1つの命題から、逆・裏・対偶という3つの仲間が自動的に生まれます。
これらの真偽の関係を理解すれば、命題の証明や反例の発見が格段にラクになります。
3-5で学んだように、命題とは「$p \Rightarrow q$」($p$ ならば $q$)の形をした主張です。 この命題から、仮定と結論の位置を入れ替えたり、否定をとったりすることで、 3つの「派生命題」が機械的に作れます。
命題 $p \Rightarrow q$ に対して:
逆:$q \Rightarrow p$(仮定と結論を入れ替える)
裏:$\overline{p} \Rightarrow \overline{q}$(仮定と結論をそれぞれ否定する)
対偶:$\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$(入れ替えて、それぞれ否定する)
具体例で確認しましょう。命題「$x = 2$ ならば $x^2 = 4$」を考えます。
| 名前 | 命題の内容 | 真偽 |
|---|---|---|
| 元の命題 | $x = 2 \Rightarrow x^2 = 4$ | 真 |
| 逆 | $x^2 = 4 \Rightarrow x = 2$ | 偽($x = -2$ が反例) |
| 裏 | $x \neq 2 \Rightarrow x^2 \neq 4$ | 偽($x = -2$ が反例) |
| 対偶 | $x^2 \neq 4 \Rightarrow x \neq 2$ | 真 |
この表から、重要なパターンが見えてきます。 元の命題と対偶の真偽は一致し(ともに真)、逆と裏の真偽も一致しています(ともに偽)。 しかし、元の命題が真でも逆は偽になり得ます。これは偶然ではなく、必然です。
4つの命題は次の2組のペアに分かれ、ペア内では真偽が必ず一致します。
ペア1:元の命題($p \Rightarrow q$)と対偶($\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$)
ペア2:逆($q \Rightarrow p$)と裏($\overline{p} \Rightarrow \overline{q}$)
一方、ペア間(元の命題と逆、元の命題と裏)では真偽は一致するとは限りません。 「真の命題の逆も真」とは限らないのです。
✕ 誤:「$x = 2$ ならば $x^2 = 4$」が真だから、「$x^2 = 4$ ならば $x = 2$」も真
○ 正:逆は偽。$x = -2$ のとき $x^2 = 4$ だが $x \neq 2$。
日常会話では「AならばB」と言うとき暗に「BならばA」も意味していることが多いですが、 数学ではこの2つは別物です。元の命題が真でも、逆が真かどうかは別途確認が必要です。
元の命題 $p \Rightarrow q$ とその逆 $q \Rightarrow p$ がともに真のとき、 $p$ と $q$ は同値であるといい、$p \Leftrightarrow q$ と書きます。 これは $p$ が $q$ の必要十分条件であることを意味します。
大学数学の証明では、「$A \Leftrightarrow B$ を示せ」という問題がよく出ます。 このとき「$A \Rightarrow B$」と「$B \Rightarrow A$」(逆)の両方を示す必要があります。 逆の真偽を意識する習慣は、大学数学でも直接役立ちます。
Section 1で「元の命題と対偶の真偽は一致する」と述べました。 これは命題論理における最も重要な定理の1つです。 なぜ一致するのか、集合の包含関係を使って原理から理解しましょう。
条件 $p$ を満たすもの全体の集合を $P$、条件 $q$ を満たすもの全体の集合を $Q$ とします。 3-5で学んだように、命題「$p \Rightarrow q$」が真であることは、集合の言葉で $P \subseteq Q$($P$ は $Q$ の部分集合)と同じです。
では対偶「$\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$」はどうでしょうか。 $\overline{q}$ を満たすもの全体は $\overline{Q}$($Q$ の補集合)、 $\overline{p}$ を満たすもの全体は $\overline{P}$($P$ の補集合)です。 対偶が真であることは $\overline{Q} \subseteq \overline{P}$ を意味します。
($\Rightarrow$):$P \subseteq Q$ と仮定します。
$x \in \overline{Q}$ とすると、$x \notin Q$ です。 もし $x \in P$ なら $P \subseteq Q$ より $x \in Q$ となり矛盾。 よって $x \notin P$、すなわち $x \in \overline{P}$。
これで $\overline{Q} \subseteq \overline{P}$ が示されました。
($\Leftarrow$):$\overline{Q} \subseteq \overline{P}$ と仮定します。
$x \in P$ とすると、$x \notin \overline{P}$ です。 $\overline{Q} \subseteq \overline{P}$ なので、$x \notin \overline{Q}$(もし $x \in \overline{Q}$ なら $x \in \overline{P}$ となり矛盾)。 よって $x \in Q$。
これで $P \subseteq Q$ が示されました。
以上より、$P \subseteq Q$ と $\overline{Q} \subseteq \overline{P}$ は同値です。 つまり、元の命題と対偶の真偽は必ず一致します。
命題 $p \Rightarrow q$ は「$P \subseteq Q$」。対偶 $\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$ は「$\overline{Q} \subseteq \overline{P}$」。
「$P$ が $Q$ に含まれる」ことと「$Q$ の外側が $P$ の外側に含まれる」ことは、 同じことを裏表から見ているだけです。だから真偽が一致するのは当然なのです。
ベン図を描けば一目瞭然です。$P$ の円が $Q$ の円の内部にあるとき、 $Q$ の外側は自動的に $P$ の外側に含まれています。
対偶を作るには、仮定と結論の両方を正しく否定する必要があります。 特に「かつ」「または」を含む条件の否定(ド・モルガンの法則)でミスが多発します。
✕ 誤:「$x > 0$ かつ $y > 0$」の否定を「$x < 0$ かつ $y < 0$」とする
○ 正:「$x > 0$ かつ $y > 0$」の否定は「$x \leq 0$ または $y \leq 0$」
ド・モルガンの法則($\overline{p \text{ かつ } q} = \overline{p} \text{ または } \overline{q}$)を正確に適用しましょう。 また、$>$ の否定は $<$ ではなく $\leq$ であることにも注意してください。
「元の命題と対偶の真偽は一致する」という法則は、論理学では対偶律(contrapositive law)と呼ばれます。 記号で書くと $(p \Rightarrow q) \Leftrightarrow (\overline{q} \Rightarrow \overline{p})$ です。
これはトートロジー(恒真式)の一例で、$p$ や $q$ の真偽に関係なく常に成り立ちます。 大学の論理学では真理値表を使って機械的にトートロジーかどうかを判定する方法を学びます。 高校で学ぶ対偶の性質は、論理学の体系の中で最も基本的な法則の1つです。
Section 1の表で、逆と裏の真偽が一致していました。 これも偶然ではありません。理由は驚くほどシンプルです。
逆は $q \Rightarrow p$、裏は $\overline{p} \Rightarrow \overline{q}$ です。
裏を作るには「$p$ と $q$ をそれぞれ否定する」のでした。 逆($q \Rightarrow p$)の対偶を取ると、仮定 $q$ と結論 $p$ をそれぞれ否定して入れ替えて $\overline{p} \Rightarrow \overline{q}$ となります。これはまさに裏そのものです。
つまり裏は逆の対偶です。 対偶どうしは真偽が一致するので、逆と裏の真偽も自動的に一致します。
| 命題 | 形 | 対偶の相手 |
|---|---|---|
| 元の命題 | $p \Rightarrow q$ | 対偶($\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$) |
| 対偶 | $\overline{q} \Rightarrow \overline{p}$ | 元の命題($p \Rightarrow q$) |
| 逆 | $q \Rightarrow p$ | 裏($\overline{p} \Rightarrow \overline{q}$) |
| 裏 | $\overline{p} \Rightarrow \overline{q}$ | 逆($q \Rightarrow p$) |
4つの命題は、「元⇔対偶」「逆⇔裏」の2つのペアで結ばれています。 ペア内では真偽が一致し、ペア間では一致するとは限りません。 この構造を覚えておけば、真偽の判定がとてもラクになります。
「否定する」という操作が共通しているため、裏と対偶を混同する人が少なくありません。
✕ 誤:対偶は「仮定と結論を否定したもの」(→ これは裏の定義)
○ 正:対偶は「仮定と結論を入れ替えてから、それぞれ否定したもの」
覚え方:対偶 = 逆 + 裏(入れ替えて否定)。逆(入れ替え)と裏(否定)の両方の操作を合わせたものが対偶です。
対偶の性質は「真偽が一致する」です。元の命題が真なら対偶も真、ですが、 元の命題が偽なら対偶も偽です。
✕ 誤:「対偶を使えば何でも証明できる」
○ 正:対偶が使えるのは、元の命題が真であるとき(つまり対偶も真のとき)。 偽の命題の対偶も偽なので、対偶を調べることで「元の命題が偽」だと判定することもできます。
元の命題の真偽を直接判定しにくいとき、対偶を調べるのが有効です。 対偶の真偽は元の命題と一致するので、対偶が真(偽)であれば、元の命題も真(偽)です。
命題「$x^2 + y^2 = 0$ ならば $x = 0$ かつ $y = 0$」($x, y$ は実数)の真偽を調べてみましょう。
この命題自体は $(x^2 + y^2 = 0 \Rightarrow x = 0 \text{ かつ } y = 0)$ で、 $x^2 \geq 0$、$y^2 \geq 0$ より $x^2 + y^2 = 0$ となるのは $x = y = 0$ のときだけ、 と直接示すこともできます。しかし対偶で考えてみましょう。
対偶:「$x \neq 0$ または $y \neq 0$ ならば $x^2 + y^2 \neq 0$」
$x \neq 0$ なら $x^2 > 0$、$y^2 \geq 0$ なので $x^2 + y^2 > 0$。 $y \neq 0$ の場合も同様。よって対偶は真。したがって元の命題も真です。
命題「$x + y > 2$ ならば $x > 1$ かつ $y > 1$」($x, y$ は実数)の真偽を調べます。
対偶:「$x \leq 1$ または $y \leq 1$ ならば $x + y \leq 2$」
対偶の反例を探しましょう。$x = 0$($\leq 1$ を満たす)、$y = 10$ とすると $x + y = 10 > 2$ なので $x + y \leq 2$ を満たしません。 対偶は偽、よって元の命題も偽です。
このように、対偶の反例がそのまま元の命題の反例になります。 元の命題で直接反例を探すより、対偶の方が条件がシンプルで反例を見つけやすいことがあります。
場面1(真を示す):元の命題を直接証明しにくいとき、対偶を証明する。 否定条件の方が扱いやすい場合に有効。これが次の記事で学ぶ「対偶証明法」です。
場面2(偽を示す):元の命題の反例が見つけにくいとき、対偶の反例を探す。 対偶が偽なら元の命題も偽。
いずれも「元の命題と対偶の真偽は一致する」という1つの原理の応用です。
真を示す:元の命題 or 対偶のどちらかを証明すればよい
偽を示す:元の命題 or 対偶のどちらかの反例を1つ見つければよい
逆・裏の真偽:逆と裏は互いに対偶なので真偽が一致する。ただし元の命題の真偽とは独立
入試ではこのタイプの問題が頻出です。手順を整理しておきましょう。
このように、4つの真偽のうち独立に判定するのは2つだけです。 残りの2つは「対偶ペア」から自動的に決まります。
逆・裏・対偶の概念は、命題の証明方法や条件の分析と密接につながっています。
Q1. 命題「$n$ が偶数ならば $n^2$ は偶数」の逆・裏・対偶をそれぞれ述べてください。
Q2. 元の命題と真偽が必ず一致するのは、逆・裏・対偶のどれですか?
Q3. 逆と裏の真偽が一致するのはなぜですか? 理由を一言で答えてください。
Q4. 「$x > 1$ かつ $y > 1$ ならば $xy > 1$」の対偶を述べてください。
Q5. 命題「$x = 3$ ならば $x^2 = 9$」は真です。逆は真ですか偽ですか? 偽なら反例を示してください。
この記事で学んだ内容を、入試形式の問題で確認しましょう。
次の命題の逆・裏・対偶を述べ、それぞれの真偽を答えよ。ただし、$x$ は実数とする。
「$x = 2$ ならば $x^2 - 4 = 0$」
逆:「$x^2 - 4 = 0$ ならば $x = 2$」 → 偽(反例:$x = -2$)
裏:「$x \neq 2$ ならば $x^2 - 4 \neq 0$」 → 偽(反例:$x = -2$)
対偶:「$x^2 - 4 \neq 0$ ならば $x \neq 2$」 → 真
方針:まず元の命題の真偽を判定し、対偶の真偽を自動決定。次に逆の真偽を調べ、裏も決定。
元の命題は真($x = 2$ のとき $x^2 - 4 = 4 - 4 = 0$)。よって対偶も真。
逆は偽($x^2 - 4 = 0$ を解くと $x = \pm 2$ なので $x = -2$ が反例)。よって裏も偽。
逆と裏が同じ反例 $x = -2$ を持つことも確認できます。
次の命題の対偶を述べよ。ただし、$x, y$ は実数とする。
「$x + y > 2$ ならば $x > 1$ または $y > 1$」
「$x \leq 1$ かつ $y \leq 1$ ならば $x + y \leq 2$」
方針:仮定と結論を入れ替え、それぞれ否定する。「または」の否定は「かつ」。
結論「$x > 1$ または $y > 1$」の否定:ド・モルガンより「$x \leq 1$ かつ $y \leq 1$」(新しい仮定)
仮定「$x + y > 2$」の否定:「$x + y \leq 2$」(新しい結論)
この対偶は真です。$x \leq 1$ かつ $y \leq 1$ なら辺々を加えて $x + y \leq 2$。
$x, y$ を実数とする。次の命題の逆・裏・対偶を述べ、それぞれの真偽を答えよ。偽の場合は反例を示せ。
「$xy > 2$ ならば $x > 1$ かつ $y > 1$」
元の命題:偽(反例:$x = 6, y = \frac{1}{2}$ のとき $xy = 3 > 2$ だが $y \leq 1$)
逆:「$x > 1$ かつ $y > 1$ ならば $xy > 2$」 → 偽(反例:$x = 1.1, y = 1.1$ のとき $xy = 1.21 \leq 2$)
裏:「$xy \leq 2$ ならば $x \leq 1$ または $y \leq 1$」 → 偽(反例:$x = 1.1, y = 1.1$ のとき $xy = 1.21 \leq 2$ だが $x > 1$ かつ $y > 1$)
対偶:「$x \leq 1$ または $y \leq 1$ ならば $xy \leq 2$」 → 偽(反例:$x = 6, y = \frac{1}{2}$)
方針:元の命題の真偽を判定し、対偶は自動決定。逆を調べ、裏は自動決定。
元の命題は偽($x = 6, y = \frac{1}{2}$ が反例)→ 対偶も偽。
逆も偽($x = 1.1, y = 1.1$ が反例)→ 裏も偽。
この問題は4つすべてが偽になる例です。「元が偽でも逆が真」のこともあれば、「すべて偽」のこともあります。
整数 $n$ に関する次の命題の対偶を述べ、対偶の真偽を利用して元の命題の真偽を判定せよ。
「$n^2$ が3の倍数ならば、$n$ は3の倍数である」
対偶:「$n$ が3の倍数でないならば、$n^2$ は3の倍数でない」
対偶は真。よって元の命題も真。
方針:「$n^2$ が3の倍数」から直接 $n$ の性質を言うのは難しい。対偶では「$n$ が3の倍数でない」が仮定なので、$n$ を具体的に表現できる。
$n$ が3の倍数でないとき、整数 $k$ を用いて $n = 3k + 1$ または $n = 3k + 2$ と表せる。
(i) $n = 3k + 1$ のとき:$n^2 = 9k^2 + 6k + 1 = 3(3k^2 + 2k) + 1$
$3k^2 + 2k$ は整数なので、$n^2$ を3で割った余りは1。3の倍数でない。
(ii) $n = 3k + 2$ のとき:$n^2 = 9k^2 + 12k + 4 = 3(3k^2 + 4k + 1) + 1$
$3k^2 + 4k + 1$ は整数なので、$n^2$ を3で割った余りは1。3の倍数でない。
いずれの場合も $n^2$ は3の倍数でないので、対偶は真。よって元の命題も真。