「$2^x > 8$ を解け」── 指数方程式と同じ要領で底をそろえればよいのですが、不等式には決定的な注意点があります。
底が $1$ より大きいか小さいかで、不等号の向きが変わるのです。この「反転」の仕組みを原理から理解しましょう。
指数不等式を解く前に、その土台となる指数関数の性質を確認しておきましょう。指数方程式では「$a^x = a^y$ ならば $x = y$」を使いましたが、不等式ではもう一歩踏み込んだ理解が必要です。
$a > 0$、$a \neq 1$ のとき、指数関数 $y = a^x$ のグラフは次の性質を持ちます。
ここで重要なのが、底 $a$ の値によってグラフの増減が変わるという点です。
| $a > 1$ の場合 | $0 < a < 1$ の場合 | |
|---|---|---|
| 増減 | 単調増加(右上がり) | 単調減少(右下がり) |
| $x$ が増えると | $y$ も増える | $y$ は減る |
| 具体例 | $y = 2^x$、$y = 3^x$ | $y = \left(\dfrac{1}{2}\right)^x$、$y = \left(\dfrac{1}{3}\right)^x$ |
不等式で大小を比較するとき、関数が単調増加なら大小関係はそのまま保存されます。単調減少なら大小関係が逆転します。
$a > 1$ のとき:$a^p < a^q \Leftrightarrow p < q$(大小保存)
$0 < a < 1$ のとき:$a^p < a^q \Leftrightarrow p > q$(大小反転)
これは指数不等式だけでなく、対数不等式や一般の単調関数の不等式にも共通する、最も基本的な原理です。
$a = \dfrac{1}{2}$ の場合を考えましょう。$x$ が $1$ 増えるごとに、$y$ は半分になります。
$$\left(\frac{1}{2}\right)^1 = \frac{1}{2}, \quad \left(\frac{1}{2}\right)^2 = \frac{1}{4}, \quad \left(\frac{1}{2}\right)^3 = \frac{1}{8}, \quad \ldots$$
指数が大きくなるほど値は小さくなります。だから $\left(\dfrac{1}{2}\right)^p < \left(\dfrac{1}{2}\right)^q$ ならば $p > q$ なのです。
$a > 0$、$a \neq 1$ のとき、
$$a > 1 \;\Longrightarrow\; a^p < a^q \;\Leftrightarrow\; p < q$$
$$0 < a < 1 \;\Longrightarrow\; a^p < a^q \;\Leftrightarrow\; p > q$$
「底が $1$ より大きい → 不等号そのまま」「底が $1$ より小さい → 不等号反転」と覚えましょう。
大学数学では、関数 $f$ が狭義単調増加($x_1 < x_2 \Rightarrow f(x_1) < f(x_2)$)のとき、$f(p) < f(q) \Leftrightarrow p < q$ が成り立つことを厳密に証明します。これは $f$ が逆関数を持つことと密接に関係しており、対数関数 $\log_a$ は指数関数 $a^x$ の逆関数として定義されます。
指数不等式の基本戦略は、指数方程式と同じで底をそろえることです。両辺を $a^{(\cdots)}$ の形にしてから、指数部分の大小を比較します。
$2^{x+1} > 8$ を解いてみましょう。
右辺を $2$ のべき乗で表すと $8 = 2^3$ なので、
$$2^{x+1} > 2^3$$
底 $2 > 1$ だから、不等号の向きはそのまま。
$$x + 1 > 3$$
$$x > 2$$
$\left(\dfrac{1}{3}\right)^x < \dfrac{1}{9}$ を解いてみましょう。
右辺を $\dfrac{1}{3}$ のべき乗で表すと $\dfrac{1}{9} = \left(\dfrac{1}{3}\right)^2$ なので、
$$\left(\frac{1}{3}\right)^x < \left(\frac{1}{3}\right)^2$$
底 $\dfrac{1}{3}$ は $0 < \dfrac{1}{3} < 1$ だから、不等号を反転させます。
$$x > 2$$
最も多いミスが、底が $1$ より小さいときに不等号をそのまま書いてしまうことです。
$\left(\dfrac{1}{3}\right)^x < \left(\dfrac{1}{3}\right)^2$ のとき:
✗ 誤り:$x < 2$(底が $1$ より大きい場合の処理をしてしまった)
✓ 正しい:$x > 2$(底 $\dfrac{1}{3} < 1$ なので不等号を反転)
迷ったときは具体的な値を代入して確認しましょう。$x = 3$ のとき $\left(\dfrac{1}{3}\right)^3 = \dfrac{1}{27} < \dfrac{1}{9}$ で確かに成り立ちます。
$4^x \leq 8$ のように、左辺と右辺の底が異なる場合は、共通の底に変換します。
$4 = 2^2$、$8 = 2^3$ なので、
$$(2^2)^x \leq 2^3$$
$$2^{2x} \leq 2^3$$
底 $2 > 1$ だから、不等号はそのまま。
$$2x \leq 3 \quad \Longrightarrow \quad x \leq \frac{3}{2}$$
$4^x = (2^2)^x = 2^{2x}$ のように、$(a^m)^n = a^{mn}$ を正しく使いましょう。
✗ 誤り:$4^x = 2^{x+2}$(足し算にしてしまう)
✓ 正しい:$4^x = 2^{2x}$(掛け算が正しい)
底をそろえるという操作は、「両辺を同じ指数関数 $f(x) = a^x$ の値として見る」ということです。同じ単調関数の値として比較するからこそ、指数部分の大小に変換できるのです。
底がそろっていなければ、増加の速さが異なる2つの関数を比較していることになり、指数の大小に直接変換できません。
指数不等式の中には、$a^x$ を文字で置き換えることで、見慣れた2次不等式に帰着できるものがあります。指数方程式で $a^x = t$ と置く手法と同じ発想です。
$2 \cdot 4^x - 17 \cdot 2^x + 8 < 0$ を解いてみましょう。
まず $4^x = (2^2)^x = (2^x)^2$ であることに注目します。$2^x = t$ とおくと、
$$2t^2 - 17t + 8 < 0$$
$2t^2 - 17t + 8 < 0$ を因数分解すると、
$$(2t - 1)(t - 8) < 0$$
$$\frac{1}{2} < t < 8$$
ここで $t = 2^x$ に戻します。$t > 0$ は $2^x > 0$ より自動的に満たされます。
$$\frac{1}{2} < 2^x < 8$$
$$2^{-1} < 2^x < 2^3$$
底 $2 > 1$ なので不等号はそのまま。
$$-1 < x < 3$$
$a^x = t$ と置き換えたとき、$a^x > 0$ なので $t > 0$ という条件が付きます。2次不等式を解いた結果、$t \leq 0$ の部分を含む解が出た場合は、$t > 0$ の範囲に制限する必要があります。
上の例では $\dfrac{1}{2} < t < 8$ で $t > 0$ は自動的に満たされましたが、常にそうとは限りません。
$a^x$ と $a^{-x}$ が混在する不等式では、$a^x = t$ とおくと $a^{-x} = \dfrac{1}{t}$ となります。さらに $a^x + a^{-x} = t + \dfrac{1}{t}$ の形に帰着させることが多いです。
例えば $2^x + 2^{-x} \geq 2$ を確かめてみましょう。$2^x = t$($t > 0$)とおくと、
$$t + \frac{1}{t} \geq 2$$
$$\frac{t^2 + 1}{t} \geq 2$$
$$t^2 - 2t + 1 \geq 0 \quad (\text{$t > 0$ より両辺に $t$ を掛けてよい})$$
$$(t - 1)^2 \geq 0$$
これはすべての実数 $t$ で成り立つので、$t > 0$ の範囲でも常に成り立ちます。したがって、解はすべての実数 $x$ です。等号は $t = 1$、すなわち $2^x = 1$ つまり $x = 0$ のとき成り立ちます。
$t > 0$ のとき $t + \dfrac{1}{t} \geq 2$ は、相加平均・相乗平均の不等式(AM-GM不等式)$\dfrac{a + b}{2} \geq \sqrt{ab}$ で $a = t$、$b = \dfrac{1}{t}$ としたものと同じです。等号は $t = \dfrac{1}{t}$、すなわち $t = 1$ のとき成り立ちます。
| 不等式の形 | 置き換え | 帰着先 |
|---|---|---|
| $a \cdot (b^x)^2 + c \cdot b^x + d$ の形 | $b^x = t$ | $t$ の2次不等式($t > 0$) |
| $a^{2x}$ と $a^x$ の混在 | $a^x = t$ | $t$ の2次不等式($t > 0$) |
| $a^x$ と $a^{-x}$ の混在 | $a^x = t$ | $t + \dfrac{1}{t}$ の不等式($t > 0$) |
底が具体的な数ではなく文字 $a$ で与えられている場合、$a > 1$ と $0 < a < 1$ で場合分けが必要になります。これは指数不等式に特有の重要な論点です。
$a^{f(x)} > a^{g(x)}$ の形の不等式を考えましょう。底 $a$ について次のように場合分けします。
$a > 0$、$a \neq 1$ のとき、$a^{f(x)} > a^{g(x)}$ は
(i) $a > 1$ のとき:$f(x) > g(x)$(不等号そのまま)
(ii) $0 < a < 1$ のとき:$f(x) < g(x)$(不等号反転)
$a = 1$ のとき $a^{f(x)} = 1$ となりすべての $x$ で等しいため、$a \neq 1$ の条件が必要です。
$a^{2x-1} \leq a^{x+3}$($a > 0$、$a \neq 1$)を解いてみましょう。
(i) $a > 1$ のとき
不等号の向きはそのまま。
$$2x - 1 \leq x + 3 \quad \Longrightarrow \quad x \leq 4$$
(ii) $0 < a < 1$ のとき
不等号の向きが反転。
$$2x - 1 \geq x + 3 \quad \Longrightarrow \quad x \geq 4$$
底が文字のとき、場合分けを明記せずに一方の場合だけ答えてしまう受験生が非常に多いです。
✗ 誤り:「$2x - 1 \leq x + 3$ より $x \leq 4$」($a > 1$ の場合しか考えていない)
✓ 正しい:$a > 1$ のとき $x \leq 4$、$0 < a < 1$ のとき $x \geq 4$ と両方の場合を答える
場合分けが必要な理由は明快です。指数関数 $y = a^x$ が単調増加か単調減少かが $a$ の値で変わるからです。
$a > 1$ なら単調増加 → 大小がそのまま伝わる。$0 < a < 1$ なら単調減少 → 大小が反転する。場合分けは「この2つのケースを見落とさない」ためのものです。
答案では必ず「$a > 1$ のとき」「$0 < a < 1$ のとき」と書いてから不等式を処理しましょう。
もし $a = 1$ が許されると、$a^x = 1^x = 1$ で、$x$ に関係なく常に $1$ です。このとき $a^{2x-1} \leq a^{x+3}$ は $1 \leq 1$ となり、すべての $x$ で成り立ちます。問題文に「$a \neq 1$」の条件があるかどうかを必ず確認しましょう。
ここまで学んだ内容を整理して、指数不等式の解法パターンを体系的にまとめましょう。
| パターン | 特徴 | 解法 |
|---|---|---|
| P1:直接比較型 | $a^{f(x)} \lessgtr a^{g(x)}$ の形 | 底をそろえて、底と $1$ の大小で場合分け |
| P2:2次帰着型 | $a^{2x}$ と $a^x$ の混在 | $a^x = t > 0$ と置き換え、$t$ の2次不等式へ |
| P3:逆数混在型 | $a^x$ と $a^{-x}$ の混在 | $a^x = t > 0$ とおき、$t + \dfrac{1}{t}$ の不等式へ |
| P4:底が文字型 | 底 $a$ が文字 | $a > 1$ と $0 < a < 1$ で場合分け |
どのパターンでも、以下の流れに従います。
$\left(\dfrac{1}{2}\right)^x > 4$ のような不等式で、底を $2$ にそろえるか $\dfrac{1}{2}$ にそろえるかで処理が変わります。
方法1(底 $\dfrac{1}{2}$):$\left(\dfrac{1}{2}\right)^x > \left(\dfrac{1}{2}\right)^{-2}$ → 底 $< 1$ なので反転 → $x < -2$
方法2(底 $2$):$2^{-x} > 2^2$ → 底 $> 1$ なのでそのまま → $-x > 2$ → $x < -2$
どちらでも正しい結果が得られますが、方法2のように底を $1$ より大きくそろえる方がミスが少なくなります。
指数方程式と指数不等式の違いを整理しておきましょう。
| 指数方程式 | 指数不等式 | |
|---|---|---|
| 基本戦略 | 底をそろえる | 底をそろえる |
| 底と $1$ の大小 | 影響なし | 不等号の向きに影響 |
| $a^x = a^y$ の変換 | $x = y$ | $a > 1$:$x \lessgtr y$ そのまま $0 < a < 1$:$x \lessgtr y$ 反転 |
| 置き換え | $a^x = t > 0$ | $a^x = t > 0$($t > 0$ の確認がより重要) |
$a^x > b$($b > 0$)の両辺に $\log_a$ をとると、対数不等式に変換できます。$a > 1$ のとき $\log_a$ は単調増加なので不等号の向きはそのまま保たれ、$x > \log_a b$ が得られます。$0 < a < 1$ のとき $\log_a$ は単調減少なので不等号が反転し、$x < \log_a b$ となります。指数不等式と対数不等式は「表と裏」の関係にあるのです。
Q1. 不等式 $3^x > 27$ を解け。
Q2. 不等式 $\left(\dfrac{1}{2}\right)^x \leq \dfrac{1}{8}$ を解け。
Q3. 不等式 $4^x < 2^{x+3}$ を解け。
Q4. 不等式 $9^x - 4 \cdot 3^x + 3 \leq 0$ を解け。
Q5. $a > 0$、$a \neq 1$ のとき、不等式 $a^{3x} > a^{x+2}$ を解け。
次の不等式を解け。
(1) $2^{3x-1} \geq 16$
(2) $\left(\dfrac{1}{3}\right)^{2x} < 9$
(3) $8^x > 4^{x+1}$
(1) $16 = 2^4$ より $2^{3x-1} \geq 2^4$。底 $2 > 1$ なので $3x - 1 \geq 4$、$3x \geq 5$、$x \geq \dfrac{5}{3}$。
(2) $9 = 3^2 = \left(\dfrac{1}{3}\right)^{-2}$ より $\left(\dfrac{1}{3}\right)^{2x} < \left(\dfrac{1}{3}\right)^{-2}$。底 $\dfrac{1}{3} < 1$ なので反転して $2x > -2$、$x > -1$。
(3) $8^x = (2^3)^x = 2^{3x}$、$4^{x+1} = (2^2)^{x+1} = 2^{2x+2}$ より $2^{3x} > 2^{2x+2}$。底 $2 > 1$ なので $3x > 2x + 2$、$x > 2$。
不等式 $4^x - 5 \cdot 2^x + 4 > 0$ を解け。
$4^x = (2^x)^2$ であるから、$2^x = t$($t > 0$)とおくと、
$$t^2 - 5t + 4 > 0$$
$$(t - 1)(t - 4) > 0$$
$$t < 1 \quad \text{または} \quad t > 4$$
$t > 0$ と合わせて、$0 < t < 1$ または $t > 4$。
$0 < 2^x < 1$ より $2^x < 2^0$ なので $x < 0$。
$2^x > 4$ より $2^x > 2^2$ なので $x > 2$。
よって $x < 0$ または $x > 2$。
$a^{2x}$ と $a^x$ が混在する典型的な2次帰着型の問題です。$2^x = t$ とおいたとき、$t > 0$ という条件を常に意識しましょう。この問題では $0 < t < 1$ の部分も解に含まれるため、$t > 0$ の条件が実質的に効いています。
$a > 0$、$a \neq 1$ とする。不等式 $a^{x^2} < a^{3x-2}$ を解け。
(i) $a > 1$ のとき
不等号の向きはそのまま。$x^2 < 3x - 2$
$$x^2 - 3x + 2 < 0$$
$$(x - 1)(x - 2) < 0$$
$$1 < x < 2$$
(ii) $0 < a < 1$ のとき
不等号が反転。$x^2 > 3x - 2$
$$x^2 - 3x + 2 > 0$$
$$(x - 1)(x - 2) > 0$$
$$x < 1 \quad \text{または} \quad x > 2$$
底が文字の場合分け(P4パターン)と、指数部分が $x$ の2次式になる問題の融合です。場合分けの後は、2次不等式の基本的な解法に帰着します。$a > 1$ と $0 < a < 1$ で解の集合が「補集合」の関係になっていることにも注目しましょう。
不等式 $2 \cdot 4^x - 9 \cdot 2^x + 4 \leq 0$ を満たす $x$ の範囲を求めよ。さらに、この範囲における $y = 2^x - 2^{-x}$ の最大値と最小値を求めよ。
[前半] 不等式を解く
$4^x = (2^x)^2$ であるから、$2^x = t$($t > 0$)とおくと、
$$2t^2 - 9t + 4 \leq 0$$
$$(2t - 1)(t - 4) \leq 0$$
$$\frac{1}{2} \leq t \leq 4$$
$t > 0$ は満たされている。$2^{-1} \leq 2^x \leq 2^2$ より、
$$-1 \leq x \leq 2$$
[後半] $y = 2^x - 2^{-x}$ の最大値・最小値
$t = 2^x$ とおくと $2^{-x} = \dfrac{1}{t}$ であるから、
$$y = t - \frac{1}{t}$$
$-1 \leq x \leq 2$ すなわち $\dfrac{1}{2} \leq t \leq 4$ における $y = t - \dfrac{1}{t}$ の最大値・最小値を求める。
$y' = 1 + \dfrac{1}{t^2} > 0$ であるから、$y = t - \dfrac{1}{t}$ は $t > 0$ で単調増加。
$t = \dfrac{1}{2}$ のとき $y = \dfrac{1}{2} - 2 = -\dfrac{3}{2}$(最小値)
$t = 4$ のとき $y = 4 - \dfrac{1}{4} = \dfrac{15}{4}$(最大値)
よって、$x = -1$ のとき最小値 $-\dfrac{3}{2}$、$x = 2$ のとき最大値 $\dfrac{15}{4}$。
前半は2次帰着型の指数不等式(P2パターン)です。後半では、指数不等式で求めた $x$ の範囲を $t$ の範囲に読み替え、$t$ の関数の最大・最小を求めます。$y = t - \dfrac{1}{t}$ が単調増加であることは、微分を使わなくても「$t$ が増えると $t$ は増え $\dfrac{1}{t}$ は減るから、差 $t - \dfrac{1}{t}$ は増える」と説明できます。