はじめに

高校数学は正しい。しかし、「なぜ成り立つか」が省かれている。大学数学はその「なぜ」に答える。

1この教科書について

本書は、高校数学を学んでいる生徒が「大学ではこの内容をどう扱うのか」を知るための教科書です。

高校数学は正しい数学です。しかし、高校の段階ではいくつかの制約があり、「なぜそうなるか」の説明が十分にはできません。大学の数学は、より強力な道具を使ってその制約を解消します。

2「証明」は難しくするためのものではない

「証明は難しい」と感じる人は多いかもしれません。しかし実際には逆です。高校では、二次方程式の解の公式、三角関数の加法定理、微分の公式...と多数の個別公式を覚えます。大学では、これらが少数の定義と公理から論理的に導かれることを示します。覚えることが減り、理解が深まる。それが証明の力です。

高校と大学の比較
テーマ高校数学大学数学
公式覚えて使う定義から導出する
(-1)×(-1)=1「そういうもの」分配法則から証明する
微分公式暗記極限の定義から導出する
確率場合の数を数える公理から理論を構築する

3本書で得られる6つのメリット

大学数学の視点を学ぶことで、高校数学の理解は次の6つの面で変わります。

カテゴリ具体的に何が変わるか
A 導出できる 暗記していた公式を、定義から自分で証明できるようになる。例:微分公式を極限の定義から導出
B 統一できる 個別の定理が、一つの構造理論に帰着する。例:数の拡張を体の公理で統一
C 範囲が広がる 高校では扱わない一般的な状況を厳密に扱える。例:連続だが微分不可能な関数
D 意味が分かる 「なぜ成り立つか」の理由が分かる。例:$(-1) \times (-1) = 1$ を分配法則から証明
E 厳密化できる 直感的だった議論を厳密な証明に変換できる。例:ε-δ論法で極限を定義
F 見通しが立つ 問題の構造を見抜くことで解法が見える。例:線形代数で幾何を代数化

4本書の構成

本書は高校数学の教科書と同じ単元構成をとっています。全6編・18章・41記事で構成されています。

章数記事数概要
第I編 数と代数の構造 4章 8記事 数の拡張の論理と代数構造(群・環・体)を理解する...
第II編 論理と証明 1章 3記事 数学的論理の厳密な扱いと、無限に関する概念を理解する...
第III編 解析学の基盤 3章 10記事 ε-δ論法で極限を厳密化し、微分・積分の理論的基盤を築く...
第IV編 三角関数・指数・対数 2章 3記事 三角関数を単位円から級数展開へ、指数・対数を微分方程式の解と...
第V編 場合の数・確率・統計 4章 8記事 確率を公理的に定義し、統計の理論的基盤を理解する...
第VI編 幾何学 4章 9記事 幾何を座標・ベクトル・行列・複素数で代数化し、統一的に扱う...

5対象読者

本書は以下のような読者を想定しています。

  • 高校数学を学習中の上位層 ─ 教科書の内容は一通り理解していて、より深い理解を求めている生徒
  • 「なぜ」を知りたい生徒 ─ 暗記するだけでは物足りず、背景にある論理を知りたい生徒
  • 大学での学びに備えたい生徒 ─ 理系学部への進学を予定しており、大学の数学の雰囲気を事前に知りたい生徒
前提知識について

本書で必要な前提知識は高校数学の内容のみです。大学レベルの概念は、必要になった時点でその都度解説します。

6本書の立ち位置

本書は高校数学の教科書を置き換えるものではありません。高校数学の単元構成に沿って、各テーマを大学の視点で捉え直すものです。

高校数学を否定するのではなく、高校数学が「なぜあの教え方をしているのか」を含めて理解できるようになること。それが本書の目標です。