM不等式もコーシー・シュワルツの不等式も特殊ケースとして導出できます。
凸性という構造を理解すると、不等式の証明が「暗記すべきテクニックの集合」から「一つの原理の応用」に変わります。
高校数学II「式と証明」の単元で、次の不等式を学びます。
正の実数 $a, b$ に対して、
$$\frac{a + b}{2} \geq \sqrt{ab}$$
左辺は $a, b$ の相加平均(算術平均、Arithmetic Mean)、右辺は相乗平均(幾何平均、Geometric Mean)です。 等号は $a = b$ のとき、かつそのときに限り成り立ちます。
高校での証明は、$(a - b)^2 \geq 0$ から出発するのが典型的です。 $a - 2\sqrt{ab} + b \geq 0$ を整理すると $a + b \geq 2\sqrt{ab}$ が得られ、両辺を $2$ で割れば上の不等式になります。 この証明は簡潔ですが、「なぜ $(a-b)^2 \geq 0$ を出発点にするのか」は説明されません。
高校数学Cのベクトルの内積の単元で、実数 $a_1, a_2, b_1, b_2$ に対して次の不等式に触れることがあります。
$$(a_1 b_1 + a_2 b_2)^2 \leq (a_1^2 + a_2^2)(b_1^2 + b_2^2)$$
これはコーシー・シュワルツの不等式の2変数版です。 内積を $\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = |\mathbf{a}||\mathbf{b}|\cos\theta$ と書くと、$|\cos\theta| \leq 1$ から直ちに得られます。 等号は2つのベクトルが平行なとき($\mathbf{a} = k\mathbf{b}$ となる実数 $k$ が存在するとき)に成り立ちます。
高校では、不等式の証明は主に以下のテクニックで処理します。
これらのテクニックはそれぞれ有効ですが、問題ごとに「どのテクニックを使うか」を見極める必要があります。 AM-GM不等式とコーシー・シュワルツの不等式は、高校では別々の文脈(式と証明、ベクトル)で学ぶため、両者に共通する構造は見えません。 次のセクションでは、大学の視点を導入して、これらの不等式を一つの原理から統一的に理解する方法を示します。
大学数学では、凸関数(convex function)という概念を導入します。 関数のグラフが「下に凸」である(弓なりに下に膨らんでいる)とき、その関数は凸関数と呼ばれます。 そして、凸関数に対して成り立つイェンセンの不等式(Jensen's inequality)から、AM-GM不等式もコーシー・シュワルツの不等式も導出できます。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 凸関数の定義を述べ、具体例($x^2$, $-\ln x$, $e^x$)で凸性を確認できる
2. イェンセンの不等式を正確に述べ、2変数の場合を証明できる
3. イェンセンの不等式から AM-GM 不等式を導出できる
4. イェンセンの不等式からコーシー・シュワルツの不等式を導出できる
5. 相加平均・相乗平均・調和平均の大小関係を凸性から統一的に証明できる
この統一的な理解を得るために、まず凸関数の定義と基本的な性質を正確に理解する必要があります。 次のセクションでは、凸関数を一から定義し、その幾何学的な意味と判定方法を確認します。
高校の不等式 $(a-b)^2 \geq 0$ がうまくいくのは、$f(x) = x^2$ のグラフが「下に凸」であることと深く関係しています。 グラフが下に凸な関数には、「2点を結ぶ弦がグラフの上にある」という幾何学的な性質があります。 この性質を数式で表したものが凸関数の定義であり、この定義から不等式が自然に生まれます。
区間 $I$ 上で定義された関数 $f$ が凸関数(convex function)であるとは、$I$ 上の任意の2点 $x_1, x_2$ と、$0 \leq t \leq 1$ を満たす任意の実数 $t$ に対して、
$$f(tx_1 + (1-t)x_2) \leq tf(x_1) + (1-t)f(x_2)$$
が成り立つことを言います。
この不等式の意味:左辺は、$x_1$ と $x_2$ を $t : (1-t)$ で内分した点における関数値です。右辺は、$f(x_1)$ と $f(x_2)$ を同じ比率 $t : (1-t)$ で内分した値です。つまり、「グラフ上の点は、2つのグラフ上の点を結ぶ線分より下にある(または線分上にある)」ことを意味しています。
この定義は少し抽象的に見えるので、具体例で確認しましょう。
$x_1 = 1$, $x_2 = 3$, $t = 1/2$ で確認します。
たしかに $4 \leq 5$ が成り立っています。グラフで考えると、放物線 $y = x^2$ 上の点 $(1, 1)$ と $(3, 9)$ を結ぶ線分の $x = 2$ における高さ($= 5$)は、放物線の $x = 2$ における高さ($= 4$)よりも上にあります。
$f(x) = x^2$ が任意の $x_1, x_2, t$ について凸不等式を満たすことは、直接計算で確認できます。右辺から左辺を引くと、
$$tf(x_1) + (1-t)f(x_2) - f(tx_1 + (1-t)x_2) = tx_1^2 + (1-t)x_2^2 - (tx_1 + (1-t)x_2)^2$$
展開して整理すると、
$$= t(1-t)x_1^2 + t(1-t)x_2^2 - 2t(1-t)x_1 x_2 = t(1-t)(x_1 - x_2)^2 \geq 0$$
$0 \leq t \leq 1$ のとき $t(1-t) \geq 0$ であり、$(x_1 - x_2)^2 \geq 0$ なので、この値は常に0以上です。よって $f(x) = x^2$ は凸関数です。
$x_1 = 1$, $x_2 = e^2$($\approx 7.39$), $t = 1/2$ で確認します。
$-1.43 \leq -1$ が成り立っています。この $f(x) = -\ln x$ が凸関数であることは、後にAM-GM不等式の導出で中心的な役割を果たします。
2回微分可能な関数 $f$ について、凸性を判定する便利な方法があります。高校数学IIIで学ぶ第2次導関数($f''$)がここで役立ちます。
区間 $I$ で2回微分可能な関数 $f$ について、
$$f''(x) \geq 0 \quad (\forall x \in I)$$
が成り立つならば、$f$ は区間 $I$ 上の凸関数です。
高校では $f''(x) > 0$ のとき「下に凸」と学びます。凸関数の定義はこれを不等式の形で厳密にしたものです。$f''(x) \geq 0$(等号を含む)であれば凸関数です。
この判定法を使って、先ほどの具体例を確認します。
この判定法の厳密な証明にはテイラー展開が必要ですが、直感的には次のように理解できます。$f''(x) \geq 0$ は「$f'(x)$ が単調非減少」であることを意味し、グラフの傾きが左から右に向かって増え続ける(または一定)ことを表しています。これは「グラフが下に凸」であることと一致します。
誤解:「凸関数」は高校でいう「上に凸」のことだと思ってしまう。
正しい理解:大学数学の「凸関数」(convex function)は、高校数学でいう「下に凸」に対応します。英語の convex は「外側に膨らんでいる」という意味で、グラフを下から見たときの形状を指しています。混乱を避けるため、この記事では一貫して「凸関数 = 下に凸」として使います。なお、「上に凸」の関数は「凹関数」(concave function)と呼ばれます。
ここまでで、凸関数の定義、具体例、2階導関数による判定法を確認しました。 次のセクションでは、凸関数に対して成り立つ強力な不等式であるイェンセンの不等式を導きます。 この不等式が、セクション5でAM-GMやコーシー・シュワルツを導出するための道具になります。
セクション3で定義した凸不等式は、2点 $x_1, x_2$ に関するものでした。 これを $n$ 個の点 $x_1, x_2, \ldots, x_n$ と、それぞれに対する重み $w_1, w_2, \ldots, w_n$($w_i \geq 0$, $w_1 + w_2 + \cdots + w_n = 1$)に一般化したものがイェンセンの不等式です。
$f$ が区間 $I$ 上の凸関数であるとき、$I$ に属する任意の $x_1, x_2, \ldots, x_n$ と、$w_i \geq 0$, $\displaystyle\sum_{i=1}^{n} w_i = 1$ を満たす重み $w_1, \ldots, w_n$ に対して、
$$f\!\left(\sum_{i=1}^{n} w_i x_i\right) \leq \sum_{i=1}^{n} w_i f(x_i)$$
が成り立ちます。等号は $x_1 = x_2 = \cdots = x_n$ のとき成立します。
左辺は「$x_1, \ldots, x_n$ の加重平均にまず $f$ を適用した値」、右辺は「各 $f(x_i)$ の加重平均」です。つまり、凸関数では「平均の関数値は、関数値の平均以下」であることを述べています。
$n = 2$, $w_1 = t$, $w_2 = 1 - t$ とすると、セクション3の凸関数の定義そのものに戻ります。 つまり、イェンセンの不等式は凸関数の定義の自然な一般化です。
$n = 2$ の場合は凸関数の定義そのものなので、自明に成り立ちます。 以下では、$n = 2$ から $n = 3$ への拡張の方法を示します。 この手法を繰り返すことで、一般の $n$ に対する証明が得られます。
示すこと:凸関数 $f$ と、$w_1 + w_2 + w_3 = 1$($w_i \geq 0$)に対して、$f(w_1 x_1 + w_2 x_2 + w_3 x_3) \leq w_1 f(x_1) + w_2 f(x_2) + w_3 f(x_3)$ を示す。
証明の方針:3点の加重平均を「1点と残り2点の加重平均」に分解し、$n = 2$ の凸不等式を2回適用します。
ステップ1:$w_3 < 1$ と仮定します($w_3 = 1$ なら $w_1 = w_2 = 0$ で自明)。$w_1 x_1 + w_2 x_2 + w_3 x_3$ を次のように書き直します。
$$w_1 x_1 + w_2 x_2 + w_3 x_3 = (1 - w_3)\left(\frac{w_1}{1 - w_3} x_1 + \frac{w_2}{1 - w_3} x_2\right) + w_3 x_3$$
ここで $\frac{w_1}{1-w_3} + \frac{w_2}{1-w_3} = \frac{w_1 + w_2}{1-w_3} = 1$ なので、括弧内は $x_1$ と $x_2$ の加重平均になっています。これを $y$ と置きます。
ステップ2:凸不等式を $y$ と $x_3$ に対して適用します(重みは $(1-w_3)$ と $w_3$)。
$$f(w_1 x_1 + w_2 x_2 + w_3 x_3) = f((1-w_3)y + w_3 x_3) \leq (1-w_3)f(y) + w_3 f(x_3)$$
ステップ3:$f(y) = f\!\left(\frac{w_1}{1-w_3}x_1 + \frac{w_2}{1-w_3}x_2\right)$ にもう一度凸不等式を適用します。
$$f(y) \leq \frac{w_1}{1-w_3}f(x_1) + \frac{w_2}{1-w_3}f(x_2)$$
ステップ4:ステップ2にステップ3を代入すると、
$$f(w_1 x_1 + w_2 x_2 + w_3 x_3) \leq (1-w_3)\left(\frac{w_1}{1-w_3}f(x_1) + \frac{w_2}{1-w_3}f(x_2)\right) + w_3 f(x_3)$$
$$= w_1 f(x_1) + w_2 f(x_2) + w_3 f(x_3)$$
これで $n = 3$ の場合が示されました。同様の手法で $n$ から $n+1$ への拡張ができるため、数学的帰納法により一般の $n$ について成立します。$\square$
$f(x) = x^2$(凸関数)、$x_1 = 1, x_2 = 2, x_3 = 6$、$w_1 = w_2 = w_3 = 1/3$ としてイェンセンの不等式を確認します。
たしかに $9 \leq 13.67$ が成り立っています。等号は $x_1 = x_2 = x_3$ のときのみ成立し、$1 \neq 2 \neq 6$ なので厳密な不等号になっています。
ここまでで、凸関数に対する一般的な不等式であるイェンセンの不等式を証明しました。 次のセクションでは、この不等式に特定の凸関数を代入することで、高校で学んだAM-GM不等式とコーシー・シュワルツの不等式を導出します。 これがこの記事の核心部分です。
セクション3で確認したように、$f(x) = -\ln x$($x > 0$)は凸関数です($f''(x) = 1/x^2 > 0$)。 この凸関数にイェンセンの不等式を適用します。
示すこと:正の実数 $a_1, a_2, \ldots, a_n$ に対して $\frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_n}{n} \geq \sqrt[n]{a_1 a_2 \cdots a_n}$ を示す。
ステップ1:凸関数 $f(x) = -\ln x$ に対して、$x_i = a_i$, $w_i = 1/n$(等しい重み)でイェンセンの不等式を適用します。
$$f\!\left(\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n a_i\right) \leq \frac{1}{n}\sum_{i=1}^n f(a_i)$$
ステップ2:$f(x) = -\ln x$ を代入します。
$$-\ln\!\left(\frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_n}{n}\right) \leq \frac{1}{n}\left(-\ln a_1 - \ln a_2 - \cdots - \ln a_n\right)$$
ステップ3:右辺の対数の和を積の対数に書き換えます。
$$-\ln\!\left(\frac{a_1 + \cdots + a_n}{n}\right) \leq -\ln(a_1 a_2 \cdots a_n)^{1/n}$$
ステップ4:両辺に $-1$ を掛けます(不等号の向きが反転します)。
$$\ln\!\left(\frac{a_1 + \cdots + a_n}{n}\right) \geq \ln\sqrt[n]{a_1 a_2 \cdots a_n}$$
ステップ5:$\ln$ は単調増加関数なので、$\ln A \geq \ln B$ ならば $A \geq B$ です。よって、
$$\frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_n}{n} \geq \sqrt[n]{a_1 a_2 \cdots a_n}$$
これが $n$ 変数のAM-GM不等式です。等号はイェンセンの不等式の等号条件より $a_1 = a_2 = \cdots = a_n$ のとき成立します。$\square$
AM-GM不等式は、「$-\ln x$ が凸関数である」という一つの事実の帰結です。高校の証明で $(a-b)^2 \geq 0$ を使うのは、2変数の場合に特化した巧みなテクニックですが、$n$ 変数への拡張が自明ではありません。一方、イェンセンの不等式を使えば、変数の数に関わらず同じ方法で証明できます。
次に、$f(x) = x^2$ が凸関数であることを使って、コーシー・シュワルツの不等式を導出します。
示すこと:実数 $a_1, \ldots, a_n$ と正の実数 $b_1, \ldots, b_n$ に対して $\displaystyle\left(\sum_{i=1}^n a_i\right)^2 \leq \left(\sum_{i=1}^n b_i\right)\left(\sum_{i=1}^n \frac{a_i^2}{b_i}\right)$ を示す。
ステップ1:凸関数 $f(x) = x^2$ に対して、重み $w_i = b_i / B$(ただし $B = b_1 + b_2 + \cdots + b_n$)、$x_i = a_i / b_i$ でイェンセンの不等式を適用します。$w_i \geq 0$ で $\sum w_i = 1$ を満たしています。
$$f\!\left(\sum_{i=1}^n w_i x_i\right) \leq \sum_{i=1}^n w_i f(x_i)$$
ステップ2:左辺を計算します。
$$f\!\left(\sum_{i=1}^n \frac{b_i}{B} \cdot \frac{a_i}{b_i}\right) = f\!\left(\frac{1}{B}\sum_{i=1}^n a_i\right) = \frac{1}{B^2}\left(\sum_{i=1}^n a_i\right)^2$$
ステップ3:右辺を計算します。
$$\sum_{i=1}^n \frac{b_i}{B} \cdot \frac{a_i^2}{b_i^2} = \frac{1}{B}\sum_{i=1}^n \frac{a_i^2}{b_i}$$
ステップ4:ステップ2、3をイェンセンの不等式に代入します。
$$\frac{1}{B^2}\left(\sum_{i=1}^n a_i\right)^2 \leq \frac{1}{B}\sum_{i=1}^n \frac{a_i^2}{b_i}$$
ステップ5:両辺に $B = \sum b_i$ を掛けると、
$$\frac{1}{B}\left(\sum_{i=1}^n a_i\right)^2 \leq \sum_{i=1}^n \frac{a_i^2}{b_i}$$
$$\left(\sum_{i=1}^n a_i\right)^2 \leq \left(\sum_{i=1}^n b_i\right)\left(\sum_{i=1}^n \frac{a_i^2}{b_i}\right)$$
ここで $a_i$ を改めて $a_i b_i$ と置き換え、$b_i$ を $b_i^2$ と置き換えると($b_i > 0$ の条件は保たれます)、
$$\left(\sum_{i=1}^n a_i b_i\right)^2 \leq \left(\sum_{i=1}^n b_i^2\right)\left(\sum_{i=1}^n a_i^2\right)$$
これがコーシー・シュワルツの不等式です。等号は $x_1 = x_2 = \cdots = x_n$、すなわち $a_1/b_1 = a_2/b_2 = \cdots = a_n/b_n$ のとき成立します。$\square$
2変数の場合($n = 2$)に書き下すと、
$$(a_1 b_1 + a_2 b_2)^2 \leq (a_1^2 + a_2^2)(b_1^2 + b_2^2)$$
となり、セクション1で見た高校の公式と一致します。
具体例で確認しましょう。$a_1 = 1, a_2 = 2, b_1 = 3, b_2 = 4$ とすると、
$121 \leq 125$ が成り立っています。$a_1/b_1 = 1/3 \neq 2/4 = a_2/b_2$ なので等号ではありません。
AM-GM不等式は「$-\ln x$ は凸関数」+ イェンセンの不等式から導出されます。コーシー・シュワルツの不等式は「$x^2$ は凸関数」+ イェンセンの不等式から導出されます。異なる凸関数を選ぶだけで、異なる不等式が自動的に得られます。これが「凸性による不等式の統一」の意味です。
ここまでで、セクション3で導入した凸関数とセクション4で証明したイェンセンの不等式を使い、高校で個別に学ぶ2つの不等式を統一的に導出しました。 次のセクションでは、この枠組みの応用として、高校の不等式の証明問題への活用法と、相加平均・相乗平均・調和平均の大小関係を示します。
凸性を使った不等式証明の具体例を見ましょう。
問題:正の実数 $a, b, c$ が $a + b + c = 3$ を満たすとき、$a^2 + b^2 + c^2 \geq 3$ を示せ。
凸性を使った証明:$f(x) = x^2$ は凸関数です。$w_1 = w_2 = w_3 = 1/3$ としてイェンセンの不等式を適用します。
$$f\!\left(\frac{a + b + c}{3}\right) \leq \frac{f(a) + f(b) + f(c)}{3}$$
$a + b + c = 3$ なので左辺は $f(1) = 1$ です。
$$1 \leq \frac{a^2 + b^2 + c^2}{3}$$
両辺に3を掛けて $a^2 + b^2 + c^2 \geq 3$ が得られます。等号は $a = b = c = 1$ のとき成立します。
高校の方法($a^2 + b^2 + c^2 - 3$ を変形する等)に比べて、「$x^2$ は凸関数だからイェンセンを適用する」という一つの方針で機械的に進められる点が利点です。
正の実数 $a_1, a_2, \ldots, a_n$ に対して、3種類の平均を定義します。
| 名称 | 記号 | 定義 |
|---|---|---|
| 相加平均(算術平均) | AM | $\displaystyle\frac{a_1 + a_2 + \cdots + a_n}{n}$ |
| 相乗平均(幾何平均) | GM | $\displaystyle\sqrt[n]{a_1 a_2 \cdots a_n}$ |
| 調和平均 | HM | $\displaystyle\frac{n}{\frac{1}{a_1} + \frac{1}{a_2} + \cdots + \frac{1}{a_n}}$ |
これらの間には常に次の大小関係が成り立ちます。
正の実数 $a_1, a_2, \ldots, a_n$ に対して、
$$\mathrm{AM} \geq \mathrm{GM} \geq \mathrm{HM}$$
すなわち、
$$\frac{a_1 + \cdots + a_n}{n} \geq \sqrt[n]{a_1 \cdots a_n} \geq \frac{n}{\frac{1}{a_1} + \cdots + \frac{1}{a_n}}$$
各等号は $a_1 = a_2 = \cdots = a_n$ のとき成立します。
AM $\geq$ GM はすでにイェンセンの不等式から導出しました。GM $\geq$ HM も同じ枠組みで示すことができます。
示すこと:$\sqrt[n]{a_1 \cdots a_n} \geq \frac{n}{1/a_1 + \cdots + 1/a_n}$ を示す。
ステップ1:$b_i = 1/a_i$ と置きます。$a_i > 0$ なので $b_i > 0$ です。
ステップ2:$b_1, \ldots, b_n$ にAM-GM不等式を適用します。
$$\frac{b_1 + \cdots + b_n}{n} \geq \sqrt[n]{b_1 \cdots b_n} = \sqrt[n]{\frac{1}{a_1 \cdots a_n}} = \frac{1}{\sqrt[n]{a_1 \cdots a_n}}$$
ステップ3:逆数を取ります(両辺正なので不等号が反転します)。
$$\frac{n}{b_1 + \cdots + b_n} \leq \sqrt[n]{a_1 \cdots a_n}$$
ステップ4:$b_i = 1/a_i$ を戻すと、
$$\frac{n}{1/a_1 + \cdots + 1/a_n} \leq \sqrt[n]{a_1 \cdots a_n}$$
これは HM $\leq$ GM と同じです。$\square$
$a = 2, b = 8$ で3つの平均を計算します。
たしかに $5 \geq 4 \geq 3.2$(AM $\geq$ GM $\geq$ HM)が成り立っています。 $a = b$ のとき(例えば $a = b = 4$)はすべて $4$ になり、等号が成立します。
実は、AM・GM・HM はすべてべき平均(power mean)$M_p = \left(\frac{a_1^p + \cdots + a_n^p}{n}\right)^{1/p}$ の特殊ケースです。$p = 1$ のとき AM、$p \to 0$ の極限で GM、$p = -1$ のとき HM になります。べき平均 $M_p$ は $p$ について単調非減少であることが知られており、AM $\geq$ GM $\geq$ HM はこの一般的事実の特殊ケースです。この単調性の証明にも凸関数の理論が使われます。
Q1. 関数 $f(x) = e^x$ は凸関数ですか、凹関数ですか。理由も答えてください。
Q2. イェンセンの不等式で、凸関数 $f$ に対して成り立つのは「加重平均の関数値 $\leq$ 関数値の加重平均」と「加重平均の関数値 $\geq$ 関数値の加重平均」のどちらですか。
Q3. AM-GM不等式をイェンセンの不等式から導出する際に使う凸関数は何ですか。
Q4. $a = 3, b = 12$ のとき、AM, GM, HM をそれぞれ計算し、大小関係を確認してください。
次の関数が凸関数であるかどうかを、2階導関数を計算して判定してください。
(a) $f(x) = x^4$
(b) $f(x) = \sqrt{x}$($x > 0$)
(c) $f(x) = x \ln x$($x > 0$)
(a) 凸関数です。$f'(x) = 4x^3$, $f''(x) = 12x^2 \geq 0$(すべての実数で成立)。
(b) 凸関数ではありません(凹関数です)。$f'(x) = \frac{1}{2\sqrt{x}}$, $f''(x) = -\frac{1}{4x^{3/2}} < 0$($x > 0$ で常に負)。
(c) 凸関数です。$f'(x) = \ln x + 1$, $f''(x) = 1/x > 0$($x > 0$ で常に正)。
凸関数 $f(x) = x^2$ に対して、$x_1 = 2, x_2 = 4, x_3 = 6$, $w_1 = w_2 = w_3 = 1/3$ としてイェンセンの不等式の左辺と右辺をそれぞれ計算し、不等式が成り立つことを確認してください。
左辺:$f\!\left(\frac{2+4+6}{3}\right) = f(4) = 16$
右辺:$\frac{1}{3}(f(2) + f(4) + f(6)) = \frac{1}{3}(4 + 16 + 36) = \frac{56}{3} \approx 18.67$
$16 \leq 18.67$ が成り立っています。$x_1 \neq x_2 \neq x_3$ なので等号ではありません。
正の実数 $x$ に対して、$x + \frac{1}{x} \geq 2$ が成り立つことを、次の2通りの方法で示してください。
(a) 高校の方法:差 $x + 1/x - 2$ が0以上であることを示す。
(b) イェンセンの不等式を用いる方法:凸関数 $f(t) = -\ln t$ を使ってAM-GMを適用する。
(a) 高校の方法:
$$x + \frac{1}{x} - 2 = \frac{x^2 - 2x + 1}{x} = \frac{(x-1)^2}{x}$$
$x > 0$ なので分母は正、$(x-1)^2 \geq 0$ なので全体として $\geq 0$ です。
(b) イェンセンの不等式の方法:
$a_1 = x, a_2 = 1/x$ に対してAM-GM不等式を適用します。
$$\frac{x + 1/x}{2} \geq \sqrt{x \cdot \frac{1}{x}} = \sqrt{1} = 1$$
両辺に2を掛けて $x + 1/x \geq 2$ が得られます。等号は $x = 1/x$、すなわち $x = 1$ のとき成立します。
(b) の方法は AM-GM を直接適用するだけなので、(a) のように式変形のテクニックを考える必要がありません。AM-GM 自体がイェンセンの不等式の帰結であることを思い出してください。
正の実数 $a, b, c$ が $a + b + c = 1$ を満たすとき、$\frac{1}{a} + \frac{1}{b} + \frac{1}{c} \geq 9$ が成り立つことを示してください。
ヒント:コーシー・シュワルツの不等式を $a_i = \sqrt{a_i}$, $b_i = 1/\sqrt{a_i}$ の形で適用するか、AM-HM不等式を使ってください。
方法1(コーシー・シュワルツ):
コーシー・シュワルツの不等式より、
$$(a + b + c)\!\left(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} + \frac{1}{c}\right) \geq \left(\sqrt{a} \cdot \frac{1}{\sqrt{a}} + \sqrt{b} \cdot \frac{1}{\sqrt{b}} + \sqrt{c} \cdot \frac{1}{\sqrt{c}}\right)^2 = 9$$
$a + b + c = 1$ なので、$\frac{1}{a} + \frac{1}{b} + \frac{1}{c} \geq 9$ が得られます。
方法2(AM-HM不等式):
AM $\geq$ HM より、$\frac{a+b+c}{3} \geq \frac{3}{1/a + 1/b + 1/c}$ です。$a+b+c = 1$ を代入すると、$\frac{1}{3} \geq \frac{3}{1/a + 1/b + 1/c}$ となり、$\frac{1}{a} + \frac{1}{b} + \frac{1}{c} \geq 9$ が得られます。等号は $a = b = c = 1/3$ のとき成立します。
凸関数 $f(x) = e^x$ にイェンセンの不等式を適用して、正の実数 $a_1, a_2, \ldots, a_n$ に対する次の不等式を導出してください。
$$e^{(a_1 + a_2 + \cdots + a_n)/n} \leq \frac{e^{a_1} + e^{a_2} + \cdots + e^{a_n}}{n}$$
また、$n = 2$, $a_1 = 0$, $a_2 = 2$ として数値的に成り立つことを確認してください。
導出:$f(x) = e^x$ は凸関数($f''(x) = e^x > 0$)です。$w_i = 1/n$ としてイェンセンの不等式を適用します。
$$f\!\left(\frac{a_1 + \cdots + a_n}{n}\right) \leq \frac{f(a_1) + \cdots + f(a_n)}{n}$$
$f(x) = e^x$ を代入すると、
$$e^{(a_1 + \cdots + a_n)/n} \leq \frac{e^{a_1} + \cdots + e^{a_n}}{n}$$
等号は $a_1 = a_2 = \cdots = a_n$ のとき成立します。
数値確認:$n = 2$, $a_1 = 0$, $a_2 = 2$ のとき、
左辺:$e^{(0+2)/2} = e^1 = e \approx 2.718$
右辺:$(e^0 + e^2)/2 = (1 + e^2)/2 \approx (1 + 7.389)/2 = 4.195$
$2.718 \leq 4.195$ が成り立っています。
この不等式は「指数関数の算術平均は、指数の算術平均の指数以上」と読むことができます。AM-GMが $-\ln x$ の凸性から、この不等式は $e^x$ の凸性から得られます。このように、凸関数の選び方を変えるだけで、さまざまな不等式が統一的に生まれます。