高校数学では、余弦定理・正弦定理・三角形の面積公式を個別に学びます。それぞれに独自の証明があり、場面に応じて使い分けるものとして習います。
しかし、これらの公式は実は一つの道具から統一的に導くことができます。その道具がベクトルの内積です。
三角形の辺をベクトルで表し、内積の定義 $\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = |\mathbf{a}||\mathbf{b}|\cos\theta$ を出発点にすると、余弦定理は内積を成分で展開するだけで得られます。
さらに、内積から自然に現れる「ベクトルの外積の大きさ」$|\mathbf{a}||\mathbf{b}|\sin\theta$ を使えば、面積公式も正弦定理も導出できます。
高校では別々に見えていた公式群が、ベクトルという一つの言語で書き直すと、すべて内積の系として姿を現します。
高校の数学Iでは、三角比($\sin$, $\cos$, $\tan$)を直角三角形の辺の比として定義し、その後、一般の角に拡張します。そして、三角形の辺と角の関係を記述する次の3つの公式を学びます。
三角形 $ABC$ において、辺 $BC = a$, $CA = b$, $AB = c$、$\angle A = A$ とすると、
$$a^2 = b^2 + c^2 - 2bc\cos A$$
この公式は、三平方の定理を一般の三角形に拡張したものと習います。直角三角形の場合($A = 90{}^{\circ}$)には $\cos A = 0$ となり、$a^2 = b^2 + c^2$ に帰着します。
同じ三角形において、外接円の半径を $R$ とすると、
$$\frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B} = \frac{c}{\sin C} = 2R$$
この定理は、外接円の弦と中心角の関係から証明されます。
三角形 $ABC$ の面積 $S$ は、
$$S = \frac{1}{2}bc\sin A$$
高校では、頂点から対辺に下ろした垂線の長さ $h = b\sin A$ を使って「底辺 $\times$ 高さ $\div$ 2」として導出します。
これら3つの公式は、高校では個別の定理として別々に証明されます。余弦定理は座標計算や余弦の加法定理から、正弦定理は円周角の定理から、面積公式は垂線を下ろす方法で、それぞれ証明されます。 しかし、これらは本当に独立な事実なのでしょうか。次のセクションでは、一つの道具からこれらすべてを導くことができることを見ていきます。
大学数学では、三角形の辺をベクトルとして表現し、内積という一つの演算を軸にして図形の計量を組み立てます。内積 $\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = |\mathbf{a}||\mathbf{b}|\cos\theta$ は「2つのベクトルの長さと角度の情報」を一つの数値に凝縮した量です。この一つの定義から、余弦定理・面積公式・正弦定理のすべてが自然に導かれます。
この記事では、内積 $\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = |\mathbf{a}||\mathbf{b}|\cos\theta$ を唯一の出発点として、以下を導きます。
別々の定理に見えていたものが、内積の系として一直線に並びます。
ここからは、まず内積の定義と基本性質を確認し、そこから順に各公式を導出していきます。
ベクトルの内積は数学Cで学ぶ内容です。ここでは、本記事で使う性質を整理します。内積の一般化については M-17-2 内積の一般化 で詳しく扱います。
2つのベクトル $\mathbf{a}$, $\mathbf{b}$ のなす角を $\theta$($0 \le \theta \le \pi$)とするとき、内積(inner product, dot product)を次のように定義します。
$$\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = |\mathbf{a}||\mathbf{b}|\cos\theta$$
ここで $|\mathbf{a}|$ はベクトル $\mathbf{a}$ の大きさ(長さ)、$\theta$ は $\mathbf{a}$ と $\mathbf{b}$ のなす角です。内積の結果はベクトルではなくスカラー(実数)です。
成分で表すと、$\mathbf{a} = (a_1, a_2)$, $\mathbf{b} = (b_1, b_2)$ のとき、
$$\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = a_1 b_1 + a_2 b_2$$
が成り立ちます。この2つの表現(幾何的定義と成分表示)が同値であることは、数学Cで証明済みです。
内積には以下の性質があります。これらは定義から直接確認できます。
性質3は特に重要です。これは、ベクトルの長さの2乗が内積で書けることを意味しています。つまり、「長さ」という概念は内積から取り出せるのです。逆に言えば、内積を定義するだけで、長さ・角度・直交性といった幾何的概念がすべて手に入ります。
ここまでで、内積の定義と基本性質を確認しました。次に、この道具を使って余弦定理を導出します。
三角形 $ABC$ を考えます。頂点 $A$ を始点として、$\overrightarrow{AB} = \mathbf{c}$, $\overrightarrow{AC} = \mathbf{b}$ とおきます(ベクトルの名前は、向かい側の辺の長さと対応させています:$|\mathbf{b}| = b$, $|\mathbf{c}| = c$)。
辺 $BC$ はベクトルで表すと、
$$\overrightarrow{BC} = \overrightarrow{AC} - \overrightarrow{AB} = \mathbf{b} - \mathbf{c}$$
辺 $BC$ の長さは $a = |\overrightarrow{BC}| = |\mathbf{b} - \mathbf{c}|$ です。ここで $a^2$ を内積の性質を使って展開します。
目標:$a^2 = b^2 + c^2 - 2bc\cos A$ を示す。
セクション3の性質3(自己内積と長さ)より、$a^2 = |\mathbf{b} - \mathbf{c}|^2 = (\mathbf{b} - \mathbf{c}) \cdot (\mathbf{b} - \mathbf{c})$ です。
性質2(線形性)を使って展開します。
$$(\mathbf{b} - \mathbf{c}) \cdot (\mathbf{b} - \mathbf{c}) = \mathbf{b} \cdot \mathbf{b} - \mathbf{b} \cdot \mathbf{c} - \mathbf{c} \cdot \mathbf{b} + \mathbf{c} \cdot \mathbf{c}$$
性質1(対称性)より $\mathbf{b} \cdot \mathbf{c} = \mathbf{c} \cdot \mathbf{b}$ なので、
$$= |\mathbf{b}|^2 - 2(\mathbf{b} \cdot \mathbf{c}) + |\mathbf{c}|^2$$
内積の定義 $\mathbf{b} \cdot \mathbf{c} = |\mathbf{b}||\mathbf{c}|\cos A$ を代入します。ここで $\mathbf{b}$ と $\mathbf{c}$ のなす角が $\angle A$ であることに注意してください(どちらも頂点 $A$ を始点とするベクトルです)。
$$a^2 = b^2 + c^2 - 2bc\cos A$$
これが余弦定理です。$\blacksquare$
この導出のポイントは、余弦定理が「差のベクトルの長さの2乗を内積で展開した」という、ただそれだけの計算だということです。座標を設定する必要も、場合分けも不要です。内積の3つの性質(対称性・線形性・自己内積)だけで証明が完結しています。
余弦定理 $a^2 = b^2 + c^2 - 2bc\cos A$ は、ベクトルの差 $\mathbf{b} - \mathbf{c}$ の自己内積を展開しただけの式です。高校では「三平方の定理の一般化」と習いますが、大学の視点では「内積の展開公式そのもの」です。
三角形 $ABC$ で $b = 3$, $c = 4$, $\angle A = 60{}^{\circ}$ のとき、$a$ を求めてみます。
$\mathbf{b} \cdot \mathbf{c} = bc\cos A = 3 \cdot 4 \cdot \cos 60{}^{\circ} = 12 \cdot \frac{1}{2} = 6$ です。
$$a^2 = b^2 + c^2 - 2(\mathbf{b} \cdot \mathbf{c}) = 9 + 16 - 12 = 13$$
よって $a = \sqrt{13}$ です。
$\angle A = 90{}^{\circ}$ の場合は $\mathbf{b} \cdot \mathbf{c} = 0$(直交)なので $a^2 = b^2 + c^2$ となり、三平方の定理に帰着します。このように、三平方の定理は「内積がゼロ」という特殊な場合に対応するのです。
誤り:$\overrightarrow{AB}$ と $\overrightarrow{CA}$ のなす角を $\angle A$ としてしまう
正しい:$\overrightarrow{AB}$ と $\overrightarrow{AC}$ のなす角が $\angle A$。内積に使う2つのベクトルは、同じ頂点を始点とする必要があります。始点がそろっていないベクトル同士のなす角を三角形の内角と混同すると、符号が反転するなどの誤りにつながります。
ここまでで、内積から余弦定理を導出しました。次に、内積から面積公式と正弦定理を導きます。鍵となるのは $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ という関係です。
内積は $\cos\theta$ を含む量でした。では、面積公式に必要な $\sin\theta$ はどこから出てくるのでしょうか。答えは、三角比の基本関係 $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ です。
内積の定義から、
$$\cos\theta = \frac{\mathbf{a} \cdot \mathbf{b}}{|\mathbf{a}||\mathbf{b}|}$$
よって、$0 \le \theta \le \pi$ では $\sin\theta \ge 0$ なので、
$$\sin\theta = \sqrt{1 - \cos^2\theta} = \sqrt{1 - \frac{(\mathbf{a} \cdot \mathbf{b})^2}{|\mathbf{a}|^2|\mathbf{b}|^2}}$$
両辺に $|\mathbf{a}||\mathbf{b}|$ を掛けると、
$$|\mathbf{a}||\mathbf{b}|\sin\theta = \sqrt{|\mathbf{a}|^2|\mathbf{b}|^2 - (\mathbf{a} \cdot \mathbf{b})^2}$$
この量 $|\mathbf{a}||\mathbf{b}|\sin\theta$ は、2つのベクトル $\mathbf{a}$, $\mathbf{b}$ が張る平行四辺形の面積に等しくなります。三角形はその半分ですから、三角形の面積は $\frac{1}{2}|\mathbf{a}||\mathbf{b}|\sin\theta$ です。
2つのベクトル $\mathbf{a}$, $\mathbf{b}$ を2辺とする三角形の面積 $S$ は、
$$S = \frac{1}{2}|\mathbf{a}||\mathbf{b}|\sin\theta = \frac{1}{2}\sqrt{|\mathbf{a}|^2|\mathbf{b}|^2 - (\mathbf{a} \cdot \mathbf{b})^2}$$
右辺の第2の表現は、内積のみで面積が計算できることを示しています。角度 $\theta$ を明示的に求める必要がありません。
高校の面積公式 $S = \frac{1}{2}bc\sin A$ は、$|\mathbf{b}| = b$, $|\mathbf{c}| = c$, $\theta = A$ とおいたものにほかなりません。
3次元空間では、2つのベクトル $\mathbf{a}$, $\mathbf{b}$ に対して外積(cross product)$\mathbf{a} \times \mathbf{b}$ がベクトルとして定義され、その大きさが $|\mathbf{a} \times \mathbf{b}| = |\mathbf{a}||\mathbf{b}|\sin\theta$ となります。つまり、平行四辺形の面積を「ベクトルの大きさ」として表現できます。外積の向きは平行四辺形に垂直な方向です。外積の詳細は M-17-1 ベクトル空間 で扱います。
面積公式を手にしたので、正弦定理を導出できます。三角形 $ABC$ の面積 $S$ は、3つの頂点のどれを「頂角」に選んでも同じ値になります。つまり、
$$S = \frac{1}{2}bc\sin A = \frac{1}{2}ca\sin B = \frac{1}{2}ab\sin C$$
目標:$\dfrac{a}{\sin A} = \dfrac{b}{\sin B} = \dfrac{c}{\sin C}$ を示す。
上の面積の等式 $\frac{1}{2}bc\sin A = \frac{1}{2}ca\sin B = \frac{1}{2}ab\sin C$ の各辺を $\frac{1}{2}abc$ で割ります($a, b, c > 0$ なので割ることができます)。
$$\frac{\sin A}{a} = \frac{\sin B}{b} = \frac{\sin C}{c}$$
逆数をとれば、
$$\frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B} = \frac{c}{\sin C}$$
これが正弦定理です。$\blacksquare$
この導出では、正弦定理の「$= 2R$」の部分(外接円の半径との関係)は示していません。$\frac{a}{\sin A} = 2R$ を示すには、外接円の性質(円周角の定理)を使う必要があり、純粋にベクトルだけでは導けません。しかし、辺と角の比の等式自体は、面積公式という内積の系だけで得られるのです。
余弦定理と面積公式を組み合わせると、辺の長さだけから面積を求めるヘロンの公式が導かれます。余弦定理から $\cos A$ を求め、面積公式に代入する方針です。
目標:$S = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$($s = \frac{a+b+c}{2}$)を示す。
ステップ1:余弦定理 $a^2 = b^2 + c^2 - 2bc\cos A$ から $\cos A$ を求めます。
$$\cos A = \frac{b^2 + c^2 - a^2}{2bc}$$
ステップ2:面積公式 $S = \frac{1}{2}bc\sin A$ を使います。$\sin^2 A = 1 - \cos^2 A$ なので、
$$4S^2 = b^2 c^2 \sin^2 A = b^2 c^2 (1 - \cos^2 A) = b^2 c^2 - (b^2 c^2 \cos^2 A)$$
$$= b^2 c^2 - \left(\frac{b^2 + c^2 - a^2}{2}\right)^2$$
ステップ3:$X = bc$, $Y = \frac{b^2 + c^2 - a^2}{2}$ とおくと、$4S^2 = X^2 - Y^2 = (X+Y)(X-Y)$ です。
$$X + Y = bc + \frac{b^2 + c^2 - a^2}{2} = \frac{2bc + b^2 + c^2 - a^2}{2} = \frac{(b+c)^2 - a^2}{2} = \frac{(b+c+a)(b+c-a)}{2}$$
$$X - Y = bc - \frac{b^2 + c^2 - a^2}{2} = \frac{2bc - b^2 - c^2 + a^2}{2} = \frac{a^2 - (b-c)^2}{2} = \frac{(a+b-c)(a-b+c)}{2}$$
$s = \frac{a+b+c}{2}$ とおくと、$b+c+a = 2s$, $b+c-a = 2(s-a)$, $a-b+c = 2(s-b)$, $a+b-c = 2(s-c)$ です。
$$4S^2 = \frac{2s \cdot 2(s-a)}{2} \cdot \frac{2(s-c) \cdot 2(s-b)}{2} = 4s(s-a)(s-b)(s-c)$$
$$\therefore\ S^2 = s(s-a)(s-b)(s-c)$$
$S > 0$ なので $S = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$ です。$\blacksquare$
ヘロンの公式は一見複雑ですが、導出の流れは明快です。余弦定理で $\cos A$ を辺の長さで表し(ステップ1)、面積公式に代入し(ステップ2)、因数分解する(ステップ3)。余弦定理も面積公式も内積から導出したので、ヘロンの公式も内積の系ということになります。
ここまでで、内積を出発点として、余弦定理 → 面積公式 → 正弦定理 → ヘロンの公式という一連の導出が完了しました。次のセクションでは、この統一的な視点が具体的な計量問題でどのように役立つかを見ていきます。
3点 $A(1, 2)$, $B(4, 1)$, $C(2, 5)$ を頂点とする三角形 $ABC$ の面積を求めます。
ベクトル $\overrightarrow{AB} = (3, -1)$, $\overrightarrow{AC} = (1, 3)$ とします。
まず内積を計算します。$\overrightarrow{AB} \cdot \overrightarrow{AC} = 3 \cdot 1 + (-1) \cdot 3 = 0$ です。内積がゼロなので、$\overrightarrow{AB} \perp \overrightarrow{AC}$(直角三角形)です。
面積公式 $S = \frac{1}{2}\sqrt{|\mathbf{a}|^2|\mathbf{b}|^2 - (\mathbf{a} \cdot \mathbf{b})^2}$ に代入します。
$$|\overrightarrow{AB}|^2 = 9 + 1 = 10, \quad |\overrightarrow{AC}|^2 = 1 + 9 = 10$$
$$S = \frac{1}{2}\sqrt{10 \cdot 10 - 0^2} = \frac{1}{2}\sqrt{100} = 5$$
内積がゼロだったので直角三角形と判明し、面積は $\frac{1}{2} \cdot \sqrt{10} \cdot \sqrt{10} = 5$ と一瞬で求まります。角度を求める必要がないのがベクトルの利点です。
三角形 $ABC$ で $a = 7$, $b = 5$, $c = 8$ のとき、$\cos A$ と面積 $S$ を求めます。
余弦定理(内積の展開)から、
$$\cos A = \frac{b^2 + c^2 - a^2}{2bc} = \frac{25 + 64 - 49}{2 \cdot 5 \cdot 8} = \frac{40}{80} = \frac{1}{2}$$
よって $A = 60{}^{\circ}$ です。面積は、
$$S = \frac{1}{2}bc\sin A = \frac{1}{2} \cdot 5 \cdot 8 \cdot \sin 60{}^{\circ} = 20 \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} = 10\sqrt{3}$$
ヘロンの公式でも確認します。$s = \frac{7 + 5 + 8}{2} = 10$ なので、
$$S = \sqrt{10 \cdot 3 \cdot 5 \cdot 2} = \sqrt{300} = 10\sqrt{3}$$
一致しました。ヘロンの公式では角度を経由せずに面積が求まる利点があります。
三角形の3辺の長さが $a = 5$, $b = 6$, $c = 9$ のとき、最大角(辺 $c$ の対角 $C$)が鈍角か鋭角かを判定します。
余弦定理(内積の展開)から、
$$\cos C = \frac{a^2 + b^2 - c^2}{2ab} = \frac{25 + 36 - 81}{2 \cdot 5 \cdot 6} = \frac{-20}{60} = -\frac{1}{3}$$
$\cos C < 0$ なので $C$ は鈍角です。ベクトルの言葉では、$\overrightarrow{CA}$ と $\overrightarrow{CB}$ の内積が $ab\cos C = 5 \cdot 6 \cdot (-\frac{1}{3}) = -10 < 0$ であり、これは2つのベクトルのなす角が $90{}^{\circ}$ より大きいことを意味します。
このように、内積の符号を見るだけで角度の鋭鈍が判定できます。$\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} > 0$ なら鋭角、$= 0$ なら直角、$< 0$ なら鈍角です。
2つのベクトル $\mathbf{a}$, $\mathbf{b}$ のなす角 $\theta$ に対して、
三平方の定理($a^2 + b^2 = c^2$)は、$\overrightarrow{CA} \cdot \overrightarrow{CB} = 0$(直角)の特殊ケースであり、余弦定理の $-2bc\cos C$ の項がゼロになった場合に対応します。
Q1. 余弦定理 $a^2 = b^2 + c^2 - 2bc\cos A$ をベクトルの内積の観点で説明してください。どのベクトルの、どのような計算に対応していますか。
Q2. 三角形の面積公式 $S = \frac{1}{2}bc\sin A$ は、内積からどのようにして導かれますか。
Q3. 2つのベクトル $\mathbf{a} = (2, 3)$, $\mathbf{b} = (-3, 2)$ のなす角は何度ですか。内積を使って求めてください。
Q4. 正弦定理 $\frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B} = \frac{c}{\sin C}$ は、面積公式からどのようにして導かれますか。
2つのベクトル $\mathbf{a} = (1, \sqrt{3})$, $\mathbf{b} = (2, 0)$ について、以下を求めてください。
(1) 内積 $\mathbf{a} \cdot \mathbf{b}$
(2) なす角 $\theta$
(3) $\mathbf{a}$, $\mathbf{b}$ を2辺とする三角形の面積 $S$
(1) $\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = 1 \cdot 2 + \sqrt{3} \cdot 0 = 2$
(2) $|\mathbf{a}| = \sqrt{1 + 3} = 2$, $|\mathbf{b}| = 2$ なので、$\cos\theta = \frac{2}{2 \cdot 2} = \frac{1}{2}$。よって $\theta = 60{}^{\circ}$ です。
(3) $S = \frac{1}{2}\sqrt{|\mathbf{a}|^2|\mathbf{b}|^2 - (\mathbf{a} \cdot \mathbf{b})^2} = \frac{1}{2}\sqrt{4 \cdot 4 - 4} = \frac{1}{2}\sqrt{12} = \sqrt{3}$
三角形の3辺の長さが $a = 3$, $b = 4$, $c = 5$ のとき、余弦定理(内積の展開)を使って $\cos C$ を求め、この三角形が直角三角形であることを確認してください。
$$\cos C = \frac{a^2 + b^2 - c^2}{2ab} = \frac{9 + 16 - 25}{2 \cdot 3 \cdot 4} = \frac{0}{24} = 0$$
$\cos C = 0$ なので $C = 90{}^{\circ}$ であり、直角三角形です。ベクトルの言葉では、$\overrightarrow{CA} \cdot \overrightarrow{CB} = ab\cos C = 0$ であり、$\overrightarrow{CA} \perp \overrightarrow{CB}$ ということです。
3点 $A(0, 0)$, $B(3, 1)$, $C(1, 4)$ を頂点とする三角形 $ABC$ について、以下を求めてください。
(1) 内積 $\overrightarrow{AB} \cdot \overrightarrow{AC}$ を計算し、$\cos A$ を求めてください。
(2) ベクトルの面積公式を使って、三角形 $ABC$ の面積を求めてください。
(3) ヘロンの公式でも面積を求め、(2) の結果と一致することを確認してください。
(1) $\overrightarrow{AB} = (3, 1)$, $\overrightarrow{AC} = (1, 4)$ なので、
$\overrightarrow{AB} \cdot \overrightarrow{AC} = 3 \cdot 1 + 1 \cdot 4 = 7$
$|\overrightarrow{AB}| = \sqrt{10}$, $|\overrightarrow{AC}| = \sqrt{17}$ なので、
$$\cos A = \frac{7}{\sqrt{10} \cdot \sqrt{17}} = \frac{7}{\sqrt{170}}$$
(2) $S = \frac{1}{2}\sqrt{|\overrightarrow{AB}|^2 \cdot |\overrightarrow{AC}|^2 - (\overrightarrow{AB} \cdot \overrightarrow{AC})^2} = \frac{1}{2}\sqrt{10 \cdot 17 - 49} = \frac{1}{2}\sqrt{121} = \frac{11}{2}$
(3) $a = |\overrightarrow{BC}| = |(-2, 3)| = \sqrt{13}$, $b = \sqrt{17}$, $c = \sqrt{10}$ です。
$s = \frac{\sqrt{13} + \sqrt{17} + \sqrt{10}}{2}$ となり、このまま計算すると複雑なので、$16S^2 = 2a^2 b^2 + 2b^2 c^2 + 2c^2 a^2 - a^4 - b^4 - c^4$ を使います。
$a^2 = 13, b^2 = 17, c^2 = 10$ を代入すると、
$16S^2 = 2 \cdot 13 \cdot 17 + 2 \cdot 17 \cdot 10 + 2 \cdot 10 \cdot 13 - 169 - 289 - 100$
$= 442 + 340 + 260 - 558 = 484$
$S^2 = \frac{484}{16} = \frac{121}{4}$ より $S = \frac{11}{2}$ で一致します。
ベクトルの内積を使って、次の不等式を証明してください。
$$|\mathbf{a} + \mathbf{b}|^2 \le (|\mathbf{a}| + |\mathbf{b}|)^2$$
また、等号が成立する条件をベクトルの関係で述べてください。
左辺を内積で展開します。
$$|\mathbf{a} + \mathbf{b}|^2 = (\mathbf{a} + \mathbf{b}) \cdot (\mathbf{a} + \mathbf{b}) = |\mathbf{a}|^2 + 2\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} + |\mathbf{b}|^2$$
右辺を展開します。
$$(|\mathbf{a}| + |\mathbf{b}|)^2 = |\mathbf{a}|^2 + 2|\mathbf{a}||\mathbf{b}| + |\mathbf{b}|^2$$
差をとると、
$$(|\mathbf{a}| + |\mathbf{b}|)^2 - |\mathbf{a} + \mathbf{b}|^2 = 2(|\mathbf{a}||\mathbf{b}| - \mathbf{a} \cdot \mathbf{b})$$
$\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} = |\mathbf{a}||\mathbf{b}|\cos\theta \le |\mathbf{a}||\mathbf{b}|$ なので、右辺 $\ge 0$ です。
よって $|\mathbf{a} + \mathbf{b}|^2 \le (|\mathbf{a}| + |\mathbf{b}|)^2$ が成り立ちます。
等号条件は $\cos\theta = 1$、すなわち $\theta = 0$($\mathbf{a}$ と $\mathbf{b}$ が同じ向き)のとき、または $\mathbf{a} = \mathbf{0}$ か $\mathbf{b} = \mathbf{0}$ のときです。$\blacksquare$
この不等式は三角不等式(triangle inequality)$|\mathbf{a} + \mathbf{b}| \le |\mathbf{a}| + |\mathbf{b}|$ と同値です(両辺が非負なので2乗しても大小関係が保たれます)。「三角形の2辺の長さの和は残りの1辺の長さ以上」という幾何的事実が、内積の性質 $\mathbf{a} \cdot \mathbf{b} \le |\mathbf{a}||\mathbf{b}|$ から導かれました。
三角形 $ABC$ の辺の長さを $a$, $b$, $c$ とし、$s = \frac{a+b+c}{2}$ とおきます。余弦定理と面積公式を用いて、ヘロンの公式
$$S = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$$
を導出してください。
さらに、$a = 13$, $b = 14$, $c = 15$ の三角形の面積をこの公式で求めてください。
【導出】余弦定理から $\cos A = \frac{b^2 + c^2 - a^2}{2bc}$ です。面積公式 $S = \frac{1}{2}bc\sin A$ より、
$$16S^2 = 4b^2 c^2 \sin^2 A = 4b^2 c^2(1 - \cos^2 A) = (2bc)^2 - (b^2 + c^2 - a^2)^2$$
$$= (2bc + b^2 + c^2 - a^2)(2bc - b^2 - c^2 + a^2)$$
$$= ((b+c)^2 - a^2)(a^2 - (b-c)^2)$$
$$= (b+c+a)(b+c-a)(a+b-c)(a-b+c)$$
$s = \frac{a+b+c}{2}$ とおくと、各因数は $2s$, $2(s-a)$, $2(s-c)$, $2(s-b)$ なので、
$$16S^2 = 16s(s-a)(s-b)(s-c)$$
$$\therefore\ S = \sqrt{s(s-a)(s-b)(s-c)}$$
【数値計算】$a = 13$, $b = 14$, $c = 15$ のとき、$s = 21$ です。
$$S = \sqrt{21 \cdot 8 \cdot 7 \cdot 6} = \sqrt{21 \cdot 8 \cdot 42} = \sqrt{7056} = 84$$