複素数が等しいとは、実部と虚部がそれぞれ等しいこと──このシンプルな原理が、
未知数の決定から等式の証明まで、複素数の問題を解く最も基本的な武器になります。
2つの複素数が「等しい」とはどういうことでしょうか。実数なら値が同じであればよいですが、複素数は実部と虚部の2つの成分をもっています。
$a, b, c, d$ が実数のとき
$$a + bi = c + di \iff a = c \text{ かつ } b = d$$
特に
$$a + bi = 0 \iff a = 0 \text{ かつ } b = 0$$
複素数が等しい ⟺ 実部どうし、虚部どうしがそれぞれ等しい。
($\Rightarrow$) $a + bi = c + di$ とすると、$(a - c) + (b - d)i = 0$。
ここで $a - c$, $b - d$ は実数である。もし $b - d \neq 0$ なら、$i = -\dfrac{a - c}{b - d}$ となり、$i$ が実数になるが、これは矛盾。
よって $b - d = 0$、すなわち $b = d$。このとき $a - c = 0$ より $a = c$。
($\Leftarrow$) $a = c$ かつ $b = d$ なら、$a + bi = c + di$ は明らか。■
✗ $(1+i)a + (2-i)b = 3 + i$ で「実部と虚部を比較」する($a, b$ が複素数の可能性がある場合)
✓ 相等条件は $a, b, c, d$ がすべて実数のときのみ使える
$a, b$ が複素数のとき、$a + bi$ は $(\text{実部}) + (\text{虚部})i$ の形になっていません。相等条件を使う前に、必ず「各文字が実数である」ことを確認しましょう。
複素数 $a + bi$ の表示が一意であるためには、$a, b$ が実数であることが不可欠です。例えば $z = (1+i) + (1-i)i = 1 + i + i - i^2 = 2 + 2i$ のように、$a = 1+i$, $b = 1-i$ とすると「実部が $1+i$」などとは言えません。
実部・虚部の分離は、$a + bi$ の形で $a, b \in \mathbb{R}$ と確定しているときにのみ意味をもちます。これは平面上の点の座標 $(x, y)$ が実数の組であることと同じです。
未知の実数を含む複素数の等式では、実部と虚部をそれぞれ比較して連立方程式を作るのが基本戦略です。
例題:実数 $x, y$ が $(2x + y) + (x - 3y)i = 5 + 4i$ を満たすとき、$x, y$ の値を求めよ。
Step 1:$x, y$ が実数であることを確認する。
Step 2:実部と虚部を比較して連立方程式を立てる。
Step 3:連立方程式を解く。
解答:$x, y$ は実数なので、相等条件より
$$\begin{cases} 2x + y = 5 \\ x - 3y = 4 \end{cases}$$
第1式 $\times 3$ + 第2式より $7x = 19$ ゆえに $x = \dfrac{19}{7}$。
$y = 5 - 2x = 5 - \dfrac{38}{7} = -\dfrac{3}{7}$。
例題:実数 $a, b$ が $(a + 2b) + (2a - b)i = (1 + i)(3 - 2i)$ を満たすとき、$a, b$ の値を求めよ。
解答:右辺を計算すると
$$(1 + i)(3 - 2i) = 3 - 2i + 3i - 2i^2 = 3 + i + 2 = 5 + i$$
$a, b$ は実数なので、相等条件より
$$\begin{cases} a + 2b = 5 \\ 2a - b = 1 \end{cases}$$
これを解いて $a = \dfrac{7}{5}$, $b = \dfrac{9}{5}$。
答案では「$x, y$ は実数なので、複素数の相等条件より」と明記することが重要です。この一言がないと、相等条件を使う根拠が不明確になり、減点される可能性があります。特に記述式の入試では、この前提の明示は必須です。
相等条件の特殊な場合として、複素数が実数になる条件や純虚数になる条件がよく出題されます。
複素数 $z = a + bi$($a, b$ は実数)について
実数条件:$z$ が実数 $\iff b = 0$(虚部が $0$)
純虚数条件:$z$ が純虚数 $\iff a = 0$ かつ $b \neq 0$(実部が $0$ で虚部が $0$ でない)
純虚数条件では $b \neq 0$ を忘れないこと。$0$ は純虚数ではありません。
例題:$\dfrac{a + 3i}{2 - i}$ が実数となるような実数 $a$ の値を求めよ。
解答:分母を実数化する。
$$\frac{a + 3i}{2 - i} = \frac{(a + 3i)(2 + i)}{(2 - i)(2 + i)} = \frac{2a + ai + 6i + 3i^2}{4 + 1} = \frac{(2a - 3) + (a + 6)i}{5}$$
$$= \frac{2a - 3}{5} + \frac{a + 6}{5}i$$
この値が実数となるのは、虚部が $0$ のとき。すなわち
$$\frac{a + 6}{5} = 0 \implies a = -6$$
例題:$z = \dfrac{a + i}{1 + 2i}$ が純虚数となるような実数 $a$ の値を求めよ。
解答:分母を実数化する。
$$z = \frac{(a + i)(1 - 2i)}{(1 + 2i)(1 - 2i)} = \frac{a - 2ai + i - 2i^2}{1 + 4} = \frac{(a + 2) + (1 - 2a)i}{5}$$
$$= \frac{a + 2}{5} + \frac{1 - 2a}{5}i$$
$z$ が純虚数となる条件は、実部 $= 0$ かつ虚部 $\neq 0$。
$$\frac{a + 2}{5} = 0 \implies a = -2$$
このとき虚部 $= \dfrac{1 - 2(-2)}{5} = \dfrac{5}{5} = 1 \neq 0$。条件を満たす。
よって $a = -2$。
✗ 実部 $= 0$ だけで「純虚数」と結論する
✓ 実部 $= 0$ を求めた後、虚部 $\neq 0$ も必ず確認する
実部が $0$ であっても虚部も $0$ なら、それは $0$(実数)であって純虚数ではありません。特に「$a$ の値を求めよ」という問題で、実部 $= 0$ から得た $a$ の値で虚部も $0$ になる場合は、その値を除外する必要があります。
$z = p + qi$($p, q$ は実数)とおくと、条件は次のように整理できます。
$z$ が実数 $\iff q = 0$(条件1つ)
$z$ が純虚数 $\iff p = 0$ かつ $q \neq 0$(条件2つ)
$z$ が虚数 $\iff q \neq 0$(条件1つ)
純虚数条件だけが等式と不等式の両方を含むので、解答で見落としやすいのです。
「すべての実数 $x$ について等式が成り立つ」タイプの問題では、$x$ に具体的な値を代入するか、相等条件を利用します。
例題:すべての実数 $x$ に対して $(a + bi)x + (c + di) = 0$ が成り立つとき、実数 $a, b, c, d$ の値を求めよ。
解答:$x$ について整理すると
$$(ax + c) + (bx + d)i = 0$$
$a, b, c, d$ は実数なので、$ax + c$ も $bx + d$ も実数。相等条件より
$$\begin{cases} ax + c = 0 \\ bx + d = 0 \end{cases}$$
がすべての実数 $x$ について成り立つ。
$ax + c = 0$ がすべての $x$ で成立するには $a = 0$ かつ $c = 0$。
$bx + d = 0$ がすべての $x$ で成立するには $b = 0$ かつ $d = 0$。
よって $a = b = c = d = 0$。
$a, b, c, d, e, f$ が実数のとき、すべての実数 $x$ に対して
$$(a + bi)x^2 + (c + di)x + (e + fi) = 0$$
が成り立つならば
$$a = b = c = d = e = f = 0$$
実部と虚部の恒等式に分離し、それぞれで係数比較する。
例題:すべての実数 $x$ に対して $(a + bi)x^2 + (c + di)x + (1 + 2i) = 3x^2 + (2 - i)x + (e + fi)$ が成り立つとき、実数 $a, b, c, d, e, f$ の値を求めよ。
解答:両辺の $x^2$, $x$, 定数項の係数を比較して
$$a + bi = 3, \quad c + di = 2 - i, \quad 1 + 2i = e + fi$$
各等式に相等条件を適用して
$$a = 3,\; b = 0, \quad c = 2,\; d = -1, \quad e = 1,\; f = 2$$
方法1(係数比較法):両辺を $x$ の次数ごとにまとめ、対応する係数を比較する。未知数が多い場合に有効。
方法2(数値代入法):$x = 0, 1, -1, \ldots$ を代入して等式を作る。計算が楽になることが多いが、恒等式であることの確認が必要。
どちらを使うかは問題に応じて判断しますが、複素数の恒等式では係数比較法が標準です。
複素数に関する等式の証明では、実部と虚部に分離してそれぞれ示す方法が基本です。
Step 1:複素数を $a + bi$($a, b$ は実数)の形で表す。
Step 2:示すべき等式の両辺をそれぞれ計算する。
Step 3:実部と虚部を比較し、それぞれが等しいことを示す。
命題:$z = a + bi$($a, b$ は実数)のとき、$z + \bar{z} = 2a$ を示せ。
$z = a + bi$ のとき、$\bar{z} = a - bi$ であるから
$$z + \bar{z} = (a + bi) + (a - bi) = 2a$$
よって $z + \bar{z} = 2a$ が示された。■
命題:$z_1 = a + bi$, $z_2 = c + di$($a, b, c, d$ は実数)のとき、$\overline{z_1 + z_2} = \bar{z_1} + \bar{z_2}$ を示せ。
(左辺)$z_1 + z_2 = (a + c) + (b + d)i$ より
$$\overline{z_1 + z_2} = (a + c) - (b + d)i$$
(右辺)$\bar{z_1} = a - bi$, $\bar{z_2} = c - di$ より
$$\bar{z_1} + \bar{z_2} = (a + c) + (-b - d)i = (a + c) - (b + d)i$$
左辺と右辺の実部はともに $a + c$、虚部はともに $-(b + d)$ で一致する。
よって $\overline{z_1 + z_2} = \bar{z_1} + \bar{z_2}$ が示された。■
命題:任意の複素数 $z$ に対して、$z\bar{z}$ は $0$ 以上の実数であることを示せ。
$z = a + bi$($a, b$ は実数)とおくと、$\bar{z} = a - bi$ であるから
$$z\bar{z} = (a + bi)(a - bi) = a^2 - (bi)^2 = a^2 - b^2 i^2 = a^2 + b^2$$
$a, b$ は実数なので $a^2 \geq 0$, $b^2 \geq 0$ より $a^2 + b^2 \geq 0$。
また $a^2 + b^2$ は実数である。
よって $z\bar{z}$ は $0$ 以上の実数である。■
複素数の等式の証明は、実部と虚部に分離することで、実数の等式の証明に帰着できます。これは「2次元の問題を1次元の問題2つに分解する」という強力な考え方です。
ベクトルの成分分解 $\vec{a} = \vec{b} \iff$ 各成分が等しい、と本質的に同じ発想です。大学の線形代数でも基本となる考え方です。
記述式の証明では、次の構成を意識しましょう。
(1) 文字の設定:「$z = a + bi$($a, b$ は実数)とおく」
(2) 左辺・右辺の計算:それぞれ $(\text{実部}) + (\text{虚部})i$ の形にする
(3) 比較と結論:「実部・虚部がそれぞれ一致するので、等式が成り立つ」
この3段階を明確に書くと、論理の流れが伝わりやすくなります。
Q1. 実数 $x, y$ が $(3x - y) + (x + 2y)i = 7 + i$ を満たすとき、$x, y$ の値を求めよ。
Q2. $\dfrac{2 + ai}{1 + i}$ が実数となるような実数 $a$ の値を求めよ。
Q3. $\dfrac{a + 4i}{2 + i}$ が純虚数となるような実数 $a$ の値を求めよ。
Q4. $a + bi = 0$($a, b$ は実数)から何が言えるか。
Q5. $z = a + bi$($a, b$ は実数)のとき、$z - \bar{z} = 2bi$ を示せ。
次の条件を満たす実数 $a, b$ の値をそれぞれ求めよ。
(1) $(a + 2b) + (a - b)i = 5 - i$
(2) $(1 + 2i)a + (3 - i)b = 11 + 3i$
(1) $a, b$ は実数なので、相等条件より $a + 2b = 5$, $a - b = -1$。
辺々引くと $3b = 6$ より $b = 2$。$a = -1 + b = 1$。
よって $a = 1$, $b = 2$。
(2) 左辺を整理すると $(a + 3b) + (2a - b)i = 11 + 3i$。
$a, b$ は実数なので、相等条件より $a + 3b = 11$, $2a - b = 3$。
第2式 $\times 3$ + 第1式より $7a = 20$ ゆえに $a = \dfrac{20}{7}$。
$b = 2a - 3 = \dfrac{40}{7} - 3 = \dfrac{19}{7}$。
よって $a = \dfrac{20}{7}$, $b = \dfrac{19}{7}$。
$z = \dfrac{a + 3i}{2 + i} + \dfrac{1 - ai}{3 - i}$($a$ は実数)が実数となるような $a$ の値と、そのときの $z$ の値を求めよ。
第1項を計算する。
$$\frac{a + 3i}{2 + i} = \frac{(a + 3i)(2 - i)}{(2+i)(2-i)} = \frac{(2a + 3) + (6 - a)i}{5}$$
第2項を計算する。
$$\frac{1 - ai}{3 - i} = \frac{(1 - ai)(3 + i)}{(3-i)(3+i)} = \frac{(3 + a) + (1 - 3a)i}{10}$$
$z$ の虚部は
$$\frac{6 - a}{5} + \frac{1 - 3a}{10} = \frac{2(6 - a) + (1 - 3a)}{10} = \frac{13 - 5a}{10}$$
$z$ が実数となる条件は虚部 $= 0$ より
$$13 - 5a = 0 \implies a = \frac{13}{5}$$
このとき $z$ の実部は
$$\frac{2 \cdot \frac{13}{5} + 3}{5} + \frac{3 + \frac{13}{5}}{10} = \frac{\frac{26}{5} + 3}{5} + \frac{\frac{28}{5}}{10} = \frac{\frac{41}{5}}{5} + \frac{28}{50} = \frac{41}{25} + \frac{14}{25} = \frac{55}{25} = \frac{11}{5}$$
よって $a = \dfrac{13}{5}$, $z = \dfrac{11}{5}$。
$z = \dfrac{a^2 - 2 + (a + 1)i}{1 + i}$($a$ は実数)が純虚数となるような $a$ の値をすべて求めよ。
分母を実数化する。
$$z = \frac{\{a^2 - 2 + (a+1)i\}(1 - i)}{(1+i)(1-i)} = \frac{(a^2 - 2)(1 - i) + (a+1)i(1 - i)}{2}$$
分子を展開する。
$(a^2 - 2)(1 - i) + (a+1)i(1 - i)$
$= (a^2 - 2) - (a^2 - 2)i + (a+1)i - (a+1)i^2$
$= (a^2 - 2) + (a + 1) + \{-(a^2 - 2) + (a + 1)\}i$
$= (a^2 + a - 1) + (-a^2 + a + 3)i$
よって
$$z = \frac{a^2 + a - 1}{2} + \frac{-a^2 + a + 3}{2}i$$
$z$ が純虚数となる条件は、実部 $= 0$ かつ虚部 $\neq 0$。
実部 $= 0$:$a^2 + a - 1 = 0$ より $a = \dfrac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}$
虚部の確認:
$a = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2}$ のとき、$-a^2 + a + 3 = -(a^2 - a - 3) = -(a^2 + a - 1) + 2a + 2 - 2 = 0 + 2a - 2$?
$a^2 + a - 1 = 0$ より $a^2 = 1 - a$ を代入して
$-a^2 + a + 3 = -(1 - a) + a + 3 = 2a + 2$
$a = \dfrac{-1 + \sqrt{5}}{2}$ のとき $2a + 2 = -1 + \sqrt{5} + 2 = 1 + \sqrt{5} \neq 0$ ✓
$a = \dfrac{-1 - \sqrt{5}}{2}$ のとき $2a + 2 = -1 - \sqrt{5} + 2 = 1 - \sqrt{5} \neq 0$ ✓
よって $a = \dfrac{-1 \pm \sqrt{5}}{2}$。
$z_1 = a + bi$, $z_2 = c + di$($a, b, c, d$ は実数)のとき、次を示せ。
(1) $\overline{z_1 \cdot z_2} = \bar{z_1} \cdot \bar{z_2}$
(2) $z_1 \cdot \bar{z_1} + z_2 \cdot \bar{z_2} = |z_1|^2 + |z_2|^2$ は $0$ 以上の実数であり、$0$ となるのは $z_1 = z_2 = 0$ のときに限ることを示せ。
(1)
(左辺)$z_1 z_2 = (a + bi)(c + di) = (ac - bd) + (ad + bc)i$
よって $\overline{z_1 z_2} = (ac - bd) - (ad + bc)i$
(右辺)$\bar{z_1} \cdot \bar{z_2} = (a - bi)(c - di) = ac - adi - bci + bdi^2$
$= (ac - bd) + (-ad - bc)i = (ac - bd) - (ad + bc)i$
左辺と右辺の実部はともに $ac - bd$、虚部はともに $-(ad + bc)$ で一致する。
よって $\overline{z_1 z_2} = \bar{z_1} \cdot \bar{z_2}$ が示された。■
(2)
$z_1 \bar{z_1} = (a + bi)(a - bi) = a^2 + b^2$
$z_2 \bar{z_2} = (c + di)(c - di) = c^2 + d^2$
よって $z_1 \bar{z_1} + z_2 \bar{z_2} = a^2 + b^2 + c^2 + d^2$
$a, b, c, d$ は実数なので $a^2 \geq 0$, $b^2 \geq 0$, $c^2 \geq 0$, $d^2 \geq 0$ より
$$a^2 + b^2 + c^2 + d^2 \geq 0$$
等号が成立するのは $a = b = c = d = 0$ のとき、すなわち $z_1 = z_2 = 0$ のときに限る。■
(1) は「共役複素数と積の関係」として非常に重要な性質です。この結果は $\overline{z^n} = \bar{z}^n$ に一般化でき、実数係数の多項式方程式の解と共役の関係を示す際の基礎になります。