有理関数(多項式の商)の積分は、一見複雑に見えても、実は体系的な手順で必ず計算できます。その鍵が部分分数分解です。複雑な分数式を「これ以上分解できない」単純な分数の和に分け、一つずつ積分する。この「バラして攻略する」戦略をマスターすれば、分数関数の積分で迷うことはなくなります。
$\dfrac{P(x)}{Q(x)}$ という分数関数(有理関数)の積分を行うとき、最初に確認すべきことがあります。それは分子の次数と分母の次数の大小関係です。
Step 1(次数の確認):分子の次数 $\ge$ 分母の次数 なら、まず割り算をして「多項式 + 真分数式」に分ける
Step 2(部分分数分解):真分数式を $\dfrac{A}{x-a}$, $\dfrac{B}{(x-a)^2}$, $\dfrac{Cx+D}{x^2+px+q}$ などの和に分解する
Step 3(個別に積分):各項をそれぞれ積分する(すべて公式で処理できる)
この3ステップを踏めば、どんな有理関数でも原理的には積分可能です。代数学の基本定理により、実数係数の多項式は1次式と「判別式が負の2次式」の積に分解できるからです。
部分分数分解の結果として現れる基本パーツは、次の4つのタイプに集約されます。
| パーツの型 | 不定積分 | 備考 |
|---|---|---|
| $\dfrac{A}{x-a}$ | $A\log|x-a| + C$ | 最も基本 |
| $\dfrac{A}{(x-a)^n}$($n \ge 2$) | $\dfrac{A}{-(n-1)(x-a)^{n-1}} + C$ | $x-a = t$ と置換 |
| $\dfrac{A}{x^2+a^2}$ | $\dfrac{A}{a}\arctan\dfrac{x}{a} + C$ | $\arctan$ 型 |
| $\dfrac{Bx}{x^2+a^2}$ | $\dfrac{B}{2}\log(x^2+a^2) + C$ | 分子が微分の定数倍 |
✗ 誤:$\int \dfrac{x^3+1}{x^2-1}\,dx$ をそのまま部分分数分解しようとする
○ 正:まず割り算。$\dfrac{x^3+1}{x^2-1} = x + \dfrac{x+1}{x^2-1} = x + \dfrac{1}{x-1}$
分子の次数 $\ge$ 分母の次数のとき、部分分数分解は使えません。必ず最初に多項式の割り算を行い、真分数式にしてから分解しましょう。
部分分数分解とは、真分数式を「これ以上分解できない」単純な分数の和に書き直す操作です。なぜこれが可能なのかを理解しておくと、分解の仕方に迷わなくなります。
$\dfrac{1}{x-1} + \dfrac{2}{x+3} = \dfrac{(x+3) + 2(x-1)}{(x-1)(x+3)} = \dfrac{3x+1}{(x-1)(x+3)}$ という通分の計算はおなじみです。
部分分数分解は、この操作を逆に行うものです。$\dfrac{3x+1}{(x-1)(x+3)}$ から出発して、$\dfrac{A}{x-1} + \dfrac{B}{x+3}$ の形に「巻き戻す」のです。
分母を因数分解したとき、各因数に対応する部分分数の形は次の通りです。
| 分母の因数 | 対応する部分分数 |
|---|---|
| $x - a$(1次式、1重) | $\dfrac{A}{x-a}$ |
| $(x-a)^2$(1次式、2重) | $\dfrac{A}{x-a} + \dfrac{B}{(x-a)^2}$ |
| $(x-a)^n$(1次式、$n$ 重) | $\dfrac{A_1}{x-a} + \dfrac{A_2}{(x-a)^2} + \cdots + \dfrac{A_n}{(x-a)^n}$ |
| $x^2+px+q$(判別式 $< 0$) | $\dfrac{Ax+B}{x^2+px+q}$ |
$\dfrac{3x+1}{(x-1)(x+3)} = \dfrac{A}{x-1} + \dfrac{B}{x+3}$ として、両辺に $(x-1)(x+3)$ を掛けると:
$$3x + 1 = A(x+3) + B(x-1)$$
これは $x$ についての恒等式なので、特定の $x$ の値を代入して係数を決めます。
$x = 1$ を代入:$4 = 4A$ より $A = 1$
$x = -3$ を代入:$-8 = -4B$ より $B = 2$
✗ 誤:$\dfrac{1}{(x-1)^2}$ を $\dfrac{A}{x-1} + \dfrac{B}{x-1}$ と分解しようとする
○ 正:$\dfrac{A}{x-1} + \dfrac{B}{(x-1)^2}$ と分解する
重根 $(x-a)^n$ がある場合は、$\dfrac{A_1}{x-a}$ から $\dfrac{A_n}{(x-a)^n}$ まで、すべての「階層」の項を置く必要があります。
分母が異なる1次式の積のとき、係数を素早く求める方法があります。$\dfrac{P(x)}{(x-a)(x-b)\cdots}$ の $\dfrac{A}{x-a}$ の係数 $A$ は、元の分数式の分母から $(x-a)$ を「目隠し」して $x = a$ を代入した値です。
例:$\dfrac{3x+1}{(x-1)(x+3)}$ で $A$ を求めるなら、$(x-1)$ を消して $\dfrac{3x+1}{x+3}$ に $x=1$ を代入し $\dfrac{4}{4} = 1$。
部分分数分解で現れる最も基本的なパーツを積分しましょう。
$$\int \frac{1}{x-a}\,dx = \log|x-a| + C$$
$$\int \frac{1}{(x-a)^n}\,dx = \frac{-1}{(n-1)(x-a)^{n-1}} + C \quad (n \ge 2)$$
※ $\dfrac{1}{x-a}$ 型は $\log$ になり、$\dfrac{1}{(x-a)^n}$ 型($n \ge 2$)は冪乗則で処理します。
セクション2で求めた分解 $\dfrac{3x+1}{(x-1)(x+3)} = \dfrac{1}{x-1} + \dfrac{2}{x+3}$ を使って:
$$\int \frac{3x+1}{(x-1)(x+3)}\,dx = \int \frac{1}{x-1}\,dx + 2\int \frac{1}{x+3}\,dx = \log|x-1| + 2\log|x+3| + C$$
$\dfrac{2x+3}{(x+1)^2} = \dfrac{A}{x+1} + \dfrac{B}{(x+1)^2}$ とおきます。両辺に $(x+1)^2$ を掛けると:
$$2x + 3 = A(x+1) + B$$
$x = -1$ を代入:$1 = B$。係数比較で $A = 2$。よって:
$$\int \frac{2x+3}{(x+1)^2}\,dx = 2\int \frac{1}{x+1}\,dx + \int \frac{1}{(x+1)^2}\,dx = 2\log|x+1| - \frac{1}{x+1} + C$$
✗ 誤:$\int \dfrac{1}{x-a}\,dx = \log(x-a) + C$
○ 正:$\int \dfrac{1}{x-a}\,dx = \log|x-a| + C$
$\log$ の真数は正でなければなりません。$x - a < 0$ の場合にも対応するため、絶対値を付けます。定積分で具体的な値の範囲がわかっている場合は絶対値を外せます。
分母が因数分解できない2次式の場合、$\log$ では処理できません。ここで登場するのが逆正接関数 $\arctan$ です。
$$\int \frac{1}{x^2 + a^2}\,dx = \frac{1}{a}\arctan\frac{x}{a} + C \quad (a > 0)$$
※ $(\arctan u)' = \dfrac{1}{1+u^2}$ から導かれます。$u = \dfrac{x}{a}$ と置換すれば確認できます。
$x = a\tan\theta$ と置換すると、$dx = \dfrac{a}{\cos^2\theta}\,d\theta$ であり:
$$x^2 + a^2 = a^2\tan^2\theta + a^2 = \frac{a^2}{\cos^2\theta}$$
$$\int \frac{1}{x^2+a^2}\,dx = \int \frac{1}{\frac{a^2}{\cos^2\theta}} \cdot \frac{a}{\cos^2\theta}\,d\theta = \int \frac{1}{a}\,d\theta = \frac{\theta}{a} + C = \frac{1}{a}\arctan\frac{x}{a} + C$$
$\dfrac{Ax+B}{x^2+a^2}$ の形は、$\dfrac{Ax}{x^2+a^2}$ と $\dfrac{B}{x^2+a^2}$ に分けます。
$\dfrac{x}{x^2+a^2}$ の積分は、分子が分母の微分の定数倍であることに着目します。$(x^2+a^2)' = 2x$ なので:
$$\int \frac{x}{x^2+a^2}\,dx = \frac{1}{2}\log(x^2+a^2) + C$$
($x^2 + a^2 > 0$ なので絶対値は不要です。)
$$\int \frac{2x+5}{x^2+4}\,dx = \int \frac{2x}{x^2+4}\,dx + 5\int \frac{1}{x^2+4}\,dx = \log(x^2+4) + \frac{5}{2}\arctan\frac{x}{2} + C$$
分母が因数分解できない2次式のとき、分子を「分母の微分に比例する部分($\to \log$)」と「定数部分($\to \arctan$)」に分けるのが定石です。
$$\frac{Ax+B}{x^2+a^2} = \frac{A}{2} \cdot \frac{2x}{x^2+a^2} + \frac{B}{x^2+a^2}$$
高校数学IIIの教科書によっては $\arctan$ を扱わないものもあります。その場合、$\int \dfrac{1}{x^2+1}\,dx = \arctan x + C$ は「公式」として与えられることが多いです。
大学の微積分では、$\arcsin$, $\arccos$, $\arctan$ はいずれも基本的な積分公式として頻繁に登場します。逆三角関数は「三角関数の置換積分の結果を表す記号」として自然に現れるのです。
$\dfrac{P(x)}{Q(x)}$ で分子の次数が分母の次数以上のとき、そのままでは部分分数分解できません。まず多項式の割り算(筆算)を行います。
$$\frac{P(x)}{Q(x)} = S(x) + \frac{R(x)}{Q(x)}$$
ここで $S(x)$ は商の多項式、$R(x)$ は余りで $\deg R < \deg Q$(真分数式)。
※ 商の多項式 $S(x)$ はそのまま項別に積分し、真分数式 $\dfrac{R(x)}{Q(x)}$ を部分分数分解して積分します。
割り算を行います。$x^3 + 2x = (x^2-1) \cdot x + 3x$ より:
$$\frac{x^3+2x}{x^2-1} = x + \frac{3x}{x^2-1}$$
$\dfrac{3x}{x^2-1} = \dfrac{3x}{(x-1)(x+1)} = \dfrac{A}{x-1} + \dfrac{B}{x+1}$ とおくと:
$3x = A(x+1) + B(x-1)$。$x=1$ で $A = \dfrac{3}{2}$、$x=-1$ で $B = \dfrac{3}{2}$。
$$\int \frac{x^3+2x}{x^2-1}\,dx = \int x\,dx + \frac{3}{2}\int \frac{1}{x-1}\,dx + \frac{3}{2}\int \frac{1}{x+1}\,dx$$
$$= \frac{x^2}{2} + \frac{3}{2}\log|x-1| + \frac{3}{2}\log|x+1| + C = \frac{x^2}{2} + \frac{3}{2}\log|x^2-1| + C$$
$\dfrac{x^2}{x^2+1} = 1 - \dfrac{1}{x^2+1}$ と変形できます(分子を $x^2 + 1 - 1$ と書く)。よって:
$$\int \frac{x^2}{x^2+1}\,dx = \int 1\,dx - \int \frac{1}{x^2+1}\,dx = x - \arctan x + C$$
✗ 誤:$\int \dfrac{x^2}{x^2+1}\,dx$ を置換積分で何とかしようとする(うまくいかない)
○ 正:$\dfrac{x^2}{x^2+1} = 1 - \dfrac{1}{x^2+1}$ と変形してから積分する
分子の次数 $\ge$ 分母の次数のときは、まず割り算。これは分数関数の積分の鉄則です。特に「分子と分母の次数が同じ」場合は見落としやすいので注意しましょう。
代数学の基本定理(すべての多項式は1次式と既約2次式の積に分解できる)と、部分分数分解の理論を組み合わせると、あらゆる有理関数の不定積分は、多項式・$\log$・$\arctan$ の有限個の組み合わせで表せることが証明できます。
これは大学の代数学や解析学で学ぶ美しい結果です。計算が複雑になることはあっても、「原理的に積分不可能」ということは決してありません。
Q1. $\dfrac{5x+3}{(x+1)(x-2)}$ を部分分数分解しなさい。
Q2. $\int \dfrac{1}{x^2+9}\,dx$ を計算しなさい。
Q3. $\dfrac{x^2+1}{x+2}$ を「多項式 + 真分数式」の形に変形しなさい。
Q4. $\int \dfrac{1}{(x-3)^2}\,dx$ を求めなさい。
Q5. $\int \dfrac{x}{x^2+4}\,dx$ を求めなさい。
次の不定積分を求めよ。
(1) $\displaystyle\int \frac{1}{x^2 - 4}\,dx$
(2) $\displaystyle\int \frac{x+3}{x^2+3x+2}\,dx$
(1) $\dfrac{1}{x^2-4} = \dfrac{1}{(x-2)(x+2)} = \dfrac{A}{x-2} + \dfrac{B}{x+2}$
$1 = A(x+2) + B(x-2)$。$x=2$ で $A = \dfrac{1}{4}$、$x=-2$ で $B = -\dfrac{1}{4}$。
$$\int \frac{1}{x^2-4}\,dx = \frac{1}{4}\log|x-2| - \frac{1}{4}\log|x+2| + C = \frac{1}{4}\log\left|\frac{x-2}{x+2}\right| + C$$
(2) $x^2+3x+2 = (x+1)(x+2)$ より $\dfrac{x+3}{(x+1)(x+2)} = \dfrac{A}{x+1} + \dfrac{B}{x+2}$
$x+3 = A(x+2) + B(x+1)$。$x=-1$ で $A = 2$、$x=-2$ で $B = -1$。
$$\int \frac{x+3}{x^2+3x+2}\,dx = 2\log|x+1| - \log|x+2| + C = \log\frac{(x+1)^2}{|x+2|} + C$$
$\displaystyle\int \frac{x^2+1}{x(x^2+4)}\,dx$ を求めよ。
$\dfrac{x^2+1}{x(x^2+4)} = \dfrac{A}{x} + \dfrac{Bx+C}{x^2+4}$ とおく。
$x^2+1 = A(x^2+4) + (Bx+C)x = (A+B)x^2 + Cx + 4A$
係数比較:$A+B = 1$, $C = 0$, $4A = 1$ より $A = \dfrac{1}{4}$, $B = \dfrac{3}{4}$, $C = 0$。
$$\int \frac{x^2+1}{x(x^2+4)}\,dx = \frac{1}{4}\int \frac{1}{x}\,dx + \frac{3}{4}\int \frac{x}{x^2+4}\,dx$$
$$= \frac{1}{4}\log|x| + \frac{3}{4} \cdot \frac{1}{2}\log(x^2+4) + C = \frac{1}{4}\log|x| + \frac{3}{8}\log(x^2+4) + C$$
$\displaystyle\int \frac{x^3}{x^2 - x - 2}\,dx$ を求めよ。
分子の次数(3)$>$ 分母の次数(2)なので、まず割り算:
$x^3 = (x^2-x-2)(x+1) + (3x+2)$ より
$$\frac{x^3}{x^2-x-2} = x + 1 + \frac{3x+2}{x^2-x-2}$$
$x^2-x-2 = (x-2)(x+1)$ と因数分解し、$\dfrac{3x+2}{(x-2)(x+1)} = \dfrac{A}{x-2} + \dfrac{B}{x+1}$ とおくと
$3x+2 = A(x+1)+B(x-2)$。$x=2$ で $A = \dfrac{8}{3}$、$x=-1$ で $B = \dfrac{1}{3}$。
$$\int \frac{x^3}{x^2-x-2}\,dx = \frac{x^2}{2} + x + \frac{8}{3}\log|x-2| + \frac{1}{3}\log|x+1| + C$$
$\displaystyle\int \frac{x^2+2}{x^3+x}\,dx$ を求めよ。
$x^3 + x = x(x^2+1)$ と因数分解する。$\dfrac{x^2+2}{x(x^2+1)} = \dfrac{A}{x} + \dfrac{Bx+C}{x^2+1}$ とおく。
$x^2+2 = A(x^2+1) + (Bx+C)x = (A+B)x^2 + Cx + A$
係数比較:$A+B = 1$, $C = 0$, $A = 2$。よって $B = -1$, $C = 0$。
$$\int \frac{x^2+2}{x^3+x}\,dx = 2\int \frac{1}{x}\,dx - \int \frac{x}{x^2+1}\,dx$$
$$= 2\log|x| - \frac{1}{2}\log(x^2+1) + C$$
分母に $x$(1次式)と $x^2+1$(既約2次式)が含まれる複合型です。部分分数分解では、既約2次式に対して分子を $Bx+C$ の形で置くことがポイントです。結果として $C = 0$ となり、$\arctan$ の項は現れませんでした。
検算として、得られた結果を微分して元の被積分関数に戻ることを確認するとよいでしょう。