高校数学では、確率を「ある事象の場合の数を全事象の場合の数で割ったもの」として計算します。
この定義は具体的で使いやすいのですが、「場合の数が無限にあるとき」や「各結果が同様に確からしくないとき」にはうまく機能しません。
大学数学では、確率を「集合に対して割り当てる関数」と捉え、その関数が満たすべき3つの公理(コルモゴロフの公理)を出発点とします。
この3つのルールは極めてシンプルですが、高校で学ぶ加法定理、余事象の確率、さらには条件付き確率まで、すべてこの公理から定理として導出できます。
つまり、確率に関する多くの公式を「暗記すべき別々のルール」ではなく「3つの公理の論理的帰結」として統一的に理解できるのです。
高校数学Aでは、確率を次のように定義します。 ある試行において、起こりうるすべての結果が $n$ 通りあり、それらが同様に確からしいとき、事象 $A$ の起こる場合の数が $a$ 通りならば、
$$P(A) = \frac{a}{n}$$
と定めます。この定義を使って、高校では次のような公式を学びます。
これらの公式は、場合の数を数えれば自然に導けます。 たとえば加法定理は、$A$ と $B$ が排反(共通部分がない)なら場合の数を足せばよいという事実そのものです。
この枠組みは、サイコロ、コイン、カード、くじ引きなど、有限個の結果が同様に確からしい場面では問題なく機能します。 しかし、次のような場面ではどうでしょうか。
これらの問いに答えるには、確率の定義を「場合の数の比」から解き放ち、より一般的な枠組みで捉え直す必要があります。 次のセクションでは、大学数学がこの問題にどう対処するかを見ていきます。
大学数学では、確率を「場合の数の比」という特定の計算方法ではなく、確率が満たすべき性質から定義します。 1933年にロシアの数学者コルモゴロフ(A. N. Kolmogorov)は、確率が従うべき最小限のルールを3つの公理として定式化しました。 この公理的アプローチにより、高校で学ぶ公式はすべて「公理からの帰結」として統一的に導出できます。
この記事を読み終えると、以下のことができるようになります。
1. 標本空間・事象・確率測度の3つ組 $(\Omega, \mathcal{F}, P)$ の意味を説明できる
2. コルモゴロフの3つの公理を述べ、各公理の直感的な意味を説明できる
3. 3つの公理から、余事象の確率、加法定理、単調性などの基本性質を導出できる
4. 「同様に確からしい」場合の高校の定義が、公理的定義の特殊ケースであることを理解できる
5. 連続的な確率(区間 $[0,1]$ 上の一様分布など)を公理的に定義できる
まず確率の公理を述べるために必要な「標本空間」と「事象」の概念を整理し、その上で3つの公理を導入します。 そして公理から高校で学んだ公式を一つずつ導出し、最後に公理的定義の威力を具体例で確認します。
確率の公理を述べる前に、確率論で使う基本的な概念を整理します。 これらは高校でも部分的に学んでいますが、大学では集合の言葉でより明確に定義します。
ある試行(実験や観察)において、起こりうるすべての結果を集めた集合を標本空間(sample space)と呼び、$\Omega$(オメガ)で表します。 $\Omega$ の各要素を標本点(sample point)と呼びます。
試行において起こりうる結果全体の集合を標本空間と呼び、$\Omega$ で表す。
$\Omega$ の各要素 $\omega$ を標本点と呼ぶ。
いくつか具体例を挙げます。
| 試行 | 標本空間 $\Omega$ | 標本点の数 |
|---|---|---|
| コインを1回投げる | $\{H, T\}$($H$: 表、$T$: 裏) | $2$(有限) |
| サイコロを1回振る | $\{1, 2, 3, 4, 5, 6\}$ | $6$(有限) |
| コインを表が出るまで投げ続ける | $\{H, TH, TTH, TTTH, \ldots\}$ | 可算無限 |
| $[0, 1]$ から実数を1つ選ぶ | $[0, 1]$ | 非可算無限 |
高校では最初の2例のような有限の標本空間だけを扱いますが、3番目や4番目のように無限の標本空間も自然に現れます。 コルモゴロフの公理は、有限・無限を問わずすべての標本空間に対して適用できるように設計されています。
事象(event)とは、標本空間 $\Omega$ の部分集合のことです。 高校でも「事象 $A$」という言い方をしますが、大学では明確に「$\Omega$ の部分集合」として定義します。
事象に対する集合演算は、確率の計算と直接対応します。
| 集合演算 | 確率論の言葉 | 記号 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 和集合 | $A$ または $B$ が起こる | $A \cup B$ | $A$、$B$ のうち少なくとも一方が起こる事象 |
| 共通部分 | $A$ かつ $B$ が起こる | $A \cap B$ | $A$、$B$ の両方が起こる事象 |
| 補集合 | $A$ が起こらない(余事象) | $A^c$ または $\overline{A}$ | $A$ に属さないすべての結果からなる事象 |
| 空集合 | 空事象(決して起こらない) | $\emptyset$ | どの結果も属さない事象 |
| 全体集合 | 全事象(必ず起こる) | $\Omega$ | すべての結果からなる事象 |
2つの事象 $A$ と $B$ が $A \cap B = \emptyset$ を満たすとき、$A$ と $B$ は互いに排反(mutually exclusive)であるといいます。 これは高校でも同じ用語を使います。
ここまでで、確率の「舞台」を整えました。標本空間 $\Omega$ という土台の上に、事象という部分集合が配置されている状況です。 次のセクションでは、これらの事象に対して「確率」という数値を割り当てるルール、すなわちコルモゴロフの公理を導入します。
いよいよ、確率の公理的定義を導入します。 コルモゴロフは、「確率」とは事象($\Omega$ の部分集合)に対して実数を割り当てる関数 $P$ であって、次の3つの条件を満たすものだと定めました。
なぜこのような定義をするのでしょうか。確率が「場合の数の比」ではうまくいかない場面があることは前に見ました。 そこで発想を転換します。確率に必要なのは「計算方法」ではなく、確率が満たすべき「性質」を決めることです。 確率として自然に成り立つべき最小限のルールだけを公理として定め、あとはそこから論理的に導く。これが公理的アプローチです。
標本空間 $\Omega$ 上の事象の集まり $\mathcal{F}$ に対し、関数 $P \colon \mathcal{F} \to \mathbb{R}$ が次の3つの条件を満たすとき、$P$ を確率測度(probability measure)と呼ぶ。
公理1(非負性):任意の事象 $A \in \mathcal{F}$ に対して、
$$P(A) \geq 0$$
公理2(全体の正規化):
$$P(\Omega) = 1$$
公理3(可算加法性):$A_1, A_2, A_3, \ldots$ が互いに排反な事象の列(すなわち $i \neq j$ のとき $A_i \cap A_j = \emptyset$)であるとき、
$$P\!\left(\bigcup_{i=1}^{\infty} A_i\right) = \sum_{i=1}^{\infty} P(A_i)$$
3つ組 $(\Omega, \mathcal{F}, P)$ を確率空間(probability space)と呼ぶ。
各公理の意味を確認します。
公理1(非負性)は、確率が負の値をとらないことを要求します。 「事象が起こる可能性」を表す量として、負の値は意味を持ちません。これは自然な要請です。
公理2(全体の正規化)は、「何かは必ず起こる」ことを意味します。 標本空間 $\Omega$ は「起こりうるすべての結果」の集合なので、試行を行えば必ず $\Omega$ のどれかの結果が実現します。その確率が $1$ であるという要請です。
公理3(可算加法性)は、互いに排反な事象が同時に起こることはないので、それらの「どれかが起こる確率」は各々の確率の和に等しいという要請です。 高校の加法定理($P(A \cup B) = P(A) + P(B)$、ただし $A \cap B = \emptyset$)を、有限個ではなく可算無限個の事象にまで拡張したものです。
高校で学ぶ加法定理は「有限加法性」です。すなわち、有限個の排反事象 $A_1, \ldots, A_n$ に対して $P(A_1 \cup \cdots \cup A_n) = P(A_1) + \cdots + P(A_n)$ という性質です。
コルモゴロフの公理3は、これを無限個の事象にまで拡張した「可算加法性」です。有限加法性だけでは、無限の標本空間を扱うときに不都合が生じます(たとえば確率の極限操作が保証されない)。
公理3は有限加法性よりも強い条件です。可算加法性が成り立てば、有限加法性は自動的に成り立ちます(残りの事象を $A_{n+1} = A_{n+2} = \cdots = \emptyset$ とおけばよい)。逆は一般には成り立ちません。
公理の定義に登場した $\mathcal{F}$ について補足します。 有限の標本空間の場合は、$\Omega$ のすべての部分集合の集まり(べき集合)を $\mathcal{F}$ とすれば問題ありません。 たとえば $\Omega = \{1, 2, 3\}$ ならば、$\mathcal{F} = \{\emptyset, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1,2\}, \{1,3\}, \{2,3\}, \{1,2,3\}\}$ です。
しかし、$\Omega$ が非可算無限集合(たとえば $[0, 1]$)の場合、すべての部分集合に対して公理を矛盾なく満たす確率を割り当てることが不可能であることが知られています。 そのため、$\mathcal{F}$ としては $\Omega$ の部分集合のうち「確率を割り当てても矛盾しない」ものだけを集めた、ある条件を満たす集合族を使います。 この条件を満たす集合族を $\sigma$-加法族(シグマ加法族)と呼びますが、本記事ではこの技術的な詳細には立ち入りません。 有限の標本空間を扱う限りは、$\mathcal{F}$ を $\Omega$ のすべての部分集合の集まりと考えて差し支えありません。
ここまでで、コルモゴロフの3つの公理を導入しました。 公理は驚くほどシンプルですが、ここから高校で学んだ確率の公式が次々と導かれます。 次のセクションでは、実際にその導出を行います。
コルモゴロフの3つの公理だけから、高校で「公式」として学んだ確率の性質がすべて定理として導出できることを示します。 以下の各性質は、公理1〜3のみを使って証明します。
$$P(\emptyset) = 0$$
決して起こらない事象(空事象)の確率は $0$ です。
目標:$P(\emptyset) = 0$ を示す。
$\Omega$ と $\emptyset$ は排反です($\Omega \cap \emptyset = \emptyset$)。さらに $\Omega \cup \emptyset = \Omega$ です。
公理3(ここでは有限個の場合を使用)を適用すると、$A_1 = \Omega$、$A_2 = \emptyset$、$A_3 = A_4 = \cdots = \emptyset$ とおいて、
$$P(\Omega) = P(\Omega \cup \emptyset \cup \emptyset \cup \cdots) = P(\Omega) + P(\emptyset) + P(\emptyset) + \cdots$$
ここで左辺は公理2より $P(\Omega) = 1$ です。右辺の無限和が有限の値 $1$ に等しいためには、$P(\emptyset) = 0$ でなければなりません。
(別の証明)よりシンプルに示すこともできます。$\Omega$ と $\emptyset$ は排反で $\Omega \cup \emptyset = \Omega$ なので、公理3より $P(\Omega) = P(\Omega) + P(\emptyset)$ です。両辺から $P(\Omega)$ を引いて $P(\emptyset) = 0$ を得ます。
任意の事象 $A$ に対して、
$$P(A^c) = 1 - P(A)$$
ここで $A^c = \Omega \setminus A$ は $A$ の余事象です。
目標:$P(A^c) = 1 - P(A)$ を示す。
方針:$A$ と $A^c$ が排反で、合わせると $\Omega$ になることを使います。
$A \cap A^c = \emptyset$ かつ $A \cup A^c = \Omega$ です。公理3(有限の場合)より、
$$P(\Omega) = P(A \cup A^c) = P(A) + P(A^c)$$
公理2より $P(\Omega) = 1$ なので、
$$1 = P(A) + P(A^c)$$
したがって $P(A^c) = 1 - P(A)$ です。
高校で「余事象の確率の公式」として暗記していたものが、公理1〜3から自然に導けました。
任意の事象 $A$ に対して、
$$0 \leq P(A) \leq 1$$
$P(A) \geq 0$ は公理1そのものです。
定理2より $P(A^c) = 1 - P(A)$ であり、公理1より $P(A^c) \geq 0$ です。したがって $1 - P(A) \geq 0$、すなわち $P(A) \leq 1$ です。
「確率は $0$ 以上 $1$ 以下」は高校では当たり前の事実として扱いますが、これは公理から証明できる定理です。 公理には「$P(A) \leq 1$」とは明記されていませんが、公理1(非負性)と公理2(正規化)から論理的に従います。
$A \subset B$ ならば、
$$P(A) \leq P(B)$$
さらに、$P(B \setminus A) = P(B) - P(A)$ が成り立つ。
$A \subset B$ のとき、$B = A \cup (B \setminus A)$ と分解でき、$A$ と $B \setminus A$ は排反です。
公理3より、
$$P(B) = P(A) + P(B \setminus A)$$
公理1より $P(B \setminus A) \geq 0$ なので、$P(B) \geq P(A)$ です。
また、$P(B \setminus A) = P(B) - P(A)$ も得られます。
任意の事象 $A$, $B$ に対して、
$$P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B)$$
方針:$A \cup B$ を3つの排反な部分に分解します。
$$A \cup B = (A \setminus B) \cup (A \cap B) \cup (B \setminus A)$$
この3つは互いに排反なので、公理3より、
$$P(A \cup B) = P(A \setminus B) + P(A \cap B) + P(B \setminus A)$$
一方、$A = (A \setminus B) \cup (A \cap B)$ は排反な分解なので、
$$P(A) = P(A \setminus B) + P(A \cap B) \quad \Longrightarrow \quad P(A \setminus B) = P(A) - P(A \cap B)$$
同様に、$P(B \setminus A) = P(B) - P(A \cap B)$ です。
これらを代入すると、
$$P(A \cup B) = \bigl(P(A) - P(A \cap B)\bigr) + P(A \cap B) + \bigl(P(B) - P(A \cap B)\bigr) = P(A) + P(B) - P(A \cap B)$$
高校で別々の「公式」として覚えていた確率の性質が、コルモゴロフの3つの公理だけから導出できることを見ました。
公理1(非負性)+ 公理2(正規化) $\Longrightarrow$ $0 \leq P(A) \leq 1$、$P(\emptyset) = 0$
公理2 + 公理3(可算加法性) $\Longrightarrow$ 余事象の確率 $P(A^c) = 1 - P(A)$
公理3 $\Longrightarrow$ 加法定理、一般の加法定理(包除原理)、単調性
公理的アプローチの利点は、覚えるべきルールが3つだけで済み、残りはすべて論理的に導けることです。
ここまでで、3つの公理から高校の確率公式を導出しました。 次のセクションでは、この公理的定義を具体的な場面に適用し、高校では扱えなかった例にも確率を定義できることを確認します。
サイコロを1回振る試行を考えます。標本空間は $\Omega = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}$ です。 各目が同様に確からしいので、各標本点に等しい確率を割り当てます。
$$P(\{1\}) = P(\{2\}) = P(\{3\}) = P(\{4\}) = P(\{5\}) = P(\{6\}) = \frac{1}{6}$$
この割り当てが公理を満たすことを確認します。
高校の「場合の数の比 $P(A) = \frac{a}{n}$」は、各標本点に等しい確率 $\frac{1}{n}$ を割り当てた場合の確率空間にほかなりません。 つまり、高校の確率はコルモゴロフの公理を満たす確率空間の特殊ケースです。
次に、各目の出やすさが異なるサイコロを考えます。同じ標本空間 $\Omega = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}$ に対して、次のように確率を割り当てます。
$$P(\{1\}) = 0.1, \quad P(\{2\}) = 0.1, \quad P(\{3\}) = 0.1, \quad P(\{4\}) = 0.2, \quad P(\{5\}) = 0.2, \quad P(\{6\}) = 0.3$$
公理を確認します。
この確率空間の下で、「偶数が出る」事象 $A = \{2, 4, 6\}$ の確率を計算すると、
$$P(A) = P(\{2\}) + P(\{4\}) + P(\{6\}) = 0.1 + 0.2 + 0.3 = 0.6$$
となります。高校の「場合の数の比」による計算では $P(A) = \frac{3}{6} = 0.5$ でしたが、ゆがんだサイコロでは $0.6$ になります。 公理的定義では、各標本点への確率の割り当て方を変えるだけで、非等確率の場合も自然に扱えます。
標本空間を $\Omega = [0, 1]$ とし、「$[0, 1]$ の中から一様にランダムに実数を1つ選ぶ」という試行を考えます。 高校の定義では場合の数が無限にあるため確率を定義できませんが、公理的定義なら可能です。
区間 $[a, b] \subset [0, 1]$ に対して、
$$P([a, b]) = b - a$$
と定めます。これは「区間の長さ」を確率とする自然な定義です。
公理を確認します。
この確率空間では、1点 $\{a\}$ の確率はどうなるでしょうか。$\{a\} = [a, a]$ と考えると、$P(\{a\}) = a - a = 0$ です。
区間 $[0, 1]$ 上の一様分布で、$P(\{0.5\}) = 0$ です。しかし、$0.5$ は標本空間 $\Omega = [0, 1]$ の要素なので、「起こりうる結果」です。
誤り:確率が $0$ なら絶対に起こらない。
正しい:確率 $0$ の事象は「ほとんど起こらない」が「不可能ではない」。$P(A) = 0$ は $A = \emptyset$ を意味しません。
これは高校の有限の確率空間では起こらない現象です。有限の場合、$P(\{a\}) = 0$ ならば事象 $\{a\}$ はそもそも標本空間に含まれないはずです。しかし連続的な確率空間では、個々の点の確率が $0$ であっても、それらの集まり(区間)に対しては正の確率が割り当てられるのです。
セクション5で導出した定理を、具体的な計算に適用してみます。
公正なサイコロにおいて、事象 $A = \{1, 2, 3\}$(3以下の目が出る)、$B = \{2, 4, 6\}$(偶数の目が出る)とします。
$A \cap B = \{2\}$、$A \cup B = \{1, 2, 3, 4, 6\}$ です。
余事象の確率(定理2):
$$P(A^c) = 1 - P(A) = 1 - \frac{3}{6} = \frac{1}{2}$$
実際、$A^c = \{4, 5, 6\}$ で、$P(A^c) = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}$ と一致します。
一般の加法定理(定理5):
$$P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B) = \frac{3}{6} + \frac{3}{6} - \frac{1}{6} = \frac{5}{6}$$
実際、$A \cup B = \{1, 2, 3, 4, 6\}$ で、$P(A \cup B) = \frac{5}{6}$ と一致します。
単調性(定理4):$\{2\} \subset A$ なので、$P(\{2\}) \leq P(A)$、すなわち $\frac{1}{6} \leq \frac{1}{2}$ が成り立ちます。
確率論の歴史は17世紀のパスカルとフェルマーにさかのぼりますが、確率の厳密な数学的基盤が確立されたのは1933年、コルモゴロフの著書「確率論の基礎概念」(Grundbegriffe der Wahrscheinlichkeitsrechnung)においてです。
コルモゴロフは、当時発展しつつあったルベーグの測度論を土台にして確率論を構築しました。確率測度は測度論における測度の特殊ケース(全体の測度が $1$)にあたります。この公理化により、確率論は解析学と同じ厳密さを持つ数学の一分野として確立されました。
Q1. コルモゴロフの確率の公理は3つあります。公理1(非負性)と公理2(正規化)の内容をそれぞれ述べてください。
Q2. 公理3(可算加法性)と高校の加法定理の違いを一言で説明してください。
Q3. $P(A) \leq 1$ は公理に直接書かれていません。これはどの公理から導かれますか。
Q4. 区間 $[0, 1]$ 上の一様分布で、$P(\{0.7\}) = 0$ です。これは「$0.7$ が選ばれることは不可能」を意味しますか。
コイン投げの標本空間 $\Omega = \{H, T\}$ に対して、$P(\{H\}) = 0.6$, $P(\{T\}) = 0.4$ と定めます。この割り当てがコルモゴロフの3つの公理を満たすことを確認してください。
公理1(非負性):$P(\{H\}) = 0.6 \geq 0$、$P(\{T\}) = 0.4 \geq 0$。すべての事象 $A$ に対して $P(A) \geq 0$ です。
公理2(正規化):$P(\Omega) = P(\{H\}) + P(\{T\}) = 0.6 + 0.4 = 1$。
公理3(可算加法性):$\{H\}$ と $\{T\}$ は排反で、$P(\{H\} \cup \{T\}) = P(\{H\}) + P(\{T\}) = 1 = P(\Omega)$。有限の標本空間なので、これですべての排反事象の組み合わせについて可算加法性が満たされています。
コルモゴロフの公理のみを使って、次の性質を証明してください。
3つの事象 $A$, $B$, $C$ が互いに排反(どの2つも共通部分が空集合)であるとき、
$$P(A \cup B \cup C) = P(A) + P(B) + P(C)$$
公理3(可算加法性)を適用します。$A_1 = A$, $A_2 = B$, $A_3 = C$, $A_4 = A_5 = \cdots = \emptyset$ とおきます。
仮定より $A$, $B$, $C$ は互いに排反であり、$\emptyset$ はどの事象とも排反です。したがって公理3より、
$$P(A \cup B \cup C \cup \emptyset \cup \emptyset \cup \cdots) = P(A) + P(B) + P(C) + P(\emptyset) + P(\emptyset) + \cdots$$
左辺は $P(A \cup B \cup C)$(空集合を加えても変わらない)、右辺は $P(\emptyset) = 0$ なので、
$$P(A \cup B \cup C) = P(A) + P(B) + P(C)$$
$\Omega = \{1, 2, 3, 4, 5, 6\}$ に対して、$P(\{k\}) = \dfrac{k}{21}$($k = 1, 2, \ldots, 6$)と定めます。
(1) この割り当てが確率の公理を満たすことを確認してください。
(2) 事象 $A = \{1, 2, 3\}$, $B = \{3, 4, 5\}$ に対して、$P(A \cup B)$ を一般の加法定理を使って求めてください。
(1) 公理1:各 $P(\{k\}) = \frac{k}{21} > 0$。公理2:$P(\Omega) = \frac{1+2+3+4+5+6}{21} = \frac{21}{21} = 1$。公理3:有限の標本空間なので自動的に満たされます。
(2) $P(A) = \frac{1+2+3}{21} = \frac{6}{21} = \frac{2}{7}$、$P(B) = \frac{3+4+5}{21} = \frac{12}{21} = \frac{4}{7}$。
$A \cap B = \{3\}$ なので、$P(A \cap B) = \frac{3}{21} = \frac{1}{7}$。
一般の加法定理より、
$$P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B) = \frac{2}{7} + \frac{4}{7} - \frac{1}{7} = \frac{5}{7}$$
検算:$A \cup B = \{1, 2, 3, 4, 5\}$ なので、$P(A \cup B) = \frac{1+2+3+4+5}{21} = \frac{15}{21} = \frac{5}{7}$。一致しています。
この確率空間では各目の出やすさが $k$ に比例しています。高校の「場合の数の比」では扱えませんが、公理的定義なら問題なく扱えます。
コルモゴロフの公理のみを使って、次のブールの不等式(union bound)を証明してください。
任意の事象 $A_1, A_2, \ldots, A_n$(排反とは限らない)に対して、
$$P(A_1 \cup A_2 \cup \cdots \cup A_n) \leq P(A_1) + P(A_2) + \cdots + P(A_n)$$
(ヒント:$A_1 \cup \cdots \cup A_n$ を排反な事象の和に分解し、単調性を利用してください。)
$B_1 = A_1$、$k \geq 2$ に対して $B_k = A_k \setminus (A_1 \cup \cdots \cup A_{k-1})$ と定めます。
すると、$B_1, B_2, \ldots, B_n$ は互いに排反であり、$B_1 \cup B_2 \cup \cdots \cup B_n = A_1 \cup A_2 \cup \cdots \cup A_n$ です。
公理3(有限の場合)より、
$$P(A_1 \cup \cdots \cup A_n) = P(B_1 \cup \cdots \cup B_n) = \sum_{k=1}^{n} P(B_k)$$
各 $k$ について $B_k \subset A_k$ なので、単調性(定理4)より $P(B_k) \leq P(A_k)$ です。
したがって、
$$P(A_1 \cup \cdots \cup A_n) = \sum_{k=1}^{n} P(B_k) \leq \sum_{k=1}^{n} P(A_k)$$
ブールの不等式は「複数の事象のどれかが起こる確率は、各事象の確率の和以下である」という直感的に明らかな事実ですが、公理から厳密に証明できます。一般の加法定理 $P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B) \leq P(A) + P(B)$ の一般化にあたります。
この不等式は確率論の中で非常によく使われる基本的な道具です。