第1章 式と計算

等式の証明
─ 「等しい」を論理的に示す技術

「$A = B$ を証明せよ」── 当たり前に見える等式ほど、論理的に正しく示すのは難しいものです。
証明の基本戦略と、条件つき等式の扱い方をマスターしましょう。

1等式の証明の基本方針

$A = B$ を証明するには、主に3つの方法があります。

📐 等式 $A = B$ の証明方法

方法1(差が0):$A - B = 0$ を示す

方法2(片辺変形):$A$ を変形して $B$ を導く(または $B$ から $A$)

方法3(両辺変形):$A$ と $B$ をそれぞれ変形して同じ式 $C$ を導く

どの方法でも、変形は同値変形であることが重要です。

方法1:$A - B = 0$ を示す

最も基本的かつ汎用的な方法です。$A - B$ を計算して $0$ になることを確認します。

例:$(a+b)^2 - (a-b)^2 = 4ab$ を証明せよ。

左辺 $-$ 右辺を計算:

$$(a+b)^2 - (a-b)^2 - 4ab = (a^2+2ab+b^2) - (a^2-2ab+b^2) - 4ab = 4ab - 4ab = 0$$

よって $(a+b)^2 - (a-b)^2 = 4ab$。 ■

方法2:片辺を変形

例:$(a+b+c)(ab+bc+ca) - abc = (a+b)(b+c)(c+a)$ を証明せよ。

右辺を展開:

$$(a+b)(b+c)(c+a) = (ab+ac+b^2+bc)(c+a)$$ $$= abc + a^2b + ac^2 + a^2c + b^2c + ab^2 + bc^2 + abc$$ $$= a^2b + a^2c + ab^2 + b^2c + ac^2 + bc^2 + 2abc$$

左辺も展開して同じ式になることを確認できます。 ■

🌱 本質理解

等式の証明で最も大切なのは「等号を挟んで両辺を行き来しない」ことです。「$A = B$」と最初に書いてしまうと、証明したいことを仮定したことになります。$A$ から出発して $B$ に到達する、$A - B$ を計算して $0$ に到達する、のように一方通行で書くのが正しい証明です。

2条件つき等式の証明

「$a + b + c = 0$ のとき $a^3 + b^3 + c^3 = 3abc$ を証明せよ」のように、ある条件のもとで等式を示す問題です。

📐 条件つき等式の証明方法

方法A:条件式を使って文字を消去(1つの文字を他で表す)

方法B:条件式を使って式を変形(条件式の一部を代入)

方法C:パラメータ(比の値 $k$ など)を導入

方法A:文字の消去

$a + b + c = 0$ のとき、$a^3 + b^3 + c^3 = 3abc$ を証明。

$c = -(a+b)$ を代入して左辺 $-$ 右辺を計算:

$$a^3 + b^3 + (-(a+b))^3 - 3ab(-(a+b))$$ $$= a^3 + b^3 - a^3 - 3a^2b - 3ab^2 - b^3 + 3a^2b + 3ab^2 = 0$$

よって $a^3 + b^3 + c^3 = 3abc$。 ■

方法B:因数分解の利用

同じ問題を別のアプローチで:

$$a^3 + b^3 + c^3 - 3abc = (a + b + c)(a^2 + b^2 + c^2 - ab - bc - ca)$$

$a + b + c = 0$ より右辺 $= 0$。したがって $a^3 + b^3 + c^3 = 3abc$。 ■

⚠️ よくある誤り

✗ 条件式を使い忘れて、無条件に等式が成り立つかのように証明する

✓ 条件式がどこで使われたかを明示する

条件つき等式は無条件では成り立ちません。条件をどの段階で使ったかを示すことが重要です。

3比例式と等式の証明

$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ のような比例式が条件のとき、共通の比 $k$ を導入する手法が強力です。

📐 比の値 $k$ の導入

$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d} = k$ とおくと、$a = bk, \, c = dk$ と表せる。

証明したい等式に代入すれば、$k$ を含む式の計算に帰着する。

例題

$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ のとき、$\dfrac{a^2 + c^2}{b^2 + d^2} = \dfrac{ac}{bd}$ を証明せよ。

$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d} = k$ とおくと $a = bk, c = dk$。

左辺 $= \dfrac{b^2k^2 + d^2k^2}{b^2 + d^2} = \dfrac{k^2(b^2 + d^2)}{b^2 + d^2} = k^2$

右辺 $= \dfrac{bk \cdot dk}{bd} = k^2$

左辺 $=$ 右辺 $= k^2$。 ■

連比の場合

$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d} = \dfrac{e}{f}$ のとき、$k$ を1つ導入すれば $a = bk, c = dk, e = fk$ とすべて表せます。

💡 比の値を使う判断基準

条件が比例式($\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$)や連比なら、迷わず $k$ を導入しましょう。分数を含む等式の証明で計算が複雑になる場合の特効薬です。

注意:$b = 0$ や $d = 0$ のケースは別に議論が必要なことがあります。

4「少なくとも1つ」「すべて」の証明

やや発展的ですが、等式の証明に関連して「少なくとも1つは $0$」などの命題が出題されます。

例題:$a + b + c = 0$ のとき、$a, b, c$ の少なくとも1つは $0$ …は偽

$a = 1, b = 1, c = -2$ で反例が作れるので、これは偽です。

典型問題

$a^2 + b^2 + c^2 = ab + bc + ca$ のとき、$a = b = c$ を証明せよ。

$2(a^2 + b^2 + c^2) - 2(ab + bc + ca) = 0$ より

$$(a-b)^2 + (b-c)^2 + (c-a)^2 = 0$$

実数の2乗の和が $0$ になるのは、各項がすべて $0$ のときに限るので:

$$a - b = 0, \quad b - c = 0, \quad c - a = 0$$

したがって $a = b = c$。 ■

🌱 本質理解

「実数の2乗の和 $= 0 \implies$ 各項 $= 0$」は非常に強力な手法です。条件式を変形して「$(\text{何か})^2 + (\text{何か})^2 + \cdots = 0$」の形にできれば、各「何か」$= 0$ が結論できます。不等式の証明でも頻出するテクニックです。

5証明の書き方と論理構造

等式の証明で減点されやすいポイントを整理します。

⚠️ 証明の書き方での注意点

✗ 「$A = B$」を最初に書いて変形する(証明すべきことを仮定している)

✓ 「$A - B$ を計算すると…」や「左辺を変形すると…」で始める

✗ 途中で等号の向きを逆にする($A = C = D = B$ のように書く)

✓ 変形は一方向で、$A = C_1 = C_2 = \cdots = B$ と書く

証明の型テンプレート

方法書き出し締め方
差が0$A - B$ を計算する。$= 0$ よって $A = B$ ■
片辺変形(左辺)$=$(展開・変形)$=$ (右辺)■
両辺変形左辺 $= C$、右辺 $= C$ゆえに左辺 $=$ 右辺 ■
📝 「逆向きの証明」が許される場合

$A = B \iff C = D \iff \cdots \iff \text{(既知の事実)}$ のように、すべての変形が同値変形($\iff$)なら、逆向きに辿ることで $A = B$ が証明できます。

ただし、答案に書く場合は同値記号 $\iff$ を明示し、「この変形は同値である」ことを意識する必要があります。単に $=$ で繋いだだけでは同値変形の保証がありません。

💡 大学数学への架け橋

大学の代数学では、等式の証明は「環の公理」に基づいて行われます。高校で「当たり前」として使っている分配法則や交換法則も、抽象代数では「証明すべき定理」になります。ここで身につける「変形の根拠を明示する習慣」は、大学数学の厳密な議論に直結します。

まとめ

  • 基本3方法差が0(最も汎用的)、片辺変形両辺変形で同一式へ。
  • 条件つき:文字消去(1変数を他で表す)、因数分解の利用、パラメータ $k$ 導入。
  • 比例式:$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d} = k$ としてパラメータ化
  • 2乗の和 $= 0$:各項 $= 0$ を導く強力なテクニック。
  • 書き方:証明すべき等式を仮定しない。変形は一方向。条件の使用箇所を明示。

✅ 確認テスト

Q1. $A = B$ の証明で最も基本的な方法は何か?

▶ クリックして解答を表示 $A - B = 0$ を示す方法。差を計算して $0$ になることを確認する。

Q2. $\dfrac{a}{2} = \dfrac{b}{3} = \dfrac{c}{5}$ のとき、$\dfrac{a+b+c}{a-b+c}$ の値は?

▶ クリックして解答を表示 $k$ とおくと $a=2k, b=3k, c=5k$。$\dfrac{2k+3k+5k}{2k-3k+5k} = \dfrac{10k}{4k} = \dfrac{5}{2}$。

Q3. $x + y = 3, \, xy = 1$ のとき、$x^2 + y^2$ の値は?

▶ クリックして解答を表示 $x^2 + y^2 = (x+y)^2 - 2xy = 9 - 2 = 7$。

Q4. $(a-b)^2 + (b-c)^2 + (c-a)^2 = 0$ から何が言えるか?

▶ クリックして解答を表示 $a, b, c$ が実数のとき、各2乗 $\geq 0$ でその和が $0$ なので、$a-b=0, b-c=0, c-a=0$。よって $a = b = c$。

Q5. 等式の証明で「$A = B$ を示す」と書いて両辺を同時に変形してはいけない理由は?

▶ クリックして解答を表示 証明すべき $A = B$ を仮定してしまうことになるため。これは「循環論法」にあたり、論理的に正しくない。必ず片辺から出発するか、差を計算する。

📝入試問題演習

問題 1 A 基礎

$a + b + c = 0$ のとき、次の等式を証明せよ。

$$a^2(b+c) + b^2(c+a) + c^2(a+b) = -3abc$$

▶ クリックして解答を表示
証明

$a + b + c = 0$ より $b + c = -a, \, c + a = -b, \, a + b = -c$。

左辺 $= a^2(-a) + b^2(-b) + c^2(-c) = -(a^3 + b^3 + c^3)$

$a + b + c = 0$ のとき $a^3 + b^3 + c^3 = 3abc$ であるから(前節で証明済み):

左辺 $= -3abc =$ 右辺。 ■

問題 2 B 標準

$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$($b \neq 0, d \neq 0, b + d \neq 0$)のとき、次の等式を証明せよ。

$$\frac{a+c}{b+d} = \frac{a}{b}$$

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証明

$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d} = k$ とおくと、$a = bk, \, c = dk$。

$$\frac{a+c}{b+d} = \frac{bk + dk}{b+d} = \frac{k(b+d)}{b+d} = k = \frac{a}{b}$$

よって $\dfrac{a+c}{b+d} = \dfrac{a}{b}$。 ■

補足

この結果は「比の性質」として知られ、$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ ならば $\dfrac{a+c}{b+d} = \dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ が成り立ちます。一般に $\dfrac{ma + nc}{mb + nd} = k$($mb + nd \neq 0$)も成立します。

問題 3 B 標準

$a + b + c \neq 0$ かつ $a^2 + b^2 + c^2 = ab + bc + ca$ のとき、$a = b = c$ を証明せよ。

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証明

$a^2 + b^2 + c^2 - ab - bc - ca = 0$ の両辺を $2$ 倍すると:

$$2a^2 + 2b^2 + 2c^2 - 2ab - 2bc - 2ca = 0$$

$$(a^2 - 2ab + b^2) + (b^2 - 2bc + c^2) + (c^2 - 2ca + a^2) = 0$$

$$(a-b)^2 + (b-c)^2 + (c-a)^2 = 0$$

$a, b, c$ は実数なので $(a-b)^2 \geq 0, \, (b-c)^2 \geq 0, \, (c-a)^2 \geq 0$。

これらの和が $0$ となるのは、各項がすべて $0$ のときに限る。

よって $a - b = 0, \, b - c = 0, \, c - a = 0$ すなわち $a = b = c$。 ■

採点のポイント
  • 2倍して完全平方の和に変形(4点)
  • 実数の2乗≧0 の議論(3点)
  • 結論 $a = b = c$(3点)
問題 4 C 発展

$\dfrac{b+c-a}{a} = \dfrac{c+a-b}{b} = \dfrac{a+b-c}{c}$ のとき、この比の値を求め、$a, b, c$ の関係を述べよ。

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解答

比の値を $k$ とおく。

$b + c - a = ak, \quad c + a - b = bk, \quad a + b - c = ck$

3式を辺々加えると:

$(b+c-a) + (c+a-b) + (a+b-c) = (a+b+c)k$

$a + b + c = (a+b+c)k$

場合1:$a + b + c \neq 0$ のとき、$k = 1$

$k = 1$ を第1式に代入:$b + c - a = a \implies b + c = 2a$

第2式:$c + a = 2b$、第3式:$a + b = 2c$

$b + c = 2a$ と $c + a = 2b$ を引くと $b - a = 2a - 2b \implies 3b = 3a \implies a = b$

同様に $b = c$。よって $a = b = c$。

場合2:$a + b + c = 0$ のとき

$b + c = -a$ より第1式 $= \dfrac{-2a}{a} = -2$、同様にすべて $-2$。よって $k = -2$。

答え:比の値は $k = 1$($a = b = c$)または $k = -2$($a + b + c = 0$)

採点のポイント
  • $k$ の導入と3式の加法(3点)
  • $a+b+c \neq 0$ と $= 0$ の場合分け(3点)
  • 各場合での結論(4点)