この記事では、複素数平面の主要テーマ ── 極形式、ド・モアブルの定理、$n$ 乗根、回転・拡大、軌跡 ── を横断する総合問題に取り組みます。個々の知識は身に付いていても、それらを組み合わせて使う力は別物です。入試本番で「何をすればいいか」が見える解法判断力を、ここで鍛えましょう。
入試の総合問題では、まず $z$ を極形式 $z = r(\cos\theta + i\sin\theta)$ に変換し、ド・モアブルの定理を使って $z^n$ を計算し、その結果を幾何的に解釈する ── という一連の流れが要求されます。
$z = r e^{i\theta}$ のとき $z^n = r^n e^{in\theta}$ です。これは原点からの距離が $r^n$ になり、偏角が $n\theta$ になることを意味します。
$z$ を $n$ 乗するという操作は、複素数平面上では「原点からの距離を $|z|^n$ に、偏角を $n$ 倍にする」ことです。
$|z| = 1$ なら距離は変わらず角度だけが $n$ 倍 → 単位円上の回転。$|z| > 1$ なら螺旋的に外へ、$|z| < 1$ なら螺旋的に原点へ近づきます。
$z^n = w$ の解($w$ の $n$ 乗根)を求めるには、$w = Re^{i\phi}$ とおいて $z = R^{1/n}e^{i(\phi + 2k\pi)/n}$($k = 0, 1, \ldots, n-1$)とします。解は $n$ 個あり、原点を中心とする半径 $R^{1/n}$ の円上に等間隔で並びます。
$w = Re^{i\phi}$ のとき、$z^n = w$ の $n$ 個の解は:
$$z_k = R^{1/n}\exp\left(i\frac{\phi + 2k\pi}{n}\right) \quad (k = 0, 1, \ldots, n-1)$$
これらは原点を中心とする半径 $R^{1/n}$ の円に内接する正 $n$ 角形の頂点をなします。
✗ 誤:$z^3 = 8i$ の解を $z = 2e^{i\pi/6}$ の1つだけ求めて終わる
○ 正:$z_k = 2e^{i(\pi/6 + 2k\pi/3)}$($k = 0, 1, 2$)の3つが解
$n$ 乗根は常に $n$ 個あります(重解を含む)。$k = 0, 1, \ldots, n-1$ の全てを書き出しましょう。
✗ 誤:$8i$ の偏角を $\dfrac{3\pi}{2}$ とする
○ 正:$8i$ は虚軸の正の方向なので偏角は $\dfrac{\pi}{2}$(主値を $[0, 2\pi)$ で取る場合は $\dfrac{\pi}{2}$、$(-\pi, \pi]$ で取る場合も $\dfrac{\pi}{2}$)
$i$ は「上向き」なので $90° = \dfrac{\pi}{2}$ です。$-i$ が $\dfrac{3\pi}{2}$(または $-\dfrac{\pi}{2}$)です。
$z^n = 1$ の根($1$ の $n$ 乗根)が正 $n$ 角形の頂点をなすことは既に学びました。総合問題では、この正多角形の幾何的性質を問われることが多くあります。
$\omega = e^{2\pi i/n}$ とすると、$1$ の $n$ 乗根は $1, \omega, \omega^2, \ldots, \omega^{n-1}$ です。頂点 $1$ と頂点 $\omega^k$ の距離は:
$$|1 - \omega^k| = 2\left|\sin\frac{k\pi}{n}\right|$$
この公式は、正 $n$ 角形の全ての対角線の長さを与えます。$k = 1$ で隣接する辺の長さ $2\sin\dfrac{\pi}{n}$、$k = \lfloor n/2 \rfloor$ で最長の対角線が得られます。
証明は $|1 - e^{i\phi}|^2 = (1 - \cos\phi)^2 + \sin^2\phi = 2(1 - \cos\phi) = 4\sin^2\dfrac{\phi}{2}$ から直ちに導けます。
頂点 $1$ から他の全ての頂点への距離の積 $\prod_{k=1}^{n-1}|1 - \omega^k|$ は、融合問題の記事(C-3-13)で示した通り $n$ に等しくなります。これは $z^{n-1} + z^{n-2} + \cdots + 1$ に $z = 1$ を代入した結果です。
$\cos n\theta$ を $\cos\theta$ の多項式で表したもの $T_n(\cos\theta) = \cos n\theta$ をチェビシェフ多項式と呼びます。正 $n$ 角形の対角線の性質は、チェビシェフ多項式の根の分布と深く関わっており、数値解析での近似理論の基礎となっています。
✗ 誤:$z^n = 8$ の解が原点中心の正 $n$ 角形の頂点で、最初の頂点が $z = 1$ と思う
○ 正:$z^n = 8$ の解は半径 $8^{1/n}$ の円上の正 $n$ 角形の頂点。最初の頂点は $z_0 = 8^{1/n}$(実軸上)
$z^n = w$ の解と $z^n = 1$ の解の関係は $z_k = w^{1/n}\omega^k$ です。「$1$ の $n$ 乗根」を $w^{1/n}$ 倍したものが「$w$ の $n$ 乗根」です。
複素数平面上で「三角形 $ABC$ が正三角形である条件」「$\angle BAC = \theta$ である条件」などは、複素数の比で美しく表現できます。
3点 $z_1, z_2, z_3$ が正三角形の頂点をなす条件は:
$$z_1^2 + z_2^2 + z_3^2 = z_1 z_2 + z_2 z_3 + z_3 z_1$$
あるいは同値な条件として:
$$\frac{z_3 - z_1}{z_2 - z_1} = e^{\pm i\pi/3}$$
※ 後者は「$z_1$ を中心に $z_2$ を $\pm 60°$ 回転すると $z_3$ になる」ことを意味します。
$\dfrac{z_3 - z_1}{z_2 - z_1}$ の偏角は $\angle z_2 z_1 z_3$ であり、絶対値は $\dfrac{|z_3 - z_1|}{|z_2 - z_1|}$ です。したがって:
正三角形 ⇔ 偏角 $= \pm 60°$ かつ 絶対値 $= 1$
直角二等辺三角形($z_1$ が直角)⇔ 偏角 $= \pm 90°$ かつ 絶対値 $= 1$
三角形の形状判定は、この比の偏角と絶対値を調べることに帰着します。
$|z_3 - z_1| = |z_2 - z_1|$($z_1$ を頂点とする二等辺三角形)は $\left|\dfrac{z_3 - z_1}{z_2 - z_1}\right| = 1$ と同値です。また $\angle z_2 z_1 z_3 = 90°$ は $\dfrac{z_3 - z_1}{z_2 - z_1}$ が純虚数であることと同値です。
✗ 誤:$z_3 = e^{i\pi/3} z_2$ として「$z_2$ を $60°$ 回転すると $z_3$」と書く
○ 正:上の式は原点を中心とした回転。$z_1$ を中心に回転するには $z_3 - z_1 = e^{i\pi/3}(z_2 - z_1)$
回転の中心が原点でない場合は、必ず「中心からのベクトル」で考えましょう。
三角形の重心は $G = \dfrac{z_1 + z_2 + z_3}{3}$、外心は $|z - z_1| = |z - z_2| = |z - z_3|$ を解いて求まります。大学数学ではこれらをベクトルや線形代数で統一的に扱いますが、複素数表示はその出発点となる具体例です。
軌跡の問題では、条件式を変形して既知の図形(円・直線・楕円など)に帰着させます。領域の問題では、不等式の条件が複素数平面上のどの部分を表すかを判断します。
この条件は「$\alpha$ までの距離と $\beta$ までの距離の比が $k$」を意味し、アポロニウスの円を表します($k \neq 1$ のとき)。$k = 1$ のときは $\alpha$ と $\beta$ の垂直二等分線です。
$|z - \alpha| = k|z - \beta|$($k > 0, k \neq 1$)の軌跡は円。
中心:$\dfrac{\alpha - k^2\beta}{1 - k^2}$、半径:$\dfrac{k|\alpha - \beta|}{|1 - k^2|}$
※ $k = 1$ のとき:$\alpha$ と $\beta$ の垂直二等分線。$k \to \infty$ で点 $\beta$ に収束。
2点 $\alpha, \beta$ からの距離の和が一定 $c$($> |\alpha - \beta|$)であるとき、軌跡は $\alpha, \beta$ を焦点とする楕円です。これは2次曲線の知識との融合ポイントです。
✗ 誤:$|z - \alpha|^2 + |z - \beta|^2 = c$ を楕円の条件だと思う
○ 正:$|z - \alpha|^2 + |z - \beta|^2 = c$ は円の方程式($z = x + yi$ として展開すれば確認できる)。楕円は $|z - \alpha| + |z - \beta| = c$(2乗なし)
軌跡を求める問題は、次の3ステップで攻略できます:
Step 1: 条件式を $|z - c_1| = \ldots$ や $\arg(\ldots) = \ldots$ の形に整理する
Step 2: 既知の図形パターン(円、直線、楕円、アポロニウスの円、円弧)に当てはめる
Step 3: パターンに当てはまらなければ $z = x + yi$ を代入して座標に帰着させる
複素関数 $w = f(z)$ が角度を保存する写像(共形写像)であるとき、$z$ 平面上の直交する曲線は $w$ 平面でも直交します。この性質は流体力学、電磁気学、地図の投影法など幅広い分野で応用され、複素関数論の中心的なテーマです。
極形式、$n$ 乗根、回転、軌跡を横断する入試レベルの総合問題です。
$z^5 = -32$ の全ての解を極形式で表し、これらの点が正五角形の頂点をなすことを示せ。
$-32 = 32 e^{i\pi}$ なので $z^5 = 32 e^{i\pi}$。
$$z_k = 32^{1/5} e^{i(\pi + 2k\pi)/5} = 2 e^{i(2k+1)\pi/5} \quad (k = 0, 1, 2, 3, 4)$$
$z_0 = 2e^{i\pi/5}$, $z_1 = 2e^{i3\pi/5}$, $z_2 = 2e^{i\pi} = -2$, $z_3 = 2e^{i7\pi/5}$, $z_4 = 2e^{i9\pi/5}$
全ての解は $|z_k| = 2$ で原点中心の半径 $2$ の円上にあり、隣接する解の偏角の差は $\dfrac{2\pi}{5}$ で一定。よって正五角形の頂点をなす。
複素数平面上の3点 $A(z_1)$, $B(z_2)$, $C(z_3)$ が正三角形をなすとする。$z_1 = 1$, $z_2 = 3$ のとき、$z_3$ を全て求めよ。
$A$ を中心に $B$ を $\pm 60°$ 回転すると $C$ が得られる。
$z_3 - z_1 = e^{\pm i\pi/3}(z_2 - z_1)$ より
$z_3 = 1 + e^{i\pi/3} \cdot 2 = 1 + 2\left(\dfrac{1}{2} + \dfrac{\sqrt{3}}{2}i\right) = 2 + \sqrt{3}i$
$z_3 = 1 + e^{-i\pi/3} \cdot 2 = 1 + 2\left(\dfrac{1}{2} - \dfrac{\sqrt{3}}{2}i\right) = 2 - \sqrt{3}i$
よって $z_3 = 2 + \sqrt{3}i$ または $z_3 = 2 - \sqrt{3}i$。
$|z - 2| = 2|z + 1|$ を満たす点 $z$ の軌跡を求め、その中心と半径を求めよ。
$z = x + yi$ とおき、$|z - 2|^2 = 4|z + 1|^2$ を計算する。
$(x-2)^2 + y^2 = 4\{(x+1)^2 + y^2\}$
$x^2 - 4x + 4 + y^2 = 4x^2 + 8x + 4 + 4y^2$
$3x^2 + 12x + 3y^2 = 0$, $x^2 + 4x + y^2 = 0$
$(x+2)^2 + y^2 = 4$
中心 $-2$($= -2 + 0i$)、半径 $2$ の円。
$|z - \alpha| = k|z - \beta|$($k = 2$, $\alpha = 2$, $\beta = -1$)のアポロニウスの円です。公式から中心 $= \dfrac{2 - 4(-1)}{1-4} = \dfrac{6}{-3} = -2$、半径 $= \dfrac{2 \cdot 3}{|1-4|} = 2$ と求めることもできます。
正六角形 $P_0 P_1 P_2 P_3 P_4 P_5$ が原点中心の単位円に内接しているとする($P_k = e^{ik\pi/3}$, $k = 0, 1, \ldots, 5$)。頂点 $P_0$ から他の全頂点までの距離の積 $\prod_{k=1}^{5}|P_0 - P_k|$ を求めよ。
$P_k = \omega^k$($\omega = e^{i\pi/3}$)とする。$P_0 = 1$ なので:
$$\prod_{k=1}^{5}|1 - \omega^k| = \left|\prod_{k=1}^{5}(1 - \omega^k)\right|$$
$z^6 - 1 = (z - 1)(z - \omega)(z - \omega^2)\cdots(z - \omega^5)$ より
$\dfrac{z^6 - 1}{z - 1} = z^5 + z^4 + z^3 + z^2 + z + 1 = \prod_{k=1}^{5}(z - \omega^k)$
$z = 1$ を代入すると $\prod_{k=1}^{5}(1 - \omega^k) = 1 + 1 + 1 + 1 + 1 + 1 = 6$
$$\therefore \prod_{k=1}^{5}|P_0 - P_k| = |6| = 6$$
$\prod_{k=1}^{n-1}|1 - \omega^k| = n$ という一般公式($\omega = e^{2\pi i/n}$)の $n = 6$ の場合です。ただし本問では $\omega = e^{i\pi/3} = e^{2\pi i/6}$ なので同じ結果が得られます。因数分解を使ったエレガントな計算法を確認しておきましょう。
Q1. $z^4 = -16$ の解は何個あるか?
Q2. 正三角形の条件 $\dfrac{z_3 - z_1}{z_2 - z_1} = e^{i\pi/3}$ は、幾何的にどんな操作を表すか?
Q3. $|z - 3| = |z + 1|$ を満たす $z$ の軌跡は?
Q4. 単位円に内接する正 $n$ 角形の1つの頂点から他の全頂点への距離の積は?
Q5. $|z - 1| = 3|z - i|$ の軌跡は円か直線か?