第14章 数列

漸化式と離散力学系
─ 固定点の安定性

高校数学では、漸化式 $a_{n+1} = f(a_n)$ に対して「特性方程式」や「置き換え」などのテクニックを使い、一般項を求めます。 しかし、なぜ特性方程式で $a_{n+1} = \alpha$ とおくのか、なぜある漸化式の数列は収束し、別の数列は発散するのか、その理由はあまり説明されません。

大学数学では、漸化式 $a_{n+1} = f(a_n)$ を離散力学系(discrete dynamical system)として捉えます。 この視点では、関数 $f$ を繰り返し適用する操作が「時間発展」に対応し、$f(p) = p$ を満たす点 $p$(固定点)が数列の収束先の候補になります。 そして、固定点における導関数 $f'(p)$ の絶対値が $1$ より小さいか大きいかで、その固定点が数列を引き寄せるか弾き飛ばすかが決まります。 高校で学ぶ特性方程式の背後には、この固定点の理論が隠れています。

1高校での扱い ─ 漸化式と特性方程式

高校数学Bでは、数列 $\{a_n\}$ の隣り合う項の関係を表す式を漸化式と呼びます。 典型的なものとして、1次の漸化式

$$a_{n+1} = pa_n + q \quad (p \neq 0)$$

があります。$q = 0$ なら等比数列、$p = 1$ なら等差数列ですが、一般の場合には「特性方程式」と呼ばれるテクニックを使います。

具体的には、$\alpha = p\alpha + q$ を満たす $\alpha$ を求め、漸化式を

$$a_{n+1} - \alpha = p(a_n - \alpha)$$

と変形します。$b_n = a_n - \alpha$ とおくと $b_{n+1} = pb_n$ となり、$\{b_n\}$ は公比 $p$ の等比数列になるので一般項が求まります。

この手法は確かに機能しますが、いくつかの疑問が残ります。なぜ $\alpha = p\alpha + q$ という方程式を解くのか。 $|p| < 1$ のとき数列が $\alpha$ に収束し、$|p| > 1$ のとき発散するのはなぜか。 そして、$a_{n+1} = f(a_n)$ の形でもっと複雑な関数 $f$ が現れたとき、同じような議論はできるのか。 次のセクションでは、これらの問いに一挙に答える枠組みを導入します。

2大学の視点 ─ 離散力学系としての漸化式

大学数学では、漸化式 $a_{n+1} = f(a_n)$ を離散力学系と呼ばれる枠組みで捉えます。 この見方では、関数 $f$ は「状態を次の時刻の状態に移す規則」であり、初期値 $a_1$ から出発して $f$ を繰り返し適用する操作が数列を生成します。

$$a_1 \xrightarrow{f} a_2 \xrightarrow{f} a_3 \xrightarrow{f} \cdots$$

この視点の核心は、数列の長期的なふるまい(収束するか、発散するか、振動するか)が、関数 $f$ の固定点とその安定性で決まるという点です。

高校 vs 大学:漸化式をどう理解するか
高校:テクニックで一般項を求める
特性方程式、置き換え、対数をとるなど、漸化式の形に応じたテクニックを個別に覚える。
大学:固定点と安定性で統一的に分析する
$f(p) = p$ を満たす固定点 $p$ を見つけ、$|f'(p)|$ の値で収束・発散を判定する。漸化式の形に依存しない。
高校:特性方程式は「天下り」的
なぜ $\alpha = p\alpha + q$ を解くのか、その理由は説明されない。
大学:特性方程式 $=$ 固定点の条件
$\alpha = p\alpha + q$ は $f(x) = px + q$ の固定点条件 $f(\alpha) = \alpha$ そのもの。
高校:収束・発散は一般項から判定
一般項 $a_n = (a_1 - \alpha)p^{n-1} + \alpha$ を求めてから $n \to \infty$ の極限を計算する。
大学:一般項を求めずに収束・発散を判定
$|f'(p)| < 1$ なら安定(収束)、$|f'(p)| > 1$ なら不安定(発散)。一般項が求まらなくても判定可能。
固定点の安定性 ─ 漸化式の収束・発散を支配する原理

この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。

1. 漸化式 $a_{n+1} = f(a_n)$ の固定点を求め、その幾何学的な意味を説明できる

2. 固定点における $|f'(p)|$ の値から、数列の収束・発散を判定できる

3. 高校の特性方程式が「固定点を求めている」ことを理解し、収束条件 $|p| < 1$ の意味を説明できる

4. 一般項が求まらない漸化式に対しても、長期的なふるまいを分析できる

ここまでで、大学の視点では漸化式を「離散力学系」として捉え、固定点とその安定性が鍵になることがわかりました。 次のセクションでは、まず固定点の定義を正確に述べ、具体例で確認します。

3固定点の定義と求め方

固定点とは何か

関数 $f$ を繰り返し適用する操作を考えるとき、「適用しても動かない点」は特別な意味を持ちます。 もし数列 $\{a_n\}$ がある値 $p$ に収束するなら、十分大きな $n$ で $a_n \approx p$ かつ $a_{n+1} \approx p$ なので、$a_{n+1} = f(a_n)$ から

$$p = f(p)$$

が成り立つはずです。つまり、数列の収束先は必ず $f$ の固定点です。これが固定点に注目する理由です。

固定点の定義

関数 $f$ に対して、

$$f(p) = p$$

を満たす点 $p$ を $f$ の固定点(fixed point)と呼ぶ。

幾何学的には、$y = f(x)$ のグラフと直線 $y = x$ の交点の $x$ 座標が固定点です。

具体例:1次関数の固定点

高校でおなじみの漸化式 $a_{n+1} = 2a_n - 3$ を考えます。$f(x) = 2x - 3$ とおくと、固定点は

$$f(p) = p \iff 2p - 3 = p \iff p = 3$$

で $p = 3$ です。これは、高校の特性方程式 $\alpha = 2\alpha - 3$ を解くことと全く同じです。 つまり、特性方程式とは固定点を求める方程式にほかなりません

具体例:分数関数の固定点

漸化式 $\displaystyle a_{n+1} = \frac{3a_n + 2}{a_n + 2}$ を考えます。$\displaystyle f(x) = \frac{3x + 2}{x + 2}$ の固定点は

$$\frac{3p + 2}{p + 2} = p \iff 3p + 2 = p(p + 2) = p^2 + 2p \iff p^2 - p - 2 = 0$$

これを解くと $(p-2)(p+1) = 0$ なので $p = 2$ または $p = -1$ です。 固定点が2つあるとき、数列がどちらに収束するか(あるいはどちらにも収束しないか)は、次のセクションで導入する「安定性」で判定できます。

固定点の存在と収束は別の問題

誤解:固定点が存在すれば数列はそこに収束する

正確:固定点は数列の収束先の「候補」にすぎません。収束するかどうかは安定性の判定が必要です。例えば $a_{n+1} = 2a_n - 3$ の固定点は $p = 3$ ですが、$a_1 \neq 3$ のとき数列は $3$ から離れていきます($|f'(3)| = 2 > 1$ なので不安定)。

ここまでで、固定点の定義と求め方がわかりました。しかし、固定点が見つかっても、数列が実際にそこに収束するかどうかは別問題です。 次のセクションでは、固定点における導関数の値を使って、収束・発散を判定する方法を導入します。

4固定点の安定性 ─ 導関数による判定

安定・不安定の直感

固定点 $p$ の近くから出発した数列が $p$ に近づいていくなら、$p$ は安定な固定点です。 逆に、$p$ から離れていくなら不安定です。

この安定・不安定を決めるのが、固定点における導関数 $f'(p)$ です。 直感的に理解するために、$a_n$ が固定点 $p$ の近くにあるときの状況を考えます。 $a_n$ と $p$ の差を $e_n = a_n - p$ とおくと($e_n$ は固定点からの「ずれ」を表します)、

$$e_{n+1} = a_{n+1} - p = f(a_n) - f(p)$$

です。ここで、$a_n = p + e_n$ が $p$ に近い($e_n$ が小さい)とき、$f$ の1次近似(微分の定義)を使うと

$$f(p + e_n) \approx f(p) + f'(p) \cdot e_n = p + f'(p) \cdot e_n$$

が得られます。したがって

$$e_{n+1} \approx f'(p) \cdot e_n$$

となります。これは、固定点からのずれ $e_n$ が毎回おおよそ $f'(p)$ 倍されることを意味します。

  • $|f'(p)| < 1$ のとき:ずれは毎回縮小する → $e_n \to 0$、つまり $a_n \to p$(安定
  • $|f'(p)| > 1$ のとき:ずれは毎回拡大する → $a_n$ は $p$ から離れていく(不安定
固定点の安定性判定

$f$ が微分可能で、$f(p) = p$ を満たす固定点 $p$ に対して:

$|f'(p)| < 1$ ならば $p$ は安定(attracting)

$|f'(p)| > 1$ ならば $p$ は不安定(repelling)

$|f'(p)| = 1$ のときは、この判定法だけでは決定できません(高次の項の分析が必要)。 安定な固定点は、十分近い初期値から出発した数列を引き寄せます。不安定な固定点は、ごくわずかでもずれると数列を弾き飛ばします。

具体例で確認する

例1:$f(x) = 2x - 3$(固定点 $p = 3$)
$f'(x) = 2$ なので $|f'(3)| = 2 > 1$。固定点 $p = 3$ は不安定です。 実際、$a_1 = 4$ として計算すると $a_2 = 5$, $a_3 = 7$, $a_4 = 11, \ldots$ と $3$ から急速に離れていきます。

例2:$\displaystyle f(x) = \frac{1}{2}x + 1$(固定点 $p = 2$)
$f'(x) = \dfrac{1}{2}$ なので $|f'(2)| = \dfrac{1}{2} < 1$。固定点 $p = 2$ は安定です。 $a_1 = 0$ として計算すると $a_2 = 1$, $a_3 = \dfrac{3}{2}$, $a_4 = \dfrac{7}{4}, \ldots$ と $2$ に近づいていきます。 一般項は $a_n = 2 - 2 \cdot \left(\dfrac{1}{2}\right)^{n-1}$ であり、$n \to \infty$ で $a_n \to 2$ です。

例3:$\displaystyle f(x) = \frac{3x + 2}{x + 2}$(固定点 $p = 2$ と $p = -1$)
$f'(x)$ を計算します。商の微分法を使って

$$f'(x) = \frac{3(x + 2) - (3x + 2)}{(x + 2)^2} = \frac{4}{(x + 2)^2}$$

$|f'(2)| = \dfrac{4}{16} = \dfrac{1}{4} < 1$ なので $p = 2$ は安定
$|f'(-1)| = \dfrac{4}{1} = 4 > 1$ なので $p = -1$ は不安定
したがって、$a_1 > -1$ の範囲で初期値を選べば、数列は安定な固定点 $p = 2$ に収束します。

特性方程式と公比の正体

高校で学ぶ $a_{n+1} = pa_n + q$ の特性方程式 $\alpha = p\alpha + q$ は、$f(x) = px + q$ の固定点条件そのものです。

そして、変形後の等比数列の公比 $p$ は、固定点における導関数 $f'(\alpha) = p$ にほかなりません。

$|p| < 1$ で収束、$|p| > 1$ で発散という高校の結論は、固定点の安定性判定の特殊ケースです。

ここまでで、固定点の安定性を導関数の値で判定できることを、具体例を通じて確認しました。 次のセクションでは、この判定法がなぜ正しいのかを、数学的に証明します。

5安定性判定の証明

セクション4では、$e_{n+1} \approx f'(p) \cdot e_n$ という近似を使って安定性を直感的に説明しました。 ここでは、$|f'(p)| < 1$ のとき数列が実際に固定点に収束することを証明します。

安定性定理の証明($|f'(p)| < 1$ の場合)

示すこと:$f$ が固定点 $p$ の近くで微分可能で $|f'(p)| < 1$ ならば、$p$ に十分近い初期値 $a_1$ から出発した数列 $\{a_n\}$ は $p$ に収束する。

証明の方針:$|f'(p)| < 1$ なので、$|f'(p)| < r < 1$ を満たす $r$ がとれます。固定点の近くで $|a_{n+1} - p| \leq r|a_n - p|$ が成り立つことを示し、$r^n \to 0$ から収束を導きます。

ステップ1:$|f'(p)| < r < 1$ を満たす定数 $r$ を1つ固定します。例えば $r = \dfrac{|f'(p)| + 1}{2}$ ととれば、$|f'(p)| < r < 1$ が成り立ちます。

ステップ2:$f'$ の連続性($f$ が微分可能であることから従います)を使います。$|f'(x)| \leq r$ が成り立つような $p$ の近傍 $(p - \delta, p + \delta)$ が存在します。 これは、導関数の値が $p$ から少しずれても急に大きくは変わらないということです。

ステップ3:初期値 $a_1$ が $|a_1 - p| < \delta$ を満たすとします。平均値の定理により、$a_1$ と $p$ の間のある点 $c_1$ が存在して

$$|a_2 - p| = |f(a_1) - f(p)| = |f'(c_1)| \cdot |a_1 - p| \leq r \cdot |a_1 - p|$$

が成り立ちます。ここで $|f'(c_1)| \leq r$ は、$c_1$ が $(p - \delta, p + \delta)$ にあることから成り立ちます。

$|a_2 - p| \leq r|a_1 - p| < r\delta < \delta$ なので、$a_2$ もまた $(p - \delta, p + \delta)$ に含まれます。

ステップ4:同じ議論を繰り返すと(数学的帰納法を使って)

$$|a_n - p| \leq r^{n-1} |a_1 - p|$$

が全ての $n \geq 1$ で成り立ちます。

ステップ5:$0 < r < 1$ なので $r^{n-1} \to 0$($n \to \infty$)です。よって

$$|a_n - p| \leq r^{n-1} |a_1 - p| \to 0$$

となり、$a_n \to p$ が示されました。 $\square$

この証明のポイントは、平均値の定理を使って近似ではなく厳密な不等式 $|a_{n+1} - p| \leq r|a_n - p|$ を得たことです。 高校数学IIIで学ぶ平均値の定理が、ここで本質的な役割を果たしています。

$|f'(p)| = 1$ の場合 ─ 境界ケース

$|f'(p)| = 1$ のときは、安定にも不安定にもなりえます。例えば $f(x) = x + x^2$ は固定点 $p = 0$ で $f'(0) = 1$ ですが、$a_1 > 0$ なら $a_n \to \infty$ に発散します。一方、$f(x) = x - x^3$ も $f'(0) = 1$ ですが、$|a_1|$ が十分小さければ $a_n \to 0$ に収束します。このような境界ケースでは、$f'(p)$ だけでなく高次の導関数($f''(p)$, $f'''(p)$ など)の情報が必要になります。

ここまでで、安定性判定の理論的な裏付けが得られました。 次のセクションでは、この判定法を使って、高校で扱うさまざまな漸化式を統一的に分析してみます。

6応用 ─ 高校の漸化式を力学系の目で見る

例1:等比型 $a_{n+1} = pa_n$

$f(x) = px$ とおくと、固定点は $px = x$ より $p = 1$ でなければ $x = 0$ のみです。 $f'(x) = p$ なので $|f'(0)| = |p|$。

  • $|p| < 1$ のとき:$0$ は安定な固定点 → $a_n \to 0$(高校で学ぶ「$|r| < 1$ なら等比数列は $0$ に収束」と一致)
  • $|p| > 1$ のとき:$0$ は不安定な固定点 → $a_n$ は $0$ から離れる(発散)

例2:1次分数型 $\displaystyle a_{n+1} = \frac{a_n + 4}{2}$

$\displaystyle f(x) = \frac{x + 4}{2} = \frac{1}{2}x + 2$ とおくと、固定点は $\dfrac{p + 4}{2} = p$ より $p = 4$ です。 $f'(x) = \dfrac{1}{2}$ なので $|f'(4)| = \dfrac{1}{2} < 1$。固定点 $p = 4$ は安定です。

$a_1 = 0$ から計算すると $a_2 = 2$, $a_3 = 3$, $a_4 = 3.5$, $a_5 = 3.75$, $\ldots$ と $4$ に近づいていきます。 一般項は $a_n = 4 - 4 \cdot \left(\dfrac{1}{2}\right)^{n-1}$ であり、確かに $a_n \to 4$ です。

例3:平方根型 $a_{n+1} = \sqrt{2 + a_n}$

この漸化式は高校でも扱うことがありますが、一般項を求めるのは困難です。 しかし、力学系の視点なら収束先を予測できます。

$f(x) = \sqrt{2 + x}$ とおくと、固定点は $\sqrt{2 + p} = p$($p \geq 0$)です。 両辺を2乗して $2 + p = p^2$、すなわち $p^2 - p - 2 = 0$ を解くと $(p-2)(p+1) = 0$ で、$p \geq 0$ より $p = 2$ です。

$f'(x) = \dfrac{1}{2\sqrt{2 + x}}$ なので $|f'(2)| = \dfrac{1}{2\sqrt{4}} = \dfrac{1}{4} < 1$。固定点 $p = 2$ は安定です。

$a_1 = 0$ から計算すると:$a_2 = \sqrt{2} \approx 1.414$, $a_3 = \sqrt{2 + \sqrt{2}} \approx 1.848$, $a_4 \approx 1.962$, $a_5 \approx 1.990, \ldots$ と $2$ に収束していきます。 一般項は求まりませんが、$|f'(2)| = \dfrac{1}{4}$ という情報から、固定点からのずれが毎ステップおよそ $\dfrac{1}{4}$ 倍に縮むこともわかります。

例4:ニュートン法 ─ $\sqrt{A}$ を求めるアルゴリズム

$\sqrt{A}$ を計算する有名なアルゴリズムにニュートン法(Newton's method)があります。 これは漸化式

$$a_{n+1} = \frac{1}{2}\left(a_n + \frac{A}{a_n}\right)$$

で定義されます。$\displaystyle f(x) = \frac{1}{2}\left(x + \frac{A}{x}\right)$ とおくと、固定点は

$$\frac{1}{2}\left(p + \frac{A}{p}\right) = p \iff p + \frac{A}{p} = 2p \iff \frac{A}{p} = p \iff p^2 = A$$

より $p = \sqrt{A}$($p > 0$)です。導関数は

$$f'(x) = \frac{1}{2}\left(1 - \frac{A}{x^2}\right)$$

なので $f'(\sqrt{A}) = \dfrac{1}{2}\left(1 - \dfrac{A}{A}\right) = 0$ です。

$|f'(\sqrt{A})| = 0 < 1$ ですから、固定点 $\sqrt{A}$ は安定です。しかも $f'(p) = 0$ ということは、ずれの縮小が1次の項では起きず、2次以上の項で起きることを意味します。 実際、このとき $|e_{n+1}| \approx C|e_n|^2$ となり、収束は非常に速くなります。例えば $A = 2$, $a_1 = 1$ で計算すると

$a_2 = 1.5$, $a_3 = 1.41\overline{6}$, $a_4 = 1.41421356\ldots$ となり、わずか4ステップで $\sqrt{2} = 1.41421356\ldots$ の8桁が確定します。

コブウェブ図 ─ 離散力学系の可視化

離散力学系の振る舞いを視覚的に理解する方法として、コブウェブ図(cobweb diagram)があります。$y = f(x)$ のグラフと直線 $y = x$ を描き、初期値 $a_1$ から出発して、$(a_1, a_2) \to (a_2, a_2) \to (a_2, a_3) \to (a_3, a_3) \to \cdots$ と縦横に線を引くことで、数列の動きをたどることができます。安定な固定点では線が渦を巻くように(あるいはジグザグしながら)固定点に近づき、不安定な固定点では離れていく様子が見えます。

このように、固定点の安定性判定は、一般項が明示的に求まらない漸化式に対しても、数列の長期的なふるまいを予測する強力な道具になります。

7つながりマップ

  • 前提知識:高校数学Bの漸化式(等差・等比・$a_{n+1} = pa_n + q$ 型の解法)。 高校数学IIIの微分法(導関数の計算、平均値の定理)。
  • 関連📖 M-7-1 微分の厳密化 ─ 微分可能性と連続性の関係、平均値の定理の厳密な証明。
  • 関連📖 M-7-3 微分方程式入門 ─ 連続版の力学系。微分方程式の平衡点と安定性は、離散力学系の固定点の安定性と対応する概念です。
  • 発展:カオス理論 ─ $f(x) = rx(1-x)$(ロジスティック写像)では、$r$ の値によって固定点への収束、周期軌道、カオス的振る舞いが現れます。この記事の安定性判定はその入口です。
Sまとめ
  • 漸化式 $a_{n+1} = f(a_n)$ は、関数 $f$ を繰り返し適用する離散力学系として捉えることができる
  • $f(p) = p$ を満たす固定点 $p$ は、数列の収束先の候補であり、$y = f(x)$ と $y = x$ の交点として求まる
  • $|f'(p)| < 1$ なら固定点 $p$ は安定(近くの初期値からの数列は $p$ に収束する)。$|f'(p)| > 1$ なら不安定($p$ から離れていく)
  • 高校の特性方程式は固定点の条件そのものであり、変形後の等比数列の公比は固定点における導関数の値にほかならない
  • この判定法は、一般項が求まらない漸化式(平方根型、分数型、ニュートン法など)にも適用できる

確認テスト

Q1. 漸化式 $a_{n+1} = 3a_n - 4$ の固定点を求めてください。

クリックして解答を表示 $f(x) = 3x - 4$ として $f(p) = p$ を解きます。$3p - 4 = p$ より $2p = 4$、$p = 2$ です。

Q2. Q1の固定点 $p = 2$ は安定ですか、不安定ですか。

クリックして解答を表示 $f'(x) = 3$ なので $|f'(2)| = 3 > 1$ です。したがって、$p = 2$ は不安定です。$a_1 \neq 2$ のとき、数列は $2$ から離れていきます。

Q3. $\displaystyle a_{n+1} = \frac{a_n + 6}{3}$ の固定点を求め、安定性を判定してください。

クリックして解答を表示 $\displaystyle f(x) = \frac{x + 6}{3} = \frac{1}{3}x + 2$ とおくと、$f(p) = p$ から $\dfrac{p + 6}{3} = p$ を解いて $p + 6 = 3p$、$p = 3$ です。$f'(x) = \dfrac{1}{3}$ なので $|f'(3)| = \dfrac{1}{3} < 1$。固定点 $p = 3$ は安定です。どの初期値から出発しても $a_n \to 3$ に収束します。

Q4. 高校の特性方程式 $\alpha = p\alpha + q$ は、離散力学系の用語では何を求めていますか。

クリックして解答を表示 $f(x) = px + q$ の固定点を求めています。$f(\alpha) = \alpha$、すなわち $p\alpha + q = \alpha$ が特性方程式そのものです。

10演習問題

問1 A 固定点の計算

次の各関数の固定点をすべて求めてください。

(1) $f(x) = -x + 6$

(2) $\displaystyle f(x) = \frac{2x + 3}{x + 1}$

(3) $f(x) = x^2 - 2$

クリックして解答を表示
解答

(1) $-p + 6 = p$ より $p = 3$

(2) $\dfrac{2p + 3}{p + 1} = p$ より $2p + 3 = p^2 + p$、$p^2 - p - 3 = 0$。解の公式から $p = \dfrac{1 \pm \sqrt{13}}{2}$

(3) $p^2 - 2 = p$ より $p^2 - p - 2 = 0$、$(p - 2)(p + 1) = 0$ から $p = 2$ または $p = -1$

問2 B 安定性判定

漸化式 $a_{n+1} = a_n^2 - 2$ について、以下の問いに答えてください。

(1) 固定点をすべて求めてください。

(2) 各固定点の安定性を判定してください。

(3) $a_1 = 1.9$ のとき、数列の最初の5項を計算し、収束先を予測してください。

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解答

(1) $f(x) = x^2 - 2$ として $p^2 - 2 = p$ より $p^2 - p - 2 = 0$、$(p-2)(p+1) = 0$。固定点は $p = 2$ と $p = -1$。

(2) $f'(x) = 2x$ なので、$|f'(2)| = 4 > 1$(不安定)、$|f'(-1)| = 2 > 1$(不安定)。どちらの固定点も不安定です。

(3) $a_1 = 1.9$, $a_2 = 1.61$, $a_3 = 0.5921$, $a_4 = -1.649\ldots$, $a_5 = 0.720\ldots$ 数列は不規則に変動し、どちらの固定点にも収束しません。(実はこの漸化式はカオス的な振る舞いを示します。)

問3 B ニュートン法

$\sqrt{5}$ をニュートン法で求めます。漸化式 $\displaystyle a_{n+1} = \frac{1}{2}\left(a_n + \frac{5}{a_n}\right)$ について、以下の問いに答えてください。

(1) 固定点を求め、安定性を判定してください。

(2) $a_1 = 2$ として $a_2$, $a_3$ を分数で求めてください。

(3) $a_3$ と $\sqrt{5}$ の差を小数で評価してください($\sqrt{5} = 2.2360679\ldots$)。

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解答

(1) 固定点は $p = \sqrt{5}$($p > 0$)。$f'(x) = \dfrac{1}{2}\left(1 - \dfrac{5}{x^2}\right)$ なので $f'(\sqrt{5}) = \dfrac{1}{2}(1 - 1) = 0$。$|f'(\sqrt{5})| = 0 < 1$ なので安定(超安定)。

(2) $a_2 = \dfrac{1}{2}\left(2 + \dfrac{5}{2}\right) = \dfrac{9}{4} = 2.25$

$a_3 = \dfrac{1}{2}\left(\dfrac{9}{4} + \dfrac{5 \cdot 4}{9}\right) = \dfrac{1}{2}\left(\dfrac{9}{4} + \dfrac{20}{9}\right) = \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{81 + 80}{36} = \dfrac{161}{72} \approx 2.23611\ldots$

(3) $a_3 - \sqrt{5} \approx 2.23611 - 2.23607 = 0.00004\ldots$ わずか2ステップで小数第4位まで正しい値が得られています。

問4 C 安定性の証明

$f(x) = \cos x$ について、以下の問いに答えてください。

(1) $f$ の固定点、すなわち $\cos p = p$ を満たす $p$ が区間 $(0, 1)$ にただ1つ存在することを、中間値の定理を用いて示してください。

(2) その固定点が安定であることを示してください。

(3) $a_1 = 0$ として、漸化式 $a_{n+1} = \cos a_n$ の最初の5項を電卓で計算し、収束の様子を確認してください。

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解答

(1) $g(x) = \cos x - x$ とおきます。$g(0) = 1 > 0$, $g(1) = \cos 1 - 1 \approx 0.5403 - 1 = -0.4597 < 0$ です。$g$ は連続関数なので、中間値の定理により $g(p) = 0$、すなわち $\cos p = p$ を満たす $p \in (0, 1)$ が存在します。一意性は $g'(x) = -\sin x - 1 < 0$($x \in (0, 1)$ で $\sin x > 0$)より $g$ が狭義単調減少であることから従います。

(2) $f'(x) = -\sin x$ なので、固定点 $p \approx 0.7391$ において $|f'(p)| = |\sin p| \approx \sin(0.7391) \approx 0.6736 < 1$ です。したがって安定です。

(3) $a_1 = 0$, $a_2 = \cos 0 = 1$, $a_3 = \cos 1 \approx 0.5403$, $a_4 = \cos(0.5403) \approx 0.8576$, $a_5 = \cos(0.8576) \approx 0.6543$。振動しながら固定点 $p \approx 0.7391$ に近づいていきます($f'(p) < 0$ なので固定点の周りを交互に行き来します)。