楕円・放物線・双曲線は、一見まったく異なる曲線に見えます。しかし「離心率」というたった1つの数値を導入すると、これら3種の曲線は1つの定義から統一的に生まれることがわかります。離心率は曲線の「つぶれ具合」を表す指標であり、0に近いほど円に、1で放物線に、1より大きくなるほど双曲線になります。
2次曲線を統一的に扱うための鍵が離心率(eccentricity)です。定点(焦点)と定直線(準線)からの距離の比として定義されます。
定点 $F$(焦点)と、$F$ を通らない定直線 $\ell$(準線)に対して、
$$\frac{\text{点 $P$ と焦点 $F$ の距離}}{\text{点 $P$ と準線 $\ell$ の距離}} = e \quad (\text{一定})$$
を満たす点 $P$ の軌跡が2次曲線です。この定数 $e$ を離心率と呼びます。
※ $PF = e \cdot Pd$($Pd$ は $P$ から準線への距離)と書くこともあります。
離心率 $e$ は、焦点に近づこうとする力と、準線から離れようとする力のバランスを表しています。
$e$ が小さい($0 < e < 1$)と焦点方向の「引力」が弱く、曲線は準線の影響で丸く閉じます(楕円)。$e = 1$ でちょうど釣り合い、曲線は開くか閉じるかの境目(放物線)。$e > 1$ では焦点の「引力」が強く、曲線は大きく開きます(双曲線)。
焦点 $F(c, 0)$、準線 $\ell: x = \dfrac{a^2}{c}$ の場合を考えます($a > 0$, $c > 0$)。点 $P(x, y)$ に対して:
$$PF = \sqrt{(x-c)^2 + y^2}, \quad Pd = \left|x - \frac{a^2}{c}\right|$$
$PF = e \cdot Pd$ を2乗して整理すると、$e$ の値に応じて楕円・放物線・双曲線の標準形が得られます。
離心率の値によって、曲線の種類が完全に決まります。
$0 < e < 1$ のとき:楕円 ($e = 0$ は円に退化)
$e = 1$ のとき:放物線
$e > 1$ のとき:双曲線
| 離心率 $e$ | 曲線 | $a, b, c$ の関係 | 形状の特徴 |
|---|---|---|---|
| $e = 0$ | 円 | $c = 0$ | 焦点が中心に一致 |
| $0 < e < 1$ | 楕円 | $c^2 = a^2 - b^2$、$e = c/a$ | $e$ が小さいほど円に近い |
| $e = 1$ | 放物線 | 焦点と準線で定義 | 開いた曲線(閉じない) |
| $e > 1$ | 双曲線 | $c^2 = a^2 + b^2$、$e = c/a$ | $e$ が大きいほど鋭く開く |
✗ 誤:楕円も双曲線も $c^2 = a^2 - b^2$
○ 正:楕円は $c^2 = a^2 - b^2$($a > b$)、双曲線は $c^2 = a^2 + b^2$
ただし離心率の式はどちらも $e = c/a$ です。楕円では $c < a$ なので $e < 1$、双曲線では $c > a$ なので $e > 1$ となります。
✗ 誤:放物線でも $e = c/a$ が使える
○ 正:放物線は焦点と準線のみで定義され、$a$ は登場しない。$e = 1$ は分類の結果であり、$c/a$ の極限として理解する
楕円で $b \to 0$($a$ を固定)とすると $c \to a$ で $e \to 1$ となり、楕円が「極限的に細くなって」放物線に近づくイメージです。
楕円 $\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1$($a > b > 0$)の離心率は $e = \dfrac{c}{a}$ です。ここで $c = \sqrt{a^2 - b^2}$ は焦点から中心までの距離です。
$$e = \frac{c}{a} = \frac{\sqrt{a^2 - b^2}}{a} = \sqrt{1 - \frac{b^2}{a^2}}$$
※ $0 < e < 1$。$e \to 0$ で円に近づき、$e \to 1$ で極端に細長くなる。
離心率が持つ直感的な意味を理解するために、いくつかの値を比較してみましょう。
| 楕円 | $a$ | $b$ | $c$ | $e = c/a$ | 形状 |
|---|---|---|---|---|---|
| $x^2 + y^2 = 1$ | 1 | 1 | 0 | 0 | 円(特殊な楕円) |
| $\dfrac{x^2}{4} + \dfrac{y^2}{3} = 1$ | 2 | $\sqrt{3}$ | 1 | 0.5 | やや細長い |
| $\dfrac{x^2}{25} + \dfrac{y^2}{7} = 1$ | 5 | $\sqrt{7}$ | $3\sqrt{2}$ | $\approx 0.85$ | かなり細長い |
$e = \sqrt{1 - (b/a)^2}$ なので、$b/a$ が決まれば $e$ も決まります(逆も同様)。
$b/a$ が1に近い(短軸と長軸がほぼ等しい)$\Leftrightarrow$ $e$ が0に近い(円に近い)
$b/a$ が0に近い(短軸が長軸に比べて極端に短い)$\Leftrightarrow$ $e$ が1に近い(細長い)
✗ 誤:離心率 $e$ と扁平率 $f = 1 - b/a$ は同じもの
○ 正:$e = \sqrt{1-(b/a)^2}$ と $f = 1 - b/a$ は別物。地球の離心率は $e \approx 0.017$、扁平率は $f \approx 0.003$
天文学や測地学では両方の概念が使われます。混同しないようにしましょう。
ケプラーの第一法則により、惑星は太陽を焦点の1つとする楕円軌道を描きます。地球の離心率は $e \approx 0.017$ で、ほぼ円に近い楕円です。一方、冥王星は $e \approx 0.25$ で、かなり「偏った」楕円軌道を持ちます。彗星の中には $e$ が1に近いものもあり、放物線軌道に近い経路で太陽系を通過していきます。
双曲線 $\dfrac{x^2}{a^2} - \dfrac{y^2}{b^2} = 1$ の離心率は $e = \dfrac{c}{a}$($c = \sqrt{a^2 + b^2}$)です。$c > a$ なので常に $e > 1$ です。
$$e = \frac{c}{a} = \frac{\sqrt{a^2 + b^2}}{a} = \sqrt{1 + \frac{b^2}{a^2}}$$
※ $e > 1$。$e \to 1$ で放物線に近づき、$e$ が大きいほど漸近線の開きが大きくなる。
双曲線の漸近線の傾きは $\pm\dfrac{b}{a}$ です。$e = \sqrt{1 + (b/a)^2}$ なので、漸近線の傾きが急になるほど($b/a$ が大きいほど)離心率は大きくなります。
| $e$ の値 | $b/a$ の値 | 漸近線の傾き | 双曲線の形状 |
|---|---|---|---|
| $e \to 1^+$ | $b/a \to 0$ | $\pm 0$(ほぼ水平) | 極端に細く開く(放物線に近い) |
| $e = \sqrt{2}$ | $b/a = 1$ | $\pm 1$($45°$) | 直角双曲線 |
| $e = 2$ | $b/a = \sqrt{3}$ | $\pm\sqrt{3}$($60°$) | 大きく開いた双曲線 |
2次曲線の世界では、離心率 $e = 1$ が決定的な境界です。
$e < 1$(楕円):曲線は閉じている。有限の範囲に収まる。
$e = 1$(放物線):曲線は開いている。片方向に無限に伸びる。
$e > 1$(双曲線):曲線は2つに分かれて開いている。両方向に無限に伸びる。
物理学では、この境界は「束縛状態」と「散乱状態」の分岐に対応します。
2次曲線は「円錐を平面で切った断面」として得られるため円錐曲線(conic section)とも呼ばれます。切断面の傾きが母線と平行なとき放物線($e = 1$)、より緩やかな角度で楕円($e < 1$)、より急な角度で双曲線($e > 1$)が現れます。離心率は、この切断角度を数値化したものとも解釈できます。
離心率を使うと、2次曲線の極方程式が統一的に書けます。焦点を極とする極座標 $(r, \theta)$ を用いると:
$$r = \frac{l}{1 - e\cos\theta}$$
ここで $l$ は半直弦(semi-latus rectum)で、焦点を通り主軸に垂直な弦の半分の長さ。
楕円:$l = \dfrac{b^2}{a}$、放物線:$l = 2p$、双曲線:$l = \dfrac{b^2}{a}$
楕円の右焦点 $F(c, 0)$ を極とし、$P$ の極座標を $(r, \theta)$ とすると $x = c + r\cos\theta$, $y = r\sin\theta$ です。
楕円の焦点距離公式 $PF = a - ex$($F$ が右焦点のとき)より:
$$r = a - e(c + r\cos\theta) = a - ec - er\cos\theta$$
$ec = e \cdot ea = e^2 a$ より $r = a(1 - e^2) - er\cos\theta$
$$r(1 + e\cos\theta) = a(1-e^2) \quad \Rightarrow \quad r = \frac{a(1-e^2)}{1 + e\cos\theta}$$
$l = a(1-e^2) = \dfrac{b^2}{a}$ とおけば $r = \dfrac{l}{1 + e\cos\theta}$ を得ます。
(左焦点を極とする場合は $r = \dfrac{l}{1 - e\cos\theta}$ となります。)
✗ 誤:極方程式は常に $r = \dfrac{l}{1 + e\cos\theta}$
○ 正:右焦点を極にすると分母は $1 + e\cos\theta$、左焦点を極にすると $1 - e\cos\theta$
問題で「焦点を極とする」と書かれたら、どちらの焦点かを確認しましょう。教科書によって慣習が異なります。
楕円 $\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1$ の焦点 $F(c, 0)$ から楕円上の点 $P(x, y)$ までの距離は:
$$PF = |a - ex| \quad \text{(右焦点の場合:$PF = a - ex$)}$$
もう1つの焦点 $F'(-c, 0)$ からは $PF' = a + ex$ です。したがって $PF + PF' = 2a$ が確認でき、楕円の定義と整合します。
ニュートンは『プリンキピア』で、逆2乗法則に従う万有引力のもとでの天体の軌道が円錐曲線になることを証明しました。エネルギーが負なら楕円軌道(束縛)、ゼロなら放物線軌道(脱出速度ちょうど)、正なら双曲線軌道(飛来して去る)です。離心率は軌道のエネルギーと角運動量で決まり、$e = \sqrt{1 + \dfrac{2EL^2}{mk^2}}$($E$: エネルギー、$L$: 角運動量)と表せます。
Q1. 楕円 $\dfrac{x^2}{25} + \dfrac{y^2}{16} = 1$ の離心率は?
Q2. 離心率が $e = \sqrt{2}$ の双曲線では、漸近線の傾きは?
Q3. 放物線の離心率は?
Q4. $e = 0$ のとき、2次曲線はどうなる?
Q5. 楕円 $\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1$ の半直弦 $l$ の値は?
楕円 $\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1$ の離心率が $\dfrac{1}{2}$ であり、焦点間の距離が $4$ であるとき、$a$ と $b$ の値を求めよ。
焦点間の距離が $4$ より $2c = 4$、$c = 2$。
$e = c/a = 1/2$ より $a = 2c = 4$。
$b^2 = a^2 - c^2 = 16 - 4 = 12$ より $b = 2\sqrt{3}$。
答え:$a = 4$, $b = 2\sqrt{3}$
双曲線 $\dfrac{x^2}{a^2} - \dfrac{y^2}{b^2} = 1$ の漸近線の1つが直線 $y = \sqrt{3}\,x$ であるとき、この双曲線の離心率を求めよ。
漸近線 $y = \pm\dfrac{b}{a}x$ より $\dfrac{b}{a} = \sqrt{3}$、すなわち $b = \sqrt{3}\,a$。
$c^2 = a^2 + b^2 = a^2 + 3a^2 = 4a^2$ より $c = 2a$。
$$e = \frac{c}{a} = 2$$
楕円 $\dfrac{x^2}{9} + \dfrac{y^2}{4} = 1$ の左焦点を極とする極方程式を求めよ。
$a = 3$, $b = 2$, $c = \sqrt{9-4} = \sqrt{5}$
$e = \dfrac{\sqrt{5}}{3}$、$l = \dfrac{b^2}{a} = \dfrac{4}{3}$
左焦点を極とする場合:
$$r = \frac{l}{1 - e\cos\theta} = \frac{\frac{4}{3}}{1 - \frac{\sqrt{5}}{3}\cos\theta} = \frac{4}{3 - \sqrt{5}\cos\theta}$$
楕円 $\dfrac{x^2}{a^2} + \dfrac{y^2}{b^2} = 1$($a > b > 0$)の2つの焦点を $F$, $F'$ とし、楕円上の点 $P$ における $\angle FPF'$ の最大値を $\alpha$ とする。$\cos\alpha$ を離心率 $e$ で表せ。
$PF = r_1$, $PF' = r_2$ とおくと、$r_1 + r_2 = 2a$(楕円の定義)。
余弦定理より $FF'^2 = r_1^2 + r_2^2 - 2r_1 r_2 \cos\alpha$ すなわち
$$4c^2 = r_1^2 + r_2^2 - 2r_1 r_2 \cos\alpha$$
$(r_1 + r_2)^2 = r_1^2 + r_2^2 + 2r_1 r_2 = 4a^2$ より $r_1^2 + r_2^2 = 4a^2 - 2r_1 r_2$。代入すると:
$$4c^2 = 4a^2 - 2r_1 r_2 - 2r_1 r_2 \cos\alpha = 4a^2 - 2r_1 r_2(1 + \cos\alpha)$$
$\angle FPF'$ が最大のとき、$r_1 r_2$ が最大となる点、すなわち短軸の端点 $P(0, b)$ です($r_1 = r_2 = a$ のとき $r_1 r_2 = a^2$)。
実際は $\alpha$ が最大 $\Leftrightarrow$ $\cos\alpha$ が最小 $\Leftrightarrow$ $r_1 r_2$ が最小。相加相乗の関係 $r_1 r_2 \le (r_1+r_2)^2/4 = a^2$ と $r_1 r_2 \ge b^2$(焦点距離公式から)を用いて、
$P$ が短軸の端点のとき $r_1 = r_2 = a$ で:
$$4c^2 = 4a^2 - 2a^2(1 + \cos\alpha)$$
$$2c^2 = 2a^2 - a^2(1+\cos\alpha)$$
$$1 + \cos\alpha = \frac{2(a^2 - c^2)}{a^2} = \frac{2b^2}{a^2}$$
$$\cos\alpha = \frac{2b^2}{a^2} - 1 = \frac{2b^2 - a^2}{a^2} = \frac{2(a^2-c^2) - a^2}{a^2} = 1 - \frac{2c^2}{a^2} = 1 - 2e^2$$
答え:$\cos\alpha = 1 - 2e^2$
$\angle FPF'$ が最大になるのは $P$ が短軸の端点のときです。これは直感的にも理解できます:$P$ が短軸の端点にあるとき、$F$ と $F'$ を最も「広い角度」で見渡せるからです。結果の $\cos\alpha = 1 - 2e^2$ は、$e$ が大きいほど $\alpha$ が大きくなることを示しています。