数学Iで学んだ $y = \frac{k}{x}$(反比例)を覚えていますか。分数関数は、この反比例を一般化した関数です。分母に $x$ を含むことで生まれる「近づけるけど到達できない線」──漸近線──が、分数関数のグラフの最大の特徴です。ここでは、分数関数のグラフを自在に描くための原理を学びます。
$f(x)$ が $x$ の分数式で表されるとき、関数 $y = f(x)$ を分数関数といいます。最も基本的な分数関数は、中学校で学んだ反比例 $y = \frac{k}{x}$($k \neq 0$)です。
数学IIIでは、これをさらに一般化した形を扱います。具体的には次の2つの段階があります。
一般形は一見複雑に見えますが、実は必ず基本形に変形できます。この「変形のテクニック」を身につけることが、分数関数のグラフを描くカギになります。
分数関数では、分母が $0$ になる $x$ の値は定義域から除かれます。これは「$0$ で割る」ことが数学的に意味を持たないからです。$y = \frac{1}{x}$ の定義域は $x \neq 0$、つまり $x$ はすべての実数から $0$ を除いたものです。
この「除かれる点」こそが、グラフに漸近線を生み出す原因です。
✕ 誤:$y = \frac{2x + 4}{x + 2}$ は分数関数のグラフ(双曲線)になる
○ 正:$\frac{2x + 4}{x + 2} = \frac{2(x + 2)}{x + 2} = 2$($x \neq -2$)なので、これは $y = 2$ という定数関数($x = -2$ に穴がある)
$ad - bc = 0$ のとき分子と分母が比例関係にあり、約分すると定数関数になります。双曲線にはなりません。
まず、すべての分数関数の土台となる $y = \frac{k}{x}$ のグラフをしっかり理解しましょう。
$y = \frac{k}{x}$($k > 0$)のグラフは、第1象限と第3象限に1つずつの曲線を描きます。$x > 0$ では $x$ が大きくなるほど $y$ は $0$ に近づき、$x$ が $0$ に近づくほど $y$ は限りなく大きくなります。
$y = \frac{k}{x}$($k < 0$)のグラフは、第2象限と第4象限に1つずつの曲線を描きます。$k > 0$ のグラフを $x$ 軸(または $y$ 軸)に関して対称移動したものです。
定義域:$x \neq 0$($0$ 以外のすべての実数)
値域:$y \neq 0$($0$ 以外のすべての実数)
漸近線:$x$ 軸($y = 0$)と $y$ 軸($x = 0$)
対称性:原点に関して対称(奇関数:$f(-x) = -f(x)$)
このグラフは双曲線と呼ばれます。双曲線は「2つに分かれた曲線」という意味で、$y$ 軸の左右に1本ずつ、合計2本の曲線から構成されています。
$y = \frac{k}{x}$ で $x$ をどんなに大きくしても、$y = \frac{k}{x} \neq 0$ です。$k \neq 0$ である限り、分子が $0$ でないので商も $0$ にはなりません。これが「$x$ 軸に限りなく近づくが到達しない」理由です。
同様に、$xy = k$($k \neq 0$)から、$x = 0$ のとき $y$ が定まらないので、グラフは $y$ 軸にも到達しません。
双曲線は、楕円・放物線とともに円錐曲線と呼ばれる曲線群の一員です。円錐を平面で切ったときの断面として現れることからこの名前がつきました。大学数学では、$xy = k$ を $45°$ 回転させた $\frac{X^2}{a^2} - \frac{Y^2}{b^2} = 1$ という標準形で扱います。
一般の分数関数 $y = \frac{ax + b}{cx + d}$ のグラフを描くには、この式を基本形 $y = \frac{k}{x - p} + q$ に変形します。なぜこの形にするのでしょうか。
理由は明快です。$y = \frac{k}{x - p} + q$ は、$y = \frac{k}{x}$ のグラフを $x$ 軸方向に $p$、$y$ 軸方向に $q$ だけ平行移動したものだからです。つまり、基本形さえ描ければ、あとは「ずらすだけ」でグラフが完成します。
$y = \frac{ax + b}{cx + d}$ を変形します。分子を分母で割る(多項式の割り算)のがポイントです。
$ax + b$ を $cx + d$ で割ると、商は $\frac{a}{c}$、余りは $b - \frac{ad}{c} = \frac{bc - ad}{c}$ です。したがって、
$$y = \frac{ax + b}{cx + d} = \frac{a}{c} + \frac{bc - ad}{c} \cdot \frac{1}{cx + d}$$
ここで $cx + d = c\left(x + \frac{d}{c}\right)$ なので、
$$y = \frac{a}{c} + \frac{bc - ad}{c^2} \cdot \frac{1}{x + \frac{d}{c}} = \frac{\frac{bc-ad}{c^2}}{x - \left(-\frac{d}{c}\right)} + \frac{a}{c}$$
よって $k = \frac{bc - ad}{c^2}$, $p = -\frac{d}{c}$, $q = \frac{a}{c}$ とおけば、$y = \frac{k}{x - p} + q$ の形になります。
具体例で確認しましょう。$y = \frac{2x + 3}{x + 1}$ を変形します。
分子 $2x + 3$ を分母 $x + 1$ で割ると、$2x + 3 = 2(x + 1) + 1$ なので、
$$y = \frac{2(x + 1) + 1}{x + 1} = 2 + \frac{1}{x + 1} = \frac{1}{x - (-1)} + 2$$
したがって、このグラフは $y = \frac{1}{x}$ を $x$ 軸方向に $-1$、$y$ 軸方向に $2$ だけ平行移動したものです。
✕ 誤:$\frac{2x + 3}{x + 1}$ を見て「分子 $\div$ 分母 $= 2$ あまり $3$」とする
○ 正:$2x + 3 = 2(x + 1) + 1$ なので、あまりは $1$
余りは「分子 $-$ 商 $\times$ 分母」で求めます。$2x + 3 - 2(x+1) = 2x + 3 - 2x - 2 = 1$ です。定数項だけを見て余りを決めないようにしましょう。
$y = \frac{ax + b}{cx + d}$($c \neq 0$, $ad - bc \neq 0$)は次の形に変形できる:
$$y = \frac{k}{x - p} + q \quad \left(k = \frac{bc - ad}{c^2},\; p = -\frac{d}{c},\; q = \frac{a}{c}\right)$$$y = \frac{ax + b}{cx + d}$ の形の変換は、大学数学ではメビウス変換(一次分数変換)と呼ばれます。複素数平面上での幾何学的変換として非常に重要な役割を果たし、円を円に(直線は半径無限大の円と見なして)写すという美しい性質を持ちます。
分数関数のグラフを特徴づける最も重要な要素が漸近線です。漸近線とは、曲線が限りなく近づくが決して交わらない(または到達しない)直線のことです。
$y = \frac{k}{x - p} + q$ のグラフには、次の2本の漸近線があります。
$y = \frac{k}{x - p} + q$ の漸近線:
垂直漸近線(たて):$x = p$ (分母 $= 0$ となる $x$ の値)
水平漸近線(よこ):$y = q$ ($x \to \pm\infty$ のときの $y$ の極限値)
垂直漸近線 $x = p$:$x \to p$ のとき、分母 $x - p \to 0$ なので $\frac{k}{x-p} \to \pm\infty$ です。$y$ の値が限りなく大きく(または小さく)なるため、グラフは直線 $x = p$ に沿って上下に伸びていきます。
水平漸近線 $y = q$:$x \to \pm\infty$ のとき、$\frac{k}{x-p} \to 0$ なので $y \to q$ です。$y$ の値が限りなく $q$ に近づくため、グラフは直線 $y = q$ に沿って左右に伸びていきます。
2本の漸近線の交点 $(p, q)$ は、$y = \frac{k}{x}$ における原点 $(0, 0)$ に対応する点です。$y = \frac{k}{x}$ が原点に関して点対称であったように、$y = \frac{k}{x-p} + q$ は点 $(p, q)$ に関して点対称です。
つまり、漸近線の交点を見つけることが、グラフの全体像を把握する最大のポイントです。
$y = \frac{k}{x-p} + q$ の形の分数関数では、グラフは漸近線と交わりません。しかし、分子の次数が分母の次数以上の分数関数(例:$y = \frac{x^2}{x-1}$)では、斜めの漸近線とグラフが交わることがあります。
「漸近線=交わらない線」と覚えるのではなく、「限りなく近づく線」と理解しましょう。
基本形に変形しなくても、漸近線は直接求められます。
「限りなく近づく」という表現は、この後の第2章で学ぶ極限の概念で厳密に定義されます。$\lim_{x \to \infty} \frac{k}{x-p} = 0$ という極限の計算が、水平漸近線 $y = q$ の根拠を与えます。分数関数は、極限の考え方を視覚的に理解するための格好の教材です。
分数関数のグラフを正確に描く手順をまとめましょう。
具体例として $y = \frac{3x - 1}{x - 2}$ のグラフを描いてみましょう。
Step 1:基本形に変形します。$3x - 1 = 3(x - 2) + 5$ より、
$$y = \frac{3(x-2) + 5}{x - 2} = 3 + \frac{5}{x - 2} = \frac{5}{x - 2} + 3$$
Step 2:漸近線は $x = 2$(垂直)と $y = 3$(水平)です。
Step 3:$k = 5 > 0$ なので、漸近線の右上と左下に曲線があります。
Step 4:$x = 0$ のとき $y = \frac{-1}{-2} = \frac{1}{2}$、$y = 0$ のとき $x = \frac{1}{3}$ です。これらの点を打って曲線を描きます。
✕ 誤:$k > 0$ だから「第1象限と第3象限」にある
○ 正:$k > 0$ だから「漸近線の交点 $(p, q)$ の右上と左下」にある
漸近線の交点が原点でない場合、「第何象限」という表現は使えません。あくまでも漸近線の交点を基準に考えましょう。
$y = \frac{k}{x-p} + q$ の定義域と値域は次のようになります。
定義域:$x \neq p$ であるすべての実数
値域:$y \neq q$ であるすべての実数
漸近線やグラフ上の点の情報から、分数関数の式を決定する問題もよく出題されます。漸近線が $x = p$, $y = q$ とわかっていれば $y = \frac{k}{x-p} + q$ の形が決まり、あとは1つの点を代入して $k$ を求めるだけです。
$y = \frac{k}{x-p} + q$ と直線 $y = mx + n$ の共有点を求めるとき、連立方程式を解いて得られた $x$ の値が $x = p$ でないことを必ず確認しましょう。
$x = p$ は分数関数の定義域に含まれないため、この値は共有点になりません。特に、直線が漸近線 $x = p$ に平行でない場合でも、代数的に $x = p$ が出てくることがあるので注意が必要です。
分数関数のグラフは、すべて $y = \frac{k}{x}$ の平行移動で描けます。どんな複雑な分数関数でも、基本形に変形すれば「$k$ の符号」と「漸近線の交点」だけでグラフの概形がわかります。
これは2次関数で「$y = ax^2$ を平行移動して $y = a(x-p)^2 + q$ を描く」のとまったく同じ発想です。
Q1. $y = \frac{3}{x}$ のグラフの漸近線をすべて答えなさい。
Q2. $y = \frac{2x + 1}{x - 3}$ を $y = \frac{k}{x-p} + q$ の形に変形しなさい。
Q3. $y = \frac{-4}{x + 2} + 1$ の漸近線と、グラフが存在する象限(漸近線基準)を答えなさい。
Q4. $y = \frac{x + 5}{x + 1}$ の定義域と値域を求めなさい。
Q5. 漸近線が $x = 1$, $y = -2$ で、点 $(3, 0)$ を通る分数関数を求めなさい。
$y = \frac{3x + 5}{x + 2}$ のグラフの漸近線を求め、グラフの概形を描け。また、定義域と値域を求めよ。
$3x + 5 = 3(x + 2) - 1$ より、$y = 3 - \frac{1}{x + 2} = \frac{-1}{x - (-2)} + 3$
漸近線:$x = -2$, $y = 3$
$k = -1 < 0$ より、漸近線の交点 $(-2, 3)$ の左上と右下に曲線がある。
$y$ 切片:$x = 0$ のとき $y = \frac{5}{2}$。$x$ 切片:$y = 0$ のとき $x = -\frac{5}{3}$。
定義域:$x \neq -2$、値域:$y \neq 3$
分数関数のグラフ問題は、まず基本形 $y = \frac{k}{x-p} + q$ に変形するのが鉄則。分子を分母で割る多項式の割り算がポイント。
分数関数 $y = \frac{x + 1}{x - 1}$ のグラフと直線 $y = kx$ が異なる2点で交わるとき、定数 $k$ の値の範囲を求めよ。
$\frac{x+1}{x-1} = kx$ より、$x + 1 = kx(x - 1)$($x \neq 1$)
$kx^2 - kx - x - 1 = 0$、すなわち $kx^2 - (k+1)x - 1 = 0$ ……①
$k = 0$ のとき:$-x - 1 = 0$ より $x = -1$ で1点のみ。不適。
$k \neq 0$ のとき:①が $x \neq 1$ なる異なる2つの実数解を持てばよい。
判別式 $D = (k+1)^2 + 4k = k^2 + 6k + 1 > 0$ ……②
①に $x = 1$ を代入:$k - (k+1) - 1 = -2 \neq 0$ なので、$x = 1$ は①の解にならない。
②より $k < -3 - 2\sqrt{2}$ または $k > -3 + 2\sqrt{2}$
$k \neq 0$ と合わせて、$k < -3 - 2\sqrt{2}$ または $0 < k$ または $-3 + 2\sqrt{2} < k < 0$
整理すると $k < -3 - 2\sqrt{2}$ または $-3 + 2\sqrt{2} < k$($k \neq 0$)
分数関数と直線の共有点は、連立して分母を払い、2次方程式の問題に帰着させる。ただし、$x = 1$(分母 $= 0$)が解にならないことの確認が必須。
$y = \frac{ax + b}{cx + d}$ のグラフが、漸近線 $x = 2$, $y = -1$ を持ち、点 $(0, 3)$ を通るとき、$a$, $b$, $c$, $d$ の値を1組求めよ。
漸近線から $y = \frac{k}{x - 2} - 1$ とおける。$(0, 3)$ を代入:
$3 = \frac{k}{0 - 2} - 1 = -\frac{k}{2} - 1$
$4 = -\frac{k}{2}$ より $k = -8$
$y = \frac{-8}{x - 2} - 1 = \frac{-8 - (x-2)}{x-2} = \frac{-x + 2 - 8}{x - 2} = \frac{-x - 6}{x - 2}$
よって $a = -1$, $b = -6$, $c = 1$, $d = -2$(1組の例)
漸近線の情報から基本形 $y = \frac{k}{x-p} + q$ を立て、通過点から $k$ を決定するのが最短ルート。$\frac{ax+b}{cx+d}$ 形式に戻すには通分すればよい。
$x$ が $0 \leq x \leq 4$($x \neq 1$)の範囲を動くとき、$y = \frac{2x + 3}{x - 1}$ の値域を求めよ。
$y = \frac{2(x-1) + 5}{x-1} = 2 + \frac{5}{x-1} = \frac{5}{x-1} + 2$
漸近線は $x = 1$, $y = 2$。$k = 5 > 0$。
$0 \leq x < 1$ のとき:$x - 1 < 0$ なので $\frac{5}{x-1} < 0$、よって $y < 2$。
$x = 0$ で $y = -3$、$x \to 1^{-}$ で $y \to -\infty$。よって $y \leq -3$ の範囲。
$1 < x \leq 4$ のとき:$x - 1 > 0$ なので $\frac{5}{x-1} > 0$、よって $y > 2$。
$x \to 1^{+}$ で $y \to +\infty$、$x = 4$ で $y = \frac{11}{3}$。よって $y \geq \frac{11}{3}$ の範囲。
以上より、値域は $y \leq -3$ または $y \geq \frac{11}{3}$。
漸近線を境に場合分けをする。各区間で $\frac{5}{x-1}$ の単調性(減少関数であること)を利用して値域を求める。グラフの概形をイメージすると間違えにくい。