第4章 図形と計量

三角比の拡張(0°〜180°)
─ 座標で定義を「書き換える」

直角三角形の辺の比として定義した三角比を、鈍角にも使えるように拡張します。
「なぜ拡張が必要なのか」「どうやって拡張するのか」を原理から理解すれば、公式の丸暗記は不要です。

1なぜ拡張が必要か ─ 鈍角三角形の問題

4-1で学んだ三角比の定義を思い出しましょう。 直角三角形の鋭角 $\theta$ に対して、$\sin\theta$, $\cos\theta$, $\tan\theta$ を 「斜辺」「対辺」「隣辺」の比として定義しました。

しかし、この定義には制限があります。 $\theta$ は鋭角($0^\circ < \theta < 90^\circ$)でなければならないのです。 直角三角形の内角は「$90^\circ$ が1つ、鋭角が2つ」なので、 $\theta$ が $90^\circ$ 以上の角を扱うことができません。

ところが、現実には鈍角が必要な場面がたくさんあります。 たとえば、三角形 $\mathrm{ABC}$ の角 $\mathrm{B}$ が $120^\circ$ の三角形を考えてみてください。 正弦定理 $\dfrac{a}{\sin A} = \dfrac{b}{\sin B}$ を使いたいのに、 $\sin 120^\circ$ の値がわからなければ、この公式は使えません。

💡 ここが本質:拡張の動機は「鈍角三角形でも公式を使いたい」

正弦定理や余弦定理は、すべての三角形で成り立つ公式です。 鋭角三角形だけでなく、鈍角三角形でも使えなければ意味がありません。

しかし、三角比が鋭角にしか定義されていないと、鈍角を含む三角形に公式を適用できません。 だから、$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の範囲に三角比の定義を広げる必要があるのです。

拡張は「便利だからする」のではなく、「公式を一般的に使うために必要だからする」のです。

では、どうやって鈍角に三角比を定義すればよいでしょうか。 直角三角形の辺の比という元の定義は、$\theta \geq 90^\circ$ では意味を持ちません。 そこで、定義そのものを「書き換える」必要があります。

ここで大切なのは、書き換えた新しい定義が、鋭角の場合には元の定義と同じ値を与えることです。 鋭角では従来通り、鈍角では新しく値が決まる ── そのような定義が必要です。

⚠️ 落とし穴:「鈍角に三角比はない」と思い込む

✕ 誤:$\sin 120^\circ$ は定義できない。直角三角形の鋭角は $90^\circ$ 未満だから。

○ 正:直角三角形の定義では確かに鈍角を扱えませんが、 座標を用いた新しい定義により $\sin 120^\circ$ の値は確定します。

「拡張」とは、定義を捨てることではなく、 より広い範囲で使える新しい定義に「乗り換える」ことです。 鋭角での値は変わりません。

🔬 深掘り:数学における「拡張」という考え方

数学の歴史は「拡張」の歴史でもあります。 自然数($1, 2, 3, \ldots$)だけでは引き算が自由にできないので整数に拡張し、 整数だけでは割り算が自由にできないので有理数に拡張し、 さらに $\sqrt{2}$ のような数を含めるために実数に拡張しました。

三角比の拡張もまったく同じ発想です。 鋭角だけでは不十分なので、$0^\circ$ から $180^\circ$ に拡張する。 さらに数学IIでは、$0^\circ$ から $360^\circ$(そして任意の角度)に拡張します。 拡張のたびに「元の範囲での値は変わらない」ことが大原則です。

2座標を用いた定義 ─ 単位円上の点

拡張のカギは座標平面です。 鋭角のときの三角比を、座標を使って表現し直してみましょう。

鋭角の三角比を座標で読み直す

座標平面上で、原点 $\mathrm{O}$ を中心とする半径 $r$ の半円を考えます。 半円上の点 $\mathrm{P}(x, y)$(ただし $y \geq 0$)に対して、 $x$ 軸の正の方向と $\mathrm{OP}$ のなす角を $\theta$ とします。

このとき、$\theta$ が鋭角($0^\circ < \theta < 90^\circ$)なら、 点 $\mathrm{P}$ は第1象限にあり、$x > 0$, $y > 0$ です。 直角三角形の辺の比として定義した三角比は、座標を使うと次のように書けます。

$$\sin\theta = \frac{y}{r}, \quad \cos\theta = \frac{x}{r}, \quad \tan\theta = \frac{y}{x}$$

ここで $r = \mathrm{OP} = \sqrt{x^2 + y^2}$ です。 斜辺が $r$、対辺($y$ 方向)が $y$、隣辺($x$ 方向)が $x$ に対応しています。

💡 ここが本質:座標の定義は「辺の比」の翻訳に過ぎない

鋭角のとき、$\sin\theta = \dfrac{y}{r}$, $\cos\theta = \dfrac{x}{r}$, $\tan\theta = \dfrac{y}{x}$ は、 直角三角形の定義と完全に同じ値を与えます。座標に翻訳しただけです。

しかし、この座標を使った式には「直角三角形」という制約がありません。 $\theta$ が鈍角でも、点 $\mathrm{P}(x, y)$ と原点からの距離 $r$ は定義できます。 だから、この式をそのまま $0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の範囲に適用すればよいのです。

拡張された定義

📐 三角比の座標を用いた定義($0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$)

座標平面上で、原点 $\mathrm{O}$ を中心とする半径 $r$ の半円上の点 $\mathrm{P}(x, y)$($y \geq 0$)について、 $x$ 軸の正の方向と $\mathrm{OP}$ のなす角を $\theta$ とするとき:

$$\sin\theta = \frac{y}{r}, \quad \cos\theta = \frac{x}{r}, \quad \tan\theta = \frac{y}{x} \quad (x \neq 0)$$
※ $r = \sqrt{x^2 + y^2}$。$r$ は常に正なので、三角比の値は $\theta$ のみで決まる($r$ に依存しない)。
※ $\theta = 90^\circ$ のとき $x = 0$ なので $\tan 90^\circ$ は定義されない。

単位円を使うと便利

定義式で $r$ は約分されるので、三角比の値は $r$ の大きさに関係なく $\theta$ だけで決まります。 ならば、最も計算しやすい $r = 1$(単位円:半径1の円)を使いましょう。

$r = 1$ のとき、$\sin\theta = y$, $\cos\theta = x$ となります。 つまり、単位円上の点 $\mathrm{P}$ の座標そのものが $(\cos\theta, \sin\theta)$ なのです。 これが単位円を使う最大のメリットです。

⚠️ 落とし穴:$r$ の値で三角比が変わると勘違いする

✕ 誤:半径 $r = 2$ の円上の点 $(-1, \sqrt{3})$ と半径 $r = 4$ の円上の点 $(-2, 2\sqrt{3})$ では $\sin\theta$ が異なる。

○ 正:$r = 2$ のとき $\sin\theta = \dfrac{\sqrt{3}}{2}$、$r = 4$ のとき $\sin\theta = \dfrac{2\sqrt{3}}{4} = \dfrac{\sqrt{3}}{2}$。同じ値です。

$\sin\theta = \dfrac{y}{r}$ は比なので、$r$ を何倍しても $x, y$ も同じ倍率で変わり、値は不変。 だから $r = 1$ に固定しても一般性を失わないのです。

鈍角のとき何が起こるか

$\theta$ が鈍角($90^\circ < \theta < 180^\circ$)のとき、 点 $\mathrm{P}(x, y)$ は第2象限に位置します。 第2象限では $x < 0$, $y > 0$ なので、三角比の符号は次のようになります。

  • $\sin\theta = \dfrac{y}{r} > 0$($y > 0$, $r > 0$)
  • $\cos\theta = \dfrac{x}{r} < 0$($x < 0$, $r > 0$)
  • $\tan\theta = \dfrac{y}{x} < 0$($y > 0$, $x < 0$)
💡 ここが本質:鈍角では $\cos$ と $\tan$ が負になる

鋭角では $\sin$, $\cos$, $\tan$ のすべてが正でした。 鈍角では点 $\mathrm{P}$ の $x$ 座標が負になるので、$\cos\theta$ と $\tan\theta$ が負になります。

覚え方は簡単です。「鈍角では $\sin$ だけ正、$\cos$ と $\tan$ は負」。 これは第2象限の座標の符号($x < 0$, $y > 0$)から直接わかります。

🔬 深掘り:なぜ「座標」が拡張の道具になるのか

直角三角形の定義は「長さ」(常に正の値)を使っているため、 負の値を持つ三角比を表現できません。 一方、座標は正の値も負の値もとれます。 この「符号付きの量」が拡張を可能にしているのです。

大学数学では、三角関数を複素数の指数関数で定義します(オイラーの公式 $e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$)。 この定義なら任意の実数 $\theta$、さらには複素数 $\theta$ に対しても三角関数を定義でき、 座標による定義のさらなる拡張になっています。

3拡張後の三角比の値 ─ 0°, 90°, 180° を含む

座標を用いた定義を使えば、鈍角だけでなく $0^\circ$, $90^\circ$, $180^\circ$ の三角比も求められます。 単位円($r = 1$)上で、各角度に対応する点の座標を考えましょう。

特別な角度の三角比

$\theta = 0^\circ$ のとき: 点 $\mathrm{P}$ は $(1, 0)$ にあるので、$\sin 0^\circ = 0$, $\cos 0^\circ = 1$, $\tan 0^\circ = 0$。

$\theta = 90^\circ$ のとき: 点 $\mathrm{P}$ は $(0, 1)$ にあるので、$\sin 90^\circ = 1$, $\cos 90^\circ = 0$。 $\tan 90^\circ = \dfrac{1}{0}$ は定義されない。

$\theta = 180^\circ$ のとき: 点 $\mathrm{P}$ は $(-1, 0)$ にあるので、$\sin 180^\circ = 0$, $\cos 180^\circ = -1$, $\tan 180^\circ = 0$。

鈍角の代表値

$120^\circ$, $135^\circ$, $150^\circ$ の三角比は、対応する鋭角($60^\circ$, $45^\circ$, $30^\circ$)の値と深い関係があります。 たとえば $\theta = 120^\circ$ のとき、点 $\mathrm{P}$ は単位円上で $x$ 軸の正の方向から $120^\circ$ の位置にあり、座標は $\left(-\dfrac{1}{2}, \, \dfrac{\sqrt{3}}{2}\right)$ です。

$\theta$$\sin\theta$$\cos\theta$$\tan\theta$
$0^\circ$$0$$1$$0$
$30^\circ$$\dfrac{1}{2}$$\dfrac{\sqrt{3}}{2}$$\dfrac{1}{\sqrt{3}}$
$45^\circ$$\dfrac{\sqrt{2}}{2}$$\dfrac{\sqrt{2}}{2}$$1$
$60^\circ$$\dfrac{\sqrt{3}}{2}$$\dfrac{1}{2}$$\sqrt{3}$
$90^\circ$$1$$0$なし
$120^\circ$$\dfrac{\sqrt{3}}{2}$$-\dfrac{1}{2}$$-\sqrt{3}$
$135^\circ$$\dfrac{\sqrt{2}}{2}$$-\dfrac{\sqrt{2}}{2}$$-1$
$150^\circ$$\dfrac{1}{2}$$-\dfrac{\sqrt{3}}{2}$$-\dfrac{1}{\sqrt{3}}$
$180^\circ$$0$$-1$$0$

$180^\circ - \theta$ の三角比 ── 「補角の関係」

上の表を見ると、たとえば $\sin 120^\circ = \sin 60^\circ$, $\cos 120^\circ = -\cos 60^\circ$ となっています。 これは偶然ではありません。

単位円上で、角 $\theta$ に対応する点 $\mathrm{P}(x, y)$ と、角 $180^\circ - \theta$ に対応する点 $\mathrm{Q}$ は、 $y$ 軸に関して対称です。 したがって $\mathrm{Q}$ の座標は $(-x, y)$ となります。

📐 補角の公式($180^\circ - \theta$ の三角比)
$$\sin(180^\circ - \theta) = \sin\theta$$ $$\cos(180^\circ - \theta) = -\cos\theta$$ $$\tan(180^\circ - \theta) = -\tan\theta$$
※ $y$ 軸対称なので、$y$ 座標($\sin$)は同じ、$x$ 座標($\cos$)は符号反転。
※ この公式を使えば、鈍角の三角比を対応する鋭角から求められる。
▷ 補角の公式の導出

単位円上で、角 $\theta$ に対応する点を $\mathrm{P}(\cos\theta, \sin\theta)$ とします。

角 $180^\circ - \theta$ に対応する点 $\mathrm{Q}$ は、$\mathrm{P}$ と $y$ 軸に関して対称なので、 $\mathrm{Q}(-\cos\theta, \sin\theta)$ です。

一方、$\mathrm{Q}$ の座標は定義から $(\cos(180^\circ - \theta), \, \sin(180^\circ - \theta))$ です。

座標を比較して:

$\cos(180^\circ - \theta) = -\cos\theta$, $\quad \sin(180^\circ - \theta) = \sin\theta$

$\tan(180^\circ - \theta) = \dfrac{\sin(180^\circ - \theta)}{\cos(180^\circ - \theta)} = \dfrac{\sin\theta}{-\cos\theta} = -\tan\theta$ $\quad \square$

⚠️ 落とし穴:$\sin(180^\circ - \theta) = -\sin\theta$ と間違える

✕ 誤:$\sin(180^\circ - 30^\circ) = -\sin 30^\circ = -\dfrac{1}{2}$

○ 正:$\sin(180^\circ - 30^\circ) = \sin 30^\circ = \dfrac{1}{2}$

$\sin$ にはマイナスがつかない。$\cos$ と $\tan$ にマイナスがつく。 覚え方:「$y$ 軸対称だから $y$ 座標($\sin$)は変わらない」。

三角比の値の範囲

$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の範囲で、各三角比がとりうる値の範囲をまとめておきましょう。

  • $0 \leq \sin\theta \leq 1$(半円の上半分なので $y \geq 0$)
  • $-1 \leq \cos\theta \leq 1$($x$ は $-1$ から $1$ まで動く)
  • $\tan\theta$ はすべての実数値をとる($\theta \neq 90^\circ$)
🔬 深掘り:三角比の表から「関数のグラフ」へ

上の三角比の値を $\theta$ の関数としてグラフに描くと、 $y = \sin\theta$ は $0^\circ$ から $180^\circ$ にかけて山型のカーブを描きます。 数学IIでは $\theta$ を $360^\circ$ まで(さらに何周でも)広げて、 おなじみの正弦曲線(サインカーブ)が現れます。

サインカーブは音波、電磁波、交流電流など、あらゆる「周期的な現象」を表す最も基本的な関数です。 ここで学んだ $0^\circ$ 〜 $180^\circ$ の三角比は、その入口にあたります。

4拡張後の相互関係 ─ 基本公式はそのまま成り立つ

4-1で学んだ三角比の相互関係は、鋭角に限った式ではありません。 座標を用いた定義のもとでは、$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$($\theta \neq 90^\circ$)の範囲で そのまま成り立ちます

拡張後も成り立つ3つの相互関係
  • $\tan\theta = \dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$($\theta \neq 90^\circ$)
  • $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$
  • $1 + \tan^2\theta = \dfrac{1}{\cos^2\theta}$($\theta \neq 90^\circ$)
💡 ここが本質:相互関係が成り立つ理由は「三平方の定理」

$\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ の根拠は三平方の定理です。

半径 $r$ の半円上の点 $\mathrm{P}(x, y)$ について、$x^2 + y^2 = r^2$ が成り立ちます。 両辺を $r^2$ で割ると $\left(\dfrac{x}{r}\right)^2 + \left(\dfrac{y}{r}\right)^2 = 1$、 すなわち $\cos^2\theta + \sin^2\theta = 1$。

この導出には「$\theta$ は鋭角」という条件がどこにも使われていません。 $x^2 + y^2 = r^2$ は円上のすべての点で成り立つので、 相互関係も $0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の全範囲で成り立つのです。

拡張後の相互関係を使う:$\sin\theta$ から $\cos\theta$ を求める

鈍角の場合に注意が必要なのは、$\cos\theta$ の符号です。 $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ から $\cos\theta$ を求めるとき、 $\cos^2\theta = 1 - \sin^2\theta$ の平方根をとる必要があります。

鋭角なら $\cos\theta > 0$ なので正の平方根を選びますが、 鈍角なら $\cos\theta < 0$ なので負の平方根を選ばなければなりません。

具体例で確認しましょう。$\theta$ が $0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の範囲で $\sin\theta = \dfrac{3}{5}$ のとき、 $\cos\theta$ を求めます。

$\cos^2\theta = 1 - \sin^2\theta = 1 - \dfrac{9}{25} = \dfrac{16}{25}$ よって $\cos\theta = \pm\dfrac{4}{5}$

ここで $\theta$ が鋭角なら $\cos\theta = \dfrac{4}{5}$、鈍角なら $\cos\theta = -\dfrac{4}{5}$ です。 $\theta$ の範囲が指定されていない場合、答えは2通りあります。

⚠️ 落とし穴:$\cos\theta$ の符号を確認しない

✕ 誤:$\sin\theta = \dfrac{3}{5}$ のとき $\cos\theta = \dfrac{4}{5}$(正の値だけを答える)

○ 正:$\theta$ の範囲により $\cos\theta = \dfrac{4}{5}$(鋭角)または $\cos\theta = -\dfrac{4}{5}$(鈍角)。 問題文で「$90^\circ < \theta < 180^\circ$」のような条件があれば、$\cos\theta = -\dfrac{4}{5}$ のみが正解。

拡張後は $\cos\theta$ や $\tan\theta$ が負になりうることを常に意識しましょう。 $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ から $\cos\theta$ を求めたら、$\theta$ の範囲に応じて符号を決定する。 これが拡張後の計算で最も重要なステップです。

直線の傾きと $\tan\theta$

座標による定義から、$\tan\theta$ には重要な幾何学的意味があります。 直線 $y = mx$(原点を通る傾き $m$ の直線)が $x$ 軸の正の方向となす角を $\theta$($0^\circ < \theta < 180^\circ$, $\theta \neq 90^\circ$)とすると、

$$m = \tan\theta$$

つまり、直線の傾き = $\tan\theta$ です。 $\theta$ が鈍角のとき $\tan\theta < 0$ となるのは、右下がりの直線の傾きが負であることに対応しています。

5この章を俯瞰する

三角比の拡張は、「直角三角形の辺の比」から「座標を用いた定義」へと視点を切り替えることで実現しました。 ここまでの内容を他の単元とのつながりも含めて整理しましょう。

つながりマップ

  • ← 4-1 三角比の定義と性質:直角三角形の辺の比として三角比を定義し、相互関係を導いた。この記事はその定義を座標に「翻訳」して拡張したもの。
  • ← 4-2 正弦定理と余弦定理:拡張された三角比がなければ、鈍角三角形に正弦定理・余弦定理を適用できない。拡張は正弦定理・余弦定理の前提条件。
  • → 第2章 2次関数:$\sin\theta$ や $\cos\theta$ をおき換えて2次関数の最大・最小に帰着する融合問題が頻出。$\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ による値域の制限がポイント。
  • → 数学II 三角関数:$0^\circ$ 〜 $180^\circ$ の拡張をさらに $0^\circ$ 〜 $360^\circ$(一般角)に広げる。座標による定義はそのまま引き継がれる。
  • → 数学II 微分:「直線の傾き = $\tan\theta$」の関係は、接線の傾きの理解につながる。$\tan\theta$ が負になることの意味が微分で重要になる。

📋まとめ

  • 三角比の拡張は「鈍角三角形でも公式を使うため」に必要。直角三角形の定義では $90^\circ$ 以上の角を扱えない
  • 座標を用いた定義:$\sin\theta = \dfrac{y}{r}$, $\cos\theta = \dfrac{x}{r}$, $\tan\theta = \dfrac{y}{x}$。鋭角での値は元の定義と一致する
  • 単位円($r = 1$)を使うと $\sin\theta = y$, $\cos\theta = x$。点の座標がそのまま三角比の値
  • 鈍角($90^\circ < \theta < 180^\circ$)では$\sin\theta > 0$, $\cos\theta < 0$, $\tan\theta < 0$
  • 補角の公式:$\sin(180^\circ - \theta) = \sin\theta$, $\cos(180^\circ - \theta) = -\cos\theta$, $\tan(180^\circ - \theta) = -\tan\theta$
  • 相互関係($\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ など)は拡張後もそのまま成り立つ。根拠は三平方の定理

確認テスト

Q1. 三角比の拡張が必要な理由を、一言で答えてください。

▶ クリックして解答を表示鈍角を含む三角形にも正弦定理・余弦定理などの公式を適用するため。直角三角形の定義では鈍角の三角比を扱えない。

Q2. $\sin 135^\circ$, $\cos 135^\circ$, $\tan 135^\circ$ の値をそれぞれ求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\sin 135^\circ = \sin(180^\circ - 45^\circ) = \sin 45^\circ = \dfrac{\sqrt{2}}{2}$、$\cos 135^\circ = -\cos 45^\circ = -\dfrac{\sqrt{2}}{2}$、$\tan 135^\circ = -\tan 45^\circ = -1$

Q3. $0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の範囲で、$\sin\theta$ がとりうる値の範囲は?

▶ クリックして解答を表示$0 \leq \sin\theta \leq 1$。半円の上半分($y \geq 0$)で考えるので、$\sin\theta$ は常に0以上。$\theta = 90^\circ$ で最大値1をとる。

Q4. $90^\circ < \theta < 180^\circ$ で $\sin\theta = \dfrac{4}{5}$ のとき、$\cos\theta$ を求めてください。

▶ クリックして解答を表示$\cos^2\theta = 1 - \sin^2\theta = 1 - \dfrac{16}{25} = \dfrac{9}{25}$ より $\cos\theta = \pm\dfrac{3}{5}$。$90^\circ < \theta < 180^\circ$ なので $\cos\theta < 0$。よって $\cos\theta = -\dfrac{3}{5}$。

Q5. $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ が拡張後も成り立つ理由は何ですか?

▶ クリックして解答を表示円上の点 $(x, y)$ は $x^2 + y^2 = r^2$ を満たす(三平方の定理)。両辺を $r^2$ で割ると $\cos^2\theta + \sin^2\theta = 1$。この関係に $\theta$ が鋭角であるという条件は使われていないので、$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ の全範囲で成り立つ。

8入試問題演習

この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。

A 基礎レベル

4-3-1 A 基礎 三角比の値 補角の公式

次の三角比の値を求めよ。

(1) $\sin 150^\circ$

(2) $\cos 120^\circ$

(3) $\tan 150^\circ$

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) $\dfrac{1}{2}$  (2) $-\dfrac{1}{2}$  (3) $-\dfrac{1}{\sqrt{3}}$

解説

方針:補角の公式を使い、鈍角の三角比を対応する鋭角の値から求める。

(1) $\sin 150^\circ = \sin(180^\circ - 30^\circ) = \sin 30^\circ = \dfrac{1}{2}$

(2) $\cos 120^\circ = \cos(180^\circ - 60^\circ) = -\cos 60^\circ = -\dfrac{1}{2}$

(3) $\tan 150^\circ = \tan(180^\circ - 30^\circ) = -\tan 30^\circ = -\dfrac{1}{\sqrt{3}}$

※ $\sin$ にはマイナスがつかず、$\cos$ と $\tan$ にマイナスがつくことを確認。

4-3-2 A 基礎 相互関係 符号の判定

$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ で $\cos\theta = -\dfrac{3}{5}$ のとき、$\sin\theta$ と $\tan\theta$ の値を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

$\sin\theta = \dfrac{4}{5}$, $\quad \tan\theta = -\dfrac{4}{3}$

解説

方針:$\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ から $\sin\theta$ を求め、$\tan\theta = \dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$ で $\tan\theta$ を求める。

$\sin^2\theta = 1 - \cos^2\theta = 1 - \dfrac{9}{25} = \dfrac{16}{25}$

$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ より $\sin\theta \geq 0$ なので $\sin\theta = \dfrac{4}{5}$

$\tan\theta = \dfrac{\sin\theta}{\cos\theta} = \dfrac{4/5}{-3/5} = -\dfrac{4}{3}$

※ $\cos\theta < 0$ より $\theta$ は鈍角。$\sin\theta > 0$, $\tan\theta < 0$ は鈍角の符号と一致。

B 標準レベル

4-3-3 B 標準 式の値 相互関係

$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ で $\sin\theta + \cos\theta = \dfrac{1}{2}$ のとき、次の値を求めよ。

(1) $\sin\theta\cos\theta$

(2) $\sin^3\theta + \cos^3\theta$

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解答

(1) $-\dfrac{3}{8}$  (2) $\dfrac{11}{16}$

解説

方針:$\sin\theta + \cos\theta$ の値から $\sin\theta\cos\theta$ を求め、因数分解の公式を利用する。

(1) $\sin\theta + \cos\theta = \dfrac{1}{2}$ の両辺を2乗すると

$\sin^2\theta + 2\sin\theta\cos\theta + \cos^2\theta = \dfrac{1}{4}$

$\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ より $1 + 2\sin\theta\cos\theta = \dfrac{1}{4}$

$\sin\theta\cos\theta = -\dfrac{3}{8}$

(2) $\sin^3\theta + \cos^3\theta = (\sin\theta + \cos\theta)(\sin^2\theta - \sin\theta\cos\theta + \cos^2\theta)$

$= \dfrac{1}{2} \times \left(1 - \left(-\dfrac{3}{8}\right)\right) = \dfrac{1}{2} \times \dfrac{11}{8} = \dfrac{11}{16}$

⚠️ $\sin\theta\cos\theta < 0$ より、$\sin\theta$ と $\cos\theta$ は異符号。$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ では $\sin\theta \geq 0$ なので $\cos\theta < 0$、つまり $\theta$ は鈍角。

採点ポイント
  • 2乗の展開で $\sin\theta\cos\theta$ を求める(3点)
  • $\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1$ を正しく利用(2点)
  • 3乗の和の因数分解を正しく適用(3点)
  • 計算の正確さ(2点)

C 発展レベル

4-3-4 C 発展 三角方程式 2次方程式への帰着 論述

$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ のとき、次の方程式を解け。

$$2\cos^2\theta + \cos\theta - 2\sin\theta\cos\theta - \sin\theta = 0$$

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解答

$\theta = 45^\circ, \, 120^\circ$

解説

方針:左辺を因数分解して、各因数を0とおく。

左辺を項のグループ分けで因数分解する。

$2\cos^2\theta + \cos\theta - 2\sin\theta\cos\theta - \sin\theta$

$= \cos\theta(2\cos\theta + 1) - \sin\theta(2\cos\theta + 1)$

$= (2\cos\theta + 1)(\cos\theta - \sin\theta)$

よって $(2\cos\theta + 1)(\cos\theta - \sin\theta) = 0$

(i) $2\cos\theta + 1 = 0$ のとき:

$\cos\theta = -\dfrac{1}{2}$。$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ より $\theta = 120^\circ$。

(ii) $\cos\theta - \sin\theta = 0$ のとき:

$\sin\theta = \cos\theta$。$\theta = 90^\circ$ では $\sin 90^\circ = 1 \neq 0 = \cos 90^\circ$ なので不適。

$\theta \neq 90^\circ$ のとき、両辺を $\cos\theta$ で割って $\tan\theta = 1$。$0^\circ \leq \theta \leq 180^\circ$ より $\theta = 45^\circ$。

検算:$\theta = 45^\circ$ を元の式に代入すると $2 \cdot \dfrac{1}{2} + \dfrac{\sqrt{2}}{2} - 2 \cdot \dfrac{1}{2} - \dfrac{\sqrt{2}}{2} = 0$。適する。

$\theta = 120^\circ$ を代入すると $2 \cdot \dfrac{1}{4} - \dfrac{1}{2} + \dfrac{\sqrt{3}}{2} - \dfrac{\sqrt{3}}{2} = 0$。適する。

よって $\theta = 45^\circ, \, 120^\circ$

採点ポイント
  • 因数分解を正しく行う(4点)
  • $2\cos\theta + 1 = 0$ から $\theta = 120^\circ$ を導く(2点)
  • $\cos\theta = \sin\theta$ から $\theta = 45^\circ$ を導く(2点)
  • 解の検証・$\theta = 90^\circ$ の除外(2点)