多項式の割り算で余りを求めるのに、わざわざ筆算する必要はありません。
「代入するだけ」で余りがわかる剰余の定理は、因数定理への入口であり、高次方程式を解くための強力な武器です。
整数の割り算で「$17 \div 5 = 3 \text{ 余り } 2$」と計算するように、多項式にも割り算があります。多項式 $P(x)$ を1次式 $x - a$ で割ったとき、その余りを一瞬で求められるのが剰余の定理です。
多項式 $P(x)$ を $x - a$ で割った余りは $P(a)$ に等しい。
つまり、割り算をしなくても $x = a$ を代入するだけで余りが求まります。
$P(x)$ を $x - a$ で割った商を $Q(x)$、余りを $R$ とする($x - a$ は1次式なので余りは定数)。
$$P(x) = (x - a)Q(x) + R$$
この等式は $x$ についての恒等式なので、任意の $x$ で成り立つ。$x = a$ を代入すると
$$P(a) = (a - a)Q(a) + R = 0 \cdot Q(a) + R = R$$
したがって、余り $R = P(a)$ である。■
多項式の割り算の等式 $P(x) = (x - a)Q(x) + R$ において、$x = a$ を代入すると $(x - a)$ の部分がちょうど $0$ になります。つまり商 $Q(x)$ がどんな式であっても影響しなくなり、余り $R$ だけが残るのです。
この「割る式を $0$ にする値を代入する」という発想が、剰余の定理の本質です。
一般に、多項式の割り算は次の等式で表されます。
$$P(x) = D(x) \cdot Q(x) + R(x)$$
ここで $D(x)$ は割る式、$Q(x)$ は商、$R(x)$ は余りです。余りの次数は割る式の次数より低くなります。$D(x) = x - a$(1次式)の場合、余りは0次式(定数)$R$ となります。
剰余の定理を使えば、割り算の筆算を行わなくても余りが直接計算できます。
例1:$P(x) = x^3 - 2x^2 + 3x - 4$ を $x - 2$ で割った余りを求める。
剰余の定理より、余りは $P(2)$ である。
$$P(2) = 2^3 - 2 \cdot 2^2 + 3 \cdot 2 - 4 = 8 - 8 + 6 - 4 = 2$$
よって余りは $2$。
例2:$P(x) = 2x^3 + x^2 - 5x + 1$ を $x + 1$ で割った余りを求める。
$x + 1 = x - (-1)$ なので、余りは $P(-1)$ である。
$$P(-1) = 2(-1)^3 + (-1)^2 - 5(-1) + 1 = -2 + 1 + 5 + 1 = 5$$
よって余りは $5$。
✗ $P(x)$ を $x + 3$ で割った余りは $P(3)$
✓ $x + 3 = x - (-3)$ なので余りは $P(-3)$
$x - a$ の $a$ に当たる値を代入します。$x + 3$ のときは $a = -3$ です。符号に注意しましょう。
組立除法(ホーナー法)は $P(x)$ を $x - a$ で割る筆算の簡略版です。組立除法の最後に出てくる値がまさに $P(a)$(=余り)に一致します。
例:$P(x) = x^3 - 2x^2 + 3x - 4$ を $x - 2$ で組立除法すると
| $1$ | $-2$ | $3$ | $-4$ | |
|---|---|---|---|---|
| $2$ | $2$ | $0$ | $6$ | |
| $1$ | $0$ | $3$ | $2$ |
最後の値 $2$ が余り、すなわち $P(2) = 2$ です。商は $x^2 + 3$ となります。
剰余の定理では余りしか求まりませんが、組立除法なら商と余りが同時に求まります。因数分解で商が必要な場面では組立除法を使い、余りだけが必要な場面では直接代入するのが効率的です。
割る式が $x - a$ だけでなく、一般の1次式 $ax + b$ の場合にも剰余の定理を拡張できます。
多項式 $P(x)$ を $ax + b$($a \neq 0$)で割った余りは $P\!\left(-\dfrac{b}{a}\right)$ に等しい。
$ax + b = 0$ の解 $x = -\dfrac{b}{a}$ を代入するだけです。
$P(x)$ を $ax + b$ で割った商を $Q(x)$、余りを $R$(定数)とすると
$$P(x) = (ax + b)Q(x) + R$$
$x = -\dfrac{b}{a}$ を代入すると $ax + b = 0$ となるから
$$P\!\left(-\frac{b}{a}\right) = 0 \cdot Q\!\left(-\frac{b}{a}\right) + R = R$$
よって余り $R = P\!\left(-\dfrac{b}{a}\right)$ である。■
例1:$P(x) = 4x^3 - 6x^2 + 5x - 1$ を $2x - 1$ で割った余りを求める。
$2x - 1 = 0$ の解は $x = \dfrac{1}{2}$ なので、余りは $P\!\left(\dfrac{1}{2}\right)$ である。
$$P\!\left(\frac{1}{2}\right) = 4 \cdot \frac{1}{8} - 6 \cdot \frac{1}{4} + 5 \cdot \frac{1}{2} - 1 = \frac{1}{2} - \frac{3}{2} + \frac{5}{2} - 1 = \frac{1}{2}$$
よって余りは $\dfrac{1}{2}$。
例2:$P(x) = 3x^3 + x^2 - 2$ を $3x + 2$ で割った余りを求める。
$3x + 2 = 0$ の解は $x = -\dfrac{2}{3}$ なので
$$P\!\left(-\frac{2}{3}\right) = 3\!\left(-\frac{2}{3}\right)^3 + \left(-\frac{2}{3}\right)^2 - 2 = 3 \cdot \left(-\frac{8}{27}\right) + \frac{4}{9} - 2 = -\frac{8}{9} + \frac{4}{9} - 2 = -\frac{22}{9}$$
よって余りは $-\dfrac{22}{9}$。
✗ 「整数係数の多項式だから余りも整数」と思い込む
✓ $2x - 1$ のような式で割ると余りは分数になりうる
$x - a$($a$ が整数)で割る場合は余りも整数になりますが、一般の1次式では分数の余りが出ることがあります。計算結果を確認しましょう。
剰余の定理はそのままでは1次式で割る場合にしか使えません。しかし、割る式が $(x - a)(x - b)$ のような2次式のとき、剰余の定理を巧みに利用して余りを求められます。
$P(x)$ を $(x - a)(x - b)$($a \neq b$)で割った余りは1次式以下なので $px + q$ とおける。
$$P(x) = (x - a)(x - b)Q(x) + px + q$$
$x = a$ を代入:$P(a) = pa + q$
$x = b$ を代入:$P(b) = pb + q$
この連立方程式を解いて $p, q$ を求める。
例:$P(x) = x^3 + 2x^2 - x + 3$ を $(x - 1)(x - 2)$ で割った余りを求める。
余りを $px + q$ とおくと
$$P(x) = (x-1)(x-2)Q(x) + px + q$$
$x = 1$ を代入:$P(1) = 1 + 2 - 1 + 3 = 5$ より $p + q = 5$ ……①
$x = 2$ を代入:$P(2) = 8 + 8 - 2 + 3 = 17$ より $2p + q = 17$ ……②
②-①より $p = 12$、①に代入して $q = -7$
よって余りは $12x - 7$。
2次式 $(x - a)(x - b)$ で割った余りは「1次式以下」なので、未知数が2つ($p$ と $q$)あります。1つの条件では2つの未知数は決まりません。$(x-a)(x-b) = 0$ の2つの解 $x = a, b$ を代入することで2つの条件が得られ、連立方程式として解けるのです。
一般に、$n$ 次式で割った余りは $n-1$ 次以下なので、$n$ 個の未知数に対して $n$ 個の条件が必要です。
割る式が $(x - a)^2$ の場合、$x = a$ の代入では1つの条件しか得られません。このときは微分を用いる方法が有効です。
$P(x) = (x - a)^2 Q(x) + px + q$ の両辺を微分すると
$$P'(x) = 2(x-a)Q(x) + (x-a)^2 Q'(x) + p$$
$x = a$ を代入すると $P'(a) = p$ が得られます。
例:$P(x) = x^3 - 3x + 2$ を $(x - 1)^2$ で割った余りを求める。
余りを $px + q$ とおく。$P(1) = 1 - 3 + 2 = 0$ より $p + q = 0$ ……①
$P'(x) = 3x^2 - 3$ より $P'(1) = 0$ なので $p = 0$ ……②
②を①に代入して $q = 0$。よって余りは $0$。
(これは $P(x) = (x-1)^2(x+2)$ と因数分解できることと整合します。)
$x - a$ で割る:余りは定数 $R = P(a)$(剰余の定理そのまま)
$(x-a)(x-b)$ で割る:余りは $px + q$、$P(a)$ と $P(b)$ から連立方程式
$(x-a)^2$ で割る:余りは $px + q$、$P(a)$ と $P'(a)$ から連立方程式
剰余の定理の特別な場合として、余りが $0$ のケースを考えると因数定理が得られます。
多項式 $P(x)$ について
$$P(a) = 0 \iff (x - a) \text{ は } P(x) \text{ の因数}$$
すなわち、$P(a) = 0$ であることと、$P(x)$ が $(x - a)$ で割り切れることは同値です。
剰余の定理より、$P(x) = (x - a)Q(x) + P(a)$ が成り立つ。
($\Rightarrow$) $P(a) = 0$ ならば $P(x) = (x-a)Q(x)$ となるから、$(x - a)$ は $P(x)$ の因数。
($\Leftarrow$) $(x - a)$ が $P(x)$ の因数ならば $P(x) = (x-a)Q(x)$ と書けるから、$P(a) = 0 \cdot Q(a) = 0$。■
剰余の定理は「$P(x)$ を $x-a$ で割った余りは $P(a)$」と述べています。因数定理は「その余りが $0$ なら割り切れる」という当たり前のことを言っているに過ぎません。
しかし、この単純な事実が高次方程式の解法で決定的な役割を果たします。$P(a) = 0$ となる $a$ を1つ見つければ、$(x - a)$ で因数分解して次数を下げられるからです。
例:$P(x) = x^3 - 6x^2 + 11x - 6$ を因数分解する。
$P(1) = 1 - 6 + 11 - 6 = 0$ なので因数定理より $(x - 1)$ は因数。
$P(2) = 8 - 24 + 22 - 6 = 0$ なので $(x - 2)$ も因数。
$P(3) = 27 - 54 + 33 - 6 = 0$ なので $(x - 3)$ も因数。
3次式で因数が3つ見つかったから
$$P(x) = (x - 1)(x - 2)(x - 3)$$
整数係数の多項式 $P(x) = a_n x^n + \cdots + a_0$ において、$P(a) = 0$ となる有理数 $a$ は $a = \pm \dfrac{(\text{定数項 } a_0 \text{ の約数})}{(\text{最高次係数 } a_n \text{ の約数})}$ の形をしています(有理根定理)。
最高次係数が $1$ のときは定数項の約数 $\pm 1, \pm 2, \ldots$ を順番に試すのが定石です。
✗ $P(a) \neq 0$ だから $(x - a)$ は因数でない → 「因数分解できない」と結論
✓ $P(a) \neq 0$ なのは「$(x - a)$ では割り切れない」だけ。他の値で試す
1つの値で割り切れなかっただけで因数分解を諦めてはいけません。複数の候補を試すことが大切です。
Q1. $P(x) = x^3 + 3x^2 - 5x + 2$ を $x - 1$ で割った余りを求めよ。
Q2. $P(x) = 2x^3 - x^2 + 4x - 3$ を $x + 2$ で割った余りを求めよ。
Q3. $P(x) = 6x^3 - 5x^2 + 3x + 2$ を $2x - 1$ で割った余りを求めよ。
Q4. $P(x) = x^3 - 4x + 5$ を $(x - 1)(x + 1)$ で割った余りを求めよ。
Q5. $P(x) = x^3 - 7x + 6$ について、$P(1)$ の値を求め、$P(x)$ を因数分解せよ。
多項式 $P(x) = x^4 - 3x^3 + 2x^2 + x - 1$ について、次の各問に答えよ。
(1) $P(x)$ を $x - 1$ で割った余りを求めよ。
(2) $P(x)$ を $x + 1$ で割った余りを求めよ。
(3) $P(x)$ を $x - 2$ で割った余りを求めよ。
(1) $P(1) = 1 - 3 + 2 + 1 - 1 = 0$
(2) $P(-1) = 1 + 3 + 2 - 1 - 1 = 4$
(3) $P(2) = 16 - 24 + 8 + 2 - 1 = 1$
(1) で余りが $0$ なので、因数定理より $(x - 1)$ は $P(x)$ の因数です。実際に $P(x) = (x-1)(x^3 - 2x^2 + 1)$ と因数分解できます。
多項式 $P(x)$ を $x - 1$ で割ると余りが $3$、$x - 3$ で割ると余りが $7$ である。$P(x)$ を $(x-1)(x-3)$ で割った余りを求めよ。
$(x-1)(x-3)$ は2次式なので余りは1次式以下。$P(x) = (x-1)(x-3)Q(x) + ax + b$ とおく。
条件より $P(1) = 3$、$P(3) = 7$。
$x = 1$:$a + b = 3$ ……①
$x = 3$:$3a + b = 7$ ……②
②-①より $2a = 4$ ∴ $a = 2$
①に代入:$b = 1$
よって余りは $2x + 1$。
多項式 $P(x)$ を $x^2 - 1$ で割った余りが $3x + 1$ であるとき、次の各問に答えよ。
(1) $P(x)$ を $x - 1$ で割った余りを求めよ。
(2) $P(x)$ を $x + 1$ で割った余りを求めよ。
$x^2 - 1 = (x-1)(x+1)$ なので
$$P(x) = (x-1)(x+1)Q(x) + 3x + 1$$
(1) $x = 1$ を代入:$P(1) = 0 + 3 \cdot 1 + 1 = 4$
よって $P(x)$ を $x - 1$ で割った余りは $4$。
(2) $x = -1$ を代入:$P(-1) = 0 + 3 \cdot (-1) + 1 = -2$
よって $P(x)$ を $x + 1$ で割った余りは $-2$。
$x^2 - 1 = (x-1)(x+1)$ と因数分解できることがキーです。「2次式で割った余り」がわかっていれば、その因数である1次式で割った余りは代入で求まります。逆に、1次式で割った余りから2次式で割った余りを構成するのが問題2のパターンです。
多項式 $P(x)$ を $(x - 1)^2$ で割ると余りが $2x + 3$、$x + 1$ で割ると余りが $1$ である。$P(x)$ を $(x-1)^2(x+1)$ で割った余りを求めよ。
$(x-1)^2(x+1)$ は3次式なので、余りは2次式以下。$R(x) = ax^2 + bx + c$ とおくと
$$P(x) = (x-1)^2(x+1)Q(x) + ax^2 + bx + c$$
$P(x)$ を $(x-1)^2$ で割った余りが $2x + 3$ なので
$$P(x) = (x-1)^2 S(x) + 2x + 3$$
$x = 1$ を代入:$P(1) = 2 + 3 = 5$ ……(i)
$P(x)$ を $x + 1$ で割った余りが $1$ なので $P(-1) = 1$ ……(ii)
さらに、$P(x)$ を $(x-1)^2$ で割った余りが $2x + 3$ であることから、$R(x)$ を $(x-1)^2$ で割った余りも $2x + 3$ でなければならない。
$R(x) = ax^2 + bx + c$ を $(x-1)^2 = x^2 - 2x + 1$ で割ると
$$ax^2 + bx + c = a(x^2 - 2x + 1) + (2a + b)x + (c - a)$$
よって余りは $(2a + b)x + (c - a)$。これが $2x + 3$ に等しいので
$2a + b = 2$ ……③
$c - a = 3$ ……④
(ii)より $R(-1) = a - b + c = 1$ ……⑤
③より $b = 2 - 2a$、④より $c = a + 3$。⑤に代入:
$a - (2 - 2a) + (a + 3) = 1$
$4a + 1 = 1$ ∴ $a = 0$
$b = 2, c = 3$
よって余りは $2x + 3$。
$R(x) = 2x + 3$(実は1次式)。$R(1) = 5 = P(1)$ ✓、$R(-1) = 1 = P(-1)$ ✓。また $R(x)$ を $(x-1)^2$ で割った余りは $R(x)$ 自身($R$ は1次式で次数が低い)= $2x + 3$ ✓。すべての条件を満たしています。