高校数学では、2次方程式の判別式 $D < 0$ のとき「実数解なし」と判定し、虚数単位 $i$ を導入して複素数解を求めます。
しかし、「なぜ複素数まで広げれば解が見つかるのか」「3次や4次、さらに高次の方程式でも同じことが成り立つのか」という問いには、高校の範囲では答えられません。
大学数学では、代数学の基本定理(Fundamental Theorem of Algebra)がこの問いに決定的な答えを与えます。
この定理は、「複素数係数の $n$ 次多項式は、複素数の範囲で重複を込めてちょうど $n$ 個の根を持つ」と主張します。
これは、複素数が方程式を解くという目的に対して過不足のない数の体系であることを意味しています。
高校数学IIでは、2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$($a \neq 0$)の解の存在を判別式 $D = b^2 - 4ac$ で分類します。
$D < 0$ の場合、実数の範囲では解が存在しません。 そこで虚数単位 $i$($i^2 = -1$)を導入し、$a + bi$($a, b$ は実数)の形の複素数を使うことで、解の公式
$$x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 - 4ac}}{2a}$$
を $D < 0$ の場合にも適用できるようになります。 たとえば $x^2 + 1 = 0$ は実数解を持ちませんが、複素数の範囲では $x = \pm i$ という2つの解を持ちます。
また、高次方程式については、因数定理を使って因数分解する方法を学びます。 $n$ 次多項式 $f(x)$ に対して $f(a) = 0$ ならば $f(x)$ は $(x - a)$ で割り切れるというのが因数定理です。 高校では、整数の範囲で根を推測して因数定理を適用し、次数を下げていくという手順で解きます。
しかし、ここで次の疑問が生じます。 2次方程式では複素数を使えば必ず2つの解(重複を含めて)が得られましたが、 3次方程式、4次方程式、さらに一般の $n$ 次方程式でも同じことが成り立つのでしょうか。 次のセクションでは、大学数学がこの問いにどう答えるかを見ていきます。
大学数学では、高校で個別に扱っていた「2次方程式の解の存在」「高次方程式の因数分解」といった話題を、一つの定理で統一的に理解します。 それが代数学の基本定理です。
この定理を一言で述べると、「複素数係数の $n$ 次多項式は、複素数の範囲で必ず少なくとも1つの根を持つ」ということです。 ここから帰結として、$n$ 次多項式は重複を込めてちょうど $n$ 個の根を持つことが導かれます。
ここに登場した代数的閉体という言葉について説明します。 高校では「体」という概念は扱いませんが、直感的には「四則演算(加減乗除)が自由にできる数の集合」のことです。 有理数 $\mathbb{Q}$、実数 $\mathbb{R}$、複素数 $\mathbb{C}$ はいずれも体です。
体 $K$ が代数的閉体であるとは、「$K$ の元を係数とする任意の1次以上の多項式が、$K$ の中に少なくとも1つの根を持つ」ということです。 代数学の基本定理は、$\mathbb{C}$ が代数的閉体であることを主張しています。
一方、実数 $\mathbb{R}$ は代数的閉体ではありません。 $x^2 + 1 = 0$ は $\mathbb{R}$ の元を係数とする多項式ですが、$\mathbb{R}$ の中に根を持たないからです。 有理数 $\mathbb{Q}$ も代数的閉体ではありません。$x^2 - 2 = 0$ の根 $\sqrt{2}$ は有理数ではないからです。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 代数学の基本定理の正確な主張(条件と結論)を述べることができる
2. $n$ 次多項式が重複を込めて $n$ 個の根を持つことを、定理から導くことができる
3. 複素数体が代数的閉体である一方、実数体・有理数体はそうでないことを具体例で示せる
4. 代数学の基本定理がなぜ成り立つかを、直感的に(位相的議論の概要として)説明できる
5. 実数係数の多項式では複素数解が共役ペアで現れる理由を証明し、具体例で確認できる
ここまでで、代数学の基本定理の大枠と「代数的閉体」の概念を導入しました。 次のセクションでは、この定理の正確な主張を述べ、「重複度」の概念を使って $n$ 個の根を持つとはどういうことかを明確にします。
まず、定理を正確に述べます。
複素数係数の $n$ 次多項式($n \geq 1$)
$$f(z) = a_n z^n + a_{n-1} z^{n-1} + \cdots + a_1 z + a_0 \quad (a_n \neq 0)$$
は、複素数 $\mathbb{C}$ の中に少なくとも1つの根を持つ。
すなわち、$f(\alpha) = 0$ となる $\alpha \in \mathbb{C}$ が存在する。
この定理の主張は、一見すると控えめに見えます。「少なくとも1つの根がある」と言っているだけだからです。 しかし、ここから因数定理を繰り返し適用することで、はるかに強い結論が導かれます。
代数学の基本定理により、$f(z)$ には根 $\alpha_1 \in \mathbb{C}$ が存在します。 高校で学んだ因数定理を使うと、$f(z)$ は $(z - \alpha_1)$ で割り切れます。
$$f(z) = (z - \alpha_1) \cdot q_1(z)$$
ここで $q_1(z)$ は $n-1$ 次の多項式です。 $n - 1 \geq 1$ であれば、$q_1(z)$ にも代数学の基本定理を適用できるので、根 $\alpha_2 \in \mathbb{C}$ が存在します。
$$f(z) = (z - \alpha_1)(z - \alpha_2) \cdot q_2(z)$$
この手続きを繰り返すと、$n$ 回のステップで商が定数 $a_n$ になり、次の分解が得られます。
$$f(z) = a_n(z - \alpha_1)(z - \alpha_2) \cdots (z - \alpha_n)$$
ここで $\alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n \in \mathbb{C}$ は $f(z)$ の根であり、同じ値が複数回現れることがある(重根)。
根 $\alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n$ の中に同じ値が含まれることがあります。 たとえば $(z - 3)^2(z + 1) = 0$ という3次方程式では、$z = 3$ が2回、$z = -1$ が1回現れます。
根 $\alpha$ が因数分解において $(z - \alpha)^k$ の形で現れるとき、$\alpha$ の重複度(multiplicity)は $k$ であると言います。
代数学の基本定理から導かれる結論を、重複度を使って正確に述べると次のようになります。
複素数係数の $n$ 次多項式は、重複度を込めてちょうど $n$ 個の根を $\mathbb{C}$ の中に持つ。
異なる根を $\beta_1, \beta_2, \ldots, \beta_r$ とし、それぞれの重複度を $m_1, m_2, \ldots, m_r$ とすると、$m_1 + m_2 + \cdots + m_r = n$ が成り立つ。
具体例で確認しましょう。4次多項式 $f(z) = z^4 - 2z^3 + 2z^2 - 2z + 1$ を考えます。 これは $f(z) = (z - 1)^2(z^2 + 1) = (z - 1)^2(z - i)(z + i)$ と因数分解されます。 根は $z = 1$(重複度2)、$z = i$(重複度1)、$z = -i$(重複度1)の3種類であり、重複度の合計は $2 + 1 + 1 = 4$($= n$)です。
誤:$n$ 次方程式は必ず $n$ 個の異なる解を持つ。
正:$n$ 次方程式は重複度を込めて $n$ 個の解を持つ。異なる解の個数は $n$ 以下。
たとえば $(z - 2)^3 = 0$ は3次方程式ですが、異なる解は $z = 2$ の1つだけです。重複度が3なので、重複込みでは3個です。
ここまでで、代数学の基本定理の正確な主張と、そこから導かれる「$n$ 個の根」の意味を明確にしました。 次の自然な疑問は「なぜこの定理が成り立つのか」です。次のセクションで、厳密な証明ではなく直感的な理解を目指します。
代数学の基本定理の厳密な証明には、解析学(複素解析)や位相幾何学の道具が必要であり、純粋に代数的な方法だけでは証明できないことが知られています。 ここでは、定理がなぜ成り立つかの直感的な説明を2つ紹介します。
$n$ 次多項式 $f(z) = a_n z^n + \cdots + a_0$ を考えます。 $|z|$ が十分大きいとき、最高次の項 $a_n z^n$ が支配的になるので、$|f(z)|$ は非常に大きくなります。 つまり、複素平面上で原点から遠く離れると $|f(z)|$ はいくらでも大きくなります。
一方、$|f(z)|$ は連続関数であり、有限の値 $|f(0)| = |a_0|$ をとります。 十分大きな円盤($|z| \leq R$ の領域)を考えると、連続関数はこのコンパクトな領域上で最小値を持ちます。 しかも円盤の「外側」では $|f(z)|$ はさらに大きいので、この最小値は複素平面全体での最小値でもあります。
問題は、この最小値が $0$ になるかどうかです。 ここが証明の核心部分であり、「もし $f(z_0) \neq 0$ である点 $z_0$ で最小値をとったとすると、$z_0$ の近くに $|f(z)| < |f(z_0)|$ となる点 $z$ を見つけることができ、矛盾する」ことが示されます。 この議論には複素数の代数的性質(任意の複素数が $n$ 乗根を持つこと)が本質的に使われます。
より視覚的な説明もあります。原点を中心とする半径 $R$ の円 $|z| = R$ の上を $z$ が一周するとき、$f(z)$ の値が複素平面上でどのような曲線を描くかを考えます。
$R$ が十分大きいとき、$f(z) \approx a_n z^n$ なので、$z$ が円を1周する間に $f(z)$ は原点の周りを $n$ 周します。 一方、$R$ が非常に小さいとき、$f(z) \approx a_0$(定数に近い)なので、$f(z)$ は原点の周りを0周します。
$R$ を連続的に変化させると、「$n$ 周」から「0周」に変わるためには、途中のどこかで $f(z)$ の描く曲線が原点を通過しなければなりません。 原点を通過するとき $f(z) = 0$ となる $z$ が存在する、つまり根が存在することになります。
この定理は「代数学の」基本定理と呼ばれていますが、その証明には解析学や位相幾何学の道具が不可欠です。ガウスは1799年の学位論文で最初の証明を与えましたが、その後も繰り返し別の証明を発表しています。現在知られている証明には、複素解析を用いるもの(リウヴィルの定理を利用)、位相幾何学を用いるもの(上の偏角の議論を厳密にしたもの)、代数的手法と解析を組み合わせるものなど、複数のアプローチがあります。
純粋に代数的な証明が存在しないのは、定理の主張が「複素数」という具体的な対象に依存しているためです。複素数が持つ解析的な性質(連続性、コンパクト性など)が本質的に必要になります。
2つの直感的な説明に共通しているのは、「連続性」と「コンパクト性」という解析的・位相的な性質が根の存在を保証しているという点です。 実数体にはこれらの性質がありますが、有理数体にはありません(有理数には「穴」がある)。 M-1-2 実数の完備性で学んだ「実数の連続性」が、ここでも本質的な役割を果たしています。
ここまでで、代数学の基本定理がなぜ成り立つかの直感を得ました。 次のセクションでは、この定理がもたらす具体的な帰結として、多項式の因数分解が複素数の範囲でどこまでできるかを調べます。
セクション3で見たように、代数学の基本定理から、$n$ 次多項式 $f(z)$ は次のように因数分解できます。
$$f(z) = a_n(z - \alpha_1)(z - \alpha_2) \cdots (z - \alpha_n)$$
これは、複素数の範囲ではすべての多項式が1次式の積に完全に分解できることを意味します。 「これ以上因数分解できない多項式」(既約多項式)は、$\mathbb{C}$ 上では1次式だけです。
では、実数 $\mathbb{R}$ の範囲ではどうでしょうか。 $\mathbb{R}$ 上の既約多項式、すなわち「実数の範囲でこれ以上因数分解できない多項式」はどのようなものでしょうか。
1次式 $ax + b$($a \neq 0$)は $\mathbb{R}$ 上で既約です(これ以上分解のしようがありません)。 次に2次式を考えます。$ax^2 + bx + c$ が $\mathbb{R}$ 上で因数分解できる条件は、判別式 $D = b^2 - 4ac \geq 0$ です。 $D < 0$ のとき、この2次式は $\mathbb{R}$ 上で既約です。
では3次以上の既約多項式は $\mathbb{R}$ 上に存在するでしょうか。答えは「存在しない」です。 これを代数学の基本定理から示すことができます。
示すこと:実数係数で3次以上の多項式は、$\mathbb{R}$ 上で必ず因数分解できる(既約でない)。
証明の方針:3次以上の実数係数多項式は必ず実数の根を持つことを示します。そこから因数定理で1次因数を取り出せます。
奇数次の場合:実数係数の奇数次多項式 $f(x) = a_n x^n + \cdots + a_0$($n$ が奇数、$a_n \neq 0$)を考えます。 $a_n > 0$ とすると、$x \to +\infty$ で $f(x) \to +\infty$、$x \to -\infty$ で $f(x) \to -\infty$ です($n$ が奇数なので符号が変わります)。 中間値の定理により、$f(x) = 0$ となる実数 $x$ が存在します。したがって実数の根を持ち、$(x - \alpha)$ で因数分解できます。
偶数次の場合:$n$ が偶数で $n \geq 4$ のとき、$\mathbb{C}$ 上で $n$ 個の根を持ちます。 セクション6で示すように、実数係数の多項式の複素数根は共役ペア $\alpha, \overline{\alpha}$ で現れます。 共役ペアから実数係数の2次因子 $(x - \alpha)(x - \overline{\alpha})$ を作ることができるため(この計算はセクション6で行います)、 $\mathbb{R}$ 上で2次以下の因子に分解できます。
この結果をまとめると、次のようになります。
実数係数の多項式は、$\mathbb{R}$ 上で1次式と(判別式が負の)2次式の積に因数分解できる。
$$f(x) = a_n (x - r_1) \cdots (x - r_s) (x^2 + p_1 x + q_1) \cdots (x^2 + p_t x + q_t)$$
ここで $r_1, \ldots, r_s$ は実数根、各2次因子は $p_j^2 - 4q_j < 0$ を満たす(実数根を持たない)。
$s + 2t = n$($n$ は $f(x)$ の次数)が成り立ちます。1次因子から $s$ 個の根、各2次因子から2個ずつ(計 $2t$ 個)の複素数根が得られ、合計 $n$ 個です。
具体例を見ましょう。$f(x) = x^4 + 1$ は $\mathbb{R}$ 上で実数根を持ちません($x^4 \geq 0$ なので $x^4 + 1 \geq 1 > 0$)。 しかし $\mathbb{R}$ 上で既約ではなく、次のように2つの2次因子に分解できます。
$$x^4 + 1 = (x^2 + \sqrt{2}\,x + 1)(x^2 - \sqrt{2}\,x + 1)$$
各2次因子の判別式は $2 - 4 = -2 < 0$ なので、$\mathbb{R}$ 上で既約です。 一方、$\mathbb{C}$ 上ではさらに1次式に分解されます。
ここまでで、因数分解が「どの範囲の数を使うか」に強く依存することがわかりました。 $\mathbb{C}$ 上では1次式まで、$\mathbb{R}$ 上では2次式までしか「止まれない」のです。 次のセクションでは、実数係数の場合に複素数根がなぜ共役ペアで現れるのか、その理由と応用を詳しく見ていきます。
セクション5の証明で予告した、「実数係数の多項式では複素数根が共役ペアで現れる」という事実を正確に述べ、証明します。
実数係数の多項式 $f(x)$ に対して、$\alpha \in \mathbb{C}$ が $f(\alpha) = 0$ の根ならば、共役複素数 $\overline{\alpha}$ も $f(\overline{\alpha}) = 0$ の根である。
さらに、$\alpha$ と $\overline{\alpha}$ の重複度は等しい。
示すこと:$f(\alpha) = 0$ ならば $f(\overline{\alpha}) = 0$ を示します。
準備:共役複素数の性質として、次の2つを使います。
(i)$\overline{z + w} = \overline{z} + \overline{w}$(和の共役 = 共役の和)
(ii)$\overline{z \cdot w} = \overline{z} \cdot \overline{w}$(積の共役 = 共役の積)
(ii)を繰り返し適用すると $\overline{z^k} = \overline{z}^k$ が得られます。
証明本体:$f(x) = a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_1 x + a_0$(各 $a_k$ は実数)とします。 $f(\alpha) = 0$ の両辺の共役をとります。
$$\overline{f(\alpha)} = \overline{a_n \alpha^n + a_{n-1} \alpha^{n-1} + \cdots + a_0} = 0$$
性質(i)(ii)を使って各項を展開します。
$$= \overline{a_n} \cdot \overline{\alpha}^n + \overline{a_{n-1}} \cdot \overline{\alpha}^{n-1} + \cdots + \overline{a_0}$$
ここで、各 $a_k$ は実数なので $\overline{a_k} = a_k$ です。したがって、
$$= a_n \overline{\alpha}^n + a_{n-1} \overline{\alpha}^{n-1} + \cdots + a_0 = f(\overline{\alpha})$$
以上より $f(\overline{\alpha}) = 0$ が示されました。
この証明のポイントは、「係数が実数であること」を本質的に使っている点です。 もし係数に虚数が含まれていると $\overline{a_k} \neq a_k$ となり、証明が成立しません。
セクション5で予告した計算を実行します。 実数係数の多項式 $f(x)$ が虚数根 $\alpha = p + qi$($q \neq 0$)を持つとき、$\overline{\alpha} = p - qi$ も根です。 このペアから、実数係数の2次因子を次のように作ります。
$$(x - \alpha)(x - \overline{\alpha}) = x^2 - (\alpha + \overline{\alpha})x + \alpha \cdot \overline{\alpha}$$
ここで $\alpha + \overline{\alpha} = 2p$(実数)、$\alpha \cdot \overline{\alpha} = p^2 + q^2$(実数)なので、
$$(x - \alpha)(x - \overline{\alpha}) = x^2 - 2px + (p^2 + q^2)$$
となり、確かに実数係数の2次式が得られます。この2次式の判別式は $4p^2 - 4(p^2 + q^2) = -4q^2 < 0$ なので、$\mathbb{R}$ 上で既約です。
3次方程式 $x^3 - 1 = 0$ を例にとって、ここまでの内容を具体的に確認します。
まず、$x^3 - 1 = (x - 1)(x^2 + x + 1)$ と因数分解できます(高校で学ぶ公式)。 $x^2 + x + 1 = 0$ の判別式は $D = 1 - 4 = -3 < 0$ なので、実数解を持ちません。
解の公式を使うと、
$$x = \frac{-1 \pm \sqrt{-3}}{2} = \frac{-1 \pm \sqrt{3}\,i}{2}$$
したがって3つの根は $x = 1$、$x = \frac{-1 + \sqrt{3}\,i}{2}$、$x = \frac{-1 - \sqrt{3}\,i}{2}$ です。 後者の2つは互いに共役な複素数であり、共役根定理の通りペアで現れています。
$\mathbb{C}$ 上の因数分解は、
$$x^3 - 1 = (x - 1)\left(x - \frac{-1 + \sqrt{3}\,i}{2}\right)\left(x - \frac{-1 - \sqrt{3}\,i}{2}\right)$$
であり、3つの1次式の積に完全に分解されています(代数学の基本定理の帰結)。 一方、$\mathbb{R}$ 上では $(x - 1)(x^2 + x + 1)$ が最も細かい因数分解であり、共役ペアが2次因子として「まとまった」状態です。
もう1つ例を見ましょう。$x^4 + 4 = 0$ は実数根を持ちません。 $\mathbb{C}$ 上の根を求めるために $x^4 = -4$ と変形します。 $x^2 = t$ とおくと $t^2 = -4$ なので $t = \pm 2i$ です。 $t = 2i$ のとき $x^2 = 2i$ を解くと $x = \pm(1 + i)$($(1 + i)^2 = 1 + 2i - 1 = 2i$ で検算できます)。 $t = -2i$ のとき $x^2 = -2i$ を解くと $x = \pm(1 - i)$($(1 - i)^2 = 1 - 2i - 1 = -2i$)。
したがって $x = 1 + i, \; -1 - i, \; 1 - i, \; -1 + i$ の4つの根が得られます。 共役ペアは $\{1 + i, 1 - i\}$ と $\{-1 + i, -1 - i\}$ の2組です。
$\mathbb{R}$ 上の因数分解は、各ペアから2次因子を作ります。
したがって $x^4 + 4 = (x^2 - 2x + 2)(x^2 + 2x + 2)$ となり、実数上では2つの既約2次因子の積に分解されました。
Q1. 代数学の基本定理は何を主張する定理ですか。
Q2. 実数体 $\mathbb{R}$ は代数的閉体ですか。理由とともに答えてください。
Q3. 5次多項式 $f(x) = x^5 - 3x^4 + x^3 + 2x^2 - x + 1$ の複素数根は、重複度を込めていくつありますか。
Q4. 実数係数の4次方程式 $f(x) = 0$ が $x = 2 + 3i$ を根に持つとき、他に確実にわかる根は何ですか。また、残りの根について何が言えますか。
次の多項式の根をすべて求め、各根の重複度を答えてください。
(1)$f(z) = z^3 - 3z^2 + 3z - 1$
(2)$g(z) = z^4 - 1$
(1)$f(z) = (z - 1)^3$ なので、根は $z = 1$(重複度3)。
(2)$g(z) = (z - 1)(z + 1)(z - i)(z + i)$ なので、根は $z = 1, -1, i, -i$(各重複度1)。
(1)$f(z) = z^3 - 3z^2 + 3z - 1$ は3乗の展開公式 $(z - 1)^3 = z^3 - 3z^2 + 3z - 1$ に一致します。根 $z = 1$ が3回現れる(重複度3)ので、重複度込みで3個です。
(2)$z^4 - 1 = (z^2 - 1)(z^2 + 1) = (z - 1)(z + 1)(z - i)(z + i)$ と因数分解されます。4つの根はすべて異なるので、各重複度は1です。重複度の合計は $1 + 1 + 1 + 1 = 4$ で、次数と一致します。
実数係数の3次方程式 $x^3 + ax^2 + bx + c = 0$ が $x = 1 + 2i$ を根に持つとします。もう一つの根を求め、残りの1つの根が実数であることを説明してください。
共役根定理により $x = 1 - 2i$ も根です。3次方程式なので根は3個あり、うち2個が $1 + 2i$, $1 - 2i$ なので、残りの1個は実数です(もし虚数なら、その共役も根でなければならず、合計4個以上になって矛盾します)。
多項式 $f(x) = x^4 + x^2 + 1$ について、以下の問に答えてください。
(1)$\mathbb{R}$ 上で因数分解してください。
(2)$\mathbb{C}$ 上で1次式の積に因数分解してください。
(1)$x^4 + x^2 + 1 = (x^2 + x + 1)(x^2 - x + 1)$
(2)$x^4 + x^2 + 1 = \left(x - \frac{-1 + \sqrt{3}\,i}{2}\right)\left(x - \frac{-1 - \sqrt{3}\,i}{2}\right)\left(x - \frac{1 + \sqrt{3}\,i}{2}\right)\left(x - \frac{1 - \sqrt{3}\,i}{2}\right)$
(1)$x^4 + x^2 + 1 = (x^4 + 2x^2 + 1) - x^2 = (x^2 + 1)^2 - x^2 = (x^2 + x + 1)(x^2 - x + 1)$ と変形できます。 各2次因子の判別式は $1 - 4 = -3 < 0$ と $1 - 4 = -3 < 0$ なので、どちらも $\mathbb{R}$ 上で既約です。
(2)$x^2 + x + 1 = 0$ の解は $x = \frac{-1 \pm \sqrt{3}\,i}{2}$、$x^2 - x + 1 = 0$ の解は $x = \frac{1 \pm \sqrt{3}\,i}{2}$ です。4つの根はすべて異なり、共役ペアが $\left\{\frac{-1 + \sqrt{3}\,i}{2}, \frac{-1 - \sqrt{3}\,i}{2}\right\}$ と $\left\{\frac{1 + \sqrt{3}\,i}{2}, \frac{1 - \sqrt{3}\,i}{2}\right\}$ の2組です。
実数係数の2次方程式 $x^2 + px + q = 0$ が $x = 3 - 4i$ を根に持つとき、$p$ と $q$ の値を求めてください。
$p = -6$, $q = 25$
共役根定理より、もう一つの根は $x = 3 + 4i$ です。解と係数の関係(高校数学II)より、
$$\begin{aligned} (3 - 4i) + (3 + 4i) &= -p \\ (3 - 4i)(3 + 4i) &= q \end{aligned}$$
左辺を計算すると、$-p = 6$ より $p = -6$、$q = 9 + 16 = 25$ です。
検算:$x^2 - 6x + 25 = 0$ を解くと $x = \frac{6 \pm \sqrt{36 - 100}}{2} = \frac{6 \pm 8i}{2} = 3 \pm 4i$(正しい)。
「実数係数の奇数次多項式は、少なくとも1つの実数根を持つ」ことを、中間値の定理を用いて証明してください。
$f(x) = a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_0$($n$ は奇数、$a_n \neq 0$)とします。
ステップ1:$a_n > 0$ の場合を考えます($a_n < 0$ の場合は $-f(x)$ について同じ議論をすれば、$-f(c) = 0$ なら $f(c) = 0$ です)。
ステップ2:$x$ が十分大きいとき、最高次の項が支配的になるので $f(x) > 0$ となります。すなわち、ある $M > 0$ が存在して $f(M) > 0$ です。
ステップ3:$x$ が負で絶対値が十分大きいとき、$a_n x^n = a_n \cdot (\text{負の数})^n$ ですが、$n$ が奇数なので $(\text{負の数})^n < 0$ です。$a_n > 0$ と合わせて $a_n x^n < 0$ が支配的となり、$f(x) < 0$ となります。すなわち、ある $m < 0$ が存在して $f(m) < 0$ です。
ステップ4:$f(x)$ は多項式なので連続関数です。$f(m) < 0 < f(M)$ であるから、中間値の定理により、$m < c < M$ なる $c$ が存在して $f(c) = 0$ です。
以上より、実数係数の奇数次多項式は少なくとも1つの実数根を持ちます。