高校数学Aの「図形の性質」では、三角形の合同条件や円の性質など、多くの図形の定理を学びます。
これらの定理はすべて、約2300年前にユークリッドが著した『原論』(ストイケイア)の公理系から導かれるものです。
しかし、その公理系の中に一つだけ、古代から2000年以上にわたって数学者を悩ませ続けた公理があります。
それが第5公準(平行線公準)です。
大学数学では、第5公準が他の公理から独立であること、すなわち第5公準を否定しても矛盾のない幾何学が構成できることが証明されています。
この発見は非ユークリッド幾何と呼ばれる新しい幾何学を生み出し、
「幾何学の定理とは、公理系からの論理的帰結であり、公理を変えれば定理も変わる」という認識をもたらしました。
公理系の選び方が幾何学の「世界」そのものを決定するのです。
高校数学Aの「図形の性質」では、三角形の五心(重心、外心、内心、垂心、傍心)、チェバの定理、メネラウスの定理、方べきの定理など、多くの定理を学びます。 また、数学Iの「図形と計量」では、正弦定理や余弦定理を使って三角形の辺と角の関係を計算します。
これらの定理を学ぶとき、「三角形の内角の和は $180{}^\circ$ である」ことは当然の前提として使います。 実際、外角定理や多角形の内角の和の公式なども、すべてこの事実に基づいています。 中学校の教科書では、三角形の3つの角を切り取って一列に並べると直線になる、という実験で「確認」しますが、厳密な証明も与えられます。 その証明では、三角形の一辺に平行な直線を引いて、錯角が等しいことを使います。
ここで立ち止まって考えてみましょう。「錯角が等しい」ことはどこから来るのでしょうか。 それは「平行線の性質」です。では、平行線とは何でしょうか。 「2直線が交わらない」ことですが、「直線 $\ell$ 上にない点 $P$ を通って $\ell$ に平行な直線はちょうど1本引ける」ということは、なぜ正しいのでしょうか。
高校までの数学では、これらの性質は「自明な事実」として扱います。 しかし大学数学では、この「自明な事実」こそが幾何学の本質を決定する公理であり、その選び方によって全く異なる幾何学が生まれることを学びます。 次のセクションでは、この視点の転換を詳しく見ていきます。
大学数学では、幾何学の定理を「明らかな事実」として受け入れるのではなく、公理(axiom)と呼ばれる少数の仮定から、論理的に導かれる命題として位置づけます。 公理とは、証明なしに正しいと認める出発点のことです。 高校の「集合と命題」で学ぶ演繹的推論(前提から結論を論理的に導く推論)を、幾何学の全体に徹底して適用するのが大学の立場です。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. ユークリッドの5つの公準を述べ、第5公準(平行線公準)が他の4つと性格が異なることを説明できる
2. 公理の「独立性」の意味を理解し、第5公準が他の公準から証明できないことの意味を説明できる
3. 第5公準を否定した2種類の非ユークリッド幾何(双曲幾何、球面幾何)の基本的な性質を述べられる
4. 三角形の内角の和を使って、3つの幾何学を区別できる
5. 「公理系が幾何学を決定する」という大学数学の視点を、高校の図形の定理に適用して考えられる
ここまでで、高校と大学の幾何学に対する姿勢の違いが明らかになりました。 大学の視点では、幾何学の定理はすべて公理からの論理的帰結です。 では、ユークリッド幾何学の公理系とは具体的にどのようなものでしょうか。次のセクションで、ユークリッドが『原論』で設定した5つの公準を見ていきます。
紀元前300年ごろ、古代ギリシャの数学者ユークリッドは、著書『原論』において幾何学を体系化しました。 彼のアプローチは、少数の「公準」(postulate)を出発点として認め、そこからすべての定理を論理的に導くというものです。 これは高校の「集合と命題」で学ぶ「公理から定理を導く」構造そのものであり、数学における公理的方法の原型です。
ユークリッドが設定した5つの公準は、現代の言葉で述べると次のようになります。
第1公準:任意の2点を結ぶ線分を引くことができる。
第2公準:線分を任意に延長して直線にすることができる。
第3公準:任意の点を中心とし、任意の長さを半径とする円を描くことができる。
第4公準:すべての直角は互いに等しい。
第5公準(平行線公準):1つの直線が2つの直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角($180{}^\circ$)より小さければ、その2直線を延長すると、内角の和が小さい側で交わる。
第1公準から第4公準までは、直感的に理解しやすく、文章も簡潔です。 「2点を結べる」「線分を延ばせる」「円を描ける」「直角はどこでも同じ」。 いずれも幾何学の基本操作として当然と感じるものばかりです。
ところが、第5公準だけは明らかに性格が異なります。 文章が長く複雑で、他の4つの公準のような「自明さ」がありません。 実は、第5公準は次のプレイフェアの公理と同値であることが知られています(第1〜第4公準を前提とした上での同値性です)。
直線 $\ell$ と、$\ell$ 上にない点 $P$ が与えられたとき、$P$ を通り $\ell$ に平行な直線はちょうど1本存在する。
「平行」とは「どこまで延長しても交わらない」ことを意味します。この言い換えは、第1〜第4公準を前提とした上で、第5公準と論理的に同値です。
プレイフェアの公理のほうが、高校で学ぶ「平行線」の性質として馴染みがあるでしょう。 以下では、第5公準のことを平行線公準とも呼び、主にプレイフェアの公理の形で議論します。
第1〜第4公準があまりにも自明に見えるのに対し、第5公準は複雑で定理のように見えます。 そのため、ユークリッド以来、多くの数学者が次のように考えました。
「第5公準は、他の4つの公準から証明できるのではないか。」
もしそうなら、第5公準は公理ではなく定理であり、公理系から外すことができます。 実際、古代ギリシャのプトレマイオスから19世紀のルジャンドルまで、2000年以上にわたって多くの数学者が第5公準の証明を試みました。 しかし、すべての試みは失敗に終わりました。 次のセクションでは、なぜ失敗に終わったのか、その数学的な理由を見ていきます。
前のセクションで、多くの数学者が第5公準を他の公準から証明しようとして失敗したことを述べました。 19世紀に入り、ガウス、ボヤイ、ロバチェフスキーという3人の数学者が、全く異なるアプローチでこの問題に決着をつけました。 彼らの発想は次のようなものです。
「第5公準が証明できないのは、証明の技術が足りないからではなく、原理的に証明できないからではないか。」
この発想を数学的に正確に言い換えると、次のようになります。
高校の「集合と命題」で、ある命題の否定を考えることを学びます。 命題 $P$ が真であるとき、その否定 $\lnot P$ は偽です。 ここで重要なのは、ある公理系の中で命題 $P$ が証明できる(つまり公理から論理的に導ける)場合、同じ公理系の中で $\lnot P$ を仮定すると矛盾が生じるということです。
逆に言えば、もし公理系に $\lnot P$ を追加しても矛盾が生じないなら、その公理系からは $P$ を証明できないことになります。 このとき、$P$ はその公理系から独立であると言います。
公理系 $\mathcal{A}$ に含まれる公理 $A$ が、残りの公理 $\mathcal{A} \setminus \{A\}$ から独立であるとは、次の条件を満たすことです。
$\mathcal{A} \setminus \{A\}$ に $A$ の否定 $\lnot A$ を加えた体系 $(\mathcal{A} \setminus \{A\}) \cup \{\lnot A\}$ が無矛盾(矛盾を導かない)である。
つまり、$A$ を否定しても整合的な体系が作れるなら、$A$ は残りの公理からは証明できません。
この定義を第5公準に適用します。第1〜第4公準を認めた上で、第5公準の否定を仮定しても矛盾が生じないことを示せれば、第5公準は他の公準から独立であることが証明されます。
プレイフェアの公理は「$P$ を通り $\ell$ に平行な直線はちょうど1本存在する」でした。 この否定には、論理的に2つの可能性があります。
| 名称 | 平行線の本数 | 対応する幾何学 |
|---|---|---|
| 第5公準を採用 | ちょうど1本 | ユークリッド幾何(平面幾何) |
| 第5公準の否定(タイプI) | 2本以上(無限に多く) | 双曲幾何(ロバチェフスキー幾何) |
| 第5公準の否定(タイプII) | 0本(平行線が存在しない) | 球面幾何(楕円幾何) |
重要なのは、これらの否定が矛盾を引き起こさないことです。 実際に、第1〜第4公準を満たし、かつ第5公準の否定を満たすような「モデル」(具体例)が構成されています。 モデルが存在するということは、その公理系が無矛盾であることの証拠です。
誤った理解:第5公準は「正しい」のだから、それを否定した幾何学は「間違った」幾何学である。
正しい理解:第5公準を採用するかどうかは選択の問題です。第5公準を認める体系(ユークリッド幾何)も、否定する体系(非ユークリッド幾何)も、それぞれ内部的に無矛盾な幾何学です。どちらが「正しい」かは数学の問題ではなく、「どの公理系が物理的な空間をよく記述するか」という物理学の問題です。
ここまでで、第5公準が他の公準から独立であること、そしてその否定から整合的な幾何学が生まれることがわかりました。 では、第5公準を否定した世界ではどのような幾何学が展開されるのでしょうか。次のセクションでは、具体的なモデルを使って非ユークリッド幾何の世界を見ていきます。
前のセクションで述べたように、第5公準の否定には2つのタイプがあり、それぞれに対応する幾何学があります。 ここでは、具体的なモデルを使って、各幾何学で何が起こるかを見ていきます。
最もイメージしやすい非ユークリッド幾何は、球面幾何です。 球面上の「直線」を大円(球の中心を通る平面と球面の交線、たとえば地球の赤道や経線)と定義します。 大円は、球面上の2点間の最短経路(測地線)になっています。
球面上では、任意の2つの大円は必ず2点で交わります。 たとえば、地球上の任意の2つの経線は北極と南極で交わります。 つまり、球面上には平行な「直線」が存在しません。これは第5公準の否定(タイプII)に対応します。
球面幾何で特に注目すべきは、三角形の内角の和です。 地球上で次のような三角形を考えてみましょう。
この三角形の各辺はすべて大円の一部です。 頂点Aでの内角は $90{}^\circ$(2つの経線がなす角)、頂点Bでの内角は $90{}^\circ$(赤道と経線は直交する)、頂点Cでの内角も $90{}^\circ$ です。 よって、この三角形の内角の和は
$$90{}^\circ + 90{}^\circ + 90{}^\circ = 270{}^\circ$$
となり、$180{}^\circ$ を大幅に超えます。 球面幾何では、三角形の内角の和は常に $180{}^\circ$ より大きくなります。 しかも、三角形の面積が大きいほど内角の和が大きくなるという関係があります。
もう一つの非ユークリッド幾何は双曲幾何です。 双曲幾何のモデルとして有名なのが、ポアンカレの円板モデルです。 これは、平面上の単位円の内部 $\{(x, y) \mid x^2 + y^2 < 1\}$ を「世界全体」とみなし、 この円板の境界に両端が乗る円弧(および直径)を「直線」と定義するモデルです。
このモデルでは、1つの「直線」$\ell$ と、$\ell$ 上にない点 $P$ に対して、 $P$ を通り $\ell$ と交わらない「直線」が無限に多く存在します。 これは第5公準の否定(タイプI)に対応します。
双曲幾何における三角形の内角の和を考えてみましょう。 ポアンカレの円板モデルでは、双曲三角形の内角の和は常に $180{}^\circ$ より小さくなります。 三角形が小さいときは内角の和は $180{}^\circ$ に近く、三角形が大きくなるにつれて内角の和は小さくなります。 極端な場合、3つの頂点をすべて円板の境界に近づけると、内角の和は $0{}^\circ$ に近づきます。
ここまでで見てきた3つの幾何学を、主要な性質で比較してみましょう。
| 性質 | ユークリッド幾何 | 球面幾何 | 双曲幾何 |
|---|---|---|---|
| 平行線の本数 | ちょうど1本 | 0本 | 無限に多く |
| 三角形の内角の和 | $= 180{}^\circ$ | $> 180{}^\circ$ | $< 180{}^\circ$ |
| 曲率 | $0$(平坦) | 正(正の曲率) | 負(負の曲率) |
| 相似な図形 | 任意の倍率で存在 | 合同でなければ相似でない | 合同でなければ相似でない |
最後の行は注目に値します。ユークリッド幾何では、三角形を拡大・縮小しても角度は変わらないため、相似な三角形が存在します。 しかし、非ユークリッド幾何では、三角形の大きさを変えると内角の和が変わるため、相似な三角形は合同でなければ存在しません。 つまり、「形が同じで大きさだけ異なる三角形」は非ユークリッド幾何では作れないのです。
3つの幾何学を区別する最も直感的な指標は、三角形の内角の和です。
ユークリッド幾何では内角の和はちょうど $180{}^\circ$、球面幾何では $180{}^\circ$ より大きく、双曲幾何では $180{}^\circ$ より小さくなります。この違いは空間の曲率(曲がり具合)に対応しています。曲率 $0$ の平坦な空間がユークリッド幾何、正の曲率をもつ空間が球面幾何、負の曲率をもつ空間が双曲幾何です。
ここまでで、3つの幾何学の基本的な性質を具体的なモデルを通じて理解しました。 次のセクションでは、三角形の内角の和という指標を使って、実際に計算問題を解いてみます。
前のセクションで見た3つの幾何学の違いを、具体的な計算で確かめてみましょう。
球面幾何には、三角形の内角の和と面積を直接結びつける美しい公式があります。 半径 $R$ の球面上の三角形で、3つの内角が $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ であるとき、その面積 $S$ は
$$S = R^2(\alpha + \beta + \gamma - \pi)$$
で与えられます。ここで角度はラジアンで測ります(高校数学IIの「三角関数」で学ぶ弧度法です)。 $\alpha + \beta + \gamma - \pi$ の部分を角超過(angular excess)と呼びます。 ユークリッド幾何では三角形の内角の和はちょうど $\pi$($= 180{}^\circ$)ですから、角超過は $0$ です。 球面幾何では内角の和が $\pi$ を超えるため、角超過は正の値をとり、それが面積に比例するのです。
セクション5で考えた、北極・経度 $0{}^\circ$・経度 $90{}^\circ$ E の3点を頂点とする球面三角形の面積を計算してみましょう。 地球の半径を $R$ とします(約 $6371$ km)。
3つの内角はすべて $\dfrac{\pi}{2}$($= 90{}^\circ$)ですから、角超過は
$$\alpha + \beta + \gamma - \pi = \frac{\pi}{2} + \frac{\pi}{2} + \frac{\pi}{2} - \pi = \frac{\pi}{2}$$
よって、面積は
$$S = R^2 \cdot \frac{\pi}{2}$$
です。球の全表面積は $4\pi R^2$ ですから、この三角形は球の全表面積の
$$\frac{S}{4\pi R^2} = \frac{R^2 \cdot \frac{\pi}{2}}{4\pi R^2} = \frac{1}{8}$$
を占めます。球面を8等分する三角形の1つということになります。 北極を頂点とし、赤道を底辺とするこの三角形が球面の $\dfrac{1}{8}$ であることは、球を上下左右に4分割して得られる8つの部分の1つと考えれば納得できます。
ゴール:球面三角形の面積が $S = R^2(\alpha + \beta + \gamma - \pi)$ であることを示します。
方針:球面上の2つの大円で囲まれる「月形領域」(二角形、lune)の面積を計算し、それを利用して三角形の面積を求めます。
ステップ1:2つの大円が角度 $\theta$ で交わるとき、それらが囲む月形領域の面積は球の全表面積 $4\pi R^2$ の $\dfrac{\theta}{2\pi}$ 倍の2倍です。月形は表裏で2つできるため、片方の面積は $\dfrac{4\pi R^2 \cdot \theta}{2\pi} = 2R^2\theta$ です。
ステップ2:球面三角形 $ABC$ の各頂点に対応する月形領域を考えます。角 $\alpha$ の月形の面積は $2R^2\alpha$、角 $\beta$ の月形は $2R^2\beta$、角 $\gamma$ の月形は $2R^2\gamma$ です。
ステップ3:3つの月形を重ね合わせると、球面全体を覆います。ただし、三角形 $ABC$ とその対蹠三角形(球の反対側にある合同な三角形)は3つの月形すべてに含まれるため、3回ずつ数えられています。したがって、包除原理により
$$2R^2\alpha + 2R^2\beta + 2R^2\gamma = 4\pi R^2 + 4S$$
左辺は3つの月形の面積の和、右辺は球面の面積($4\pi R^2$)に三角形と対蹠三角形の余分な2回分(合計 $4S$)を加えたものです。
ステップ4:上の式を $S$ について解くと
$$S = R^2(\alpha + \beta + \gamma - \pi)$$
が得られます。
双曲幾何にもジラールの定理と対応する公式があります。 曲率 $-1$ の双曲平面上の三角形で、3つの内角が $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ であるとき、面積 $S$ は
$$S = \pi - (\alpha + \beta + \gamma)$$
です。$\pi - (\alpha + \beta + \gamma)$ を角不足(angular defect)と呼びます。 双曲幾何では内角の和が $\pi$ より小さいため、角不足は正の値をとります。
球面幾何では「角超過 $=$ 面積」、双曲幾何では「角不足 $=$ 面積」という対称的な関係が成り立っています。 いずれの場合も、三角形の面積と内角の和の「$180{}^\circ$ からのずれ」が直接対応するという点が本質的です。 ユークリッド幾何では内角の和がちょうど $180{}^\circ$ であるため、面積と内角の和は独立であり、相似な三角形(角度は同じで面積だけ異なる三角形)が存在できるのです。
非ユークリッド幾何は純粋数学の産物として19世紀に発見されましたが、20世紀にアインシュタインが一般相対性理論を構築したとき、物理学における重要な応用が見つかりました。一般相対性理論では、質量やエネルギーの存在によって時空が「曲がり」、その曲がった時空の幾何学はリーマン幾何学(非ユークリッド幾何の一般化)で記述されます。つまり、私たちが住む宇宙は厳密にはユークリッド幾何ではなく、物質の近くでは空間が歪んでいるのです。
Q1. プレイフェアの公理(第5公準と同値)を述べてください。
Q2. 公理の「独立性」とは何ですか。第5公準の場合で説明してください。
Q3. 球面幾何において、三角形の内角の和はどうなりますか。ユークリッド幾何と比較して答えてください。
Q4. 非ユークリッド幾何では相似な三角形が(合同でない限り)存在しない理由を説明してください。
ユークリッドの第1公準から第4公準を、それぞれ1文で述べてください。また、第5公準(平行線公準)が他の4つと比べてどのような点で性格が異なるか、説明してください。
第1公準:任意の2点を結ぶ線分を引くことができる。
第2公準:線分を任意に延長して直線にすることができる。
第3公準:任意の点を中心とし、任意の長さを半径とする円を描くことができる。
第4公準:すべての直角は互いに等しい。
第1〜第4公準は短く直感的で「自明」に感じるのに対し、第5公準は文章が長く複雑であり、むしろ定理のように見えます。実際、第5公準は他の4つの公準から独立であり、証明も反証もできない命題です。
半径 $R$ の球面上に、3つの内角がすべて $60{}^\circ$ の球面三角形は存在しますか。存在するなら、その面積をジラールの定理を用いて求めてください。存在しないなら、その理由を説明してください。
球面上では三角形の内角の和は $180{}^\circ$ より大きくなるので、$60{}^\circ + 60{}^\circ + 60{}^\circ = 180{}^\circ$ となる三角形は存在しません。
球面幾何では、どんなに小さな三角形でも内角の和は(わずかに)$180{}^\circ$ を超えます。内角の和がちょうど $180{}^\circ$ になるのはユークリッド幾何の場合だけです。ジラールの定理 $S = R^2(\alpha + \beta + \gamma - \pi)$ において、$\alpha + \beta + \gamma = \pi$ とすると $S = 0$ となり、面積が $0$ の(退化した)三角形しか得られません。
半径 $R$ の球面上に、3つの内角が $\dfrac{\pi}{2}$, $\dfrac{\pi}{3}$, $\dfrac{\pi}{3}$ である球面三角形を考えます。
(1) この三角形の面積を $R$ を用いて表してください。
(2) この三角形は球の全表面積の何分の一ですか。
(1) ジラールの定理より
$$S = R^2\left(\frac{\pi}{2} + \frac{\pi}{3} + \frac{\pi}{3} - \pi\right) = R^2\left(\frac{3\pi + 2\pi + 2\pi - 6\pi}{6}\right) = R^2 \cdot \frac{\pi}{6}$$
(2) 球の全表面積は $4\pi R^2$ なので
$$\frac{S}{4\pi R^2} = \frac{R^2 \cdot \frac{\pi}{6}}{4\pi R^2} = \frac{1}{24}$$
よって、球の全表面積の $\dfrac{1}{24}$ です。
曲率 $-1$ の双曲平面上の三角形で、3つの内角が $\dfrac{\pi}{4}$, $\dfrac{\pi}{6}$, $\dfrac{\pi}{6}$ であるものの面積を求めてください。また、双曲三角形の面積の上限について述べてください。
面積公式 $S = \pi - (\alpha + \beta + \gamma)$ に代入すると
$$S = \pi - \left(\frac{\pi}{4} + \frac{\pi}{6} + \frac{\pi}{6}\right) = \pi - \frac{3\pi + 2\pi + 2\pi}{12} = \pi - \frac{7\pi}{12} = \frac{5\pi}{12}$$
双曲三角形の内角の和は常に $0$ より大きく $\pi$ より小さいので、面積 $S = \pi - (\alpha + \beta + \gamma)$ は $0 < S < \pi$ を満たします。 したがって、曲率 $-1$ の双曲平面上の三角形の面積は $\pi$ が上限です(ただし $\pi$ そのものは達成されず、3つの内角がすべて $0$ に近づく極限で面積が $\pi$ に近づきます)。 このように双曲三角形には面積の上限があるという事実は、ユークリッド幾何とは大きく異なる性質です。
「ある公理系 $\mathcal{A}$ から公理 $A$ を取り除き、$A$ の否定 $\lnot A$ を加えた体系が無矛盾であるならば、$A$ は $\mathcal{A} \setminus \{A\}$ から証明できない」ことを、背理法を使って示してください。
背理法で示します。仮に $A$ が $\mathcal{A} \setminus \{A\}$ から証明できるとします。
このとき、$\mathcal{A} \setminus \{A\}$ の公理のみを前提として $A$ が論理的に導けます。
一方、体系 $(\mathcal{A} \setminus \{A\}) \cup \{\lnot A\}$ には $\lnot A$ が公理として含まれています。
すると、この体系からは $A$($\mathcal{A} \setminus \{A\}$ から証明できるので)と $\lnot A$(公理として含まれるので)の両方が導かれ、矛盾が生じます。
しかし、仮定より $(\mathcal{A} \setminus \{A\}) \cup \{\lnot A\}$ は無矛盾です。これは矛盾です。
したがって、$A$ は $\mathcal{A} \setminus \{A\}$ から証明できません。