第8章 数列

数学的帰納法(不等式の証明)
─ 帰納法で不等式を攻略

数学的帰納法は等式の証明だけでなく、不等式の証明にも強力な威力を発揮します。不等式の帰納法では $n = k+1$ のステップにおいて、帰納法の仮定をどのように活用するかが最大のポイントです。差を取る方法や比を取る方法など、不等式特有のテクニックを身につけましょう。

1不等式の帰納法の基本構造

不等式の数学的帰納法も、等式の場合と同じ2ステップで進めます。ただし、帰納的ステップ($k \to k+1$)での議論に工夫が必要です。

📐 不等式の帰納法の手順

命題:すべての自然数 $n$ に対して $P(n)$(不等式)が成り立つ。

[Step 1] 基底段階:$n = 1$ のとき $P(1)$ が成り立つことを確認する。

[Step 2] 帰納的段階:$n = k$ のとき $P(k)$ が成り立つと仮定し、$n = k+1$ のとき $P(k+1)$ が成り立つことを示す。

※ 不等式の場合、Step 2 では「仮定の不等式をどこで使うか」を見極めることが鍵です。

📌 等式との違い

等式の証明では左辺を変形して右辺と一致させますが、不等式では「大きさの評価」が必要です。

具体的には、$P(k+1)$ を示す際に帰納法の仮定 $P(k)$ を使って式の一部を評価(上から抑える、または下から抑える)します。

⚠️ よくある失敗パターン

✗ 帰納法の仮定を使わずに $P(k+1)$ を直接示そうとする

✓ $P(k+1)$ の式の中に $P(k)$ の形を見つけ出し、仮定を代入する

仮定を使わない証明は帰納法ではありません。必ず $P(k)$ を活用してください。

2$2^n$ 型の不等式

指数関数と多項式の大小比較は、帰納法の典型的な応用です。

📝 例題:$2^n > n$ の証明

命題:すべての自然数 $n$ に対して $2^n > n$ を示せ。

[Step 1] $n = 1$:$2^1 = 2 > 1$。成り立つ。

[Step 2] $n = k$ で $2^k > k$ と仮定する。$n = k+1$ のとき:

$$2^{k+1} = 2 \cdot 2^k > 2k = k + k \geq k + 1$$

最後の不等式は $k \geq 1$ より成り立つ。よって $2^{k+1} > k + 1$。

[Step 1], [Step 2] より、すべての自然数 $n$ に対して $2^n > n$ が成り立つ。 $\square$

📝 例題:$2^n > n^2$($n \geq 5$)の証明

命題:$n \geq 5$ のすべての自然数 $n$ に対して $2^n > n^2$ を示せ。

[Step 1] $n = 5$:$2^5 = 32 > 25 = 5^2$。成り立つ。

[Step 2] $n = k$($k \geq 5$)で $2^k > k^2$ と仮定する。$n = k+1$ のとき:

$$2^{k+1} = 2 \cdot 2^k > 2k^2$$

あとは $2k^2 \geq (k+1)^2$ を示せばよい。

$2k^2 - (k+1)^2 = 2k^2 - k^2 - 2k - 1 = k^2 - 2k - 1 = (k-1)^2 - 2$

$k \geq 5$ のとき $(k-1)^2 - 2 \geq 16 - 2 = 14 > 0$。

よって $2^{k+1} > 2k^2 \geq (k+1)^2$ が成り立つ。 $\square$

💡 $n$ の開始値に注意

$2^n > n^2$ は $n = 1$ では成り立ちません($2 > 1$ で成立)が、$n = 2, 3, 4$ では不成立です。

帰納法の基底段階は「命題が成り立ち始める $n$ の値」から開始します。問題文の条件をよく読みましょう。

3帰納法の仮定の活用法

不等式の帰納法では、仮定をどのように活用するかに複数のパターンがあります。

パターン1:差を評価する

$P(k+1)$ の左辺と右辺の差を計算し、仮定を使って正(または負)であることを示します。

📝 例題:$1 + \frac{1}{2} + \cdots + \frac{1}{n} \leq 2\sqrt{n}$

[Step 1] $n = 1$:$1 \leq 2\sqrt{1} = 2$。成り立つ。

[Step 2] $n = k$ で成り立つと仮定。$n = k+1$ のとき:

$$\sum_{i=1}^{k+1} \frac{1}{i} = \sum_{i=1}^{k} \frac{1}{i} + \frac{1}{k+1} \leq 2\sqrt{k} + \frac{1}{k+1}$$

$2\sqrt{k} + \frac{1}{k+1} \leq 2\sqrt{k+1}$ を示す。両辺正なので2乗して比較:

$(2\sqrt{k+1})^2 - \left(2\sqrt{k} + \frac{1}{k+1}\right)^2$

$= 4(k+1) - 4k - \frac{4\sqrt{k}}{k+1} - \frac{1}{(k+1)^2} = 4 - \frac{4\sqrt{k}}{k+1} - \frac{1}{(k+1)^2}$

$\geq 4 - \frac{4(k+1)}{k+1} - \frac{1}{(k+1)^2} = -\frac{1}{(k+1)^2} \cdot \ldots$

(別解として直接 $2\sqrt{k+1} - 2\sqrt{k} = \frac{2}{\sqrt{k+1}+\sqrt{k}} \geq \frac{2}{2\sqrt{k+1}} = \frac{1}{\sqrt{k+1}} \geq \frac{1}{k+1}$ を使う方が簡明。)

有理化により $2\sqrt{k+1} - 2\sqrt{k} = \frac{2}{\sqrt{k+1}+\sqrt{k}} \geq \frac{1}{k+1}$($\sqrt{k+1}+\sqrt{k} \leq 2(k+1)$ より)。

よって $2\sqrt{k} + \frac{1}{k+1} \leq 2\sqrt{k+1}$ が成り立つ。 $\square$

パターン2:比を評価する

両辺の比を取り、$1$ 以上(または以下)であることを示す方法です。

📐 不等式の帰納法における代表的テクニック

差の評価:(示したい式の左辺)$-$(右辺)$\geq 0$ を帰納法の仮定で導く

比の評価:$\frac{\text{左辺}}{\text{右辺}} \geq 1$ を帰納法の仮定で導く

中間評価:左辺 $\geq$(中間の式)$\geq$ 右辺、の形に挟む

⚠️ 不等号の向きに注意

✗ 仮定で $a_k \geq b_k$ を使い、$a_{k+1} \leq \ldots$ のように逆向きの評価をする

✓ 仮定の不等号の向きと、示したい不等号の向きを一貫させる

不等式の連鎖では、途中で不等号の向きが変わっていないか常に確認しましょう。

4相加相乗平均との組み合わせ

帰納法のステップで相加相乗平均の不等式を補助的に使う問題は、入試頻出です。

📝 例題:$(1+a)^n \geq 1 + na$(ベルヌーイの不等式)

命題:$a > -1$ のとき、すべての自然数 $n$ に対して $(1+a)^n \geq 1 + na$ を示せ。

[Step 1] $n = 1$:$(1+a)^1 = 1+a = 1 + 1 \cdot a$。等号成立。

[Step 2] $n = k$ で $(1+a)^k \geq 1+ka$ と仮定する。

$$\begin{aligned}(1+a)^{k+1} &= (1+a)^k \cdot (1+a) \\ &\geq (1+ka)(1+a) \quad (\because \text{仮定。} 1+a > 0 \text{ なので不等号の向き不変})\\ &= 1 + ka + a + ka^2 \\ &= 1 + (k+1)a + ka^2 \\ &\geq 1 + (k+1)a \quad (\because ka^2 \geq 0)\end{aligned}$$

よって $(1+a)^{k+1} \geq 1 + (k+1)a$ が成り立つ。 $\square$

📌 仮定に $1+a > 0$ を使う理由

$(1+a)^k \geq 1+ka$ の両辺に $(1+a)$ を掛ける際、$1+a > 0$ でなければ不等号の向きが逆転します。

$a > -1$ という条件は $1+a > 0$ を保証するために必要です。条件の意味を理解せずに機械的に証明すると、この重要なポイントを見落とします。

💡 ベルヌーイの不等式の応用

ベルヌーイの不等式は他の不等式の証明でも補助定理として使えます。例えば $a = \frac{1}{n}$ を代入すると:

$(1 + \frac{1}{n})^n \geq 1 + n \cdot \frac{1}{n} = 2$

これは自然対数の底 $e$ の下界の一つを与えています。

5漸化式で定義された数列の不等式

漸化式 $a_{n+1} = f(a_n)$ で定義された数列について、$a_n$ の上界・下界を帰納法で示す問題です。

📝 例題:漸化式と有界性

命題:$a_1 = 1$, $a_{n+1} = \sqrt{2 + a_n}$ で定義される数列について、すべての自然数 $n$ に対して $a_n < 2$ を示せ。

[Step 1] $n = 1$:$a_1 = 1 < 2$。成り立つ。

[Step 2] $n = k$ で $a_k < 2$ と仮定する。

$$a_{k+1} = \sqrt{2 + a_k} < \sqrt{2 + 2} = \sqrt{4} = 2$$

よって $a_{k+1} < 2$ が成り立つ。 $\square$

この例のように、漸化式の構造をうまく使うと帰納的ステップが驚くほど簡潔になることがあります。

📝 例題:単調増加性の証明

命題:上と同じ数列について $a_n < a_{n+1}$ を示せ。

[Step 1] $n = 1$:$a_1 = 1$, $a_2 = \sqrt{3} \approx 1.73$。$a_1 < a_2$。成り立つ。

[Step 2] $n = k$ で $a_k < a_{k+1}$ と仮定する。

$$a_{k+2} = \sqrt{2+a_{k+1}} > \sqrt{2+a_k} = a_{k+1}$$

($a_{k+1} > a_k$ より $2+a_{k+1} > 2+a_k$、$\sqrt{\phantom{x}}$ は単調増加)

よって $a_{k+1} < a_{k+2}$ が成り立つ。 $\square$

📌 有界性 + 単調性 = 収束

上の2つの結果を合わせると、$\{a_n\}$ は単調増加かつ上に有界($a_n < 2$)なので収束します。

極限値を $\alpha$ とおくと $\alpha = \sqrt{2+\alpha}$ より $\alpha^2 = 2+\alpha$、$\alpha^2 - \alpha - 2 = 0$、$(\alpha-2)(\alpha+1) = 0$。$\alpha > 0$ より $\alpha = 2$。

まとめ

  • 不等式の帰納法 ─ 基底段階と帰納的段階の2ステップは等式と同じ。帰納的段階で「不等式の評価」が加わる
  • 仮定の活用 ─ $P(k+1)$ の式に $P(k)$ の形を見つけ出し、仮定を代入して評価する
  • 差・比の評価 ─ 差を取って正を示す方法、比を取って $1$ 以上を示す方法がある
  • ベルヌーイの不等式 ─ $(1+a)^n \geq 1+na$($a > -1$)。帰納法の典型例であり補助定理としても有用
  • 漸化式と有界性 ─ 帰納法で上界・下界・単調性を示し、極限の存在を保証する

確認テスト

Q1. $n \geq 1$ のとき $3^n > 2n$ を帰納法の基底段階で確認せよ。

▶ クリックして解答を表示 $n = 1$:$3^1 = 3 > 2 \cdot 1 = 2$。成り立つ。

Q2. $(1+a)^n \geq 1+na$ の証明で、$1+a > 0$ という条件はなぜ必要か。

▶ クリックして解答を表示 帰納法の仮定 $(1+a)^k \geq 1+ka$ の両辺に $1+a$ を掛ける際、$1+a > 0$ でないと不等号の向きが逆転するため。

Q3. 不等式の帰納法で「仮定をどこで使ったか」を明記すべき理由は何か。

▶ クリックして解答を表示 帰納法の証明では仮定の使用が本質であり、使わないなら帰納法になっていない。採点でも仮定の使用箇所の明示が求められる。

Q4. $a_1 = 1$, $a_{n+1} = \sqrt{2+a_n}$ のとき、$a_3$ の値を求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $a_2 = \sqrt{2+1} = \sqrt{3}$, $a_3 = \sqrt{2+\sqrt{3}}$

Q5. $2^n > n^2$ が成り立つ最小の自然数 $n$ を求めよ。

▶ クリックして解答を表示 $n=1$: $2>1$ ✓, $n=2$: $4=4$ ✗, $n=3$: $8<9$ ✗, $n=4$: $16=16$ ✗, $n=5$: $32>25$ ✓。$n=2,3,4$ は不成立なので、$n \geq 5$ で常に成り立つ。最小は $n=1$(ただし連続して成り立つのは $n \geq 5$)。

入試問題演習

問題 1 A 基礎 指数と多項式

すべての自然数 $n$ に対して $3^n \geq 2n + 1$ が成り立つことを数学的帰納法で証明せよ。

解答

[Step 1] $n = 1$:$3^1 = 3 \geq 2 \cdot 1 + 1 = 3$。等号で成り立つ。

[Step 2] $n = k$ で $3^k \geq 2k + 1$ と仮定する。

$3^{k+1} = 3 \cdot 3^k \geq 3(2k+1) = 6k + 3$

$6k + 3 \geq 2(k+1) + 1 = 2k + 3 \iff 4k \geq 0$($k \geq 1$ で明らか)

よって $3^{k+1} \geq 2(k+1) + 1$ が成り立つ。

[Step 1], [Step 2] より、すべての自然数 $n$ に対して $3^n \geq 2n+1$。 $\square$

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問題 2 B 標準 ベルヌーイ型

$a > 0$ とする。すべての自然数 $n$ に対して $(1+a)^n \geq 1 + na + \frac{n(n-1)}{2}a^2$ が成り立つことを数学的帰納法で証明せよ。

解答

[Step 1] $n = 1$:左辺 $= 1+a$、右辺 $= 1+a+0 = 1+a$。等号成立。

[Step 2] $n = k$ で成り立つと仮定。$1+a > 0$ より:

$(1+a)^{k+1} = (1+a)^k(1+a) \geq \left(1+ka+\frac{k(k-1)}{2}a^2\right)(1+a)$

右辺を展開:$= 1 + ka + \frac{k(k-1)}{2}a^2 + a + ka^2 + \frac{k(k-1)}{2}a^3$

$= 1 + (k+1)a + \frac{k(k-1)+2k}{2}a^2 + \frac{k(k-1)}{2}a^3$

$= 1 + (k+1)a + \frac{k(k+1)}{2}a^2 + \frac{k(k-1)}{2}a^3$

$\geq 1 + (k+1)a + \frac{(k+1)k}{2}a^2$($\because \frac{k(k-1)}{2}a^3 \geq 0$)

よって $n = k+1$ で成り立つ。 $\square$

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問題 3 B 標準 漸化式と不等式

$a_1 = 3$, $a_{n+1} = \frac{a_n + 5}{2}$ で定義される数列について、すべての自然数 $n$ に対して $a_n < 5$ を数学的帰納法で証明せよ。

解答

[Step 1] $n = 1$:$a_1 = 3 < 5$。成り立つ。

[Step 2] $n = k$ で $a_k < 5$ と仮定する。

$a_{k+1} = \frac{a_k + 5}{2} < \frac{5 + 5}{2} = 5$

よって $a_{k+1} < 5$ が成り立つ。

[Step 1], [Step 2] より、すべての自然数 $n$ に対して $a_n < 5$。 $\square$

解説

この漸化式は特性方程式 $x = \frac{x+5}{2}$ より $x = 5$ に収束する。$a_n < 5$ かつ単調増加であることを帰納法で示すことで、数列の振る舞いが完全にわかる。

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問題 4 C 発展 調和級数の評価

すべての自然数 $n$ に対して次の不等式を数学的帰納法で証明せよ。

$$\frac{1}{1^2} + \frac{1}{2^2} + \frac{1}{3^2} + \cdots + \frac{1}{n^2} \leq 2 - \frac{1}{n}$$

解答

[Step 1] $n = 1$:左辺 $= 1$、右辺 $= 2 - 1 = 1$。等号で成り立つ。

[Step 2] $n = k$ で $\sum_{i=1}^{k}\frac{1}{i^2} \leq 2 - \frac{1}{k}$ と仮定する。

$$\sum_{i=1}^{k+1}\frac{1}{i^2} = \sum_{i=1}^{k}\frac{1}{i^2} + \frac{1}{(k+1)^2} \leq 2 - \frac{1}{k} + \frac{1}{(k+1)^2}$$

$2 - \frac{1}{k} + \frac{1}{(k+1)^2} \leq 2 - \frac{1}{k+1}$ を示す。

$$\frac{1}{(k+1)^2} \leq \frac{1}{k} - \frac{1}{k+1} = \frac{1}{k(k+1)}$$

$$\iff k(k+1) \leq (k+1)^2 \iff k \leq k+1$$

これは明らかに成り立つ。よって $n = k+1$ でも成り立つ。 $\square$

解説

鍵は $\frac{1}{(k+1)^2} \leq \frac{1}{k(k+1)}$ という評価です。$\frac{1}{k(k+1)} = \frac{1}{k} - \frac{1}{k+1}$ と部分分数分解できることを利用しています。この不等式は $\sum \frac{1}{n^2}$ の収束(バーゼル問題)の初等的証明にも繋がります。

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