空間における平面は、直線と並んで最も基本的な図形です。平面を方程式で表すには「法線ベクトル」という考え方が鍵になります。法線ベクトルの方向さえ決まれば、平面の向きは一意に定まる ── この原理を理解すれば、点と平面の距離の公式も自然に導けます。ここでは平面の方程式の導出から距離の公式まで、ベクトルの内積を武器に一貫した方法で攻略していきましょう。
空間において平面を1つ決めるには、何が必要でしょうか。直感的には「通る1点」と「平面の向き」がわかればよさそうです。では「平面の向き」をどう指定するか ── ここで登場するのが法線ベクトルです。
法線ベクトルとは、平面に垂直なベクトルのことです。平面上のどの方向ベクトルとも直交するベクトルであり、平面の「表裏」の向きを決定します。
平面上の任意の点 $\vec{r}$ と定点 $\vec{r}_0$ を結ぶベクトル $\vec{r} - \vec{r}_0$ は、必ず平面上にあります。法線ベクトル $\vec{n}$ は平面に垂直だから、内積が $0$ になる:
$$\vec{n} \cdot (\vec{r} - \vec{r}_0) = 0$$
これが平面のベクトル方程式です。「法線と平面上ベクトルは直交する」── たったこれだけの原理から、平面の方程式が導かれます。
法線ベクトルを $\vec{n} = (a, b, c)$、平面上の定点を $A(x_0, y_0, z_0)$、平面上の任意の点を $P(x, y, z)$ とします。$\overrightarrow{AP} = (x - x_0,\; y - y_0,\; z - z_0)$ なので:
$$\vec{n} \cdot \overrightarrow{AP} = a(x - x_0) + b(y - y_0) + c(z - z_0) = 0$$
これを展開すると:
$$ax + by + cz - (ax_0 + by_0 + cz_0) = 0$$
$d = -(ax_0 + by_0 + cz_0)$ とおけば $ax + by + cz + d = 0$ という形になります。
法線ベクトル $\vec{n} = (a, b, c)$ をもち、点 $A(x_0, y_0, z_0)$ を通る平面の方程式は:
$$a(x - x_0) + b(y - y_0) + c(z - z_0) = 0$$
※ $a, b, c$ のうち少なくとも1つは $0$ でない。法線ベクトルの定数倍をとっても同じ平面を表す。
✗ 「法線ベクトルは $(a, b, c)$ に決まる」と思い込む
○ $\vec{n}$ と $-\vec{n}$ はどちらも同じ平面の法線ベクトル
法線ベクトルは方向だけが重要であり、向き(表か裏か)は問題に応じて選びます。距離の公式で絶対値をつけるのは、この2通りの向きを吸収するためです。
空間における平面の方程式 $ax + by + cz + d = 0$ は、$x, y, z$ についての1次方程式です。この形から、いくつかの重要な性質を読み取ることができます。
方程式 $ax + by + cz + d = 0$ において、$(a, b, c)$ がそのまま法線ベクトルです。これは非常に便利な性質で、方程式を見ただけで平面の向きがわかります。
$ax + by + cz + d = 0$ の $x, y, z$ の係数 $(a, b, c)$ は、その平面の法線ベクトルそのものです。定数項 $d$ は「原点からの離れ具合」を決めます。
たとえば $2x - 3y + z + 5 = 0$ の法線ベクトルは $(2, -3, 1)$ です。
もっとも身近な平面を確認しましょう。$xy$ 平面は $z = 0$ と表されます。これは法線ベクトルが $(0, 0, 1)$($z$ 軸方向)で、原点を通る平面です。同様に $yz$ 平面は $x = 0$、$zx$ 平面は $y = 0$ です。
2つの平面 $a_1 x + b_1 y + c_1 z + d_1 = 0$ と $a_2 x + b_2 y + c_2 z + d_2 = 0$ が平行であるための条件は、法線ベクトルが平行であること、すなわち $(a_1, b_1, c_1)$ と $(a_2, b_2, c_2)$ が平行であることです。
$$\frac{a_1}{a_2} = \frac{b_1}{b_2} = \frac{c_1}{c_2}$$
が成り立つとき、2平面は平行です(一致する場合を含む)。
✗ 法線ベクトルが平行なら「平行で交わらない」と即断する
○ 定数項 $d$ も同じ比率なら2平面は一致する
$2x + y - z + 3 = 0$ と $4x + 2y - 2z + 6 = 0$ は同じ平面です。一致を除く平行は $\dfrac{a_1}{a_2} = \dfrac{b_1}{b_2} = \dfrac{c_1}{c_2} \neq \dfrac{d_1}{d_2}$ のときです。
大学の線形代数では、$ax + by + cz + d = 0$ は「連立1次方程式の1つの式」として扱われます。$n$ 個の変数に対する1次方程式は $n$ 次元空間内の $(n-1)$ 次元の超平面を表し、3変数1次方程式が3次元空間の2次元平面を表すのはその特殊ケースです。
平面を決定する基本的な方法の一つは、同一直線上にない3点を指定することです。3点が与えられたとき、法線ベクトルを求め、平面の方程式を導く手順を学びましょう。
3点 $A$、$B$、$C$ が同一直線上にないとき、$\overrightarrow{AB}$ と $\overrightarrow{AC}$ は平面上の2つの独立な方向ベクトルです。この2つのベクトルの両方に垂直なベクトルが法線ベクトルになります。
$\overrightarrow{AB} = (p_1, p_2, p_3)$、$\overrightarrow{AC} = (q_1, q_2, q_3)$ とすると、法線ベクトル $\vec{n} = (a, b, c)$ は次の連立条件を満たします:
$$\vec{n} \cdot \overrightarrow{AB} = ap_1 + bp_2 + cp_3 = 0$$
$$\vec{n} \cdot \overrightarrow{AC} = aq_1 + bq_2 + cq_3 = 0$$
$\vec{u} = \overrightarrow{AB}$、$\vec{v} = \overrightarrow{AC}$ とするとき、法線ベクトル $\vec{n}$ は外積(ベクトル積)で求められます:
$$\vec{n} = \vec{u} \times \vec{v} = \begin{pmatrix} u_2 v_3 - u_3 v_2 \\ u_3 v_1 - u_1 v_3 \\ u_1 v_2 - u_2 v_1 \end{pmatrix}$$
※ 外積は高校範囲を超えますが、法線ベクトルを機械的に求める強力な手段です。高校の範囲では連立方程式で $\vec{n}$ を求めることもできます。
外積を使わなくても、$\vec{n} = (a, b, c)$ が $\overrightarrow{AB}$ と $\overrightarrow{AC}$ の両方に直交する条件を連立方程式として解けば法線ベクトルが求まります。2つの条件式に対して3つの未知数があるので、1つを自由に決めて残りを求めます。
たとえば $A(1, 0, 2)$、$B(3, 1, 1)$、$C(0, 2, 3)$ のとき:
$\overrightarrow{AB} = (2, 1, -1)$、$\overrightarrow{AC} = (-1, 2, 1)$ より:
$$2a + b - c = 0, \quad -a + 2b + c = 0$$
第1式 + 第2式より $a + 3b = 0$、すなわち $a = -3b$。$b = 1$ とおくと $a = -3$、$c = 2(-3) + 1 = -5$。
法線ベクトル $\vec{n} = (-3, 1, -5)$ を得ます。点 $A(1, 0, 2)$ を通るので:
$$-3(x - 1) + 1(y - 0) - 5(z - 2) = 0 \implies -3x + y - 5z + 13 = 0$$
✗ 3点が与えられたら直ちに平面の方程式を立てる
○ まず $\overrightarrow{AB}$ と $\overrightarrow{AC}$ が平行でないことを確認する
3点が同一直線上にあると、法線ベクトルは一意に定まらず、無数の平面が存在します。$\overrightarrow{AB} = k \overrightarrow{AC}$ となるスカラー $k$ が存在しないことを確認しましょう。
外積の各成分は $2 \times 2$ の行列式で表されます。3点 $A$, $B$, $C$ を通る平面の方程式は、$3 \times 3$ の行列式を使って一気に書き下すことも可能です。大学の線形代数で学ぶ行列式は、幾何学的には平行六面体の体積に対応しており、外積は面積との関連が深いのです。
点 $P_0$ から平面 $\alpha$ までの距離を求める公式は、入試で非常によく出題されます。ここでは内積を使って公式を導出し、なぜあの形になるのかを理解しましょう。
平面 $\alpha: ax + by + cz + d = 0$ と点 $P_0(x_0, y_0, z_0)$ を考えます。平面上の任意の点を $A$ とすると、$P_0$ から平面への距離 $h$ は、$\overrightarrow{AP_0}$ の法線方向への正射影の長さに等しいです。
法線ベクトル $\vec{n} = (a, b, c)$ の方向への正射影の長さは:
$$h = \frac{|\vec{n} \cdot \overrightarrow{AP_0}|}{|\vec{n}|}$$
平面上の点 $A(x_1, y_1, z_1)$ は $ax_1 + by_1 + cz_1 + d = 0$ を満たすので:
$$\vec{n} \cdot \overrightarrow{AP_0} = a(x_0 - x_1) + b(y_0 - y_1) + c(z_0 - z_1)$$
$$= (ax_0 + by_0 + cz_0) - (ax_1 + by_1 + cz_1)$$
$$= (ax_0 + by_0 + cz_0) - (-d) = ax_0 + by_0 + cz_0 + d$$
よって:
$$h = \frac{|ax_0 + by_0 + cz_0 + d|}{\sqrt{a^2 + b^2 + c^2}}$$
点 $P_0(x_0, y_0, z_0)$ と平面 $ax + by + cz + d = 0$ の距離 $h$ は:
$$h = \frac{|ax_0 + by_0 + cz_0 + d|}{\sqrt{a^2 + b^2 + c^2}}$$
※ 分子は「点の座標を平面の方程式の左辺に代入した値の絶対値」、分母は「法線ベクトルの大きさ」です。
点と平面の距離は、法線方向への正射影の長さです。分子の $|ax_0 + by_0 + cz_0 + d|$ は「内積の値」そのものであり、分母の $\sqrt{a^2 + b^2 + c^2}$ は法線ベクトルの大きさです。
2次元の「点と直線の距離」$\dfrac{|ax_0 + by_0 + c|}{\sqrt{a^2 + b^2}}$ と全く同じ原理で成り立っています。
✗ $h = \dfrac{ax_0 + by_0 + cz_0 + d}{\sqrt{a^2 + b^2 + c^2}}$ と書いてしまう
○ 距離は非負なので、分子には必ず絶対値をつける
$ax_0 + by_0 + cz_0 + d$ の符号は、点が平面のどちら側にあるかを示します。距離は向きを持たないので絶対値が必要です。
平面の方程式にはいくつかの便利な表し方があります。問題の条件に応じて使い分けると、計算が格段に楽になることがあります。
平面が $x$ 軸、$y$ 軸、$z$ 軸とそれぞれ点 $(p, 0, 0)$、$(0, q, 0)$、$(0, 0, r)$ で交わるとき($p, q, r \neq 0$)、平面の方程式は次の形に書けます:
$$\frac{x}{p} + \frac{y}{q} + \frac{z}{r} = 1$$
これを切片形と呼びます。3つの切片がわかっているときに便利です。
平面上の点 $A$ と、平面上の2つの独立な方向ベクトル $\vec{u}$、$\vec{v}$ を使って:
$$\vec{r} = \vec{r}_A + s\vec{u} + t\vec{v} \quad (s, t \text{ は実数})$$
と表す方法もあります。これは平面のパラメータ表示(媒介変数表示)です。法線ベクトル形式とは逆に、平面上のベクトルを直接使う表し方で、平面上の点を具体的に求めるときに有用です。
点と平面の距離の公式で $P_0$ を原点 $(0, 0, 0)$ とすると:
$$h = \frac{|d|}{\sqrt{a^2 + b^2 + c^2}}$$
これは特に $\dfrac{|d|}{|\vec{n}|}$ と書けます。定数項 $d$ の絶対値を法線ベクトルの大きさで割るだけという、非常に簡潔な結果です。
✗ すべての平面を切片形で表そうとする
○ 座標軸に平行な平面(例:$z = 3$)は切片形で表せない
切片形 $\dfrac{x}{p} + \dfrac{y}{q} + \dfrac{z}{r} = 1$ は、$p, q, r$ のいずれかが $0$ になると使えません。座標軸に平行な平面や原点を通る平面には、一般形 $ax + by + cz + d = 0$ を使います。
法線ベクトルの大きさを $1$ にする(正規化する)と、平面の方程式は $\vec{n}_0 \cdot \vec{r} = p$($|\vec{n}_0| = 1$)というヘッセの標準形になります。このとき $p$ は原点から平面までの符号付き距離を表し、任意の点から平面への距離は単に $|\vec{n}_0 \cdot \vec{r} - p|$ で求まります。正規化によって距離計算の分母が不要になる、エレガントな形式です。
Q1. 法線ベクトル $\vec{n} = (1, -2, 3)$ で点 $(2, 1, -1)$ を通る平面の方程式は?
Q2. 平面 $3x - y + 2z - 6 = 0$ の法線ベクトルは?
Q3. 2平面 $x + 2y - z + 1 = 0$ と $2x + 4y - 2z + 5 = 0$ の位置関係は?
Q4. 原点から平面 $2x - y + 2z - 6 = 0$ への距離は?
Q5. $x$ 切片 $2$、$y$ 切片 $3$、$z$ 切片 $6$ の平面の方程式を切片形で書くと?
3点 $A(1, 0, 0)$、$B(0, 2, 0)$、$C(0, 0, 3)$ を通る平面の方程式を求めよ。また、原点からこの平面への距離を求めよ。
$x$ 切片 $1$、$y$ 切片 $2$、$z$ 切片 $3$ なので、切片形より:
$$\frac{x}{1} + \frac{y}{2} + \frac{z}{3} = 1$$
両辺を $6$ 倍して $6x + 3y + 2z = 6$、すなわち $6x + 3y + 2z - 6 = 0$。
原点からの距離:
$$h = \frac{|0 + 0 + 0 - 6|}{\sqrt{36 + 9 + 4}} = \frac{6}{\sqrt{49}} = \frac{6}{7}$$
3点 $A(2, 1, -1)$、$B(3, -1, 2)$、$C(1, 0, 1)$ を通る平面 $\alpha$ の方程式を求めよ。また、点 $D(1, 2, 3)$ から平面 $\alpha$ への距離を求めよ。
$\overrightarrow{AB} = (1, -2, 3)$、$\overrightarrow{AC} = (-1, -1, 2)$
法線ベクトル $\vec{n} = (a, b, c)$ は $\vec{n} \cdot \overrightarrow{AB} = 0$ かつ $\vec{n} \cdot \overrightarrow{AC} = 0$ を満たすので:
$$a - 2b + 3c = 0, \quad -a - b + 2c = 0$$
辺々加えて $-3b + 5c = 0$ より $b = \dfrac{5c}{3}$。$c = 3$ とおくと $b = 5$、$a = 2b - 3c = 10 - 9 = 1$。
$\vec{n} = (1, 5, 3)$。点 $A(2, 1, -1)$ を通るので:
$$1(x-2) + 5(y-1) + 3(z+1) = 0 \implies x + 5y + 3z - 4 = 0$$
点 $D(1, 2, 3)$ からの距離:
$$h = \frac{|1 + 10 + 9 - 4|}{\sqrt{1 + 25 + 9}} = \frac{16}{\sqrt{35}} = \frac{16\sqrt{35}}{35}$$
平面 $2x - y + 2z + 1 = 0$ に平行で、点 $(3, 1, -2)$ からの距離が $2$ である平面の方程式をすべて求めよ。
求める平面は法線ベクトルが $(2, -1, 2)$ に平行なので $2x - y + 2z + k = 0$ とおける。
点 $(3, 1, -2)$ からの距離が $2$ だから:
$$\frac{|6 - 1 - 4 + k|}{\sqrt{4 + 1 + 4}} = 2 \implies \frac{|1 + k|}{3} = 2$$
$$|1 + k| = 6 \implies k = 5 \text{ または } k = -7$$
よって $2x - y + 2z + 5 = 0$ または $2x - y + 2z - 7 = 0$。
四面体 $OABC$ において、$O$ は原点、$A(3, 0, 0)$、$B(0, 4, 0)$、$C(0, 0, 6)$ とする。
(1) 平面 $ABC$ の方程式を求めよ。
(2) 原点 $O$ から平面 $ABC$ への距離を求めよ。
(3) 四面体 $OABC$ の体積を、(2)の結果を用いて求めよ。
(1) 切片形より $\dfrac{x}{3} + \dfrac{y}{4} + \dfrac{z}{6} = 1$。
両辺を $12$ 倍して $4x + 3y + 2z = 12$、すなわち $4x + 3y + 2z - 12 = 0$。
(2) 原点からの距離:
$$h = \frac{|0 + 0 + 0 - 12|}{\sqrt{16 + 9 + 4}} = \frac{12}{\sqrt{29}}= \frac{12\sqrt{29}}{29}$$
(3) 三角形 $ABC$ の面積を求める。$\overrightarrow{AB} = (-3, 4, 0)$、$\overrightarrow{AC} = (-3, 0, 6)$ より:
$$|\overrightarrow{AB} \times \overrightarrow{AC}| = |(24, 18, 12)| = \sqrt{576 + 324 + 144} = \sqrt{1044} = 6\sqrt{29}$$
$$S_{\triangle ABC} = \frac{1}{2} \cdot 6\sqrt{29} = 3\sqrt{29}$$
四面体の体積:
$$V = \frac{1}{3} S_{\triangle ABC} \cdot h = \frac{1}{3} \cdot 3\sqrt{29} \cdot \frac{12\sqrt{29}}{29} = \frac{1}{3} \cdot \frac{36 \cdot 29}{29} = 12$$
(検算:$V = \dfrac{1}{6}|3 \cdot 4 \cdot 6| = 12$ ✓)
四面体の体積は「底面積 $\times$ 高さ $\times \frac{1}{3}$」で求まりますが、底面の三角形の面積を外積で求め、高さを点と平面の距離で求めるという一連の流れが、空間ベクトルの総合力を問う典型問題です。検算として直方体の $\frac{1}{6}$ を用いると確認しやすいでしょう。