第1章 式と計算

二項定理の応用
─ 係数決定・整数問題・多項展開

二項定理の威力は「展開式全体を書かなくても、欲しい情報だけ取り出せる」点にあります。
係数の決定、整数の余り、多項式の展開など、幅広い応用を見ていきましょう。

1多変数の展開 ─ $(a+b+c)^n$ の特定の項

$(a+b+c)^n$ の展開で特定の項の係数を求める問題は入試頻出です。 基本的な考え方は二項定理の拡張ですが、少し工夫が必要です。

💡 ここが本質:多項展開は「二項定理の2段階適用」

$(a+b+c)^n$ を直接展開するのではなく、$\{(a+b)+c\}^n$ と見て二項定理を適用し、 さらに $(a+b)^k$ の部分にもう一度二項定理を適用する。この「2段階」が基本戦略です。

あるいは、多項定理を直接使う方法もあります:

$(a+b+c)^n$ の $a^p b^q c^r$($p+q+r=n$)の項の係数は $\dfrac{n!}{p! \, q! \, r!}$

📐 多項定理(3変数の場合)

$(a+b+c)^n$ の展開式で、$a^p b^q c^r$($p+q+r = n$, $p, q, r \geq 0$)の項の係数は

$$\frac{n!}{p! \, q! \, r!}$$

※ これは「$n$ 個のものを $p$ 個, $q$ 個, $r$ 個のグループに分ける方法の数」と一致する。

具体例:$(x + 2y + 3z)^5$ の $x^2 y z^2$ の係数

▷ 解法のステップ

Step 1:$a = x$, $b = 2y$, $c = 3z$, $n = 5$ とする。$a^2 b^1 c^2$ の項を求める。

Step 2:多項係数は $\dfrac{5!}{2! \cdot 1! \cdot 2!} = \dfrac{120}{2 \cdot 1 \cdot 2} = 30$

Step 3:$b = 2y$, $c = 3z$ の定数部分も含めると

$30 \cdot x^2 \cdot (2y)^1 \cdot (3z)^2 = 30 \cdot 2 \cdot 9 \cdot x^2 y z^2 = 540 \, x^2 y z^2$

よって $x^2 y z^2$ の係数は $540$。

⚠️ 落とし穴:「$a$ の指数 + $b$ の指数 + $c$ の指数 $= n$」を忘れる

$(a+b+c)^5$ で $a^2 b^2 c^2$ の係数を求めようとするのはナンセンスです。 $2 + 2 + 2 = 6 \neq 5$ なので、そのような項は存在しません。

✕ 誤:指数の和が $n$ にならない組合せを探す

○ 正:まず $p + q + r = n$ を満たす組合せを列挙してから計算に入る

⚠️ 落とし穴:$b$, $c$ に含まれる定数を忘れる

$(x + 2y + 3z)^5$ の $x^2 y z^2$ の係数を求めるとき:

✕ 誤:多項係数 $\dfrac{5!}{2! 1! 2!} = 30$ だけを答える

○ 正:$30 \cdot (2)^1 \cdot (3)^2 = 30 \cdot 2 \cdot 9 = 540$

$b = 2y$, $c = 3z$ に含まれる定数 $2$, $3$ のべき乗を忘れないこと!

🔬 深掘り:多項定理の一般形

$m$ 個の変数の場合、$(a_1 + a_2 + \cdots + a_m)^n$ の $a_1^{k_1} a_2^{k_2} \cdots a_m^{k_m}$ ($k_1 + k_2 + \cdots + k_m = n$)の項の係数は

$$\frac{n!}{k_1! \, k_2! \, \cdots \, k_m!}$$

これを多項係数と呼びます。二項定理($m = 2$)の自然な一般化です。 多項係数は確率論の多項分布や、統計力学の状態数の計算に直結しています。

2二項定理と整数問題 ─ 割り算の余りを求める

大きなべき乗の値を特定の数で割った余りを求める問題に、二項定理が威力を発揮します。

💡 ここが本質:「大きな数 = (小さな数 + 基準)のべき乗」と分解する

$99^{50}$ を $100$ で割った余りを求めたいなら、$99 = 100 - 1$ と書いて $(100 - 1)^{50}$ に二項定理を適用します。

展開式の中で $100^k$($k \geq 1$)を含む項はすべて $100$ の倍数なので、余りに影響しません。 余りは $k = 0$ の項($(-1)^{50} = 1$)だけで決まります。

このように「割る数に近い数」で分解するのがコツです。

パターン分類:整数問題への二項定理の使い方

パターン$a^n$ の形分解の方法
A$a^n \pmod{m}$$a = m \pm k$ と分解$7^{100} \pmod{5}$: $7 = 5 + 2$
B$a^n$ が $m$ で割り切れることの証明$a = (m + \text{何か})$ で展開$5^n - 1$ が $4$ の倍数
C桁数・最高位の数字$\log_{10}$ と二項定理の組合せ$2^{100}$ の桁数

具体例:$7^{100}$ を $48$ で割った余り

▷ 解法のステップ

Step 1:$48$ に近い $7$ のべき乗を探す。$7^2 = 49 = 48 + 1$。

Step 2:$7^{100} = (7^2)^{50} = 49^{50} = (48 + 1)^{50}$

Step 3:二項定理で展開すると

$(48 + 1)^{50} = \displaystyle\sum_{k=0}^{50} {}_{50}C_k \cdot 48^k \cdot 1^{50-k}$

$k \geq 1$ の項はすべて $48$ の倍数。よって $7^{100} \equiv {}_{50}C_0 \cdot 1 = 1 \pmod{48}$

余りは $1$。

⚠️ 落とし穴:分解の仕方が不適切で計算が進まない

$7^{100}$ を $48$ で割った余りを求めるとき:

✕ 誤:$7 = 48 - 41$ として $(48 - 41)^{100}$ を展開 → $41^k$ の項が残り、結局困る

○ 正:$7^2 = 49 = 48 + 1$ と気づいて $(48 + 1)^{50}$ に変換

「割る数 $\pm 1$」の形を作るのがポイント。$\pm 1$ なら $k = 0$ の項以外がすべて消えます。

🔬 深掘り:合同式とフェルマーの小定理

大学数学では、このような整数問題を合同式($a \equiv b \pmod{m}$)の記法で扱います。 さらに、$p$ が素数で $\gcd(a, p) = 1$ のとき $a^{p-1} \equiv 1 \pmod{p}$ という フェルマーの小定理が成り立ち、大きなべき乗の余りを効率的に求められます。

二項定理による方法は、フェルマーの小定理を知らなくても使える汎用的なアプローチです。

3微分・積分を使った二項係数の等式

$(1+x)^n = \sum_{k=0}^{n} {}_nC_k x^k$ に対して、微分や積分を施してから 特定の値を代入すると、さまざまな二項係数の等式が得られます。

微分を使う

$(1+x)^n$ を $x$ で微分すると $n(1+x)^{n-1}$。右辺も項別に微分すると:

$$n(1+x)^{n-1} = \sum_{k=1}^{n} k \cdot {}_nC_k \, x^{k-1}$$

ここに $x = 1$ を代入すると $\sum k \cdot {}_nC_k = n \cdot 2^{n-1}$。 $x = -1$ を代入すると $\sum k \cdot {}_nC_k \cdot (-1)^{k-1} = 0$。

💡 ここが本質:「微分で $k$ を引き出し、代入で和を計算する」

$\sum k \cdot {}_nC_k$ のように「$k$」が付いた和は、$(1+x)^n$ を微分してから代入することで求まります。

$\sum k^2 \cdot {}_nC_k$ なら2回微分。一般に $k$ の多項式が付いた和は、微分の繰り返しで求められます。

この手法の本質は「$x^k$ を微分すると $k \cdot x^{k-1}$ になる」という微分の性質を逆利用することです。

積分を使う

$(1+x)^n$ を $0$ から $1$ まで積分すると

$$\int_0^1 (1+x)^n \, dx = \left[\frac{(1+x)^{n+1}}{n+1}\right]_0^1 = \frac{2^{n+1} - 1}{n+1}$$

右辺も項別に積分すると

$$\sum_{k=0}^{n} \frac{{}_nC_k}{k+1} = \frac{2^{n+1} - 1}{n+1}$$
⚠️ 落とし穴:微分・積分後に代入する値を誤る

求めたい等式に応じて、代入する $x$ の値を選ぶ必要があります。

✕ 誤:求めたい形に合わない値を代入して、関係ない式を得る

○ 正:等式の右辺を見て、$2^{n-1}$ が現れるなら $x = 1$、$0$ が現れるなら $x = -1$ を代入すればよいと判断する

「ゴールから逆算して代入値を決める」のが鉄則です。

⚠️ 落とし穴:$k = 0$ の項を微分で消してしまうことに気づかない

$\sum_{k=0}^{n} {}_nC_k x^k$ を微分すると $k = 0$ の項(定数項 ${}_nC_0 = 1$)は消えます。 微分後の和は $\sum_{k=1}^{n}$ で始まることに注意してください。

求めたい等式が $k = 0$ から始まっているのか $k = 1$ から始まっているのかで、答えが変わります。

4二項定理の融合問題 ─ 複数の技法を組み合わせる

入試では、二項定理と他の分野を組み合わせた問題がよく出ます。 典型的な融合パターンを整理しておきましょう。

融合先よくある問題使う技法
整数$n^p \pmod{m}$ の余り$n = m \pm k$ と分解して二項展開
微分$\sum k \cdot {}_nC_k$ 型の和$(1+x)^n$ を微分後に代入
数列二項係数を含む漸化式パスカルの等式を利用
確率二項分布の期待値・分散$(p+q)^n$ に二項定理を適用

$n$ 桁の数の決定

「$3^{100}$ は何桁の数か」のような問題も、二項定理の応用として出題されます。 ただし、この場合は二項定理よりも常用対数を使う解法が一般的です(第5章で詳しく扱います)。

💡 ここが本質:二項定理の応用問題は「分解の工夫」が勝負

二項定理の応用問題で最も重要なのは、「何を $a$、何を $b$ とするか」の分解の仕方です。

良い分解の基準は:展開後に「余計な項がすべて消えて、求めたい部分だけ残る」ようにすること。

$\pm 1$ の形が作れれば理想的。できなくても、割る数の倍数が含まれる形を目指します。

🔬 深掘り:母関数 ── 数列と二項定理の深い関係

数列 $\{a_n\}$ に対して $f(x) = \sum a_n x^n$ を母関数(generating function)と呼びます。 $(1+x)^n$ は二項係数 ${}_nC_k$ の母関数です。

母関数の微分・積分・代入によって数列の和や漸化式が求められるというのは、 組合せ論や確率論の強力な道具です。高校で学ぶ「$(1+x)^n$ を微分して $x = 1$ を代入」は、 母関数法の最も初歩的な応用です。

5俯瞰マップ ─ 応用パターンの全体像

  • ← II-1-2 二項定理:基本公式とパスカルの三角形。本記事はその応用編。
  • → II-1-4 多項式の割り算:多項式の整理と割り算。二項展開した結果を整理するのに必要。
  • → II-5-13 常用対数:桁数の問題は常用対数と組み合わせて解く。
  • → 数学B 数列:二項係数を含む和の計算は数列の技法と融合する。
  • → 数学B 二項分布:確率の二項分布 $P(X=k) = {}_nC_k p^k q^{n-k}$ は二項定理そのもの。

📋まとめ

  • 多項定理:$(a+b+c)^n$ の $a^p b^q c^r$ の係数は $\dfrac{n!}{p! q! r!}$($p+q+r=n$)
  • 整数問題:$a^n \pmod{m}$ は $a = m \pm k$ と分解して二項展開。「$\pm 1$」を作るのが理想
  • 微分で $k$ を引き出す:$\sum k \cdot {}_nC_k$ は $(1+x)^n$ を微分してから $x$ に代入
  • 積分で分母を作る:$\sum \dfrac{{}_nC_k}{k+1}$ は $(1+x)^n$ を積分してから代入
  • すべての応用に共通するのは「$(1+x)^n$ に操作を加えてから代入する」というフレームワーク

確認テスト

Q1. $(a+b+c)^4$ の展開式で $a^2 bc$ の項の係数を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\dfrac{4!}{2! \cdot 1! \cdot 1!} = \dfrac{24}{2} = 12$

Q2. $11^{100}$ を $100$ で割った余りを求めてください。

▶ クリックして解答を表示$11 = 10 + 1$ より $11^{100} = (10+1)^{100}$。$k \geq 2$ の項は $10^2 = 100$ の倍数。$k=0$: $1$, $k=1$: $100 \cdot 10 = 1000$(これも $100$ の倍数)。よって余りは $1$。

Q3. $\sum_{k=0}^{n} k \cdot {}_nC_k = n \cdot 2^{n-1}$ を導くために、何の式を微分しますか?

▶ クリックして解答を表示$(1+x)^n = \sum_{k=0}^{n} {}_nC_k x^k$ を $x$ で微分し、$x = 1$ を代入する。

Q4. $(x + 2y + z)^6$ で $x^3 y^2 z$ の係数を求めてください。

▶ クリックして解答を表示多項係数 $\dfrac{6!}{3! 2! 1!} = 60$。$b = 2y$ なので $60 \cdot 2^2 = 60 \cdot 4 = 240$。

Q5. 二項定理の整数問題で「$\pm 1$」を作るのが理想的である理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示$a = m + 1$ なら $(m+1)^n$ の展開で $m^k$($k \geq 1$)の項はすべて $m$ の倍数で消え、$k = 0$ の項 $1^n = 1$ だけが残り、余りが直ちにわかるから。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

II-1-3-1 A 基礎 多項定理 係数決定

$(a + b + c)^5$ の展開式で $a^2 b^2 c$ の項の係数を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$30$

解説

$p = 2, q = 2, r = 1$, $p+q+r = 5$ ✓

$\dfrac{5!}{2! \cdot 2! \cdot 1!} = \dfrac{120}{4} = 30$

B 標準レベル

II-1-3-2 B 標準 整数 二項定理

$5^n - 1$ が $4$ の倍数であることを、$n$ が正の整数のとき証明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

下記の解説を参照。

解説

方針:$5 = 4 + 1$ として二項定理を適用。

$5^n = (4+1)^n = \displaystyle\sum_{k=0}^{n} {}_nC_k \cdot 4^k \cdot 1^{n-k}$

$= {}_nC_0 + {}_nC_1 \cdot 4 + {}_nC_2 \cdot 4^2 + \cdots + {}_nC_n \cdot 4^n$

$= 1 + 4({}_nC_1 + {}_nC_2 \cdot 4 + \cdots + {}_nC_n \cdot 4^{n-1})$

$5^n - 1 = 4({}_nC_1 + {}_nC_2 \cdot 4 + \cdots + {}_nC_n \cdot 4^{n-1})$

カッコ内は整数なので $5^n - 1$ は $4$ の倍数。□

採点ポイント
  • $5 = 4 + 1$ と分解する着想(3点)
  • 二項定理の適用が正確(3点)
  • $k = 0$ の項を分離する(2点)
  • 結論の論述(2点)
II-1-3-3 B 標準 多項定理 係数決定

$(2x + y - 3z)^4$ の展開式で $x^2 y z$ の項の係数を求めよ。

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解答

$-144$

解説

方針:$a = 2x$, $b = y$, $c = -3z$ とする。$a^2 b^1 c^1$ の項を求める。

多項係数:$\dfrac{4!}{2! \cdot 1! \cdot 1!} = 12$

定数部分:$(2)^2 \cdot (1)^1 \cdot (-3)^1 = 4 \cdot 1 \cdot (-3) = -12$

$12 \times (-12) = -144$

採点ポイント
  • $a, b, c$ の設定と指数の確認(2点)
  • 多項係数の計算(3点)
  • 定数部分(符号含む)の計算(3点)
  • 最終答案(2点)

C 発展レベル

II-1-3-4 C 発展 二項係数 等式の証明 論述

$n$ を正の整数とする。次の等式を証明せよ。

$$\sum_{k=0}^{n} {}_nC_k^2 = {}_{2n}C_n$$

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解答

下記の解説を参照。

解説

方針:$(1+x)^n (1+x)^n = (1+x)^{2n}$ の $x^n$ の係数を2通りで表す。

右辺:$(1+x)^{2n}$ の $x^n$ の係数は ${}_{2n}C_n$。

左辺:$(1+x)^n = \sum_{j=0}^{n} {}_nC_j x^j$ と $(1+x)^n = \sum_{k=0}^{n} {}_nC_k x^k$ の積で $x^n$ の項は、$j + k = n$ を満たすすべての組 $(j, k)$ について ${}_nC_j \cdot {}_nC_k$ の和。

$j = n - k$ より ${}_nC_{n-k} = {}_nC_k$ なので、$\sum_{k=0}^{n} {}_nC_k \cdot {}_nC_k = \sum_{k=0}^{n} ({}_nC_k)^2$。

よって $\sum_{k=0}^{n} ({}_nC_k)^2 = {}_{2n}C_n$。□

採点ポイント
  • $(1+x)^{2n}$ との対応に着眼(3点)
  • $x^n$ の係数を2通りで表す方針(3点)
  • 左辺の $x^n$ の係数の計算が正確(2点)
  • 論述の完成度(2点)