高校数学では、「すべての2以上の整数は素数の積として一通りに表せる」ことを当然の事実として使い、GCDの計算や不定方程式の解法に活用します。 しかし、この素因数分解の一意性は、実は証明を必要とする深い定理です。 その証明の鍵を握るのは、高校でも学ぶユークリッドの互除法から導かれるベズーの等式と、そこから証明されるユークリッドの補題(素数 $p$ が $ab$ を割るなら $p$ は $a$ か $b$ を割る)です。 さらに、数の体系を $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ に変えるだけで一意性が崩壊する例を見ることで、整数における素因数分解の一意性がいかに特別な性質であるかを理解します。
高校の数学Aでは、整数の性質として素因数分解を学びます。 「すべての2以上の整数は素数の積として表せる」ことを前提に、次のような問題を解きます。
これらの作業では、素因数分解が一通りに決まることを暗黙のうちに使っています。 例えば「$360$ の約数の個数を求めよ」という問題では、$360 = 2^3 \times 3^2 \times 5$ という分解が唯一であることを前提に、約数の個数を $(3+1)(2+1)(1+1) = 24$ 個と求めます。 もし別の素因数分解が存在したら、この計算は意味をなしません。
しかし、高校では「なぜ素因数分解は一通りに決まるのか」を証明することはありません。 それは「当たり前のこと」として受け入れられています。 次のセクションでは、この「当たり前」が実は当たり前でないことを確認します。
大学の整数論や代数学では、素因数分解の一意性は算術の基本定理(Fundamental Theorem of Arithmetic)と呼ばれる、証明を必要とする重要な定理です。 その証明には、高校でも学ぶユークリッドの互除法が本質的な役割を果たします。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ユークリッドの互除法からベズーの等式 $\gcd(a, b) = ax + by$ を構成できる
2. ベズーの等式を使って「素数 $p$ が $ab$ を割るなら $p$ は $a$ か $b$ を割る」(ユークリッドの補題)を証明できる
3. ユークリッドの補題を使って素因数分解の一意性を証明できる
4. $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で一意性が崩壊する例を確認し、整数の一意性の特別さを理解できる
5. 素因数分解の一意性を使って $\sqrt{2}$ の無理数性を証明できる
証明の論理は「互除法 → ベズーの等式 → ユークリッドの補題 → 一意性」という一本の鎖になっています。 次のセクションから、この鎖の最初の環であるベズーの等式を準備します。
高校では、ユークリッドの互除法を「GCDを効率よく求めるアルゴリズム」として学びます。 ここでは、互除法の計算過程から、GCDを $a$ と $b$ の整数係数の一次結合として表す等式を構成できることを確認します。 この等式が、次のセクション以降で一意性の証明に直結します。
互除法の原理は「$a = bq + r$ のとき $\gcd(a, b) = \gcd(b, r)$」です。 これを繰り返し適用して余りを0にすると、最後の非ゼロの余りがGCDになります。 具体例で計算してみます。
$\gcd(252, 105)$ を求めます。
$$252 = 105 \times 2 + 42$$
$$105 = 42 \times 2 + 21$$
$$42 = 21 \times 2 + 0$$
余りが0になったので、最後の非ゼロの余りである $21$ が $\gcd(252, 105) = 21$ です。 ここまでは高校の範囲です。
互除法の計算過程を逆にたどると、$\gcd(a, b)$ を $a$ と $b$ の整数係数の一次結合として表すことができます。 これをベズーの等式と呼びます。
任意の整数 $a, b$(ともに0でない)に対して、次を満たす整数 $x, y$ が存在します。
$$\gcd(a, b) = ax + by$$
これは「$\gcd(a, b)$ は $a$ と $b$ の整数係数の一次結合として表せる」ことを意味します。しかも、その $x, y$ は互除法の過程から具体的に構成できます。
先ほどの例で実際に構成してみます。互除法の各ステップから余りを取り出します。
ステップ1の式を余りについて解くと、
$$42 = 252 - 105 \times 2$$
ステップ2の式を余りについて解くと、
$$21 = 105 - 42 \times 2$$
この第2式に、第1式の $42 = 252 - 105 \times 2$ を代入します。
$$21 = 105 - (252 - 105 \times 2) \times 2$$
$$= 105 - 252 \times 2 + 105 \times 4$$
$$= 252 \times (-2) + 105 \times 5$$
したがって、$\gcd(252, 105) = 21 = 252 \times (-2) + 105 \times 5$ が得られました。 実際に確認すると $252 \times (-2) + 105 \times 5 = -504 + 525 = 21$ であり、正しいことがわかります。
この方法は任意の整数の組に対して実行でき、必ずベズーの等式を構成できます。 ベズーの等式は、互除法の「副産物」ではなく、次のセクションでユークリッドの補題を証明する際の決定的な道具になります。
セクション3でベズーの等式を手に入れました。 これを使って、素因数分解の一意性の証明において最も重要な命題を証明します。
素数 $p$ が積 $ab$ を割るならば、$p$ は $a$ を割るか $b$ を割る(あるいは両方を割る)。
記号で書くと、$p \mid ab$ ならば $p \mid a$ または $p \mid b$ です。
「当たり前ではないか」と感じるかもしれません。 しかし、この性質は素数に固有のものであり、素数でない数では成り立ちません。 まずそのことを確認してから、証明に進みます。
具体例:$6$ は $2 \times 9 = 18$ を割ります($18 = 6 \times 3$)。しかし、$6$ は $2$ を割らないし、$6$ は $9$ も割りません。
つまり、$6 \mid 2 \times 9$ であるにもかかわらず、$6 \nmid 2$ かつ $6 \nmid 9$ です。
教訓:「$n$ が $ab$ を割るなら $n$ は $a$ か $b$ を割る」は、$n$ が素数のときだけ保証される性質です。この違いが、素因数分解の一意性を支えています。
それでは、ベズーの等式を使ってユークリッドの補題を証明します。
示すこと:素数 $p$ が $ab$ を割るとき、$p \mid a$ または $p \mid b$ であること。
証明の方針:$p \mid a$ の場合は自明なので、$p \nmid a$ と仮定して $p \mid b$ を示します。ベズーの等式を使うのがポイントです。
ステップ1. $p \nmid a$ と仮定します。$p$ は素数なので、$p$ の正の約数は $1$ と $p$ のみです。$p \nmid a$ ということは $\gcd(p, a) \neq p$ を意味し、したがって $\gcd(p, a) = 1$ です。
ステップ2. $\gcd(p, a) = 1$ にベズーの等式を適用すると、ある整数 $x, y$ が存在して次が成り立ちます。
$$px + ay = 1$$
ステップ3. この両辺に $b$ をかけます。
$$pbx + aby = b$$
ステップ4. 右辺の各項が $p$ で割り切れることを確認します。第1項 $pbx$ は明らかに $p$ で割り切れます。第2項 $aby$ は、仮定から $p \mid ab$ なので $p$ で割り切れます。
ステップ5. よって、$b = pbx + aby$ は $p$ の倍数の和であり、$p \mid b$ が得られます。
以上から、$p \mid a$ または $p \mid b$ が示されました。 $\square$
この証明で、セクション3で準備したベズーの等式が決定的な役割を果たしました。 ステップ2で $\gcd(p, a) = 1$ からベズーの等式を得て、ステップ3で $b$ をかけるという自然な操作で結論を導いています。
ユークリッドの補題は、繰り返し適用することで次の形に拡張できます。 素数 $p$ が $a_1 a_2 \cdots a_n$ を割るならば、$p$ はどれか1つの $a_i$ を割ります。 この拡張された形が、次のセクションで素因数分解の一意性を証明する際に使われます。
セクション4でユークリッドの補題を手に入れました。 いよいよ、素因数分解の一意性(算術の基本定理)を証明します。 この定理は「存在」と「一意性」の2つのパートからなります。
すべての2以上の整数 $n$ は、素数の積として表すことができ、その表し方は素因数の順序を除いて一通りです。
すなわち、$n = p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_k^{e_k}$($p_1 < p_2 < \cdots < p_k$ は素数、$e_i \geq 1$)と表したとき、素数 $p_1, \ldots, p_k$ とその指数 $e_1, \ldots, e_k$ は $n$ によって一意に定まります。
まず、すべての2以上の整数が素数の積として表せることを示します。 これは比較的素直な議論です。
示すこと:すべての2以上の整数 $n$ が素数の積として表せること。
基底:$n = 2$ のとき、$2$ は素数なのでそれ自身が素数の積です(因子が1つの積)。
帰納段階:$2$ 以上 $n-1$ 以下のすべての整数が素数の積として表せると仮定して、$n$ の場合を示します。
$n$ が素数ならば、$n$ はそれ自身が素数の積です。
$n$ が合成数ならば、$n = ab$ と書けます($2 \leq a, b \leq n-1$)。帰納法の仮定により、$a$ も $b$ も素数の積として表せるので、それらを並べれば $n$ の素因数分解が得られます。 $\square$
次が本題です。素因数分解の表し方が(順序を除いて)一通りであることを示します。 ここでユークリッドの補題が本質的に使われます。
証明の方針:同じ整数 $n$ に対して2つの素因数分解を仮定し、ユークリッドの補題を繰り返し適用して、2つの分解が実は同じであることを示します。
示すこと:$n$ の素因数分解が(素因数の順序を除いて)一意であること。
2以上の整数 $n$ が次の2通りの素因数分解を持つと仮定します。
$$n = p_1 p_2 \cdots p_r = q_1 q_2 \cdots q_s$$
ここで $p_1, \ldots, p_r$ および $q_1, \ldots, q_s$ はすべて素数です(同じ素数が重複して現れてもよい)。この2つの分解が(順序を除いて)一致することを示します。
ステップ1. $p_1$ は左辺を割るので、右辺 $q_1 q_2 \cdots q_s$ も割ります。ユークリッドの補題(の拡張)より、$p_1$ はどれか1つの $q_j$ を割ります。$q_j$ は素数なので、その正の約数は $1$ と $q_j$ のみです。$p_1 \geq 2$ より $p_1 = q_j$ です。
ステップ2. $q_j$ を並べ替えて $q_1 = p_1$ としてよいです。すると等式の両辺を $p_1$ で割って、
$$p_2 p_3 \cdots p_r = q_2 q_3 \cdots q_s$$
が得られます。
ステップ3. 同じ議論を $p_2, p_3, \ldots$ について繰り返します。各ステップで右辺のある $q$ が左辺の $p$ と一致し、両辺から消去されます。
ステップ4. すべての $p_i$ を消去し終えたとき、左辺は1になります。右辺にまだ $q$ が残っていたとすると、$1 = q_{r+1} \cdots q_s$ となりますが、すべての $q$ は素数($\geq 2$)なので、その積は $1$ にはなりません。したがって右辺にも $q$ は残っておらず、$r = s$ です。
以上から、2つの分解は(順序を除いて)同じ素数の列であり、一意性が示されました。 $\square$
この証明の核心はステップ1です。「$p_1$ が $q_1 q_2 \cdots q_s$ を割るなら、どれか1つの $q_j$ を割る」というユークリッドの補題がなければ、この議論は成り立ちません。 そして、ユークリッドの補題の証明にはベズーの等式が必要であり、ベズーの等式はユークリッドの互除法から構成されました。 「互除法 → ベズーの等式 → ユークリッドの補題 → 一意性」という論理の鎖がつながりました。
では、ユークリッドの補題が成り立たない世界、つまり素因数分解の一意性が崩壊する世界とはどのようなものでしょうか。 次のセクションで具体例を見ます。
素因数分解の一意性は、通常の整数 $\mathbb{Z}$ では成り立ちますが、数の体系を少し変えるだけで崩壊することがあります。 ここでは、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ という数の体系を紹介し、一意性が成り立たない具体例を示します。
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ とは、次の形の数全体の集合です。
$$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] = \{a + b\sqrt{-5} \mid a, b \in \mathbb{Z}\}$$
例えば $3, \; 1 + \sqrt{-5}, \; -2 + 3\sqrt{-5}$ などがこの集合の元です。 通常の加法と乗法で閉じていることが確認でき(2つの元の和・積はまた $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の元になります)、整数と同様に因数分解を考えることができます。
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の中で、$6$ を次の2通りに分解できます。
$$6 = 2 \times 3 = (1 + \sqrt{-5})(1 - \sqrt{-5})$$
右側の等式を実際に確認します。
$$(1 + \sqrt{-5})(1 - \sqrt{-5}) = 1^2 - (\sqrt{-5})^2 = 1 - (-5) = 6$$
確かに2通りの分解が得られています。しかし、これが「一意性の崩壊」を意味するためには、$2, 3, 1 + \sqrt{-5}, 1 - \sqrt{-5}$ がこの世界で「素数的」な元(これ以上分解できない元)であることを確認する必要があります。
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の元 $a + b\sqrt{-5}$ に対して、ノルムを次のように定義します。
$$N(a + b\sqrt{-5}) = a^2 + 5b^2$$
ノルムには次の重要な性質があります。積のノルムは、ノルムの積に等しいです。
$$N(\alpha \beta) = N(\alpha) \cdot N(\beta)$$
また、$N(\alpha) = 1$ となるのは $\alpha = \pm 1$ のときに限ります($\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の単元)。
ノルムの乗法性 $N(\alpha \beta) = N(\alpha) \cdot N(\beta)$ を使うと、「ある元がこれ以上分解できない」ことを示せます。 ある元 $\alpha$ が $\alpha = \beta \gamma$ と分解できるとすると、$N(\alpha) = N(\beta) \cdot N(\gamma)$ が成り立ちます。 したがって、$N(\alpha)$ が非自明に($1$ と $N(\alpha)$ 以外に)分解できなければ、$\alpha$ 自身もこれ以上分解できないことがわかります。
各元のノルムを計算します。
$2$ がこれ以上分解できないことを示します。 もし $2 = \beta \gamma$($\beta, \gamma$ はともに単元でない)と書けたとすると、$N(2) = N(\beta) \cdot N(\gamma) = 4$ であり、$N(\beta) = N(\gamma) = 2$ でなければなりません。 しかし、$N(a + b\sqrt{-5}) = a^2 + 5b^2 = 2$ を満たす整数 $a, b$ は存在しません($b \neq 0$ なら $a^2 + 5b^2 \geq 5$ であり、$b = 0$ なら $a^2 = 2$ で整数解なし)。 したがって、$2$ は $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ でこれ以上分解できません。
同様の議論で、$3$ もこれ以上分解できません($N(3) = 9$ で、$N = 3$ となる元は $a^2 + 5b^2 = 3$ を満たす整数がないため存在しません)。 $1 + \sqrt{-5}$ と $1 - \sqrt{-5}$ についても、$N = 6 = 2 \times 3$ ですが、$N = 2$ や $N = 3$ の元が存在しないことから、非自明な分解はできません。
以上から、$2, 3, 1 + \sqrt{-5}, 1 - \sqrt{-5}$ はすべて $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ でこれ以上分解できない元(既約元)です。 しかし $6 = 2 \times 3 = (1 + \sqrt{-5})(1 - \sqrt{-5})$ という2通りの分解が存在するので、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ では素因数分解の一意性が成り立ちません。
通常の整数 $\mathbb{Z}$ で素因数分解の一意性が成り立つのは、ユークリッドの互除法が使えるからです。互除法からベズーの等式が得られ、ユークリッドの補題が証明でき、一意性が保証されます。
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ ではユークリッドの互除法に相当するものがうまく機能しないため、ユークリッドの補題が成り立たず、結果として一意性が崩壊します。
高校で「当たり前」に使っていた素因数分解の一意性は、整数に備わった特別な性質なのです。
一意性が崩壊する世界を見たことで、通常の整数における一意性の価値がより明確になりました。 次のセクションでは、この一意性を積極的に使って、具体的な証明を行います。
$\sqrt{2}$ の無理数性は、高校でも背理法を使って証明します。 高校の証明では「$p^2 = 2q^2$ から $p$ が偶数、よって $q$ も偶数で矛盾」という論法を使いますが、ここでは素因数分解の一意性を直接使った別の証明を示します。
示すこと:$\sqrt{2}$ が有理数でないこと。
証明:背理法で示します。$\sqrt{2} = p/q$($p, q$ は正の整数)と仮定します。両辺を二乗すると $2q^2 = p^2$ です。
ここで、両辺の素因数分解における素数 $2$ の指数に注目します。
$p^2$ の素因数分解で $2$ の指数は偶数です($p$ の分解で $2$ の指数を $a$ とすると、$p^2$ では $2a$)。
$q^2$ の素因数分解で $2$ の指数も偶数です(同様に $2b$ とする)。
よって $2q^2$ の素因数分解で $2$ の指数は $2b + 1$ であり、奇数です。
しかし $2q^2 = p^2$ の左辺で $2$ の指数は奇数、右辺で $2$ の指数は偶数です。素因数分解の一意性により、同じ整数の素因数分解における各素数の指数は一意に定まるので、これは矛盾です。
したがって $\sqrt{2}$ は有理数ではありません。 $\square$
この証明は、高校の証明と比べて「互いに素」の条件を必要としない点が特徴です。 素因数分解の一意性さえ使えば、指数の偶奇だけで矛盾が導けます。 同じ論法で、$\sqrt{3}, \sqrt{5}$ など、素数 $p$ に対する $\sqrt{p}$ の無理数性も直ちに証明できます。
素因数分解の一意性を使うと、最大公約数と最小公倍数を素因数分解から計算できることが厳密に正当化されます。
2つの正の整数 $a, b$ の素因数分解を次のように書きます(共通する素数も含めてすべて列挙し、含まれない素数の指数は $0$ とします)。
$$a = p_1^{a_1} p_2^{a_2} \cdots p_k^{a_k}, \quad b = p_1^{b_1} p_2^{b_2} \cdots p_k^{b_k}$$
このとき、
$$\gcd(a, b) = p_1^{\min(a_1, b_1)} p_2^{\min(a_2, b_2)} \cdots p_k^{\min(a_k, b_k)}$$
$$\mathrm{lcm}(a, b) = p_1^{\max(a_1, b_1)} p_2^{\max(a_2, b_2)} \cdots p_k^{\max(a_k, b_k)}$$
例えば $a = 360 = 2^3 \times 3^2 \times 5$、$b = 150 = 2 \times 3 \times 5^2$ のとき、
$$\gcd(360, 150) = 2^{\min(3,1)} \times 3^{\min(2,1)} \times 5^{\min(1,2)} = 2^1 \times 3^1 \times 5^1 = 30$$
$$\mathrm{lcm}(360, 150) = 2^{\max(3,1)} \times 3^{\max(2,1)} \times 5^{\max(1,2)} = 2^3 \times 3^2 \times 5^2 = 1800$$
高校ではこの計算法を当然のように使っていますが、素因数分解が一意でなければ、この方法は正当化できません。 一意性があるからこそ「各素数の指数」が意味を持ち、最大公約数や最小公倍数を素因数分解から機械的に求められるのです。
上の表現から、任意の正の整数 $a, b$ について次の関係が成り立つことがわかります。
$$\gcd(a, b) \cdot \mathrm{lcm}(a, b) = a \cdot b$$
これは各素数 $p_i$ について $\min(a_i, b_i) + \max(a_i, b_i) = a_i + b_i$ が成り立つことから従います。上の例では $\gcd(360, 150) \times \mathrm{lcm}(360, 150) = 30 \times 1800 = 54000 = 360 \times 150$ と確認できます。
Q1. ユークリッドの補題の主張を述べてください。また、この補題が「素数」に限定される理由を、合成数での反例を1つ挙げて説明してください。
Q2. ベズーの等式を使って、$\gcd(35, 12)$ を $35$ と $12$ の整数係数の一次結合として表してください。
Q3. 素因数分解の一意性の証明で、ユークリッドの補題はどのように使われますか。
Q4. $\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で素因数分解の一意性が崩壊する例を1つ挙げ、そこに現れる各因子がこれ以上分解できないことをノルムを使って説明してください。
ユークリッドの互除法を用いて $\gcd(462, 198)$ を求め、さらにベズーの等式 $\gcd(462, 198) = 462x + 198y$ を満たす整数 $x, y$ を1組求めてください。
互除法:$462 = 198 \times 2 + 66$、$198 = 66 \times 3 + 0$。よって $\gcd(462, 198) = 66$ です。
ベズーの等式を構成します。$66 = 462 - 198 \times 2$ なので、$66 = 462 \times 1 + 198 \times (-2)$ です。
したがって $x = 1, \; y = -2$ です。検算:$462 \times 1 + 198 \times (-2) = 462 - 396 = 66$。
次の主張は正しいですか。正しくない場合は反例を挙げてください。
「整数 $n$ が積 $ab$ を割るならば、$n$ は $a$ を割るか $b$ を割る。」
正しくありません。反例:$n = 4$、$a = 2$、$b = 6$ のとき、$ab = 12$ であり $4 \mid 12$ ですが、$4 \nmid 2$ かつ $4 \nmid 6$ です。
この性質が成り立つのは $n$ が素数のときに限ります(ユークリッドの補題)。$n$ が合成数の場合、$n$ の素因数が $a$ と $b$ に分散して含まれることがあり、$n$ 自身はどちらも割らないことがあります。
素因数分解の一意性を用いて、$\sqrt{3}$ が無理数であることを証明してください。
背理法で示します。$\sqrt{3} = p/q$($p, q$ は正の整数)と仮定すると、$3q^2 = p^2$ です。
$p^2$ の素因数分解で素数 $3$ の指数は偶数です($p$ での指数を $a$ とすると $p^2$ では $2a$)。
$q^2$ の素因数分解で素数 $3$ の指数も偶数です($q$ での指数を $b$ とすると $q^2$ では $2b$)。
$3q^2$ の素因数分解で素数 $3$ の指数は $2b + 1$ で奇数です。
$3q^2 = p^2$ の左辺で $3$ の指数は奇数、右辺で偶数であり、素因数分解の一意性に矛盾します。
したがって $\sqrt{3}$ は無理数です。
$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ の元 $(2 + \sqrt{-5})(2 - \sqrt{-5})$ を計算し、その結果を通常の整数として2通りの方法で素因数分解してください。 さらに、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ で $2 + \sqrt{-5}$ と $2 - \sqrt{-5}$ が既約元であることをノルムを使って示してください。
$(2 + \sqrt{-5})(2 - \sqrt{-5}) = 4 - (-5) = 9 = 3 \times 3$ です。
通常の整数としては $9 = 3^2$ ですが、$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$ では $9 = 3 \times 3 = (2 + \sqrt{-5})(2 - \sqrt{-5})$ です。
$N(2 + \sqrt{-5}) = 4 + 5 = 9$、$N(2 - \sqrt{-5}) = 4 + 5 = 9$ です。
もし $2 + \sqrt{-5} = \beta\gamma$ と非自明に分解できるなら $N(\beta) \cdot N(\gamma) = 9$ で $N(\beta) = 3, N(\gamma) = 3$ が必要です。しかし $a^2 + 5b^2 = 3$ の整数解は存在しません($b \neq 0$ なら $\geq 5$、$b = 0$ なら $a^2 = 3$ で解なし)。よって $2 + \sqrt{-5}$ は既約です。$2 - \sqrt{-5}$ も同様です。
ユークリッドの補題を使って、次の命題を証明してください。
「素数 $p$ と正の整数 $n$ について、$p \mid n^2$ ならば $p \mid n$ である。」
さらに、この結果を用いて「$p$ が素数のとき $\sqrt{p}$ は無理数である」ことを証明してください。
前半:$p \mid n^2 = n \cdot n$ です。ユークリッドの補題より、$p \mid n$ または $p \mid n$ です。いずれにしても $p \mid n$ が得られます。
後半:背理法で示します。$\sqrt{p} = a/b$($a, b$ は正の整数、$\gcd(a, b) = 1$)と仮定すると、$pb^2 = a^2$ です。
$p \mid a^2$ なので、前半の結果より $p \mid a$ です。$a = pk$ とおくと $pb^2 = p^2k^2$ より $b^2 = pk^2$ です。
$p \mid b^2$ なので、前半の結果より $p \mid b$ です。
$p \mid a$ かつ $p \mid b$ ですが、$\gcd(a, b) = 1$ に矛盾します。よって $\sqrt{p}$ は無理数です。
前半の「$p \mid n^2$ ならば $p \mid n$」は、ユークリッドの補題の直接的な応用です。これは素数でない数では一般に成り立ちません(例:$4 \mid 36 = 6^2$ ですが $4 \nmid 6$)。この性質が $\sqrt{p}$ の無理数性の証明を支えています。