「底が変数で指数も変数」の関数 $x^x$ をどう微分するか。積・商・累乗が複雑に絡み合った関数の微分をどう処理するか。これらの問題を一気に解決する強力な手法が対数微分法です。対数の性質を活用して「積を和に、商を差に、累乗をかけ算に」変換することで、複雑な微分計算を驚くほどシンプルにします。
前回までに学んだ微分公式では、次のような関数を直接微分することができません。
$y = x^x$ を考えてみましょう。$(x^n)' = nx^{n-1}$ は指数 $n$ が定数のときの公式です。$(a^x)' = a^x \ln a$ は底 $a$ が定数のときの公式です。$x^x$ は底も指数も $x$ なので、どちらの公式も直接は使えません。
ここで登場するのが対数微分法です。対数には次の便利な性質があります。
積 → 和:$\ln(AB) = \ln A + \ln B$
商 → 差:$\ln\frac{A}{B} = \ln A - \ln B$
累乗 → かけ算:$\ln A^n = n\ln A$
※ これらの性質により、複雑な積・商・累乗が、和・差・かけ算というシンプルな演算に変換されます。
対数を取ると、演算のレベルが1段階下がります。積は和に、累乗はかけ算になります。微分するのが大変な積・商・累乗を、微分しやすい和・差・定数倍に変換する。これが対数微分法の本質的なアイデアです。
特に、$y = x^x$ のように「累乗」の形をしている関数は、対数を取ることで $\ln y = x\ln x$ という「かけ算」に降格し、積の微分法で処理できるようになります。
対数微分法は、次の3ステップで実行します。
Step 1. 両辺の(絶対値の)自然対数を取る:$\ln|y| = \cdots$
Step 2. 対数の性質で右辺を展開・整理する
Step 3. 両辺を $x$ で微分する(左辺は $\frac{y'}{y}$ になる)
Step 4. 両辺に $y$ を掛けて $y'$ を求める
※ 左辺の微分 $(\ln|y|)' = \frac{y'}{y}$ は、$\ln g(x)$ の微分が $\frac{g'(x)}{g(x)}$ になることの応用です。
ポイントは、Step 3 で左辺を微分するとき、$y$ は $x$ の関数なので合成関数の微分法(チェーンルール)が働き、$\frac{y'}{y}$ という形になることです。
$y = f(x)$ のとき、$\ln y$ を $x$ で微分すると:
$$\frac{d}{dx}\ln y = \frac{1}{y} \cdot \frac{dy}{dx} = \frac{y'}{y}$$
この $\frac{y'}{y}$ を対数微分と呼びます。$\frac{y'}{y}$ は「$y$ の変化率を $y$ 自身で割ったもの」であり、「割合としての変化率」を表しています。
✗ 誤:$\ln y$ を微分して $\frac{1}{y}$ としてしまう($y'$ を忘れる)
○ 正:$\frac{d}{dx}(\ln y) = \frac{1}{y} \cdot y' = \frac{y'}{y}$($y$ は $x$ の関数なのでチェーンルールが必要)
$y$ を $y$ で微分するなら $\frac{1}{y}$ ですが、$x$ で微分するので $y' = \frac{dy}{dx}$ が掛かります。
$\frac{y'}{y} = \frac{d}{dx}(\ln y)$ は、経済学や物理学で相対変化率(relative rate of change)と呼ばれます。例えば、$y$ が国のGDPを表すとき、$\frac{y'}{y}$ はGDP成長率に相当します。対数微分法は、このような「割合」を扱う場面でも自然に登場する手法です。
対数微分法の最も典型的な応用が、$y = x^x$($x > 0$)の微分です。
Step 1. 両辺の自然対数を取る:
$$\ln y = \ln(x^x) = x\ln x$$
Step 2. 両辺を $x$ で微分する:
$$\frac{y'}{y} = (x)'\ln x + x(\ln x)' = \ln x + x \cdot \frac{1}{x} = \ln x + 1$$
Step 3. 両辺に $y = x^x$ を掛ける:
$$y' = x^x(\ln x + 1)$$
検算しましょう。$x = 1$ のとき $y = 1^1 = 1$、$y' = 1^1(\ln 1 + 1) = 1 \cdot 1 = 1$ です。$x = 1$ の近くで $x^x$ のグラフの傾きが $1$ であるか数値的にも確認できます。
✗ 誤:$(x^x)' = x \cdot x^{x-1} = x^x$(べき関数の公式を誤用)
○ 正:$(x^x)' = x^x(\ln x + 1)$(対数微分法を使う)
$(x^n)' = nx^{n-1}$ は $n$ が定数のときだけ使える公式です。$x^x$ は指数が $x$ なので、この公式は適用できません。同様に $(a^x)' = a^x\ln a$ も $a$ が定数のときだけの公式です。底も指数も変数のときは対数微分法が必要です。
✗ 誤:$y = x^x$ を $y = e^{x\ln x}$ と書き換えてから $(e^u)' = e^u$ だけ使い、$y' = x^x$ とする
○ 正:$y = e^{x\ln x}$ なので $y' = e^{x\ln x} \cdot (x\ln x)' = x^x(\ln x + 1)$。内側の $x\ln x$ の微分を忘れないこと
対数微分法を使わず、直接 $e$ の指数に書き換えて微分する方法もあります。
$x^x = e^{x\ln x}$ なので:
$$y' = e^{x\ln x} \cdot (x\ln x)' = x^x \cdot (\ln x + 1)$$
結果は対数微分法と同じです。どちらの方法でもよいですが、対数微分法の方が手順が統一的で応用範囲が広いです。
$x^x$ のアイデアを一般化しましょう。$y = f(x)^{g(x)}$($f(x) > 0$)のように、底も指数も $x$ の関数である場合の微分です。
$y = f(x)^{g(x)}$($f(x) > 0$)のとき:
$$y' = f(x)^{g(x)}\left\{g'(x)\ln f(x) + g(x) \cdot \frac{f'(x)}{f(x)}\right\}$$
※ この公式を暗記する必要はありません。毎回、対数を取って微分する手順を実行しましょう。
$\ln y = g(x)\ln f(x)$ の両辺を $x$ で微分する。右辺は積の微分法で:
$$\frac{y'}{y} = g'(x)\ln f(x) + g(x) \cdot \frac{f'(x)}{f(x)}$$
両辺に $y = f(x)^{g(x)}$ を掛けて:
$$y' = f(x)^{g(x)}\left\{g'(x)\ln f(x) + g(x) \cdot \frac{f'(x)}{f(x)}\right\}$$
$\ln y = x\ln(\sin x)$ の両辺を微分します。
$$\frac{y'}{y} = \ln(\sin x) + x \cdot \frac{\cos x}{\sin x} = \ln(\sin x) + \frac{x\cos x}{\sin x}$$
$$y' = (\sin x)^x\left(\ln(\sin x) + \frac{x\cos x}{\sin x}\right)$$
$\ln y = \sin x \cdot \ln x$ の両辺を微分します。
$$\frac{y'}{y} = \cos x \cdot \ln x + \sin x \cdot \frac{1}{x} = \cos x \ln x + \frac{\sin x}{x}$$
$$y' = x^{\sin x}\left(\cos x \ln x + \frac{\sin x}{x}\right)$$
$f(x)^{g(x)}$ の微分公式を暗記する必要はありません。対数微分法の手順さえ覚えていれば、毎回同じプロセスで確実に答えを出せます。
(1) 対数を取る → (2) 対数の性質で展開 → (3) 両辺を微分 → (4) $y$ を掛ける
この手順は、$x^x$ でも $(\sin x)^x$ でも $x^{\sin x}$ でも全く同じです。
数学IIでは $n$ が正の整数のとき $(x^n)' = nx^{n-1}$ を学び、数学IIIでは $n$ が有理数のときに拡張しました。実は、対数微分法を使えば $n$ が任意の実数のときにも $(x^n)' = nx^{n-1}$($x > 0$)が示せます。
$\ln y = n\ln x$ の両辺を微分すると $\frac{y'}{y} = \frac{n}{x}$、よって $y' = y \cdot \frac{n}{x} = x^n \cdot \frac{n}{x} = nx^{n-1}$。
対数微分法は、$f(x)^{g(x)}$ 型だけでなく、多くの因子の積・商で表された関数の微分にも威力を発揮します。
$y = \sqrt[3]{\dfrac{2x+1}{x^2(x-2)^2}}$ を微分してみましょう。
両辺の絶対値の自然対数を取ると:
$$\ln|y| = \frac{1}{3}\left\{\ln|2x+1| - 2\ln|x| - 2\ln|x-2|\right\}$$
両辺を $x$ で微分:
$$\frac{y'}{y} = \frac{1}{3}\left(\frac{2}{2x+1} - \frac{2}{x} - \frac{2}{x-2}\right)$$
$$y' = y \cdot \frac{1}{3}\left(\frac{2}{2x+1} - \frac{2}{x} - \frac{2}{x-2}\right)$$
$$= \frac{2}{3}\sqrt[3]{\frac{2x+1}{x^2(x-2)^2}}\left(\frac{1}{2x+1} - \frac{1}{x} - \frac{1}{x-2}\right)$$
もしこれを直接、商の微分法と合成関数の微分法で計算しようとすると、分子の展開と整理がとても煩雑になります。対数を取ることで、積→和、商→差、累乗→定数倍に変換され、各項を独立に微分できるのです。
1. $f(x)^{g(x)}$ 型 ─ 底も指数も変数のとき($x^x$, $(\sin x)^x$ など)
2. 多数の因子の積・商 ─ $\frac{f_1 \cdot f_2 \cdots}{g_1 \cdot g_2 \cdots}$ の形
3. 累乗根を含む複雑な式 ─ $\sqrt[n]{f(x)}$ が入り組んだ式
※ 判断基準:「積・商・累乗のみで表された関数」は対数微分法が有効です。
✗ 誤:$y$ が負になりうるのに $\ln y$ と書く
○ 正:$y$ の値が負になりうる場合は $\ln|y|$ と書く
ただし、$(\ln|y|)' = \frac{y'}{y}$ の結果は $y > 0$ のときも $y < 0$ のときも同じです。最終的に $y'$ を求めるときに $y$ を元の関数で置き換えるので、実用上は $\ln|y|$ と $\ln y$ のどちらで計算しても結果は変わりません。
前回の記事で紹介した $(a^x)' = a^x \ln a$ も、対数微分法で簡潔に証明できます。
$y = a^x$ ($a > 0$, $a \neq 1$) とおく。
$\ln y = x\ln a$ の両辺を $x$ で微分すると:
$\frac{y'}{y} = \ln a$ ($\ln a$ は定数)
$y' = y\ln a = a^x\ln a$
✗ 誤:$y = a^x$ に対して $\ln y = x\ln a$ とした後、右辺を $\ln a + \frac{x}{a}$ のように微分する($a$ を変数扱い)
○ 正:$a$ は定数なので $\ln a$ も定数。$(x\ln a)' = \ln a$。$a$ を変数として微分するのは $x^x$ 型のとき
2つの関数の積 $y = f(x)g(x)$ に対数微分法を適用すると:
$\ln|y| = \ln|f| + \ln|g|$ → $\frac{y'}{y} = \frac{f'}{f} + \frac{g'}{g}$ → $y' = y\left(\frac{f'}{f} + \frac{g'}{g}\right) = f'g + fg'$
これは通常の積の微分法そのものです。つまり対数微分法は積の微分法の一般化であり、3つ以上の因子の積 $y = f \cdot g \cdot h$ にも自然に拡張できます。
Q1. 対数微分法で $\ln y$ を $x$ で微分すると、左辺はどうなるか。
Q2. $y = x^x$ ($x > 0$) を対数微分法で微分した結果を述べよ。
Q3. 対数微分法が特に有効な関数の形を2つ挙げよ。
Q4. $y = x^x$ の微分で、$(x^n)' = nx^{n-1}$ を適用してはいけない理由を述べよ。
Q5. $\ln(AB) = \ln A + \ln B$ という性質が対数微分法で果たす役割を説明せよ。
対数微分法を用いて、次の関数を微分せよ。
(1) $y = x^x$ ($x > 0$)
$\ln y = x\ln x$ の両辺を $x$ で微分すると:
$\frac{y'}{y} = \ln x + x \cdot \frac{1}{x} = \ln x + 1$
よって $y' = x^x(\ln x + 1)$
対数微分法を用いて、次の関数を微分せよ。
(1) $y = x^{1/x}$ ($x > 0$)
(2) $y = (\ln x)^x$ ($x > 0$, $x \neq 1$)
(1) $\ln y = \frac{1}{x}\ln x = \frac{\ln x}{x}$ の両辺を微分する。
$\frac{y'}{y} = \frac{\frac{1}{x} \cdot x - \ln x \cdot 1}{x^2} = \frac{1 - \ln x}{x^2}$
$y' = x^{1/x} \cdot \frac{1 - \ln x}{x^2}$
(2) $\ln y = x\ln(\ln x)$ の両辺を微分する。
$\frac{y'}{y} = \ln(\ln x) + x \cdot \frac{1}{\ln x} \cdot \frac{1}{x} = \ln(\ln x) + \frac{1}{\ln x}$
$y' = (\ln x)^x\left(\ln(\ln x) + \frac{1}{\ln x}\right)$
(1) は $x^{1/x}$ の最大値を求める問題に発展します。$y' = 0$ のとき $\ln x = 1$、つまり $x = e$ で最大値 $e^{1/e}$ を取ります。
対数微分法を用いて、次の関数を微分せよ。
$$y = \frac{(x+1)^3(x+2)^2}{(x+3)^4}$$
$\ln|y| = 3\ln|x+1| + 2\ln|x+2| - 4\ln|x+3|$
両辺を $x$ で微分:
$\frac{y'}{y} = \frac{3}{x+1} + \frac{2}{x+2} - \frac{4}{x+3}$
通分すると:
$= \frac{3(x+2)(x+3) + 2(x+1)(x+3) - 4(x+1)(x+2)}{(x+1)(x+2)(x+3)}$
分子を展開:$3(x^2+5x+6) + 2(x^2+4x+3) - 4(x^2+3x+2)$
$= 3x^2+15x+18 + 2x^2+8x+6 - 4x^2 - 12x - 8 = x^2 + 11x + 16$
$$y' = \frac{(x+1)^3(x+2)^2}{(x+3)^4} \cdot \frac{x^2 + 11x + 16}{(x+1)(x+2)(x+3)}$$
$$= \frac{(x+1)^2(x+2)(x^2+11x+16)}{(x+3)^5}$$
商の微分法で直接計算すると、分子が$(x+1)^3(x+2)^2$ と $(x+3)^4$ の積の微分法で非常に煩雑になります。対数微分法なら、対数を取った後は各項を独立に微分できるので、計算の見通しがよくなります。
$f(x) = x^{1/x}$ ($x > 0$) について:
(1) $f'(x)$ を求めよ。
(2) $f(x)$ の最大値とそのときの $x$ の値を求めよ。
(3) $e^\pi$ と $\pi^e$ の大小を比較せよ。
(1) $y = x^{1/x}$ とおく。$\ln y = \frac{\ln x}{x}$ の両辺を微分:
$\frac{y'}{y} = \frac{1 - \ln x}{x^2}$
$$f'(x) = x^{1/x} \cdot \frac{1 - \ln x}{x^2}$$
(2) $f'(x) = 0$ のとき $1 - \ln x = 0$、すなわち $x = e$。
$x < e$ のとき $\ln x < 1$ なので $f'(x) > 0$(増加)
$x > e$ のとき $\ln x > 1$ なので $f'(x) < 0$(減少)
よって $x = e$ で最大値 $f(e) = e^{1/e}$
(3) (2) より、$x > 0$ において $f(x) = x^{1/x}$ は $x = e$ で最大。
$\pi \neq e$ なので $f(\pi) < f(e)$、すなわち $\pi^{1/\pi} < e^{1/e}$
両辺を $e\pi$ 乗すると $\pi^e < e^\pi$
$$\therefore\ e^\pi > \pi^e$$
(3) は有名な大小比較の問題です。対数微分法で $x^{1/x}$ の増減を調べることで、$e$ と $\pi$ のような異なる値を比較できます。$(e^{1/e})$ が最大であるという結果から、$e^\pi > \pi^e$ が導かれます。東京大学などで出題されたことがある古典的良問です。