第3章 多項式と方程式

多項式環
─ 整数と多項式の驚くべき平行関係

整数の割り算では「商と余り」が一意に定まり、ユークリッドの互除法で最大公約数が求まり、素因数分解は一通りに決まります。 実は、多項式の世界にもこれとまったく同じ構造が成り立ちます。 多項式にも「割り算の定理」「互除法」「既約分解の一意性」があり、その論理展開は整数の場合と驚くほど平行しています。

この平行関係は偶然ではありません。 整数も多項式も、「割り算で余りが小さくなる」という同じ性質(ユークリッド整域)を持っているために、互除法から一意分解に至るすべての定理が自動的に成り立つのです。 この構造を理解すると、高校で個別に学んだ整数と多項式の各定理が一つの統一的な視点で見えるようになります。

1高校での扱い ─ 多項式の割り算・因数定理・因数分解

高校の数学IIでは、多項式の除法を学びます。 例えば $x^3 + 2x^2 - 5x + 1$ を $x^2 + 1$ で割ると、商 $x + 2$ と余り $-6x - 1$ が得られます。 整数の割り算(例えば $17 \div 5 = 3$ 余り $2$)と同様に、多項式でも「割る式 $\times$ 商 $+$ 余り $=$ 元の式」という関係が成り立つことを使って計算します。

さらに数学IIでは因数定理を学びます。 「多項式 $f(x)$ に $x = a$ を代入して $f(a) = 0$ ならば、$f(x)$ は $(x - a)$ で割り切れる」という定理です。 これを使って高次方程式の因数分解を行い、例えば $x^3 - 6x^2 + 11x - 6 = (x-1)(x-2)(x-3)$ のように解を求めます。

また、数学Iでは2次式の因数分解を学び、数学IIでは高次の多項式を因数定理を使って因数分解します。 一方、整数については数学Aで素因数分解とユークリッドの互除法を学びます。

高校では、これら「整数の割り算と互除法」「多項式の割り算と因数分解」は別々の単元として扱われます。 しかし、両者の間には深い構造的な共通性があります。 次のセクションでは、その共通性を一覧表で確認し、なぜこのような平行関係が生じるのかを探っていきます。

2大学の視点で何が変わるか ─ 整数と多項式の対応表

大学の代数学では、整数の全体 $\mathbb{Z}$ と、実数係数の多項式の全体 $\mathbb{R}[x]$ を同じ種類の代数的構造として扱います。 両者に共通する性質を抽出し、「割り算が定義できて余りが小さくなる」という一つの条件から、互除法も一意分解もすべて導くことができます。

整数 $\mathbb{Z}$ と多項式 $\mathbb{R}[x]$ の対応表
整数 $\mathbb{Z}$
多項式 $\mathbb{R}[x]$
割り算の定理:$a = bq + r$、$0 \le r < |b|$
割り算の定理:$f = gq + r$、$\deg r < \deg g$
「大きさ」の尺度:絶対値 $|a|$
「大きさ」の尺度:次数 $\deg f$
ユークリッドの互除法で GCD を計算
ユークリッドの互除法で GCD を計算
ベズーの等式:$\gcd(a,b) = as + bt$
ベズーの等式:$\gcd(f,g) = fs + gt$
素数:1と自分自身以外で割れない
既約多項式:低次の多項式で割れない
算術の基本定理:素因数分解は一意
既約分解の一意性:既約因子への分解は一意

この対応表が示しているのは、整数と多項式で「定理の見た目」が似ているだけでなく、証明のロジックまで完全に平行しているということです。 整数で「余り $r$ の絶対値が割る数 $b$ の絶対値より小さい」という条件を使ったところを、多項式では「余り $r$ の次数が割る式 $g$ の次数より小さい」に置き換えるだけで、同じ証明がそのまま通ります。

整数と多項式を統一する視点

この記事を通じて、以下のことがわかるようになります。

  • 多項式にもユークリッドの互除法が使え、2つの多項式のGCDを具体的に計算できる
  • 既約多項式は整数における素数と同じ役割を果たし、因数分解の一意性が証明できる
  • 整数と多項式の平行関係は「ユークリッド整域」という共通構造から生じている
  • この構造的理解から、部分分数分解がなぜ可能かの理論的根拠が得られる

では、この対応表の各行を具体的に確認していきます。 まずセクション3で「割り算の定理」と「互除法」を多項式で実行し、セクション4で「因数分解の一意性」を証明します。

3多項式の割り算と互除法

多項式の割り算の定理

高校の数学IIで、多項式の筆算による割り算を学びました。 大学では、この操作の背後にある「割り算の定理」を明確に述べます。

多項式の割り算の定理

$f(x), g(x) \in \mathbb{R}[x]$(実数係数の多項式)とし、$g(x) \neq 0$ とする。 このとき、次の条件を満たす多項式 $q(x), r(x) \in \mathbb{R}[x]$ が一意に存在する。

$$f(x) = g(x) \cdot q(x) + r(x), \quad \deg r < \deg g$$

$q(x)$ を商、$r(x)$ を余りと呼びます。 $r(x) = 0$ のときは $\deg r = -\infty$ と約束し、条件 $\deg r < \deg g$ は自動的に満たされます。

整数の場合の $a = bq + r$($0 \le r < |b|$)と比較してください。 整数では「余りの絶対値が割る数の絶対値より小さい」ですが、多項式では「余りの次数が割る式の次数より小さい」に変わっています。 「大きさ」の尺度が絶対値から次数に変わっただけで、構造は同じです。

整数の割り算の定理は、$a = bq + r$($0 \le r < |b|$)という形をしていました。 多項式の場合も構造はまったく同じで、「余りが割る式より小さい」という条件によって商と余りが一意に定まります。 この「余りが小さくなる」性質こそが、次に見る互除法を可能にする本質的な条件です。

具体例:多項式の割り算

$f(x) = x^4 + x^3 - 3x^2 + x + 2$ を $g(x) = x^2 + x - 1$ で割ってみます。 高校で学んだ筆算を実行すると、

$$x^4 + x^3 - 3x^2 + x + 2 = (x^2 + x - 1)(x^2 - 1) + (x + 1)$$

商 $q(x) = x^2 - 1$、余り $r(x) = x + 1$ です。 $\deg r = 1 < 2 = \deg g$ なので、割り算の定理の条件を満たしています。 検算として、右辺を展開すると $(x^2 + x - 1)(x^2 - 1) + (x + 1) = x^4 + x^3 - 2x^2 - x + 1 + x + 1 = x^4 + x^3 - x^2 - 2x^2 + 2$ ── いえ、正確に計算し直します。

$(x^2 + x - 1)(x^2 - 1) = x^4 - x^2 + x^3 - x - x^2 + 1 = x^4 + x^3 - 2x^2 - x + 1$ です。 これに余り $x + 1$ を加えると $x^4 + x^3 - 2x^2 + 2$ となります。 元の $f(x) = x^4 + x^3 - 3x^2 + x + 2$ と一致しないので、改めて正しく筆算をやり直します。

$f(x) = x^4 + x^3 - 3x^2 + x + 2$ を $g(x) = x^2 + x - 1$ で割ります。

ステップ1:$x^4 \div x^2 = x^2$。$x^2 \cdot (x^2 + x - 1) = x^4 + x^3 - x^2$。引くと、

$$(x^4 + x^3 - 3x^2 + x + 2) - (x^4 + x^3 - x^2) = -2x^2 + x + 2$$

ステップ2:$-2x^2 \div x^2 = -2$。$-2 \cdot (x^2 + x - 1) = -2x^2 - 2x + 2$。引くと、

$$(-2x^2 + x + 2) - (-2x^2 - 2x + 2) = 3x$$

$\deg(3x) = 1 < 2 = \deg g$ なので、ここで終了です。 商 $q(x) = x^2 - 2$、余り $r(x) = 3x$ を得ます。

検算:$(x^2 + x - 1)(x^2 - 2) + 3x = x^4 - 2x^2 + x^3 - 2x - x^2 + 2 + 3x = x^4 + x^3 - 3x^2 + x + 2 = f(x)$。確かに一致します。

多項式のユークリッドの互除法

整数のユークリッドの互除法は、「割り算を繰り返して余りを小さくしていく」操作でした。 多項式でもまったく同じことができます。 割り算のたびに余りの次数が下がるので、有限回で余りが $0$ になり、そのときの割る式が GCD です。

整数の互除法を思い出しましょう。例えば $\gcd(48, 18)$ を求めるとき、

$$48 = 18 \cdot 2 + 12$$

$$18 = 12 \cdot 1 + 6$$

$$12 = 6 \cdot 2 + 0$$

余りが $0$ になったので $\gcd(48, 18) = 6$ です。 多項式でもこれと同じ手順を踏みます。

具体例:多項式の互除法

$f(x) = x^4 - 1$ と $g(x) = x^3 - x^2 + x - 1$ の GCD を求めます。

ステップ1:$f$ を $g$ で割ります。

$$x^4 - 1 = (x^3 - x^2 + x - 1)(x + 1) + 0$$

余りが $0$ になりました。確認します。$(x^3 - x^2 + x - 1)(x+1) = x^4 + x^3 - x^3 - x^2 + x^2 + x - x - 1 = x^4 - 1$。確かに一致します。

したがって $\gcd(x^4 - 1, \, x^3 - x^2 + x - 1) = x^3 - x^2 + x - 1$ です。 つまり $x^3 - x^2 + x - 1$ は $x^4 - 1$ を割り切ります。

もう少し面白い例を見ましょう。$f(x) = x^3 + x^2 - x - 1$ と $g(x) = x^3 - x^2 - x + 1$ の GCD を求めます。

ステップ1:$f$ を $g$ で割ります。$x^3 \div x^3 = 1$ なので、

$$(x^3 + x^2 - x - 1) - 1 \cdot (x^3 - x^2 - x + 1) = 2x^2 - 2$$

つまり $f = g \cdot 1 + (2x^2 - 2)$ です。余り $r_1 = 2x^2 - 2$ で、$\deg r_1 = 2 < 3 = \deg g$ です。

ステップ2:$g$ を $r_1 = 2x^2 - 2$ で割ります。$x^3 \div 2x^2 = \frac{1}{2}x$ なので、

$$(x^3 - x^2 - x + 1) - \frac{1}{2}x \cdot (2x^2 - 2) = (x^3 - x^2 - x + 1) - (x^3 - x) = -x^2 + 1$$

余り $r_2 = -x^2 + 1$ です。$\deg r_2 = 2$ ですので ── いえ、$\deg r_2 = 2 = \deg r_1$ では次数が下がっていません。計算を確認します。

$g = x^3 - x^2 - x + 1$ を $r_1 = 2x^2 - 2$ で割ります。$x^3 \div 2x^2 = \frac{1}{2}x$ で、$\frac{1}{2}x \cdot (2x^2 - 2) = x^3 - x$ です。 引くと $(x^3 - x^2 - x + 1) - (x^3 - x) = -x^2 + 1$ となり、$\deg(-x^2 + 1) = 2 = \deg r_1$ です。 これは正しくありません。割り算を続ける必要があります。

$-x^2 \div 2x^2 = -\frac{1}{2}$ で、$-\frac{1}{2} \cdot (2x^2 - 2) = -x^2 + 1$ です。 引くと $(-x^2 + 1) - (-x^2 + 1) = 0$ です。

よって $g = r_1 \cdot (\frac{1}{2}x - \frac{1}{2}) + 0$ です。 確認:$(2x^2 - 2)(\frac{1}{2}x - \frac{1}{2}) = x^3 - x^2 - x + 1 = g$。一致します。

余りが $0$ になったので、$\gcd(f, g) = r_1 = 2x^2 - 2$ です。 多項式の GCD は定数倍の自由度があるので、最高次の係数を $1$ にして $\gcd(f, g) = x^2 - 1 = (x-1)(x+1)$ と書くのが標準的です。

実際に確認してみます。$f = x^3 + x^2 - x - 1 = (x+1)^2(x-1)$、$g = x^3 - x^2 - x + 1 = (x-1)^2(x+1)$ ですから、 共通因子は $(x-1)(x+1) = x^2 - 1$ であり、互除法の結果と一致しています。

多項式のGCDには「定数倍の自由度」がある

整数の GCD は正の値と定めれば一意に決まります(例:$\gcd(12, 8) = 4$)。 しかし多項式の GCD は定数倍の不定性があります。 $\gcd(f, g) = x^2 - 1$ も $\gcd(f, g) = 2x^2 - 2$ も $\gcd(f, g) = -3x^2 + 3$ も、すべて「正しい GCD」です。

大学では、最高次の係数を $1$(モニック)にすることで一意性を確保するのが標準的な約束です。 整数のように「正の方を選ぶ」とは決めないことに注意してください。

多項式のベズーの等式

整数の場合、ユークリッドの互除法を逆にたどると、$\gcd(a, b) = as + bt$ という形に書けました(ベズーの等式)。 📖 M-2-1 で詳しく解説した通りです。 多項式でもまったく同様に、互除法を逆にたどることで次が得られます。

多項式のベズーの等式

$f(x), g(x) \in \mathbb{R}[x]$ に対して、次を満たす多項式 $s(x), t(x) \in \mathbb{R}[x]$ が存在する。

$$\gcd(f, g) = f(x) \cdot s(x) + g(x) \cdot t(x)$$

整数のベズーの等式 $\gcd(a, b) = as + bt$ と完全に同じ形です。 これも「割り算の定理が成り立つ」ことから導かれる性質であり、整数と多項式に共通の構造です。

ベズーの等式は、次のセクションで因数分解の一意性を証明する際に本質的な役割を果たします。 ここまでで、整数における「割り算の定理 → 互除法 → ベズーの等式」の流れが多項式にもそのまま成り立つことを確認しました。 次に、この流れの先にある「因数分解の一意性」を多項式の世界で証明します。

4多項式の因数分解の一意性

既約多項式 ─ 多項式の世界の「素数」

整数の素因数分解を論じるためには「素数」の概念が必要でした。 多項式の世界で素数に対応する概念が既約多項式です。

既約多項式の定義

次数1以上の多項式 $p(x) \in \mathbb{R}[x]$ が既約(irreducible)であるとは、$p(x) = a(x) \cdot b(x)$ と書けるとき、$a(x)$ か $b(x)$ のどちらかが定数(0次)であることをいう。

整数の素数 $p$ の定義「$p = ab$ ならば $a = \pm 1$ か $b = \pm 1$」と平行しています。 整数で「$\pm 1$(単元)」にあたるものが、多項式では「0でない定数(単元)」です。 つまり、既約多項式とは「定数以外の因子では割れない多項式」のことです。

実数係数の多項式 $\mathbb{R}[x]$ では、既約多項式は次の2種類に限られます。

  • 1次式:$x - a$($a \in \mathbb{R}$)
  • 判別式が負の2次式:$x^2 + bx + c$($b^2 - 4c < 0$)。例えば $x^2 + 1$、$x^2 + x + 1$ など

1次式が既約なのは明らかです(これ以上因数分解できません)。 判別式が負の2次式は実数の根を持たないので、2つの1次式の積に分解できません。 また、3次以上の実数係数多項式は、代数学の基本定理(📖 M-1-3)により必ず複素数の根を持ち、複素共役ペアをまとめると実数係数の1次式または2次式の因子が取り出せます。 したがって、$\mathbb{R}[x]$ で3次以上の既約多項式は存在しません。

ユークリッドの補題(多項式版)

📖 M-2-1 では、整数の素因数分解の一意性を証明する際に「ユークリッドの補題」が鍵でした。 「素数 $p$ が $ab$ を割るなら、$p$ は $a$ か $b$ を割る」という性質です。 多項式でもまったく同じ補題が成り立ちます。

ユークリッドの補題(多項式版)

既約多項式 $p(x)$ が積 $a(x) \cdot b(x)$ を割り切るなら、$p(x)$ は $a(x)$ か $b(x)$ の少なくとも一方を割り切る。

証明(整数の場合と平行して読んでください)

目標:既約多項式 $p(x)$ が $a(x) \cdot b(x)$ を割り切り、かつ $p(x)$ が $a(x)$ を割り切らないとき、$p(x)$ は $b(x)$ を割り切ることを示す。

方針:$p(x)$ が $a(x)$ を割り切らないことと $p(x)$ が既約であることから $\gcd(p, a) = 1$ を導き、ベズーの等式を使います。 これは整数の場合(素数 $p$ が $a$ を割らないなら $\gcd(p, a) = 1$)と同じ論法です。

ステップ1:$p(x)$ は既約なので、$p(x)$ の約数は定数か $p(x)$ の定数倍のみです。 $p(x)$ が $a(x)$ を割り切らないということは、$\gcd(p, a)$ が $p$ の定数倍ではないということです。 したがって $\gcd(p, a)$ は定数、すなわち $\gcd(p, a) = 1$ です(モニックに正規化した場合)。

ステップ2:ベズーの等式により、

$$1 = p(x) \cdot s(x) + a(x) \cdot t(x)$$

を満たす多項式 $s(x), t(x)$ が存在します。両辺に $b(x)$ をかけると、

$$b(x) = p(x) \cdot s(x) \cdot b(x) + a(x) \cdot b(x) \cdot t(x)$$

ステップ3:右辺の第1項は $p(x)$ の倍式です。第2項も $a(x) \cdot b(x)$ が $p(x)$ で割り切れるという仮定から、$p(x)$ の倍式です。 したがって $b(x)$ は $p(x)$ の倍式、すなわち $p(x)$ は $b(x)$ を割り切ります。

この証明は、📖 M-2-1 で示した整数のユークリッドの補題の証明と、「整数」を「多項式」に、「絶対値」を「次数」に置き換えただけの同一の論法です。 ベズーの等式が使えることが本質であり、ベズーの等式は割り算の定理(余りが小さくなる性質)から導かれます。

既約分解の一意性(多項式の算術の基本定理)

ユークリッドの補題から、整数の場合とまったく同じ論法で、多項式の因数分解の一意性が証明できます。

多項式の既約分解の一意性

$\mathbb{R}[x]$ の次数1以上の任意の多項式 $f(x)$ は、

$$f(x) = c \cdot p_1(x)^{e_1} \cdot p_2(x)^{e_2} \cdots p_k(x)^{e_k}$$

と表せる。ここで $c$ は0でない定数、$p_1, \ldots, p_k$ は互いに異なるモニック既約多項式、$e_1, \ldots, e_k$ は正の整数である。 この分解は(因子の順序を除いて)一意である。

整数の算術の基本定理 $n = \pm p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_k^{e_k}$ と完全に平行しています。 定数 $c$ は整数の場合の符号 $\pm$ に対応します。

証明の方針

証明は2つのパートに分かれます。

存在:$f(x)$ が既約なら、それ自身が分解です。既約でなければ $f = a \cdot b$($\deg a, \deg b \ge 1$)と書けます。 $\deg a < \deg f$、$\deg b < \deg f$ なので、各因子にこの操作を繰り返せば、有限回で既約因子の積に分解できます(次数は正の整数で、割るたびに減少するので、無限に続くことはありません)。

一意性:2通りの既約分解 $c \cdot p_1^{e_1} \cdots p_k^{e_k} = c' \cdot q_1^{f_1} \cdots q_l^{f_l}$ があったとします。 左辺の $p_1$ は右辺全体を割り切ります。ユークリッドの補題を繰り返し適用すると、$p_1$ はいずれかの $q_j$ を割り切ります。 $q_j$ は既約なので $p_1 = q_j$(モニック既約として)です。 両辺を $p_1$ で割り、この操作を繰り返すと、2つの分解が一致することがわかります。

この証明の構造は、📖 M-2-1 の整数版とまったく同じです。

ここまでで、整数における「割り算の定理 → 互除法 → ベズーの等式 → ユークリッドの補題 → 素因数分解の一意性」という証明の連鎖が、多項式でもそのまま再現されることを確認しました。 次のセクションでは、なぜこの平行関係が成り立つのか、その根本的な理由を探ります。

5なぜ平行関係が成り立つか ─ ユークリッド整域

セクション3, 4で見た通り、整数と多項式では定理の主張も証明も驚くほど似ています。 大学の代数学では、この平行関係の理由を次のように説明します。 整数と多項式は、どちらもユークリッド整域(Euclidean domain)という同じ種類の代数的構造を持っているのです。

ユークリッド整域の定義を述べる前に、まず(ring)という概念を簡単に導入します。 環とは、加法(足し算)と乗法(掛け算)の2つの演算が定義されていて、通常の計算法則(交換法則、結合法則、分配法則など)が成り立つ集合のことです。 整数の全体 $\mathbb{Z}$ も、実数係数の多項式の全体 $\mathbb{R}[x]$ も、加法と乗法について環をなしています。

環の中でも特に、「$ab = 0$ なら $a = 0$ または $b = 0$」が成り立つ環を整域(integral domain)と呼びます。 $\mathbb{Z}$ も $\mathbb{R}[x]$ も整域です。 そして、整域の中でさらに「割り算の定理が成り立つもの」がユークリッド整域です。

ユークリッド整域の定義

整域 $R$ がユークリッド整域であるとは、各元 $a \in R$($a \neq 0$)に対して「大きさ」を測る関数 $\varphi(a)$(0以上の整数値)が定義されていて、次を満たすことをいう。

任意の $a, b \in R$($b \neq 0$)に対して、$a = bq + r$ かつ「$r = 0$ または $\varphi(r) < \varphi(b)$」を満たす $q, r \in R$ が存在する。

直感的には、「割り算をすると余りの大きさが必ず減少する」ということです。 $\mathbb{Z}$ では $\varphi(a) = |a|$(絶対値)、$\mathbb{R}[x]$ では $\varphi(f) = \deg f$(次数)が、この関数 $\varphi$ に対応します。

この定義のポイントは、$\varphi$ の具体的な形は問わないことです。 「余りが小さくなる」という性質さえ保証されていれば、互除法が実行でき、ベズーの等式が成り立ち、ユークリッドの補題が証明でき、既約分解の一意性が導かれます。

ユークリッド整域が保証する定理の連鎖

ユークリッド整域であれば、以下の定理がすべて自動的に成り立ちます。 どの定理も「余りが小さくなる」という一つの性質から導かれます。

割り算の定理($\varphi$ の定義そのもの) → 互除法が実行可能(余りの $\varphi$ 値が毎回減少するので有限回で終了する) → ベズーの等式(互除法を逆にたどる) → ユークリッドの補題(ベズーの等式を使って証明) → 既約分解の一意性(ユークリッドの補題を使って証明)

整数でも多項式でも、証明の各ステップで使うのは「余りが小さくなる」という性質だけです。 だから同じ定理が同じ論法で証明でき、平行関係が成り立つのです。

逆に、ユークリッド整域ではない構造では、これらの定理が成り立たないことがあります。 📖 M-2-1 で見た $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ がその典型例です。 $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ では割り算の定理(余りが小さくなる性質)が成り立たないため、互除法が使えず、ベズーの等式も成り立たず、結果として素因数分解の一意性が崩壊するのでした。

環の階層構造

大学の代数学では、環をその性質の強さによって階層的に分類します。 ユークリッド整域はその中でも「良い性質を多く持つ」部類に属します。

環 → 整域 → 一意分解整域(UFD)→ 主イデアル整域(PID)→ ユークリッド整域(ED)

右に行くほど性質が強くなります。ユークリッド整域は主イデアル整域の特別な場合であり、 主イデアル整域は一意分解整域の特別な場合です。 一意分解整域とは、その名の通り「既約分解の一意性が成り立つ」環のことです。 ユークリッド整域ならば自動的に一意分解整域ですが、逆は成り立ちません(ユークリッド整域でない一意分解整域も存在します)。

ここまでで、整数と多項式の平行関係がユークリッド整域という共通構造に由来することを理解しました。 最後のセクションでは、この構造的理解を活かした具体的な応用を見ていきます。

6応用 ─ 部分分数分解とGCDによる互いに素の判定

応用1:部分分数分解の理論的根拠

高校の数学IIIや大学の微積分では、有理関数の積分のために部分分数分解を使います。 例えば、

$$\frac{1}{x^2 - 1} = \frac{1}{(x-1)(x+1)} = \frac{1/2}{x-1} - \frac{1/2}{x+1}$$

この分解はいつでも可能なのでしょうか。実は、「多項式の既約分解が一意に存在する」ことと「互いに素な多項式に対してベズーの等式が成り立つ」ことが、部分分数分解の理論的な土台です。

具体的に見てみましょう。$\frac{1}{(x-1)(x+1)}$ を部分分数分解するとは、

$$\frac{1}{(x-1)(x+1)} = \frac{A}{x-1} + \frac{B}{x+1}$$

を満たす定数 $A, B$ を見つけることです。 この分解が可能であることは、$x - 1$ と $x + 1$ が互いに素($\gcd(x-1, x+1) = 1$)であることから保証されます。

なぜかを説明します。$\gcd(x-1, x+1) = 1$ なので、ベズーの等式から

$$1 = (x - 1) \cdot s(x) + (x + 1) \cdot t(x)$$

を満たす多項式 $s(x), t(x)$ が存在します。実際に $s(x) = -\frac{1}{2}$、$t(x) = \frac{1}{2}$ とすると、

$$1 = (x - 1) \cdot \left(-\frac{1}{2}\right) + (x + 1) \cdot \frac{1}{2} = -\frac{x-1}{2} + \frac{x+1}{2} = 1$$

この等式の両辺を $(x-1)(x+1)$ で割ると、

$$\frac{1}{(x-1)(x+1)} = \frac{-1/2}{x+1} + \frac{1/2}{x-1} = \frac{1/2}{x-1} - \frac{1/2}{x+1}$$

これが部分分数分解そのものです。つまり、ベズーの等式は部分分数分解を自動的に与えているのです。

部分分数分解はベズーの等式の帰結

互いに素な多項式 $f(x), g(x)$ に対して $\frac{1}{f(x) \cdot g(x)}$ を部分分数分解できるのは、 ベズーの等式 $1 = f \cdot s + g \cdot t$ が存在し、両辺を $fg$ で割ると $\frac{1}{fg} = \frac{s}{g} + \frac{t}{f}$ が得られるからです。

部分分数分解は「テクニック」として暗記するものではなく、多項式環のベズーの等式から導かれる構造的な帰結です。

応用2:GCDを使った互いに素の判定

2つの多項式が互いに素であるかどうかは、互除法で GCD を計算すれば判定できます。 $\gcd(f, g) = 1$(定数)ならば互いに素、そうでなければ共通因子を持ちます。

例えば、$f(x) = x^2 + 2x + 1$ と $g(x) = x^2 - 1$ は互いに素でしょうか。

互除法を実行します。$f$ を $g$ で割ると、

$$(x^2 + 2x + 1) - 1 \cdot (x^2 - 1) = 2x + 2$$

余りは $2x + 2$ です。次に $g = x^2 - 1$ を $2x + 2$ で割ります。

$x^2 \div 2x = \frac{1}{2}x$ で、$\frac{1}{2}x \cdot (2x + 2) = x^2 + x$。引くと $(x^2 - 1) - (x^2 + x) = -x - 1$。 $-x \div 2x = -\frac{1}{2}$ で、$-\frac{1}{2} \cdot (2x + 2) = -x - 1$。引くと $(-x - 1) - (-x - 1) = 0$。

よって $\gcd(f, g) = 2x + 2$、モニックに正規化すると $x + 1$ です。 $\gcd \neq 1$ なので互いに素ではなく、$x + 1$ が共通因子です。 実際、$f = (x+1)^2$、$g = (x+1)(x-1)$ ですから、共通因子は $x + 1$ で確かに一致しています。

この「互いに素かどうかの判定」は、方程式の重解の判定にも使えます。 多項式 $f(x)$ とその導関数 $f'(x)$ の GCD を計算し、$\gcd(f, f') \neq 1$ ならば $f$ は重解を持ちます。 なぜなら、$f(x) = (x - a)^2 \cdot h(x)$ のとき $f'(x) = 2(x-a) \cdot h(x) + (x-a)^2 \cdot h'(x)$ で、$(x-a)$ が共通因子になるからです。

具体例:重解の判定

$f(x) = x^3 - 3x + 2$ が重解を持つかどうかを判定します。$f'(x) = 3x^2 - 3$ です。

$f$ を $f'$ で割ります。$x^3 \div 3x^2 = \frac{1}{3}x$ で、$\frac{1}{3}x \cdot (3x^2 - 3) = x^3 - x$。 引くと $(x^3 - 3x + 2) - (x^3 - x) = -2x + 2$。

次に $f' = 3x^2 - 3$ を $-2x + 2$ で割ります。$3x^2 \div (-2x) = -\frac{3}{2}x$ で、$-\frac{3}{2}x \cdot (-2x + 2) = 3x^2 - 3x$。 引くと $(3x^2 - 3) - (3x^2 - 3x) = 3x - 3$。 $3x \div (-2x) = -\frac{3}{2}$ で、$-\frac{3}{2} \cdot (-2x + 2) = 3x - 3$。 引くと $(3x - 3) - (3x - 3) = 0$。

よって $\gcd(f, f') = -2x + 2$、モニックに正規化すると $x - 1$ です。 $\gcd(f, f') = x - 1 \neq 1$ なので、$f(x)$ は $x = 1$ を重解として持ちます。 実際 $f(x) = (x - 1)^2(x + 2)$ と因数分解でき、$x = 1$ が2重解です。

7つながりマップ

  • 前提知識📖 M-2-1 素因数分解の一意性 ── 整数における互除法・ベズーの等式・ユークリッドの補題・算術の基本定理。本記事ではこれらの多項式版を平行して展開しています。
  • 前提知識📖 M-2-2 合同算術 ── 整数の合同算術($\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$)は、多項式の剰余環 $\mathbb{R}[x]/(p(x))$ と平行する構造です。
  • 発展📖 M-3-2 方程式の解の構造 ── 多項式の既約分解から、方程式の解がどのような構造を持つかを分析します。
  • 関連📖 M-1-3 代数学の基本定理 ── $\mathbb{C}[x]$ では1次式のみが既約であること(代数学の基本定理の帰結)と、$\mathbb{R}[x]$ の既約多項式が1次式と2次式に限られることの関係。
まとめ
  • 多項式にも整数と同様の割り算の定理が成り立つ。整数では「余りの絶対値が割る数より小さい」であったのが、多項式では「余りの次数が割る式の次数より小さい」に変わるだけである。
  • 割り算の定理を繰り返し適用する互除法は多項式にもそのまま使え、2つの多項式のGCDを具体的に計算できる。また、ベズーの等式 $\gcd(f, g) = fs + gt$ も成り立つ。
  • 既約多項式は整数の素数に対応する概念であり、$\mathbb{R}[x]$ では1次式と判別式が負の2次式に限られる。多項式の既約分解は(定数倍と順序を除いて)一意であり、この証明はユークリッドの補題に基づく。
  • 整数と多項式がこれほど平行する理由は、両者がユークリッド整域(割り算で余りが小さくなる整域)という同じ代数的構造を共有しているためである。
  • この構造的理解の応用として、部分分数分解がベズーの等式の帰結であること、また $\gcd(f, f')$ の計算による重解の判定が可能であることを確認した。

9確認テスト

理解度チェック

Q1. 多項式の割り算の定理で、商と余りの一意性を保証している条件は何ですか。

クリックして解答を表示 余り $r(x)$ の次数が割る式 $g(x)$ の次数より小さい($\deg r < \deg g$)という条件です。この条件があることで、$f = gq + r$ を満たす $q, r$ が一意に定まります。整数の場合は $0 \le r < |b|$ でしたが、「大きさの尺度」が絶対値から次数に変わっただけで同じ構造です。

Q2. 整数における素数に対応する多項式の概念は何ですか。$\mathbb{R}[x]$ での具体例を2つ挙げてください。

クリックして解答を表示 既約多項式です。$\mathbb{R}[x]$ での具体例として、1次式 $x - 3$ と、判別式が負の2次式 $x^2 + 1$ があります。既約多項式とは、定数以外の因子で割り切れない多項式のことであり、「1と自分自身以外で割れない」という素数の定義と平行しています。

Q3. ユークリッド整域における「大きさの尺度」$\varphi$ は、整数と多項式でそれぞれ何に対応しますか。

クリックして解答を表示 整数 $\mathbb{Z}$ では絶対値 $\varphi(a) = |a|$、多項式 $\mathbb{R}[x]$ では次数 $\varphi(f) = \deg f$ に対応します。いずれも「割り算をすると余りの $\varphi$ 値が小さくなる」という性質を持ち、この性質が互除法の有限回での終了を保証します。

Q4. 部分分数分解 $\frac{1}{(x-1)(x+1)} = \frac{A}{x-1} + \frac{B}{x+1}$ が可能であることの理論的根拠を、この記事で学んだ用語を使って説明してください。

クリックして解答を表示 $x - 1$ と $x + 1$ は互いに素($\gcd(x-1, x+1) = 1$)であるため、ベズーの等式 $1 = (x-1) \cdot s(x) + (x+1) \cdot t(x)$ を満たす多項式 $s, t$ が存在します。この等式の両辺を $(x-1)(x+1)$ で割ると $\frac{1}{(x-1)(x+1)} = \frac{s(x)}{x+1} + \frac{t(x)}{x-1}$ となり、部分分数分解が得られます。

10演習問題

問1 A 基本

$f(x) = 2x^3 + 3x^2 - 5x + 1$ を $g(x) = x^2 + x - 2$ で割ったときの商 $q(x)$ と余り $r(x)$ を求めてください。 また、$\deg r < \deg g$ が成り立っていることを確認してください。

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解答

$2x^3 \div x^2 = 2x$。$2x(x^2 + x - 2) = 2x^3 + 2x^2 - 4x$。

引くと $(2x^3 + 3x^2 - 5x + 1) - (2x^3 + 2x^2 - 4x) = x^2 - x + 1$。

$x^2 \div x^2 = 1$。$1 \cdot (x^2 + x - 2) = x^2 + x - 2$。

引くと $(x^2 - x + 1) - (x^2 + x - 2) = -2x + 3$。

よって $q(x) = 2x + 1$、$r(x) = -2x + 3$ です。$\deg r = 1 < 2 = \deg g$ が成り立ちます。

解説

検算:$(x^2 + x - 2)(2x + 1) + (-2x + 3) = 2x^3 + x^2 + 2x^2 + x - 4x - 2 - 2x + 3 = 2x^3 + 3x^2 - 5x + 1 = f(x)$。一致します。

問2 A 基本

次の多項式が $\mathbb{R}[x]$ で既約かどうかを判定し、既約でないものは既約多項式の積に分解してください。

(a) $x^2 - 5x + 6$   (b) $x^2 + 4$   (c) $x^3 - 1$

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解答

(a) 判別式 $D = 25 - 24 = 1 > 0$ なので実数の根を持ち、既約ではありません。$x^2 - 5x + 6 = (x - 2)(x - 3)$ と既約因子の積に分解できます。

(b) 判別式 $D = 0 - 16 = -16 < 0$ なので実数の根を持たず、$\mathbb{R}[x]$ で既約です。

(c) $x = 1$ が根なので因数定理より $(x - 1)$ で割り切れます。$x^3 - 1 = (x - 1)(x^2 + x + 1)$。$x^2 + x + 1$ の判別式は $1 - 4 = -3 < 0$ なので、$x^2 + x + 1$ は $\mathbb{R}[x]$ で既約です。よって $(x-1)(x^2 + x + 1)$ が既約分解です。

問3 B 計算

ユークリッドの互除法を用いて $\gcd(x^3 + 2x^2 + 2x + 1, \; x^2 + x + 1)$ を求めてください。 各ステップの割り算を明示してください。

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解答

$f(x) = x^3 + 2x^2 + 2x + 1$、$g(x) = x^2 + x + 1$ とします。

ステップ1:$f$ を $g$ で割ります。$x^3 \div x^2 = x$。$x(x^2 + x + 1) = x^3 + x^2 + x$。 引くと $(x^3 + 2x^2 + 2x + 1) - (x^3 + x^2 + x) = x^2 + x + 1$。

$x^2 \div x^2 = 1$。$1 \cdot (x^2 + x + 1) = x^2 + x + 1$。 引くと $(x^2 + x + 1) - (x^2 + x + 1) = 0$。

よって $f = g \cdot (x + 1) + 0$ です。余りが $0$ なので、$\gcd(f, g) = x^2 + x + 1$ です。

解説

確認として因数分解すると、$f = (x+1)(x^2 + x + 1)$、$g = x^2 + x + 1$ です。したがって共通因子は $x^2 + x + 1$ であり、互除法の結果と一致します。

問4 B 計算 + 応用

ベズーの等式を用いて、$\frac{1}{(x-2)(x+3)}$ を部分分数分解してください。 まず $\gcd(x-2, x+3) = 1$ であることを確認し、$1 = (x-2) \cdot s + (x+3) \cdot t$ を満たす定数 $s, t$ を求めてから分解を導いてください。

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解答

$x - 2$ と $x + 3$ はどちらも1次式(既約)であり、定数倍の関係にないので $\gcd(x-2, x+3) = 1$ です。

ベズーの等式 $1 = (x-2) \cdot s + (x+3) \cdot t$ を満たす定数 $s, t$ を求めます。

$(x-2) \cdot s + (x+3) \cdot t = (s + t)x + (-2s + 3t) = 1$ なので、 $s + t = 0$ かつ $-2s + 3t = 1$ を連立して解くと $t = \frac{1}{5}$、$s = -\frac{1}{5}$ です。

したがって $1 = (x-2) \cdot \left(-\frac{1}{5}\right) + (x+3) \cdot \frac{1}{5}$ です。

両辺を $(x-2)(x+3)$ で割ると、

$$\frac{1}{(x-2)(x+3)} = \frac{-1/5}{x+3} + \frac{1/5}{x-2} = \frac{1}{5} \cdot \frac{1}{x-2} - \frac{1}{5} \cdot \frac{1}{x+3}$$

解説

高校で学ぶ「係数比較法」(両辺に $(x-2)(x+3)$ をかけて恒等式として解く方法)と結果は同じですが、 ここでの方法はベズーの等式という理論的な裏付けがあります。 分母の因子が互いに素でさえあれば、部分分数分解は常に可能であるという一般的な保証を与えています。

問5 C 論述

多項式 $f(x)$ とその導関数 $f'(x)$ の GCD を使って、$f(x)$ が重解を持つかどうかを判定できる理由を説明してください。 その後、$f(x) = x^4 - 2x^3 + 2x - 1$ に対して $\gcd(f, f')$ を互除法で計算し、重解があればそれを求めてください。

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解答

理由の説明:$f(x) = (x - a)^m \cdot h(x)$($m \ge 2$、$h(a) \neq 0$)のとき、微分すると $f'(x)$ も $(x-a)$ を因子として持ちます。したがって $(x-a)$ は $f$ と $f'$ の共通因子となり、$\gcd(f, f') \neq 1$ です。逆に、$f(x)$ のすべての根が単根ならば、$f$ と $f'$ は共通の根を持たないので $\gcd(f, f') = 1$ です。よって、$\gcd(f, f') \neq 1$ であることと $f$ が重解を持つことは同値です。

計算:$f(x) = x^4 - 2x^3 + 2x - 1$、$f'(x) = 4x^3 - 6x^2 + 2$ です。

ステップ1:$f$ を $f'$ で割ります。$x^4 \div 4x^3 = \frac{1}{4}x$。$\frac{1}{4}x(4x^3 - 6x^2 + 2) = x^4 - \frac{3}{2}x^3 + \frac{1}{2}x$。 引くと $(x^4 - 2x^3 + 2x - 1) - (x^4 - \frac{3}{2}x^3 + \frac{1}{2}x) = -\frac{1}{2}x^3 + \frac{3}{2}x - 1$。

定数倍して余りを $r_1 = x^3 - 3x + 2$ とします。

ステップ2:$f'$ を $r_1$ で割ります。$4x^3 \div x^3 = 4$。$4(x^3 - 3x + 2) = 4x^3 - 12x + 8$。 引くと $(4x^3 - 6x^2 + 2) - (4x^3 - 12x + 8) = -6x^2 + 12x - 6$。

定数倍して余りを $r_2 = x^2 - 2x + 1 = (x-1)^2$ とします。

ステップ3:$r_1 = x^3 - 3x + 2$ を $r_2 = x^2 - 2x + 1$ で割ります。$x^3 \div x^2 = x$。$x(x^2 - 2x + 1) = x^3 - 2x^2 + x$。 引くと $(x^3 - 3x + 2) - (x^3 - 2x^2 + x) = 2x^2 - 4x + 2$。 $2x^2 \div x^2 = 2$。$2(x^2 - 2x + 1) = 2x^2 - 4x + 2$。引くと $0$。

よって $\gcd(f, f') = x^2 - 2x + 1 = (x - 1)^2$ です。$x = 1$ が重解であり、$f(x) = (x - 1)^3(x + 1)$ と因数分解できます。