「2乗して $-1$ になる数」──そんな不思議な数を導入することで、数の世界は飛躍的に広がります。
複素数の基本的な仕組みと四則演算をしっかり押さえましょう。
これまでの数学では、$x^2 = -1$ を満たす実数は存在しませんでした。そこで、2乗して $-1$ になる新しい数を導入します。
$i^2 = -1$ を満たす数 $i$ を虚数単位という。
$i$ は英語 imaginary(想像上の)の頭文字です。
$a, b$ を実数とするとき、$a + bi$ の形で表される数を複素数という。
$a$ を実部(Real part)、$b$ を虚部(Imaginary part)という。
虚部は $bi$ ではなく $b$($i$ の係数)であることに注意。
数の歴史は「方程式を解きたい」という欲求によって拡張されてきました。$x + 3 = 0$ を解くために負の数が、$x^2 = 2$ を解くために無理数が生まれたように、$x^2 = -1$ を解くために虚数が導入されたのです。
複素数の導入により、すべての2次方程式が解をもつようになります。さらに代数学の基本定理により、$n$ 次方程式は複素数の範囲で必ず $n$ 個の解をもちます。
$i$ の累乗は4つの値を周期的に繰り返します。
| 累乗 | $i^1$ | $i^2$ | $i^3$ | $i^4$ | $i^5$ | $i^6$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 値 | $i$ | $-1$ | $-i$ | $1$ | $i$ | $-1$ |
一般に、$i^{4k} = 1,\; i^{4k+1} = i,\; i^{4k+2} = -1,\; i^{4k+3} = -i$ です($k$ は整数)。
✗ $i^{100} = i^2 \times i^{50} = (-1) \times \cdots$(場当たり的に分割)
✓ $i^{100} = (i^4)^{25} = 1^{25} = 1$(4の倍数で割る)
指数を4で割った余りだけを見ればよいのがポイントです。$100 = 4 \times 25 + 0$ なので $i^{100} = i^0 = 1$。
複素数 $a + bi$ は、$b$ の値によって次のように分類されます。
複素数 $a + bi$($a, b$ は実数)
数は段階的に拡張されてきました。
$$\text{自然数} \subset \text{整数} \subset \text{有理数} \subset \text{実数} \subset \text{複素数}$$
すべての実数は $b = 0$ の複素数なので、実数は複素数の一部です。
✗ $3 + 2i$ は純虚数である
✓ $3 + 2i$ は虚数である(純虚数は $2i$ のように実部が $0$ のもの)
純虚数は虚数の特殊な場合です。「実数でない」=「虚数」、「虚数のうち実部が $0$」=「純虚数」と整理しましょう。
$0 = 0 + 0i$ は実数であり、かつ純虚数の定義 $a = 0, b \neq 0$ を満たさないので純虚数ではありません。教科書によって $0$ を純虚数に含める流儀もありますが、高校数学では $0$ は純虚数に含めないのが標準です。
複素数の計算は、$i$ を普通の文字と同じように扱い、$i^2$ が出てきたら $-1$ で置き換えるだけです。
加法:$(a + bi) + (c + di) = (a + c) + (b + d)i$
減法:$(a + bi) - (c + di) = (a - c) + (b - d)i$
乗法:$(a + bi)(c + di) = (ac - bd) + (ad + bc)i$
除法:$\dfrac{a + bi}{c + di} = \dfrac{(a + bi)(c - di)}{(c + di)(c - di)} = \dfrac{ac + bd}{c^2 + d^2} + \dfrac{bc - ad}{c^2 + d^2}i$
加法・減法は実部どうし、虚部どうしをまとめるだけ。乗法は展開して $i^2 = -1$ を使う。除法は分母の共役複素数を掛ける(分母の実数化)。
除法のポイントは分母の実数化です。分母 $c + di$ に対し、その共役 $c - di$ を分母・分子に掛けます。
$$\frac{a + bi}{c + di} = \frac{(a + bi)(c - di)}{(c + di)(c - di)} = \frac{(a + bi)(c - di)}{c^2 + d^2}$$
これは無理数の分母の有理化と同じ発想です。$(\sqrt{a} + \sqrt{b})(\sqrt{a} - \sqrt{b}) = a - b$ と同じように、$(c + di)(c - di) = c^2 + d^2$ となります。
複素数は実数と $i$ の「線形結合」$a + bi$ として表されます。実数での演算法則がそのまま使え、唯一の追加ルールが $i^2 = -1$ だけです。このシンプルな構造により、交換法則・結合法則・分配法則がすべて成り立ちます。数学ではこの性質をもつ構造を体(たい)と呼びます。
例1(乗法):$(2 + 3i)(4 - i) = 8 - 2i + 12i - 3i^2 = 8 + 10i - 3(-1) = 11 + 10i$
例2(除法):
$$\frac{3 + 2i}{1 - i} = \frac{(3 + 2i)(1 + i)}{(1 - i)(1 + i)} = \frac{3 + 3i + 2i + 2i^2}{1 + 1} = \frac{1 + 5i}{2} = \frac{1}{2} + \frac{5}{2}i$$
✗ $(2 + 3i)(4 - i) = 8 - 3i^2 + \cdots$(クロスの項を忘れる)
✓ 4つの項を漏れなく展開:$2 \cdot 4 + 2 \cdot (-i) + 3i \cdot 4 + 3i \cdot (-i)$
複素数の乗法は多項式の展開と同じです。たすきがけのように4つの積を忘れずに計算しましょう。
虚数単位 $i$ の導入により、負の数の平方根も表せるようになります。
$a > 0$ のとき
$$\sqrt{-a} = \sqrt{a}\,i$$
$-a$ の平方根は $\pm\sqrt{a}\,i$
例:$\sqrt{-3} = \sqrt{3}\,i$、$\sqrt{-5} = \sqrt{5}\,i$
✗ $\sqrt{-2} \times \sqrt{-3} = \sqrt{(-2)(-3)} = \sqrt{6}$
✓ $\sqrt{-2} \times \sqrt{-3} = \sqrt{2}\,i \times \sqrt{3}\,i = \sqrt{6}\,i^2 = -\sqrt{6}$
$\sqrt{a}\sqrt{b} = \sqrt{ab}$ が成り立つのは $a \geq 0, b \geq 0$ のときだけです。負の数が絡むときは、必ず先に $i$ を括り出してから計算してください。これは複素数で最も多い間違いの一つです。
負の数を含む計算では、まず $\sqrt{-a} = \sqrt{a}\,i$ の変換を行ってから通常の計算に進みます。
例:$(2 + \sqrt{-3})(1 - \sqrt{-3})$ を計算する。
$$= (2 + \sqrt{3}\,i)(1 - \sqrt{3}\,i)$$
$$= 2 - 2\sqrt{3}\,i + \sqrt{3}\,i - (\sqrt{3})^2 i^2$$
$$= 2 - \sqrt{3}\,i - 3(-1) = 5 - \sqrt{3}\,i$$
$\sqrt{3}\,i$ と $\sqrt{3}i$ は同じ意味ですが、$i\sqrt{3}$ のように $i$ を前に書くと $i$ が根号の中に入っているように見え紛らわしいので、$\sqrt{3}\,i$ のように $i$ を後ろに書くのが標準です。ただし、係数が整数のときは $3i$ のように $i$ を後ろに書きます。
実数では「$a < b$」のように大小を比較できますが、虚数にはこの性質がありません。
背理法で示す。もし $i > 0$ なら、正の数どうしの積は正だから $i \times i = i^2 > 0$。しかし $i^2 = -1 < 0$ で矛盾。
もし $i < 0$ なら、負の数どうしの積は正だから $i \times i = i^2 > 0$。やはり $i^2 = -1 < 0$ で矛盾。
$i = 0$ とすると $i^2 = 0 \neq -1$ で矛盾。
したがって、$i$ は正でも負でも $0$ でもなく、大小関係が定義できない。■
実数の大小関係は数直線という「1次元の順序」に対応しています。複素数は2次元の量(実部と虚部)なので、一列に並べることができません。これは、「北」と「東」のどちらが大きいか聞かれても答えられないのと同じです。
大学では複素数を複素平面(ガウス平面)上の点として視覚化します。大小の代わりに「絶対値」(原点からの距離)で大きさを比較します。
✗ $2 + 3i > 1 + i$(虚数に不等号は使えない)
✓ $|2 + 3i| = \sqrt{13}$、$|1 + i| = \sqrt{2}$ なので $|2 + 3i| > |1 + i|$
複素数の「大きさ」を比較したいときは絶対値を使います。複素数そのものには大小関係がないことを覚えておきましょう。
複素数 $a + bi$ を平面上の点 $(a, b)$ として表すのが複素平面です。数学III・Cで学ぶこの概念は、複素数の掛け算が「回転と拡大」に対応するという美しい幾何学的解釈を与えます。オイラーの公式 $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$ は、数学の最も美しい等式の一つとして知られています。
Q1. $i^{2025}$ の値を求めよ。
Q2. $3 + 2i$ の実部と虚部をそれぞれ答えよ。
Q3. $(1 + 2i)(3 - i)$ を計算せよ。
Q4. $\dfrac{2 + i}{1 + 3i}$ を $a + bi$ の形にせよ。
Q5. $\sqrt{-2} \times \sqrt{-8}$ を計算せよ。
次の計算をせよ。
(1) $(2 + 3i)^2$
(2) $(1 + i)^4$
(3) $\dfrac{(1+i)^3}{(1-i)^2}$
(1) $(2+3i)^2 = 4 + 12i + 9i^2 = 4 + 12i - 9 = -5 + 12i$
(2) $(1+i)^2 = 1 + 2i + i^2 = 2i$ より $(1+i)^4 = (2i)^2 = 4i^2 = -4$
(3) $(1+i)^3 = (1+i)(1+i)^2 = (1+i) \cdot 2i = 2i + 2i^2 = -2 + 2i$
$(1-i)^2 = 1 - 2i + i^2 = -2i$
$\dfrac{-2+2i}{-2i} = \dfrac{(-2+2i) \cdot i}{-2i \cdot i} = \dfrac{-2i+2i^2}{-2i^2} = \dfrac{-2-2i}{2} = -1 - i$
$i + i^2 + i^3 + \cdots + i^{100}$ の値を求めよ。
$i + i^2 + i^3 + i^4 = i + (-1) + (-i) + 1 = 0$
連続する4つの $i$ の累乗の和は常に $0$ である。
$100 = 4 \times 25$ より、$i$ から $i^{100}$ までは25組の「4つ組」に分けられる。
$$i + i^2 + i^3 + \cdots + i^{100} = 25 \times 0 = 0$$
初項 $i$、公比 $i$、項数 $100$ の等比数列の和として
$$\frac{i(i^{100} - 1)}{i - 1} = \frac{i(1 - 1)}{i - 1} = 0$$
$z = \dfrac{1+\sqrt{3}\,i}{2}$ とするとき、$z^2 + z + 1$ の値を求めよ。
$z = \dfrac{1+\sqrt{3}\,i}{2}$ は $x = \dfrac{-1 \pm \sqrt{3}\,i}{2}$ の形に似ているが、符号に注意。
$2z = 1 + \sqrt{3}\,i$ より $2z - 1 = \sqrt{3}\,i$。両辺を2乗すると
$(2z-1)^2 = 3i^2 = -3$ より $4z^2 - 4z + 1 = -3$
$4z^2 - 4z + 4 = 0$ より $z^2 - z + 1 = 0$
よって $z^2 = z - 1$ を代入して
$z^2 + z + 1 = (z-1) + z + 1 = 2z = 1 + \sqrt{3}\,i$
複素数 $z$ が $z + \dfrac{1}{z} = 1$ を満たすとき、$z^5 + \dfrac{1}{z^5}$ の値を求めよ。
$z + \dfrac{1}{z} = 1$ とおく。$s_n = z^n + \dfrac{1}{z^n}$ とする。$s_1 = 1$。
$s_1^2 = z^2 + 2 + \dfrac{1}{z^2}$ より $s_2 = s_1^2 - 2 = 1 - 2 = -1$
$s_1 \cdot s_2 = \left(z + \dfrac{1}{z}\right)\left(z^2 + \dfrac{1}{z^2}\right) = z^3 + z + \dfrac{1}{z} + \dfrac{1}{z^3} = s_3 + s_1$
$s_3 = s_1 \cdot s_2 - s_1 = 1 \cdot (-1) - 1 = -2$
同様に $s_4 = s_1 \cdot s_3 - s_2 = 1 \cdot (-2) - (-1) = -1$
$s_5 = s_1 \cdot s_4 - s_3 = 1 \cdot (-1) - (-2) = 1$
よって $z^5 + \dfrac{1}{z^5} = 1$
$z + \dfrac{1}{z} = t$ のとき、$s_n = z^n + \dfrac{1}{z^n}$ は漸化式 $s_{n+1} = t \cdot s_n - s_{n-1}$ を満たします。これは $z^2 - tz + 1 = 0$ の解の $n$ 乗和を求めるのと同じ構造です。