第6章 微分法

微分係数の定義と意味
─ 関数の「瞬間の変化率」を正確に定式化する

平均変化率の極限として「瞬間の変化率」が得られることを学びました。
この値を微分係数と呼び、$f'(a)$ と書きます。微分係数は接線の傾きそのものであり、微分法の出発点です。

1微分係数の定義

前回学んだ平均変化率の極限に、正式な名前と記号を与えましょう。

📐 微分係数の定義($h$ 型)

関数 $f(x)$ の $x = a$ における微分係数 $f'(a)$(エフダッシュ $a$)は

$$f'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{f(a + h) - f(a)}{h}$$

この極限値が存在するとき、$f(x)$ は $x = a$ で微分可能であるという。

📐 微分係数の定義($x$ 型)

$x = a + h$($h = x - a$)とおくと、同じ微分係数を次のようにも書ける。

$$f'(a) = \lim_{x \to a} \frac{f(x) - f(a)}{x - a}$$

$h$ 型と $x$ 型は表記が違うだけで、まったく同じ値を与えます。問題に合わせて使い分けましょう。

💡 ここが本質:微分係数は「1つの極限操作」

微分係数は「極限の極限」ではなく、1つの極限操作で定まる値です。平均変化率という分数式に対し、$h \to 0$(または $x \to a$)という1回の極限操作を行うだけです。

この理解は、微分計算の手順を迷わず実行するために重要です。

⚠️ 落とし穴:$f'(a)$ と $f'(x)$ の違い

$f'(a)$ は「$x = a$ という特定の点での微分係数」であり、1つの数値です。

$f'(x)$ は「$x$ を変数のまま残した関数」であり、次の記事で学ぶ「導関数」です。

✗ 誤り:$f'(a)$ は $a$ の関数($a$ を動かすイメージ)

✓ 正しい:$f'(a)$ は定数 $a$ での微分係数(1つの値)

2微分係数の計算(定義式から)

計算の手順

  1. $f(a + h)$ を計算する
  2. $f(a + h) - f(a)$ を求め、整理する
  3. $h$ で割る($h$ を約分する)
  4. $h \to 0$ とする

例1:$f(x) = x^2$ の $x = 3$ における微分係数

$$f'(3) = \lim_{h \to 0} \frac{(3+h)^2 - 9}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{6h + h^2}{h} = \lim_{h \to 0}(6 + h) = 6$$

例2:$f(x) = x^3$ の $x = 2$ における微分係数

$$f'(2) = \lim_{h \to 0} \frac{(2+h)^3 - 8}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{12h + 6h^2 + h^3}{h} = \lim_{h \to 0}(12 + 6h + h^2) = 12$$

例3:$x$ 型を使う場合

$f(x) = x^2 - 2x$ の $x = 1$ における微分係数を $x$ 型で求めます。

$$f'(1) = \lim_{x \to 1} \frac{(x^2 - 2x) - (-1)}{x - 1} = \lim_{x \to 1} \frac{x^2 - 2x + 1}{x - 1} = \lim_{x \to 1} \frac{(x-1)^2}{x-1} = \lim_{x \to 1}(x - 1) = 0$$

▷ 例3の別解($h$ 型)

$f'(1) = \lim_{h \to 0} \frac{(1+h)^2 - 2(1+h) - (-1)}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{1+2h+h^2-2-2h+1}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{h^2}{h} = \lim_{h \to 0} h = 0$

$h$ 型でも $x$ 型でも同じ結果 $f'(1) = 0$ が得られます。$f'(1) = 0$ は $x = 1$ でグラフの接線が水平であることを意味し、これは放物線の頂点に対応します。

⚠️ 落とし穴:$h$ を 0 に「する」のではない

$h$ を 0 に代入するのではなく、0 に近づけるのです。

✗ 誤り:$h = 0$ を代入して $\dfrac{0}{0}$ → 答えは $0$ だ

✓ 正しい:式変形で $h$ を約分してから $h \to 0$ とする

$\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$ で $h = 0$ とすると $\dfrac{0}{0}$ という不定形になります。まず分子を展開・整理して $h$ を約分し、$h$ を含まない(または $h \to 0$ で確定する)式にしてから極限を取ります。

3微分係数の幾何学的意味

接線の傾き

曲線 $y = f(x)$ 上の点 $\mathrm{A}(a, f(a))$ における接線の傾きが微分係数 $f'(a)$ です。

💡 ここが本質:微分係数 = 接線の傾き

平均変化率は割線の傾きでした。$h \to 0$ で割線が接線に近づくので、その極限である微分係数は接線の傾きを表します。

$$f'(a) = \text{曲線 } y = f(x) \text{ の点 } (a, f(a)) \text{ における接線の傾き}$$

この幾何学的解釈が、微分法の応用(接線の方程式、関数の増減など)すべての基礎です。

接線の方程式

傾き $f'(a)$ で点 $(a, f(a))$ を通る直線の方程式は

$$y - f(a) = f'(a)(x - a)$$

微分係数の符号とグラフの関係

微分係数の値接線の傾きグラフの様子
$f'(a) > 0$正(右上がり)$x = a$ 付近で増加
$f'(a) < 0$負(右下がり)$x = a$ 付近で減少
$f'(a) = 0$$0$(水平)極値の候補(頂点など)

4微分可能性と連続性

微分可能 ⇒ 連続

$f(x)$ が $x = a$ で微分可能ならば、$f(x)$ は $x = a$ で連続です。

▷ 証明

$f(x)$ が $x = a$ で微分可能、すなわち $\displaystyle\lim_{x \to a} \frac{f(x) - f(a)}{x - a} = f'(a)$ が存在するとする。

$$\lim_{x \to a} \{f(x) - f(a)\} = \lim_{x \to a} \frac{f(x) - f(a)}{x - a} \cdot (x - a) = f'(a) \cdot 0 = 0$$

したがって $\displaystyle\lim_{x \to a} f(x) = f(a)$ となり、$f(x)$ は $x = a$ で連続。■

連続 ⇏ 微分可能

逆に、「連続だが微分可能でない」例が存在します。

💡 ここが本質:連続と微分可能は異なる概念

$f(x) = |x|$ は $x = 0$ で連続ですが、微分可能ではありません。

$h > 0$ のとき $\dfrac{|0+h|-|0|}{h} = \dfrac{h}{h} = 1$、$h < 0$ のとき $\dfrac{|0+h|-|0|}{h} = \dfrac{-h}{h} = -1$

左からの極限と右からの極限が一致しないため、極限値が存在せず、微分係数は定義できません。グラフが「尖っている」点では微分できないのです。

🔬 深掘りTips:左微分係数と右微分係数

$h > 0$ からの極限を右微分係数、$h < 0$ からの極限を左微分係数と呼びます。

$$f'_+(a) = \lim_{h \to +0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h}, \quad f'_-(a) = \lim_{h \to -0} \frac{f(a+h)-f(a)}{h}$$

$f'_+(a) = f'_-(a)$ のとき、微分係数 $f'(a)$ が存在します。$|x|$ の例では $f'_+(0)=1$、$f'_-(0)=-1$ で不一致なので微分不可能です。

5微分係数の応用

物理学での解釈:瞬間速度

時刻 $t$ における位置が $x(t)$ で表されるとき、$t = a$ における瞬間速度

$$v(a) = x'(a) = \lim_{h \to 0} \frac{x(a+h) - x(a)}{h}$$

です。平均速度の極限が瞬間速度になるという、直感に合った結果です。

具体例:自由落下

高さ $h$ m から自由落下する物体の時刻 $t$ 秒後の落下距離は $x(t) = \dfrac{1}{2}gt^2$($g \approx 9.8$ m/s²)です。$t = 2$ 秒後の瞬間速度は

$$x'(2) = \lim_{h \to 0} \frac{\frac{1}{2}g(2+h)^2 - 2g}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{\frac{1}{2}g(4h+h^2)}{h} = \lim_{h \to 0} \frac{g(4+h)}{2} = 2g \approx 19.6 \text{ m/s}$$

微分係数を利用した極限計算

逆に、微分係数の定義を利用して極限値を求める問題もあります。

例:$f(x) = x^3$ のとき $\displaystyle\lim_{x \to 1} \frac{f(x) - 1}{x - 1}$ を求めよ。

$f(1) = 1$ なので、これは $\displaystyle\lim_{x \to 1}\frac{f(x)-f(1)}{x-1} = f'(1)$ と読めます。$f'(1) = 3 \cdot 1^2 = 3$ です。

🔬 深掘りTips:微分と近似

$h$ が十分小さいとき、$f(a+h) \approx f(a) + f'(a) \cdot h$ という近似が成り立ちます。これを1次近似(線形近似)と呼びます。

例えば $f(x) = \sqrt{x}$、$a = 4$、$h = 0.1$ のとき $\sqrt{4.1} \approx \sqrt{4} + \dfrac{1}{2\sqrt{4}} \cdot 0.1 = 2.025$。実際の値 $\sqrt{4.1} \approx 2.02485$ と非常に近い値です。

大学では、この近似をさらに精密化したテイラー展開を学びます。

📋まとめ

  • 微分係数の定義:$f'(a) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}$。$h$ 型と $x$ 型の2通りの表記がある。
  • 幾何学的意味:微分係数 $f'(a)$ は曲線 $y=f(x)$ の点 $(a,f(a))$ における接線の傾きに等しい。
  • 微分可能と連続:微分可能 ⇒ 連続(逆は不成立)。$f(x)=|x|$ は $x=0$ で連続だが微分不可能。
  • 微分係数の符号:$f'(a)>0$ なら増加、$f'(a)<0$ なら減少、$f'(a)=0$ なら接線が水平(極値の候補)。
  • 物理的意味:位置の微分係数が瞬間速度。微分は「瞬間の変化率」を捉える万能の道具。

✅ 確認テスト

Q1. $f(x) = 2x^2$ の $x = 1$ における微分係数を定義に従って求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $f'(1) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{2(1+h)^2-2}{h} = \lim_{h \to 0}\frac{4h+2h^2}{h} = \lim_{h \to 0}(4+2h) = 4$

Q2. $f(x) = x^2 + 3x$ の $x = -1$ における微分係数を求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $f'(-1) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{(-1+h)^2+3(-1+h)-(-2)}{h} = \lim_{h \to 0}\frac{h^2+h}{h} = \lim_{h \to 0}(h+1) = 1$

Q3. $f(x) = x^3$ の $x = -1$ における微分係数を $x$ 型の定義式で求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $\displaystyle\lim_{x \to -1}\frac{x^3-(-1)}{x-(-1)} = \lim_{x \to -1}\frac{x^3+1}{x+1} = \lim_{x \to -1}(x^2-x+1) = 3$

Q4. 微分可能ならば連続であることの逆は成り立つか。反例を挙げよ。

▶ クリックして解答を表示 逆は成り立たない。反例:$f(x)=|x|$ は $x=0$ で連続だが、左右の微分係数が $-1$ と $1$ で異なるため微分不可能。

Q5. $f(x) = x^2 - 4x$ のグラフの $x = 2$ における接線の方程式を求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $f(2)=-4$、$f'(2) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{(2+h)^2-4(2+h)+4}{h} = \lim_{h \to 0}(h) = 0$。接線は $y = -4$(水平線)。

📝入試問題演習

問題 1 A 基礎

次の関数の、指定された $x$ の値における微分係数を定義に従って求めよ。

(1) $f(x) = 3x^2 - x$、$x = 2$

(2) $f(x) = x^3 + 2x$、$x = 1$

▶ クリックして解答を表示
解答

(1) $f'(2) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{3(2+h)^2-(2+h)-(3\cdot4-2)}{h} = \lim_{h \to 0}\frac{12h+3h^2-h}{h} = \lim_{h \to 0}(11+3h) = 11$

(2) $f'(1) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{(1+h)^3+2(1+h)-3}{h} = \lim_{h \to 0}\frac{3h+3h^2+h^3+2h}{h} = \lim_{h \to 0}(5+3h+h^2) = 5$

問題 2 B 標準

$f(x) = x^2 + ax + b$ が $x = 1$ で微分係数 $f'(1) = 3$ を持ち、$f(1) = 2$ を満たすとき、定数 $a$, $b$ の値を求めよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

$f'(1) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\frac{(1+h)^2+a(1+h)+b-(1+a+b)}{h} = \lim_{h \to 0}\frac{2h+h^2+ah}{h} = 2+a$

$f'(1) = 2 + a = 3$ より $a = 1$

$f(1) = 1 + 1 + b = 2$ より $b = 0$

よって $a = 1$、$b = 0$

問題 3 B 標準

$f(x)$ が $x = 2$ で微分可能で $f(2) = 5$、$f'(2) = -3$ のとき、次の極限値を求めよ。

(1) $\displaystyle\lim_{h \to 0} \frac{f(2+3h) - f(2)}{h}$

(2) $\displaystyle\lim_{x \to 2} \frac{xf(2) - 2f(x)}{x - 2}$

▶ クリックして解答を表示
解答

(1) $\dfrac{f(2+3h)-f(2)}{h} = 3 \cdot \dfrac{f(2+3h)-f(2)}{3h}$

$3h \to 0$ のとき $\dfrac{f(2+3h)-f(2)}{3h} \to f'(2) = -3$

よって答えは $3 \times (-3) = -9$

(2) $\dfrac{xf(2)-2f(x)}{x-2} = \dfrac{x \cdot 5 - 2f(x)}{x-2} = \dfrac{5x - 2f(x)}{x-2}$

$= \dfrac{5(x-2)+10-2f(x)}{x-2} = 5 - 2 \cdot \dfrac{f(x)-5}{x-2} = 5 - 2 \cdot \dfrac{f(x)-f(2)}{x-2}$

$x \to 2$ のとき $\to 5 - 2f'(2) = 5 - 2(-3) = 11$

解説

(1) は「$h$ の係数を調整する」タイプの定番問題です。$3h$ を1つの塊と見て微分係数の定義に帰着します。(2) は分子を $f(x)-f(2)$ の形に変形する工夫が必要です。

問題 4 C 発展

関数 $f(x)$ は $x = a$ で微分可能とする。次の極限値を $f(a)$、$f'(a)$ を用いて表せ。

(1) $\displaystyle\lim_{h \to 0} \frac{f(a + 2h) - f(a - h)}{h}$

(2) $\displaystyle\lim_{h \to 0} \frac{f(a + h)^2 - f(a)^2}{h}$(ただし $f(a) \neq 0$)

▶ クリックして解答を表示
解答

(1) $\dfrac{f(a+2h)-f(a-h)}{h} = \dfrac{f(a+2h)-f(a)}{h} + \dfrac{f(a)-f(a-h)}{h}$

$= 2\cdot\dfrac{f(a+2h)-f(a)}{2h} + \dfrac{f(a-h+h)-f(a-h)}{h}$

第1項:$2h \to 0$ のとき $\to 2f'(a)$

第2項:$-h$ を改めて $k$ とおくと $\dfrac{f(a-(-k))-f(a-k+(-k))}{-(-k)} = \dfrac{f(a+k)-f(a)}{k} \cdot \dfrac{k}{-(-k)}$

より簡単に:$\dfrac{f(a)-f(a-h)}{h} = \dfrac{f(a-h+h)-f(a-h)}{h}$。$a-h$ を基点と見ると $h \to 0$ で $a - h \to a$ なので $\to f'(a)$

よって答えは $2f'(a) + f'(a) = 3f'(a)$

(2) $\dfrac{f(a+h)^2 - f(a)^2}{h} = \dfrac{\{f(a+h)-f(a)\}\{f(a+h)+f(a)\}}{h}$

$= \dfrac{f(a+h)-f(a)}{h} \cdot \{f(a+h)+f(a)\}$

$h \to 0$ のとき $\to f'(a) \cdot 2f(a) = 2f(a)f'(a)$

採点のポイント
  • (1) $f(a)$ を加えて引く(中間項の挿入)操作を正しく行う
  • (1) 各項を微分係数の定義式に正しく帰着させる
  • (2) 和と差の積に因数分解して微分係数の定義を利用する