正面から攻めて行き詰まったとき、「もし違ったら?」と逆の仮定から出発する。
対偶証明法と背理法は、この発想の転換を武器に変える証明テクニックです。
3-6までに学んだ命題の証明では、仮定 $p$ から出発して論理を積み上げ、結論 $q$ に到達する 直接証明法を使ってきました。 これは最も自然な証明の進め方です。
しかし、直接証明が難しい場面があります。 たとえば「$n^2$ が3の倍数ならば $n$ は3の倍数である」という命題を考えてみてください。 仮定は「$n^2$ が3の倍数」ですが、$n^2$ の情報から $n$ の性質を直接引き出すのは意外と難しいのです。
こんなとき、発想を逆転させます。 結論の否定(「$n$ は3の倍数でない」)を仮定して、そこから仮定の否定(「$n^2$ は3の倍数でない」)を導く。 これが間接証明法の考え方です。
直接証明は「$p$ → (推論)→ $q$」と正面から突破する方法です。 しかし仮定 $p$ が扱いにくい形をしているとき、正面突破は困難です。
間接証明は「裏口」からの攻略です。2つの方法があります:
対偶証明法:$\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$ を示す(結論の否定から仮定の否定を導く)
背理法:$\overline{q}$ を仮定すると矛盾が起きることを示す
どちらも「否定から出発する」点が共通しています。 否定の方が扱いやすい条件を含むとき、間接証明は非常に強力です。
✕ 誤:「対偶証明や背理法は裏技。普通は直接証明を使うべき」
○ 正:間接証明は「裏技」ではなく、数学の正当な証明法です。 対偶証明法は「元の命題⇔対偶」という論理的に確実な同値関係に基づいており、 背理法は「排中律(命題は真か偽かのどちらか)」という論理学の基本原理に基づいています。
プロの数学者も日常的に間接証明を使います。直接が難しいなら間接で ── これが証明の基本戦略です。
3-6で学んだように、命題「$p \Rightarrow q$」とその対偶「$\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$」の真偽は一致します。 したがって、元の命題を証明する代わりに、対偶を証明してもよいのです。 これが対偶証明法(対偶法)です。
命題「$p \Rightarrow q$」を証明したいとき:
Step 1:対偶「$\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$」を作る
Step 2:$\overline{q}$(結論の否定)を仮定する
Step 3:推論を進めて $\overline{p}$(仮定の否定)を導く
Step 4:「対偶が真なので、元の命題も真」と結論する
この命題を直接証明するのは難しいですが、対偶なら自然に証明できます。
対偶:「$n$ が3の倍数でないならば、$n^2$ も3の倍数でない」を証明する。
$n$ が3の倍数でないとき、整数 $k$ を用いて $n = 3k + 1$ または $n = 3k + 2$ と表せる。
(i) $n = 3k + 1$ のとき:
$$n^2 = (3k+1)^2 = 9k^2 + 6k + 1 = 3(3k^2 + 2k) + 1$$
$3k^2 + 2k$ は整数なので、$n^2$ を3で割ると余りは1。よって $n^2$ は3の倍数でない。
(ii) $n = 3k + 2$ のとき:
$$n^2 = (3k+2)^2 = 9k^2 + 12k + 4 = 3(3k^2 + 4k + 1) + 1$$
$3k^2 + 4k + 1$ は整数なので、$n^2$ を3で割ると余りは1。よって $n^2$ は3の倍数でない。
いずれの場合も $n^2$ は3の倍数でない。対偶が証明されたので、元の命題も成り立つ。
上の証明で、なぜ対偶が有効だったのでしょうか?
元の命題の仮定は「$n^2$ が3の倍数」です。$n^2 = 3m$($m$ は整数)と置けますが、ここから $n$ の形を特定するのは困難です。
一方、対偶の仮定は「$n$ が3の倍数でない」。これは $n = 3k+1$ または $n = 3k+2$ と具体的な式で表せます。 あとは $n^2$ を計算するだけ。
対偶証明が有効なのは、結論の否定の方が仮定より「扱いやすい形」で書けるときです。
✕ 誤:対偶を証明するのに、途中で「$n^2$ が3の倍数だから…」と元の仮定を使う
○ 正:対偶の証明では、使える仮定は「$\overline{q}$(結論の否定)」だけ。 上の例では「$n$ が3の倍数でない」が唯一の出発点です。
対偶を証明しているのか、元の命題を証明しているのか、常に意識してください。
対偶:「$n$ が奇数ならば、$n^2$ も奇数」を証明する。
$n$ が奇数のとき、整数 $k$ を用いて $n = 2k + 1$ と表せる。
$$n^2 = (2k+1)^2 = 4k^2 + 4k + 1 = 2(2k^2 + 2k) + 1$$
$2k^2 + 2k$ は整数なので、$n^2$ は奇数。
対偶が証明されたので、元の命題も成り立つ。
この結果($n^2$ が偶数なら $n$ も偶数)は、次のSection 3で $\sqrt{2}$ が無理数であることを証明するときに使います。
対偶証明法は英語では proof by contrapositive と呼ばれます。 大学数学でもきわめて頻繁に使われる手法で、特に整数論・代数学の証明で活躍します。
なぜ頻繁に使われるかというと、整数の性質は「○○でない整数はこの形で書ける」という 余りによる分類(剰余類)と相性が良いからです。 「3の倍数でない → $3k+1$ か $3k+2$」のように、否定条件を具体的な式に変換できるのが強みです。
もう1つの間接証明が背理法です。 背理法は日常的な推論にも現れます。 「もし財布を持ってきたとしたら、コンビニで使ったはず。でも使ってない。だから財布は持ってきてない。」 ── この「もし仮にそうだとしたら…矛盾!だからそうじゃない」という推論が背理法の骨格です。
背理法の原理は次の通りです:
1. 証明したい命題が「成り立たない」と仮定する
2. その仮定から論理的に推論を進める
3. どこかで矛盾(既知の事実や仮定自身との食い違い)が生じる
4. 矛盾が生じたということは、「成り立たない」という仮定が誤り
5. よって、元の命題は成り立つ
この推論が正当なのは、排中律(命題は真か偽かのどちらか)によります。 偽だと仮定して矛盾するなら、残る可能性は「真」だけです。
これは数学史上もっとも有名な証明の1つです。 「$\sqrt{2}$ が無理数であること」を直接示すのは困難です。 無理数であることを式で一般的に表す方法がないからです。 そこで背理法を使います。
仮定:$\sqrt{2}$ が無理数でない(=有理数である)と仮定する。
$\sqrt{2}$ が有理数なら、互いに素な正の整数 $a, b$($b \neq 0$)を用いて $\sqrt{2} = \dfrac{a}{b}$ と表せる。
両辺を2乗すると $2 = \dfrac{a^2}{b^2}$、すなわち
$$a^2 = 2b^2 \quad \cdots (*)$$
$(*)$ より $a^2$ は偶数。Section 2で示したように「$a^2$ が偶数なら $a$ も偶数」なので、 $a$ は偶数。$a = 2m$($m$ は正の整数)とおく。
$(*)$ に代入すると $(2m)^2 = 2b^2$、すなわち $4m^2 = 2b^2$、$b^2 = 2m^2$。
よって $b^2$ も偶数であり、同様に $b$ も偶数。
しかし、$a$ も $b$ も偶数ということは、$a$ と $b$ は公約数2を持ちます。 これは「$a, b$ は互いに素」という仮定に矛盾します。
したがって、$\sqrt{2}$ は有理数ではない。すなわち、$\sqrt{2}$ は無理数である。
✕ 誤:$\sqrt{2} = \frac{a}{b}$ とおく(「互いに素」の条件なし)
○ 正:$\sqrt{2} = \frac{a}{b}$($a, b$ は互いに素な正の整数)とおく
「互いに素」を仮定しないと、$a$ と $b$ がともに偶数でも矛盾が生じません。 たとえば $\frac{4}{2}$ なら $a = 4, b = 2$ で両方偶数ですが、まだ約分できるだけです。 「これ以上約分できない形で書いた」のに公約数が出てくるから矛盾なのです。
$\sqrt{2}$ が無理数であることを利用して、$\sqrt{2} + \sqrt{3}$ が無理数であることも証明できます。
仮定:$\sqrt{2} + \sqrt{3}$ が有理数であると仮定する。
$\sqrt{2} + \sqrt{3} = r$($r$ は有理数)とおく。
両辺を2乗すると $2 + 2\sqrt{6} + 3 = r^2$、すなわち $2\sqrt{6} = r^2 - 5$。
$$\sqrt{6} = \frac{r^2 - 5}{2}$$
$r$ は有理数なので、$r^2$ も有理数、$r^2 - 5$ も有理数、$\frac{r^2 - 5}{2}$ も有理数。
よって $\sqrt{6}$ は有理数ということになる。しかし $\sqrt{6}$ は無理数($\sqrt{2}$ の証明と同様に示せる)なので矛盾。
したがって、$\sqrt{2} + \sqrt{3}$ は無理数である。
背理法は「$\sqrt{2}$ は無理数」のような単純な命題だけでなく、 「$p \Rightarrow q$」の形の命題にも使えます。
命題「$p \Rightarrow q$」が偽だと仮定するとは、 「$p$ が成り立ち、かつ $q$ が成り立たない」と仮定することです。 つまり、$p$ と $\overline{q}$ を同時に仮定し、矛盾を導きます。
仮定:$x$ は有理数、$y$ は無理数とする。$x + y$ が有理数であると仮定する。
$x + y = r$($r$ は有理数)とおくと、$y = r - x$。
$r$ は有理数、$x$ は有理数なので、$r - x$ は有理数。よって $y$ は有理数。
しかしこれは「$y$ は無理数」に矛盾。
したがって、$x + y$ は無理数である。
✕ 誤:「…よって矛盾する。」(何と矛盾したか不明)
○ 正:「…よって $y$ は有理数となるが、これは $y$ が無理数であることに矛盾する。」
背理法では「どの事実・仮定と矛盾したか」を必ず明記してください。 入試の答案では、矛盾の相手を明示しないと減点の対象になります。
$\sqrt{2}$ が無理数であることの発見は、紀元前5世紀のピタゴラス学派に遡ります。 「万物は整数の比で表せる」と信じていたピタゴラス学派にとって、 1辺の長さ1の正方形の対角線($\sqrt{2}$)が整数の比で表せないという事実は衝撃でした。
この発見は、数学における証明の重要性を人類に初めて教えました。 直観や経験では真実にたどり着けないことがある ── だからこそ、論理的な証明が必要なのです。 背理法はその最古の道具の1つです。
背理法の正当性は排中律(任意の命題は真か偽かのどちらか)に依存しています。 しかし数学の一部の流派(直観主義)は排中律を認めません。
直観主義では「命題 $P$ が真であることの証明」と「$P$ が偽であることの証明がないこと」を区別します。 したがって、背理法($\overline{P}$ から矛盾を導いて $P$ を結論する)は直観主義では有効とされない場合があります。
高校数学では排中律を当然のものとして使いますが、「なぜ背理法が正しいのか」を問うと、 論理学の深い問題にたどり着くのです。
対偶証明法と背理法は、ともに「否定から攻める」間接証明です。 どちらを使うべきかは、証明したい命題の形によって判断します。
対偶証明法が有効な場面:
「$p \Rightarrow q$」の形で、結論 $q$ の否定の方が仮定として扱いやすいとき。 特に整数の性質の証明(「○○の倍数」↔「○○の倍数でない」)で威力を発揮します。
背理法が有効な場面:
・結論が「○○は無理数」「○○は存在しない」のように、否定した方が具体的に式で扱えるとき
・命題が「$p \Rightarrow q$」の形ではなく、単独の主張(「$\sqrt{2}$ は無理数」)のとき
・対偶を作っても仮定が扱いやすくならないとき
| 特徴 | 対偶証明法 | 背理法 |
|---|---|---|
| 原理 | 元の命題 $\Leftrightarrow$ 対偶 | 否定を仮定 → 矛盾 |
| 仮定するもの | $\overline{q}$(結論の否定) | 命題の否定($p$ かつ $\overline{q}$、または $\overline{P}$) |
| 導くもの | $\overline{p}$(仮定の否定) | 何らかの矛盾 |
| 適用しやすい場面 | 整数の倍数・偶奇の証明 | 無理数の証明、存在しないことの証明 |
| 命題の形 | $p \Rightarrow q$ の形に限る | どんな形の命題にも使える |
「$p \Rightarrow q$」を背理法で証明する場合、仮定するのは「$p$ かつ $\overline{q}$」です。 一方、対偶証明法で仮定するのは「$\overline{q}$」だけです。
✕ 誤:対偶証明のつもりで、途中で元の仮定 $p$ も使ってしまう(それは背理法になっている)
○ 正:対偶証明では $\overline{q}$ のみを仮定。$p$ は使わない。$\overline{p}$ を導くのがゴール。
「どの方法で証明しているのか」を答案の冒頭で明記し、一貫した論理展開をしてください。
興味深いことに、「$p \Rightarrow q$」の背理法は、対偶証明法と実質的に同じ推論をしていることが多いです。 背理法では「$p$ かつ $\overline{q}$」を仮定して矛盾を導きますが、 その矛盾はたいてい「$p$ に反する」か「既知の事実に反する」かのどちらかです。
「$p$ に反する」場合、実質的には $\overline{q}$ から $\overline{p}$ を導いているので、対偶証明と同じです。 大学レベルでは、「$p \Rightarrow q$」型の命題には対偶証明を使い、 背理法は「$\sqrt{2}$ は無理数」のような単独の存在・非存在の主張に使うことが推奨されます。
対偶証明法と背理法は、数学のあらゆる分野の証明で使われる普遍的なツールです。
Q1. 直接証明法・対偶証明法・背理法の3つの違いを、「何を仮定して何を導くか」の観点で説明してください。
Q2. 対偶証明法が有効なのはどのような場面ですか?
Q3. $\sqrt{2}$ の無理数性の証明で「$a, b$ は互いに素」と仮定するのはなぜですか?
Q4. 背理法の答案で必ず書くべきことは何ですか?
Q5. 命題「$p \Rightarrow q$」の背理法と対偶証明法の関係について、簡潔に説明してください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
整数 $n$ について、次の命題を対偶を利用して証明せよ。
「$n^2$ が奇数ならば、$n$ は奇数である」
対偶「$n$ が偶数ならば $n^2$ は偶数」を証明する。
$n$ が偶数のとき、整数 $k$ を用いて $n = 2k$ と表せる。
$n^2 = (2k)^2 = 4k^2 = 2(2k^2)$
$2k^2$ は整数なので、$n^2$ は偶数。
対偶が証明されたので、元の命題も成り立つ。
方針:元の仮定「$n^2$ が奇数」は扱いにくい。対偶の仮定「$n$ が偶数」なら $n = 2k$ と具体的に書ける。
対偶証明の典型パターン。偶奇の証明では「偶数 → $2k$、奇数 → $2k+1$」の式表現が基本。
整数 $m, n$ について、次の命題を対偶を利用して証明せよ。
「$mn$ が奇数ならば、$m$ と $n$ はともに奇数である」
対偶「$m$ または $n$ が偶数ならば、$mn$ は偶数」を証明する。
$m$ または $n$ が偶数とする。$m$ が偶数の場合を示す($n$ が偶数の場合も同様)。
$m$ が偶数のとき、整数 $k$ を用いて $m = 2k$ と表せる。
$mn = 2kn = 2(kn)$
$kn$ は整数なので、$mn$ は偶数。
対偶が証明されたので、元の命題も成り立つ。
方針:「$m$ と $n$ がともに奇数」の否定はド・モルガンより「$m$ が偶数 または $n$ が偶数」。
「または」の条件なので、片方が偶数の場合を示せば十分。積 $mn$ に偶数の因子が1つあれば積は偶数になります。
$\sqrt{3}$ が無理数であることを証明せよ。ただし、$n$ を自然数とするとき「$n^2$ が3の倍数ならば $n$ は3の倍数である」ことは用いてよい。
$\sqrt{3}$ が有理数であると仮定する。
互いに素な正の整数 $a, b$ を用いて $\sqrt{3} = \frac{a}{b}$ と表せる。
両辺を2乗すると $3 = \frac{a^2}{b^2}$、すなわち $a^2 = 3b^2$。
よって $a^2$ は3の倍数。「$a^2$ が3の倍数なら $a$ も3の倍数」より、$a$ は3の倍数。
$a = 3m$($m$ は正の整数)とおくと、$9m^2 = 3b^2$、$b^2 = 3m^2$。
よって $b^2$ も3の倍数であり、同様に $b$ も3の倍数。
$a, b$ がともに3の倍数なので、公約数3を持つ。これは「$a, b$ は互いに素」に矛盾。
したがって、$\sqrt{3}$ は無理数である。
方針:$\sqrt{2}$ の証明と同じ構造。「2」を「3」に置き換えるだけ。
$a^2 = 3b^2$ から $a$ が3の倍数であることを言うのに、問題文で「用いてよい」とされた命題を使います(この命題自体は対偶証明で示せます)。
$\sqrt{3}$ が無理数であることを用いて、$4 - \sqrt{3}$ が無理数であることを証明せよ。
$4 - \sqrt{3}$ が有理数であると仮定する。
$4 - \sqrt{3} = r$($r$ は有理数)とおくと、$\sqrt{3} = 4 - r$。
$4$ は有理数、$r$ は有理数なので、$4 - r$ は有理数。よって $\sqrt{3}$ は有理数。
しかしこれは $\sqrt{3}$ が無理数であることに矛盾する。
したがって、$4 - \sqrt{3}$ は無理数である。
方針:「有理数 $\pm$ 無理数 = 無理数」の典型パターン。背理法で「もし有理数なら…$\sqrt{3}$ が有理数になり矛盾」と示す。
ポイントは「有理数どうしの四則演算は有理数」という性質を使うことです。$r$ が有理数なら $4 - r$ も有理数。これが $\sqrt{3} = 4 - r$ と結合して矛盾を生みます。
この証明パターンは非常に汎用性が高く、「$a + b\sqrt{n}$($a, b$ は有理数、$b \neq 0$、$\sqrt{n}$ は無理数)が無理数であること」の証明に応用できます。