グラフの形を正確に把握するには、増減だけでなく「曲がり方」の情報が不可欠です。第2次導関数 $f''(x)$ の符号を調べることで、曲線が上に凸か下に凸かを判定でき、凸性が入れ替わる変曲点を見つけることができます。本記事では凹凸の定義、変曲点の求め方を学び、グラフの概形を描くための重要な準備を行います。
グラフの「曲がり方」には2種類あります。直観的には、お椀を伏せた形が「上に凸」、お椀を立てた形が「下に凸」です。
曲線 $y = f(x)$ が区間 $I$ で:
下に凸(凹, concave up):曲線が、その区間内の任意の2点を結ぶ線分よりも下側にある
上に凸(凸, concave down):曲線が、その区間内の任意の2点を結ぶ線分よりも上側にある
※ 日本の教科書では「上に凸」「下に凸」という用語が標準です。英語圏の concave up / concave down と混同しないよう注意しましょう。
下に凸:$y = x^2$ のようなお椀型。グラフの上側に水をためられる形。接線がグラフの下側にある。
上に凸:$y = -x^2$ のような山型。グラフの下側に水をためられる形。接線がグラフの上側にある。
凹凸は接線の位置関係でも表現できます。
この「接線との位置関係」は、変曲点や不等式の証明で重要な役割を果たします。
凹凸を判定するための最も実用的な道具が第2次導関数です。
$f(x)$ が区間 $I$ で2回微分可能であるとき:
(1) $I$ で常に $f''(x) > 0$ ならば、曲線 $y = f(x)$ は $I$ で下に凸
(2) $I$ で常に $f''(x) < 0$ ならば、曲線 $y = f(x)$ は $I$ で上に凸
$f''(x) > 0$ とは $f'(x)$ が単調増加していることを意味します。
接線の傾き $f'(x)$ が増加するということは、グラフが徐々に急になっていくということです。これはお椀型(下に凸)に対応します。
厳密には、テイラーの定理を用いて接線とグラフの差を評価することで証明できます。
$f'(x) > 0$ かつ $f''(x) > 0$:増加しながら下に凸 → 加速度的に増加(傾きが急になる)
$f'(x) > 0$ かつ $f''(x) < 0$:増加しながら上に凸 → 増加が鈍化していく
$f'(x) < 0$ かつ $f''(x) > 0$:減少しながら下に凸 → 減少が鈍化していく
$f'(x) < 0$ かつ $f''(x) < 0$:減少しながら上に凸 → 加速度的に減少
| $f'(x)$ の符号 | $f''(x)$ の符号 | グラフの形 |
|---|---|---|
| $+$(増加) | $+$(下に凸) | 右上がりで傾きが急になる |
| $+$(増加) | $-$(上に凸) | 右上がりで傾きが緩くなる |
| $-$(減少) | $+$(下に凸) | 右下がりで傾きが緩くなる |
| $-$(減少) | $-$(上に凸) | 右下がりで傾きが急になる |
凸性が切り替わる点を変曲点といいます。グラフの概形を正確に描くために、変曲点の情報は不可欠です。
曲線 $y = f(x)$ 上の点 $(a, f(a))$ において、$x = a$ の前後で曲線の凸性が入れ替わるとき、その点を変曲点(inflection point)という。
すなわち、$f''(x)$ が $x = a$ の前後で符号を変える点が変曲点である。
Step 1. $f''(x) = 0$ を解いて候補点を求める
Step 2. 各候補点の前後で $f''(x)$ の符号が実際に変化することを確認する
Step 3. 符号が変化する点が変曲点である
※ $f''(a) = 0$ だけでは変曲点の十分条件ではない。$f(x) = x^4$ では $f''(0) = 0$ だが変曲点ではない。
誤:$f''(a) = 0$ なので $(a, f(a))$ は変曲点
正:$f''(a) = 0$ は変曲点の必要条件だが十分条件ではない。$f''(x)$ の符号変化を確認する
$f(x) = x^4$ では $f''(x) = 12x^2 \geq 0$ で、$f''(0) = 0$ だが前後で符号が変わらない(常に $\geq 0$)。よって $x = 0$ は変曲点ではない。
$f'(x) = 3x^2 - 6x$, $f''(x) = 6x - 6 = 6(x-1)$
$f''(x) = 0$ のとき $x = 1$。
$x < 1$ で $f''(x) < 0$(上に凸)、$x > 1$ で $f''(x) > 0$(下に凸)。
$f''(x)$ が負から正に変わるので、$(1, f(1)) = (1, 0)$ は変曲点。
変曲点では、曲線の曲がり方の向きが切り替わります。山型(上に凸)から谷型(下に凸)に変わる、あるいはその逆です。
変曲点における接線は、その点で曲線を横切ります。これは凸性が入れ替わることの直接的な結果です。
$f'(x) = e^{-x}(1-x)$(前記事で計算済み)
$f''(x) = -e^{-x}(1-x) + e^{-x}(-1) = e^{-x}(-1+x-1) = e^{-x}(x-2)$
$e^{-x} > 0$ なので $f''(x)$ の符号は $(x-2)$ で決まる。$f''(x) = 0$ のとき $x = 2$。
$x < 2$ で $f''(x) < 0$(上に凸)、$x > 2$ で $f''(x) > 0$(下に凸)。
変曲点:$(2, f(2)) = (2, 2e^{-2})$
$f'(x) = \dfrac{1-x^2}{(1+x^2)^2}$(前記事で計算済み)
$f''(x) = \dfrac{-2x(1+x^2)^2 - (1-x^2) \cdot 2(1+x^2) \cdot 2x}{(1+x^2)^4} = \dfrac{2x(x^2-3)}{(1+x^2)^3}$
$(1+x^2)^3 > 0$ なので $f''(x)$ の符号は $2x(x^2-3) = 2x(x+\sqrt{3})(x-\sqrt{3})$ で決まる。
$f''(x) = 0$ のとき $x = -\sqrt{3}, 0, \sqrt{3}$。
| $x$ | $\cdots$ | $-\sqrt{3}$ | $\cdots$ | $0$ | $\cdots$ | $\sqrt{3}$ | $\cdots$ |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| $f''(x)$ | $-$ | $0$ | $+$ | $0$ | $-$ | $0$ | $+$ |
| 凹凸 | 上に凸 | 下に凸 | 上に凸 | 下に凸 |
3つとも $f''(x)$ の符号が変化するので、変曲点は3つ:
$\left(-\sqrt{3}, -\dfrac{\sqrt{3}}{4}\right)$, $(0, 0)$, $\left(\sqrt{3}, \dfrac{\sqrt{3}}{4}\right)$
$f'(x) = -2xe^{-x^2}$
$f''(x) = -2e^{-x^2} + (-2x)(-2x)e^{-x^2} = e^{-x^2}(4x^2 - 2) = 2e^{-x^2}(2x^2 - 1)$
$e^{-x^2} > 0$ なので $f''(x)$ の符号は $(2x^2-1)$ で決まる。$f''(x) = 0$ のとき $x = \pm\dfrac{1}{\sqrt{2}}$。
$|x| < \dfrac{1}{\sqrt{2}}$ で $f''(x) < 0$(上に凸)、$|x| > \dfrac{1}{\sqrt{2}}$ で $f''(x) > 0$(下に凸)。
変曲点:$\left(\pm\dfrac{1}{\sqrt{2}}, e^{-1/2}\right) = \left(\pm\dfrac{\sqrt{2}}{2}, \dfrac{1}{\sqrt{e}}\right)$
$y = e^{-x^2}$ は正規分布(ガウス関数)の基本形です。変曲点 $x = \pm\dfrac{1}{\sqrt{2}}$ は、統計学における正規分布の「標準偏差」に対応します。変曲点の位置がデータのばらつきの目安になるという深い意味をもっています。
凹凸の情報は、接線とグラフの上下関係を通じて不等式の証明に利用できます。
(1) $f''(x) > 0$(下に凸)の区間では、曲線は接線の上側にある:
$$f(x) \geq f(a) + f'(a)(x-a)$$
(2) $f''(x) < 0$(上に凸)の区間では、曲線は接線の下側にある:
$$f(x) \leq f(a) + f'(a)(x-a)$$
$f(x) = e^x$ とおく。$f''(x) = e^x > 0$ なので、$f(x)$ は全区間で下に凸。
$x = 0$ における接線は $y = f(0) + f'(0)(x-0) = 1 + x$。
下に凸なので $f(x) \geq$ 接線の $y$ 座標、すなわち:
$$e^x \geq 1 + x \quad (\text{等号は } x = 0)$$
$f(x) = \log x$($x > 0$)とおく。$f''(x) = -\dfrac{1}{x^2} < 0$ なので上に凸。
$x = 1$ における接線は $y = f(1) + f'(1)(x-1) = 0 + 1 \cdot (x-1) = x - 1$。
上に凸なので $f(x) \leq$ 接線の $y$ 座標、すなわち:
$$\log x \leq x - 1 \quad (\text{等号は } x = 1)$$
「下に凸なら接線は曲線の下にある」という事実は、不等式の証明で非常に強力です。入試で $e^x$ や $\log x$ に関する不等式が出たら、凹凸と接線の関係を利用できないか検討してみましょう。
証明の流れ:(1) $f''(x)$ の符号で凹凸を確認 → (2) 適切な点での接線を求める → (3) 凹凸から不等式を導く
Q1. $f''(x) > 0$ のとき、曲線 $y = f(x)$ は上に凸か下に凸か。
Q2. 変曲点が存在するための $f''(x)$ に関する条件を述べよ。
Q3. $f(x) = x^3$ の変曲点を求めよ。
Q4. $f(x) = x^4$ で $f''(0) = 0$ だが $x = 0$ が変曲点でない理由を説明せよ。
Q5. $e^x \geq 1 + x$ を凹凸を用いて示す方法の要点を述べよ。
$f(x) = x^3 - 6x^2 + 12x - 4$ の凹凸を調べ、変曲点を求めよ。
$f'(x) = 3x^2 - 12x + 12$, $f''(x) = 6x - 12 = 6(x-2)$
$f''(x) = 0$ のとき $x = 2$。
$x < 2$ で $f''(x) < 0$(上に凸)、$x > 2$ で $f''(x) > 0$(下に凸)。
$f(2) = 8 - 24 + 24 - 4 = 4$
よって、変曲点は $(2, 4)$。
$f(x) = x + \sin x$($0 \leq x \leq 2\pi$)の凹凸と変曲点を調べよ。
$f'(x) = 1 + \cos x \geq 0$, $f''(x) = -\sin x$
$f''(x) = 0$ のとき $\sin x = 0$、すなわち $x = 0, \pi, 2\pi$。
$0 < x < \pi$ で $\sin x > 0$ より $f''(x) < 0$(上に凸)
$\pi < x < 2\pi$ で $\sin x < 0$ より $f''(x) > 0$(下に凸)
$x = \pi$ の前後で符号変化するので、変曲点は $(\pi, \pi)$。
($x = 0, 2\pi$ は区間の端点なので変曲点とはいわない。)
$x > 0$ のとき、$\log(1+x) < x$ を凹凸を利用して証明せよ。
$g(x) = \log(1+x)$ とおく($x > -1$)。$g''(x) = -\dfrac{1}{(1+x)^2} < 0$ なので上に凸。
$x = 0$ における接線は $y = g(0) + g'(0)(x-0) = 0 + 1 \cdot x = x$。
上に凸なので、$x \neq 0$ のとき $g(x) <$ 接線の $y$ 座標:
$$\log(1+x) < x \quad (x > 0)$$
上に凸な曲線は接線の下にあるという性質を利用しています。$\log(1+x) \leq x$(等号は $x = 0$)が成り立ち、$x > 0$ なら厳密な不等号 $<$ が成立します。
$f(x) = e^{-x^2}$ の変曲点における接線の方程式を求め、その接線と曲線および $x$ 軸で囲まれる部分の面積の大小を考察せよ。
本文の例題4より、変曲点は $x = \dfrac{1}{\sqrt{2}}$ で $f\!\left(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right) = e^{-1/2} = \dfrac{1}{\sqrt{e}}$。
$f'\!\left(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right) = -2 \cdot \dfrac{1}{\sqrt{2}} \cdot e^{-1/2} = -\dfrac{\sqrt{2}}{\sqrt{e}}$
接線の方程式:$y - \dfrac{1}{\sqrt{e}} = -\dfrac{\sqrt{2}}{\sqrt{e}}\left(x - \dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)$
$$y = -\dfrac{\sqrt{2}}{\sqrt{e}} x + \dfrac{2}{\sqrt{e}}$$
変曲点での接線は曲線を横切るので、接線の上下が反転します。変曲点の左側では曲線が接線の上(上に凸の領域)、右側では曲線が接線の下(下に凸の領域)にあります。したがって、接線と曲線で囲まれる部分は変曲点の左右に1つずつ存在します。
変曲点の接線は曲線を横切るという性質が、面積の考察の鍵です。この性質は凸性の切り替わりの直接的な帰結であり、変曲点の幾何学的な特徴を表しています。