自然数から整数、有理数、実数、複素数へと数が拡張されてきた歴史は、偶然の積み重ねではありません。
各段階の拡張は、「この方程式を解きたいのに、いまの数の範囲では解がない」という一つの動機から必然的に生じます。
高校数学では、実数や複素数を「ある」ものとして使いますが、大学数学では「なぜそのように数を拡張する必要があったのか」「拡張のたびに何を得て何を失ったのか」を問います。
この視点を持つと、数の体系の全体像が一本の筋で見通せるようになります。
そして、問題を解くときに「この方程式はどの数の範囲で解を持つか」を意識的に判断できるようになります。
高校数学では、数の種類を次のように整理して学びます。
この分類は「すでに存在する数をグループ分けしている」という扱いです。 実数は「数直線上の点」として直感的に理解し、複素数は「$x^2 + 1 = 0$ を解くために $i$ を導入する」と習います。 高校では、これで十分です。四則演算や方程式を解く計算力を身につけることが主目的だからです。
しかし、この扱いではいくつかの疑問が残ります。 なぜ $\sqrt{2}$ は分数で表せないのか。 なぜ「虚数」を導入してまで方程式を解く必要があるのか。 数を拡張したとき、以前使えていた性質はすべてそのまま使えるのか。 次のセクションでは、大学数学の視点を導入して、これらの疑問に答えます。
大学数学では、数の体系を「あるものの分類」ではなく、「必要に迫られて構成してきたもの」として捉えます。 自然数 $\mathbb{N}$ から出発し、演算の制限を克服するたびに数の範囲を広げる ── この過程に一貫した論理があります。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 自然数 $\to$ 整数 $\to$ 有理数 $\to$ 実数 $\to$ 複素数の各拡張が、どの方程式を解くために必要だったかを説明できる
2. 各拡張で何を得て(新たな演算の可能性、代数的性質)何を失ったか(順序、数え上げなど)を具体的に述べられる
3. 「この方程式はどの数の範囲で解を持つか」を意識的に判断できるようになる
4. 体の公理(四則演算を支える基本性質)の概要を把握し、有理数・実数・複素数がそれを満たすことを理解できる
それでは、最初の拡張 ── 自然数から整数への拡張から始めます。 ここで「方程式を解きたい」という動機が、数の拡張を駆動する力であることが見えてきます。
自然数 $\mathbb{N} = \{1, 2, 3, \ldots\}$ は、ものを数えるために生まれた最も基本的な数です。 自然数の範囲では、足し算と掛け算は自由にできます。2つの自然数を足しても掛けても、結果はまた自然数になります。
しかし、引き算は自由にできません。方程式 $3 + x = 2$ を考えてみましょう。 この方程式を満たす自然数 $x$ は存在しません。$x = -1$ と書きたいところですが、$-1$ は自然数ではありません。
より一般に、方程式 $a + x = b$ が $a > b$ のとき、自然数の範囲では解が存在しません。 この制限を取り除くために、$0$ と負の整数を導入して、整数 $\mathbb{Z} = \{\ldots, -2, -1, 0, 1, 2, \ldots\}$ を構成します。
整数の範囲では、方程式 $a + x = b$ がどんな整数 $a, b$ に対しても必ず解 $x = b - a$ を持ちます。 つまり、引き算がいつでもできるようになりました。 この性質を代数学の言葉で言うと、「すべての整数 $a$ に対して、$a + (-a) = 0$ を満たす 加法の逆元 $-a$ が存在する」ということです。
自然数には「すべての要素が正である」という明確な性質がありました。 自然数の積は必ず正であり、$a \cdot b = 0$ となることはありません。 整数に拡張すると、$0$ が加わり、$a \cdot b = 0$ が起こり得るようになります($a = 0$ または $b = 0$ のとき)。 また、負の数が加わることで、「$(-1) \times (-1)$ はなぜ $1$ なのか」という問いが生じます。
示すこと:分配法則と $a + 0 = a$($0$ の性質)を認めれば、$(-1) \times (-1) = 1$ が論理的に導かれる。
ステップ1:$(-1) + 1 = 0$ です($-1$ は $1$ の加法の逆元)。
ステップ2:両辺に $(-1)$ を掛けます。
$$(-1) \times \bigl((-1) + 1\bigr) = (-1) \times 0$$
ステップ3:右辺は $(-1) \times 0 = 0$ です(任意の数に $0$ を掛けると $0$)。
ステップ4:左辺に分配法則を適用します。
$$(-1) \times (-1) + (-1) \times 1 = 0$$
ステップ5:$(-1) \times 1 = -1$ なので、
$$(-1) \times (-1) + (-1) = 0$$
ステップ6:両辺に $1$ を加えると、
$$(-1) \times (-1) = 1$$
このように、「負の数同士の積が正になる」ことは暗記事項ではなく、分配法則を保つためにそうならざるを得ない結果です。
ここまでで、引き算を自由にするために整数を導入しました。 しかし整数の範囲でも、まだ解けない方程式があります。次のセクションでは、割り算の問題を解決します。
整数の範囲では、方程式 $2x = 3$ に解はありません。 $x = 3/2$ と書きたいところですが、$3/2$ は整数ではありません。 より一般に、方程式 $ax = b$($a \neq 0$)が整数の範囲で解を持つのは、$a$ が $b$ を割り切るとき($b$ が $a$ の倍数であるとき)に限られます。
この制限を取り除くために、分数(比)を導入して、有理数 $\mathbb{Q}$ を構成します。
$$\mathbb{Q} = \left\{ \frac{p}{q} \;\middle|\; p, q \in \mathbb{Z},\; q \neq 0 \right\}$$
$p$ と $q$ は整数で、$q \neq 0$ です。2つの分数 $p/q$ と $p'/q'$ は、$pq' = p'q$ のとき同じ有理数を表します(例:$1/2 = 2/4$)。
有理数の範囲では、$0$ でない任意の有理数 $a$ に対して、$a \cdot (1/a) = 1$ を満たす乗法の逆元 $1/a$ が存在します。 これにより、方程式 $ax = b$($a \neq 0$)はつねに解 $x = b/a$ を持ちます。 つまり、割り算がいつでもできるようになりました($0$ による割り算を除く)。
有理数は、加法・減法・乗法・除法($0$ による除法を除く)がすべて自由にできる最初の数体系です。 大学数学では、この性質を持つ代数構造を体(たい)と呼びます。
集合 $F$ が体であるとは、$F$ 上に加法($+$)と乗法($\times$)が定義されていて、次の性質をすべて満たすことです。
加法について:
乗法について:
加法と乗法の間:
これらの性質は高校で当たり前のように使ってきたものです。大学数学では、これらを公理として明示し、「この性質を満たす構造を体と呼ぶ」と定義します。 有理数 $\mathbb{Q}$、実数 $\mathbb{R}$、複素数 $\mathbb{C}$ はいずれも体です。整数 $\mathbb{Z}$ は乗法の逆元を持たないので体ではありません。
有理数には、整数にはなかった重要な性質がもう一つあります。稠密性(ちゅうみつせい)です。 任意の2つの異なる有理数 $a, b$($a < b$)の間に、別の有理数(たとえば $(a + b)/2$)が必ず存在します。 これは整数にはない性質です(整数 $1$ と $2$ の間には整数がありません)。
直感的に言えば、有理数は「隙間なくぎっしり詰まっている」ように見えます。 しかし、次のセクションで見るように、実はそうではありません。 有理数の間には「穴」があり、この穴を埋めるために実数への拡張が必要になります。
有理数の範囲では、方程式 $x^2 = 2$ に解はありません。 $\sqrt{2}$ は有理数ではない ── これは高校数学でも学ぶ事実です。 その証明を確認しましょう。
示すこと:$\sqrt{2}$ を分数 $p/q$ の形で表すことはできない。
方針:$\sqrt{2}$ が有理数であると仮定して矛盾を導きます。
ステップ1:$\sqrt{2} = p/q$($p, q$ は互いに素な正の整数)と仮定します。
ステップ2:両辺を二乗すると $2 = p^2/q^2$、したがって $p^2 = 2q^2$ です。
ステップ3:$p^2$ が偶数なので、$p$ 自身も偶数です(奇数の二乗は奇数なので)。$p = 2k$ とおくと、
$$(2k)^2 = 2q^2 \quad \Longrightarrow \quad 4k^2 = 2q^2 \quad \Longrightarrow \quad q^2 = 2k^2$$
ステップ4:同じ論法で $q$ も偶数です。しかし $p$ と $q$ が両方偶数なら、「$p$ と $q$ は互いに素」という仮定に矛盾します。
したがって $\sqrt{2}$ は有理数ではありません。
$\sqrt{2}$ が有理数でないということは、数直線上に有理数だけを並べたとき、$\sqrt{2}$ に対応する位置に「穴」が空いていることを意味します。 有理数は稠密に並んでいるにもかかわらず、数直線を隙間なく埋めることができません。
この穴は $\sqrt{2}$ だけではありません。$\sqrt{3}$, $\sqrt[3]{5}$, $\pi$, $e$ など、無数の穴が存在します。 有理数の数直線は、一見すきまなく並んでいるようで、実は至るところに穴が空いているのです。
実数 $\mathbb{R}$ は、有理数のこのすべての穴を埋めることで得られる数体系です。 大学数学では、この「穴を埋める」操作を厳密に定義する方法がいくつか知られています。 代表的なのはデデキント切断という方法です。
デデキント切断とは、有理数全体を2つのグループ $L$(左側)と $R$(右側)に分けることです。$L$ のどの有理数も $R$ のどの有理数より小さいという条件のもとで、この「切り口」を一つの実数とみなします。
たとえば $\sqrt{2}$ を定義するには、$L = \{r \in \mathbb{Q} \mid r < 0$ または $r^2 < 2\}$、$R = \{r \in \mathbb{Q} \mid r > 0$ かつ $r^2 > 2\}$ と分けます。$L$ には最大元がなく、$R$ には最小元がない ── この隙間が $\sqrt{2}$ です。
デデキント切断による実数の厳密な構成は M-1-2 実数の完備性 で詳しく扱います。
実数が有理数と決定的に異なるのは、完備性を持つことです。 直感的に言えば、「実数の数直線には穴がない」ということです。
完備性は様々な形で表現できますが、高校数学で馴染みのある表現に近いものを挙げると、次の通りです。
上に有界な実数の集合(空でないもの)には、上限(最小の上界)が存在する。
たとえば、集合 $\{r \in \mathbb{Q} \mid r^2 < 2,\; r > 0\}$ を考えます。この集合は上に有界ですが、有理数の範囲では上限が存在しません($\sqrt{2}$ が有理数でないため)。実数の範囲では $\sqrt{2}$ が上限として存在します。完備性の詳細は M-1-2 実数の完備性 で扱います。
完備性があるおかげで、高校数学で使う多くの定理が成り立ちます。 中間値の定理(連続関数が途中の値を必ずとること)、数学IIIで学ぶ数列の極限の存在、定積分の存在 ── これらはすべて実数の完備性に依存しています。
ここまでの拡張を経て、実数 $\mathbb{R}$ は次の3つの性質をすべて持つ数体系になりました。
実はこの3つの性質を同時に満たす体は、実数 $\mathbb{R}$ しかないことが証明できます(同型を除いて一意)。 しかし、実数でもまだ解けない方程式があります。次のセクションでは、最後の拡張に進みます。
実数の範囲では、方程式 $x^2 + 1 = 0$ に解はありません。 実数 $x$ の二乗 $x^2$ は常に $0$ 以上なので、$x^2 = -1$ を満たす実数は存在しません。 より一般に、2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$ の判別式 $D = b^2 - 4ac$ が負のとき、実数解は存在しません。
高校数学IIで学んだように、$i^2 = -1$ を満たす虚数単位 $i$ を導入し、$a + bi$($a, b$ は実数)の形の数を複素数と定めます。
$$\mathbb{C} = \{a + bi \mid a, b \in \mathbb{R}\}, \quad i^2 = -1$$
加法:$(a + bi) + (c + di) = (a + c) + (b + d)i$
乗法:$(a + bi)(c + di) = (ac - bd) + (ad + bc)i$
乗法は $i^2 = -1$ を使って展開した結果です。$(a + bi)(c + di) = ac + adi + bci + bdi^2 = ac + (ad + bc)i + bd(-1) = (ac - bd) + (ad + bc)i$ と計算できます。
複素数への拡張で得られる最大の成果は、代数学の基本定理です。
$n$ 次多項式方程式 $a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_1 x + a_0 = 0$($a_n \neq 0$, $n \geq 1$)は、複素数の範囲で必ず少なくとも1つの解を持ちます。
重複を込めて数えると、$n$ 次方程式はちょうど $n$ 個の複素数解を持ちます。
この性質を「$\mathbb{C}$ は代数的に閉じている」と言います。 自然数から始まった拡張の旅は、複素数で「方程式を解く」という目的を完全に達成して終わります。
代数学の基本定理の詳しい解説は M-1-3 代数学の基本定理 で扱います。
複素数は体ですが、実数のような順序を入れることができません。 $3 + 4i$ と $1 + 7i$ のどちらが「大きいか」を、意味のある形で定めることができないのです。
誤:複素数にも何らかの大小関係を定義できるはず
正:四則演算と整合する順序を複素数に入れることは不可能
理由を示します。仮に $i > 0$ とすると、両辺に $i$ を掛けて $i^2 > 0$、つまり $-1 > 0$ となり矛盾します。$i < 0$ としても、$i^2 > 0$(負 $\times$ 負 $=$ 正)より同じ矛盾が生じます。$i = 0$ でもないので、$i$ を $0$ と比較すること自体が不可能です。
つまり、複素数を得るために実数の「大小比較ができる」という性質を放棄しています。 これが拡張の代償です。 代数的閉性(すべての方程式が解ける)と順序の両立は不可能であり、複素数は代数的閉性を選んだ体系と言えます。
ここまでで、自然数から複素数まで4段階の拡張をすべてたどりました。 次のセクションでは、全体を俯瞰して各拡張で何を得て何を失ったかを一覧表にまとめます。
セクション3から6までで見てきた4段階の拡張を、一つの表にまとめます。
| 拡張 | 解きたかった方程式 | 得るもの | 失うもの |
|---|---|---|---|
| $\mathbb{N} \to \mathbb{Z}$ | $a + x = b$ (引き算) |
加法の逆元($-a$) 引き算がいつでも可能 |
「すべて正」という性質 $a \cdot b = 0$ が起こり得る |
| $\mathbb{Z} \to \mathbb{Q}$ | $ax = b$ (割り算) |
乗法の逆元($a^{-1}$) 体の構造、稠密性 |
離散性(整数は1ずつ飛ぶ) すべての元が整数値 |
| $\mathbb{Q} \to \mathbb{R}$ | $x^2 = 2$ (代数的無理数) |
完備性(穴がない) 中間値の定理、極限 |
可算性(有理数は数え上げ可能だが、実数は不可能) |
| $\mathbb{R} \to \mathbb{C}$ | $x^2 + 1 = 0$ (負の数の平方根) |
代数的閉性 ($n$ 次方程式が $n$ 個の解を持つ) |
順序(大小比較ができない) |
原則1:拡張の動機は常に「方程式を解くこと」。引き算、割り算、平方根、虚数 ── いずれも「いまの数の範囲では解けない方程式がある」という不満が出発点です。
原則2:拡張するたびに、前の段階の演算法則を保つ。整数でも有理数でも実数でも複素数でも、交換法則・結合法則・分配法則は成り立ちます。これが「自然な拡張」の条件です。
原則3:拡張には必ず代償がある。何かを得れば何かを失います。順序、離散性、可算性 ── これらを意識することが、大学数学の出発点です。
集合が可算であるとは、その要素を $a_1, a_2, a_3, \ldots$ と番号をつけて一列に並べられることを意味します。自然数 $\mathbb{N}$、整数 $\mathbb{Z}$、有理数 $\mathbb{Q}$ はいずれも可算です。
しかし、実数 $\mathbb{R}$ は可算ではありません(非可算)。つまり、実数をどのように番号をつけて並べようとしても、必ず漏れる実数が存在します。これはカントールが1873年に証明した結果です。詳しくは M-5-3 無限集合の数学 で扱います。
この全体像を踏まえて、次のセクションでは、「数の種類を意識する」ことが具体的な問題を解く際にどう役立つかを見ます。
方程式 $x^3 = -8$ の解を考えます。
整数の範囲:$x = -2$ が解です。$(-2)^3 = -8$ なので成り立ちます。
では、方程式 $x^3 = -8$ の解は $x = -2$ だけでしょうか。代数学の基本定理によれば、3次方程式は複素数の範囲で3つの解を持つはずです。 実際、$x^3 + 8 = 0$ を因数分解すると、
$$x^3 + 8 = (x + 2)(x^2 - 2x + 4) = 0$$
$x^2 - 2x + 4 = 0$ の判別式は $D = 4 - 16 = -12 < 0$ なので、この2次方程式は実数解を持ちません。解の公式から、
$$x = \frac{2 \pm \sqrt{-12}}{2} = 1 \pm \sqrt{3}\,i$$
したがって、$x^3 = -8$ の3つの解は $-2$, $1 + \sqrt{3}\,i$, $1 - \sqrt{3}\,i$ です。 「解はどの数の範囲で探すか」によって、答えの個数が変わります。
「$x^2 + 1 > 0$ を満たす $x$ をすべて求めよ」という問題を考えます。
実数の範囲:$x^2 \geq 0$ なので $x^2 + 1 \geq 1 > 0$ です。したがって、すべての実数 $x$ が解です。
複素数の範囲:そもそもこの問題は意味をなしません。セクション6で見たように、複素数には大小関係がないため、「$> 0$」という不等号が使えないからです。 不等式は順序がある数体系(実数、有理数、整数など)でのみ意味を持ちます。
$\sqrt{2}$ が無理数であることを使うと、次のような問題が解けます。
問題:$a + b\sqrt{2} = 3 + 5\sqrt{2}$ を満たす有理数 $a, b$ を求めよ。
$\sqrt{2}$ が無理数であるため、等式 $(a - 3) + (b - 5)\sqrt{2} = 0$ において、 $a - 3$ と $b - 5$ がともに有理数であるならば、$a - 3 = 0$ かつ $b - 5 = 0$ でなければなりません。 もし $b - 5 \neq 0$ ならば $\sqrt{2} = -(a - 3)/(b - 5)$ が有理数になり矛盾するからです。 したがって $a = 3$, $b = 5$ です。
この「有理数部分と無理数部分の係数を比較する」手法は、高校数学でもよく使いますが、 その背後には「$\sqrt{2}$ が有理数でない」という事実(セクション5の証明)が不可欠です。
以上の例のように、問題を解く際に「いまどの数の範囲で考えているか」を意識することで、 解の存在・個数・使える道具(不等式が使えるかどうか等)を正しく判断できるようになります。
Q1. 自然数 $\mathbb{N}$ から整数 $\mathbb{Z}$ への拡張は、どのような方程式を解くために必要でしたか。具体例を挙げて説明してください。
Q2. 有理数 $\mathbb{Q}$ は「稠密」であるにもかかわらず、数直線を隙間なく埋めることはできません。その理由を説明してください。
Q3. 複素数 $\mathbb{C}$ に大小関係(四則演算と整合する順序)を定めることができない理由を、$i$ を使って説明してください。
Q4. 体の公理を満たす数体系と満たさない数体系をそれぞれ1つずつ挙げ、後者が体でない理由を述べてください。
次の方程式について、各数体系($\mathbb{N}$, $\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$, $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$)において解が存在するかどうかを判定してください。
(a) $x + 5 = 3$
(b) $3x = 7$
(c) $x^2 = 5$
(d) $x^2 = -4$
(a) $x = -2$。$\mathbb{N}$:なし。$\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$, $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$:あり。
(b) $x = 7/3$。$\mathbb{N}$, $\mathbb{Z}$:なし。$\mathbb{Q}$, $\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$:あり。
(c) $x = \pm\sqrt{5}$。$\mathbb{N}$, $\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$:なし。$\mathbb{R}$, $\mathbb{C}$:あり。
(d) $x = \pm 2i$。$\mathbb{N}$, $\mathbb{Z}$, $\mathbb{Q}$, $\mathbb{R}$:なし。$\mathbb{C}$:あり。
各方程式は、対応する拡張が行われた段階で初めて解が存在するようになります。(a)は整数で、(b)は有理数で、(c)は実数で、(d)は複素数で、それぞれ初めて解けるようになります。
セクション3で示した方法に倣い、分配法則を用いて $(-3) \times (-5) = 15$ を導いてください。
$(-5) + 5 = 0$ の両辺に $(-3)$ を掛けます。
$$(-3) \times \bigl((-5) + 5\bigr) = (-3) \times 0 = 0$$
左辺に分配法則を適用すると、
$$(-3) \times (-5) + (-3) \times 5 = 0$$
$(-3) \times 5 = -15$ なので、
$$(-3) \times (-5) + (-15) = 0$$
$$(-3) \times (-5) = 15$$
$\sqrt{3}$ が無理数であることを、背理法を用いて証明してください。
$\sqrt{3} = p/q$($p, q$ は互いに素な正の整数)と仮定します。両辺を二乗すると $3 = p^2/q^2$、つまり $p^2 = 3q^2$ です。
$p^2$ が $3$ の倍数なので $p$ も $3$ の倍数です($p$ が $3$ の倍数でないとすると、$p = 3k + 1$ または $p = 3k + 2$ であり、$p^2 = 9k^2 + 6k + 1$ または $p^2 = 9k^2 + 12k + 4$ となって、いずれも $3$ で割ると余り $1$ です。これは $p^2$ が $3$ の倍数であることに矛盾します)。
$p = 3m$ とおくと $9m^2 = 3q^2$、つまり $q^2 = 3m^2$ です。同じ論法で $q$ も $3$ の倍数ですが、$p$ と $q$ が互いに素であることに矛盾します。
よって $\sqrt{3}$ は無理数です。
方程式 $x^4 = 16$ のすべての複素数解を求めてください。
$x^4 - 16 = 0$ を因数分解します。
$$x^4 - 16 = (x^2 - 4)(x^2 + 4) = (x - 2)(x + 2)(x^2 + 4)$$
$x^2 + 4 = 0$ より $x = \pm 2i$ です。
したがって、4つの解は $x = 2, -2, 2i, -2i$ です。
4次方程式なので代数学の基本定理により複素数の範囲でちょうど4つの解を持ちます。実数解は $\pm 2$ の2つだけですが、複素数に拡張すると $\pm 2i$ も解として現れます。このように、数の範囲を広げることで「期待される個数」の解が揃います。
$\sqrt{2} + \sqrt{3}$ が無理数であることを証明してください。
ヒント:$\sqrt{2} + \sqrt{3}$ が有理数であると仮定し、二乗してみてください。
$\sqrt{2} + \sqrt{3} = r$($r$ は有理数)と仮定します。両辺を二乗すると、
$$2 + 2\sqrt{6} + 3 = r^2 \quad \Longrightarrow \quad 2\sqrt{6} = r^2 - 5$$
$$\sqrt{6} = \frac{r^2 - 5}{2}$$
$r$ が有理数なら右辺は有理数です。しかし $\sqrt{6}$ は無理数です($\sqrt{6} = p/q$ とおいて $6q^2 = p^2$ から、$\sqrt{2}$ の場合と同様に矛盾が導けます)。
有理数 $=$ 無理数は矛盾なので、$\sqrt{2} + \sqrt{3}$ は無理数です。
この証明では、「有理数部分と無理数部分の分離」(セクション8の例3と同じ手法)を使っています。$\sqrt{2} + \sqrt{3}$ が有理数だと仮定すると、式変形によって $\sqrt{6}$ が有理数になるという矛盾が導かれます。「無理数同士の和は無理数か」という問いは一般には偽($\sqrt{2} + (-\sqrt{2}) = 0$ は有理数)ですが、$\sqrt{2}$ と $\sqrt{3}$ の場合は真であることが、この方法で示されます。