第8章 数列

等比数列の和
─ 公比で分ける巧みな計算

等比数列の初項から第 $n$ 項までの和を求める公式を学びます。$S_n - rS_n$ という巧妙な引き算によって公式が導かれます。公比 $r = 1$ の場合は特別な扱いが必要になるので、場合分けをしっかり理解しましょう。

1等比数列の和の公式

初項 $a$、公比 $r$ の等比数列 $\{a_n\}$ の初項から第 $n$ 項までの和 $S_n = a + ar + ar^2 + \cdots + ar^{n-1}$ を求める公式を紹介します。

📐 等比数列の和の公式

$r \neq 1$ のとき:

$$S_n = \frac{a(1 - r^n)}{1 - r} = \frac{a(r^n - 1)}{r - 1}$$

$r = 1$ のとき:

$$S_n = na$$

※ 2つの形は分子・分母に $-1$ をかけた関係です。$|r| < 1$ のときは左の形、$|r| > 1$ のときは右の形が計算しやすくなります。

📌 なぜ場合分けが必要か

$r \neq 1$ の公式には分母 $1 - r$(または $r - 1$)があります。$r = 1$ のとき分母が $0$ になるため、公式が使えません。

$r = 1$ なら全ての項が $a$ に等しいので、$S_n = \underbrace{a + a + \cdots + a}_{n \text{ 個}} = na$ と素朴に求まります。

2公式の導出($S_n - rS_n$ の方法)

等比数列の和の公式は、$S_n$ と $rS_n$ を並べて引き算するという美しい方法で導けます。

📝 公式の導出

$S_n = a + ar + ar^2 + \cdots + ar^{n-1}$ …①

①の両辺に $r$ をかけると:

$rS_n = ar + ar^2 + ar^3 + \cdots + ar^n$ …②

①$-$② を計算すると、中間の項が全て打ち消し合い:

$S_n - rS_n = a - ar^n$

$(1 - r)S_n = a(1 - r^n)$

$r \neq 1$ のとき両辺を $(1 - r)$ で割って:

$$S_n = \frac{a(1 - r^n)}{1 - r}$$

💡 「ずらして引く」テクニック

この「$rS_n$ を作ってずらして引く」方法は等比数列特有のテクニックです。各項が前の項の $r$ 倍になっている性質を使って、中間項を消去しています。

このアイデアは後に学ぶ漸化式無限等比級数でも活躍します。

📌 導出のポイント

①と②を見比べると、$ar, ar^2, \ldots, ar^{n-1}$ の部分が共通しています。引き算すると初項 $a$ と末項 $ar^n$ だけが残ります。

このように「ほとんどの項が消える」構造はテレスコーピング(望遠鏡)と呼ばれます。

3$r = 1$ の場合の処理

公比 $r = 1$ のときは、等比数列が定数列になります。この場合は公式の分母が $0$ になるため、別に考える必要があります。

⚠️ $r = 1$ を忘れやすいケース

✗ 等比数列の和を求めるとき $S_n = \frac{a(1 - r^n)}{1 - r}$ とだけ書く

✓ $r = 1$ のとき $S_n = na$、$r \neq 1$ のとき $S_n = \frac{a(1 - r^n)}{1 - r}$ と場合分けする

入試では特に、$r$ が文字のとき(例:公比 $x$ の等比数列の和)に場合分けが必須です。$r = 1$ の場合を書かなければ減点されます。

📝 計算例:$r$ が文字の場合

例:初項 $1$、公比 $x$ の等比数列の初項から第 $n$ 項までの和を求めよ。

(i) $x = 1$ のとき:$S_n = n \cdot 1 = n$

(ii) $x \neq 1$ のとき:$S_n = \frac{1 \cdot (1 - x^n)}{1 - x} = \frac{1 - x^n}{1 - x}$

📐 $1 + r + r^2 + \cdots + r^{n-1}$ の公式

特に $a = 1$ のとき、初項 $1$、公比 $r$ の等比数列の和は:

$$1 + r + r^2 + \cdots + r^{n-1} = \frac{1 - r^n}{1 - r} \quad (r \neq 1)$$

※ この形は因数分解 $1 - r^n = (1 - r)(1 + r + r^2 + \cdots + r^{n-1})$ と同じものです。

4等比数列の和の計算例

公式を使って具体的な等比数列の和を計算してみましょう。

📝 計算例

例1:$2 + 6 + 18 + 54 + \cdots$(初項 $2$、公比 $3$)の初項から第 $8$ 項までの和

$S_8 = \frac{2(3^8 - 1)}{3 - 1} = \frac{2(6561 - 1)}{2} = 6560$

例2:$1 - \frac{1}{2} + \frac{1}{4} - \frac{1}{8} + \cdots$(初項 $1$、公比 $-\frac{1}{2}$)の初項から第 $6$ 項までの和

$S_6 = \frac{1 \cdot \left(1 - \left(-\frac{1}{2}\right)^6\right)}{1 - \left(-\frac{1}{2}\right)} = \frac{1 - \frac{1}{64}}{\frac{3}{2}} = \frac{\frac{63}{64}}{\frac{3}{2}} = \frac{63}{64} \times \frac{2}{3} = \frac{21}{32}$

例3:$3 + 6 + 12 + 24 + \cdots + 3 \cdot 2^{n-1}$ の和

初項 $3$、公比 $2$ の等比数列の第 $n$ 項までの和:

$S_n = \frac{3(2^n - 1)}{2 - 1} = 3(2^n - 1)$

⚠️ 公比が負のときの注意

✗ 公比 $r = -2$ のとき $(-2)^n$ の符号を間違える

✓ $(-2)^n$ は $n$ が偶数なら正、$n$ が奇数なら負になることを確認する

公比が負のとき、$r^n$ の符号は $n$ の偶奇で変わります。計算ミスを防ぐため、具体的に代入して確認しましょう。

💡 どちらの公式が計算しやすいか

$|r| > 1$ のとき(公比の絶対値が大きい場合)は $S_n = \frac{a(r^n - 1)}{r - 1}$ の形を使うと、分子・分母がともに正になりやすく計算しやすくなります。

$|r| < 1$ のとき(公比の絶対値が小さい場合)は $S_n = \frac{a(1 - r^n)}{1 - r}$ の形が便利です。

5公式の別表現と使い分け

等比数列の和の公式は、末項 $l = ar^{n-1}$ を使って表すこともできます。

📐 末項を用いた表現

末項 $l = ar^{n-1}$ とすると $ar^n = lr$ なので:

$$S_n = \frac{a - lr}{1 - r} = \frac{lr - a}{r - 1} \quad (r \neq 1)$$

※ 末項が与えられている場合はこちらの形が直接使えて便利です。

📝 末項を用いた計算例

例:初項 $2$、公比 $3$、末項 $162$ の等比数列の和

$S = \frac{162 \cdot 3 - 2}{3 - 1} = \frac{486 - 2}{2} = 242$

(確認:$2, 6, 18, 54, 162$ → $S = 2 + 6 + 18 + 54 + 162 = 242$ ✓)

📌 因数分解との関係

等比数列の和の公式は、実は因数分解の公式と深い関係があります:

$$1 - r^n = (1 - r)(1 + r + r^2 + \cdots + r^{n-1})$$

この恒等式の両辺を $(1 - r)$ で割ると、$a = 1$ の場合の等比数列の和の公式が得られます。代数的には同じことを違う角度から見ています。

まとめ

  • 等比数列の和 ─ $r \neq 1$: $S_n = \frac{a(1-r^n)}{1-r}$、$r = 1$: $S_n = na$
  • 導出方法 ─ $S_n - rS_n$ を計算し、中間項を消去する
  • 場合分け ─ 公比が文字のとき $r = 1$ と $r \neq 1$ の場合分けは必須
  • 末項の利用 ─ 末項 $l$ が与えられたら $S_n = \frac{lr - a}{r - 1}$ が便利
  • 因数分解 ─ $1 - r^n = (1-r)(1+r+\cdots+r^{n-1})$ と表裏一体

確認テスト

Q1. 初項 $3$、公比 $2$ の等比数列の初項から第 $5$ 項までの和を求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $S_5 = \frac{3(2^5 - 1)}{2 - 1} = \frac{3 \times 31}{1} = 93$

Q2. 初項 $1$、公比 $-3$ の等比数列の初項から第 $4$ 項までの和を求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $S_4 = \frac{1 \cdot (1 - (-3)^4)}{1 - (-3)} = \frac{1 - 81}{4} = \frac{-80}{4} = -20$

Q3. $1 + \frac{1}{3} + \frac{1}{9} + \cdots + \frac{1}{3^5}$ の値を求めよ。

▶ クリックして解答を表示 初項 $1$、公比 $\frac{1}{3}$ の第 $6$ 項までの和。$S_6 = \frac{1 - (1/3)^6}{1 - 1/3} = \frac{1 - 1/729}{2/3} = \frac{728/729}{2/3} = \frac{728}{729} \times \frac{3}{2} = \frac{364}{243}$

Q4. 等比数列の和の公式の導出において、$S_n - rS_n$ を計算すると右辺はどうなるか。

▶ クリックして解答を表示 $S_n - rS_n = a - ar^n = a(1 - r^n)$。中間の項が全て打ち消し合い、初項 $a$ と $-ar^n$ だけが残る。

Q5. 初項 $5$、公比 $x$ の等比数列の第 $n$ 項までの和を、場合分けして求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $x = 1$ のとき $S_n = 5n$、$x \neq 1$ のとき $S_n = \frac{5(1 - x^n)}{1 - x}$

入試問題演習

問題 1 A 基礎 等比数列の和

次の等比数列の和を求めよ。

(1) 初項 $4$、公比 $3$、初項から第 $6$ 項までの和

(2) $5 + 10 + 20 + 40 + \cdots + 5 \cdot 2^9$

解答

(1) $S_6 = \frac{4(3^6 - 1)}{3 - 1} = \frac{4(729 - 1)}{2} = \frac{4 \times 728}{2} = 1456$

(2) 初項 $5$、公比 $2$ で $5 \cdot 2^9$ が第 $10$ 項。$S_{10} = \frac{5(2^{10}-1)}{2-1} = 5 \times 1023 = 5115$

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問題 2 B 標準 場合分け

初項 $2$、公比 $a$ の等比数列の初項から第 $n$ 項までの和 $S_n$ を求めよ。ただし $a$ は実数の定数とする。

解答

(i) $a = 1$ のとき:$S_n = 2n$

(ii) $a \neq 1$ のとき:$S_n = \frac{2(1 - a^n)}{1 - a}$

解説

公比が文字のときは必ず $a = 1$ と $a \neq 1$ の場合分けを行う。場合分けを忘れると減点対象になる。

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問題 3 B 標準 和から項数の決定

初項 $3$、公比 $2$ の等比数列の初項から第 $n$ 項までの和が $381$ であるとき、$n$ の値を求めよ。

解答

$S_n = \frac{3(2^n - 1)}{2 - 1} = 3(2^n - 1) = 381$

$2^n - 1 = 127$

$2^n = 128 = 2^7$

$n = 7$

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問題 4 C 発展 等比数列の和の応用

等比数列 $\{a_n\}$ において、初項から第 $3$ 項までの和が $21$、初項から第 $6$ 項までの和が $189$ であるとき、初項 $a$ と公比 $r$ を求めよ。

解答

$S_3 = \frac{a(1 - r^3)}{1 - r} = 21$ …①

$S_6 = \frac{a(1 - r^6)}{1 - r} = 189$ …②

②÷① より $\frac{1 - r^6}{1 - r^3} = \frac{189}{21} = 9$

$1 - r^6 = (1 - r^3)(1 + r^3)$ なので $1 + r^3 = 9$ より $r^3 = 8$、$r = 2$

①に代入:$\frac{a(1 - 8)}{1 - 2} = \frac{-7a}{-1} = 7a = 21$ より $a = 3$

よって $a = 3$、$r = 2$

解説

$S_6 \div S_3$ を取ると $1 - r^6 = (1 - r^3)(1 + r^3)$ の因数分解が活かされ、$r^3$ に関する方程式に帰着できる。このテクニックは等比数列の条件決定問題で頻出。

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