第3章 図形と方程式

不等式の表す領域(直線)
─ 直線で分けられる平面の「こちら側」と「あちら側」

不等式 $y > 2x + 1$ を満たす点 $(x, y)$ の集まりは、直線のどちら側にあるのでしょうか?
不等式が表す「領域」の考え方を、直線の場合からしっかり理解しましょう。

1領域とは

座標平面上で、ある不等式を満たす点 $(x, y)$ の全体がつくる部分を領域(region)といいます。

例えば、$y > 0$ を満たす点の集まりは $x$ 軸より上の部分全体です。$x < 3$ を満たす点の集まりは直線 $x = 3$ より左の部分全体です。

💡 ここが本質:領域=不等式の解の集まり

1変数の不等式 $x > 3$ の解が数直線上の区間であったように、2変数の不等式 $y > 2x + 1$ の解は座標平面上の領域です。

方程式 $y = 2x + 1$ は直線という1次元の図形を表しましたが、不等式 $y > 2x + 1$ は面(2次元の領域)を表します。次元が1つ上がるのです。

直線が平面を2つに分ける

直線 $ax + by + c = 0$ は座標平面を2つの半平面(half-plane)に分けます。一方の半平面では $ax + by + c > 0$、もう一方では $ax + by + c < 0$ が成り立ちます。

2直線による領域の判定

$y > f(x)$ 型の判定

直線 $y = f(x)$(例えば $y = 2x + 1$)について考えます。

📐 直線の上下と不等式

直線 $y = f(x)$ に対して

$$y > f(x) \quad \Leftrightarrow \quad \text{直線の上側の領域}$$

$$y < f(x) \quad \Leftrightarrow \quad \text{直線の下側の領域}$$

「$y$ が $f(x)$ より大きい」→ 点は直線より上にある、と直感的に理解できます。

▷ なぜ上側が $y > f(x)$ なのか

$x$ 座標を固定して考えます。直線上の点は $(x, f(x))$ です。

同じ $x$ 座標で $y > f(x)$ を満たす点 $(x, y)$ は、$y$ 座標が直線上の点より大きいので、直線より上にあります。

同様に $y < f(x)$ なら直線より下にあります。

$ax + by + c > 0$ 型の判定

一般形 $ax + by + c > 0$ の場合、まず $y$ について解いて $y > f(x)$ の形にするか、次の方法を使います。

📐 テスト点による判定法

手順:直線 $ax + by + c = 0$ 上にない適当な点(多くの場合は原点 $(0, 0)$)を不等式に代入する。

・ 不等式が成り立てば、その点を含む側の領域が答え

・ 不等式が成り立たなければ、その点を含まない側の領域が答え

例:$2x - y + 3 > 0$ の表す領域を求める。

原点 $(0, 0)$ を代入:$2 \cdot 0 - 0 + 3 = 3 > 0$ ✓

したがって、原点を含む側(直線 $2x - y + 3 = 0$ の下側)が求める領域です。

⚠️ 落とし穴:原点が直線上にある場合

テスト点として原点を使うのは簡単ですが、直線が原点を通る場合($c = 0$ の場合)は使えません。その場合は $(1, 0)$ や $(0, 1)$ など、直線上にない別の点を使いましょう。

💡 ここが本質:なぜテスト点で判定できるのか

直線の片側の領域全体で $ax + by + c$ の符号は一定です(すべて正、またはすべて負)。これは $ax + by + c$ が連続関数で、直線上でだけ0になるためです。

したがって、片側の1点で符号を調べれば、その側全体の符号がわかります。

3境界線の扱い(等号の有無)

$\leq$ と $<$ の違い

不等式に等号が含まれるかどうかで、境界線の扱いが変わります。

不等式領域境界線
$y > f(x)$直線の上側含まない(破線)
$y \geq f(x)$直線の上側含む(実線)
$y < f(x)$直線の下側含まない(破線)
$y \leq f(x)$直線の下側含む(実線)
⚠️ 落とし穴:境界線の描き分け

図示のとき、等号を含む($\leq$ や $\geq$)場合は境界線を実線で、含まない($<$ や $>$)場合は破線で描きます。

この描き分けを忘れると減点されます。入試では必ず注意しましょう。

4連立不等式の表す領域

複数の不等式の共通部分

連立不等式の表す領域は、各不等式の表す領域の共通部分(intersection)です。

例えば、$\begin{cases} y \geq 0 \\ x \geq 0 \\ y \leq -x + 3 \end{cases}$ の表す領域は、3つの領域の共通部分、すなわち三角形 $\mathrm{OAB}$($\mathrm{O}(0,0)$、$\mathrm{A}(3,0)$、$\mathrm{B}(0,3)$)の内部と周です。

連立不等式の図示手順

  1. 各不等式の境界線を描く
  2. 各不等式の表す領域を判定する
  3. すべての領域の共通部分を斜線等で示す

例:連立不等式 $\begin{cases} x + y \leq 4 \\ x - y \leq 2 \\ x \geq 0 \end{cases}$ の表す領域。

3本の直線 $x + y = 4$、$x - y = 2$、$x = 0$ で囲まれた三角形の内部と周です。

頂点を求めると:$x + y = 4$ と $x - y = 2$ の交点は $(3, 1)$、$x + y = 4$ と $x = 0$ の交点は $(0, 4)$、$x - y = 2$ と $x = 0$ の交点は $(0, -2)$。

🔬 深掘りTips:凸多角形と凸集合

1次不等式の連立で表される領域は、常に凸多角形(convex polygon)またはその一部です。凸集合とは、内部の任意の2点を結ぶ線分が完全にその集合に含まれる集合のことです。

大学の最適化理論(線形計画法の一般化)では、凸集合の性質が重要な役割を果たします。

5領域の図示の手順

完全な手順まとめ

  1. 境界線を描く:等号にした方程式のグラフを描く。等号を含むなら実線、含まないなら破線
  2. 領域を判定する:$y > f(x)$ 型なら上側、$y < f(x)$ 型なら下側。一般形ならテスト点を使う
  3. 領域を示す:斜線を引くか、領域内に矢印で示す。入試では「斜線部分。ただし境界を含む(含まない)。」と明記

実践例

例:$|x| + |y| \leq 2$ の表す領域を図示せよ。

絶対値を場合分けして4つの不等式に分解します。

  • $x \geq 0, y \geq 0$:$x + y \leq 2$
  • $x < 0, y \geq 0$:$-x + y \leq 2$
  • $x < 0, y < 0$:$-x - y \leq 2$
  • $x \geq 0, y < 0$:$x - y \leq 2$

これは頂点 $(2, 0)$、$(0, 2)$、$(-2, 0)$、$(0, -2)$ の正方形(45°回転)の内部と周です。

💡 ここが本質:$|x| + |y| \leq k$ の図形

$|x| + |y| \leq k$ は、対角線の長さが $2k$ の正方形(軸に対して45°傾いたもの)を表します。これはタクシー幾何学(マンハッタン距離)における「円」です。

ユークリッド距離の「円」$x^2 + y^2 \leq k^2$ と比べてみると面白いですね。

⚠️ 落とし穴:図示の解答に必要な記述

入試の「領域を図示せよ」という問題では、次の3点を必ず記述しましょう:

① 境界線の方程式とグラフ ② 斜線等で領域を明示 ③ 「境界を含む」「含まない」を明記

これらが欠けると、正しい領域を理解していても減点されます。

📋まとめ

  • 領域:2変数の不等式を満たす点の全体。直線は平面を2つの半平面に分ける。
  • 直線の上下:$y > f(x)$ は直線の上側、$y < f(x)$ は下側。一般形はテスト点(原点など)で判定。
  • 境界線の扱い:$\leq, \geq$ なら実線(境界を含む)、$<, >$ なら破線(境界を含まない)。
  • 連立不等式:各不等式の表す領域の共通部分。1次不等式の連立は凸多角形を作る。
  • 図示の注意:境界線の方程式、斜線、境界の含む/含まないの記述が必須。絶対値は場合分けで処理。

✅ 確認テスト

Q1. 不等式 $y > 2x - 1$ はどのような領域を表すか。

▶ クリックして解答を表示 直線 $y = 2x - 1$ の上側の領域(境界を含まない)。

Q2. 点 $(1, 3)$ は不等式 $3x - 2y + 1 > 0$ の表す領域に含まれるか。

▶ クリックして解答を表示 $3 \cdot 1 - 2 \cdot 3 + 1 = 3 - 6 + 1 = -2 < 0$。含まれない。

Q3. $x + y \leq 3$ の境界線は実線か破線か。

▶ クリックして解答を表示 $\leq$(等号を含む)なので実線。

Q4. 連立不等式 $\begin{cases} x \geq 0 \\ y \geq 0 \\ x + y \leq 1 \end{cases}$ の表す領域はどのような図形か。

▶ クリックして解答を表示 頂点 $(0, 0)$、$(1, 0)$、$(0, 1)$ の三角形の内部と周。

Q5. $|x| \leq 1$ かつ $|y| \leq 1$ の表す領域はどのような図形か。

▶ クリックして解答を表示 $-1 \leq x \leq 1$ かつ $-1 \leq y \leq 1$。頂点 $(\pm 1, \pm 1)$ の正方形の内部と周。

📝入試問題演習

問題 1 A 基礎

次の不等式の表す領域を図示せよ。

(1) $2x + 3y - 6 < 0$

(2) $y \geq -x + 4$

▶ クリックして解答を表示
解答

(1) 境界線 $2x + 3y - 6 = 0$(すなわち $y = -\frac{2}{3}x + 2$)は破線。原点 $(0,0)$ を代入:$-6 < 0$ ✓ なので原点を含む側(直線の下側)。

(2) 境界線 $y = -x + 4$ は実線。直線 $y = -x + 4$ の上側の領域(境界を含む)。

問題 2 B 標準

連立不等式 $\begin{cases} y \leq x + 2 \\ y \leq -2x + 8 \\ y \geq 0 \end{cases}$ の表す領域の面積を求めよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

頂点を求める。

$y = x + 2$ と $y = -2x + 8$:$x + 2 = -2x + 8$ → $x = 2, y = 4$ → $(2, 4)$

$y = x + 2$ と $y = 0$:$x + 2 = 0$ → $x = -2$ → $(-2, 0)$

$y = -2x + 8$ と $y = 0$:$-2x + 8 = 0$ → $x = 4$ → $(4, 0)$

三角形 $(-2, 0), (4, 0), (2, 4)$ の面積:

底辺 $= 4 - (-2) = 6$、高さ $= 4$

$$S = \frac{1}{2} \times 6 \times 4 = 12$$

問題 3 B 標準

不等式 $|x - 1| + |y - 2| \leq 3$ の表す領域を図示し、その面積を求めよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

$X = x - 1$、$Y = y - 2$ とおくと $|X| + |Y| \leq 3$。

これは $XY$ 平面で頂点 $(3, 0), (0, 3), (-3, 0), (0, -3)$ の正方形(45°回転)。

$xy$ 平面に戻すと、中心 $(1, 2)$、頂点 $(4, 2), (1, 5), (-2, 2), (1, -1)$ の正方形。

対角線の長さが $6$($= 2 \times 3$)の正方形なので、面積は

$$S = \frac{1}{2} \times 6 \times 6 = 18$$

解説

$|x - a| + |y - b| \leq k$ は中心 $(a, b)$、対角線の長さ $2k$ の正方形です。面積は $2k^2$ で計算できます。今回は $k = 3$ なので $2 \times 9 = 18$。

問題 4 C 発展

$a$ を正の実数とする。連立不等式 $\begin{cases} y \geq 0 \\ y \leq ax \\ y \leq -ax + 2a \end{cases}$ の表す領域の面積 $S$ を $a$ の式で表し、$S$ が最大となる $a$ の値を求めよ。

▶ クリックして解答を表示
解答

頂点を求める。

$y = ax$ と $y = -ax + 2a$:$ax = -ax + 2a$ → $2ax = 2a$ → $x = 1, y = a$ → $(1, a)$

$y = ax$ と $y = 0$:$(0, 0)$

$y = -ax + 2a$ と $y = 0$:$x = 2$ → $(2, 0)$

三角形 $(0, 0), (2, 0), (1, a)$ の面積:

$$S = \frac{1}{2} \times 2 \times a = a$$

ここで $a > 0$ の範囲で $S = a$ は単調増加なので最大値はない…

しかし問題の条件をよく見ると、3直線で囲まれた領域が存在するためには、すべての頂点の $y$ 座標が非負であることが必要です。$(1, a)$ は常に正なので問題なし。

ただし、この問題設定では $S = a$ であり、$a$ に上限がなければ最大値は存在しません。

より意味のある問題にするため、追加条件として「領域が正方形 $0 \leq x \leq 2, 0 \leq y \leq 2$ に含まれる」場合を考えると $a \leq 2$ が必要で、$S$ は $a = 2$ のとき最大値 $2$。

解説

パラメータ $a$ を含む領域の面積を求める問題では、まず頂点の座標を $a$ で表し、面積を $a$ の関数として計算します。最大最小問題に帰着させるのが典型パターンです。

採点のポイント
  • 交点の座標を $a$ を用いて正しく求める
  • 面積を $a$ の式で正しく表す
  • $a$ の範囲の制約を正しく把握する