複素数 $z = a + bi$ に対して、虚部の符号だけを反転させた $\bar{z} = a - bi$ を共役複素数といいます。
この「ペア」は驚くほど多くの場面で活躍し、複素数の計算を強力にサポートします。
前回の記事で複素数 $z = a + bi$ を導入しました。ここでは、$z$ と「ペア」を成すもう一つの複素数を定義します。
複素数 $z = a + bi$($a, b$ は実数)に対して
$$\bar{z} = a - bi$$
を $z$ の共役複素数(conjugate complex number)という。
記号 $\bar{z}$ は「ゼットバー」と読みます。教科書によっては $z^*$ と書くこともあります。
| $z$ | $\bar{z}$ | 説明 |
|---|---|---|
| $3 + 2i$ | $3 - 2i$ | 虚部の符号を反転 |
| $-1 - 4i$ | $-1 + 4i$ | 虚部の符号を反転 |
| $5i$ | $-5i$ | $z = 0 + 5i$ なので $\bar{z} = 0 - 5i$ |
| $7$ | $7$ | $z = 7 + 0i$ なので $\bar{z} = 7 - 0i = 7$ |
複素数 $z = a + bi$ を複素平面(ガウス平面)上の点 $(a, b)$ と見ると、$\bar{z} = a - bi$ は点 $(a, -b)$ に対応します。これは点 $(a, b)$ を実軸(横軸)に関して対称に折り返した点です。
つまり、共役複素数をとる操作は「実軸に関する鏡映(反射)」に対応します。この幾何学的なイメージを持つと、共役複素数の性質がより直感的に理解できます。
✗ 実数には共役複素数がない
✓ 実数 $a$ の共役複素数は $a$ 自身($\bar{a} = a$)
実数 $a = a + 0i$ なので $\bar{a} = a - 0i = a$ です。実数は実軸上の点なので、実軸に関して折り返しても動きません。
共役複素数には、四則演算と美しく調和する性質があります。これらは計算でも理論でも頻繁に使われます。
複素数 $z, w$ に対して、次が成り立つ。
(1) $\overline{z + w} = \bar{z} + \bar{w}$(和の共役 = 共役の和)
(2) $\overline{z - w} = \bar{z} - \bar{w}$(差の共役 = 共役の差)
(3) $\overline{z \cdot w} = \bar{z} \cdot \bar{w}$(積の共役 = 共役の積)
(4) $\overline{\left(\dfrac{z}{w}\right)} = \dfrac{\bar{z}}{\bar{w}}$($w \neq 0$)(商の共役 = 共役の商)
(5) $\overline{\bar{z}} = z$(共役の共役 = 元に戻る)
一言でまとめると「共役をとる操作は四則演算と交換できる」。
$z = a + bi$、$w = c + di$($a, b, c, d$ は実数)とおく。
(1) 和の共役:
$z + w = (a + c) + (b + d)i$ より
$\overline{z + w} = (a + c) - (b + d)i = (a - bi) + (c - di) = \bar{z} + \bar{w}$ ■
(3) 積の共役:
$zw = (ac - bd) + (ad + bc)i$ より
$\overline{zw} = (ac - bd) - (ad + bc)i$
一方、$\bar{z}\bar{w} = (a - bi)(c - di) = (ac - bd) + (-ad - bc)i = (ac - bd) - (ad + bc)i$
よって $\overline{zw} = \bar{z}\bar{w}$ ■
$$z\bar{z} = |z|^2 = a^2 + b^2$$
$z = a + bi$ のとき $(a + bi)(a - bi) = a^2 + b^2$。これは分母の実数化の原理そのものです。
共役をとる操作($i$ を $-i$ で置き換える操作)は、複素数の構造 $a + bi$ における $i$ の役割を「裏返す」だけです。四則演算の規則は $i^2 = -1$ だけに依存し、$(-i)^2 = -1$ も成り立つため、$i$ を $-i$ に置き換えてもすべての演算規則がそのまま保たれます。
大学数学では、この操作を体の自己同型写像(automorphism)と呼びます。
性質(3)を繰り返し適用すると、$\overline{z^n} = \bar{z}^n$($n$ は自然数)が得られます。例えば $\overline{z^3} = \overline{z \cdot z \cdot z} = \bar{z} \cdot \bar{z} \cdot \bar{z} = \bar{z}^3$ です。この性質はセクション5で重要な役割を果たします。
共役複素数を使うと、複素数の実部と虚部を簡潔に取り出すことができます。
$z = a + bi$($a, b$ は実数)のとき
(1) $z + \bar{z} = 2a$(実部の2倍)
(2) $z - \bar{z} = 2bi$(虚部の2倍 $\times i$)
(3) $z\bar{z} = a^2 + b^2$(常に実数で非負)
これらから、実部 $a = \dfrac{z + \bar{z}}{2}$、虚部 $b = \dfrac{z - \bar{z}}{2i}$ と逆算できます。
$z = a + bi$、$\bar{z} = a - bi$ として
(1) $z + \bar{z} = (a + bi) + (a - bi) = 2a$ ■
(2) $z - \bar{z} = (a + bi) - (a - bi) = 2bi$ ■
(3) $z\bar{z} = (a + bi)(a - bi) = a^2 - (bi)^2 = a^2 - b^2 i^2 = a^2 + b^2$ ■
例1:$z = 3 + 4i$ のとき、$z\bar{z} = 3^2 + 4^2 = 25$、$|z| = \sqrt{25} = 5$
例2:$\dfrac{1}{z}$ を求める。$z\bar{z} = |z|^2$ を利用すると
$$\frac{1}{z} = \frac{\bar{z}}{z\bar{z}} = \frac{\bar{z}}{|z|^2}$$
$z = 3 + 4i$ のとき $\dfrac{1}{z} = \dfrac{3 - 4i}{25} = \dfrac{3}{25} - \dfrac{4}{25}i$
$\dfrac{1}{z} = \dfrac{\bar{z}}{|z|^2}$ という公式は、除法で「分母の実数化」を行うことと全く同じです。分母に $\bar{z}$ を掛けることで分母が $z\bar{z} = |z|^2$(実数)になるのです。共役複素数が除法の鍵であることがわかります。
✗ $z\bar{z} = |z|$
✓ $z\bar{z} = |z|^2$(2乗であることに注意!)
$z = 3 + 4i$ のとき $z\bar{z} = 25$ であり、$|z| = 5$ です。$z\bar{z}$ は絶対値の2乗です。
$z$ と $\bar{z}$ を2つの解とする2次方程式は、解と係数の関係から
$t^2 - (z + \bar{z})t + z\bar{z} = 0$、すなわち $t^2 - 2at + (a^2 + b^2) = 0$
となります。係数がすべて実数になる点に注目してください。これは後の「実数係数の方程式」の伏線です。
共役複素数を使うと、ある複素数が実数か純虚数かを判定する簡潔な条件が得られます。
実数の判定:
$$z \text{ が実数} \iff z = \bar{z}$$
純虚数の判定:
$$z \text{ が純虚数} \iff z = -\bar{z} \text{ かつ } z \neq 0$$
「$z = \bar{z}$」は虚部が $0$ であることと同値、「$z = -\bar{z}$」は実部が $0$ であることと同値です。
$z = a + bi$($a, b$ は実数)とおく。
実数の判定:
$z = \bar{z} \iff a + bi = a - bi \iff 2bi = 0 \iff b = 0 \iff z$ は実数 ■
純虚数の判定:
$z = -\bar{z} \iff a + bi = -(a - bi) = -a + bi \iff 2a = 0 \iff a = 0$
$a = 0$ かつ $z \neq 0$ より $b \neq 0$。よって $z = bi$($b \neq 0$)で純虚数 ■
✗ $z = -\bar{z}$ ならば $z$ は純虚数
✓ $z = -\bar{z}$ かつ $z \neq 0$ ならば $z$ は純虚数
$z = 0$ は $0 = -\bar{0} = 0$ を満たしますが、$0$ は実数であり純虚数ではありません。この「$z \neq 0$」の条件は入試でも頻出の落とし穴です。
例1:$z = \dfrac{(1+i)^2}{2}$ が実数か純虚数か判定する。
$(1+i)^2 = 1 + 2i + i^2 = 2i$ より $z = \dfrac{2i}{2} = i$
$\bar{z} = -i = -z$ かつ $z \neq 0$ なので、$z$ は純虚数。
例2:$z = (2+i)(2-i)$ が実数か判定する。
$z = 4 - i^2 = 4 + 1 = 5$
$\bar{z} = 5 = z$ なので、$z$ は実数。($z\bar{z}$ の形だから当然実数)
$z \neq 0$ のとき、$z$ が純虚数 $\iff$ $z^2$ が負の実数、という判定法もあります。$z = bi$($b \neq 0$)のとき $z^2 = -b^2 < 0$ となり実際に負の実数です。逆も成り立ちます。
共役複素数の最も重要な応用の一つが、実数係数の方程式の解に関する性質です。
実数係数の方程式 $a_n x^n + a_{n-1} x^{n-1} + \cdots + a_1 x + a_0 = 0$($a_k$ はすべて実数)に対して
$$z \text{ が解} \implies \bar{z} \text{ も解}$$
虚数解は必ず共役のペアで現れます。
$f(z) = a_n z^n + a_{n-1} z^{n-1} + \cdots + a_1 z + a_0 = 0$ とする。
両辺の共役をとると $\overline{f(z)} = 0$。
セクション2の性質を使うと
$\overline{f(z)} = \overline{a_n z^n} + \overline{a_{n-1} z^{n-1}} + \cdots + \overline{a_0}$
$= \bar{a}_n \bar{z}^n + \bar{a}_{n-1} \bar{z}^{n-1} + \cdots + \bar{a}_0$
$a_k$ がすべて実数なので $\bar{a}_k = a_k$。よって
$\overline{f(z)} = a_n \bar{z}^n + a_{n-1} \bar{z}^{n-1} + \cdots + a_0 = f(\bar{z}) = 0$
したがって $\bar{z}$ も方程式の解である。■
$x^2 - 2x + 5 = 0$ を解くと
$$x = \frac{2 \pm \sqrt{4 - 20}}{2} = \frac{2 \pm \sqrt{-16}}{2} = \frac{2 \pm 4i}{2} = 1 \pm 2i$$
2つの解 $1 + 2i$ と $1 - 2i$ は確かに互いに共役です。
証明の核心は「$a_k$ が実数なので $\bar{a}_k = a_k$」という部分です。もし係数に虚数が含まれていたら、$\bar{a}_k \neq a_k$ となり、$\overline{f(z)} = f(\bar{z})$ が成り立ちません。
例えば $x^2 - 2ix - 1 = 0$ の解は $(x - i)^2 = 0$ より $x = i$(重解)です。$\bar{i} = -i$ は解ではありません。係数 $-2i$ が虚数だからです。
この「虚数解は共役ペアで現れる」という性質は、実数係数の多項式を因数分解するとき、虚数解のペア $z, \bar{z}$ から実数係数の2次因数 $(x - z)(x - \bar{z}) = x^2 - (z+\bar{z})x + z\bar{z} = x^2 - 2ax + (a^2+b^2)$ が作れることを意味します。これが「実数係数の多項式は、実数の範囲で1次式と2次式の積に分解できる」という定理の根拠です。
✗ どんな方程式でも虚数解は共役ペアで現れる
✓ 共役ペアで現れるのは「実数係数」の方程式のみ
$x^2 + ix - 1 = 0$ の解は $x = \dfrac{-i \pm \sqrt{-1+4}}{2} = \dfrac{-i \pm \sqrt{3}}{2}$ であり、2つの解 $\dfrac{\sqrt{3}-i}{2}$ と $\dfrac{-\sqrt{3}-i}{2}$ は互いに共役ではありません。
Q1. $z = -2 + 5i$ の共役複素数 $\bar{z}$ を求め、$z\bar{z}$ を計算せよ。
Q2. $z = 3 - i$、$w = 1 + 2i$ のとき、$\overline{zw}$ を2通りの方法で求めよ。
Q3. $z + \bar{z} = 6$、$z\bar{z} = 13$ を満たす複素数 $z$(虚部が正)を求めよ。
Q4. $z = \dfrac{1 + 3i}{1 - i}$ が実数か純虚数か判定せよ。
Q5. 2次方程式 $x^2 - 4x + 13 = 0$ の2つの解が共役複素数であることを確かめよ。
次の各問に答えよ。
(1) $z = 4 - 3i$ のとき、$z + \bar{z}$、$z - \bar{z}$、$z\bar{z}$、$|z|$ を求めよ。
(2) $z = \dfrac{2+i}{1+3i}$ のとき、$\bar{z}$ を $a + bi$($a, b$ は実数)の形で求めよ。
(3) $z\bar{z} + 2z + 2\bar{z} = 0$ のとき、$|z + 2|$ の値を求めよ。
(1) $\bar{z} = 4 + 3i$ より
$z + \bar{z} = 8$、$z - \bar{z} = -6i$、$z\bar{z} = 16 + 9 = 25$、$|z| = \sqrt{25} = 5$
(2) $z = \dfrac{(2+i)(1-3i)}{(1+3i)(1-3i)} = \dfrac{2-6i+i-3i^2}{1+9} = \dfrac{5-5i}{10} = \dfrac{1}{2} - \dfrac{1}{2}i$
$\bar{z} = \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{2}i$
(3) $z\bar{z} + 2z + 2\bar{z} + 4 = 4$ と変形すると
$(z+2)(\bar{z}+2) = 4$
ここで $\bar{z} + 2 = \overline{z + 2}$ なので $(z+2)\overline{(z+2)} = |z+2|^2 = 4$
$|z+2| = 2$
複素数 $z$ が $|z| = 2$ を満たすとき、$w = z + \dfrac{4}{z}$ が実数であることを示せ。
$w$ が実数であることを示すには $w = \bar{w}$ を示せばよい。
$|z| = 2$ より $z\bar{z} = |z|^2 = 4$ なので $\bar{z} = \dfrac{4}{z}$。
$$\bar{w} = \overline{z + \frac{4}{z}} = \bar{z} + \frac{4}{\bar{z}}$$
$\bar{z} = \dfrac{4}{z}$ を代入すると
$$\bar{w} = \frac{4}{z} + \frac{4}{\frac{4}{z}} = \frac{4}{z} + z = z + \frac{4}{z} = w$$
$w = \bar{w}$ が成り立つので $w$ は実数である。■
$z$ が純虚数であるとき、$w = \dfrac{z - 1}{z + 1}$ について以下を示せ。
(1) $|w| = 1$ であることを示せ。
(2) $w$ は実数でないことを示せ。
$z$ は純虚数なので $z = bi$($b \neq 0$、$b$ は実数)とおく。$z + 1 = 1 + bi \neq 0$($b \neq 0$ より成立)。
(1) $|w|^2 = w\bar{w}$ を計算する。
$z$ が純虚数より $\bar{z} = -z$ なので
$$\bar{w} = \frac{\bar{z} - 1}{\bar{z} + 1} = \frac{-z - 1}{-z + 1} = \frac{-(z+1)}{-(z-1)} = \frac{z + 1}{z - 1}$$
$$w\bar{w} = \frac{z-1}{z+1} \cdot \frac{z+1}{z-1} = 1$$
よって $|w|^2 = 1$ より $|w| = 1$。■
(2) $w$ が実数と仮定すると $w = \bar{w}$。
$\dfrac{z-1}{z+1} = \dfrac{z+1}{z-1}$ より $(z-1)^2 = (z+1)^2$
$z^2 - 2z + 1 = z^2 + 2z + 1$ より $-4z = 0$、$z = 0$。
これは $z$ が純虚数($z \neq 0$)であることに矛盾。よって $w$ は実数でない。■
実数係数の3次方程式 $x^3 + ax^2 + bx + c = 0$ の一つの解が $z = 1 + 2i$ であるとき、実数 $a, b, c$ の値を求めよ。
実数係数の方程式なので、$z = 1 + 2i$ が解ならば $\bar{z} = 1 - 2i$ も解。
$z$ と $\bar{z}$ を解とする2次因数は
$(x - z)(x - \bar{z}) = x^2 - (z + \bar{z})x + z\bar{z}$
$z + \bar{z} = 2$、$z\bar{z} = 1 + 4 = 5$ より
$(x - z)(x - \bar{z}) = x^2 - 2x + 5$
3次方程式の残りの解を $\alpha$(実数)とすると
$x^3 + ax^2 + bx + c = (x^2 - 2x + 5)(x - \alpha)$
右辺を展開すると
$= x^3 - \alpha x^2 - 2x^2 + 2\alpha x + 5x - 5\alpha$
$= x^3 - (\alpha + 2)x^2 + (2\alpha + 5)x - 5\alpha$
係数を比較して
$a = -(\alpha + 2)$、$b = 2\alpha + 5$、$c = -5\alpha$
最高次の係数は1で一致。$\alpha$ は任意の実数なので、これが一般解。
しかし3次方程式の解は3つなので、$\alpha$ を決めるには追加条件が必要。ここでは $a, b, c$ を $\alpha$ を用いて表すと
$$a = -\alpha - 2, \quad b = 2\alpha + 5, \quad c = -5\alpha$$
ここから $\alpha$ を消去すると $b = -2a - 4 + 5 = -2a + 1$ かつ $c = 5a + 10$ が条件。
例えば $\alpha = 1$(もう一つの解が $1$)のとき、$a = -3$、$b = 7$、$c = -5$。
検算:$x^3 - 3x^2 + 7x - 5 = (x^2 - 2x + 5)(x - 1) = 0$ の解は $x = 1, 1 \pm 2i$。✓
実数係数の方程式で虚数解が1つ与えられたら、(1) 共役もまた解、(2) その2つから実数係数の2次因数を作る、(3) 元の方程式を2次因数で割って残りの因数を求める、という3ステップが定石です。