ある区間での関数の平均変化率(=2点を結ぶ直線の傾き)と、区間内のどこかの瞬間変化率(=接線の傾き)が一致する点が必ず存在する──これが平均値の定理です。微分法の理論的な支柱であり、不等式の証明や極限の評価など幅広い応用をもちます。
平均値の定理を理解するための第一歩として、まずより単純なロルの定理を学びましょう。
関数 $f(x)$ が次の3条件を満たすとする:
(1) 閉区間 $[a, b]$ で連続
(2) 開区間 $(a, b)$ で微分可能
(3) $f(a) = f(b)$
このとき、$f'(c) = 0$ となる $c$ が $(a, b)$ 内に少なくとも1つ存在する。
出発点と到着点の高さが同じなら、途中のどこかで「水平」になる瞬間がある──これがロルの定理の主張です。
山道で同じ標高の地点を出発して同じ標高に戻るなら、途中のどこかに山頂(傾き0)か谷底(傾き0)があるはずです。
✕ 誤:微分可能なら常にロルの定理が使える
○ 正:連続性・微分可能性・端点条件の3つがすべて揃って初めて使える
例:$f(x) = |x|$ は $[-1, 1]$ で連続、$f(-1) = f(1) = 1$ だが、$x = 0$ で微分不可能。実際 $f'(x) \neq 0$($x \neq 0$)なので、$f'(c) = 0$ となる $c$ は存在しない。
関数 $f(x)$ が次の2条件を満たすとする:
(1) 閉区間 $[a, b]$ で連続
(2) 開区間 $(a, b)$ で微分可能
このとき、次を満たす $c$ が $(a, b)$ 内に少なくとも1つ存在する:
$$f'(c) = \frac{f(b) - f(a)}{b - a}$$
右辺 $\dfrac{f(b) - f(a)}{b - a}$ は2点 $(a, f(a))$ と $(b, f(b))$ を結ぶ割線の傾き(平均変化率)です。
左辺 $f'(c)$ は点 $(c, f(c))$ における接線の傾き(瞬間変化率)です。
つまり、「割線に平行な接線が、必ず区間内のどこかに引ける」ということです。
$[1, 3]$ で考えると、平均変化率は $\dfrac{f(3) - f(1)}{3 - 1} = \dfrac{9 - 1}{2} = 4$
$f'(c) = 2c = 4$ より $c = 2$。確かに $c = 2 \in (1, 3)$ が存在します。
幾何学的には、$(1,1)$ と $(3,9)$ を結ぶ直線の傾き $4$ に等しい接線の傾きをもつ点が $x = 2$(区間の中点)にあるということです。
✕ 誤:$f'(c)$ が平均変化率に等しくなるのは常に区間の中点
○ 正:$c$ の位置は関数の形状に依存し、中点になるのは特殊な場合のみ
$f(x) = x^2$ のような2次関数では中点になりますが、一般にはそうなりません。
平均値の定理はロルの定理から導けます。巧みな補助関数の導入がポイントです。
$g(x) = f(x) - \dfrac{f(b) - f(a)}{b - a}(x - a)$ とおく。
$g(a) = f(a) - 0 = f(a)$
$g(b) = f(b) - \dfrac{f(b) - f(a)}{b - a}(b-a) = f(b) - (f(b) - f(a)) = f(a)$
よって $g(a) = g(b)$ が成り立つ。
$g(x)$ は $[a,b]$ で連続、$(a,b)$ で微分可能なので、ロルの定理より $g'(c) = 0$ となる $c \in (a,b)$ が存在する。
$g'(x) = f'(x) - \dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$ なので:
$$g'(c) = f'(c) - \frac{f(b)-f(a)}{b-a} = 0$$
$$\therefore\; f'(c) = \frac{f(b)-f(a)}{b-a}$$
割線 $\ell$ を引いて、関数 $f(x)$ と割線 $\ell$ の差 $g(x) = f(x) - \ell(x)$ を考える。$g(a) = g(b)$ となるので、ロルの定理が適用でき、$g'(c) = 0$ すなわち $f'(c) = \ell$ の傾き。
「ロルの定理に帰着させるために補助関数を作る」というテクニックは、他の定理の証明でも頻出します。
平均値の定理を2つの関数に拡張したものがコーシーの平均値の定理です:$f, g$ が $[a,b]$ で連続、$(a,b)$ で微分可能で $g'(x) \neq 0$ のとき、$\dfrac{f'(c)}{g'(c)} = \dfrac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}$ を満たす $c \in (a,b)$ が存在します。ロピタルの定理の証明に使われる重要な定理です。
平均値の定理の最も代表的な応用が不等式の証明です。$f'(c)$ の値を上下から評価することで、$f(b) - f(a)$ の範囲を得ます。
$f'(c) = \dfrac{f(b) - f(a)}{b - a}$ の両辺に $(b - a)$ をかけると:
$$f(b) - f(a) = f'(c)(b - a)$$
$(a, b)$ で $m \leq f'(x) \leq M$ ならば:
$$m(b-a) \leq f(b) - f(a) \leq M(b-a)$$
$f(x) = \sqrt{x}$ とおく。$f'(x) = \dfrac{1}{2\sqrt{x}}$。
$[n, n+1]$ で平均値の定理を適用すると、ある $c \in (n, n+1)$ が存在して:
$$\sqrt{n+1} - \sqrt{n} = f'(c) \cdot 1 = \frac{1}{2\sqrt{c}}$$
$n < c < n+1$ なので $\sqrt{n} < \sqrt{c} < \sqrt{n+1}$、よって:
$$\frac{1}{2\sqrt{n+1}} < \frac{1}{2\sqrt{c}} < \frac{1}{2\sqrt{n}}$$
$$\therefore\; \frac{1}{2\sqrt{n+1}} < \sqrt{n+1} - \sqrt{n} < \frac{1}{2\sqrt{n}}$$
$f(x) = \log x$ とおく。$f'(x) = \dfrac{1}{x}$。
$[b, a]$ で平均値の定理を適用:ある $c \in (b, a)$ が存在して
$$\log a - \log b = \frac{1}{c}(a - b)$$
$b < c < a$ なので $\dfrac{1}{a} < \dfrac{1}{c} < \dfrac{1}{b}$
$$\frac{a-b}{a} < \frac{a-b}{c} < \frac{a-b}{b}$$
$$\therefore\; \frac{a-b}{a} < \log\frac{a}{b} < \frac{a-b}{b}$$
✕ 誤:$f'(x)$ が増加なら $f'(a) < f'(c) < f'(b)$ とすぐに結論
○ 正:$c \in (a, b)$ なので、$f'$ の単調性と $a < c < b$ から不等式を導く
$f'$ が減少関数の場合は不等号の向きが逆転します。$f'$ の単調性を正しく把握してから評価しましょう。
平均値の定理は、関数の差 $f(x+h) - f(x)$ を $f'$ で表現できるため、極限の評価にも使えます。
$f(x) = a^x$ とおくと、$n\left(\sqrt[n]{a} - 1\right) = n\left(a^{1/n} - a^0\right) = \dfrac{f(1/n) - f(0)}{1/n}$
これは $[0, 1/n]$ における $f$ の平均変化率です。
平均値の定理より、ある $c_n \in (0, 1/n)$ が存在して:
$$\frac{f(1/n) - f(0)}{1/n} = f'(c_n) = a^{c_n} \log a$$
$n \to \infty$ のとき $0 < c_n < 1/n \to 0$ なので、はさみうちの原理より $c_n \to 0$。
$f'(c_n) = a^{c_n} \log a \to a^0 \log a = \log a$
$f(x) = \sin x$ に平均値の定理を適用すると:
$$|\sin b - \sin a| = |\cos c| \cdot |b - a| \leq |b - a|$$
これは任意の $a, b$ に対して成り立ちます。つまり $\sin$ はリプシッツ連続(Lipschitz定数 $1$)です。
平均値の定理を「1次近似の正確さの保証」と見ると、$n$ 次近似の正確さを保証するのがテイラーの定理です。テイラーの定理は平均値の定理の自然な一般化であり、剰余項の評価に平均値の定理と同じアイデアが使われています。
✕ 誤:平均値の定理を使うには $c$ の値を具体的に求めなければならない
○ 正:$c$ の存在を利用して $f'(c)$ を評価すれば十分。$c$ の具体的な値は不要
定理の力は「$c$ が存在する」という事実にあり、$c$ がどこにあるかを特定する必要はありません。$c \in (a, b)$ であることを使って $f'(c)$ の範囲を絞るのが典型的な使い方です。
Q1. 平均値の定理を適用するために必要な2つの条件を述べよ。
Q2. ロルの定理は平均値の定理のどのような特殊ケースか。
Q3. $f(x) = x^3$ に $[0, 1]$ で平均値の定理を適用し、$c$ の値を求めよ。
Q4. 平均値の定理を使って $e^x \geq 1 + x$ を示す方針を述べよ。
Q5. 平均値の定理の $c$ は一般に一意に定まるか。
$f(x) = \log x$ に区間 $[1, e]$ で平均値の定理を適用し、$c$ の値を求めよ。
$f'(c) = \dfrac{1}{c} = \dfrac{\log e - \log 1}{e - 1} = \dfrac{1}{e-1}$
$c = e - 1 \approx 1.718$
$1 < e - 1 < e$ なので確かに $c \in (1, e)$。
$0 < a < b$ のとき、$\dfrac{b-a}{b} \leq \log b - \log a \leq \dfrac{b-a}{a}$ を平均値の定理を用いて証明せよ。
$f(x) = \log x$ に区間 $[a, b]$ で平均値の定理を適用すると、ある $c \in (a, b)$ が存在して:
$$\log b - \log a = \frac{1}{c}(b - a)$$
$a < c < b$ より $\dfrac{1}{b} < \dfrac{1}{c} < \dfrac{1}{a}$
各辺に $b - a > 0$ をかけて:
$$\frac{b-a}{b} < \frac{b-a}{c} < \frac{b-a}{a}$$
$$\therefore\; \frac{b-a}{b} < \log b - \log a < \frac{b-a}{a}$$
平均値の定理を用いて $0 < \cos a - \cos b < b - a$($0 < a < b < \dfrac{\pi}{2}$)を証明せよ。
$f(x) = \cos x$ に $[a, b]$ で平均値の定理を適用すると、ある $c \in (a, b)$ が存在して:
$$\cos b - \cos a = -\sin c \cdot (b - a)$$
$0 < a < c < b < \dfrac{\pi}{2}$ で $0 < \sin c < 1$ より:
$$-(b-a) < \cos b - \cos a < 0$$
すなわち $0 < \cos a - \cos b < b - a$。
$a > 0$ のとき、$\displaystyle\lim_{n \to \infty} n\left(\sqrt[n]{a} - 1\right)$ を平均値の定理を用いて求めよ。
$f(x) = a^x$ とおく。$n(\sqrt[n]{a} - 1) = n(a^{1/n} - 1) = \dfrac{f(1/n) - f(0)}{1/n}$
$[0, 1/n]$ で平均値の定理より、ある $c_n \in (0, 1/n)$ が存在して:
$$\frac{f(1/n) - f(0)}{1/n} = f'(c_n) = a^{c_n} \log a$$
$n \to \infty$ のとき $c_n \to 0$(はさみうちの原理)なので:
$$\lim_{n \to \infty} a^{c_n} \log a = a^0 \log a = \log a$$
差分商 $\dfrac{f(1/n) - f(0)}{1/n}$ は微分の定義式に似た形です。平均値の定理を使うことで $f'(c_n)$ に変換し、$c_n \to 0$ を利用して極限を求めています。$f'(0) = \log a$ に収束するのは自然です。