第1章 式と計算

分数式の計算
─ 「分数」の原理を多項式に拡張する

数の分数($\frac{2}{3}$ など)と同じ計算規則が、多項式の分数にも成り立ちます。
約分・通分・部分分数分解をマスターして、式の変形力を高めましょう。

1分数式とは何か ─ 整式との違い

整式(多項式)は $x^2 + 3x + 2$ のように、$x$ の正の整数乗と定数の和で書ける式です。 これに対して分数式とは、$\dfrac{x + 1}{x - 2}$ のように、 整式を分母に含む式のことです。

💡 ここが本質:分数式は「整数の分数」の一般化

$\dfrac{2}{3}$ は「整数の分数」。$\dfrac{x+1}{x-2}$ は「多項式の分数」。

約分、通分、四則演算のルールは数の分数とまったく同じです。 違いは「共通因数」が数ではなく多項式であること。だから因数分解が約分の鍵になります。

⚠️ 落とし穴:分母が $0$ になる値を忘れる

$\dfrac{x+1}{x-2}$ は $x = 2$ で分母が $0$ になるので、$x = 2$ では定義されません。

✕ 誤:分数式の計算で分母が $0$ になる条件を気にしない

○ 正:必要に応じて「ただし $x \neq 2$」のような条件を付記する

特に約分で分母の因数が消えるとき、元の式では定義されなかった値が計算に現れることがあります。

2約分 ─ 因数分解が鍵

分数式の約分は、分子と分母を因数分解して共通因数を見つけることで行います。

📐 分数式の約分

$$\frac{A(x) \cdot C(x)}{B(x) \cdot C(x)} = \frac{A(x)}{B(x)} \quad (C(x) \neq 0)$$

※ 数の約分 $\dfrac{6}{9} = \dfrac{2 \times 3}{3 \times 3} = \dfrac{2}{3}$ と同じ原理。

具体例

▷ $\dfrac{x^2 - 4}{x^2 + x - 2}$ を約分する

分子:$x^2 - 4 = (x+2)(x-2)$

分母:$x^2 + x - 2 = (x+2)(x-1)$

共通因数:$(x+2)$

$$\frac{(x+2)(x-2)}{(x+2)(x-1)} = \frac{x-2}{x-1} \quad (x \neq -2)$$

⚠️ 落とし穴:「項」で約分してしまう

✕ 誤:$\dfrac{x^2 + x}{x} = x^2 + 1$(分母の $x$ で分子の $x$ だけを約分)

○ 正:$\dfrac{x^2 + x}{x} = \dfrac{x(x + 1)}{x} = x + 1$(分子を因数分解してから約分)

約分できるのは因数(かけ算の単位)であって、項(足し算の単位)ではありません。 分子全体が分母の因数で割り切れるかを確認してください。

⚠️ 落とし穴:約分で消えた因数の条件を忘れる

$\dfrac{(x+2)(x-2)}{(x+2)(x-1)}$ を $\dfrac{x-2}{x-1}$ に約分するとき、 $(x+2)$ で割ったので $x \neq -2$ という条件が付きます。

約分前の式では $x = -2$ で分母が $0$(定義されない)でしたが、 約分後の $\dfrac{x-2}{x-1}$ は $x = -2$ で $\dfrac{-4}{-3} = \dfrac{4}{3}$ と値が出てしまいます。

厳密には「$x \neq -2$」の注記が必要です。

3四則演算 ─ 通分と乗除の手順

加法・減法(通分)

📐 分数式の加法・減法

$$\frac{A}{B} + \frac{C}{D} = \frac{AD + BC}{BD}$$

※ 数の通分と同じ。$B$ と $D$ の最小公倍式を分母にするとより簡潔になる。

具体例:$\dfrac{1}{x-1} + \dfrac{2}{x+1}$

▷ 通分して計算する

最小公倍式は $(x-1)(x+1)$。

$$\frac{1}{x-1} + \frac{2}{x+1} = \frac{(x+1) + 2(x-1)}{(x-1)(x+1)} = \frac{x + 1 + 2x - 2}{x^2 - 1} = \frac{3x - 1}{x^2 - 1}$$

乗法・除法

📐 分数式の乗法・除法

乗法:$\dfrac{A}{B} \times \dfrac{C}{D} = \dfrac{AC}{BD}$

除法:$\dfrac{A}{B} \div \dfrac{C}{D} = \dfrac{A}{B} \times \dfrac{D}{C} = \dfrac{AD}{BC}$

※ かける前に約分できる因数がないか確認すると、計算が楽になる。
💡 ここが本質:「先に因数分解 → 約分 → 最後に展開」の順

分数式の計算で最も重要なのは手順の順序です。

1. 分子・分母をすべて因数分解する

2. 約分できるものを約分する

3. 必要に応じて展開・整理する

先に展開すると式が膨らんで約分の機会を見逃します。「因数分解ファースト」が鉄則です。

🔬 深掘り:有理式体 ── 分数式の代数的構造

大学の代数学では、多項式の分数式全体の集合を有理式体(有理関数体)$K(x)$ と呼びます。 整数の分数(有理数 $\mathbb{Q}$)が整数 $\mathbb{Z}$ から作られるのと同じように、 有理式体 $K(x)$ は多項式環 $K[x]$ から作られます。

「体」とは四則演算がすべて可能な構造のこと。 多項式だけでは割り算が「割り切れない」場合がありますが、分数式まで拡げれば自由に割れます。

4繁分数式と部分分数分解

繁分数式

繁分数式(はんぶんすうしき)とは、分数の中にさらに分数が入った式のことです。 たとえば $\dfrac{\frac{1}{x} + 1}{\frac{1}{x} - 1}$ のような式です。

▷ 繁分数式を簡単にする

$\dfrac{\frac{1}{x} + 1}{\frac{1}{x} - 1}$ の分子・分母に $x$ をかけると

$$= \frac{1 + x}{1 - x} = \frac{x + 1}{-(x - 1)} = -\frac{x + 1}{x - 1}$$

💡 ここが本質:繁分数式は「分母の最小公倍式をかける」で解消

繁分数式を簡単にするには、内側の分数の分母の最小公倍式を、 外側の分子・分母の両方にかけます。これで内側の分数がすべて消えます。

部分分数分解

部分分数分解は、1つの分数式を複数の「簡単な」分数式の和に分ける操作です。 通分の逆の操作と考えることができます。

📐 部分分数分解の基本

$$\frac{1}{(x-a)(x-b)} = \frac{1}{a-b}\left(\frac{1}{x-a} - \frac{1}{x-b}\right) \quad (a \neq b)$$

※ 右辺を通分すると左辺に戻ることを確認できる。数列の和(Σ)の計算で頻出。
⚠️ 落とし穴:部分分数分解の係数を間違える

$\dfrac{1}{(x-1)(x-3)} = \dfrac{A}{x-1} + \dfrac{B}{x-3}$ として

$1 = A(x-3) + B(x-1)$(両辺に $(x-1)(x-3)$ をかけた)

$x = 1$:$1 = A(-2)$ → $A = -\frac{1}{2}$

$x = 3$:$1 = B(2)$ → $B = \frac{1}{2}$

✕ 誤:$A = \frac{1}{2}$(符号を逆にする)

○ 正:$A = -\frac{1}{2}$, $B = \frac{1}{2}$。検算:$-\frac{1}{2} \cdot \frac{1}{x-1} + \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{x-3} = \frac{-(x-3)+(x-1)}{2(x-1)(x-3)} = \frac{2}{2(x-1)(x-3)} = \frac{1}{(x-1)(x-3)}$ ✓

🔬 深掘り:部分分数分解と積分

部分分数分解は、数学IIの積分で真価を発揮します。 $\int \frac{1}{(x-1)(x-3)} dx$ をそのまま積分するのは困難ですが、 部分分数分解すれば $\int \frac{-1/2}{x-1} + \frac{1/2}{x-3} dx$ となり、 各項は $\log$ の積分で簡単に計算できます。

大学数学では、任意の有理式を部分分数に分解できることが証明されており、 有理式の積分を機械的に計算するアルゴリズムの基礎になっています。

5俯瞰マップ ─ 分数式の全体像

  • ← II-1-4 多項式の割り算:割り切れないとき、商が整式部分、余りが真分数式部分になる。
  • → II-1-6 恒等式:部分分数分解で「$A$, $B$ を求める」のは恒等式の条件を使っている。
  • → 数学B 数列:$\sum \frac{1}{k(k+1)}$ のような和は部分分数分解で telescoping sum に帰着。
  • → 数学III 積分:有理式の積分は部分分数分解を経由して行う。

📋まとめ

  • 分数式は整式の分数。計算規則は数の分数と同じ
  • 約分の鉄則:因数分解してから共通因数を消す。項での約分は不可
  • 計算の順序:因数分解 → 約分 → 展開(「因数分解ファースト」)
  • 繁分数式は「分母の最小公倍式を全体にかける」で解消
  • 部分分数分解:$\dfrac{1}{(x-a)(x-b)} = \dfrac{1}{a-b}\left(\dfrac{1}{x-a} - \dfrac{1}{x-b}\right)$
  • 部分分数分解は数列の和や積分で必須の技法

確認テスト

Q1. $\dfrac{x^2 - 9}{x^2 - x - 6}$ を約分してください。

▶ クリックして解答を表示分子 $= (x+3)(x-3)$, 分母 $= (x-3)(x+2)$。約分して $\dfrac{x+3}{x+2}$($x \neq 3$)。

Q2. $\dfrac{2}{x+1} - \dfrac{1}{x-1}$ を計算してください。

▶ クリックして解答を表示$\dfrac{2(x-1) - (x+1)}{(x+1)(x-1)} = \dfrac{2x - 2 - x - 1}{x^2 - 1} = \dfrac{x - 3}{x^2 - 1}$

Q3. 分数式の約分で「項で約分してはいけない」理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示約分できるのは因数(かけ算の単位)だけ。$\frac{x+1}{x} \neq 1 + 1 = 2$ であるように、分母の $x$ で分子の一部分だけを消すことはできない。分子全体が分母の因数で割り切れる場合にのみ約分が可能。

Q4. $\dfrac{1}{x(x+2)}$ を部分分数分解してください。

▶ クリックして解答を表示$\dfrac{1}{x(x+2)} = \dfrac{A}{x} + \dfrac{B}{x+2}$。$1 = A(x+2) + Bx$。$x = 0$: $A = 1/2$, $x = -2$: $B = -1/2$。$= \dfrac{1}{2}\left(\dfrac{1}{x} - \dfrac{1}{x+2}\right)$

Q5. 繁分数式 $\dfrac{\frac{1}{a} - \frac{1}{b}}{\frac{1}{a} + \frac{1}{b}}$ を簡単にしてください。

▶ クリックして解答を表示分子・分母に $ab$ をかけると $\dfrac{b - a}{b + a} = \dfrac{b-a}{a+b}$

8入試問題演習

A 基礎レベル

II-1-5-1 A 基礎 約分 通分

次の計算をせよ。$\dfrac{x^2 + 3x + 2}{x^2 + 5x + 6} \times \dfrac{x + 3}{x + 1}$

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$1$

解説

$\dfrac{(x+1)(x+2)}{(x+2)(x+3)} \times \dfrac{x+3}{x+1} = \dfrac{(x+1)(x+2)(x+3)}{(x+2)(x+3)(x+1)} = 1$

B 標準レベル

II-1-5-2 B 標準 部分分数分解

$\dfrac{3x + 1}{(x-1)(x+2)}$ を部分分数分解せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\dfrac{4/3}{x-1} + \dfrac{5/3}{x+2}$

解説

$\dfrac{3x+1}{(x-1)(x+2)} = \dfrac{A}{x-1} + \dfrac{B}{x+2}$

$3x+1 = A(x+2) + B(x-1)$

$x = 1$: $4 = 3A$ → $A = 4/3$

$x = -2$: $-5 = -3B$ → $B = 5/3$

$= \dfrac{4}{3(x-1)} + \dfrac{5}{3(x+2)}$

採点ポイント
  • 部分分数の形を正しく設定(3点)
  • $A$, $B$ の計算が正確(4点)
  • 検算(3点)
II-1-5-3 B 標準 繁分数式

$\dfrac{1 + \frac{1}{x+1}}{1 - \frac{1}{x+1}}$ を簡単にせよ。

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解答

$\dfrac{x+2}{x}$

解説

分子・分母に $(x+1)$ をかけると

$\dfrac{(x+1) + 1}{(x+1) - 1} = \dfrac{x+2}{x}$

C 発展レベル

II-1-5-4 C 発展 分数式 式の値

$x + \dfrac{1}{x} = 3$ のとき、$x^2 + \dfrac{1}{x^2}$ と $x^3 + \dfrac{1}{x^3}$ の値を求めよ。

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解答

$x^2 + \dfrac{1}{x^2} = 7$, $x^3 + \dfrac{1}{x^3} = 18$

解説

$\left(x + \dfrac{1}{x}\right)^2 = x^2 + 2 + \dfrac{1}{x^2} = 9$ → $x^2 + \dfrac{1}{x^2} = 7$

$\left(x + \dfrac{1}{x}\right)^3 = x^3 + 3x + \dfrac{3}{x} + \dfrac{1}{x^3} = x^3 + \dfrac{1}{x^3} + 3\left(x + \dfrac{1}{x}\right) = 27$

$x^3 + \dfrac{1}{x^3} = 27 - 9 = 18$

採点ポイント
  • 2乗の展開で $x^2 + 1/x^2$ を正しく導出(4点)
  • 3乗の展開で $x^3 + 1/x^3$ を正しく導出(4点)
  • 最終答案(2点)