無限等比級数は抽象的な数学の概念にとどまらず、さまざまな具体的問題に応用できます。循環小数を分数に直す問題、図形の面積や周長が無限操作の極限として求まる問題、さらにはボールの跳ね返りやゼノンのパラドックスなど、現実世界と結びつく問題を通じて無限等比級数の威力を実感しましょう。
循環小数とは、小数部分のある桁以降で同じ数字の列が無限に繰り返される小数のことです。循環小数は無限等比級数の和として表すことができ、それにより分数への変換が可能になります。
循環する部分が $d$ 桁の循環小数は、公比 $r = \dfrac{1}{10^d}$ の無限等比級数として表せる。
$$0.\overline{a_1 a_2 \cdots a_d} = \frac{a_1 a_2 \cdots a_d}{10^d} + \frac{a_1 a_2 \cdots a_d}{10^{2d}} + \cdots = \frac{a_1 a_2 \cdots a_d}{10^d - 1}$$
※ 公比 $\frac{1}{10^d}$ は常に $1$ より小さいので、この級数は必ず収束します。
問題:$0.\overline{123}$ を既約分数で表せ。
解:$0.\overline{123} = 0.123123123\ldots$
$= 0.123 + 0.000123 + 0.000000123 + \cdots$
$= \dfrac{123}{10^3} + \dfrac{123}{10^6} + \dfrac{123}{10^9} + \cdots$
初項 $\dfrac{123}{1000}$、公比 $\dfrac{1}{1000}$ の無限等比級数。
和 $= \dfrac{\frac{123}{1000}}{1 - \frac{1}{1000}} = \dfrac{123}{999} = \dfrac{41}{333}$
問題:$1.2\overline{34}$ を分数で表せ。
解:$1.2\overline{34} = 1.2 + 0.0\overline{34}$
$0.0\overline{34} = 0.034 + 0.00034 + 0.0000034 + \cdots$
$= \dfrac{34}{1000} + \dfrac{34}{100000} + \cdots$(初項 $\dfrac{34}{1000}$、公比 $\dfrac{1}{100}$)
$= \dfrac{\frac{34}{1000}}{1-\frac{1}{100}} = \dfrac{\frac{34}{1000}}{\frac{99}{100}} = \dfrac{34}{990} = \dfrac{17}{495}$
$1.2\overline{34} = \dfrac{12}{10} + \dfrac{17}{495} = \dfrac{594 + 17}{495} = \dfrac{611}{495}$
$x = 0.\overline{123}$ とおくと $1000x = 123.\overline{123}$。$1000x - x = 123$ より $999x = 123$、$x = \frac{123}{999} = \frac{41}{333}$。
この方法は無限等比級数を使わなくても計算できますが、その背後にある仕組みは無限等比級数そのものです。
図形を無限に操作していくとき、面積や周長が無限等比級数として表されることがあります。
問題:一辺の長さが $1$ の正三角形 $T_1$ の各辺の中点を結んで正三角形 $T_2$ を作る。$T_2$ の各辺の中点を結んで $T_3$ を作る。この操作を無限に繰り返すとき、すべての正三角形の面積の和を求めよ。
解:$T_1$ の面積 $= \dfrac{\sqrt{3}}{4} \cdot 1^2 = \dfrac{\sqrt{3}}{4}$
$T_2$ は一辺 $\dfrac{1}{2}$ の正三角形。面積 $= \dfrac{\sqrt{3}}{4} \cdot \dfrac{1}{4} = \dfrac{\sqrt{3}}{16}$
面積の比:$\dfrac{T_2}{T_1} = \dfrac{1}{4}$。一般に $T_{n+1}$ の面積は $T_n$ の面積の $\dfrac{1}{4}$ 倍。
求める和 $= \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} \frac{\sqrt{3}}{4} \cdot \left(\frac{1}{4}\right)^{n-1} = \frac{\frac{\sqrt{3}}{4}}{1-\frac{1}{4}} = \frac{\frac{\sqrt{3}}{4}}{\frac{3}{4}} = \frac{\sqrt{3}}{3}$
コッホ雪片は、正三角形の各辺を3等分し、中央の部分に新たな正三角形を付け加える操作を無限に繰り返してできるフラクタル図形です。
問題:一辺 $1$ の正三角形からコッホ雪片を作るとき、面積の極限値を求めよ。
解:元の正三角形の面積 $S_0 = \dfrac{\sqrt{3}}{4}$
第1段階:3辺それぞれに一辺 $\frac{1}{3}$ の正三角形を付加。増加面積 $= 3 \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{4} \cdot \dfrac{1}{9} = \dfrac{3}{9} \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{4} = \dfrac{\sqrt{3}}{12}$
第2段階:辺の数は $12$ 本、各辺に一辺 $\frac{1}{9}$ の正三角形を付加。増加面積 $= 12 \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{4} \cdot \dfrac{1}{81} = \dfrac{12}{81} \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{4} = \dfrac{\sqrt{3}}{27}$
第 $k$ 段階の増加面積:辺の数 $= 3 \cdot 4^{k-1}$ 本、各三角形の面積 $= \dfrac{\sqrt{3}}{4} \cdot \dfrac{1}{9^k}$
増加面積 $= 3 \cdot 4^{k-1} \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{4 \cdot 9^k} = \dfrac{3}{4} \cdot \dfrac{\sqrt{3}}{4} \cdot \left(\dfrac{4}{9}\right)^{k-1} \cdot \dfrac{1}{9}$
$= \dfrac{\sqrt{3}}{12} \cdot \left(\dfrac{4}{9}\right)^{k-1}$
コッホ雪片の面積 $= S_0 + \displaystyle\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sqrt{3}}{12} \cdot \left(\frac{4}{9}\right)^{k-1}$
$= \dfrac{\sqrt{3}}{4} + \dfrac{\frac{\sqrt{3}}{12}}{1-\frac{4}{9}} = \dfrac{\sqrt{3}}{4} + \dfrac{\frac{\sqrt{3}}{12}}{\frac{5}{9}} = \dfrac{\sqrt{3}}{4} + \dfrac{3\sqrt{3}}{20} = \dfrac{5\sqrt{3} + 3\sqrt{3}}{20} = \dfrac{8\sqrt{3}}{20} = \dfrac{2\sqrt{3}}{5}$
コッホ雪片は面積が有限($\frac{2\sqrt{3}}{5}$)でありながら、周長は無限大です。第 $k$ 段階の周長は $3 \cdot \left(\frac{4}{3}\right)^k$ であり、$\frac{4}{3} > 1$ なので $k \to \infty$ で発散します。
「有限の面積を無限の長さの曲線が囲む」というフラクタル幾何学の驚くべき性質です。
地面に落としたボールが跳ね返りを繰り返す問題は、無限等比級数の典型的な応用例です。
問題:高さ $h$ からボールを落とす。ボールは地面で跳ね返るたびに、直前の高さの $\dfrac{3}{5}$ の高さまで上がる。ボールが静止するまでの移動距離の合計を求めよ。
解:最初に高さ $h$ 落下。
1回目の跳ね返り:$\frac{3}{5}h$ まで上昇し、$\frac{3}{5}h$ 落下。往復 $2 \cdot \frac{3}{5}h$
2回目の跳ね返り:$\left(\frac{3}{5}\right)^2 h$ まで上昇し、同じ高さ落下。往復 $2 \cdot \left(\frac{3}{5}\right)^2 h$
$n$ 回目の跳ね返り:往復 $2 \cdot \left(\frac{3}{5}\right)^n h$
総移動距離 $L = h + \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} 2 \left(\frac{3}{5}\right)^n h$
$= h + 2h \cdot \dfrac{\frac{3}{5}}{1-\frac{3}{5}} = h + 2h \cdot \dfrac{\frac{3}{5}}{\frac{2}{5}} = h + 2h \cdot \dfrac{3}{2} = h + 3h = 4h$
高さ $h$ から落とし、跳ね返り係数(反発係数)を $e$($0 < e < 1$)とすると:
$$L = h + 2h \sum_{n=1}^{\infty} e^n = h + \frac{2he}{1-e} = h \cdot \frac{1+e}{1-e}$$
※ 最初の落下の $h$ と、以後の「上昇+落下」のペアを分けて考えるのがポイントです。
✗ 総距離を $\sum_{n=0}^{\infty} 2e^n h$ として $\frac{2h}{1-e}$ と答える
✓ 最初の落下は片道のみ($h$)。2回目以降が往復($2e^n h$)。$L = h + \frac{2eh}{1-e}$
最初の落下は「上昇」を伴わないので、他の項とは構造が異なります。
古代ギリシャの哲学者ゼノンが提唱したパラドックスは、無限級数の概念で数学的に解決されます。
アキレスが亀を追いかけるとき、亀がいた場所に到達するたびに亀は少し先に進んでいる。これを無限に繰り返すと、アキレスは亀に永遠に追いつけないように見えます。
しかし「追いつくまでの時間」は $t + t \cdot r + t \cdot r^2 + \cdots$($0 < r < 1$)という無限等比級数の和 $\frac{t}{1-r}$ であり、有限の時間で追いつきます。無限回の操作でも、その合計が有限値に収束しうることを無限等比級数は示しています。
問題:アキレスの速さ $10$ m/s、亀の速さ $1$ m/s で、亀が $100$ m 先にいるとき、アキレスが亀に追いつくまでの時間を無限等比級数で求めよ。
解:アキレスが $100$ m 進むのに $10$ 秒。この間に亀は $10$ m 進む。
アキレスが $10$ m 進むのに $1$ 秒。この間に亀は $1$ m 進む。
アキレスが $1$ m 進むのに $0.1$ 秒。この間に亀は $0.1$ m 進む。
追いつくまでの時間 $= 10 + 1 + 0.1 + 0.01 + \cdots$
$= \displaystyle\sum_{n=0}^{\infty} 10 \cdot \left(\frac{1}{10}\right)^n = \frac{10}{1-\frac{1}{10}} = \frac{10}{\frac{9}{10}} = \frac{100}{9} \approx 11.1$ 秒
検算:等速直線運動で $10t = 100 + t$ より $t = \frac{100}{9}$ 秒。一致。
ゼノンの時代には「無限個の和」を扱う数学的道具がなかったため、パラドックスが生じました。無限等比級数の収束理論が確立された現在では、「無限回の操作の合計が有限値になりうる」ことは数学的に厳密に証明できます。
このパラドックスは、直感(無限 = 発散)と数学的事実(無限でも収束しうる)のずれを鮮やかに示す例です。
無限等比級数の応用問題に共通する解法パターンを整理します。
Step 1(立式):問題の状況を数列として把握する。第 $n$ 段階の量(面積・距離・時間など)を $a_n$ で表す
Step 2(等比の確認):$\dfrac{a_{n+1}}{a_n}$ が一定(= 公比 $r$)であることを確認する
Step 3(初項の特定):$a_1$(または $a_0$)を正確に求める。特に最初の項が他と異なる構造を持つ場合に注意
Step 4(和の計算):$|r| < 1$ を確認し、$\sum = \frac{a}{1-r}$ で和を計算する
Step 5(検算):具体的な値($n=1, 2$)で妥当性を確認する
| 応用のタイプ | 初項の注意点 | 公比の求め方 |
|---|---|---|
| 循環小数 | 循環の開始位置 | $r = \frac{1}{10^d}$($d$ は循環の桁数) |
| 図形の繰り返し | 辺の長さの比 → 面積は2乗 | 面積比 $= (\text{辺の比})^2$ |
| 跳ね返りボール | 最初の落下は片道のみ | $r = e$(反発係数) |
| アキレスと亀 | 最初の距離差 | $r = \frac{\text{亀の速さ}}{\text{アキレスの速さ}}$ |
✗ 図形問題で辺の比と面積の比を混同する(辺が $\frac{1}{2}$ 倍なら面積は $\frac{1}{4}$ 倍)
✓ 長さの比が $r$ ならば面積の比は $r^2$、体積の比は $r^3$ である
Q1. 循環小数 $0.\overline{36}$ を既約分数で表せ。
Q2. 高さ $10$ m から落としたボールが、毎回 $\frac{4}{5}$ の高さまで跳ね返るとき、総移動距離を求めよ。
Q3. 一辺 $2$ の正方形の各辺の中点を結んで新たな正方形を作る操作を無限に繰り返す。すべての正方形の面積の和を求めよ。
Q4. $0.2\overline{7}$ を分数で表せ。
Q5. コッホ雪片の面積は有限だが周長は無限である。その理由を述べよ。
次の循環小数を既約分数で表せ。
(1) $0.\overline{142857}$
(2) $2.\overline{45}$
(1) $0.\overline{142857} = \dfrac{142857}{999999} = \dfrac{1}{7}$
($142857 \times 7 = 999999$ であることを確認)
(2) $2.\overline{45} = 2 + 0.\overline{45} = 2 + \dfrac{45}{99} = 2 + \dfrac{5}{11} = \dfrac{22+5}{11} = \dfrac{27}{11}$
一辺 $a$ の正三角形の各頂点と対辺の中点を結び、内部にできる小さな正三角形を取り出す。この操作を取り出した正三角形に対して無限に繰り返す。取り出したすべての正三角形の面積の和を求めよ。
元の正三角形の面積 $S = \dfrac{\sqrt{3}}{4}a^2$
各頂点と対辺の中点を結ぶと、内部に一辺 $\frac{a}{2}$ の逆向き正三角形ができる(面積は $\frac{S}{4}$)。
第1回で取り出す正三角形の面積:$\dfrac{S}{4}$
この正三角形に同じ操作を行うと面積 $\dfrac{S}{16}$ の正三角形が得られる。
面積の和 $= \dfrac{S}{4} + \dfrac{S}{16} + \dfrac{S}{64} + \cdots = \dfrac{\frac{S}{4}}{1-\frac{1}{4}} = \dfrac{S}{3} = \dfrac{\sqrt{3}}{12}a^2$
各段階で面積は $\frac{1}{4}$ 倍になるため、初項 $\frac{S}{4}$、公比 $\frac{1}{4}$ の無限等比級数として求まります。面積の和は元の正三角形の面積の $\frac{1}{3}$ になるという綺麗な結果です。
高さ $h$ m から落としたボールが地面で跳ね返りを繰り返す。$n$ 回目の跳ね返りで到達する高さが $h \cdot r^n$($0 < r < 1$)であるとき:
(1) ボールが静止するまでの総移動距離を求めよ。
(2) $h = 20$ m、$r = \dfrac{1}{2}$ のとき、総移動距離を求めよ。
(1) 総移動距離 $L = h + 2\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} hr^n = h + 2h \cdot \frac{r}{1-r} = h \cdot \frac{1-r+2r}{1-r} = \frac{h(1+r)}{1-r}$
(2) $L = \dfrac{20 \cdot (1+\frac{1}{2})}{1-\frac{1}{2}} = \dfrac{20 \cdot \frac{3}{2}}{\frac{1}{2}} = 20 \cdot 3 = 60$ m
一辺 $1$ の正方形 $C_1$ の内部に、各辺に接する円 $O_1$ を描く。$O_1$ に外接する正方形 $C_2$ をその内部に描き、$C_2$ に内接する円 $O_2$ を描く。この操作を無限に繰り返すとき:
(1) $C_n$ の一辺の長さ $a_n$ を求めよ。
(2) すべての円の面積の和 $\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} (\text{円 } O_n \text{ の面積})$ を求めよ。
(1) $C_1$ の一辺 $a_1 = 1$、$O_1$ の半径 $= \frac{1}{2}$。
$O_1$ に外接する正方形 $C_2$ は $O_1$ の内部に45度回転して内接する形になり、一辺 $a_2 = \frac{1}{\sqrt{2}}$。
$\dfrac{a_{n+1}}{a_n} = \dfrac{1}{\sqrt{2}}$ より $a_n = \left(\dfrac{1}{\sqrt{2}}\right)^{n-1} = \left(\dfrac{1}{2}\right)^{\frac{n-1}{2}}$
(2) 円 $O_n$ の半径 $= \frac{a_n}{2}$、面積 $= \pi\left(\frac{a_n}{2}\right)^2 = \frac{\pi}{4}a_n^2 = \frac{\pi}{4}\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1}$
$\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\pi}{4}\left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} = \frac{\frac{\pi}{4}}{1-\frac{1}{2}} = \frac{\pi}{2}$
正方形に内接する円、その円に外接する正方形...と繰り返すと、一辺は毎回 $\frac{1}{\sqrt{2}}$ 倍になります。面積は一辺の2乗に比例するので公比は $\frac{1}{2}$ となり、きれいな無限等比級数に帰着します。結果 $\frac{\pi}{2}$ は $\pi$ の幾何学的な近似にも関連する美しい値です。