第17章 ベクトルと線形代数

ベクトル空間
─ 基底・次元・座標系の意味

高校数学Cでは、ベクトルを「矢印」として導入し、成分表示 $(a_1, a_2)$ で計算します。 平面ベクトルは2つの成分、空間ベクトルは3つの成分を持つ、という扱いです。 しかし、なぜ平面ベクトルの成分が「ちょうど2つ」なのか、なぜ空間ベクトルは「ちょうど3つ」なのかについて、根本的な理由は説明されません。

大学数学では、ベクトル空間という枠組みを導入し、ベクトルの加法とスカラー倍が満たすべき8つの公理を定めます。 そして、基底(そのベクトル空間の「座標軸」の役割を果たすベクトルの組)を選ぶと、すべてのベクトルがその基底の一次結合として一意に表せることを示します。 基底のベクトルの本数が次元であり、これが座標の成分の個数に他なりません。 座標系とは、基底の選び方そのものなのです。

1高校での扱い ─ ベクトルの成分表示と演算

高校数学Cでは、ベクトルを「向きと大きさを持つ量」として導入します。 平面上のベクトル $\mathbf{a}$ は2つの実数の組 $(a_1, a_2)$ で表し、空間のベクトル $\mathbf{a}$ は3つの実数の組 $(a_1, a_2, a_3)$ で表します。

ベクトルの加法とスカラー倍は、成分ごとに計算します。たとえば平面ベクトル $\mathbf{a} = (a_1, a_2)$、$\mathbf{b} = (b_1, b_2)$ に対して、

$$\mathbf{a} + \mathbf{b} = (a_1 + b_1, \, a_2 + b_2), \quad k\mathbf{a} = (ka_1, \, ka_2)$$

と計算します。また、基本ベクトル $\mathbf{e}_1 = (1, 0)$、$\mathbf{e}_2 = (0, 1)$ を用いると、任意の平面ベクトルは

$$\mathbf{a} = a_1 \mathbf{e}_1 + a_2 \mathbf{e}_2$$

と書けることを学びます。同様に空間では $\mathbf{e}_1 = (1, 0, 0)$、$\mathbf{e}_2 = (0, 1, 0)$、$\mathbf{e}_3 = (0, 0, 1)$ を使って $\mathbf{a} = a_1 \mathbf{e}_1 + a_2 \mathbf{e}_2 + a_3 \mathbf{e}_3$ と表します。

この扱いは計算において十分に機能します。しかし、いくつかの自然な疑問が残ります。

  • なぜ平面ベクトルの成分はちょうど2つなのか。3つや1つではいけないのか。
  • $\mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2$ 以外のベクトルの組、たとえば $(1, 1)$ と $(1, -1)$ を「基本ベクトル」に使えないのか。
  • 「ベクトル」は矢印以外のもの(たとえば関数や行列)にも拡張できるのか。

これらの問いに答えるために、大学数学ではベクトルの概念を公理によって定義し直します。 次のセクションでは、なぜ公理から始める必要があるのかを見ていきます。

2大学の視点 ─ なぜ公理から始めるのか

高校では、ベクトルは「平面の矢印」や「空間の矢印」という具体的な対象でした。 しかし、数学や物理学にはベクトルと同じ計算規則に従うものが数多く存在します。 たとえば、関数の全体を考えると、関数同士の足し算や関数の定数倍は、ベクトルの加法やスカラー倍と同じ規則に従います。 行列の全体も同様です。

大学数学では、これらに共通する計算規則を公理(仮定として認める出発点)として抽出し、その公理を満たすものをすべて「ベクトル空間」と呼びます。 こうすることで、矢印・関数・行列といった異なる対象に対して、同じ理論(基底、次元、座標など)を一度に適用できるようになります。

高校 vs 大学:ベクトルとは何か
高校:ベクトルは矢印
平面の矢印 $(a_1, a_2)$ や空間の矢印 $(a_1, a_2, a_3)$ が「ベクトル」。
具体的な対象として扱い、成分で計算する。
大学:ベクトルは公理を満たすもの
加法とスカラー倍に関する8つの公理を満たす集合が「ベクトル空間」。その元が「ベクトル」。
矢印も関数も行列も、公理を満たせばベクトル。
高校:座標系は暗黙の前提
$x$ 軸、$y$ 軸の方向に成分をとるのが当然。別の座標系は扱わない。
大学:座標系は基底の選択
基底を選ぶことが座標系を決めること。基底を変えれば座標が変わる。
高校:次元は「見ればわかる」
平面は2次元、空間は3次元。直感で判断する。
大学:次元は基底の本数
次元 $=$ 基底に含まれるベクトルの本数。これを定理として証明する。
座標系の正体は基底の選択である

この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。

1. ベクトル空間の8つの公理を述べ、具体的な集合がベクトル空間であるかどうかを判定できる

2. 一次独立・一次従属の定義を述べ、与えられたベクトルの組が一次独立かどうかを判定できる

3. 基底の定義を述べ、基底によるベクトルの一意表示(座標)を求められる

4. 次元の意味を説明し、「平面が2次元」「空間が3次元」である理由を論理的に述べられる

5. 基底を変えたときに座標がどう変わるかを計算できる

ここでの核心は、座標系とは基底の選び方に他ならないという点です。 高校で使っていた成分表示 $(a_1, a_2)$ とは、基本ベクトル $\mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2$ という特定の基底を選んだときの座標でした。 別の基底を選べば、同じベクトルでも異なる座標で表されます。 この理解に至るために、まずベクトル空間の公理を導入します。

3ベクトル空間の公理 ─ 8つのルール

なぜ公理が必要か

高校で学んだベクトルの演算には、次のような性質がありました。

  • ベクトルの足し算の順序を入れ替えても結果は同じ:$\mathbf{a} + \mathbf{b} = \mathbf{b} + \mathbf{a}$
  • 零ベクトル $\mathbf{0}$ を足しても変わらない:$\mathbf{a} + \mathbf{0} = \mathbf{a}$
  • スカラー倍を2回行うと、スカラーの積の1回のスカラー倍に等しい:$c(d\mathbf{a}) = (cd)\mathbf{a}$

これらは平面ベクトル $(a_1, a_2)$ の成分計算から確認できますが、「成分を持つ」という具体的な構造に依存した説明です。 矢印ではないもの(たとえば関数の集合)にも同じ理論を使いたいなら、「成分」に頼らず、これらの性質自体を出発点に据える必要があります。 それが公理です。

ベクトル空間の定義

以下の定義では、「スカラー」として実数を使います(実数体 $\mathbb{R}$ 上のベクトル空間)。

ベクトル空間の定義(実数体上)

集合 $V$ に、加法($V$ の元同士の足し算 $\mathbf{u} + \mathbf{v}$)とスカラー倍(実数 $c$ と $V$ の元の掛け算 $c\mathbf{v}$)が定義されていて、以下の8つの公理をすべて満たすとき、$V$ を実数体上のベクトル空間(vector space)と呼びます。$V$ の元をベクトルと呼びます。

加法に関する公理(4つ)

(V1) $\mathbf{u} + \mathbf{v} = \mathbf{v} + \mathbf{u}$ (交換法則)

(V2) $(\mathbf{u} + \mathbf{v}) + \mathbf{w} = \mathbf{u} + (\mathbf{v} + \mathbf{w})$ (結合法則)

(V3) ある元 $\mathbf{0} \in V$ が存在して、すべての $\mathbf{v} \in V$ に対し $\mathbf{v} + \mathbf{0} = \mathbf{v}$ (零ベクトルの存在)

(V4) 各 $\mathbf{v} \in V$ に対し、$\mathbf{v} + \mathbf{w} = \mathbf{0}$ を満たす $\mathbf{w} \in V$ が存在する (逆ベクトルの存在)

スカラー倍に関する公理(4つ)

(V5) $c(d\mathbf{v}) = (cd)\mathbf{v}$ (スカラー倍の結合法則)

(V6) $1 \cdot \mathbf{v} = \mathbf{v}$ (スカラー $1$ の作用)

(V7) $c(\mathbf{u} + \mathbf{v}) = c\mathbf{u} + c\mathbf{v}$ (ベクトルの和に対する分配法則)

(V8) $(c + d)\mathbf{v} = c\mathbf{v} + d\mathbf{v}$ (スカラーの和に対する分配法則)

ここで $\mathbf{u}, \mathbf{v}, \mathbf{w}$ は $V$ の元、$c, d$ は実数です。これらの公理は、高校で学んだベクトル演算の性質を抽象化したものです。

公理が8つもあると複雑に見えますが、(V1)〜(V4) は「ベクトルの足し算がまともに動く」条件であり、(V5)〜(V8) は「スカラー倍がまともに動く」条件です。 高校でベクトルの計算をしてきた経験があれば、どれも自然な性質ばかりです。

具体例で公理を確認する

例1:$\mathbb{R}^2$(平面ベクトルの全体)

$\mathbb{R}^2 = \{(a_1, a_2) \mid a_1, a_2 \in \mathbb{R}\}$ に対して、加法とスカラー倍を成分ごとに定義します。これは高校で学んだ平面ベクトルそのものです。 公理を確認しましょう。

  • (V1) $(a_1, a_2) + (b_1, b_2) = (a_1 + b_1, a_2 + b_2) = (b_1 + a_1, b_2 + a_2) = (b_1, b_2) + (a_1, a_2)$。実数の加法の交換法則から成り立ちます。
  • (V3) $\mathbf{0} = (0, 0)$ とすれば $(a_1, a_2) + (0, 0) = (a_1, a_2)$ です。
  • (V4) $\mathbf{v} = (a_1, a_2)$ に対し $\mathbf{w} = (-a_1, -a_2)$ とすれば $\mathbf{v} + \mathbf{w} = (0, 0) = \mathbf{0}$ です。

残りの公理も同様に、実数の演算法則から直ちに従います。したがって $\mathbb{R}^2$ はベクトル空間です。同じ理由で、空間ベクトルの全体 $\mathbb{R}^3$ もベクトル空間です。

例2:$\mathbb{R}^n$($n$ 次元数ベクトル空間)

$n$ 個の実数の組 $(a_1, a_2, \ldots, a_n)$ の全体を $\mathbb{R}^n$ と書きます。加法とスカラー倍を成分ごとに定義すれば、$\mathbb{R}^2$ や $\mathbb{R}^3$ と全く同じ理由で、$\mathbb{R}^n$ はベクトル空間です。 $n = 4, 5, \ldots$ でも理論が通用します。高校では3次元までしか扱いませんが、公理に基づく定義なら $n$ に制限はありません。

例3:矢印ではないベクトル空間 ─ 多項式の集合

次数が2以下の多項式全体の集合を $P_2$ と書きます。

$$P_2 = \{a_0 + a_1 x + a_2 x^2 \mid a_0, a_1, a_2 \in \mathbb{R}\}$$

多項式同士の足し算と定数倍を通常の方法で行えば、8つの公理がすべて成り立ちます。 たとえば零ベクトルは零多項式 $0$(すべての係数が $0$)であり、逆ベクトルは各係数の符号を反転した多項式です。 したがって $P_2$ はベクトル空間です。ここでの「ベクトル」は矢印ではなく多項式ですが、公理を満たしている以上、ベクトル空間の理論がすべて適用できます。

公理を満たさない集合はベクトル空間ではない

誤解:数の組なら何でもベクトル空間になる

正しい理解:加法やスカラー倍に関して閉じていない集合は、ベクトル空間にはなりません。たとえば、$\{(a_1, a_2) \mid a_1 \ge 0, a_2 \ge 0\}$(第1象限のみ)は、$\mathbf{v} = (1, 2)$ に対して $(-1)\mathbf{v} = (-1, -2)$ がこの集合に含まれないので、(V4) を満たしません。

ここまでで、ベクトル空間とは「加法とスカラー倍が8つの公理を満たす集合」であることを確認しました。 $\mathbb{R}^2$、$\mathbb{R}^3$、$\mathbb{R}^n$、多項式の集合など、多様な例があります。 次のセクションでは、これらのベクトル空間に共通する重要な概念 ── 一次独立と一次従属 ── を導入します。 これは「ベクトルの組に無駄がないか」を判定する基準であり、基底と次元の定義に直結します。

4一次独立と一次従属 ─ ベクトルの「無駄のなさ」

一次結合の定義

基底を定義する前に、まず一次結合(linear combination)を定義します。 ベクトル空間 $V$ のベクトル $\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \ldots, \mathbf{v}_m$ に対して、実数 $c_1, c_2, \ldots, c_m$ を用いた

$$c_1 \mathbf{v}_1 + c_2 \mathbf{v}_2 + \cdots + c_m \mathbf{v}_m$$

を $\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_m$ の一次結合と呼びます。高校では「ベクトルの1次結合」として $s\mathbf{a} + t\mathbf{b}$ の形を学びましたが、これを一般の $m$ 個に拡張したものです。

一次独立と一次従属の定義

一次独立と一次従属の定義

ベクトル空間 $V$ のベクトル $\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \ldots, \mathbf{v}_m$ が一次独立(linearly independent)であるとは、

$$c_1 \mathbf{v}_1 + c_2 \mathbf{v}_2 + \cdots + c_m \mathbf{v}_m = \mathbf{0}$$

を満たす実数の組 $(c_1, c_2, \ldots, c_m)$ が $(0, 0, \ldots, 0)$ に限ることを意味します。

一次独立でないとき、すなわち少なくとも1つの $c_k \ne 0$ で上の等式が成り立つとき、$\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_m$ は一次従属(linearly dependent)であるといいます。

一次独立の直感的な意味は、「どのベクトルも他のベクトルたちの一次結合では表せない」ということです。一次従属は、「少なくとも1つが他の一次結合で表せる」=「無駄なベクトルがある」ことを意味します。

具体例:$\mathbb{R}^2$ での一次独立・一次従属

例1:一次独立な組

$\mathbf{v}_1 = (1, 0)$、$\mathbf{v}_2 = (0, 1)$ を考えます。

$$c_1(1, 0) + c_2(0, 1) = (0, 0)$$

を成分で書くと $(c_1, c_2) = (0, 0)$ です。零ベクトルを作るには両方とも $0$ にするしかないので、$\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2$ は一次独立です。

例2:一次従属な組

$\mathbf{v}_1 = (1, 2)$、$\mathbf{v}_2 = (2, 4)$ を考えます。$\mathbf{v}_2 = 2\mathbf{v}_1$ なので、

$$2 \cdot \mathbf{v}_1 + (-1) \cdot \mathbf{v}_2 = 2(1, 2) + (-1)(2, 4) = (2, 4) + (-2, -4) = (0, 0) = \mathbf{0}$$

$c_1 = 2, c_2 = -1$ という $0$ でない組み合わせで零ベクトルが作れるので、$\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2$ は一次従属です。 直感的には、$\mathbf{v}_2$ は $\mathbf{v}_1$ の2倍なので、$\mathbf{v}_2$ は「無駄」なベクトルです。

例3:$\mathbb{R}^2$ の3本のベクトルは必ず一次従属

$\mathbf{v}_1 = (1, 0)$、$\mathbf{v}_2 = (0, 1)$、$\mathbf{v}_3 = (3, 5)$ を考えます。$\mathbf{v}_3 = 3\mathbf{v}_1 + 5\mathbf{v}_2$ なので、

$$3\mathbf{v}_1 + 5\mathbf{v}_2 + (-1)\mathbf{v}_3 = \mathbf{0}$$

となり、一次従属です。これは偶然ではありません。$\mathbb{R}^2$ では、どのような3本のベクトルを選んでも必ず一次従属になります。 この事実の背後にあるのが「次元」の概念であり、次のセクションで明らかにします。

一次独立の幾何学的な意味

$\mathbb{R}^2$ において、2本のベクトルが一次独立であることは、それらが平行でないことと同値です。 平行でない2本のベクトルがあれば、それらの一次結合で平面上のあらゆるベクトルを表すことができます。 一方、平行な2本のベクトルでは、一次結合で作れるのは一直線上のベクトルだけです。

同様に、$\mathbb{R}^3$ において、3本のベクトルが一次独立であることは、それらが同一平面上にないことと同値です。 高校数学でも「$\mathbf{a}$ と $\mathbf{b}$ が平行でなければ $s\mathbf{a} + t\mathbf{b}$ で平面上のすべてのベクトルを表せる」と学びますが、これは一次独立による表現の一意性の具体例です。

ここまでで、一次独立の概念を導入しました。一次独立なベクトルの組は「無駄がない」組であり、 一次従属な組には「余分なベクトル」が含まれています。 次のセクションでは、一次独立の概念を使って「基底」を定義し、次元と座標系の意味を明らかにします。

5基底と次元 ─ 座標系の正体

生成と基底の定義

ベクトル空間 $V$ のベクトル $\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_m$ について、$V$ のすべてのベクトルがこれらの一次結合で表せるとき、$\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_m$ は $V$ を生成する(span)といいます。

基底の定義

ベクトル空間 $V$ のベクトルの組 $\{\mathbf{v}_1, \mathbf{v}_2, \ldots, \mathbf{v}_n\}$ が $V$ の基底(basis)であるとは、次の2つの条件を同時に満たすことです。

(B1) $\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n$ は一次独立である(無駄がない)

(B2) $\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n$ は $V$ を生成する(全体をカバーする)

基底とは、「無駄なく、全体をカバーするベクトルの組」です。(B1) で余分なベクトルがないことを保証し、(B2) で足りないベクトルがないことを保証します。

基底の例

$\mathbb{R}^2$ の標準基底: $\mathbf{e}_1 = (1, 0)$、$\mathbf{e}_2 = (0, 1)$ は $\mathbb{R}^2$ の基底です。 (B1) これらが一次独立であることはセクション4の例1で確認しました。 (B2) 任意のベクトル $(a_1, a_2)$ は $a_1 \mathbf{e}_1 + a_2 \mathbf{e}_2$ と書けるので、$\mathbb{R}^2$ を生成します。 この基底を標準基底と呼びます。

$\mathbb{R}^2$ の別の基底: $\mathbf{f}_1 = (1, 1)$、$\mathbf{f}_2 = (1, -1)$ も $\mathbb{R}^2$ の基底です。

まず一次独立性を確認します。$c_1(1, 1) + c_2(1, -1) = (0, 0)$ とすると、成分ごとに $c_1 + c_2 = 0$ かつ $c_1 - c_2 = 0$ です。この連立方程式を解くと $c_1 = c_2 = 0$ なので、一次独立です。

次に生成することを確認します。任意のベクトル $(a_1, a_2) \in \mathbb{R}^2$ に対して、

$$c_1(1, 1) + c_2(1, -1) = (a_1, a_2)$$

を解くと、$c_1 = \frac{a_1 + a_2}{2}$、$c_2 = \frac{a_1 - a_2}{2}$ です。つまり

$$(a_1, a_2) = \frac{a_1 + a_2}{2}(1, 1) + \frac{a_1 - a_2}{2}(1, -1)$$

が成り立ちます。したがって $\mathbf{f}_1, \mathbf{f}_2$ は $\mathbb{R}^2$ を生成し、基底であることが確認できました。

基底による座標の一意性

基底の2つの条件 (B1) と (B2) を合わせると、次の重要な性質が得られます。

基底による表示の一意性

$\{\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n\}$ が $V$ の基底であれば、$V$ の任意のベクトル $\mathbf{v}$ に対して、

$$\mathbf{v} = c_1 \mathbf{v}_1 + c_2 \mathbf{v}_2 + \cdots + c_n \mathbf{v}_n$$

を満たす実数の組 $(c_1, c_2, \ldots, c_n)$ がただ一つ存在します。この $(c_1, c_2, \ldots, c_n)$ を、基底 $\{\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n\}$ に関する $\mathbf{v}$ の座標と呼びます。

座標の一意性の証明

示すこと:基底 $\{\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n\}$ による $\mathbf{v}$ の一次結合表示は一通りしかないこと。

証明の方針:2通りの表し方があると仮定し、一次独立性から矛盾を導きます。

存在:(B2) より $\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n$ は $V$ を生成するので、$\mathbf{v}$ はこれらの一次結合として表せます。よって少なくとも1つの表し方が存在します。

一意性:2通りの表し方があったとします。

$$\mathbf{v} = c_1 \mathbf{v}_1 + \cdots + c_n \mathbf{v}_n = d_1 \mathbf{v}_1 + \cdots + d_n \mathbf{v}_n$$

両辺の差をとると、

$$(c_1 - d_1)\mathbf{v}_1 + (c_2 - d_2)\mathbf{v}_2 + \cdots + (c_n - d_n)\mathbf{v}_n = \mathbf{0}$$

(B1) より $\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n$ は一次独立なので、すべての係数が $0$ です。すなわち $c_k - d_k = 0$、つまり $c_k = d_k$($k = 1, \ldots, n$)です。したがって表し方は一通りです。 $\square$

この定理が、座標系の本質を明らかにしています。基底を1つ選ぶと、すべてのベクトルに一意の座標が割り当てられます。 高校で使っていた成分表示 $(a_1, a_2)$ は、標準基底 $\{\mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2\}$ に関する座標に他なりません。

次元の定義

異なる基底を選んでも、基底に含まれるベクトルの本数は常に同じであることが証明できます。これは自明ではない定理です。

基底の本数の一意性の証明

示すこと:ベクトル空間 $V$ の2つの基底 $\{\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n\}$ と $\{\mathbf{w}_1, \ldots, \mathbf{w}_m\}$ に対して、$n = m$ であること。

証明の方針:$n < m$ と仮定して矛盾を導きます。$n > m$ の場合も同様です。

$n < m$ と仮定します。$\mathbf{w}_1, \ldots, \mathbf{w}_m$ は一次独立です。一方、$\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n$ は $V$ の基底なので、各 $\mathbf{w}_j$ は $\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n$ の一次結合で書けます。

$$\mathbf{w}_j = \sum_{i=1}^{n} a_{ij} \mathbf{v}_i \quad (j = 1, \ldots, m)$$

ここで $c_1 \mathbf{w}_1 + \cdots + c_m \mathbf{w}_m = \mathbf{0}$ とすると、

$$\sum_{j=1}^{m} c_j \left(\sum_{i=1}^{n} a_{ij} \mathbf{v}_i\right) = \sum_{i=1}^{n} \left(\sum_{j=1}^{m} a_{ij} c_j\right) \mathbf{v}_i = \mathbf{0}$$

$\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n$ が一次独立なので、各 $i$ に対して $\sum_{j=1}^{m} a_{ij} c_j = 0$ です。これは $n$ 本の方程式に $m$ 個の未知数 $(c_1, \ldots, c_m)$ を持つ斉次連立一次方程式です。$n < m$ のとき、方程式の数が未知数の数より少ないので、$\mathbf{0}$ でない解が存在します。

しかしこれは $\mathbf{w}_1, \ldots, \mathbf{w}_m$ の一次独立性に矛盾します。したがって $n \ge m$ です。$n$ と $m$ の役割を交換すれば $m \ge n$ も得られるので、$n = m$ です。 $\square$

次元の定義

ベクトル空間 $V$ が有限個のベクトルからなる基底を持つとき、$V$ は有限次元であるといいます。基底のベクトルの本数(これは基底の選び方によらず一定)を $V$ の次元(dimension)と呼び、$\dim V$ と書きます。

$\dim \mathbb{R}^n = n$ です。特に $\dim \mathbb{R}^2 = 2$(平面は2次元)、$\dim \mathbb{R}^3 = 3$(空間は3次元)です。これらが「2次元」「3次元」と呼ばれる理由は、基底のベクトルがそれぞれ2本、3本だからです。

次元の定義によって、セクション4で述べた「$\mathbb{R}^2$ では3本のベクトルは必ず一次従属」の理由が明確になります。 $\dim \mathbb{R}^2 = 2$ なので、基底は2本のベクトルからなります。3本以上のベクトルがあれば、その中に必ず「無駄な」ベクトルが含まれる、すなわち一次従属になるのです。

多項式空間の次元: セクション3で導入した $P_2$(次数2以下の多項式の全体)の基底は $\{1, x, x^2\}$ です。 実際、(B1) $c_0 \cdot 1 + c_1 x + c_2 x^2 = 0$(すべての $x$ で成り立つ)なら $c_0 = c_1 = c_2 = 0$ なので一次独立です。 (B2) 任意の $a_0 + a_1 x + a_2 x^2 \in P_2$ は $a_0 \cdot 1 + a_1 \cdot x + a_2 \cdot x^2$ と書けるので、$P_2$ を生成します。 したがって $\dim P_2 = 3$ です。矢印のベクトル空間 $\mathbb{R}^3$ と多項式空間 $P_2$ は、次元が同じです。

無限次元ベクトル空間

すべての実数係数多項式の集合 $P = \{a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + \cdots + a_n x^n \mid n \ge 0,\, a_k \in \mathbb{R}\}$ もベクトル空間ですが、有限個のベクトルからなる基底を持ちません。$\{1, x, x^2, x^3, \ldots\}$ は無限集合であり、$P$ は無限次元ベクトル空間です。この記事では有限次元の場合のみを扱いますが、関数解析学などでは無限次元空間が重要な役割を果たします。

ここまでで、基底と次元の定義を確立しました。基底を選ぶことは座標系を決めることであり、次元は座標の成分の個数です。 次のセクションでは、基底を変えたときに座標がどう変化するかを具体的に計算し、座標系の変換を体験します。

6応用 ─ 基底の変換と座標の変化

同じベクトル、異なる座標

$\mathbb{R}^2$ のベクトル $\mathbf{v} = (3, 1)$ を考えます。 標準基底 $\{\mathbf{e}_1, \mathbf{e}_2\} = \{(1, 0), (0, 1)\}$ に関する座標は $(3, 1)$ そのものです。

では、セクション5で確認した基底 $\{\mathbf{f}_1, \mathbf{f}_2\} = \{(1, 1), (1, -1)\}$ に関する座標はどうなるでしょうか。

$$\mathbf{v} = c_1 \mathbf{f}_1 + c_2 \mathbf{f}_2 = c_1(1, 1) + c_2(1, -1)$$

成分ごとに書くと、

$$c_1 + c_2 = 3, \quad c_1 - c_2 = 1$$

これを解くと $c_1 = 2$、$c_2 = 1$ です。したがって、基底 $\{\mathbf{f}_1, \mathbf{f}_2\}$ に関する $\mathbf{v}$ の座標は $(2, 1)$ です。

同じベクトル $\mathbf{v} = (3, 1)$ が、標準基底では座標 $(3, 1)$、基底 $\{\mathbf{f}_1, \mathbf{f}_2\}$ では座標 $(2, 1)$ と、基底によって異なる座標で表されます。 ベクトルそのものは変わっていません。変わったのは「ものさし」(基底)だけです。

もう一つの基底での座標

さらに別の基底 $\{\mathbf{g}_1, \mathbf{g}_2\} = \{(2, 1), (1, 3)\}$ を考えます。 まずこれが基底であることを確認します。$c_1(2, 1) + c_2(1, 3) = (0, 0)$ とすると、

$$2c_1 + c_2 = 0, \quad c_1 + 3c_2 = 0$$

第1式から $c_2 = -2c_1$ で、第2式に代入すると $c_1 - 6c_1 = -5c_1 = 0$ より $c_1 = 0$、したがって $c_2 = 0$ です。一次独立なので基底です。

$\mathbf{v} = (3, 1)$ をこの基底で表します。$c_1(2, 1) + c_2(1, 3) = (3, 1)$ とすると、

$$2c_1 + c_2 = 3, \quad c_1 + 3c_2 = 1$$

第1式から $c_2 = 3 - 2c_1$ で、第2式に代入すると $c_1 + 3(3 - 2c_1) = c_1 + 9 - 6c_1 = -5c_1 + 9 = 1$ より $c_1 = \frac{8}{5}$、$c_2 = 3 - \frac{16}{5} = -\frac{1}{5}$ です。

基底 $\{\mathbf{g}_1, \mathbf{g}_2\}$ に関する座標は $\left(\frac{8}{5}, -\frac{1}{5}\right)$ です。

検算しましょう。$\frac{8}{5}(2, 1) + \left(-\frac{1}{5}\right)(1, 3) = \left(\frac{16}{5}, \frac{8}{5}\right) + \left(-\frac{1}{5}, -\frac{3}{5}\right) = \left(\frac{15}{5}, \frac{5}{5}\right) = (3, 1)$ です。確かに元のベクトルと一致します。

座標の変換をまとめる

ここまでの結果を表にまとめます。

基底 $\mathbf{v} = (3, 1)$ の座標
$\{(1, 0), (0, 1)\}$(標準基底) $(3, 1)$
$\{(1, 1), (1, -1)\}$ $(2, 1)$
$\{(2, 1), (1, 3)\}$ $\left(\frac{8}{5}, -\frac{1}{5}\right)$

同じベクトルに対して、3つの異なる座標が得られました。 高校では標準基底を暗黙に使い続けるので、成分 $(3, 1)$ がベクトルそのものだと感じがちです。 しかし $(3, 1)$ という数の組は、標準基底を選んだときの座標表示であって、ベクトルの本質ではありません。 ベクトルの本質は基底の選び方に依存しない幾何学的な対象であり、座標はあくまで「基底を通して見た姿」に過ぎないのです。

ベクトルと座標の関係

ベクトルそのもの(幾何学的な対象)と、特定の基底に関する座標(数の組)は区別する必要があります。基底を変えれば座標は変わりますが、ベクトルは同じです。

高校の成分表示は、標準基底という特定の基底を暗黙に選んだときの座標です。

多項式空間での座標

多項式空間 $P_2$ でも同じことが起こります。$P_2$ の標準的な基底は $\{1, x, x^2\}$ です。 多項式 $p(x) = 3 + 2x - x^2$ の、この基底に関する座標は $(3, 2, -1)$ です。

別の基底 $\{1, x - 1, (x - 1)^2\}$ を考えてみましょう($x = 1$ の周りのテイラー展開の形です)。$(x-1)^2 = x^2 - 2x + 1$ なので、これらが一次独立であることは確認できます。 $p(x) = 3 + 2x - x^2$ をこの基底で表すと、

$$p(x) = c_0 \cdot 1 + c_1(x - 1) + c_2(x - 1)^2$$

右辺を展開すると $c_0 + c_1 x - c_1 + c_2 x^2 - 2c_2 x + c_2 = c_2 x^2 + (c_1 - 2c_2)x + (c_0 - c_1 + c_2)$ です。 $3 + 2x - x^2$ と係数を比較して、$c_2 = -1$、$c_1 - 2c_2 = c_1 + 2 = 2$ より $c_1 = 0$、$c_0 - c_1 + c_2 = c_0 - 1 = 3$ より $c_0 = 4$ です。

したがって $p(x) = 4 \cdot 1 + 0 \cdot (x - 1) + (-1)(x - 1)^2 = 4 - (x-1)^2$ です。基底 $\{1, x-1, (x-1)^2\}$ に関する座標は $(4, 0, -1)$ です。 多項式空間でも、基底を変えれば座標が変わるという原理は全く同じです。

ここまでの内容をまとめると、ベクトル空間・基底・次元・座標という概念の連鎖は、 「座標系とは基底の選び方である」という一つの原理によって貫かれています。 この視点は、📖 M-17-3 で学ぶ行列の理論や、📖 M-17-4 で学ぶ固有値の理論につながっていきます。

7つながりマップ

  • 前提知識: 📖 M-16-1 図形と方程式の代数的構造 ─ 座標による幾何学の代数化。座標系の概念がベクトル空間での基底に一般化されます。
  • 発展: 📖 M-17-2 内積の一般化 ─ ベクトル空間に「長さ」や「角度」の概念を導入します。内積空間の公理はベクトル空間の公理に追加の構造を加えたものです。
  • 発展: 📖 M-17-3 線形写像と行列 ─ ベクトル空間の間の「構造を保つ写像」を学びます。行列は、基底を選んだときの線形写像の座標表示です。
  • 関連: 📖 M-4-1 不等式の代数的構造 ─ コーシー・シュワルツの不等式はベクトル空間の内積と深い関係があります。
Sまとめ
  • ベクトル空間とは、加法とスカラー倍が8つの公理を満たす集合です。$\mathbb{R}^n$ だけでなく、多項式の集合なども例になります。
  • 一次独立とは、零ベクトルを作る方法が自明なもの(すべての係数が $0$)に限ることです。一次独立なベクトルの組には「無駄」がありません。
  • 基底は、一次独立かつ全体を生成するベクトルの組です。基底を選ぶと、すべてのベクトルに一意の座標が定まります。
  • 次元は基底のベクトルの本数です。これは基底の選び方によらない不変量であり、「平面が2次元」「空間が3次元」の数学的な根拠です。
  • 座標系とは基底の選択に他なりません。基底を変えれば座標は変わりますが、ベクトルそのものは変わりません。

Q確認テスト

理解度チェック

Q1. ベクトル空間の定義において、加法に関する公理は何個ありますか。

クリックして解答を表示 4個です。(V1) 交換法則、(V2) 結合法則、(V3) 零ベクトルの存在、(V4) 逆ベクトルの存在。スカラー倍に関する公理も4個で、合計8個です。

Q2. $\mathbb{R}^3$ のベクトル $\mathbf{v}_1 = (1, 0, 0)$, $\mathbf{v}_2 = (0, 1, 0)$, $\mathbf{v}_3 = (1, 1, 0)$ は一次独立ですか。

クリックして解答を表示 一次従属です。$\mathbf{v}_3 = \mathbf{v}_1 + \mathbf{v}_2$ なので、$1 \cdot \mathbf{v}_1 + 1 \cdot \mathbf{v}_2 + (-1) \cdot \mathbf{v}_3 = \mathbf{0}$ と、すべてが $0$ でない係数で零ベクトルが作れます。

Q3. 次数が3以下の多項式全体の集合 $P_3$ の次元はいくつですか。

クリックして解答を表示 $\dim P_3 = 4$ です。基底として $\{1, x, x^2, x^3\}$ がとれるので、基底のベクトルの本数は4です。

Q4. 「ベクトルの座標は基底によらず一定である」は正しいですか。

クリックして解答を表示 正しくありません。座標は基底の選び方に依存します。同じベクトルでも、異なる基底を選べば異なる座標で表されます。基底によらないのは「ベクトルそのもの」であり、座標ではありません。

E演習問題

問1 A ベクトル空間の公理

$V = \{(a, 0) \mid a \in \mathbb{R}\}$($x$ 軸上のベクトルの全体)に、$\mathbb{R}^2$ と同じ加法・スカラー倍を定義します。$V$ はベクトル空間の8つの公理を満たすかどうかを確認してください。

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解答

$V$ はベクトル空間です。

解説

まず $V$ が加法とスカラー倍に関して閉じていることを確認します。$(a, 0) + (b, 0) = (a + b, 0) \in V$、$c(a, 0) = (ca, 0) \in V$ です。

8つの公理はすべて $\mathbb{R}^2$ で成り立つ性質であり、$V$ は $\mathbb{R}^2$ の部分集合で加法・スカラー倍の定義は同じなので、$V$ の元に対しても成り立ちます。特に、零ベクトル $(0, 0) \in V$ であり、$(a, 0)$ の逆ベクトル $(-a, 0) \in V$ です。

したがって $V$ はベクトル空間です($\mathbb{R}^2$ の部分空間と呼ばれます)。$\dim V = 1$ で、基底は $\{(1, 0)\}$ です。

問2 A 一次独立の判定

次のベクトルの組が一次独立か一次従属かを判定してください。

(1) $\mathbb{R}^3$ において $\mathbf{v}_1 = (1, 0, 2)$, $\mathbf{v}_2 = (0, 1, -1)$, $\mathbf{v}_3 = (3, 1, 5)$

(2) $\mathbb{R}^3$ において $\mathbf{v}_1 = (1, 2, 3)$, $\mathbf{v}_2 = (4, 5, 6)$, $\mathbf{v}_3 = (7, 8, 10)$

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解答

(1) 一次従属 (2) 一次独立

解説

(1) $c_1(1, 0, 2) + c_2(0, 1, -1) + c_3(3, 1, 5) = (0, 0, 0)$ とすると、

$c_1 + 3c_3 = 0$、$c_2 + c_3 = 0$、$2c_1 - c_2 + 5c_3 = 0$

第1式から $c_1 = -3c_3$、第2式から $c_2 = -c_3$、第3式に代入すると $-6c_3 + c_3 + 5c_3 = 0$ で常に成立します。$c_3 = 1$ とおくと $c_1 = -3$、$c_2 = -1$ で、$-3\mathbf{v}_1 - \mathbf{v}_2 + \mathbf{v}_3 = \mathbf{0}$ となります。$\mathbf{v}_3 = 3\mathbf{v}_1 + \mathbf{v}_2$ なので一次従属です。

(2) $c_1(1, 2, 3) + c_2(4, 5, 6) + c_3(7, 8, 10) = (0, 0, 0)$ とすると、

$c_1 + 4c_2 + 7c_3 = 0$、$2c_1 + 5c_2 + 8c_3 = 0$、$3c_1 + 6c_2 + 10c_3 = 0$

第2式 $-$ 第1式 $\times 2$:$-3c_2 - 6c_3 = 0$ より $c_2 = -2c_3$。第3式 $-$ 第1式 $\times 3$:$-6c_2 - 11c_3 = 0$ より $c_2 = -\frac{11}{6}c_3$。$-2c_3 = -\frac{11}{6}c_3$ から $c_3 = 0$、したがって $c_2 = 0$、$c_1 = 0$ です。一次独立です。

問3 B 基底と座標

$\mathbb{R}^2$ の基底 $\{\mathbf{f}_1, \mathbf{f}_2\} = \{(2, 1), (1, 1)\}$ に関して、ベクトル $\mathbf{v} = (5, 3)$ の座標を求めてください。

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解答

座標は $(2, 1)$ です。

解説

$c_1(2, 1) + c_2(1, 1) = (5, 3)$ を解きます。

$2c_1 + c_2 = 5$、$c_1 + c_2 = 3$

第1式から第2式を引くと $c_1 = 2$ です。$c_2 = 3 - c_1 = 1$ です。

検算:$2(2, 1) + 1(1, 1) = (4, 2) + (1, 1) = (5, 3)$ で一致します。

したがって基底 $\{\mathbf{f}_1, \mathbf{f}_2\}$ に関する $\mathbf{v}$ の座標は $(2, 1)$ です。

問4 C 多項式空間の基底

$P_2$(次数2以下の多項式全体)において、$\{1 + x, \, x + x^2, \, 1 + x^2\}$ が基底であるかどうかを判定してください。基底であれば、$p(x) = 3 + 5x + 2x^2$ のこの基底に関する座標を求めてください。

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解答

基底です。座標は $(3, 2, 0)$ です($\{1+x,\, x+x^2,\, 1+x^2\}$ の順)。

解説

一次独立性の確認:$c_1(1 + x) + c_2(x + x^2) + c_3(1 + x^2) = 0$(零多項式)とします。

展開すると $(c_1 + c_3) + (c_1 + c_2)x + (c_2 + c_3)x^2 = 0$ です。すべての $x$ でこれが成り立つので、

$c_1 + c_3 = 0$、$c_1 + c_2 = 0$、$c_2 + c_3 = 0$

第1式から $c_3 = -c_1$、第2式から $c_2 = -c_1$、第3式に代入すると $-c_1 - c_1 = -2c_1 = 0$ より $c_1 = 0$、したがって $c_2 = c_3 = 0$ です。一次独立です。

$\dim P_2 = 3$ なので、一次独立な3本のベクトルは自動的に $P_2$ を生成します。よって基底です。

座標の計算:$c_1(1 + x) + c_2(x + x^2) + c_3(1 + x^2) = 3 + 5x + 2x^2$ とすると、

$c_1 + c_3 = 3$、$c_1 + c_2 = 5$、$c_2 + c_3 = 2$

第2式 $-$ 第3式で $c_1 - c_3 = 3$。第1式 $c_1 + c_3 = 3$ と合わせて $2c_1 = 6$ より $c_1 = 3$、$c_3 = 0$、$c_2 = 5 - 3 = 2$ です。

検算:$3(1+x) + 2(x+x^2) + 0(1+x^2) = 3 + 3x + 2x + 2x^2 = 3 + 5x + 2x^2$ で一致します。

したがって座標は $(3, 2, 0)$ です。

問5 C 次元の議論

$n$ 次元ベクトル空間 $V$($\dim V = n$)において、$n + 1$ 本のベクトルは必ず一次従属であることを証明してください。

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解答

以下の通り。

解説

$\dim V = n$ なので、$V$ には $n$ 本のベクトルからなる基底 $\{\mathbf{e}_1, \ldots, \mathbf{e}_n\}$ が存在します。

$n + 1$ 本のベクトルを $\mathbf{w}_1, \ldots, \mathbf{w}_{n+1}$ とします。各 $\mathbf{w}_j$ は基底の一次結合で書けるので、

$$\mathbf{w}_j = \sum_{i=1}^{n} a_{ij} \mathbf{e}_i \quad (j = 1, \ldots, n+1)$$

$c_1 \mathbf{w}_1 + \cdots + c_{n+1} \mathbf{w}_{n+1} = \mathbf{0}$ とすると、セクション5の証明と同様に、

$$\sum_{i=1}^{n} \left(\sum_{j=1}^{n+1} a_{ij} c_j\right) \mathbf{e}_i = \mathbf{0}$$

基底の一次独立性より、各 $i$ に対して $\sum_{j=1}^{n+1} a_{ij} c_j = 0$ です。

これは $n$ 本の方程式に $n + 1$ 個の未知数 $c_1, \ldots, c_{n+1}$ を持つ斉次連立一次方程式です。方程式の数($n$)が未知数の数($n + 1$)より少ないので、自明でない解($\mathbf{0}$ でない $(c_1, \ldots, c_{n+1})$)が存在します。

したがって $\mathbf{w}_1, \ldots, \mathbf{w}_{n+1}$ は一次従属です。 $\square$