第3章 多項式と方程式

方程式の解の構造
─ 解と係数の関係の一般化

高校で学ぶ2次方程式の解と係数の関係 $\alpha + \beta = -b/a$, $\alpha\beta = c/a$ は、n次方程式に一般化できます。その鍵となるのが基本対称式という概念です。解の和・積だけでなく、解の任意の対称的な式(どの解を入れ替えても値が変わらない式)は、すべて基本対称式を通じて方程式の係数だけで表せます。この「対称式の基本定理」が成り立つからこそ、高校で個別に覚えていた公式群が一つの統一的な構造として理解できるようになります。

1高校での扱い ─ 2次・3次の解と係数の関係

2次方程式の場合

高校の数学IIでは、2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$($a \neq 0$)の2つの解を $\alpha, \beta$ とするとき、次の関係が成り立つと学びます。

$$\alpha + \beta = -\frac{b}{a}, \quad \alpha\beta = \frac{c}{a}$$

これが解と係数の関係です。たとえば $x^2 - 5x + 6 = 0$ の解は $x = 2, 3$ であり、確かに $2 + 3 = 5 = -(-5)/1$、$2 \times 3 = 6 = 6/1$ となっています。

この関係の仕組みは、因数分解から理解できます。$ax^2 + bx + c = a(x - \alpha)(x - \beta)$ と因数分解できるので、右辺を展開すると

$$a(x - \alpha)(x - \beta) = a\bigl(x^2 - (\alpha + \beta)x + \alpha\beta\bigr)$$

となり、$ax^2 + bx + c$ と係数を比較すれば $b = -a(\alpha + \beta)$, $c = a \cdot \alpha\beta$ が得られます。

3次方程式への拡張

同じ考え方は3次方程式にも使えます。$ax^3 + bx^2 + cx + d = 0$($a \neq 0$)の3つの解を $\alpha, \beta, \gamma$ とすると、$a(x - \alpha)(x - \beta)(x - \gamma)$ を展開して係数を比較することで、次の関係が得られます。

$$\alpha + \beta + \gamma = -\frac{b}{a}$$

$$\alpha\beta + \beta\gamma + \gamma\alpha = \frac{c}{a}$$

$$\alpha\beta\gamma = -\frac{d}{a}$$

2次の場合は「解の和」と「解の積」の2つでしたが、3次では「解の和」「2つずつの積の和」「解の積」の3つが現れます。高校ではこの3次の公式まで扱いますが、ここで自然に疑問が生まれます。4次、5次、...と次数が上がったときにも同じような関係が成り立つのか、そして現れる式にはどんな規則性があるのか、という疑問です。

次のセクションでは、この疑問に対する大学数学の答えを見ていきます。実は、解と係数の関係に現れる式はすべて基本対称式と呼ばれるものであり、これがn次方程式への一般化の鍵となります。

2大学の視点 ─ 基本対称式という統一的な枠組み

高校では、2次方程式には2つ、3次方程式には3つの解と係数の関係があると「個別に」覚えます。大学ではこれらを基本対称式という概念で統一的に捉えます。

高校と大学の視点の違い
高校
2次:$\alpha + \beta$, $\alpha\beta$ を個別に覚える
3次:$\alpha + \beta + \gamma$ 等を追加で覚える
次数が上がると公式が増えていく
大学
n次方程式に対して基本対称式 $e_1, e_2, \ldots, e_n$ を定義
解と係数の関係は一つの公式(ヴィエタの公式)で統一
さらに「任意の対称式は基本対称式で書ける」という定理が成立

ここで注目すべきは、大学の視点が「何が計算できるか」という問いに明確な答えを与えてくれることです。高校では $\alpha^2 + \beta^2$ のような式を係数で表すとき、$(\alpha + \beta)^2 - 2\alpha\beta$ という変形を「工夫」として個別に覚える必要がありました。大学の理論では、解を入れ替えても値が変わらない式(対称式)であれば、必ず係数だけで表せることが定理として保証されます。

基本対称式による統一

この記事で得られる視点は次の通りです。

  • n次方程式の解と係数の関係(ヴィエタの公式)を任意の次数に対して書き下せる
  • 解と係数の関係に現れる式は、すべて基本対称式 $e_1, e_2, \ldots, e_n$ である
  • 解の任意の対称式は基本対称式の多項式として表せる(対称式の基本定理)
  • ニュートンの恒等式を使えば、べき乗和 $\alpha_1^k + \alpha_2^k + \cdots + \alpha_n^k$ を再帰的に計算できる
  • 高校で「工夫」と呼ばれていた変形は、実は統一的なアルゴリズムの一部である

では、この統一的な枠組みを具体的に見ていきます。まず、n次方程式一般に対するヴィエタの公式を導出し、そこに現れる基本対称式の性質を調べます。

3n次方程式の解と係数の関係(ヴィエタの公式)

一般のn次方程式の因数分解

n次方程式 $a_n x^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_1 x + a_0 = 0$($a_n \neq 0$)を考えます。この方程式が $n$ 個の解(重複を含む)$\alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n$ を持つとき、左辺は次のように因数分解できます。

$$a_n x^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_1 x + a_0 = a_n(x - \alpha_1)(x - \alpha_2) \cdots (x - \alpha_n)$$

これは高校で学ぶ因数定理の一般化です。右辺を展開してみます。まず最高次の係数 $a_n$ をくくり出して、$x^n$ の係数が1であるモニック多項式 $(x - \alpha_1)(x - \alpha_2) \cdots (x - \alpha_n)$ を展開することを考えます。

展開の構造

$(x - \alpha_1)(x - \alpha_2) \cdots (x - \alpha_n)$ を展開するとき、各因子 $(x - \alpha_i)$ から $x$ か $-\alpha_i$ のどちらかを選んで掛け合わせます。$x^{n-k}$ の項は、$n$ 個の因子のうち $k$ 個から $-\alpha_i$ を選び、残り $n-k$ 個から $x$ を選んだときに生まれます。したがって、$x^{n-k}$ の係数は

$$(-1)^k \sum_{1 \le i_1 < i_2 < \cdots < i_k \le n} \alpha_{i_1}\alpha_{i_2} \cdots \alpha_{i_k}$$

となります。ここで $\sum$ は、$\{1, 2, \ldots, n\}$ から $k$ 個の添字を選ぶすべての組合せについての和です。

この和に名前をつけます。$k = 1, 2, \ldots, n$ に対して

$$e_k = \sum_{1 \le i_1 < i_2 < \cdots < i_k \le n} \alpha_{i_1}\alpha_{i_2} \cdots \alpha_{i_k}$$

と定義し、便宜上 $e_0 = 1$ とします。これが基本対称式(elementary symmetric polynomial)です。すると展開結果は次のように書けます。

$$(x - \alpha_1)(x - \alpha_2) \cdots (x - \alpha_n) = \sum_{k=0}^{n} (-1)^k e_k \, x^{n-k}$$

すなわち

$$= x^n - e_1 x^{n-1} + e_2 x^{n-2} - \cdots + (-1)^n e_n$$

ヴィエタの公式

元の方程式の両辺を $a_n$ で割ると

$$x^n + \frac{a_{n-1}}{a_n}x^{n-1} + \cdots + \frac{a_1}{a_n}x + \frac{a_0}{a_n} = 0$$

これと上の展開を比較すると、$x^{n-k}$ の係数について

$$(-1)^k e_k = \frac{a_{n-k}}{a_n}$$

すなわち

ヴィエタの公式(n次方程式の解と係数の関係)

$a_n x^n + a_{n-1}x^{n-1} + \cdots + a_0 = 0$ の $n$ 個の解を $\alpha_1, \ldots, \alpha_n$ とすると、

$$e_k = (-1)^k \frac{a_{n-k}}{a_n} \quad (k = 1, 2, \ldots, n)$$

すなわち、

$$e_1 = \alpha_1 + \alpha_2 + \cdots + \alpha_n = -\frac{a_{n-1}}{a_n}$$

$$e_2 = \sum_{i < j} \alpha_i \alpha_j = \frac{a_{n-2}}{a_n}$$

$$e_3 = \sum_{i < j < k} \alpha_i \alpha_j \alpha_k = -\frac{a_{n-3}}{a_n}$$

$$\vdots$$

$$e_n = \alpha_1 \alpha_2 \cdots \alpha_n = (-1)^n \frac{a_0}{a_n}$$

左辺は解の対称式、右辺は方程式の係数の比です。$(-1)^k$ の符号は、展開時に $-\alpha_i$ を $k$ 回選ぶことに由来します。

具体例で確認する

2次の場合($n = 2$):$ax^2 + bx + c = 0$ で $a_2 = a, a_1 = b, a_0 = c$ とすると

  • $e_1 = \alpha_1 + \alpha_2 = -a_1/a_2 = -b/a$
  • $e_2 = \alpha_1 \alpha_2 = a_0/a_2 = c/a$

高校で学んだ関係そのものです。

4次の場合($n = 4$):$x^4 - 10x^3 + 35x^2 - 50x + 24 = 0$ の解は $x = 1, 2, 3, 4$ です。ヴィエタの公式から

  • $e_1 = 1 + 2 + 3 + 4 = 10 = -(-10)/1$
  • $e_2 = 1 \cdot 2 + 1 \cdot 3 + 1 \cdot 4 + 2 \cdot 3 + 2 \cdot 4 + 3 \cdot 4 = 35 = 35/1$
  • $e_3 = 1 \cdot 2 \cdot 3 + 1 \cdot 2 \cdot 4 + 1 \cdot 3 \cdot 4 + 2 \cdot 3 \cdot 4 = 6 + 8 + 12 + 24 = 50 = -(-50)/1$
  • $e_4 = 1 \cdot 2 \cdot 3 \cdot 4 = 24 = 24/1$

確かにヴィエタの公式が成り立っています。4次でも関係式の構造は同じで、$e_1, e_2, e_3, e_4$ という4つの基本対称式が係数を決定しています。

ここまでで、n次方程式の解と係数の関係(ヴィエタの公式)を導きました。次に、ここで登場した基本対称式 $e_k$ がなぜ「基本」と呼ばれるのかを見ます。それは、解の任意の対称式が $e_1, e_2, \ldots, e_n$ だけで表せるという、強力な定理があるからです。

4基本対称式と対称式の基本定理

対称式とは何か

まず「対称式」を正確に定義します。$n$ 個の変数 $x_1, x_2, \ldots, x_n$ の多項式 $f(x_1, x_2, \ldots, x_n)$ が対称式(symmetric polynomial)であるとは、変数のどの2つを入れ替えても式の値が変わらないことをいいます。

たとえば $n = 3$ のとき

  • $x_1 + x_2 + x_3$ は対称式です(どの2つを入れ替えても同じ式になります)
  • $x_1^2 + x_2^2 + x_3^2$ も対称式です
  • $x_1 x_2 + x_2 x_3 + x_3 x_1$ も対称式です
  • $x_1^2 + x_2^2$($x_3$ を含まない)は対称式ではありません。$x_1$ と $x_3$ を入れ替えると $x_3^2 + x_2^2$ となり元の式と異なります

セクション3で定義した基本対称式 $e_1, e_2, \ldots, e_n$ は、その名の通りすべて対称式です。たとえば $e_2 = \sum_{i < j} x_i x_j$ は、どの変数を入れ替えても和の中の項が入れ替わるだけで、和全体の値は変わりません。

対称式の基本定理

基本対称式が「基本」と呼ばれる理由は、次の定理にあります。

対称式の基本定理

$n$ 変数の任意の対称式は、基本対称式 $e_1, e_2, \ldots, e_n$ の整数係数多項式として一意に表せる。

すなわち、$f(x_1, \ldots, x_n)$ が整数係数の対称式ならば、ある整数係数多項式 $g$ が存在して

$$f(x_1, \ldots, x_n) = g(e_1, e_2, \ldots, e_n)$$

と書ける。

この定理の意味を具体的に確認します。$n = 2$ のとき、$x_1^2 + x_2^2$ は対称式です。これを基本対称式 $e_1 = x_1 + x_2$、$e_2 = x_1 x_2$ で表してみます。

$$x_1^2 + x_2^2 = (x_1 + x_2)^2 - 2x_1 x_2 = e_1^2 - 2e_2$$

この変形は高校でも学びますが、大学では「この変形が必ず可能であること」が定理として保証されています。つまり、どんなに複雑な対称式であっても、原理的には $e_1, e_2, \ldots, e_n$ の式に書き直せるのです。

もう一つ例を見ます。$n = 3$ で $x_1^2 x_2 + x_1^2 x_3 + x_2^2 x_1 + x_2^2 x_3 + x_3^2 x_1 + x_3^2 x_2$ は対称式です。これを基本対称式で表すと

$$x_1^2 x_2 + x_1^2 x_3 + x_2^2 x_1 + x_2^2 x_3 + x_3^2 x_1 + x_3^2 x_2 = e_1 e_2 - 3e_3$$

実際に確認します。$e_1 e_2 = (x_1 + x_2 + x_3)(x_1 x_2 + x_2 x_3 + x_3 x_1)$ を展開すると

$$e_1 e_2 = x_1^2 x_2 + x_1 x_2 x_3 + x_1^2 x_3 + x_1 x_2^2 + x_2^2 x_3 + x_1 x_2 x_3 + x_1 x_2 x_3 + x_2 x_3^2 + x_1 x_3^2$$

$$= (x_1^2 x_2 + x_1^2 x_3 + x_2^2 x_1 + x_2^2 x_3 + x_3^2 x_1 + x_3^2 x_2) + 3x_1 x_2 x_3$$

$e_3 = x_1 x_2 x_3$ なので、求める式は $e_1 e_2 - 3e_3$ です。

対称式の基本定理が保証すること

方程式の解 $\alpha_1, \ldots, \alpha_n$ の対称式は、ヴィエタの公式(セクション3)により方程式の係数だけで表せます。

理由:対称式の基本定理により、任意の対称式は $e_1, e_2, \ldots, e_n$ の多項式として書ける。一方、ヴィエタの公式により $e_k$ は係数の比 $(-1)^k a_{n-k}/a_n$ に等しい。したがって、対称式の値は方程式の係数だけから計算できる。

逆に言えば、対称式でない式(たとえば $\alpha_1 - \alpha_2$)は、一般には係数だけからは決まりません。

「対称でない式は係数で表せない」は正確にはどういう意味か

誤解:$\alpha_1 - \alpha_2$ のような非対称な式は絶対に係数で表せない

正確には:$\alpha_1 - \alpha_2$ の値は、$\alpha_1$ と $\alpha_2$ のどちらをどちらと呼ぶかに依存するため、係数だけからは一意に決まりません。ただし $(\alpha_1 - \alpha_2)^2 = (\alpha_1 + \alpha_2)^2 - 4\alpha_1\alpha_2 = e_1^2 - 4e_2$ は対称式なので係数で表せます。2次方程式の判別式 $D = b^2 - 4ac = a^2(e_1^2 - 4e_2)$ はまさにこの原理に基づいています。

対称式の基本定理は、「基本対称式で表せる」ことを保証しますが、具体的にどう表すかのアルゴリズムも存在します。特に重要なのが、べき乗和 $p_k = \alpha_1^k + \alpha_2^k + \cdots + \alpha_n^k$ を基本対称式で表す方法で、これがニュートンの恒等式です。

5ニュートンの恒等式 ─ べき乗和を係数で表す

べき乗和の定義

$n$ 個の解 $\alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n$ に対して、べき乗和(power sum)を次のように定義します。

$$p_k = \alpha_1^k + \alpha_2^k + \cdots + \alpha_n^k \quad (k = 1, 2, 3, \ldots)$$

$p_k$ は $k$ 乗の和であり、すべての解を同等に扱っているので対称式です。したがって対称式の基本定理により $e_1, e_2, \ldots, e_n$ で表せるはずですが、その具体的な関係式がニュートンの恒等式です。

ニュートンの恒等式の導出

方程式の解 $\alpha_i$ は $a_n \alpha_i^n + a_{n-1}\alpha_i^{n-1} + \cdots + a_1 \alpha_i + a_0 = 0$ を満たします。両辺を $a_n$ で割り、$\alpha_i^{k-n}$ を掛けて($k \ge n$ の場合)全ての $i$ について和をとる、という手法で導けますが、ここでは $k \le n$ の場合を直接示します。

ニュートンの恒等式

$k = 1, 2, \ldots$ に対して、べき乗和 $p_k$ と基本対称式 $e_1, e_2, \ldots, e_n$ の間に次の関係が成り立ちます。

$k \le n$ のとき:

$$p_k - e_1 p_{k-1} + e_2 p_{k-2} - \cdots + (-1)^{k-1} e_{k-1} p_1 + (-1)^k k e_k = 0$$

$k > n$ のとき:

$$p_k - e_1 p_{k-1} + e_2 p_{k-2} - \cdots + (-1)^n e_n p_{k-n} = 0$$

この式は再帰的です。$p_1, p_2, \ldots$ を順に求めていくことで、任意の $k$ に対する $p_k$ を基本対称式(つまり方程式の係数)だけで計算できます。

小さい $k$ での具体的な形

$k = 1, 2, 3$ の場合を書き下してみます。

$k = 1$ のとき:

$$p_1 - e_1 = 0 \quad \Longrightarrow \quad p_1 = e_1$$

これは自明です。$p_1 = \alpha_1 + \alpha_2 + \cdots + \alpha_n$ は $e_1$ そのものです。

$k = 2$ のとき:

$$p_2 - e_1 p_1 + 2e_2 = 0 \quad \Longrightarrow \quad p_2 = e_1 p_1 - 2e_2 = e_1^2 - 2e_2$$

これは $\alpha_1^2 + \alpha_2^2 + \cdots + \alpha_n^2 = (\alpha_1 + \alpha_2 + \cdots + \alpha_n)^2 - 2\sum_{i

$k = 3$ のとき:

$$p_3 - e_1 p_2 + e_2 p_1 - 3e_3 = 0 \quad \Longrightarrow \quad p_3 = e_1 p_2 - e_2 p_1 + 3e_3$$

$p_1 = e_1$, $p_2 = e_1^2 - 2e_2$ を代入すると

$$p_3 = e_1(e_1^2 - 2e_2) - e_2 \cdot e_1 + 3e_3 = e_1^3 - 3e_1 e_2 + 3e_3$$

$k = 2$ の場合の証明

示すこと:$p_2 = e_1^2 - 2e_2$

証明の方針:$e_1^2$ を展開し、$p_2$ と $e_2$ がどう現れるかを確認します。

$e_1^2 = (\alpha_1 + \alpha_2 + \cdots + \alpha_n)^2$ を展開すると

$$e_1^2 = \sum_{i=1}^{n} \alpha_i^2 + 2\sum_{1 \le i < j \le n} \alpha_i \alpha_j = p_2 + 2e_2$$

ここで、$\sum_{i=1}^{n} \alpha_i^2 = p_2$ はべき乗和の定義そのものであり、$\sum_{i < j} \alpha_i \alpha_j = e_2$ は基本対称式の定義です。

したがって $p_2 = e_1^2 - 2e_2$ が得られます。$\blacksquare$

具体例:3次方程式でのべき乗和の計算

$x^3 - 6x^2 + 11x - 6 = 0$ を考えます。この方程式の解は $x = 1, 2, 3$ です。ヴィエタの公式から

  • $e_1 = 6$, $e_2 = 11$, $e_3 = 6$

ニュートンの恒等式を使ってべき乗和を計算します。

  • $p_1 = e_1 = 6$(実際 $1 + 2 + 3 = 6$)
  • $p_2 = e_1^2 - 2e_2 = 36 - 22 = 14$(実際 $1 + 4 + 9 = 14$)
  • $p_3 = e_1^3 - 3e_1 e_2 + 3e_3 = 216 - 198 + 18 = 36$(実際 $1 + 8 + 27 = 36$)

$k > n = 3$ の場合は、$p_k = e_1 p_{k-1} - e_2 p_{k-2} + e_3 p_{k-3}$ という漸化式を使います。

  • $p_4 = e_1 p_3 - e_2 p_2 + e_3 p_1 = 6 \cdot 36 - 11 \cdot 14 + 6 \cdot 6 = 216 - 154 + 36 = 98$

実際に $1^4 + 2^4 + 3^4 = 1 + 16 + 81 = 98$ なので一致しています。

このように、ニュートンの恒等式を使えば、解の値を直接使わずに、係数(すなわち基本対称式)だけから任意のべき乗和を再帰的に計算できます。次のセクションでは、この手法をさらに応用して、高校で扱う問題を含む実践的な計算を行います。

6応用 ─ 対称式を係数で求める実践

応用1:$\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2$ を係数で求める

3次方程式 $x^3 - 2x^2 - 5x + 6 = 0$ の3つの解を $\alpha, \beta, \gamma$ とするとき、$\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2$ の値を求めます。

ヴィエタの公式から $a_3 = 1, a_2 = -2, a_1 = -5, a_0 = 6$ なので

  • $e_1 = -a_2/a_3 = 2$
  • $e_2 = a_1/a_3 = -5$
  • $e_3 = -a_0/a_3 = -6$

$\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2 = p_2$ はべき乗和なので、ニュートンの恒等式($k = 2$)から

$$p_2 = e_1^2 - 2e_2 = 2^2 - 2 \cdot (-5) = 4 + 10 = 14$$

したがって $\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2 = 14$ です。

(検算:$(x-1)(x+2)(x-3) = x^3 - 2x^2 - 5x + 6$ なので解は $1, -2, 3$ です。$1^2 + (-2)^2 + 3^2 = 1 + 4 + 9 = 14$ で一致します。)

応用2:$\alpha^3 + \beta^3 + \gamma^3$ を係数で求める

同じ方程式 $x^3 - 2x^2 - 5x + 6 = 0$ で $\alpha^3 + \beta^3 + \gamma^3$ を求めます。

$p_1 = e_1 = 2$, $p_2 = 14$(応用1で計算済み)を使い、ニュートンの恒等式($k = 3$)を適用します。

$$p_3 = e_1 p_2 - e_2 p_1 + 3e_3 = 2 \cdot 14 - (-5) \cdot 2 + 3 \cdot (-6) = 28 + 10 - 18 = 20$$

(検算:$1^3 + (-2)^3 + 3^3 = 1 - 8 + 27 = 20$ で一致します。)

このように、セクション5で導いたニュートンの恒等式を繰り返し適用するだけで、解を直接求めることなく、任意のべき乗和を方程式の係数から計算できます。

応用3:判別式の一般的定義

高校では2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$ の判別式を $D = b^2 - 4ac$ と定義し、$D > 0$ なら異なる2つの実数解、$D = 0$ なら重解、$D < 0$ なら実数解なしと判定します。

この判別式を解で表すと $D = a^2(\alpha - \beta)^2$ です。$(\alpha - \beta)^2 = (\alpha + \beta)^2 - 4\alpha\beta = e_1^2 - 4e_2$ は対称式なので、セクション4で述べた対称式の基本定理により係数で表せます。

大学では、n次方程式の判別式を次のように定義します。

n次方程式の判別式

$n$ 個の解 $\alpha_1, \alpha_2, \ldots, \alpha_n$ を持つモニック多項式(最高次の係数が1)の判別式は

$$D = \prod_{1 \le i < j \le n} (\alpha_i - \alpha_j)^2$$

すなわち、すべての解の差の2乗の積です。

$(\alpha_i - \alpha_j)^2$ としているので、$\alpha_i$ と $\alpha_j$ を入れ替えても値は変わりません。すべてのペアについて積をとるので、$D$ は対称式です。したがって対称式の基本定理により、$D$ は方程式の係数だけで表せます。

$n = 2$ の場合を確認します。$x^2 + bx + c = 0$(モニック)の解を $\alpha_1, \alpha_2$ とすると

$$D = (\alpha_1 - \alpha_2)^2 = (\alpha_1 + \alpha_2)^2 - 4\alpha_1\alpha_2 = b^2 - 4c$$

$ax^2 + bx + c = 0$ のときは $a$ で割ったモニック形の判別式に $a^2$ を掛けて $D = b^2 - 4ac$ が得られ、高校で学ぶ判別式と一致します。

$D > 0$ なら全ての $\alpha_i \neq \alpha_j$ であり重解はなく、$D = 0$ なら少なくとも1組の $\alpha_i = \alpha_j$ が存在し重解を持ちます。この性質は任意の次数で成り立ちます。

3次方程式の判別式

3次方程式 $x^3 + px + q = 0$($x^2$ の項を平行移動で消去した形)の判別式は $D = -4p^3 - 27q^2$ となります。この公式は3次方程式の解の公式(カルダノの公式)において、3つの解がどのような性質を持つかを判定する際に使われます。2次の場合と同様に、$D > 0$ なら3つの異なる実数解、$D = 0$ なら重解を含む、$D < 0$ なら1つの実数解と2つの虚数解を持ちます。

7つながりマップ

  • 前提知識:📖 M-3-1 多項式環 ─ 多項式の割り算・因数分解の構造を理解した上で、本記事では方程式の解と係数の関係を扱いました。
  • 前提知識:📖 M-1-3 代数学の基本定理 ─ n次方程式が複素数の範囲で必ず $n$ 個の解を持つことが、ヴィエタの公式の前提です。
  • 関連:📖 M-1-1 数の拡張の論理 ─ 解が実数とは限らず複素数になりうることの背景です。
  • 関連:📖 M-17-4 固有値と2次形式 ─ 行列の固有多項式に対してもヴィエタの公式が適用でき、固有値のトレース・行列式との関係が得られます。
  • 発展:📖 M-4-1 不等式の代数的構造 ─ 対称式の理論はAM-GM不等式などの対称不等式の理解にもつながります。
Sまとめ
  • n次方程式の解と係数の関係はヴィエタの公式として統一的に書ける:$e_k = (-1)^k a_{n-k}/a_n$。高校の2次・3次はその特殊ケースである。
  • ヴィエタの公式に現れる $e_1, e_2, \ldots, e_n$ は基本対称式であり、解を入れ替えても値が変わらない。
  • 対称式の基本定理により、解の任意の対称式は基本対称式(すなわち方程式の係数)だけで表せることが保証される。
  • ニュートンの恒等式は、べき乗和 $p_k = \sum \alpha_i^k$ を基本対称式で再帰的に計算する具体的な手段を与える。
  • 判別式 $D = \prod_{i < j}(\alpha_i - \alpha_j)^2$ は対称式であり、任意の次数で方程式の係数だけから重解の有無を判定できる。

Q確認テスト

理解を確認しましょう

Q1. 4次方程式の解を $\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3, \alpha_4$ とするとき、基本対称式 $e_2$ を具体的に書き下してください。

クリックして解答を表示 $e_2 = \alpha_1\alpha_2 + \alpha_1\alpha_3 + \alpha_1\alpha_4 + \alpha_2\alpha_3 + \alpha_2\alpha_4 + \alpha_3\alpha_4$ です。4つの解から2つを選ぶ全ての組合せ(${}_4\mathrm{C}_2 = 6$ 通り)の積の和です。

Q2. $x^3 - 3x^2 + 2x + 1 = 0$ の3つの解を $\alpha, \beta, \gamma$ とするとき、$\alpha + \beta + \gamma$ と $\alpha\beta\gamma$ の値を、ヴィエタの公式を使って求めてください。

クリックして解答を表示 $e_1 = \alpha + \beta + \gamma = -(-3)/1 = 3$、$e_3 = \alpha\beta\gamma = -1/1 = -1$ です。ヴィエタの公式 $e_k = (-1)^k a_{n-k}/a_n$ で、$e_1 = -a_2/a_3 = 3$、$e_3 = -a_0/a_3 = -1$ を適用しました。

Q3. 「$x_1^2 + x_2 x_3$ は $x_1, x_2, x_3$ の対称式である」。正しいですか、誤りですか。

クリックして解答を表示 誤りです。$x_1$ と $x_2$ を入れ替えると $x_2^2 + x_1 x_3$ となり、元の式 $x_1^2 + x_2 x_3$ とは異なります。対称式であるためには、どの2変数を入れ替えても式が不変でなければなりません。

Q4. ニュートンの恒等式を使って $p_2 = \alpha_1^2 + \alpha_2^2 + \cdots + \alpha_n^2$ を $e_1, e_2$ で表してください。

クリックして解答を表示 $p_2 = e_1^2 - 2e_2$ です。ニュートンの恒等式の $k = 2$ の場合 $p_2 - e_1 p_1 + 2e_2 = 0$ に $p_1 = e_1$ を代入すると $p_2 = e_1^2 - 2e_2$ が得られます。これは $(\sum \alpha_i)^2 = \sum \alpha_i^2 + 2\sum_{i

E演習問題

問1 A 基本

5次方程式 $x^5 + a_4 x^4 + a_3 x^3 + a_2 x^2 + a_1 x + a_0 = 0$ の解を $\alpha_1, \alpha_2, \alpha_3, \alpha_4, \alpha_5$ とするとき、ヴィエタの公式を用いて $e_1, e_3, e_5$ をそれぞれ $a_0, a_1, \ldots, a_4$ で表してください。

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解答

ヴィエタの公式 $e_k = (-1)^k a_{n-k}/a_n$ で $n = 5$, $a_5 = 1$ とすると

$e_1 = -a_4/1 = -a_4$

$e_3 = -a_2/1 = -a_2$

$e_5 = -a_0/1 = -a_0$

解説

$e_k = (-1)^k a_{n-k}/a_n$ の公式で、$k$ が奇数のとき $(-1)^k = -1$、$k$ が偶数のとき $(-1)^k = 1$ となります。今回は $k = 1, 3, 5$ がすべて奇数なので、いずれもマイナス符号がつきます。

問2 A 基本

$x^3 - 7x + 6 = 0$ の3つの解を $\alpha, \beta, \gamma$ とするとき、$\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2$ の値を求めてください。

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解答

$\alpha^2 + \beta^2 + \gamma^2 = 14$

解説

ヴィエタの公式から $e_1 = 0$($x^2$ の係数が0)、$e_2 = -7$、$e_3 = -6$ です。

ニュートンの恒等式 $p_2 = e_1^2 - 2e_2 = 0 - 2(-7) = 14$ です。

(検算:方程式は $(x-1)(x-2)(x+3) = 0$ と因数分解でき、解は $1, 2, -3$ です。$1 + 4 + 9 = 14$ で一致します。)

問3 B 計算

$x^3 - 7x + 6 = 0$ の3つの解を $\alpha, \beta, \gamma$ とするとき、$\alpha^3 + \beta^3 + \gamma^3$ の値をニュートンの恒等式を用いて求めてください。

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解答

$\alpha^3 + \beta^3 + \gamma^3 = 18$

解説

$e_1 = 0$, $e_2 = -7$, $e_3 = -6$ です。前問から $p_1 = 0$, $p_2 = 14$ です。

ニュートンの恒等式 $k = 3$:$p_3 = e_1 p_2 - e_2 p_1 + 3e_3 = 0 \cdot 14 - (-7) \cdot 0 + 3 \cdot (-6) = -18$ です。

(検算:$1^3 + 2^3 + (-3)^3 = 1 + 8 - 27 = -18$ で一致します。)

問4 B 計算

2次方程式 $x^2 - 5x + 3 = 0$ の2つの解を $\alpha, \beta$ とするとき、$\alpha^4 + \beta^4$ の値を求めてください。

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解答

$\alpha^4 + \beta^4 = 343$

解説

$e_1 = 5$, $e_2 = 3$ です。ニュートンの恒等式で順に計算します。

$p_1 = e_1 = 5$

$p_2 = e_1^2 - 2e_2 = 25 - 6 = 19$

$k > n = 2$ なので漸化式 $p_k = e_1 p_{k-1} - e_2 p_{k-2}$ を使います。

$p_3 = e_1 p_2 - e_2 p_1 = 5 \cdot 19 - 3 \cdot 5 = 95 - 15 = 80$

$p_4 = e_1 p_3 - e_2 p_2 = 5 \cdot 80 - 3 \cdot 19 = 400 - 57 = 343$

(別解:$\alpha^2 + \beta^2 = 19$, $(\alpha\beta)^2 = 9$ より $\alpha^4 + \beta^4 = (\alpha^2 + \beta^2)^2 - 2(\alpha\beta)^2 = 361 - 18 = 343$ でも確認できます。)

問5 C 論述

3次方程式 $x^3 + px + q = 0$($p, q$ は実数)の判別式が $D = -4p^3 - 27q^2$ で与えられることを認めて、次の問いに答えてください。

(a) $x^3 - 3x + 2 = 0$ の判別式 $D$ を求め、この方程式が重解を持つかどうか判定してください。

(b) $x^3 - 12x + 16 = 0$ の判別式 $D$ を求め、解の性質を判定してください。さらに、実際に方程式を解いて判定結果を確認してください。

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解答

(a) $p = -3$, $q = 2$ より $D = -4(-3)^3 - 27 \cdot 2^2 = -4(-27) - 108 = 108 - 108 = 0$。$D = 0$ なので重解を持ちます。

実際に $x^3 - 3x + 2 = (x - 1)^2(x + 2) = 0$ と因数分解でき、$x = 1$(重解)と $x = -2$ です。

(b) $p = -12$, $q = 16$ より $D = -4(-12)^3 - 27 \cdot 16^2 = -4(-1728) - 27 \cdot 256 = 6912 - 6912 = 0$。$D = 0$ なので重解を持ちます。

実際に $x^3 - 12x + 16 = (x - 2)^2(x + 4) = 0$ と因数分解でき、$x = 2$(重解)と $x = -4$ です。

解説

判別式 $D = \prod_{i < j}(\alpha_i - \alpha_j)^2$ の定義から、$D = 0$ は少なくとも1組の $\alpha_i = \alpha_j$ が存在すること、すなわち重解を持つことと同値です。3次の $x^3 + px + q = 0$ の形では $D = -4p^3 - 27q^2$ という具体的な公式があるので、方程式を解かずに重解の有無を判定できます。